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Sherwood At The Controls : Volume 2: 1985 - 1990

ON-U SOUND/ビート

野田努   Jun 29,2016 UP Old & New
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 アイスランドがイングランドに勝ったよ。ウェールズ(良いチーム!)の躍進も驚きだったが、これこそ大番狂わせだった。練習そのものが困難な雪と氷の国だ。そしてチャンネルを変えると、いかにも人の良さそうなオバマ大統領が、離脱に関してヒステリックになりすぎていると語っている。オバマ、広島まで来たもんな……。つーか、やっぱ温度差あるな。そこでぼくは思い出した。92年? 93年だったか、ジョン・メイジャー首相時代だったと思う。年は忘れた。が、その発言は忘れない。アレックス・パターソンに取材したときのこと、いまUK音楽は危機に瀕している……みたいなことを彼はいきなり言いだした。それはどういうことかと訊ねると、福祉予算がカットされ、これからミュージシャンは失業保険で生活できなくなる。これまでUK音楽が素晴らしい成果を残してきた背景には、バンドやってるフリーターも失業保険をもらえたからだと、そんな旨を彼は話しはじめたのだった。
 パンクに夢中だった70年代末、音楽誌でUKのパンク・ロッカーのインタヴューを読むと「失業保険」という単語がやたら出てくる。働いていない若者が金もらえるのか、日本でカッティングエッジなバンドをやって国から金もらっているなんて聞いたことがない、イギリスはやっぱ日本と違って福祉国家なんだなと、つくづくそう思った。そして、いくら「福祉予算がカットされる」と嘆かれても日本人には共感しようがなかった。そんな豊かな過去など聞いたことがないから。
 あくまでも個人的な経験に過ぎないが、もうひとつ思い出した言葉がある。イギリス人と結婚してロンドンに10年近くも住み続け、離婚して日本に帰ってきた友人の言葉だった。結局彼らはイギリス好きだしさーと彼女は言った。なるほど、とぼくは思った。バイクにスポーツ、音楽、ファッション、魅力的な文化をたくさん生んできた国、多少気候と景気が悪くても、そうそう嫌いにはなれないだろう。しかも福祉国家。右派リベラルと呼ばれうる人たち、気の良いイギリス好きのイギリス人、そのように括られる感情があるのもぜんぜんよくわかる。イギリス人であるピーター・バラカンさんの記事にもあったけど、昔のように……と思う高齢者が多いのは考えてみれば当然の話だ。

夜が永遠と等しく、朝は思い出しかないところに、いっしょに行こうという者はいないのか? サミュエル・R・ディレイニー『ノヴァ』(伊藤典男訳)

 アフロ・フューチャリズムと呼ばれるコンセプトがアメリカで生まれたのは必然である。アフロ・アメリカには心から寄り添うべき過去、懐かしむべき過去がないからだ。エイミー・ワインハウスとビヨンセとの決定的な違いはそのなかに横たわっている。1950年代の自分たちの祖先の暮らしを享楽的に振り返ることなどできない。テクノもジュークもドリルも、トラップもそうだ。日本の現代のヒップホップを聴けばわかるが、前を見るしかない。エレクトロニック・ミュージックがドイツやアメリカのアフロ・コミュニティでこそ拡大した理由もそこだ。EU離脱の日にリリースされたエイドリアン・シャーウッドの編集した〈ON-U〉のベスト盤は、アメリカに触発された時期の曲を集めたものである。
 疲れたときにはご機嫌なレゲエを聴くのがいちばんだが、このCDにあるのは緊張感だ。NYでシュガーヒルと出会い、エレクトロを吸収し、そしてインダストリアルと接触した時期のシャーウッドの手がけた音源が収録されている。リー・スクラッチ・ペリー、マーク・スチュワート、ミニストリー、KMFDM、アフリカン・ヘッド・チャージ、ダブ・シンジケート……、メタリックなダブ・ファンクで、好みが分かれるところだろうけれど、いまこの瞬間にはぴったりだ。まあ、楽してまとめれば新自由主義真っ直中で、ほかの文化と混合することを望んだ音楽の記録と言えよう。UKダブの果敢な冒険録である。
 トム・ヨークが再投票を呼びかけていると知って、最初はエリートっぽい上から態度だなーと思ったが、ひと晩寝て考えてみると、しかしそれはそれで捨て身の呼びかけにも思えてくる。新自由主義に対してのあれだけの批判者が、新自由主義にとって好都合な残留ということに躊躇無く必死になるということは、報道されている以上に複雑で深刻な状況があるのだろう。人は物事を単純化し、簡単に理解したがる。敵の敵は味方になり,事態は最悪になる。労働者階級の怒りが沸点に達したという報道もあった。しかしそれなら、あれだけ残留を主張していたUK音楽シーン(一部除く)をどう評価すればいいのかということだ。アレックス・パターソンが案じたように、福祉予算カットとともにクオリティも落ちたのか? 格差が生まれ,分断化されたことは事実だろう。24日、グラストンベリーのニュースを見ながら、若かったとはいえよくも行ったもんだよな、と思った。
 26日、スペイン総選挙では、ポデモス率いる左派連合が投票で敗れた。そのニュースとまるで交互に、英労働党ジェレミー・コービンの進退に関するニュースが流れている。そして27日、『ヨーロッパ・コーリング』を読んだ。いやー、なんというか、これではブレイディみかこさんも忙しいわけだよ。彼女はホント、タフな人だ。つーか、学者さんたち、がんばってください。オバマが言うように、インターネットはヒステリックなメディアだ。気をつけよう。足の引っ張り合いはよくない。ただ、知りたいことはたくさんある。アイスランドやウェールズが勝っているのは、技術ではなくチーム力ゆえだ。しかし、フランスとベルギーに勝つのは難しいだろうな。

野田努