「S」と一致するもの

DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS - ele-king

 DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTSが揃って来日ツアー!
 UKサブカルチャーの最重要人物Don Lettsがメンバーとして名を連ね、「反骨と創造の精神」を軸に活動する英日コレクティヴ、REBEL DREAD  HARDWAREが各地豪華共演者と共に2年振りのジャパンツアー開催。

英国から、すばらしい2トップがやって来る

——野田努

 かしこまって言うことでもないが、いま、我々は救いようのない混乱のなかにいる。雷鳴轟く闇夜に放り出され、立っていることさえ困難な船に乗っている気分だ。何をよすがとすればいい? いまも音楽は灯台の役割を担うことができるのだろうか。危険な場所を指し示し、時代における道標(みちしるべ)たり得るだろうか。
 およそ半世紀前、「パンキー・レゲエ・パーティ」が英国で暮らす白人の若者たちの耳と精神を拡張したことは周知の通りだ。そのきっかけを作ったのがロンドンのドン・レッツというDJであったことも、歴史の教科書を引くまでもなく明らかだ。パンクとレゲエの合流によって促された精神的な連帯は、人種差別や人びとを抑圧するシステムに立ち向かった。そうして、かつてない文化の扉が開いた。ベースが響き、言葉が舞う。ブリストルではダディ・GというDJがその後に続いた。「ワイルド・バンチ」が誕生し、それはやがてダブの重低音を纏った漆黒のグループ、マッシヴ・アタックへと展開する。
 ドン・レッツとダディ・Gがやって来る。2026年は、ちょうどパンク誕生50周年にあたるわけだが、いまなおドン・レッツが第一線で活躍していることは驚異である。50年前、パンクにレゲエを教えたこのDJは、自ら開けた扉から広がるフロア上で、そのプレイリストを更新し続けている。ヒップホップからジャングル、ダブ、インディ・ロック、ダンスホール……腹の底に響く低周波の音……。しかし重要なのはジャンルではない。その音楽が人びとにとってどんな意味があるか、だ。必要とされている夢か、あるいは特効薬か。リズムという底流のなかに出口を見つけるかもしれない。ドン・レッツとダディ・Gは、いまも音楽が前向きなパワーを持っていることを熟知している、その筋の達人たちである。同士たちよ、フロアで会おう。

REBEL DREAD HARDWARE
DISCIPLES OF BASS TOUR '26

DJ
DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)

SOUND OPERATER
SOUND OPERATER
内田直之(※TOKYO ONLY)

チケット発売中 :
https://eplus.jp/rebeldreadhardware/

【東京公演】
日時:4月10日(金) 24:00~5:00
会場:LIQUIDROOM https://www.liquidroom.net/
出演者:DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
内田直之(SOUND OPERATE)

more

【京都公演】
日時:4月11日(土) 21:00~4:00
会場:CLUB METRO https://www.metro.ne.jp/
出演者:DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
Michiharu Shimoda (SILENT POETS)
HATCHUCK (REBEL DREAD HARDWARE)

【博多公演】
日時:4月15日(水) 20:00~2:00
会場:KIETH FLACK https://kiethflack.net/
出演者:DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
+MORE

【名古屋公演】
日時:4月17日(金) 20:00~
会場:Live & Lounge Vio https://liveloungevio.com/
出演者:DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
HAYASSEN / OBRIGARRD

【大阪公演】
日時:4月18日(土) 18:00~23:00
会場:SOCORE FACTORY https://socorefactory.com/
出演者:DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
[LIVE]:おとぼけビ~バ~(Otoboke Beaver)
+MORE

【広島公演】
日時:4月19日(日) 17:00~21:00
会場:広島クラブクアトロ https://www.club-quattro.com/hiroshima/
出演者:DADDY G (MASSIVE ATTACK)
DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
高木完 & K.U.D.O (MAJOR FORCE PRODUCTIONS)

【松山公演】(※DON LETTS ONLY)
日時:4月25日(土) 21:00~3:00
会場:CLUB BIBLOS https://x.gd/gg4BQ
出演者:DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
クボタタケシ / HATCHUCK (REBEL DREAD HARDWARE)

