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Autechre

Autechre

Move Of Ten

Warp/Beat

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アボカズヒロ   Jul 16,2010 UP

 僕がオウテカの音楽にハマったピークっていうのは、2000年から2003年くらいにかけてだ。もしかするといまの10代の子たちには想像しづらいかもしれないけど、この頃のエレクトロニカの盛り上がり方はいまのダブステップとかそういう流行ともまた違う、ちょっと凄まじいものがあったと思う。なにせ普段は『ロッキンオン』を熟読して、そしてそれをまんまと真に受けてしまうような田舎の高校生まで「エレクトロニカやべー、ワープやべー」とか言ってたのだから。そういえばシンコー・ミュージックからは『PLUG』という先鋭的な電子音楽を割とカジュアルに扱った雑誌も出ていて、その創刊00号を僕の周りの音楽好きはみんな買っていた。

 もちろんいまエレクトロニカとかIDMとか呼ばれているような音自体は、それ以前から、もう死語になってしまったけどインテリジェンス・テクノとかいう呼び名でテクノ好きには親しまれていた。でもそれはやっぱり、あくまでいち部の好事家たちのものだった。そういう音がど田舎の高校生にまで知られるようになったのは、レディオヘッドが2000年にリリースしたアルバム『キッドA』の影響がでかいのだろう。そしてこのアルバムをリリースした際、トム・ヨークはオウテカの影響を公言していた。

 そのせいで、それまで「洋楽、ロックとか聴きます」程度な感じだった思春期少年がオウテカとかエイフェックスツインの無機質で先鋭的なサウンドに触れ、そして打ちのめされ、まるで天啓でも受けたかのようにその後人生を変えられてしまう様も少なからず見てきた。
 大学に進学してからも、オウテカをヒーローとするワナビーたちはまわりにたくさんいた。彼らの多くは頭でっかちで、オウテカになりたいが故にMAX/MSPなどの音楽/音響プログラミング環境を導入したりして、悦に入って人を突き放したような電子音を撒き散らしていた。クラブ・イヴェントに行ってもフロアでダンスするのではなく、フロアの片隅で持参したラップトップPCを開き、各々が作ったパッチを披露しあう。そんな光景もしばしば見かけた。そういう現象に対して僕は「なんか違うなー」と思っていたし、その頃の自分にとってはなによりダンスすることと、そしてダンスさせることがもっとも重要な問題だったから、何となくそういうシーンからは距離を置くようになった。彼らのプログラミングを用いた制作手法や、どうやって作っているのかわからないサウンドの難解さみたいなものに惹かれる気持ちは理解できた。複雑なオーディオ処理による、キテレツに捻じ曲がった音もたしかにエキサイティングではあった。ブレイン・ダンスとかいう言葉もあったけど、その頃の僕にはそれよりもっと下半身直結のプリミティヴな快楽こそが重要だったのだ。
 これが2004年くらいのお話。

 そんなこともあって、それからは正直オウテカの音楽を追っかけてチェックするようなことはしていなかった。なので、今回久々にオウテカのアルバムをブランク分も含めてきちんと聴いたのだが、まずひと言、驚いた。そして、これは賛否が分かれるかもな、とも思った。なぜかって、このアルバムでオウテカのビートはいままでと比べてかなりシンプルになり、完全にダンスフロアに焦点を合わせているようだったからだ。ランダムジェネレートされたような複雑なビートのなかに、ルーツであるヒップホップやエレクトロファンク的な感覚が見え隠れするのがオウテカの持ち味だと思うが、今作は見え隠れするなんてものじゃないほど明け透けだ。

 思えばひと昔前には、グラニュラー、グリッジ、ジェネレーテッド・シーケンシングというギミックにはまだまだブラックボックス的な側面が強かった。それはある種のプログラミングやオーディオ・モディファイのスキルを身につけた者だけが立ち入ることのできる聖域でもあった。しかしいまではそういったサウンドを割と簡単に再現出来るプラグインがネット上に無料で数多く公開されているし、YouTubeで「How to make ○○」とでも検索すれば欲しいサウンドの作り方の実演ヴィデオを見つけることも容易い。あの頃の聖域は神秘性を失い、いまやパブリックなものとして開かれている。

 そんな時代だからこそ、オウテカのふたりは自分たちの音楽的に普遍的な部分へいまいちど立ち戻ろうとしているのではないか。それは、とりわけメロディックで機能和声的だった前作『オーヴァーステップス』や、先日おこなわれた有明でのギグの共演者として、ホアン・アトキンスをチョイスしたことからも伺える。サイボトロン時代からホアンは、ふたりにとってのエレクトロヒーローだったらしい。
 今作は、「帰ってきたマンチェスターB-BOY」とでも言うべきものなのかもしれない。まるでフライング・ロータスがオールドスクール・エレクトロをやったような"Etchogon-S "でアルバムは幕をあける。"rew (1) "でもジェイディラあたりの影響を感じるヨレた、しかしグルーヴィなビートを聴くことが出来る。"y7 "や"M62"では、アシッド・ハウスやデトロイト・テクノのオウテカ流解釈とでもいうべき4つ打ちのトラックを披露している。これはある意味僕が2004年に聴きたかった音でもあった。

 ここにきていまいちど「黒い音楽」に回帰した感があるオウテカが、次になにを見せてくれるのか。ここにきてもういちど、オウテカの活動を追いかけるのに充分な理由ができた。

アボカズヒロ