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interview with kuki kodan

interview with kuki kodan

空気を録りましょう

――空気公団(山崎ゆかり)、ロング・インタヴュー

橋元優歩    Photo:TAKAMURADAISUKE   Nov 16,2012 UP

空気公団 - 夜はそのまなざしの先に流れる
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 新しいことをやっていると思っていたら、「70年代が帰ってきた」と言われた......山崎ゆかりと空気公団は、はじめからある種のズレを抱えて年を重ねてきたようだ。今年で第一期結成から15年になるが、ベテランという風格も古びた様子も感じられない。特定の世代から支持を受けているというふうでもなく、どちらかといえば考え方やライフ・スタイルを同じくする人々から愛されるバンドであるように見える。実際のところ、彼らの音楽はとくに新しいわけでも古いわけでもない。そうした価値観の外で、自分たちが大事にしているものに正直に、忠実に制作しているという印象がある。自分を表現することから一歩引くこと、引いた部分に人を引き入れること。そのような音楽のあり方を空気公団は大切にする。おそらくそのために新しいものからも古いものからも少しずつズレるのだろう。彼らは、そのズレさえも大切に思っている。

 今月、空気公団は新作となるフル・アルバム『夜はそのまなざしの先に流れる』をリリースする。先を読んでいただければわかるように、本作は独特の録音スタイルとコンセプトによって組みげられた意欲作だ。筆者のようにこれまで彼らの音をそれほど耳にしてこなかった人も、この冒頭1曲ばかりは足を止め、手を止めて集中せざるを得ないだろう。なにも難しいものではない。むしろ人が自然に耳をひらくことをうながすべく録られた音である。詞があり曲があり、そこに人がすっと入っていけるように隙間(=ズレ=空気)がつくられている。むしろこの「隙間」をどうつくっていくかということに思念をこらした作品であるとさえ思われる。
一種の公共空間を設計することが、ポップスの役割かもしれない。たくさんの人間の思いや気持ちをのせられる無限容量の共用スペースを、そのときどきに様々に生み出してきたのがポップスではないのか。......一方では「初期ユーミン」などと形容され、また一方でクラムボンやキセルに比較され、筆者自身は美術館で演奏したりするアート寄りなバンドだと思っていた空気公団は、そのどれからもズレながら、あくまで自分たちのやりかたでポップスの限界を押し広げている。

天空橋から

どうやって録音しようかと話していたときに、じゃあ空気を録音するっていうのをもっとメインに考えていこうってなって。それでライヴをそのまま録るというところにたどりつきました。

今作『夜はそのまなざしの先に流れる』の1曲目なんですが、これはすごく長い導入部を持ってますよね。

山崎:そうですね、はい。

この長さ、このパート自体が、アルバムというものの時間性ではないなというふうに思ったんです。この奇妙な感触や尺はなんなんだろう、っていう。そのとき、この作品が演劇とともに演奏されたライヴ録音であるということの意味が立ち上がってくるように感じました。

山崎:ああ。

おそらくそれって、この「天空橋」っていう場所を舞台に立ち上げるために必要な時間だったんじゃないか。あのパートはきっと、なにかパフォーマンスが行われていた部分なんですよね?(※1

山崎:あれは、もともとセリフを入れてた部分なんですよ。あとでセリフをカットしたんです。

ああ、そうなんですね。

山崎:そこは津軽弁で物語の筋書きをしゃべってたんですが、カットしたといういきさつです。

全体の録音から、声だけきれいにトリミングしたということですか?

山崎:いいえ。あのオケははじめに録ってあったもので、それに合わせてしゃべってるんですよ。だからあとから声だけ取っ払ったかたちになります。物語の説明なんてべつにいいか、ということになりました。

なるほど。すごく不思議な感触がありました。生演奏でも編集作業でもなくて、もっとべつの力の作用によって成り立った空間だっていう感じがすごくしました。ナレーションがあったということは、アルバムにはなにか設定があったということなんですか?