【前橋公演】(※DON LETTS ONLY)
日時:4月26日(日) 15:00~22:00
会場:SPORT BAR UNIT TWO https://unit-two.owst.jp/
出演者:DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)
KING OF OPUS

主催:REBEL DREAD HARDWARE
https://www.rebeldreadhardware.com/

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DADDY G (MASSIVE ATTACK)

 DADDY Gは、MASSIVE ATTACKの中心的メンバーであり、WILD BUNCH SOUND SYSTEMの創始者としても知られる。
 SMITH&MIGHTY、TRICKY、PORTISHEAD等に代表されるDUB、REGGAE、FUNK、DISCO、HIP HOPを取り込んだUK ブリストル・サウンドの先駆者としてその名を世に刻んでいます。流れの早いシーンにおいてグローバルに活躍するDADDY G。そのスピリットは、あらゆるジャンルのアーティスト達に多大な影響を与えてきた。MASSIVE ATTACKとして活躍する以前は、DJとしてその名を轟かせ、当時10歳という若さでミックステープを作成、頭角を現し出し、その卓越したセンスで1980年にはブリストルで一番の若手DJとしての地位を確立していた。彼がかける斬新なDISCO、PUNK FUNK、SOUL、DUB、REGGAEには多くのファンが虜になり、そのファンの熱狂ぶりからも、彼のDJセットがどれだけ他のアーティストと一線を期していたことかがうかがう事ができる。
 その選曲やミックスのスキルのみならず、マイクも自由に操るDADDY G。多くのDJが存在する中で、彼がクリエイトするミュージック・ワールドには、唯一無二のとても特別な暖かみと存在感を感じる事が出来る。
 MASSIVE ATTACKとして2026年に新作発表・大規模なツアーが控えており、新たなフェーズを迎える。

DON LETTS (REBEL DREAD HARDWARE)

 ロンドン・ブリクストン生まれ。 ヴィヴィアン・ウエストウッド「SEX」と並び、ロンドンカ ルチャーの中心的存在だったショップ 「アクメ・アトラクションズ」を運営したドン・レッツは、そのアティチュードから、ファッション、そしてショップの壁を重低音で振動させるダブレゲエで注目を集めた。彼が初めてDJを務めたクラブ「ROXY」は、100日間の限定営業であったが、パンクスにレゲエの魅力を伝えたことで伝説となった。その経験から真のDIY精神を学んだ彼は映像作家としても活動。リアルタイムで当時の映像を撮り、 '79年に初のパンク・ドキュメンタリー映画『PUNK ROCK MOVIE』を制作。また、THE CLASH全てのMVを監督したことでも知られている。 ‘80年代半ばにはTHE CLASH を脱退したMICK JONESと「BIG AUDIO DYNAMITE」を結成。‘03年 THE CLASHのドキュメンタリー『WESTWAY TO THE WORLD』でグラミー賞受賞。'05年にパンクの核心にせまった『PUNK:ATTITUDE』を制作。‘21年 世界中で愛されるコンピシリーズ『Late Night Tales』にセレクターとして参加。独自のダブアウトされたセレクションで賞賛を集めた。自身のソロプロジェクトである「REBEL DREAD」名義初のアルバム「Outta Sync」を‘23年リリース。アルバムでは故・TerryHallやHollie Cookなどゲストボーカルが参加。
 BBC RADIO 6 Musicにて毎週土曜日に自身の番組である「Culture Clash Radio」を持つ。STUSSYオリジナル・トライブとしての顔も持ち、カルチャー・アイコンとして現在も世界中のクリエイターから熱いオファーを受ける。

Kotoko Tanaka - ele-king

 そのブルージィな歌声はわたしたちの日常にいつもとはちょっと違うみずみずしい景色を運びこんでくる。東京を拠点に活動するシンガー、Kotoko Tanakaがバンド・セットでツアーに臨むことになった。ギターにRiki Hidaka(betcover!!)、ドラムスに白根賢一(GREAT3TESTSET)を迎えた編成で、3月1日から29日にかけ、福岡、広島、京都、東京を巡回。都市ごとにスペシャル・ゲストも予定されているとのこと(広島公演の主催はSTEREO RECORDS)。詳細は下記より。

