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RIP

R.I.P. Chuck Berry

R.I.P. Chuck Berry

「死なない男」

鷲巣 功 Apr 05,2017 UP

 その日の午後、わたしは本誌編集長野田努と渋谷で会っていた。ごく当たり前の出版論が、途中からなぜかチャック・ベリーの事になり、わたしは夢中になって話した。野田努はただ聞いているだけだった。セックス・ピストルズ以降の人間が、チャックの影響下にあるとは言い難い。わたしですら彼の事を意識し出したのは1970年で、16歳になってからだ。全盛期はその遠い昔だった。それ以来、彼の事は本当にずっと聞いて来た。1日に1回は必ず思い出していた。
 その晩に立ち寄ったロック・バーで、「新作がなかなか発売にならない」という話題が出た。ロンドンの音楽誌『アンカット(UNCUT)』2017年1月号でその情報に接したのはもう3ヶ月以上前の話になる。本人が「こんどのは最高の出来だ」と語っていた。彼が自作を喧伝するのは、極めて珍しい。

 「新しい事はやってないだろうね。でも懐古的な作品にはして欲しくないな」
 そんなありふれた事を喋った記憶がある。
 「もうだいぶ歳なんですよね」 
 「いや、あいつは死なないよ」
 根拠はないが妙な確信が浮かんで、そう答えて店を出た。

 翌々日、日曜の朝、衝撃がやって来た。チャック・ベリーの訃報だ。不思議と悲しくはならなかった。それより世の無常を悟ったような気分だった。

 彼の死は20日付け東京新聞社会面でも大きく報道された。今でこそチャック・ベリーこそロックンロールだ、という認識が一般化している。ただしそれまでにこの国で彼の事が評価されていたかどうかは、極めて疑わしい。もちろんカタログ注文のアメリカ盤を3ヶ月待って同時代的に聞いていた何人かは居ただろう。しかしこの国で「チャック・ベリー」という名前が挙がるようになったのは、1970年代半ばに起きたあの歪んだロックンロール・ブームからだ。たぶん最大の貢献者は、矢沢永吉のグループ、キャロルだろう。それ以前は、“ロール・オーヴァ・ベイトーヴェン”も“ロック・アンド・ロール・ミュージック”も、ビートルズが唄ったから誰でも知っていたのだ。

 チャックの所属していたレコード会社チェスの興亡を描いた映画『キャデラック・レコード』の中で、本人がドサ回りでクラブに行き「今晩出演予定のチャック・ベリーだ」と告げると、支配人に立ち入りを拒否される。彼曰く「お前じゃない。奴は白人だ」と。観る度に笑える場面だ。彼の地でも大人の認識はこんなだったのかも知れない。
 日劇ウエスタン・カーニヴァルの全盛期に採り上げられていた楽曲は、ジェリー・リー・ルイス、リトル・リチャード、エディ・コクラン、そしてエルヴィス・プレズリあたりで、チャックの歌をリパトゥワにしていた唄い手もバンドもほとんどいなかった。その無理解はこの時だけに留まらない。奇しくも野田努が編集した萩原健太の近著『アメリカン・グラフティから始まった』に、こんな記述がある。
 「日本では複数アーティストが参加したロック・コンサートで全員参加のアンコール演奏をしようとした場合、チャック・ベリーの“ジョニー・B・グッド”が選ばれる事が多い。歌詞をちゃんと歌えないやつが多いにもかかわらずだ。それが日本の“ロケンロール”史観なのだろう」(102頁)。
 これは全く正しい。21世紀になっても、この国のロックンロール好きは、「ゴージョニゴー」としか唄えないのだ。「チャック・ベリー、昔から大好きでした」なんて語る奴を、わたしは信用しない。ただ自分自身も50年近く聞いている事になるので、「昔から大好きでした」になってしまう。
 しかし、それは違う。わたしは明日もチャック・ベリーが好きなのだ。素晴らしい色彩で描かれた楽曲の数々は、聞く度にアメリカ合衆国のウラオモテを教えてくれる。弾力性を持ちながら機械のように斬り込んで来るブルーバード・ビートの刻みは、どんな腕の立つギタリストも真似出来ない。さらに、彼の面倒な属性は、世の中を生きて行く上で参考になる。

