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interview with Seiho part.1

interview with Seiho part.1

テクノ新世紀・立志編

──セイホー、ロング・インタヴュー(前編)

野田 努    写真:小原泰広   Jun 20,2013 UP

パーティでいちばん重要なのは、僕らみたいなんをもっと集めたいから、「ブリング・ユア・ミュージック」って名前でやってるんですけど、デモを持ってきてくれたら入場料安く入れるっていう形にして、とりあえずメンバーを増やそうっていう。

それで2011年に〈デイ・トリッパー・レコーズ〉として、セイホー君が中心になってはじめると。「デイ・トリッパー」っていう名前にしたのはなんでなの?

セイホー:いちばんは、宇宙感を出したかった(笑)。

「デイ・トリッパー」ってぜんぜん宇宙感ないじゃん(笑)!

セイホー:(笑)いや、それで、惑星っぽい名前をつけたかったんですよ、僕は。で、いろいろ探してたんですけど、なんか「ベタ過ぎるなー」ってなって、いろいろ考えてて。

「ジュピター」とかね(笑)。「サターン」は使われちゃってるしね。

セイホー:そうなんですよね。で、いろいろ考えた結果、旅っぽい名前にしようってなって。最初「トラベル」とか、「プラネット・トラベル」的な名前を挙げてたんですけど、そのなかで、「やっぱビートルズやばいな」ってなって(笑)。

(一同笑)

なんでそこでビートルズなんだよ(笑)。展開が唐突すぎないか?

セイホー:(笑)みんなで話し合ったなかで、僕がいちばん気に入ったのがこれなんですよね。なんか、むちゃはしょってそうなりましたけど(笑)。

じゃあケムール人は?

セイホー:ケムール人は、さっき言った宇宙旅行っていうので、最初僕、1枚目作ったときに「写り込んじゃった」みたいな設定にしてたんですよ。惑星の記念写真に写りこんだっていうのやったんですけど、それが2枚目、3枚目、4枚目と続くごとに――。

なんでケムール人を選んだの?

セイホー:べつにケムール人を意識したわけじゃないんですけど(笑)――。

『ウルトラQ』をどこかで知ったわけでしょう?

セイホー:『ウルトラQ』はでも、観てましたよ、ヴィデオで。でもケムール人やっていうので決めたんじゃなくて、ぱっと見シルエットで宇宙人っぽい形わかるの何やろうな、みたいな感じで、コーンヘッド的なもの、ケムール人がやっぱわかりやすいんちゃうか、って感じです。

そうか、それでジャケットも全部統一感がある感じなんだ。マッドエッグからはそれまでと違うけど。敢えてアーティストの作家性よりも、レーベル・カラーを打ち出した理由は何なんですか?

セイホー:ひとつは、僕がプログレ・ロックが同時に好きで――プログレ・ロックって言ってもゴングとか、ハット・フィールド・アンド・ザ・ノースとかが好きで。

カンタベリーとか。

セイホー:みたいなものが好きで。

まあジャズだからね。

セイホー:そうなんですよ。ああいうジャケットを観てて、こういう統一されたジャケット、カッコええなあと思って(笑)。

それなのに、セイホー君は、まったくカンタベリーを感じさせないところがすごいよね(笑)。

セイホー:でも、どっちかと言うとレーベルとアーティストの関係を考えたときに、いちばん最初に僕らが作ったきっかけとしては、ネット・レーベルありきで作ってるんですよ。

〈マルチネ〉的なところがあったんだ。

セイホー:そうですね。もともと、ネット・レーベルVSフィジカルみたいな構図に僕はずっとしたくなくて。出入り自由なネット・レーベルがあるのに、出入り自由なフィジカル・レーベルがないっていうのが作った最初の動機だったので。

出入り自由っていうのはどういうこと?

セイホー:レーベルがアーティストを囲うような形じゃなくて、僕らのコンセプトに沿って作品を出してくれるなら、アーティストは出入り自由ですよ、みたいな形にしたかったんですよ。フィジカルのレーベルやと契約したり、そのあとのライヴのサポートがあったりして、出入りできないっていうか、マネジメントが入ってくるじゃないですか。そうじゃなくて、レーベルのコンセプトがあって、それに賛同してくれるアーティストはここで1枚出して、それと同時にネット・レーベルでリリースしてもいいしっていう。

橋元:結社みたいなものですか?