P-VINE - ele-king

 設立50周年を迎えた〈Pヴァイン〉から粋な計らい、公式スタッフ・ジャンパーが一般向けにも販売されることになりました(受注生産限定)。ボディ10色×プリント5色の計50ヴァージョン(!)から好きな組み合わせを選択可能、滅多にないチャンスです。詳細は下記をご確認あれ。

Pヴァイン50周年 アニバーサリー記念
公式スタッフジャンパーが発売開始

1975年12月24日に設立されたPヴァインは、このたび50周年を迎えることができました。
そのアニバーサリーを記念して、特別なスタッフ・ジャンパーを制作しました。

今回は、日頃からPヴァインを支えてくださっている皆さまにもお届けできるよう、受注生産限定で販売いたします。
ボディは10色展開、さらにプリントは5色から選択可能。組み合わせは 全50バリエーション。50周年にふさわしい特別仕様です。
フロントにはPヴァインロゴ、バックにはこのジャンパーのためにデザインされた、
ターンテーブル上で回るレコードをモチーフにした記念ロゴを配置しました。
普段はなかなか一般販売されることのない、Pヴァイン公式スタッフジャンパー。
ぜひこの機会にお手に取ってください

50周年記念コーチジャケット
サイズ: S / M / L / XL / XXL
販売価格: 10,780円(税抜9800円)
受注期間:2026年1月14日(水)10:00〜2月8日(日)11:59
発送時期:3月上旬

※オーダー後のキャンセル・変更は不可となります。
※商品発送は3月上旬頃を予定しております。
※配送の日付指定・時間指定は出来ません。
※United Athleのナイロン コーチ ジャケットを使用し、シルクスクリーン印刷でプリントします。

https://anywherestore.p-vine.jp/products/50th-jumper

Isao Tomita - ele-king

 日本のエレクトロニック・ミュージック史に大きな足跡を残す先駆者、冨田勲の幻のアルバムが初CD化される。1972年の『SWITCHED ON HIT & ROCK』がそれで、シンセサイザーによるプレスリーやビートルズ、サイモン&ガーファンクルなどのカヴァー集だ。発売は3月18日。松武秀樹が監修を務めている。
 なお松武は、この冨田のリイシューも含まれる「日本シンセサイザー音楽の曙」なる復刻シリーズ全体を監修してもいて、他にも注目しておきたいタイトルが一気にリイシューされる予定。
 シンセ・グループ、バッハ・リヴォリューションの変名たるザ・エレクトロ・サンタクロースによるクリスマス・アルバム(1976)、矢野誠のディスコ・プロジェクトで高橋幸宏が全面参加したマコト・ハイランド・バンドの『INJECTION』(1979)、そして松武秀樹の2作──『デジタル・ムーン』(1979)と『謎の無限音階』(1978)をカップリングした『デジタル・ムーン+謎の無限音階』の、計4枚が一挙にお目見え、というわけで、これを機に日本のシンセサイザー音楽の遺産に触れてみよう。

冨田勲1972年の幻のシンセ・アルバム初CD化も! 日本の初期シンセサイザー音楽の秘宝4タイトルが松武秀樹の監修により復刻決定!

1971年、映画・テレビ界で既に巨匠としての名声を誇っていた作曲家・冨田勲(とみたいさお)が、日本で初めて米国モーグ社製アナログ・モジュラー・シンセサイザーを個人輸入したことは、日本におけるシンセサイザー音楽の大きな画期となった。その後の『月の光』(1974年)をはじめとする冨田のシンセ・アルバムの世界的成功、1980年代初頭のYMOの大ブレイクに至るまで、70年代を通じて日本の先駆的音楽家たちによる実験的なシンセ・アルバムが数多く制作された。そうしたシンセ黎明期の試行錯誤を記録した作品の中から、未CD化で現在入手困難となっている貴重作を中心に復刻するシリーズ<日本シンセサイザー音楽の曙(あけぼの)>4タイトルが、3月18日にソニーミュージックより発売されることが決定した。全体監修を手がけるのは、日本のシンセサイザー・プログラマーの先駆けであり、現在は一般社団法人・日本シンセサイザープロフェッショナルアーツ名誉会員を務める松武秀樹(まつたけひでき)。日本のポピュラー音楽のミッシング・リンクを埋める、シンセ・マニアならずとも注目のリイシューシリーズだ。

