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The Caretaker

The Caretaker

──ザ・ケアテイカーが新作、並びに故マーク・フィッシャーへ捧げられたアルバムの再発盤をリリース

髙橋勇人 Apr 10,2018 UP

 秀逸なアンビエント作品で知られるザ・ケアテイカーの新作『Everywhere at the End of Time - Stage 4』が4月5日、自身のレーベル〈History Always Favours the Winners〉からリリースされた。今作は2016年に始動した6連作の4作目で、2018年にシリーズは完結するとのこと。「ele-king vol.21」における2017年の年間ベストでは、去年発表されたシリーズ前半3作をまとめたコンピレーション『Everywhere at the End of Time Stages 1-3』が選定された。


 この機会にこの作家の経歴をざっと振り返ってみたい。ザ・ケアテイカーとはジェイムズ・リーランド・カービーによる記憶と時間をテーマにしたプロジェクトだ。カービーは多くの名義を持つ作家だ。V/Vm名義ではハードコア・テクノやグリッチ・ノイズの作品を90年代から発表。ザ・ストレンジャー名義では2013年に〈Modern Love〉から傑作『Watching Dead Empires in Decay』をリリースしたことも記憶に新しい。また本人名義でもアンビエント(時にポストクラシックとも呼ばれる)作品を多数発表しており、これらの作品の多くはは自身のレーベル〈History Always Favours the Winners〉からリリースされている。
 カービーはイングランドのマンチェスターから車で20分ほど離れた街ストックポート出身で、現在はポーランドのクラクフに在住。彼の作品のアートワークの多くは、同じくストックポート出身でベルリン在住の画家、イヴァン・シールが手がけている。地元が近いアンディ・ストットやデムダイク・ステアとも交流があり、最近では2006年に録音され2017年にリリースされたV/Vm『Brabant Schrobbelèr』のミックスをデムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーが担当している。
 その作品はアンビエントやノイズのリスナーだけではなく、ダンスミュージックのファンも魅了してきた。海外ではフライング・ロータスをはじめとするミュージシャンたちも彼のファンであることを公言している。

ツイッターでザ・ケアテイカーに言及するフライング・ロータス


 日本における紹介者としては、評論家の阿木譲が積極的にカービーの作品をとりあげており、本人と直接連絡も取り合っているようだ。三田格はV/Vm時代からその活動に注目しており『裏アンビエント・ミュージック 1960-2010』(INFASパブリケーションズ、2010年)でカービーに言及し、ザ・ケアテイカー名義の『Patience (After Sebald)』(2012年)の評がウェブ版「ele-king」には掲載された。(筆者は「ele-king Vol.20」(2017年)のダンス・ミュージック特集で、カービーの『The Death of Rave』(2014年)における「レイヴの死」の表象について思想サイドから考察を行っている。)
 ザ・ケアテイカー名義では1999年に第一作『Selected Memories From The Haunted Ballroom』を発表。「ザ・ケアテイカー(The Caretaker)」とはスティーヴン・キング原作(1977年)でスタンリー・キューブリックが1980年に映画化した『シャイニング』から着想を得ている。この第一作目のタイトルにある「The Haunted Ballroom(取り憑かれた社交パーティ舞踏室)」とは、ジャック・ニコルソン演じる主人公が誰もいないはずのボールルームで、パーティを楽しむ大勢の幽霊(あるいは記憶)たちに遭遇するあの場面を指しており、「ザ・ケアテイカー(管理人)」とはそのシーンで主人公が出会うかつてホテルの管理人(彼も幽霊、あるいは記憶)を務めていた登場人物からとられている。