山崎:いつもまずコンセプトを考えてからアルバムを作るんです。今回は、「人に穴があいている」っていうことを発見して、その穴が何なのかっていうことを探しに行くところからはじまっていて(※2)、それを導入で説明しているんですね。演劇が入ってくるっていうことも念頭にあったので、そうなると歌以外の部分も大切になるな、とは思っていました。それで最初の部分は長く取っています。あれを1曲めにするっていうのはみんなに反対されるかなと思ったんですけど、意外にアリになりましたね。

演奏自体もプログラムの冒頭だったんですか?

山崎:そうですね。曲順通りに演奏してます。

あ、そうなんですね。なんというか......フィールド・レコーディングっていう言葉は、自然の音とか、音楽という意図で編まれていない音を録音することを指しますけども、この冒頭の演奏は、この日のステージをフィールド・レコーディングしたもの、という感じがしました。ちゃんと音楽として組織された音なんだけれど、それが鳴っている場所自体を、ひとつの自然として記録したというか。

山崎:もともとあの部分って、コードしかなかったんですよ。コードだけをひたすらみんなに聴かせる。演奏する人たちとは、「ひとりフレーズをやったら、それにつながるフレーズをまたべつの人がやるというふうにしよう」ってそれだけ決めてました。なので、最後のほうになるとワン・フレーズみたいになって楽器が3つ分重なる部分があると思うんですけど、最初はそれをわからないように演奏しています。パーカッションはその場のノリです。まあ、みんなその場のノリでやってるんですけど......基本的には「天空橋」っていうキー・ワードしかないっていう状態です。あとは、パフォーマーがいるんだ、歌詞はこれだ、これは録音されてるんだ、っていう情報だけは共有されていて、みんなそこから想像してやっています。

「天空橋」っていうキー・ワードはどこからきたものなんですか? あえてそこは明示しない感じでしょうか?

山崎:「天空橋」って言ってますけど、天空橋って行ったことないんですよ。

あれ? 実在する場所なんですか?

山崎:羽田空港の近くですよ。

あー! あるかもです。

山崎:曲を作っているときに、ふと「天空橋に」って言葉が口から出てきて、あれ、天空橋って何なんだ? って思って、自分で調べたら、なんか駅があるらしい。特に場所の設定として天空橋がいいって最初から決めてたわけではないんです。

明確な設定もないし、イメージもとくに統一しないし、天空橋が実在すると知らない人もいるかもしれないくらいのあいまいなキー・ワードだったんですね。

山崎:そうですね。

ライヴ盤とライヴ録音のコンセプチュアルな違い

ライヴ盤......っていうかライヴのときのテンションがあまり好きではないんですよね。なんか、作品を作るっていうよりはその場のお客さんを楽しませるという感じとか。そのちょっとした余裕が生まれている感じがあんまり好きじゃないなって思うんです。

はあ、なるほど。そういういろんな偶然性をはらむような、ライヴ録音というスタイルでこの作品を録ろうとされた意図はどんなところにあるんでしょう?

山崎:いつも空気公団って、録音をメインにしているんですよ。で、手紙みたいに1年に一回はぜったいアルバム出したいなって思ってるんです。次はどうやって録音しようかと話していたときに、じゃあ空気を録音するっていうのをもっとメインに考えていこうとなり、それでライヴをそのまま録るというところにたどりつきました。

でも「ライヴ盤」ではないわけじゃないですか、これは。

山崎:ライヴ盤......ライヴのときのテンションがあまり好きではないんですよね。知ってる曲を演奏するから楽しいし、やり慣れているっていう、そのちょっとした余裕が生まれている感じがあんまり好きじゃないなって思うんです。それで、もうちょっと作品を作っている感じにするために、新曲を演奏しようと考えました。といって、ステージでやるわけだから、録音してる様だけを見せるというのもどうなんだって気もました。音楽をもうちょっと立体的にみせられる方法を思い浮かべたときに、演劇かなと。

へえー。どういうふうにポスト・プロダクションを加えていったんでしょう。8割9割そのままだってことはないんですよね?

