Home > Interviews > interview with Seiho part.1 - テクノ新世紀・立志編
僕の世代っていうか、相方のアヴェック・アヴェックも同じような感覚なんですけど、サンプリングに対する抵抗と魅力が両方あって。サンプリングって、自分が弾いてないっていうことに対する罪悪感みたいなものが。
■セイホーは、セイホー君の世代では珍しく「ジャズ」ってことを言うから、そこが気になっていたんだ。
セイホー:それでジャズと言うよりは、そのあとに小学校、中学校で部活に入らないといけないっていうのがあって。小学校からパソコンには興味があったんですけど、パソコン部っていうのがなくて。中学校でも、パソコン部に入ってもタイピングとかをするだけで、CGを作れないってなって、それやったら音楽が好きやったんで、そこで吹奏楽をやり出して、地域のジャズ・バンドに入って。で、高校はずっとジャズ・バンドで、みたいな。
■吹奏楽部では何をやったんですか?
セイホー:トロンボーンです。
■カッコいいね(笑)。
セイホー:(笑)
■自分が演奏するためにジャズを聴いてたみたいな感じ?
セイホー:そうです、そうです。ずっとそんな感じですね。ジャズを「いいなー」と思って聴いてたわけじゃなくて――。
■それは何年ぐらいの話?
セイホー:それが――。でも、中学校入ったときぐらいにギターを買ってもらって、そのときに弾きたかったのがコーネル・デュプリー。スタッフとかの、ああいう80年代のフュージョンがものすごく好きで、そういうのが弾きたいなって言ってやり出して。そこから渋いジャズというよりは、アーバンなフュージョンとか――。
■チャラいジャズ?
セイホー:そうですね。だからジョージ・ベンソンやらを聴いてて――。
■ラウンジーな感じの。
橋元:AORもちょっと入りつつの。でも中学生なんだ(笑)。
セイホー:はい、......みたいな感じです。
■当然、クラスからは奇人だと思われてたでしょうね。
セイホー:まあそうですね。でもなんかね、それもありつつの、そんな外れた感じの音楽趣味でもなくて。なんて言うんですかね、それを聴きながら、先輩に呼ばれて「お前この譜面弾け」みたいな感じでニルヴァーナとか、グリーン・デイやらを弾かされてたって感じです。
■楽器はけっこう一通りやったんだ?
セイホー:そうです、ずっと楽器はやってます。
■鍵盤も?
セイホー:鍵盤も一応は弾けます。
■譜面も読めて。
セイホー:一応は。
■絶対音感もあって。
セイホー:いや、それはないです(笑)。でも最近、譜面を読むことがあったんですけど、全然読めなくて。あかんなー思って。
■いや、すごいね。じゃあ、この新しいアルバムの1曲目の最初のピアノなんか自分で?
セイホー:ああ、それはそうです。エヴァンスのフレーズですが、弾いてるのは自分です。
■サンプリングだけじゃないんだね。
セイホー:そうです。僕の世代っていうか、相方のアヴェック・アヴェック(avec avec)も同じような感覚なんですけど、サンプリングに対する抵抗と魅力が両方あって。サンプリングって、自分が弾いてないっていうことに対する罪悪感みたいなものが。
■その感覚、俺より一世代上の人たちのものだよ(笑)。
セイホー:そうなんですよ。だから同じようなフレーズをわざわざ弾き直す作業をしたりとかをしちゃうんですよね。
■それがなんでこういったエレクトロニック・ミュージックと結びつくんですか?
セイホー:中学校2、3年生のときに新世界の〈ブリッジ〉っていうところで、soraさんとアオキ・タカマサさんと、半野喜弘さんあたりがイヴェントをやってはって。そこに遊びに行ったのがけっこうきっかけです。
■中学校?
セイホー:中学3年生です。2003年、2004年ぐらいですね。アオキさんが(海外に)行かはる直前ぐらいですね、だから。まだSILICOMをやってた頃なんで。
■まだグリッチな感じだった頃?
セイホー:そうですね。
■何が面白かったんですか?
セイホー:その直前ぐらい、2001年か2000年ちょうどに、アルヴァ・ノトの展示会を見てるんですよ。
■展示会って何をやってたの?
セイホー:たぶんグリッチの装置を置いてるのと――。
■グリッチの装置って、ノイズを出す装置(笑)? ラジオみたいな。
セイホー:そうです(笑)。あれを置いてるのと、あとアートワーク3枚がバンと壁にかけられただけのものを国立美術館かどこか、東京でやってて。それに直接は行ってないんですけど、それを紹介してる番組を有線で見てて。
■中学生にとってみたら、あれはどういうものに見えるの?
セイホー:僕のなかではけっこうな衝撃やったんですよ。
■未知の世界?
セイホー:そうですね。プラスにされていく未知ってあるじゃないですか?
