Home > Regulars > Tanz Tanz Berlin > #1:ベルグハインの土曜日
"調子のいい夜の〈ベルグハイン〉と〈パノラマ・バー〉のダンスフロアは、世界で一番だ"
伝説を築くという意味においては、それらの出来事が本当に起こったことなのか否かはさほど重要ではない。そんな逸話が存在し、語り継がれているというだけで十分なのだ。
そして〈ベルグハイン〉は〈バー25〉ともまた違う。シュプレー川のほとり、カラスが飛び交える数百メートル程度しか離れていない距離にあり、ここも奔放なパーティ伝説が先行している場所ではあるが、〈バー25〉はさらにエクストリームでグロテスクだ。ある逸話では、女の子が芝生に寝転び、自分の携帯をヴァイブレーター代わりに使って「ヴァギナ会話中! ヴァギナ会話中!」と叫んでいたとか。それと比較すると、〈ベルグハイン〉の営みはまだ文明的に思える。確かに〈パノラマ・バー〉の横にある金属製の棚スペースのところでセックスする人たちは存在する。でも、基本的にここに来ている人たちは自分の行動をわきまえているのだ。もしくは、ちゃんと一言「ごめんね、しばらくどうでもいいことを喋りたいんだけど、いいかな?」と断りを入れる礼儀を持ち合わせている。
そう言ってもらえれば、我慢するのもそれほど苦にならない。
中を歩き回ってみて、あちらやこちらで何が起こっているか把握しつつ、一杯飲み、トイレに行って〈パノラマ・バー〉背後の小便器越しに、窓の外の荒れ地に奇妙に伸びた行列を眺める。知り合いや、全くの他人や、多種多様な人々に会う。バーで順番を待っていると、20代前半のフランス人青年が、モンペリエでテクノDJをやっている自分にとってベルリンに来ることは、イスラム教徒がメッカに巡礼するようなものだと説明してくる。階段では半裸でスキンヘッドの大男が、笑顔でこんなクラブは他にない、「ロシアでさえも」と話しかけてくる。ダンスフロアの隅っこでは、数週間前に途絶えていたダブ・レゲエについての議論がまた始まっている。
そして、踊る。
調子のいい夜の〈ベルグハイン〉と〈パノラマ・バー〉のダンスフロアは、世界で一番だ。ハウスとテクノ20年の歴史の集大成を作り上げているかのように。客の音楽的理解も素晴らしいが、盛り上がってくればそんなこととは無関係に思いっきり楽しむという姿勢もあるところがいい。その客層のユニークさは、ゲイとストレート、若者と年配者、男性と女性、ベルリンっ子と観光客といった多文化が混在しているというだけではなく、独特のダイナミズムをもたらす能力にある。ベルリンのテクノのベテランたちに埋め尽くされたダンスフロアでは、みんなパーティを知り尽くしている。だから、DJが8ビートのブレイクを挿んだ後にベースをぶち込んでも、期待通りの熱狂が得られないこともある。このようなトリックは聴き慣れているからだ。これが、初めて〈ベルグハイン〉に来て思いっきりはしゃいでいる若きゲイのイタリア人相手だったとしたら、トリックの善し悪しなどはどうでもいい ―― 毎回必ず盛り上がってくれるはずだ。でも、そうした客のバランスが素晴らしいのである。何年もかけて形成された、どのDJに何を期待すべきか知り尽くしたダンスフロアに勝るものはないが、場合によっては通常のパターンを打ち破る柔軟さも備えているのだ。