Home > Interviews > interview with BORIS - 往復するノイズ
やっぱりある種、向こうのロックの歴史の流れにはまっちゃっている部分がある。でもツアーに出れば出るほど自分たちが「うわっ、超日本人だなー」みたいに思うこともやっぱりある。それを僕らなりに消化したというのが『New Album』だったんですけど。(Atsuo)
■メジャーからの初リリースとなった『New Album』からJ-POPやJ-ROCK、ビジュアル系やアニソン等の“J”を全面的にフィーチャーしたものとなりましたが、それはやはり前述の欧米におけるボリスの捉えられ方を破壊したいという欲求だったのでしょうか?
A:そうですね。やっぱりある種、向こうのロックの歴史の流れにはまっちゃっている部分がある。でもツアーに出れば出るほど自分たちが「うわっ、超日本人だなー」みたいに思うこともやっぱりある。行き来しているからこそ見えてくる日本のカルチャーの面白さもある。それを僕らなりに消化したというのが『New Album』だったんですけど。根底には、いかにバンドっていう概念を捨てていくかっていうようなアーティストとしてのヘヴィさがあった上で、エクストリームに「ポップです」というところに向かっていった。ノイジーなまでにね。たとえばこの〈エイベックス〉が築き上げてきたような、アーティスト主導ではなくて企画先行で生まれる音楽であったり、デザインとしての音楽、そういうところにピントを合わせた作品でしたね。
N:ちなみに海外へ行って向こうのジャーナリストによく訊かれる質問とかってありますか? 日本ではあまり訊かれないような。
A:次は誰とコラボレーションしたいですか? って絶対訊かれますね。それは何か変なんですかね?ボリスのスタンスは(これまでのコラボレーション相手にサンO)))、メルツバウ、灰野敬二、ザ・カルトのイアン・アストベリー等)。
■いや、僕はそこはいろんな意味で気になりますよ。僕の認識ではボリスは大きなバンドなんですけど、それでもたとえば細かいスプリットのリリースが絶えないじゃないですか。ボリスの規模のバンドになるとそういった形でのリリースはやらないバンドも多いですし、また、失礼かもしれませんがコラボレーションの相手もけっして有名なアーティストでない場合が多かったりとか。そのあたりにこだわりを僕は感じています。このあいだのJマスシスのレーベルからのヒープとのスプリット7インチしかり。
A:バンドの規模が大きくなっていくとコントロールしづらくなることもやっぱり多くて……もう、本当にめんどうくさいですよね、昨今のリリースに関する実務量は。
(一同笑)
A:CD作って、ヴァイナル、僕らの尺だと絶対2枚組になる。そしてデジタル。海外リリースでは、デジタル・ダウンロード用のジャケットをつくるのも当たり前なので、ジャケットだけでも3種類作らなきゃならないし、マスターも3種類。とにかくどんどんめんどうくさくなっている。
(一同笑)
N:それぞれのニーズがありますからね。
A:そういった中で、すべて自分たちでハンドリングできたり、フッと出せる、作ってすぐ出せるというようなものが、やっぱりどうしても欲しいんですよね。そのスピード感というか。曲作って、レコーディングして、出して、もうお客さんの手元にある、みたいな。もちろんダウンロードとかネットで共有するのではなく、形あるものでね。実際ヒープとの7インチも僕らまだ持ってないですから。
(一同笑)
■あの7インチはボリスからアプローチしたものなんですか?
A:あれはJからのオファーです。アメリカ・ツアーの際に僕らのサウンド・エンジニアとしてついてくれているノエルっていうお爺ちゃんがいて──ジミヘンを3回も観たことある人。
■すごいですね。
A:当時クリームも13thフロアエレベーターズも、バブルパピーも観たことあるって、ロックのバイブルみたいなお爺ちゃんなんですけど、彼はダイナソーJr.のPAもやっていて、先に「ヒープってバンドがノエルのことを歌った曲を作ったから、ボリスもなんかノエルのことで曲書いてみてよ」って言われて、それで。
■ジョー・ヴォルクはどこで?
