Home > Interviews > interview with 5lack - 震災後
日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティヴに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。
■スラックくんの言う「日本っぽい」っていうのがなにを意味するのかもう少し訊きたいな。たとえば、『この島の上で』の"まとまらない街"や"新しい力"では、日本の伝統音楽というか邦楽をサンプリングしたようなトラックを作ってるでしょ。
スラック:たとえば、久石譲の音楽をCMや映画で聴いたりして、オレらだけが本当の意味で楽しめることに、みんな気づいてると思うんですよ。しかも、それでかっこ良ければ、ばりばりガイジンに対しても自信満々で行けるって。
■「日本っぽい」オリジナルな音楽を作るというのは、いまでもスラックくんのひとつのテーマ?
スラック:ああ、でも、もう、ぶっちゃけいまはゆるいです。いろいろやってみて、疲れてきて、いまはもういいや、みたいな。地震のあと、坊さんの話を勉強したり、善について考えたりもして。でも、オレには無理だなって。全部を動かすスタミナはオレにはなかった。だから、いまはそっちは放置プレイです。
野田:でも、日本っていうのはAKBとか、オレはよく知らないけど、アニメとかさ、そういうのもひっくるめて日本だからさ。
スラック:そうすね。
野田:そういう意味で言うと、いまスラックが言ってる日本ってすごい偏った日本だと思うんだよね。
スラック:だから、オレはオレで、自分の好みをもっと広めたい。
野田:スラックの同世代の他の子はやっぱりアニメを観てたりしたでしょ。
スラック:そうですね。
野田:携帯小説を読んだりとかさ(笑)。
スラック:オレの世代はめっちゃ携帯世代ですね。でも、若いヤツらって意外と真面目で、時代は大人たちの裏で変わっていると思う。
野田:オレもなんか、スラックより下の世代と話が合うんだよね。
■それぐらいの世代ってフランクだよね。
スラック:タメ語っぽいヤツは多いですね。
野田:オレなんかスラック以上に先輩後輩の上下関係のなかで育ってるから。
スラック:若いヤツらはオレの立場とかどうでもよくて、みんなはっきり言ってくるんで。「それ違くない?」って。それがけっこう当たってたりして、自分の邪念に気づけるし、面白いすね。だから、20歳未満の世代にも期待してますね。
野田:そのぐらいになると、「インターネットは単なる道具っしょ」っていう距離感なのね。
スラック:たしかに。
野田:さっぱりしているよね。
スラック:いまの若いヤツに対しては「プライドなんて育てない方がいいよ」って言いたいっすね。東京はダメだし、警察はギャングだし。もうちょっと賢い、本当に強い選択をしないと。暴力は損することも多いから。うまくなかに入り込んで壊すような、風穴を開けるようにならないとダメだと思う。ダメっていうか、そうしないと良くはならない。
■東京の状況を良くしたいって気持ちもあるっていうことなのかな。
スラック:ありますね。最近、けっこう自分が良くねぇ時代にいるんじゃないかって気づき出して。オレらの親世代とかはちょうどバブルの子供世代だったりして、地震ではじめて動揺した世代だと思う。
野田:お父さんは何歳なの?
スラック:50中盤ぐらいなんで。
野田:えー、じゃあ、ぜんぜんバブルじゃな......い......いや、バブルか。
スラック:バブルの若者で、戦争にも当たってないし、なんにも触れてなくて、めっちゃ平和ボケ世代なんですよ。
野田:運がいいんだよ。
■ある意味羨ましい。
スラック:そうそうそう。だから、その子供世代とかがまさにオレらとかで、いま大変な不景気に立たされてる。オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。
■いやあ、すごいおもしろいインタヴューだけど、野田さんの襲撃によって話がとっ散らかったなあ。......あれ、野田さん、どこ行くんですか?
野田:トイレですよ!!
一同:ダハハハハハッ。
■『5 0』のことも訊きたくて。いちばん最後の曲、"AMADEVIL"ってなんて読めばいいんですか?
スラック:これはオリーヴさんがつけましたね。
■意味はわかります?
スラック:いや。
■ラストのこの曲の音が途中で消えて、そのあとにまた曲がはじまるでしょ。僕はその曲がアルバムのなかでベストだと思ったんですよね。
スラック:"BED DREAMING"だ。なんかベッドの上から一歩も出ないような日に書いた曲なんですよね。
■福岡と東京を行ったり来たりしながら録音したわけでしょ。
スラック:行ったり来たりして、あっちで書いて、家で録ったり、それを送ったりしてましたね。去年の夏からですね。
■そもそもどうしてオリーヴ・オイルとやろうと思ったんですか?
スラック:アロハ・シャツ着て過ごしたいなって。東京を置いといて。で、金にしちゃえって。
■なるほどー。
スラック:長いラップ人生、なにをしちゃいけないもクソもねぇだろと思って、いろいろやろうかなって。あと、音を違うフィールドの人に任せたかったんですよね。これまで全部自分で仕切ってたから、任せれるアーティストとあんまり出会ってなかったんで。
■2曲目に"愛しの福岡"ってあるじゃないですか。福岡の東京にはない良さ、面白さってどういうところですか?
スラック:人間ぽいすね。なんかこう、厳しいところと、緩いところがあって、日本人ぽい。また日本人出てきちゃった。
■タハハハハッ。
野田:また口挟ませてもらってもうしわけないけど、福岡は日本の歴史において重要なところだよね。やっぱオリーヴ・オイルとやったっていうのが今回すごく面白いと思ったのね。オリーヴ・オイルもK・ボムもオレはリスペクトしてるトラックメイカーだけど、2人とも311があって、いわゆる感情的に涙の方向に行かなかった人たちじゃない。だから、そういう意味で言うと、『情』の叙情感とぜんぜん違うものじゃない。
スラック:たしかにそうです。
野田:『情』のあとだからさ、涙の路線の延長っていうのもあったわけじゃない。
取材・文:二木信(2013年3月12日)