<日本シンセサイザー音楽の曙>
The Dawn Of Synthesized Music In Japan
2026.3.18 IN STORE
CD4タイトル 各¥3,080(税込)
シリーズ監修:松武秀樹 高品質Blu-spec CD2仕様
特設サイトURL:
https://www.110107.com/Jsynth

① 冨田 勲/スイッチト・オン・ヒット&ロック
ISAO TOMITA / SWITCHED ON HIT & ROCK
(Original : 1972/4/21)MHCL-31261 *初CD化

冨田勲、1972年の幻のシンセ・アルバムが初CD化!
シンセの巨匠・冨田勲がモーグ・シンセサイザー導入直後の1972年に洋楽カヴァーのイージーリスニング・アルバムとして発表した知る人ぞ知る作品で、オリジナル盤は4チャンネル・レコードで発売された。その制作過程で得たノウハウが後の世界的大ヒット作『月の光』(1974年)に結実したという意味で歴史的重要性は極めて高い。
1. イエスタデイ
2. レット・イット・ビー
3. イマジン
4. ヘイ・ジュード
5. 監獄ロック
6. ラブ・ミー・テンダー
7. ポーク・サラダ・アニー
8. この胸のときめきを
9. サウンド・オブ・サイレンス
10. ミセス・ロビンソン
11. コンドルは飛んで行く
12. 明日に架ける橋

② ザ・エレクトロ・サンタクロース/シンセサイザーによる子供のための楽しいクリスマス
THE ELECTRO SANTA CLAUS / THE JOYFUL CHRISTMAS
(Original : 1976/11/25)MHCL-31262 *初CD化

バッハ・リヴォリューションの変名クリスマス企画アルバムが初CD化!
日本最初期のシンセ・グループ、バッハ・リヴォリューションが1976年に変名で発表したクリスマス企画アルバム。バッハ・リヴォリューションのシリアスな作風とはうってかわって、クリスマスの有名曲を暖かくユーモラスなアレンジで聴かせる。
1. ジングル・ベル
2. 赤鼻のトナカイ
3. アデステ・フィデレス
4. 初めてのクリスマス
5. ホワイト・クリスマス
6. サンタが町にやって来る
7. ベツレヘムの小さな町で
8. もろびとこぞりて
9. 聞け天の御使いを
10. ひいらぎの枝で飾れ
11. きよしこの夜

③ マコト・ハイランド・バンド/INJECTION
MAKOTO HIGHLAND BAND / INJECTION
(Original : 1979/5/21)MHCL-31263 *初CD化

矢野誠のテクノ・ディスコ・アルバム、初CD化。高橋幸宏全面参加!
日本を代表するアレンジャー/キーボーディストである矢野誠のプロジェクトによる1979年発表のアルバム。ニューヨークと東京でレコーディングを行い、ジョルジオ・モロダー・スタイルのテクノ・ディスコ・サウンドを全編ほぼノンストップで展開。当時既にYMOに在籍していた高橋幸宏が全曲でドラムを叩く他、仙波清彦(パーカッション)、後藤次利(ベース)が参加。今回のリイシューには、矢野誠×松武秀樹の特別対談を掲載。
1. INJECTION
2. ANESTHESIA
3. WHERE
4. WHAT YOU ARE~ON AND ON AND ON AND ON AND ON ~WHAT YOU ARE
5. DANCIN' (EGYPTIAN REGGAE~DANCIN'~KOROBUCHKA)
6. LONELY
7. WANNA WANNA WANNA WANNA WANNA WANNA WANNA WANNA
8. I'VE GOT YOU UNDER MY SKIN

④ 松武秀樹/デジタル・ムーン+謎の無限音階
HIDEKI MATSUTAKE / DIGITAL MOON + THE INFINITE SPACE OCTAVE
(Original : 1979/11/21/1978/7/21)MHCL-31264 *2026年リマスタリング