セイホー:そうですね。いや、投稿サイトみたいな感じなんですけどね(笑)。

橋元:あー、なるほど。

なるほどね。インディ・レーベルっていうのはそういう側面があるのは事実だしね。ちなみに、自分たちのレーベルの音のコンセプトはどういう風に伝えてるの?

セイホー:音は、なるべく似通わないようにしてるんですよ。ヴァラエティがとにかく欲しいというか。たとえば、いま出してる9人でライヴやったときに、「やっぱり似てるなー」っていうのよりかは、「共通点はあるけどバラバラやな」ぐらいの感じというか。キャラ立ちしてるのがいちばんいいんで。アメコミのスーパーヒーローもんみたいな。

エレクトロニック・ミュージックって、キャラを消すか、キャラを敢えて出すかって分かれるからね。

セイホー:僕らはキャラを敢えて出すけども、タッチはアメコミ風みたいな。でも特技はみんなあります、みたいな(笑)。そんな感じにしたかったんですよ。

今回のアルバムでは、"アイ・フィール・レイヴ"って曲があるけど、そういうダンスというか、レイヴみたいなものに対しては、憧れみたいなものがあるの?

セイホー:それはレーベル関係なく、僕個人に関してはあります。というか、前のアルバムは全然関係ないんですけど、今回のアルバムに関しては、90年、91年ぐらいの『スタジオ・ボイス』とかをけっこう読み漁って作って。

全然レイヴじゃないじゃん、『スタジオ・ボイス』。

セイホー:そうですね。でも、なんて言うんですかね。セカンド・サマー・オブ・ラヴ以降のインターネットとの結びつきみたいなものに僕がすごく興味があって。うまく説明できないんですけどね。

あったっけなあ、そんなもの。

セイホー:僕のなかでいちばん印象に残ってるのは、「ヴァーチャル・セックスできる」みたいな記事で、「もうすぐヴァーチャル・セックスできる時代が来る」みたいな内容で。「この考えヤバい」みたいな(笑)。しかもそれが、僕らがいまイメージできるような、SNSで知り合って物理的にセックスすると言うよりは、「ここに突起があって」みたいな(笑)。

ははははは!

セイホー:「それが向こう側に動いて」みたなことをマジメに語ってて(笑)。「これ、すごい!」と思ったんですよね。

なるほどね。それはね、たしかにあった。ちょっといかがわしいニューエイジがあったんですよ。

セイホー:あ、そうそう!

なぜか知らないけどイルカがいたりとかさ(笑)。なぜか知らないけどそれがエコロジーに繋がったりとかね。

セイホー:ああいうネット・レイヴ感っていうか。いまで言うシーパンクみたいなものっていうか。

あれは半分は山師的なものだけどね。

セイホー:(笑)まあそうですね。そういうのがちょっと面白かったっていう。

なるほど、もう、だいぶわかってきたね(笑)。〈デイ・トリッパー〉はさ、ベルリンのレーベル、〈プロジェクト・ムーンサークル〉みたいな、ああいう雑多な感じというか、ハイブリッドな感じというか......大量の情報量をインプットして放出しているじゃない? この感覚っていうのは、意図して生まれたものではない?

セイホー:うーん......これはむっちゃ難しいなあ......。

『アブストラクト・セックス』にだって、コーネリアスの『ファンタズマ』じゃないけど、ひとつのスタイルを極めるというよりも、いろんなものの収集というか。R&Bもあるし、ジェイムズ・ブレイクもあるし、マウント・キンビーもあるし、みたいな、情報量の多さをいかに咀嚼するのかってところにも面白さを感じるんだよね。しっかり整理されているっていうか。

セイホー:はいはいはいはい。その、ハイブリッドを敢えて意識したわけじゃなくて、作り手として言えることは、音色(おんしょく)には時代性があって、リズムにはたぶんジャンルというか、元の持ってるものがけっこうあると思うんですよ。元々の人間が持ってるものというか。で、僕のなかでは、その両方は捨てれるんですよ。音色とかビートとかは僕のなかではどうでもよくて、僕がこだわってるのは、それ以外の構成要素なんですよ、音楽の。

へえー。それは面白いね。なんで音色がどうでもいいの?

