Home > Interviews > interview with Washed Out - 夏が終わってしまう前に
僕は、もちろんいまでも新しい音楽はネットで追いかけてるんだけど、ある意味クリエイティヴな距離を置こうともしてるんだ。トレンドってことで言えば、フランク・オーシャンとか、ドリーミーでありながらR&B寄りのサウンドがある。いまは、そのへんのサウンドをやってる面白い人たちが大勢いると思う。
Washed Out Paracosm Sub Pop/よしもとアール・アンド・シー (8月7日発売予定) |
■『ライフ・オブ・レイジャー』のような音楽は、当時のリーマンショックと、直接的ではないにせよ、少なからず何らかの関係があると思いますか?
アーネスト:当然外の世界と関係してた。もちろん、全部僕個人の経験をフィルターにはしてるけど。だって僕はあの当時大学を卒業して、不況で職が見つけられなかったんだよ! 実際、タイトルの『ライフ・オブ・レジャー』もちょっとしたアイロニーのつもりだったんだ。僕は実家に戻って親と住みながら、"ライフ・オブ・レジャー=悠々自適の生活"を過ごしてたんだから。それが5年も続いた。家賃も払わずにすんで、すごく変な感じだったな。大人になったのに、何もやらずに親と同居して、気楽ではあるんだけど、同時に......まともな大人になれてないという後ろめたさもあった。
罪悪感があったんだよ。あのレコードの歌詞はそれについてだしね。でも音楽的には、僕はずっとああいうフィーリングの曲を作ってきたと思う。そこは僕の直感的なものっていうか、喜びと悲しみの中間、何も起きてないけどオプティミスティックな感覚はある、みたいな――僕がいまあのレコードを聴くと、そういうフィーリングが聞こえるんだよね。
■興味深いのは、ちょうど『ライフ・オブ・レイジャー』の頃から、ドリーミーで、逃避的な音がいろんなところから聴こえるようになったことです。これを時代の隠された声として捉えることはできると思いますか?
アーネスト:うん、できると思う。僕がやっていたことと似ていることをやってたバンドがいくつかいて......コンセプト的に同じようなものがあって、それを音楽にしていた。ちゃんとした理由は答えられないんだけどね。いくつか思い浮かぶのは......ひとつは当時テクノロジーにおいて、レコーディングができるセッティングが手に届くようになったこと。しかもそのレコーディングの方法が以前とは違ってた。テープや高価なスタジオを使わない、コンピュータでのレコーディングだね。そのことが曲作りにも影響を及ぼしてたんだ。そこは大きかったと思う。ネオン・インディアンやトロ・イ・モアみたいな人たちを考えると、僕らはみんな同じツールを使ってたし、みんな同世代で、たぶん似た音楽を聴いて育ってきてて。そこが一番大きいんじゃないかな。コンピュータ・テクノロジーの側面が。他の人たちにもその質問訊いてみたら面白いだろうけど。
■とくにアメリカでは、こういうドリーミーな音は、ウォッシュト・アウトが出てくるまで、あまりになかったと思います。しかし、この2年、欧州のインディ・シーンでもドリーミーな音が目立っています。あなたに近いテイストをもった音楽で、共感できるアーティストはいますか?
アーネスト:それはいま挙げたような人たちだよね。新しいバンドで言うと......難しいな。僕は、もちろんいまでも新しい音楽はネットで追いかけてるんだけど、ある意味クリエイティヴな距離を置こうともしてるんだ。トレンドってことで言えば、フランク・オーシャンとか、ドリーミーでありながらR&B寄りのサウンドがある。ああいうのが去年すごく人気になったよね。うん、フランク・オーシャンをはじめとして、そのへんのサウンドをやってる面白い人たちが大勢いると思う。
ただ個人的にはもうちょっと古いレコードを聴いてるんだ。とくにこの新作はいま出てきてる新しいアーティストより、古いレコードのほうに影響を受けてる。新しい音楽に関しては、僕はDJをよくやるんだけど、そのときはもっとダンス・ワールドにプラグインしてるんだ。プールサイドっていうバンドはすごくいいと思う。面白いサウンドを持ってて、よくあるクラブっぽいサウンドのダンス・ミュージックじゃない。もっとスロウで......この前のレコードはすごく好きだったんだ。ただ、このレコードの大きな影響のひとつにヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』があって。それってダンス・レコードからものすごく飛躍してるんだけど(笑)。だから自分としては今回、純粋なエレクトロニック・ミュージックとは違うサウンドの音楽に興味を持ってたんだよね。
■あなたの音楽は初期の頃から、「戦わずに逃げよ」と言っていますよね? なぜそのような思いにいたったのでしょうか? とても興味深い反応だと思います。
アーネスト:その通りって気がするな。理由はわからないけど。僕は根っからのデイドリーマー、夢想家なんじゃないかな。生まれてからずっとそうだったし......いや、僕は大好きなことをやってるし、別に自分のミジメな存在から逃げだしたいってわけじゃない。それでも、本能的にそういうところがあるんだと思う。僕はきっと理想主義者で、ロマンティックで......僕の音楽から"エスケーピズム=逃避主義"っていう言葉を受け取って、それをネガティヴに考える人が多いんだけど、僕からするとアート自体がユートピア的なものなんだよね。日常の生活、いまここにおいてはすべてがパーフェクトってわけにはいかないかもしれないけど、なんであれ白昼夢として夢想することはできる。とくにこのレコードは全部それについてなんだ。頭のなかのもうひとつの世界、白昼夢、オルタナティヴな現実――なんて呼んでもいいけど。
■トールキンやルイスの『ナルニア物語』のようなファンタジー小説をあなたが好む理由は何でしょう?
アーネスト:えーと、実際そういう本は読んでるし、ファンと言ってもいいけど、そういう物語が大好きだとは言えないな。でもファンタジーっていう言葉を聞くと、そういうものがまっさきに思い浮かぶ。一番先に思い浮かぶ世界がルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』だったり、トールキンの中つ国だったり。ただ、必ずしもこのレコードの制作時にそういうものを考えてたわけじゃなくて。むしろ、もっと現実的な世界をユートピア的視点から見てるっていうのかな? 別に動物がふわふわ浮かんでるとか、そういうんじゃないんだ(笑)。いま起きてることのもう少し良いヴァージョンなんだよね。
僕、これが最初のインタビューだから、あと何度かやればもうちょっとうまく説明できるんだろうけど......。とにかく僕は毎日作業を続けてたんだけど、どんなアーティストでも作家でも、長い間ひとつの創造的空間を生み出そうとしてると......あるポイントにくると、もう問題は「ウォッシュト・アウトにとって意味が通じるか?」ってことじゃなくて、「自分が作りだしているその空間にとって意味が通じてるか?」ってことになるんだ。うまく言えないんだけど、僕にとってはその思考が興味深かった。その結果、2年前なら使わなかったような音楽的アイデアをたくさん使うことになったしね。頭のなかの空間で生きてるような感覚、創造的世界が存在してて、『どうすればこれを描きだせるだろう?』って感じだった。僕にとってこのレコードのサウンドは全部それなんだよ。とても温かくて、視覚的なサウンドで......ハープを多用してるよね? あのクラシックなハープ、グリッサンドっていうんだけど、あれは僕にとって夢の状態をリプリゼントするサウンドなんだ。初期のディズニー映画なんかでよく使われてる音なんだけど。とにかくそういうテキスチャーが、僕なりに自分が作りだそうとしていた世界を描きだしてるんだよ。
取材:野田 努(2013年7月26日)