Home > Interviews > interview with Soggy Cheerios - 生まれ直すロック
ふたりでザ・バンドのセカンドみたいな、あのべードラの軋み、床鳴り感がほしいというのははじめからいっていたね。それが音楽だから。(鈴木)
ソギー・チェリオス 1959 Pヴァイン |
■おふたりが原風景として共有しているものは当然ありますよね。
直枝:あるある。新築の家の棟上げ式にみんなで行って、上から投げたお菓子とかお餅を拾うとかね。
鈴木:それが1曲目("ロックンロールが空から降ってきた日")の「空から紅白の餅が降ってきた」なんだよね。
■あの一節はレトリックではなくて、棟上げ式なんですね(笑)。
鈴木:なんで棟上げ式の話を直枝くんとしたのかは憶えてないんですけど(笑)。
直枝:でも僕がお餅好きだというのを彼は気に入ってね。
鈴木:お正月にさ、50個くらい食べたって話を聞いて。
直枝:そんなに食べたら死んじゃうよ(笑)。12個くらいだよ。一食でね。
■それもすごいですね(笑)。
鈴木:次の日も食べるんだってさ、12個。さすが大食漢と思ったんだけど、僕はお麩が好きだよ、と言ったの。お味噌汁にしみじみになっているやつがね。それで「お麩」と「お餅」みたいな言葉が歌詞に入るんですね。
直枝:今回、ふたりでつくるにあたって、まず詞のやりとりからはじめたんです。
鈴木:全部詞先なんです。
■そうなんですね! 楽曲のクレジットが気になったんですけど。
鈴木:みんなそういうね(笑)。
直枝:共作です。共作にしたんですね。
■全曲ですか?
直枝:自分が投げたアイデア、キーワードを受けたひとが曲をつくるというふうに決めたの。
鈴木:レノン=マッカートニーですよね。詳しいひとが聴いたらどっちに主導権があるかわかるかもしれないけど、クリエイティヴの部分でほんとうに僕と直枝くんは共作したので、クレジットとしてはソギー・チェリオスで正しいということですね。印税も山分けだ!(笑)。
■ナマナマしい話ですね。
鈴木:ハハハハ。
直枝:投げられた歌詞のアイデアをもとに楽曲をまとめたほうが歌う。
■カラーはあると思いますけど、共作なんですね。
直枝:共作にすることの色を出したいんですよ。
■その作業はいうは易しですけどけっこうめんどくさい気がしますね。
直枝:最初はとまどいましたよ。メールのやりとりで、あえてスタッフの横尾さんにもCCを入れるんですよ。
■客観性を出すために。
鈴木:M的な気持ちだよね。
直枝:そうしたら、惣一朗くんが猪の歌を書いてきたりして。俺、猪の歌なんてどうやってつくればいいのよって思った。
鈴木:「ネーウシトラウータツミー」で、おもしろい歌をつくってくれよと思ってメールするんだけど、直枝くん真面目だから。
直枝:「タツミー」だけじゃ曲になんねえなって、「Touch Me」を加えたのは俺だよ。
鈴木:ザ・フーの「See Me Feel Me Touch Me」("We're Not Gonna Take It")みたいなね。
直枝:それでロックになるんだよ。
鈴木:ちょっと切ない曲になって、僕が思っていたのはちがったけど、それは化学変化が起きたってことだからね。
■こういう感じの曲をつくろうという参照のようなものは――
鈴木:それだとおもしくないから固有名は話さないようにしたの。曲調が明るいとか暗いとかも話してない。だからそれがどうなるのかわからない。
直枝:惣一朗くんはまっさきに4曲あげちゃったんだけど、俺のもらったお題は餅とかお麩とか猪とか、とんでもないものばかりだったからね。
■惣一朗さんはすぐに書き終わったんですか?
鈴木:すぐ! テレビみながら(笑)。ものすごく不真面目にやっていたの。不真面目っていうとなんだけど、構えたりしないようにしていた。みんな僕が直枝くんとやるとなると、すごく凝った、ニッチなポップ、『ペット・サウンズ』みたいなのつくるのかなって思われるじゃない?
■そう思うのが普通ですよね。
鈴木:最初に直枝くんといっていたのは、すごくシンプルにやるということだったんです。いい曲を書きたい気持ちも捨てたいって、僕たしか最初の段階でいったんだよ。だからテレビみながら歌詞を書いたり、直枝くんがみたら怒りそうなつくり方をした。
直枝:怒るよ(笑)。
■最初にアイデアを投げかけるほうは勇気が要る気がしますね。
直枝:惣一朗くんが最初に投げてくれたから助かったんだけどね。
鈴木:ただ信頼関係がないとそんなことできないし、(歌詞を)変えてもいいよ、と直枝くんにいってもらって。詞先だと一文字でも変えるとブーイングが出るひともいるし、リミックスみたいにシャッフルしたりなかなかできないんですけど、それもアリにしたんですよ。それはこの年齢とスキルがあったからできたといまは思えるし、もし10年若かったらもっとぶつかったと思う。「ああおもしろいね」とお互いいえるまで30年が必要だったかもしれない。そう考えると、これはいいタイミングでいっしょにやったんだなと思った。いくらでもこれまでやる機会はあったけど、2013年だからこういう内容になったし、こういう共作のスタイルになったんだと思う。
■レコーディングはどんな感じで進めたんですか?
直枝:スタジオに入って、いきなりドラムをセットして「じゃあやろうか」って。
■スタジオはどちらだったんですか?
鈴木:目黒倉庫っていう武蔵小山にあるスタジオで上が葬儀屋で、その下のスナックを改装したスタジオですね。
直枝:地下でブースが一個しかない。
鈴木:そこは、アノニマスっていうグループがあるんですけど、そのバンドの山本哲也くん所有のスタジオなんですよ。
直枝:アップライトが置いてあってね。
鈴木:それとパールのボロボロのドラムが置いてあるだけであとは何もないの。そこに機材をもっていった。で、アコギを弾きながらドラム叩いたり、クリックとアコギを入れたり、まずそういうトラックを最初に録って。
直枝:それでベーシック録ったら、「直枝くん、ベース弾いて」って言うわけ。俺人前でベース弾かないんだけど(笑)。なんだろうなこいつと思いましたね。
鈴木:ガンガン弾いてほしかったのよ。直枝くん、おもしろいベース弾くからさ。ギターみたいに弾くから、ポール系なんですよ。ベースをチョーキングするんだもん。
直枝:いいじゃん(笑)。
鈴木:それで4リズム、ピアノ、ベース、ドラム、ギターと歌ができて、そこにコーラスを乗せた......だけのすごくシンプルなつくりなんだけど、聴いたらすごく完成されたものにきこえたんですよ。僕は80トラックとか積むプロダクションをすることもあるし、静かな音でも比較的(トラックを)積む方なんだけど、今回は12トラックくらいでけっこうできちゃっているんですよね。それで夕方にはお蕎麦屋さんに行っていた。
■ちゃきちゃち録っていったんですね。
直枝:早いんだもん。この人休まないのよ。
鈴木:で、休めって怒るわけよ。働いていて怒られたのはじめだよ(笑)。
直枝:プレイバックも聴かないんだもん。
■なぜ聴かないんですか?
鈴木:わかっているからですよ。僕はプレイバックはここ10年くらい聴かないし、録っているときにOKだってわかっているから。みんなプレイバックで確認するけど、あれ時間のムダですよ。
取材:松村正人(2013年7月19日)