Home > Interviews > interview with Jun Togawa - 非常階段とのコラボレイト『戸川階段』について語る
今年の初めにリリースされた、非常階段と戸川純とのコラボレーション・スタジオ・アルバム『戸川階段』。本作をめぐる戸川純へのインタヴュー後編を公開! 7月20日には、その『戸川階段』発売記念ライヴ(2016年2月21日)の実況録音盤もリリースされる。詳細は記事の最後にて。前半部分は「1」よりどうぞ。
コラボしたら、もれなく「ナントカ階段」というネーミングになる、と思いこんでいたんです。
■レコーディングは具体的にどのように進められたんでしょうか?
戸川階段 |
戸川純(以下、戸川)::まだ、レコーディングすると決まってなくて、非常階段さんのライヴにゲストで出て数曲歌ったときの、その感じをベースに、非常階段さんがノイズが全部入る前のオケを作って、それを聴いてからわたしが歌入れして、そのあとギターその他のノイズをさらに足した、と記憶しています。もしかしたら、ギターその他のノイズは全部入ってたのかな? ミックス前だったから、オケを若干下げてくださってて、ノイズが本チャンより少なかったという印象だったのかもしれません。あとはミックスに立ちあって、大まかなところや細かいところ(ヴォーカルをけっこう埋もれさせてもらったり、エフェクトかけたり)を調整した、という感じですね。
■ちなみに「戸川階段」というネーミングはどうやって決まったんでしょう?
戸川:わたしは友だちから数年前に、the原爆オナニーズとスターリンと非常階段で「原爆スター階段」というのがあると聞いたことがあって、その後初音ミクとの「初音階段」というネーミングも知って、「BiS階段」はもちろん知らされまして、コラボしたら、もれなく「ナントカ階段」というネーミングになる、と思いこんでいたんです。そうでないのもある、と後から知ったのですが。そういう訳で、ゲストに呼んでいただいたわたしが非常階段さんのライヴで数曲歌ったときMCで、冗談のように、JOJOさんに「今度やる? 戸川階段(笑)」と言って、それが本当に実現してしまったのでした。戸川階段て語呂もいいし、ほんとに冗談のつもりで言ったのですが、あのとき、ポロッとそう言ってよかっなあ、といまはしみじみ思います。本気ととられてたら、わたしってすごく生意気! って感じがしたと思います。だけど時として、他愛ない冗談が、幸せな現実を呼ぶこともあるのだなあ、という感じがして、JOJOさんには感謝の気持ちでいっぱいです。
■一か所だけやり直すとしたらどこを変えますか?
戸川:歌ものですが、ライヴ感というか、インプロヴィゼーション感が強いので、直すところはあまり浮かびませんね。もちろんパーフェクトでは、ぜんぜんないのですが、直したいところはとくにないですね。戸川階段は、全体を引きで見るというか聴く感じなので、そうなるのかもしれません。それに、非常階段さんの演奏の、インプロヴィゼーションの要素を多分に含んだ感じに合わせると、ヴォーカルも、スタジオ録音であってもライヴ感があったほうがマッチングがいいとも思うし、多少荒削りでも流れを大事にしたいから、ヴォーカルで直したいところはとくにはないです。
わたしは、ヤプーズの演奏をクールだと思ったこと、ないんですよ。曲によりますが。基本、わたしとともに感情が渦巻いてる、と思ってて、だからいっしょにやっててほんとに相性良い、って続けてられてきたし。
■ヤプーズは演奏がクールで歌がエモーショナルという対比があったと思いますけど、戸川階段は演奏も歌もエモーショナルで、歌いにくくはなかったですか? 戦いながら歌ってしまうとか?