セイホー:音色は時代性がすごく反映されてるんで。

それでシンセの音なんかは、ハドソン・モホークみたいに、わりとベタな感じなんだ?
 
セイホー:そうですね。プリセットっぽい。

プリセットっぽい、デジタル音色を。

セイホー:そうなってるんですよね。それよりも、その曲をキーボードで弾いてカッコいいかどうかとか、アカペラで歌ってカッコいいかどうかとかのほうが重要で。

ていうのは、譜面に置き換えたほうが重要だということ?

セイホー:そうですね、譜面に置き換えたりとか、あと、女の子が1回聴いたら覚えれて、そのあと、インストやのに口ずさめるか、みたいなことが僕のなかではけっこう重要だったんですね。

橋元:着メロサイトに戻っていく感じですね。

セイホー:(笑)

アルヴァ・ノトとかはさ、まさに音色な人じゃない? フェネスとかさ。グリッチなんだし。

セイホー:そうですね。でもあの音を、たとえば2015年とかに通用させようと思ったら、音色は置換可能な感じがするんですよね、僕のなかでは。

それ以上にもっと重要なものがあるってこと?

セイホー:音楽においては。それが置換されても、そのアーティストってわかるものじゃないと、ダメじゃないかなっていうのが僕のなかで強くあるんですよね。

ある種のポップな感覚っていうもの?

セイホー:そうですね。

フェネスとかアルヴァ・ノトみたいなものだと、ちょっとマニア向けみたいな感じになるというか、良くも悪くもだけど、ある種の頭でっかちが生じるというかね。そういうものに対する違和感みたいなもの?

セイホー:それもありつつ、ですね。それがすべてじゃないですけど。

なるほど、エレクトロニック・ミュージックの場合は、実験と大衆性みたいなもののバランスってところを往復している感じがあるもんね。どっちかに振り切れようとは思わなかったんだ?

セイホー:僕が振り切れるのが嫌いやったんですよね、たぶん。なるべくバランスを取りたいっていうのがいちばんですね。僕のなかでは。

バランスが取れてるなって思う人を何人か挙げるとすると?

セイホー:難しいなあ......。ベタなところでいくとジェイムズ・ブレイクとか。

ジェイムズ・ブレイクはどこが好きなの?

セイホー:最初聴いたときに、焼き直しでしかないと思ったんですよ。僕のなかではドゥウェレとか、ああいうレイドバックR&Bの方法論を、そのままイギリス人のポップに置き換えたらああなるんやろうな、みたいな。

おおー。ドゥウェレなんだ。なるほどね、普遍性というか、もっと真っ正面なところで。

セイホー:だから重要やったところは、リズムとか、ビートやったんじゃなくて、ジェイムズ・ブレイクが歌いたかったことが重要やったんかな、みたいな。

それでも、"CMYK"とかはそれなりにカッコいいと思わなかった?

セイホー:思いました、思いました。"CMYK"はビックリしましたけどね。

でもああいうサンプリングは嫌いなんだよね(笑)。

セイホー:いや、だからそれもバランスで、いまはサンプリングが8割ぐらいは好きなんですけど、2割ぐらいの葛藤がずっとあるというか。

バランスを取ろうとするあまり、すごく凡庸なものになってしまうリスクもあるじゃない?

セイホー:あります。そこで僕はずっと悩んでて、やっぱりポップで焼き直しでしか存在できないじゃないですか。既知感というか、聴いたものがものがやっぱりポップになっていくから。けども、音楽やっている以上聴いたことのないものを目指さないといけないんで、そこのバランスの葛藤ですね、ずっと。聴いたことないのに懐かしく思わせたり、誰も聴いてないのに1回聴いただけで頭に残って覚えられる、みたいなものをどうやって模索するか。ということがやっぱり重要ですかね。

取材:野田 努(2013年6月20日)

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