松武秀樹がYMO参加前後に制作したアルバムをリマスター再発!
YMOとの共同作業の合間に制作した映画『007』シリーズ主題曲カヴァー集『デジタル・ムーン』(1979年)と、人間の聴覚の錯覚を利用した無限音階トリックを駆使した音響実験ミニアルバム『謎の無限音階』(1978年)をカップリングした作品。
1. ジェームズ・ボンドのテーマ
2. 007は二度死ぬ
3. 黄金銃をもつ男
4. ロシアより愛をこめて
5. ダイヤモンドは永遠に
6. ムーンレイカー
7. 死ぬのは奴らだ
8. 女王陛下の007
9. 私を愛したスパイ
10. ゴールドフィンガー
11. 宇宙への出発[たびだち](上昇音階)
12. 宇宙からの帰還(下降音階)
13. ワープ航法 Part 1(連続上昇音)
14. ワープ航法 Part 2(連続下降音)
1~10『デジタル・ムーン』 11~14『謎の無限音階』

aus - ele-king

 音が呼んでいる。音と音が呼び合っている。静かに。やさしく。深く。心を鎮めるように。水流のように。

 アウス(aus)の『Eau』(FLAU)を聴いて、まず感じたのは、そんな「静けさ」の感覚だった。音楽が何かを語りかけてくるというより、こちらが耳を澄まさなければ何も起こらない。その距離感が、この作品を特別なものにしているように思う。穏やかで透明度の高いアンビエント作品という言葉は決して誇張ではないが、それ以上に、『Eau』は「音に身を預ける姿勢」が求められるアルバムなのだ。

 東京出身の作曲家/プロデューサー、Yasuhiko Fukuzonoによるソロ・プロジェクト、アウスの作品群を振り返ってみても、本作のサウンドデザインは明らかに異質である。ただし、それは実験性を誇示する方向ではない。むしろ構えがなく、音が淡々とそこに置かれている。そのため、難解さに身構える必要はないが、漫然と聴き流していると、何も掴めないまま終わってしまう危うさもある。『Eau』は、自然体で聴ける一方、注意深く耳を傾けるほどに、表情がゆっくりと浮かび上がってくるタイプの作品だ。

 何より印象的なのは、この作品の「聴きやすさ」が、単なる簡素化や情報量の削減によって成立していない点である。音は徹底して整理され、余分な要素は排されているが、その内側では微細な変化が途切れることなく起こっている。初めて聴いたときには、ただ穏やかに流れていくだけのように感じられた音が、繰り返し聴くうちに、配置や響きの変化として少しずつ輪郭を持ちはじめる。このアルバムは、即効性のある快楽よりも、時間をかけた聴取によって信頼関係を築いていくような作品だ。

 本作でアウスが箏をサウンドの核に据えている点も、個人的には強く惹かれた部分である。エレクトロニカを基盤に、緻密な音響設計で評価されてきたアーティストが、ここまで自然に日本の伝統楽器を溶け込ませていることに、驚きと同時に納得もあった。箏は旋律楽器として前に出るのではなく、音色や余韻、共鳴といった要素が丁寧に扱われ、電子音やピアノと境界線を失っていく。その結果、『Eau』には、どこか日本的でありながら、日本的と断言できない、不思議な中間領域の音風景が広がっている。

 箏奏者・奥野楽(Eden Okuno)の演奏は、このアルバムの質感を決定づける重要な要素だ。柔らかなタッチと倍音を多く含んだ響きは、明確な主張をすることなく、音が立ち上がり、空間に広がり、消えていくプロセスそのものを支えている。持続音のシンセサイザーや控えめなピアノと重なり合うことで、音は常に流動的で、角の取れた状態を保ち続ける。

 『Eau』の音の運び方は、即興性を強調するものでも、厳密な構造を誇示するものでもない。むしろ、作為が感じられない状態をどれだけ精密につくれるか、という点に重心が置かれているように思える。音が「鳴っている」ことよりも、「そこに在る」ことが重視されており、聴いているうちに、音楽を追うという意識そのものが薄れていく。気づけば、同じ空間に音とともに存在している。そんな感覚に近い。