戸川:わたしは、ヤプーズの演奏をクールだと思ったこと、ないんですよ。曲によりますが。基本、わたしとともに感情が渦巻いてる、と思ってて、だからいっしょにやっててほんとに相性良い、って続けてられてきたし。とくに90年代のヤプーズは、インダストリアル系のガシガシの音デカい系で、それでわたしも、イヤモニして、デカい声で、ほとんど全編叫んでました。おのずとパンク色が強いヴォーカルになって、お客もわいてくれてたので、喜んでいてくれてると勘違いしてて──やっぱりヤプーズのヴォーカルはこれがいちばん合ってる、と思っていて、きれいな声がもう出なくてもいいや、みたいにも思ってたんですが、ネットで「もはやデスヴォイスしか出なくなった戸川に、未来はない」って、けっこう書かれて、あれっ? なんて思いました。ネットのカキコミなんかで芸風を変えるなんて愚かなことはしませんが、あれから数年、ブランクもあって、声のリハビリをしてるので、わたしの歌手生命の基本に戻ろう! と思い、いまは、デス・ヴォイス(パンキッシュながなり声)はライヴの終盤に持ってって、なるべくきれいな声で歌うようにしてます。
ヤプーズの曲は“肉屋のように”にしても“ヴィールス”にしても“赤い戦車”にしても、曲先で、この曲につりあう歌詞なんて、わたしに書けるだろうか? そして、そんな曲をわたしが歌えるだろうか? と不安になったくらい、ヤプーズの曲や演奏も、エモーショナルなものもたくさんあるんですよ。わたしがどうしても派手に見えるから、ヤプーズがクール、って思われちゃうんじゃないかな。まあ、演奏は、たしかにカッチリしてるかもしれませんね。クールというのとは ちょっと違うとは思いますが。
非常階段さんは、ノイズなのでかなりグチャグチャにするから、パンク色が強いので、闘うどころか、わたしの声はかき消される感じなので、JOJOさんの言うように、非常階段さんといっしょだと、声もノイズなんだなあ、とやっぱり、ここでも思いますね。戦いといえば、火花を散らしながら演ってて、結果成功! というのは、かつてのゲルニカが、むしろそうだったんじゃないかな。
わたしは、流行りを追うとそのあと絶対古くなる、と思ってたから、追わないできたので、いまの若い方々にも聴いてもらえるのかな、と思います。
■“好き好き大好き”がカヴァーされたこともそうなのかもしれないですけれど、新しいファンも増えていると思います。以前とは歌詞の受け止められ方が変わってきたと感じますか?
戸川:ぜんぜん変わりましたよ、お客さんもファンの方全体も。若いお客が、ほんとに増えましたね。ありがたいことです。わたしは、流行りを追うとそのあと絶対古くなる、と思ってたから、追わないできたので、いまの若い方々にも聴いてもらえるのかな、と思います。
わたしと同じくらいの歳の方々ばかりだと、青春のメロディとか青春の懐メロみたいなライヴになっちゃうから、若いお客が聴いてくださるのは、ほんとにありがたいことです。もちろんわたしと同じくらいの歳のお客も大事にしなきゃ、とは思ってはいるんですよ。ここまでわたしを育ててくださったのだから。
でもね、昔は酷かったですよ。ファンクラブで、日本戸川党というのがあったのですが、当時わたしは曲に合わせた衣装を一生懸命考えて、巫女さんやランドセルの小学生やトンボのかっこをしてたんですが、戸川党に寄せられるファンレターの多くが、とにかく奇抜な衣装を、と、純ちゃん次は大魔神の扮装やってーとか、もうめちゃくちゃでしたね。曲なんて聴いてくれてないんだなーという感じが、ライヴでもしてましたし。スタッフからしてそうでしたしね。広いキャパでやってたとき、アンコールの“レーダーマン”で、まったくきいてなかったのですが、色とりどりの風船がほんとにたくさん落ちてきて、その広いステージの床を埋めつくしまして、社会派な曲なのに、こんなファンシーな演出して!! と、悔しくて悔しくて、風船を一生懸命割りながら踏んづけて歌いました。それはそれで絵になっちゃったみたいで、でも踏んづけないと、可愛い感じになっちゃうし、手の施しようがなかったんです。まだバック・バンド的扱いになってたヤプーズが、本番前に、舞台監督たちがたくさんの風船を膨らませてるのを見て、純ちゃんには内緒だよ! と楽しそうに口止めしてたそうで、風船が降ってきてステージを埋め尽くすことを、間違いなくわたしが喜ぶ、とニコニコしてたという様子だったそうです。お客はその演出を喜んだにしても、ばっかじゃねーの! と思ったにしても、どっちに転んでも哀しくなりました。他にもたくさんたくさん、いまと違うところはありますよ!