 映画『ヘイル、ヘイル、ロックンロール』での自己中心的振る舞いは、大いに話題になった。“キャロル」のイントロで執拗にダメを出すのは、明らかな嫌がらせ、いじめ、“マンキ・ビジネス”だ。その後でチャックがアムプの調整でつまづいた時に、キース・リチャーズがここぞとばかりにやり返して追い詰めるのも面白い。
 この映画を監督したテイラー・ハクフォードが冒頭で彼について喋る。「難儀(trouble)」、「面倒(difficult)」、「風変わり(funny)」と、その性格を説明する時、彼は毎回つい微笑んでしまう。チャックの事を、正しく理解しているに違いない。
 チャックの運転する車で仕事に行ったら、途中でガス欠に陥った。すると彼は高速道路から単身飛び降り、ガソリン缶を手に戻って来たという話がある。『ヘイル、ヘイル』の中だったかと、今回慌てて観直したけれど、その場面を見つける事が出来なかった。何処に所蔵されたこぼれ話だっただろうか。女性が語っていたような記憶がある。
 ジョン・ハモンド(元ジュニア)に取材した時、“ネイディーン”、“ブラウン・アイド・ハンサム・マン”をカヴァしているので聞いてみたら、「初期のレコードは、僕にずいぶん刺激を与えてくれた。でも68年に逢った時、なんて奴だって思ったよ。実にいやな男だったんだ。人間的にはちょっとねぇ……」と語気を強めて話していた。きっと機嫌の悪い時に出会ったのだろう。
 ゼニカネにうるさく、出演料は半額を契約時に、残りは「ドン前(緞帳を上げるまで)」、いずれも現金、というやり方を非難する意見は多い。でもこの世界ではそれが常識だ。元締めが売上を持って逃げる話は今でもある。後日の銀行振込なんて当てにしない。払ってくれないんなら演らないだけだよ……、カッコいいじゃないか。

 彼の事を人間不信の変わり者、だけで済ますのは間違いだ。誰にも頼らずひとりで生きていくには、このくらいゴリカンでなきゃ無理だろう。チャック・ベリーは50年代のアメリカ合衆国の芸能の世界を何の後ろ盾もなく渡って来た黒人なのだ。
 こういう事実を知れば知るほど、1981年4月27日、厚生年金会館大ホールの下手袖で、わたしの差し出した公演パンフレットにサインしてくれたというのは、奇跡だろう。

 ニュースを聞いて数日後、同じロック・バーを訪れた。
 「あのすぐ次の日の朝だったね」と店主にさっそく話しかけた。
 「そうでしたね」、彼は少し怪訝な顔をしたが、付き合ってくれた。
 さんざん話して夜も更け、ようやく帰ろうとしたら、
 「あの後、一度来てますよ。『チャック・ベリーが死んだ』って、ワインを呑んでました」と、耳元で囁かれた。そうだったのか。全く憶えていない。
 チャック・ベリーは絶対に死なない。少なくともわたしの心の中では。早く新譜を聞きたい。既に公開されている1曲“ビグ・ボーイズ”は、まるでチャック・ベリーのロックンロールだ。今、他の誰にこんな事が出来ると言うのか。新しい1枚では、これまで粗製濫造していたジャムの寄せ集め的アルバムにそっと忍び込ませていたような、カリブ風だったり、保守的なスタンダード的だったり、あるいはカントリーそのものだったりする非ロックンロール曲に、大いに期待している。6月29日が発売日だという。チャック・ベリーは、これからもずっと生き続けていく。


 チャック・ベリー:チャ―ルズ・エドワード・アンダスン・ベリー 2017年3月18日午後、ミズーリ州ウェンツヴィルで死去。90歳。

鷲巣 功

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