 アルバム・タイトルの「Eau(フランス語で「水」を意味する)」が示す通り、本作のサウンドは形を持たず、水のように透明で軽やかだ。自然音楽やヒーリング・ミュージックのようなわかりやすい情景描写は前面に出てこない。音はただ現れ、変化し、消えていく。その連なりを追っているうちに、時間感覚が次第に緩み、音と音の間の余白さえも心地よく感じられてくる。この「何も起こらなさ」に身を委ねられるかどうかが、『Eau』を楽しめるかどうかの分かれ目だろう。

 冒頭の“Tsuyu”では、箏の単音が慎重に置かれ、その減衰と残響が空間に滲んでいく。旋律を追うというより、音が残していく気配を感じ取るような聴き方が自然と促される。“Uki”ではミニマルな反復が前面に出て、音の流れに身を預ける感覚が強まる。“Variation I”の反復は強調されすぎることなく、時間が静かに折り重なっていく印象を残す。“Orientation”では音の配置が立体化し、ヘッドフォンで聴くと奥行きの感覚が心地よく広がる。

 中盤以降はさらに音数が絞られ、静けさが前面に出てくる。“Variation II”では輪郭が溶け、“Tsuzure”では箏の断片、ドローン、水音などが重なり合い、穏やかなテクスチャーを形成する。“Shite”ではやや感情的な反復が現れるが、全体のトーンは崩れない。“Minawa”と“Soko”ではピアノと環境音、箏が重なり、環境音楽やエレクトロニカ的な側面がより明確になる。終曲“Strand”で音が薄れていく流れは、終止感というより、ただ音が去っていく様子を見送るような感覚に近い。

 『Eau』は、日本の環境音楽や空間音楽の系譜とも接続されている。例えば、諸井誠の『和楽器による空間音楽』や、吉村弘の箏作品に見られる、音を空間の一部として捉える感覚は、本作の音の置き方や時間感覚と確かに共鳴している。また、芦川聡や廣瀬豊の美学、さらには武満徹や坂本龍一が追求してきた音と沈黙、アコースティックと電子音の関係性も、前面に出ることなく背景として滲んでいる。ただし、それらは引用として提示されるのではなく、あくまで無意識の層で作用しているように思える。

 そのため『Eau』は、日本的な文脈を背負いながらも、特定の文化性や歴史性を強く主張しない。場所や時代を限定しない抽象性が保たれており、聴き手の生活環境や心理状態によって、受け取られ方が変わる余地が大きい。その「曖昧さ」こそが、この作品を繰り返し聴きたくさせる理由なのだろう。過度な抽象性に寄りかからず、「音そのものの心地よさ」を丁寧に保っている点も、本作の美点である。集中して聴くこともできるし、生活の中にそっと置いておくこともできる。そのどちらも拒まない柔軟さが、『Eau』を日常の時間と無理なく共存させている。

 アンビエント・ミュージックの「聴きやすさ」と「奥行き」を、ここまで自然に両立させた作品は、そう多くない。『Eau』は、とても穏やかで、耳に負担をかけない作品である。音の質感や余韻に意識を向けることができる人にとって、長く付き合える一作になるだろう。

Julianna Barwick & Mary Lattimore - ele-king

 アメリカを拠点に活動するプロデューサーのジュリアナ・バーウィックとハープ奏者、メアリー・ラティモアによる共作アルバム『Tragic Magic』が1月16日にリリース。あわせて日本盤の発売が2月20日に〈PLANCHA〉より。かねてより親交の深いふたりによる初のコラボレーション・アルバムとなった本作は、喪失、祈り、記憶、再生といったテーマを内包したアンビエント作品とのこと。

Artist: Julianna Barwick & Mary Lattimore
Title: Tragic Magic
Label: PLANCHA / InFiné
Format: CD / Digital
Release Date: 2026.02.20 (CD) / 2026.01.16 (Digital)
Pre-Order:

Tracklist:

1. Perpetual Adoration
2. The Four Sleeping Princesses
3. Temple Of The Winds
4. Haze With No Haze
5. Rachel’s Song
6. Stardust
7. Melted Moon


声とハープが天空で溶け合うような、静かで深い「魔法」の記録。

Julianna BarwickとMary Lattimore… 現代アンビエント/エクスペリメンタル・ミュージックを代表する二人のアーティストによる共作アルバム『Tragic Magic』は、それぞれが長年培ってきた表現を自然な形で重ね合わせた、極めて親密で完成度の高い作品である。