あとは、わたしはいまヤンデレとかマジ基地とか言われることが多いのですが、昔より、ライヴ・パフォーマンス的にまともになったと思うのですけどねえ。歌うことを主体に精進していて、新しい曲はまだ少ないから、昔は興味深いと言われた曲が、いまは病んでると言われてしまったり。でも、大魔神のかっこしてーとかばっかり言われてたときより、いまのお客さんは、ちゃんと曲を聴いてくださってるみたいで、暖かみを感じますね。
不思議少女、というのは皮肉にもわたしの造語なんですよ。80年代前半に書いた本の中に出てきます。苦手な女の子のタイプとして。まさか自分が不思議少女とか不思議ちゃんとか言われるとは、思ってもみませんでした。
■戸川さんが自分のことを「不思議ちゃん」ではなく「説明ちゃん」だというのは、自分や自分が考えていることをわかってもらいたいという気持ちから出ていると考えていいでしょうか。
戸川:わかってほしいと思うというより、わたしやわたしの歌の内容は本当にわかりやすいものだ、と思ってるんです。「不思議ちゃんではなく、むしろ説明ちゃんと言われたほうが、人はなるほどーと思う」というか。不思議なところは、ひとつもないんじゃないかな、という自覚から、わたしは自分のことを不思議ちゃんとはどうしても思えないもので。それでもわたしを不思議ちゃん、と呼ぶ人は、わたしとは「不思議ちゃん」の定義が違うのかもしれませんね。そういう人が言う不思議ちゃんて、どういう意味の類いなんだろう。わかりませんねえ。ただ、わたしにも定義するところがあって、自我が肥大してて、でも逆にそれを表に出さず、意味不明な言動で神秘的に見せてる女の子、って感じかなあ。とにかく関わりたくないタイプです。ちなみに、不思議少女、というのは皮肉にもわたしの造語なんですよ。80年代前半に書いた本の中に出てきます。苦手な女の子のタイプとして。まさか自分が不思議少女とか不思議ちゃんとか言われるとは、思ってもみませんでした。
■(笑)今回、再レコーディングされた“ヴィールス”の歌詞は、「説明ちゃん」というよりまるで小説のようですが、これは自分を客体視した表現と考えていいでしょうか(「拒否感や嫌悪感を/ひとが私にいだいたとき/驚異的な感度で察知しそれをエネルギーに/吸収して増殖する/人忌み嫌うべき私に巣食うヴィールス」)。
戸川:書いた当時は客体視とは思ってなかったのですが、そういうフシはあるなあ、という感じだったし、わたしの歌詞は、自分にその要素がまるっきりないとどれも書けないので、少なくとも当時は、嫌だけど自分の中にもあった要素で書いたのだと思います。“ヴィールス”は、発表した当時、病んでいて苦しんでいた方々から、励まされた、というお手紙をずいぶんいろいろいただいて、わたしのほうがそれで励ましていただいたという思い出があります。そのお手紙の中のけっこうな数の方々が、“ヴィールス”のように境界例で苦しんでいる、と書いてて、病名があるのかあ、と思いました。
本当に必然性を持って、それがいちばん届く、と思って書いているんですよ。逆に、シュールに感性だけで書くことは、これまで、そしてこれからも、絶対ないです。
■戸川さんの歌詞にはそれまで誰も使わなかったような単語がよく出てきますが、これは意識的にやったんでしょうか?
