Home > Interviews > interview with Sherwood & Pinch - ダブ最強コンビ、最新成果と機材話
ひざの手術をしたいと思っても、ひざの知識だけではどうにもできない時もある。身体全体のことを知っていることが必要な時だってあるだろ? (ピンチ)
■エイドリアンはこれまで多くのミュージシャンやプロデューサーとコラボしてきました。ピンチはいわゆるDJカルチャーのアーティストですが、ふたりのコラボレーションをどのように感じていますか?
S:ピンチとのコラボは、すごく理にかなっているんだ。ピンチは〈On-U Sound〉やレゲエ、ヒップホップ、コンテンポラリー・ダンス・ミュージックの歴史を理解している。これまで、デペッシュ・モードやタックヘッド、ザ・マフィアといった様々なアーティストとコラボしてきたけど、その結論としてピンチとコラボするようになったと言えるかな。俺はダンスできる音楽をずっと制作してきたし、家でも楽しむことができる音楽も制作してきた。クラブ・ミュージックに関わるときは、ただクラブにとってパーフェクトな作品であることだけじゃなく、家で聴いても楽しめる、クラブを超えた作品を俺はイメージするんだ。それを一緒に実現できるのがピンチなんだよ。
■数々のアーティストとコラボしてきた中で、ピンチとコラボをしてみて何に新鮮さを感じましたか?
S:彼には、誰よりもシンパシーを感じる。誰かと作業し続けるにあたって、それは本当に重要なことなんだ。ピンチとのコラボは本当に心地がいい。俺とピンチは、最高のコンビネーションなんだ。誰でもいいってわけじゃないんだ。下手にコラボするくらいなら、自分の家でゆっくりしていたいね。コラボするなら、楽しくてワクワクするものじゃないとな。ピンチは本当にクリエイティヴだし、新鮮なアイディアを持っている。俺たちは互いの可能性を広げて、いちばんいいところを引き出し合えるんだよ。
P:あと、俺はすごくおいしいお茶を入れるよ(笑)。
S:俺は料理だな(笑)。
■あはは! ふたりは互いのどういうところにシンパシーを感じていますか?
P:俺は、幼い時から兄を通して〈On-U Sound〉の作品をずっと聴いてきた。『Pay It All Back Vol.3』とかのコンピレーションをテープで持っていたし、ダブ・シンジケートのアルバムとかね。かなり小さい時からエイドリアンの音楽を聴き続けてきたんだ。だから、彼のインパクトや影響は自分にとってすごく大きい。その影響が、俺とエイドリアンの共通点に繋がっていると思うんだ。様々な音楽要素を取り入れ、色々な方向に進みながら、ムードのある自分の音楽を作る。エイドリアンも俺の音楽からそれを感じ取ってくれたと思う。だよね?
S:その通り。
■そこから現在にいたるまで一緒に音楽を作り続けていますが、出会う前は知らなかったけど、出会ってから気づいたお互いの面は何かありますか?
P:俺が知っていた以上に、エイドリアンの音楽スタイルの幅は広い。本当に計り知れないよ。バンド、アーティスト、ヴォーカリストといった様々なミュージシャンとコラボしているし、一緒にいると本当にいろんな話が聞けるよ。彼が関わったプロジェクトの数はすさまじい。制作面でもエイドリアンとコラボしていろいろと学んだよ。特に、フェーダーやパンをどう処理するのかってことをね。パンの処理やステレオ音場の捉え方から、トラックに動きやスペースを生み出していけるんだ。コラボを通じて得たものを自分のプロジェクトでも活かそうと心がけているよ。
S:俺は時期によってリズムを担当する人が変わるんだ。フィッシュ・クラークやスタイル・スコットとかね。どの時期にもリズムを構築する大事な役割の人がいて、ここ数年、その役割を担当しているのがピンチなんだ。最近はライヴ・ミュージシャンの音をとりあえずカッティング処理するようなことをしたくないんだ。一緒にグルーヴまでもカッティングしたくないし、つながっている感覚が好きだからね。だから今はピンチとのコラボがしっくりくる。
■制作をする時に、これをやったら相手が喜ぶんじゃないかなというのを意識しますか? それとも、自分が好きなものをまず相手に提示しますか?
S:俺が何を気に入るかをピンチが考えることが多いと思う。リズムを作っているのはピンチだからな。俺の気に入りそうなアイディアをピンチが持ってきて、俺がそこから気に入ったものを使って、それを基盤に俺のアイディアを加える。基本的に俺たちのトラックはそこから進化してくんだ。
P:自宅で制作するとき、常に方向性がはっきりしているわけじゃないけど、自分の中でこれはシャーウッド&ピンチのプロジェクトに向いているなって思えるリズムやトラックがある。そういう点では確実に意識しているね。
ジャンルに関係なく、聴いていてどこか他の世界に連れていってくれるというのが音楽の魅力と素晴らしさ。癒しの力があり、パワフルでもある。ジャズでもダブでも、それは変わらないね。 (シャーウッド)
■エイドリアンはダブの手法をダブ以外の音楽で起用したパイオニアであり、最近ではにせんねんもんだいのダブ・ミックスが話題になりました。以前読んだ記事で、あなたはごちゃごちゃしていない音にすることが大事だと言っていましたが、そこをもう少し詳しく聞かせていただけますか?