重ねられる声のレイヤーによって霊的とも言える空間を描いてきたJulianna Barwickと、ハープという伝統的な楽器を用いながら独自の感性で現代的な音世界を切り拓いてきたMary Lattimore。
本作では、どちらかが前面に出るのではなく、互いの音が静かに呼応しながら、一つの風景を形作っていく。

Juliannaのヴォーカルは言葉を超えた響きとして漂い、Maryのハープは旋律というよりも光や影のように空間に差し込まれる。
その音楽は、劇的な展開や強い主張を避けながらも、確かな感情の揺らぎと深い余韻を残す。
アルバムタイトルにある「Tragic(悲劇的)」と「Magic(魔法)」という相反する言葉は、本作の持つ二面性を象徴している。

楽曲は、静謐でありながら決して無機質ではない。
呼吸のようなリズム、音の残響、間(ま)の使い方が丁寧に設計されており、リスナーは音楽を「聴く」というよりも、その中に身を置く感覚を味わうことになる。
それは、瞑想的でありながら感傷に流れすぎない、非常にバランスの取れた表現だ。

それぞれがソロ作品で築いてきた評価やスタイルを持ちながら、『Tragic Magic』では「共に演奏すること」そのものが核となっている。
即興性と慎重さ、親密さと距離感。その絶妙な関係性が、本作に独特の緊張感と温度を与えている。
静かな音楽を愛するリスナーはもちろん、アンビエントやニューエイジ、現代音楽の文脈に親しんできた人々にとっても、長く寄り添う一枚となるだろう。

『Tragic Magic』は、過剰な説明を拒みながらも、聴く者それぞれの内側に異なる情景を呼び起こす、稀有なコラボレーション作品である。

見汐麻衣 - ele-king

 まずはじめに感じたのは、歌の変化だった。

 この『Turn Around』は、見汐麻衣にとって、アルバムとしては2017年の『うそつきミシオ』から8年ぶりの作品になる。それだけの時間が経っているのだから、当然、歌いかたも歌声自体も、なにかしらの点で変わっている。ただ、私が感じたのは、そういうことだけではない。
 前作では――もちろん、曲によってアプローチはちがうのだけれど――まっすぐ、真正面に、まるで目の前に障害がなにもないかのように声が進んでいく発声だと感じていた。穏やかな海面をすっと進んでいく船の航跡のような、あるいは、晴天に残された飛行機雲のような。たとえば、“沈黙 Nothing To Say”では、ヴィブラートもなにもかけずに16秒ほどのロングトーンを聴かせる場面がある。このときの見汐の声は、かなり器楽的に聞こえる。
 『うそつきミシオ』についてのインタヴューでは、「歌謡曲と黎明期のニューミュージック」というテーマに向きあい、軽やかに歌うことを心がけ、エンジニアの中村宗一郎との共同作業のなかで「自己表現みたいなのはいらない」と言われたことを明かしている。「自己表現」なるものにつねに絡みつく典型的な泥臭さ、えぐみは、たしかにあのアルバムでは霧消していた。状況描写的な歌詞もあいまって、歌や声が透明な管として音と言葉を運んでいるように聞こえた。透徹した歌はバンドの演奏から幽体のように遊離して感じられ、そうであるからこそ、「歌のレコード」という印象が強かった。

 ところが、その後、見汐がライヴ・バンドとして活動をともにしているGoodfellasとの録音作品が届けられるようになると、その感触は変わっていった。端的に言えば、バンドのなかの歌になっていったのだと思う。ギターやベースやキーボードやドラムといった楽器の音と等価で並列にある歌、アンサンブルのなかに溶けこみ、そのなかの一要素としてあるもの、といったふうに。しかも、どこかひりひりとした緊張感があった埋火のころのそれとも異なる、ほかの楽器奏者の演奏と対話しているような歌。卑近な表現だが、バンドとの一体感がある歌に聞こえた。