The Caretaker - Selected Memories from the Haunted Ballroom

 そのサウンドの特徴は、端的に説明すれば、レコードのクラック・ノイズのカーテンの向こうから聴こえてくる過剰なエフェクトが加えられた78回転レコードのサンプリング・ループである。また、このプロジェクトのコンセプトには、ザ・ケアテイカーという存在は認知症を患っているため、過去を正しく思い出すことができない、という設定がある(ちなみにカービー本人は認知症を患ってはいない)。『Everywhere at the End of Time』のシリーズ前半である1−3作は「Awareness」(「Consciousness」と同じく「意識」も指すが同時に「気づき」も含意する)がテーマで、4作目以降は「Post Awareness」、つまり「気づき」が及ばない領域におけるより混沌としたサウンドスケープが展開されていくそうだ(この連作では同様のサンプリング・マテリアルが違ったアレンジで各所に何度も現れてくる。それを認知症の設定と関連づけて「ele-king vol.21」の年間ベスト評で筆者は考察した)。なお、今シリーズを最後に、ザ・ケアテイカーとしてのプロジェクトは終了することをカービーは既に発表している。
 『Everywhere at the End of Time』をテーマにした2017年12月のライヴでは、ザ・ケアテイカーとそのライヴのヴィジュアルを手がけるウィアードコア(Weirdcore。エイフェックス・ツインとのコラボレーションでも知られる)がステージに現れた。ステージ上にはソファーが二つ、コーヒー・テーブルが一つ、マイクスタンドが一つ、コート掛けが一つ、ウィスキーが一瓶。そのどれもがヴィンテージ調である。爆音で音楽が流れ、ステージ上空の大きなプロジェクターに映る映像と大量のスモークがそれを彩る。その一方でふたりは機材を操作する行為は一切行わない。ただソファーに腰掛け、ウィスキーと会話を楽しんだ後、黙って回想に耽り、ザ・ケアテイカーはたまに立ち上がると曲に合わせて歌うふりをするだけ……、という強烈な「パフォーマンス」が披露された。ちなみに過去のライヴで、カービーはバニー・マニロウやブライアン・アダムスをアンコールで熱唱し(ジョークなのだろうが、これがなかなか良い)、V/Vm名義では豚の仮面を被りステージ上を豪快に動き回っていた。
 先日の『Stage 4』のリリースと同時に、2017年に発表された『Take Care, It's A Desert Out There...』も再発された。もともと同作は、ポーランドの音楽フェスティバルであるアンサウンドがロンドンのバービカン・センターでその年の12月に開催したイベントにザ・ケアテイカーがライヴ・アクトとして出演した時に無料配布されたもので(先ほど紹介したライヴはこの時のものだ)、マンチェスターに拠点を置くディストリビューター/ウェブ上の販売店であるブームカットから後ほど発売された。
 同作は今年の2月に日本語訳版が刊行された『資本主義リアリズム』(堀之内出版、2018年)の著者である批評家故マーク・フィッシャーに捧げられている。フィッシャーとカービーの親交は10年以上に及び、ザ・ケアテイカー名義で発表された『Theoretically Pure Anterograde Amnesia』(2005年、CD は2006年。なんと6枚組である)のライナーノーツを担当したのはフィッシャーだ。このライナーノーツの結びの言葉である「気をつけろ、外は砂漠なのだから……」から件の2017年作のタイトルはとられている。その文章と、英誌『Wire』2009年6月号に掲載されたフィッシャーによるカービーへのインタヴューは、彼の著作『Ghosts of My Life: Writings On Depression, Hauntology And Lost Futures』(Zero Books、2014年)に収録。本書において、フィッシャーはカービーをブリアルと並べて考察し、もはや未来が輝いていない現代を描いた作家として大きく評価した。
 フィッシャーは2017年1月に自らその命を絶つ。享年、48歳。晩年はうつ病を患っていた。彼の死に対して、コード9やサイモン・レイノルズをはじめとする多くのミュージシャンや批評家たちが哀悼の意を表してきたが、カービーはこの作品を発表するまで沈黙を通してきた。『Take Care, It's A Desert Out There...』の売り上げはイギリスのメンタル・ヘルス支援団体Mindへ送られるという。本作のCDには、並んで街を歩くフィッシャーとカービーの後ろ姿の写真がプリントされている。
 同様のジャンルで活動する他のミュージシャンたちに比べると、日本におけるザ・ケアテイカーをはじめとするカービーの作品の認知度はあまり高くはないかもしれない。しかしイギリスをはじめとする欧米の電子音楽のリスナーからの支持は大きく、その背景にはその独自なサウンドだけではなく、フィッシャーの文章による力や、その活動の方法なども影響しているのかもしれない。カービーはインディペンデントでの活動に重点を置くプロデューサーだ。基本的に毎回少数しか作られないLP(すぐにソールドアウトになる)とデータでのみ作品はリリースされる(新作のLP盤を手に入れてみたいという方は、彼のフェイスブック・ページで事前に発売日が発表されるのでチェックしてみてください。現時点ではアップル・ミュージックやスポティファイに彼の主要作品はなく、過去作の大半は〈History Always Favours the Winners〉のバンドキャンプのページで入手が可能だ。『Theoretically Pure Anterograde Amnesia』を購入すると、フィッシャーによるライナーノーツのPDFファイルも付いてくる。 
 「残念ながら、未来はもはやかつてのようなものではない」。カービーは2009年の自身名義のアルバム・タイトルでそう述べている。カービーはこの現代をどう見ているのか。ザ・ケアテイカーはなぜ記憶について語るのか。マーク・フィッシャーはどのようにこれらの作品を聴いていたのか……。そんなことを考えながら、認知症を患った記憶の管理人と、それを操るジェイムズ・リーランド・カービーの恐ろしく奇妙で美しいサウンドに耳を傾けてみてはいかがだろうか。

髙橋勇人

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DopeCoaraV/Vmのその後の活動The Caretakerがずっとめっちゃ良い。この名義のアンビエントは心地良いんだけど、悪夢の白昼夢みてるような気分にもなる。 ele-king https://t.co/QVS9wFBI9x @___ele_king___さんから@DopeCoara 04.14 12:11

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