戸川:それでしか表現できない、という必然性を持って書いてると、そういう印象にとられる言葉になるのです。本当に、言葉を選んで、いちばん合う言葉を使っているのです。ペダンチックととられても、もういい、という覚悟でして。たとえば、“諦念プシガンガ”という曲の歌詞に「我一介の肉塊なり」というフレーズがありますが、これが「わたしはただの肉の塊よ」という言葉では、重い覚悟とか、そのいさぎよさとか、いろいろなことが表現できないのです。この歌詞はずっと、難しい言葉の歌詞、と言われてきて、でもいちばん難解なのはタイトルではないであろうか、と書かれたことがあります(笑)。
これも、諦めの念、じゃ長いから諦念、にしたにすぎませんし、プシガンガはアンデスの言葉で、お酒を飲んで歌い踊る、という意味で、わたしの中では、ほんとにただ、まっすぐに必然性を持って、というだけなのです。ちなみに、古語でも、自分でわかっていながら間違いのままの歌詞もあります。“蛹化の女”の、「木の根掘れば蝉の蛹の、いくつも出てきし」の最後は「いくつも出てきぬ」にしたかったのですがそれだと、たぶんいくつも出てこない、と、とるリスナーがいるのでは、と思い、あえて間違った言葉を使いました。“夏は来ぬ”(なつはきぬ)という唱歌をそんなにご存知な世代ではない方々が聴いてくださるのではと思いまして。あとは、字数の問題の場合も、たまにあります。ね? 本当に必然性を持って、それがいちばん届く、と思って書いているんですよ。逆に、シュールに感性だけで書くことは、これまで、そしてこれからも、絶対ないです。でも、そういう歌が歌いたいときは、人様に歌詞を書いてもらうよう、お願いすると思います。
■最近だと“ライラック”は人が書いた歌詞でしたよね?
戸川:“ライラック”については、ほんとにラッキーでした! 人様に、書いてとお願いしたわけでなく、先方から歌うオファーが来て、デモもできていて、曲も歌詞も編曲も大好きになり、お引き受けしたのです。そこから、Vampilliaさんとのつながりができました。MVも大好きです。東京や大阪で、ゲストに何度か呼んでいただきました。“ライラック”は、元相対性理論の真部(脩一)さんが作詞作曲で、たぶん編曲もやられてたと思います。違ったらごめんなさい。というのも、ライヴでは スタジオ・レコーディングの「ライラック」や、他のわたしの持ち歌の編曲が、ぜんぜん違うものになり、10人くらいの人数のメンバーで、すごい爆音での生音の編曲にもなるもので。地獄のようだったり、天使のようだったり、というのは、わたしの歌うコーナーに限らず、楽屋のモニターやステージの袖で聴いているわたしの、いちリスナーとしての印象でもあるんですよ。わたしの歌うコーナーは、それに比べむしろメチャ、ポップに聴こえるんじゃないかな? それでも、Vampilliaさん色に塗り替えられてる感じです。すごくうれしいですね。全体的に若いのに、アレンジの力がすごくあるから、今後とも、お付き合いしたいバンドさんです。
“蛹化の女”の「ああ」と、“パンク蛹の女”の「あ~!!」かなあ。
■最近、歌っているときに、発音するといちばん気持ちいい歌詞、もしくは単語はなんでしょう?
戸川:最近歌ってていちばん気持ちがいい、というより、感情がいちばん乗っかってるんじゃないかな、と思うのは、“蛹化の女”の「ああ」と、“パンク蛹の女”の「あ~!!」かなあ。前者は、言葉では伝えきれないので むしろ 「ああ」のほうがいさぎよいのかな? 後者は、もうほんとに、自分の中の、感情の渦巻いてるいちばんのところだからかな。両方とも、歌詞ではないのがお恥ずかしいですが(笑)。
あとは、蜷川さんのこともあって、“諦念プシガンガ”が、自分の中で新鮮ですね、こんなに歌ってきてるのに。まあ、曲は生き物ですからね。
■最後にタイトルの文字はどうして戸川さんが書くことになったのですか?
戸川:タイトルの文字は、普通に、書いてください、みたいに言われて、非常階段さんとコラボした人はけっこう書く人がいると聞かされてたので、疑問も持たずスンナリ書きました。戸川が草書で、階段が楷書みたいで、邪道ですが!(笑)
■リリース情報
非常階段×戸川純『戸川階段ライヴ!』
7月20日発売(テイチク)
*1月にリリースされたスタジオ・アルバム『戸川階段』がフランスでカラー・ヴァイナルでもリリースされることに!
■ライヴ情報
10/5 札幌KRAPS HALL(ワンマン)
10/14 新宿ロフト(ワンマン)
10/21 福岡BeatStation(ワンマン)
10/27 渋谷 TSUTAYA O-EAST(イベントのゲスト)
11/16 大阪AKASO(ワンマン)
取材・文:三田格(2016年7月19日)
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