S:例えば、にせんねんもんだいのレコードを聴いてみると、あのレコードではハイハットがたくさん使われている。表ではあまり複雑なことは起こっていないけれど、ピンチが話していたブリアルの作品と同じで、深いところでは様々なことが起こっている。それがサウンドをより一層魅力的にしているんだよ。俺はにせんねんもんだいのアルバムが大好きだったから、あのレコードでの挑戦は、シンプルさをできるだけ美しく提示することだった。だから、すごくシンプルなテクニックを使って、音源に輝きを加えたんだ。ほんの少しだけ手を加えるアプローチを取って、音の分離と全体像、それに、強度が素晴らしくなるように心がけたよ。それとは別に、多くのことが起こっている音楽もあるよね。レゲエで言えば、スネアはここ、ハイハットはここ、キックドラムはここ、っていう感じで絵みたいにトラックの全体像を捉えるんだ。そこで俺にとって重要なのは、EQ、スペース、サウンド。ひとつひとつの要素がハッキリと聞こえるようにして、耳に飛び込んでは消えるようなサウンドにするんだよ。エイジアン・ダブ・ファウンデーションやプライマル・スクリームのようなロック・バンドみたいに多くの要素が詰まった音楽でも、すべての楽器を適切に配置してハッキリと聞こえるようにしないといけない。そういう密度が高いものを扱うときは、すべてを適切にEQ処理しないといけない。あまりにも要素が多い場合は、いくつか要素を全部か一部を取り除くことも考えられるね。リフの要素を半分にするとかね。
P:ダグ・ウィンビッシュが言っていたんだけど、ミックスでは「道」を理解することなんだ。トラックで鳴っている音にはそれぞれの道があって、その道を聴き取れるようにすることが大事なんだってね。
■ミックスにおいて、ピンチがエイドリアンに何かリクエストをすることはありますか?
P:ミックスはエイドリアンの役割ではあるけど、俺はいつも一緒に部屋の中にいる。で、このスネアはちょっとヘヴィすぎるんじゃない? とか、たまに意見を言うんだ。でも、やっぱりエイドリアンはスペースを作るのがうまいから、そこまで言うことはないね。
■最後にヘヴィな質問をひとつ。UKダブの歴史は、ジャマイカ移民の話抜きでは語れないと思うのですが、そういう意味では、移民というのは文化的な面で良いところもあると思うんです。それを音楽のスタイルやジャンルに置き換えるとすれば、エイドリアンはさっきも話したようにダブを他のジャンルに持ち込んで新しいものを生み出し、ピンチは、ダブステップから始まりはしたものの、それをテクノやハウスに取り込み、すごく面白い音楽を作っています。しかし今、世界では移民に対して反感が巻き起こっていますよね。同じようなことが音楽に起こった場合、例えば、ダブステップ以外の音楽と認めない、というような状況になった場合、その音楽はどのようになると思いますか?
S:つまらなくなるだろうね。
P:進化しなくなると思う。新しいものが生まれなくなるし、亀裂がおこる。その亀裂が不和を起こすし、視野を大きく持てなくなって、自分が見ているものがすべてだと思い込んでしまう。色々なものを受け入れることで、より広い世界が見られるようになるよね。
■これまでどのようにして、視野が狭くならないようにしてきました?
P:矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、ひとつのことに専念することにも価値はある。要は両方の考え方を受け入れる意識を持つことが大事なんだ。視野を狭くすることで専門的なレベルで何かを詳しく理解するようにはなるだろうし、例えばそれが医療だとすれば、その知識はすごく役に立ち、特定の手術を可能にするかもしれない。でも、それが可能なのは身体の構造について広範な知識を知っているからだ。ひざの手術をしたいと思っても、ひざの知識だけではどうにもできない時もある。身体全体のことを知っていることが必要な時だってあるだろ? それと同じさ。だからどちらかひとつってことではなく、ふたつとも必要なんだよ。答えになってないよね(笑)?
S:俺は良い答えだと思うよ。ジャンルに関係なく、聴いていてどこか他の世界に連れていってくれるというのが音楽の魅力と素晴らしさ。癒しの力があり、パワフルでもある。ジャズでもダブでも、それは変わらないね。
取材・文:Yusaku Shigeyasu(2017年3月07日)
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