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Essential Logic

Essential Logic

Fanfare in the Garden: Essential Logic Collection

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野田 努   Aug 11,2010 UP
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 ザ・スリッツザ・レインコーツのオリジナル・メンバーだったパロマ・ロメロは真摯なキリスト教徒になり、そしてエックス・レイ・スペックスとエッセンシャル・ロジックのオリジナル・メンバーだったローラ・ロジックの名前で知られるスーザン・ウィットピーはハレ・クリシュナに入信した。ともに80年代に生まれ変わっている。こうした事実からなにかを導き出したい......というわけではない。アリ・アップはジャマイカに移住し、テッサ・ポリットはヘロイン中毒者になり克服した。『ザ・フラワーズ・オブ・ロマンス』のジャケに写ったジャネット・リーはおよそ10年後にザ・ストロークスを見出した。当たり前の話だが、彼女たちにもいろいろあったのだ。

 ジョン・ライドンがザ・レインコーツと並んでパンクを別次元に押し上げた功績者として評価したのが、エックス・レイ・スペックスである。ソマリア系移民の娘であるポリー・スタイリーンが率いたそのパワフルなパンク・バンドのサックス奏者となったローラ・ロジックは、しかし早々とバンドを抜けると、ザ・ストラングラーズの『ブラック・アンド・ホワイト』に参加して得た金を持って、1978年、自分のバンド、エッセンシャル・ロジックのデビュー・シングル「アエロソル・バーンズ」を録音する。バンドはその翌年には〈ラフ・トレード〉からデビュー・アルバム『ビート・リズム・ニュース』をリリースしているが、同じ時期にロジックはザ・レインコーツのデビュー・アルバム、あるいはレッド・クレイオラでもサックスを吹いている。

 エッセンシャル・ロジックは典型的な――という形容はその理念からして矛盾しているが――ポスト・パンク・バンドで、そのことは高名な批評家グリール・マーカスをして「これ以上ないほど完璧」と言われたローラ・ロジックという名前からもうかがえる。パンクの「理屈じゃないんだ」という姿勢に対して彼女ははっきりと自らの名前で「理屈(ロジック)だ」と主張したのだから。そういう意味ではジョン・ラインドンが示唆したように、パンクをパンクという"型"にはめなかった彼女たちのほうがパンクだったと言える。そして"型"にはまらなかったからこそ、彼女たちは短命に終わったのだ。エッセンシャル・ロジックも1枚のアルバムと数枚のシングル、そしてローラ・ロジック名義での1枚のアルバムと1枚のシングルのみを残して終わっている。アイデアの底が付いたら終わりというのが、当時の流儀でもあった。ちなみにいまでも僕が当時のレコードとして持っているのは『ビート・リズム・ニュース』(1979年)と12インチ・シングルの「ウェイク・アップ」(1979年)、それからローラ・ロジック名義の『ペジグリー・チャーム』(1982年)の3枚で、それらはローラ・ロジックの音楽を象徴するように文字が踊っているっているようなタイポグラフィーが描かれている。これらのデザインはいましげしげと眺めても格好いい。

 『ファンファーレ・イン・ザ・ガーデン』は〈キル・ロック・スター〉からの編集盤で、このレーベルは最近、ザ・レインコーツやデルタ5、クリネックスといったポスト・パンク時代の女性が中心にいたバンドの編集盤を相次いで出している。『ファンファーレ・イン・ザ・ガーデン』はCDで2枚組で、1枚目はエッセンシャル・ロジックの軌跡、もう1枚のほうではローラ・ロジック名義での音源が聴ける。1枚目のエッセンシャル・ロジック時代の音源のほうが、いま聴いても新鮮なのは言うまでもない。

 「私たちには愛し合っている暇が与えられていないのよ」と両義的な不満を歌うロジックは、曲のなかを自由にステップを踏んで動き回り、力強くサックスを吹いている。彼女の厚みのある声、そして(ジャズではなく)大道芸のようなサックスがゆっくりと3拍子を刻みながら展開して、後半にはハチャメチャなパーティのように錯乱していく"アルバート"という曲が僕はとくに好きだったが、いちばん最初に覚えたのは〈ラフ・トレード〉の最初のコンピレーションに収録されていた"アエロソル・バーンズ"だった。それはもっとも激しい曲で、誰にも捕まえられない素早さで彼女は動いている。『ファンファーレ・イン・ザ・ガーデン』にも1曲目に収録されている。

 グリール・マーカスの記した素晴らしいライナーによれば、「ごく少数の人間にしか聞かれなくても、自分には聞こえる自分自身の声があるということを、たくさんの人が発見した時期」のなかのこれはひとつの歴史だという。マーカスの言葉もまた、ポスト・パンクとは何だったのかを的確に捉えていると言えよう。
 

 蛇足というか補足:サイモン・レイノルズの『ポストパンク・ジェネレーション』についての原稿ザ・レインコーツの記事のなかで、〈ラフ・トレード〉の理想主義について触れたが、ことの顛末について書き忘れている。〈ラフ・トレード〉の「50:50」契約は、プライマル・スクリームと〈クリエイション〉の90年代前半まで存在し、イギリスのインディ・ロックにおける良心的な契約としてアーティスト側からは望まれていたが、結局のところ続かなかった。〈ミュート〉におけるデペッシュ・モード、〈ファクトリー〉におけるニュー・オーダーのように、売れて多額の報酬を得たバンドは活動のペースが落ちていく。アーティスト側にとってはそれでいいが、レーベル側は4年のうちの数ヶ月だけ運営していればいいというものではない「50:50」契約ではレーベルの長期的運営が困難だったという話である。要するに、パーセンテージの問題ではなく、気持ちの問題だった!

野田 努