ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  2. Robert Johnson ──オリジナルSP盤から起こしたロバ―ト・ジョンスンの12作が10インチでリイシュー
  3. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある
  4. interview with Adrian Sherwood 愛とソウルと、そしてメロウなダブ・アルバム | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー
  5. Stones Throw ──設立30周年記念日本ツアー開催、ピーナッツ・バター・ウルフ、ノレッジ、マインドデザイン、ミチが来日
  6. NordOst ──ついに松島広人による単独公演、5月8日はFORESTLIMITへ
  7. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  8. Laurel Halo - Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière) | ローレル・ヘイロー
  9. Masaaki Hara ──熊本の喫茶店ENDELEA COFFEE京町にて『アンビエント/ジャズ』著者、原雅明によるトーク・イベント
  10. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  11. Shuta Hasunuma Double Philharmonic Orchestra ──蓮沼執太、活動20周年記念として総勢41名の大編成によるコンサートを実施
  12. Columns Thundercat 来日を控えるサンダーキャット、その新作が醸し出すチルなフィーリングについて
  13. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第1回 現象になりたい
  14. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  15. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  16. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  17. interview with Ego Ella May ジャズとネオ・ソウルの邂逅 | エゴ・エラ・メイ、インタヴュー
  18. Moemiki - Amaharashi
  19. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  20. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Morrissey- World Peace Is None of Your Busi…

Morrissey

PopRockThe Smiths

Morrissey

World Peace Is None of Your Business

Harvest

Amazon iTunes

ブレイディみかこ   Jul 25,2014 UP
E王

 Swaggerという言葉がある。
 英和辞書には「威張って歩く」とか「ふんぞり返って歩く様」とか書かれている。が、わたしがSwaggerという言葉を聞いて連想するのは、リングに入場する時のボクサーの姿だ。肩をいからせ、ゆらりと相手を威嚇しながら歩くボクサー。
 Swaggerという言葉を思い出したモリッシーのアルバムが、これまでに2枚あった。
 『Vauxhall & I』と『You Are The Quarry』である。で、『World Peace Is None of Your Business』は3枚目にあたる。どこからでもかかって来やがれ。と、にやにや笑いながら崖っぷちに立っているようなSwaggerを感じるのだ。
 なぜだろう。誰もが不安になってライトウィングにレフトウィングに文字通り右往左往しているこの時代に、モリッシーは力強くなっている。

            ++++++++++

 『World Peace Is None of Your Business』という象徴的なタイトル(アベ政権下の日本でもそうだろうが、イラク戦争の合法性が再びクローズアップされ、ブレア元首相が連日メディアに叩かれている英国でだって壮大な嫌味に聞こえる)の本作は、音楽的には灰色の英国を歌うモリッシー・ワールドから完全に剥離している。強烈にカラフルなのである。
 スペインのフラメンコ・ギター、トルコ音楽のコブシ、ポルトガルのアコーディオンとピアノの絡み。などを随所に織り込み、ヨーロッパ大陸万歳!みたいなサウンドになっているので、ユーロヴィジョン・ソング・コンテストを見ているような感覚にさえ陥る(そらピッチフォークは嫌うだろう。ははは)。しかし、アンチEUの右翼政党UKIPが勢力を伸ばしている英国で、モリッシーがここまでヨーロピアンなサウンドを打ち出してくるとは面白い。
 が、これは単なる偶然だろう。というのも、このアルバムを作っていた時点で、モリッシーが2カ月前のEU議会選と地方選で起きたUKIPの大躍進を予想していたとは考えづらいし、過去にはモリッシー自身がUKIPのシンパであることを表明したこともあったのだ。
 けれども2014年7月にこのアルバムを聴くと、UKIPの大躍進や排外主義に対するアンチ・ステイトメントに聞こえてしまう。
 ラッキー・バスタード。
 とは言いたくないが、周期的にモリッシーにはこういう時期がくる。彼自身が言っていることは30年間まったく変わってないのに、英国の歴史のほうで彼を痛切に必要とする時期があるのだ。
 で、もちろんモリッシーはそのことをよく知っている。だからこそ本作にはSwaggerがあるのだ。

            ++++++++++

 世界平和なんて知ったこっちゃないだろう
 決まり事に腹を立てちゃいけない
 懸命に働いて、愛らしく税金を払え
 「何のため?」なんて訊いちゃいけない
 哀れで小さい愚民
 ばかな愚民
World Peace Is None of Your Business

 モリッシーが「人類は仲良くすることはできない」、「基本的に人間は互いが大嫌いだ」といった発言をする時、英国人は笑う。みんなそう思っているからだ。思っちゃいるが、だけど何もそこまで言わなくても。といったおかしみを感じるので笑ってしまうのだ。モリッシーのユーモアの本質はそこにある。
 正義だ平和だイデオロギーだと大騒ぎして喧嘩している貴様ら人間自体が、そもそも何よりくだらない。といった身も蓋もないオチが彼は得意だ。
 が、第二次世界大戦でもイラク戦争でもいい。戦争をはじめたのは、独裁者でも政府でも首相でもなかったのだ。その気になって「やったれ!」、「いてこましたれ!」と竹槍を突き上げはじめた一般ピープル(モリッシー風に言うなら、ばかな愚民)だった。そして、もし仮にまた戦争があるとすれば同じ経緯で起こるだろう。

 モリッシーが政治を歌う時は凄まじい。それは、例えばU2のように人差し指を振りながら「これはいけません。ノー、ノー、ノー」とシャロウな説教をするのではなく、人間の根源的な醜さや絶望的なアホさといった深層まで抉ってしまうからだ。

            ++++++++++

 「歌詞という点でいえば、モリッシーと同格に並べられるのはボブ・ディランだけ」
 と言ったのがラッセル・ブランドだったかノエル・ギャラガーだったか、はたまたブライトンの地べた民だったかは思い出せない。ずっとこういう英国人のモリッシー礼賛には反抗してきたのだが、「僕たちはみんな負けるー」と50代半ばの男が反復する“Mountjoy”を聴いていると妙な気分になってきた。

 Swaggerは内側の怖れを隠すため
 このルールによって僕たちは息をつく
 そしてこの地球上には
 去ることが悲しいなんて思う人間はいない
Mountjoy

 この人はディランのように60になっても70になってもポピュラー・ミュージック界の老獪詩人として疾走を続けるのかもしれない。
 米国にボブ・ディランがいるように、英国にもスティーヴン・パトリック・モリッシーがいた。とわたしにも思えるようになってきてしまった。
 (後者は間違ってもノーベル賞候補にはならないだろうが)

ブレイディみかこ