■「これアリか」って感じでしょ? 俺も中学生で初めてクラフトワークを聴いたときに、それを感じたもん。
セイホー:はい、はい。
■曲を構成しているのが反復っていうのが自分でわかったときに、「こんなのアリなのかよ!?」って。
セイホー:はははは(笑)。
■それと、キング・タビーとかをやっぱ中学生で聴いたとき、ものっすごく衝撃を受けたなー。やっぱ、「こんなのアリなのかよ!?」って。
セイホー:ああー、はいはい。
■そういうような感じなんだ?
セイホー:そんな感じです。それで興味を持ち出して、どうやって調べたらいいのか、その術がその頃全然なくて。あの系統をどうやって仕入れるんやろ、みたいな(笑)。そんな感じをずっとウロチョロしてたら、K2レコードっていう大阪のレンタルCD屋があって。こっちで言うジャニスみたいな感じの、マニアックなレンタル・ショップで、そこに先輩に連れて行ってもらって借り出して、それで〈ブリッジ〉とかに行ってみようと思ったというか。半野さんやアオキさんを先に聴いて。そんな感じでした。
■個人的なことを言うと、その頃、グリッチ系は、ヤン・イェリネクとか一部を除いて、ほとんど聴かなかったもんね。
セイホー:はいはいはいはい。でも、そこから遡って、〈ワープ〉を聴き出して......、みたいな感じですよ。そこでスクエアプッシャーに出会って、「これはヤバい」みたいな。
■最初はほんとにIDMというかグリッチというか。
セイホー:そうですね。
■踊るほうではなくて、座って聴くほうだったんだね。
セイホー:そうですね。この作品を作る前もけっこう〈ワープ〉とか、そんな感じも混ざりつつやったんですよ。
■で、自分で最初に作りはじめたっていうのがそういうようなもの?
セイホー:いや、最初に作りはじめたのはまたちょっと違うんですよ。携帯の着メロがいちばん最初で――。
■それはなんで? アルバイトで?
セイホー:いや、違います。音楽を作るっていうときに術がなくて。
■でも楽器弾けるじゃん。あ、でもエレクトロニック・ミュージックで?
セイホー:そう、エレクトロニック・ミュージックをやりたかったんですよね。で、譜面を書いて。でもそれを鳴らすソフトがないから。
■でもそれこそ、楽器をなまじっか弾けたらサンプリングに抵抗があるように、エレクトロニック・ミュージックっていうのは楽器を弾けない人たちがみんな作ってるじゃない?
セイホー:そうですよね。
■そこは抵抗がなかったんだ(笑)?
セイホー:なんか自動で鳴るのが楽しい、みたいな(笑)。俺もようわかってへん(笑)。オルゴールといっしょで(笑)。
■はははは!
橋元:じゃあCGが楽しいって惹かれたのと同じような感じで――。
セイホー:同じような感じですね。で、3和音とか16和音の音源を携帯に送って――。
橋元:そんなのありましたね!
セイホー:で、聴いて満足する、みたいな(笑)。
■それは人前で発表してたりしたんですか?
セイホー:してない、してない。あ、でもけっこうしてましたね。16和音とか32和音とかが出だした頃は。携帯の課金サービスの前なんですよ。いわゆる300円で5曲とかの前で、インターネットにそういう素人サイトみたいなものが大量にあって、そこに投稿してましたね。着メロ投稿サイトみたいなんに(笑)。
■しかし......、小学校2年とかでパソコンをやってたらどんなガキになるんだって感じだよね(笑)。
橋元:そうですよね(笑)。でもそれで、ネットをやってたわけではない?
セイホー:やってました、やってました。
■バリバリ掲示板とかに書き込んだりする感じなの?
セイホー:いや、あーでも、そうやったんかな。PCやってるのは学校のなかで7、8人しかいないんですよ、僕らの世代は。だと、みんな繋がって2ちゃんうんぬんかんぬんみたいな話はけっこうしてましたね。
■イヤなガキだねー(笑)。
セイホー:(笑)そうなんですよ。
■実際みんなでやってたの?
セイホー:やってました。
■恐るべき子どもだねー、ほんとね。
橋元:でもネットだけど、繋がってるのはリアルの人と同じってことは、ひとつクッションを挟んでるけれどもリアルの関係とさほど変わらないってことですよね。大胆な他者と出会ったりしました?
セイホー:ナップスターとかがたぶんその頃で、キーワードを入れまくってみんなで落としてて。「ロック」「ジャズ」とか入れて、海外のやつに、「このファイルと交換しようぜ」みたいな感じで、ファイル交換をずっとし合ってましたね。
■へえー。
橋元:それはクラスの7、8人みんなやってたんですか?
セイホー:いっこ先輩で音楽好きの人がひとりいて、中学校1年生ぐらいのときにファイル共有ソフトで、アダルトから音楽から関係なしに、ゴチャゴチャ交換し合うみたいな時代がありました(笑)。
■うわ、恐ろしい男だね。
セイホー:けっこう僕らの世代がそういう感じの最初やったんちゃうかな。
取材:野田 努(2013年6月20日)