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三田格   Mar 03,2016 UP

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 YMOがピークを過ぎた頃、戸川純は、細野晴臣と高橋ユキヒロが始めた〈YEN〉レーベルから出てきたように見えたことだろう。それは間違いではないし、それによって彼女の存在を知った人も少なからずはいたことだろう。

 YMOを横目で見ていた僕にとって、それは少々違った。それよりも3~4年前、日本でもパンク・ロックをやっている人がいると聞き、僕はアナーキーやフリクションのレコードを探したり、ライヴにも行ってみた。幸運なことにアーント・サリーのライヴも観ることができた。なかではスターリンがやはりいちばんそれらしく見えた。

 正確に思い出すことはできないけれど、パンクにはやはり夢中だったと思うし、イギリスで起きたことが日本でも起きるかどうか、それについて考えないわけにはいかなかった。僕にとっては、その先に戸川純がいた。個人的にはそうとしか思えなかった。

「音楽誌にはいつでも出られる。まずは新聞に出ないと」という遠藤ミチロウの言葉が当時は強く印象に残っていて(僕だけか?)、それとは対照的にパンク・シーンはどんどんマイナーになり、汚いだけの格好はモダンですらなくなっていった。パンク・ロックをどう定義しているのかということにもよるだろうけれど、僕にとってはセックス・ピストルズが引き起こしたような社会との軋轢やパッション、そして、モダンなデザイン感覚はどうにも譲 れるものではなかった。それらをすべて兼ね備えていると思えたのが、当時は、僕にとっては戸川純だった。ソロ・デビュー・アルバム『玉姫様』を聴いたときからそう思っていたかどうかはもはや記憶にはないけれど、『裏玉姫』として録音も残っているデビュー・ライヴで目のあたりにした“パンク蛹化の女”と、シングルでリリースされた“レーダーマン”。それだけで充分だった。それから数年後に自分がヤプーズの会報誌を編集することになるとは予想もせず、ただ、その時は「日本にもパンクが!」と思うだけだった。

 戸川純は、しかし、それだけではなかった。自分が求めていた以上に彼女は引き出しが異常に多く、懐メロからワールド・ミュージック、歌詞に使われていた難しい単語に、インタヴューで語っていたナゾの世界観など、どこか雲をつかむような存在でもあった。何も消化し切れないうちに次のアルバムが出てしまうし、TVやステージのMCではパンクどころか、むしろへりくだって喋っているし、パンクというキーワードもどうでもよくなってしまった。それでも接点を探すとするならば、それはやはりエモーションに寄るところが大きいとしか言えない。後になって彼女と合意したことは、パンクというよりもセックス・ピストルズに対する共感である。極端なことを言えば“パンク蛹化の女”で戸川純が「あ~~~」と叫んでいるだけで僕はいい。あの叫びはいまもライヴ・ハウスで続いている。腰を痛めて立って歌うことができなくなった戸川純がたいていはアンコールで、あの曲だけは立っ て歌う(終わってから楽屋に行くと、そのままいつも倒れている。本当に気力を振り絞って歌っているのである)。

 戸川純をパンクに分類する人はあまりいない。本人も「徹子の部屋」で「ニューウェイヴです」と説明していたぐらいだし、べつに僕も異議はない。どこかに分類しろと言われれば、僕も戸川純はニューウェイヴに入れる。もっといえば、戸川純のバックで鳴っている音がパンクかニューウェイヴか、あるいはクラシックだろうが歌謡曲だろうが、絶対に気になるというほどではない。彼女自身もみんなのうた“ラジャ・マハラジャ”(後の“ニャホニャホ タマクロー”)とか“刑事ヨロシク”でいきなりビートたけしと“蘇州夜曲”を歌い出したりと、初めから音楽の形式にこだわっているようなところはなく、それこそ聴いたことがないのは、たぶん、弾き語りとノイズで……そう、今回、初めて戸川純はノイズをバックに歌っている。非常階段の演奏を得て“肉屋のように”や“ヒステリヤ”を録音し直しているのである。

 数年前、四谷のアウトブレイクで“好き好き大好き”を聴いたのが、この組み合わせでは最初だった。曲は解散したBISからのリクエストだったらしく、非常階段のライヴをロクに観たことがない僕は彼らの演奏があまりに上手いのに、まずは驚いてしまった。その時はあっという間に終わってしまった。その後も何回かステージをいっしょにした彼らがそのままアルバムをつくろうということになるのは自然な流れというもので、そのような話がある と聞いてから、あっという間にリリースまでたどりついてしまった。

“ヴィールス”や“ヒステリヤ”など、このところライヴでも何度か聴いている曲がノイズだらけで再現されている。正直、ノイズまみれになったところで、基本的には戸川純のヴォーカルは変わらない。最初から、あのインパクトは同じである。ノイズといってもリズム・セクションが解体されている わけではないので、曲のなかで展開される要素が少し増えたというぐらい。例によって「美味しいわ身震いする程」とか「あふれた涙で 育てた赤い花」など、歌詞が本当によく耳に残る。ここ数年ではもっとも多くライヴに通っている人なので、最近のステージをなんでライヴ盤にして残さないんだろうと思っていた僕としては、少しは思いが適ったかなと。

『蔵六の奇病』を聴いたときにも思ったことだけれど、非常階段のノイズはとても情緒的である。それも日本的抒情に限定したくなるほどグローバルな感性からはほど遠い(だから、いま、海外で受けるのだろう)。ニューウェイヴというのはクールであることが身上だったかもしれないけれど、戸川純の場合、クールなのはサウンドだけで、歌は徹底的にエモーショナルだったことが他とは違っていた(セックス・ピストルズを引き合いに出す理由ともいえる)。それが戸川階段では演奏も歌もどっちもエモーショナルで完全に混ざり合っている。80年代とはそこが決定的に異なっている(エモーショナルであることから遠ざかろうという強迫観念が80年代を覆っていて、ノイズというアプローチにはちょっとした目くらましのような効果が期待されていたともいえる)。こういうことが可能になるには、やはり、それだけ時間が必要だったのである(どうすれば80年代にエモーションが可能かということを両者は無意識に試行錯誤していたというか)。

 中原昌也が以前、「スロッビン・グリッスルみたいな音が出ちゃうと、恥ずかしくなっちゃって」というようなことを言っていた。西欧人みたいな苦悩もしていないのに、あのようなノイズ・サウンドを出しても平気だという神経は持ち合わせていないということを彼は言いたかったのだろう(西欧人からすれば中原のノイズ・サウンドは何にも縛られていないと感じるらしい)。ボアダムスやコーネリアスが出てからなのか、もっと後なのか、正確には どの時点かよくわからないけれど、どこかで日本が変わったとすれば、しかし、カツノリ・サワはそういう音を出す日本人であり(京都)、もはや中原昌也の神経に起きたような自意識のフィードバックは彼にはありえないということになる。ノイジーな表現で、しかも、秀逸なものがあるという以外に戸川階段と比較する要素はないに等しいながら、どうしても気にはなるので、名前だけでも繰り返しておきたい。昨年末にドイツの〈ゾウリムシ〉からリリ-スされた彼のデビュー・アルバムは、以前、サウンドパトロールでピックアップしたときと基本的な違いはなく、ダブステップとハード・ミニマルを掛け合わせたインダストリアル・テクノのフロントラインである。極端にソリッドでドライ、隅々まで神経が行き届いてるとは言い難いものの、勢いがそれに勝り、少なくとも日本人のデザイン感覚に変化が生じていることだけはよくわかる。

三田格