A:ジョー・ヴォルクはポーティスヘッドの〈ATP〉に出ていた。彼のライヴがすごく良くて。
T:僕らと同じステージの出演だったんですけど、サウンド・チェックでの彼の音と歌がとにかくすごくて、なにこの人みたいな。僕らそのときは彼のことを知らなくて。
A:彼のアルバム、じつはジェフ・バーローがプロデュースやっていたりするんですけど。そのライヴのときに声をかけて話したりして、それからですね。本当のところ、顔が見える関係性の中でリリースとか作品づくりとかをやっていけたら楽しいですね。
昔から聴いてきてくれているようなお客さんは、相当耳が肥えている方々なので、表層がどんなものであろうと「ボリスはやっぱりボリスだよね」って言ってくれる。(Atsuo)
N:でもあれですよね。成田さんというプロデューサーをつけて〈エイベックス〉から出したということは、それまでのボリスのイメージを更新するといった意味合いがあったとおっしゃっていましたが、以前お話したときに、ボリスはどうしても海外のほうが比重が大きくなって、たとえば10年前に比べて海外で知名度が高い日本のバンドが増えてきたと思いますし、ele-kingで以前、アシッド・マザーズ・テンプルのインタヴューを掲載したらすごくアクセスがあってビックリして。平均して月に3000以上、アメリカからのアクセスがあるんですよね。日本の情報に飢えているアメリカ人がおそらく読んでいると思うんですけれども、そういった意味ではボリスはいまの状況の先陣を切っていったひとつだと思うんです。
以前お話したときには、海外の音楽シーンの中ではガッツリ機能しきれているのに、日本だと自分たちがいまひとつ機能しきれていないんじゃないかというようなこともおっしゃっていましたね。それもあって前回から〈エイベックス〉からリリースされていたりするわけですが、実際出してみて、前作の反応はどうだったんですか? たとえば倉本くんのようなドゥーム・メタル・ファンには複雑なものがあったと思うんですよ、正直な話。いろいろなリアクションがあったと思うんですが、そのあたりはいかがでしょう?
A:なんて言えばいいのかな。前回の『New Album』に関しては、「わかりやすすぎてわかりにくい」。担当も言っていましたけど、「わかりやすすぎて売りにくい」と。
(一同笑)
■だから、ある意味で『New Album』はボリス史上もっとも尖ったアルバムだったと思いますよ。
A:そうですね、シニカルな感じじゃないですか。べつに、すげぇ売れよう! と思ってあれを作ったわけでもないし。
(一同笑)
A:どうしても作品が批評的になってしまう。〈エイベックス〉から出すことでバカ売れするような期待も最初からなかったですし。まぁ、あれはあれで、メジャーからリリースするという部分もコンセプトの中に入れた、僕らなりの切り込み方だったんで。
N:それまでのファンからのリアクションはどうだったんですか?
■海外のファンのリアクションとかも気になりますね。
A:とりあえず、昔から聴いてきてくれているようなお客さんは、相当耳が肥えている方々なので、表層がどんなものであろうと「ボリスはやっぱりボリスだよね」って言ってくれる。『New Album』からついてくれたお客さんもいたりとかして、よけい混沌とした状況にはなっていますよ。
(一同笑)
■それはボリスが混沌とした状況を求めているというふうに捉えてよいのでしょうか?
A:はい。基本的に「いいものはいいじゃん」というスタンスでいたいので。それぞれの主観でね。
N:スタイルとかではないということですね。
■おっしゃっていただいたように、長年誰よりもワールドワイドに活動してきたボリスにしか見えない世界があるわけですが。日本と外の往来の中でボリスが再構築されつづけてゆく感覚と、その共有の繰り返しによって、つねに世界も更新されていくということでしょうか。
A:そうですね。もちろんアルバムだけの評価ではなくて、ツアーであったり、ライヴであったりがバンドとしての説得力であると基本的には思っています。
『New Album』まではバンドっていう概念をとにかくブッ壊すみたいなことをやってきた。徹底的にやったので、今回はちょっと肩の力を抜いて普通のバンドっぽく3人で……そういえば3人でインタヴュー受けるのは何年ぶりだろう。(Atsuo)
■成田忍氏との制作がエクストリームな形で表れた『New Album』から継続するような形で、前作『praparat』での共同作業、そして今作『NOISE』へと至ったわけですが、『New Album』と比較すると、今作『NOISE』は成田氏のエッセンスがボリス本来のサウンドに自然に落とし込まれている気がします。はじめに成田氏に仕事を依頼するに至ってから今作まで、共同制作を積み重ねていく中でお互いのヴィジョンの変化はありますか?
A:そうですね、『New Album』の時点では成田さんはそこまで僕らのことを理解していたわけでもないし、でもだからこそ良かったというか。
■その状況だからできたことって意味でしょうか?
A:そうですね、あの作品はね。成田さんはリリース後もほとんどのライヴを観に来ていただいていて。ボリスのツイン・ギターというかベースレスになる編成に着目してくれていたり。成田さんなりのボリス観みたいなものを更新していただいて。その間にジョー・ヴォルクの12インチとアソビ・セクスとのスプリット、デッド・エンドのトリビュート等も一緒に制作させていただいて、次々に新しい関係の仕方が見えてきました。で、『New Album』のときは〈Peace Music〉のエンジニアの中村さんがぜんぜん噛んでいなかった。その当時からバンドと成田さんと中村さんの三角形でやれたらいいんじゃないかなーと思っていたんですよね。『New Album』まではバンドっていう概念をとにかくブッ壊すみたいなことをやってきた。徹底的にやったので、今回はちょっと肩の力を抜いて普通のバンドっぽく3人で……そういえば3人でインタヴュー受けるのは何年ぶりだろう。
(一同笑)
A:まだ一言もしゃべってない人がいるけど(笑)。
W:こういった現場に馴れていないので……。
取材:倉本諒、野田努 写真:小原泰広(2014年6月20日)