山崎:8割9割......そうですよ。ベーシックは全部そのままで、ほとんど差し替えはしていないです。全部録ったあとで、間違えた音を録り直さなきゃね、とは言っていたんですけど、スタッフも「べつにやり直さなくてもいいかもね」とのことだったので、じゃあこれにしようかと。

劇の人たちのズシン、バタン、みたいのは聴こえないですね。

山崎:そこはカットしました。

あ、そこもライヴ盤とはちがう性格のものだって感じがします。スタジオ録音ではないんだけど、スタジオ録音的な作品として完成させようとされている。それは、その場にあったことをそのまま記録しようというライヴ盤とはちがいますよね。そのあたりの差がしっかり考えられて作られていると思いました。

山崎:生(ナマ)なんだけど「生」感を消してるんですよ。だけど、演奏してる人の気合い自体は生というか。歩き回ったりしてますしね。ドラムは囲いで録っていて、スネアなんかも曲によっては替えたかったんだけど、それはできなかった。

前作にあたりますかね、『春愁秋思』のライヴ盤があるじゃないですか。あれとかはヴィデオ・カメラの粗悪な音も積極的に活かすかたちですよね。要は、そこにそういう場所があった、そういう音楽が鳴っていたということのリアルな記録や証拠みたいな性格のものだと思うんです。そういう、ライヴ盤らしいライヴ盤である前作の方法から得たこととか、今作につながった要素があればうかがいたいんですが。

山崎:やり方はいろいろあるってことですね。スタジオでひとりずつ、ドラム録って、ベース録って、っていうやり方じゃなくても録れるし、そういう機械も増えてる。もっとクリアに録って......みたいな欲求も生まれてくるのかもしれないですけど、あんまりそういうのないんですよ。あんまり分離のいい音すぎるのもどうかと思うし。言い方が難しいですよね、「ライヴ録音」っていうのが適当なのか......

ライヴの緊張感をうまくスタジオ・アルバムの単位に落とし込んだような、新鮮な方法ですよね。

山崎:お客さんも緊張してて。1曲めの後なんかも、ふつう曲の終わりとかに拍手があったりするじゃないですか。曲の終わりがわからないというのもあるけれど。でもこれの場合は誰かがパチって叩いて終わった、みたいな。

なるほど。そういう、仕組まれた音が鳴ってるのに環境として録っちゃうというような、コンセプチュアルな仕掛けがあるような気がしておもしろかったです。資料には、山崎さんのことをシンガーとかソング・ライターとかじゃなくて「アルバム・コマンダー」って書いてあったんですけど......

(一同笑)

(笑)そういうコンセプト込みでの指示を出すシンガー・ソング・ライターをうまく呼び表す言葉がなくて、そう表現したのかなあと思いました。言いたいことはすごくわかります。

山崎:3人は空気公団なんですけど、3人だけが空気公団じゃない。そういうところから来てますかね。

山崎さんは、すごく若いときに朝の音を毎日ひたすら録音してたんだという記事を読んだんですよ。

山崎:(笑)

そういうときに音に映り込むものってなんだろうなと考えると、ちょうどこのアルバムの全体の音が、それを人工的に再現した感じに近いのかなと思いました。             

山崎:ああー。

※1...2012年7月6日、日本橋公会堂にて『夜はそのまなざしの先に流れる』が開催された。舞台上では演劇ユニット「バストリオ」による演劇が繰り広げられ、アルバム収録曲すべてが初演奏された。新作『夜はそのまなざしの先に流れる』はこの公演の録音をもとに制作されている。

※2...
いつもの帰りの電車で
ふとあることに気がついた
それは「穴」であり
わたしはそれが何なのか
ぼんやりとわかるが説明できない
これは何であるのか
人々に「穴」があいている
そこからいつもとは全く違うルートで
目的地を目指す
その道すがら思考する
この「穴」は何であってどこに続いているのか
目的地には知らなかったわたしがいた
(『夜はそのまなざしの先に流れる』プレス資料より)

取材:橋元優歩(2012年11月16日)

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