 そこにきて、『Turn Around』での歌はどうだろう。見汐の声は、ここでは湿度を含み、軽やかで直線的というよりも、多少の膨らみをもって、ふわっと漂い、浮かんでいるように感じられる。少々掠れたノイズや倍音成分が増え、再び卑近な表現をすると、包容力がある。“無意味な電話 Pointless Phone Calls (Rusuden Ver.)”のような曲では、吐息、時に囁き声が強調され、これまでにない顔を見せている。透明な管のようではなくて、身体から発せられている、たしかな手触りがある。アルバムの終幕である“Quiet Night”は、まるでデモ・レコーディングのような質感で、いままでになく不明瞭な発声、こう言ってよければ、ひじょうに抽象的な歌い口だ。歌い手として歌に向きあってきた見汐が、いま新しく辿りついた場所がここなんだ、と驚いた。
『うそつきミシオ』での試みを言いかえると、見汐は、そこで私性をいったん捨てたのではないだろうか。かといって、この『Turn Around』で、いかにもシンガーソングライター然とした私性や自己表現を歌に宿している、というわけでもまったくない。むしろ、とても中間的な、曖昧な温度をもったものとして歌が響く。私的な領域と、バンド・メンバーや聴き手などの他者と共有する場所とのあいだを絶妙な塩梅で漂い、楽器が発する音と交差する、とても実体感を伴った歌に聞こえる。

 その変化は、たとえば、歌詞においてもそうで、一人称を意識的に排したという前作から翻って、ここではいくつかの曲で一人称や二人称が歌われる。しかし、もちろん、その「わたし」が見汐だったり、「あなた」が見汐の周囲の人間だったりを指している感じはしない。以前、“永い瞬間 Eternity As An Instant”で歌われていたように、拾いあつめた「言葉の落穂」のなかに、「わたし」や「あなた」という言葉がたまたまあった、という感触なのだ。

 見汐と共同でこのアルバムのプロデュースをおこなったのは、岡田拓郎である。2024年には柴田聡子の『Your Favorite Things』と優河の『Love Deluxe』という優れた作品をものにし、岡田は、いまシンガーソングライターのプロデューサーとして重要な立ち位置にいる。
 そんな岡田との協働によって、見汐の歌は新しい音のなかに……馴染んでいる、と言えばいいのだろうか。プロダクションのなかに自然と、もともとそうあったかのように、ただある。これには、岡田によるミキシングも確実に大きく寄与している。
 “Cheek Time”や“わたしのしたことが Things I’ve Done”といった曲は、坂本慎太郎のレコードにおけるハワイアン歌謡やムード歌謡への接近、またはトロピカリズモの要素を感じさせるも、一方で意外だったのは“無意味な電話”で、近年ひとつの潮流をなしている、いわゆるヴィンテージ・ソウルのマナーでこの曲はアレンジされている。
 そして、“Cheek Time”の密室的なリズム・ボックスのビートにしても、“Turn Around”の浮遊するコーラスやミュートされたドラムの打音にしても、“昨日の今日 Yesterday and Today”のゴーストリーなメロトロンやオルガンの音にしても、“Quiet Night”のひどくざらついたテープ・ノイズや狭い音像、音のゆがみにしても、アルバムを覆っているのは、埋火の音楽にあったものとはまた別種のサイケデリアだ。それが湿り気を増幅させ、見汐の歌をバンドの演奏と接着し、ひとつの心地よい音の風景に落としこんでいる。

 いずれにせよ、『Turn Around』は、見汐の「歌のレコード」として聴ける。『うそつきミシオ』と異なった面持ちではあるが、しかし、確実にそうなのだ。そして、このアルバムにおける見汐の歌は、新しくもありながら、どこか懐かしくて親しみやすい。

別冊ele-king 坂本慎太郎の世界 - ele-king

 日本のみならず海外からも評価されるミュージシャンのひとり、坂本慎太郎の表現に深く迫った一冊がついに登場。
 坂本慎太郎本人の3万字(へたしたら4万字?)越えのロング・インタヴュー、関係者、バンド・メンバーたちが語る坂本、あるいは、海外の支持者たちの証言。単なるインタヴュー集にとどまらず、彼の音楽、アートワーク、そして独特の思考やユーモアがいかにして形作られているのかを多角的に解き明かす。アルバム+シングル・ディスクガイド、ゆらゆら帝国時代の主要作品も紹介。
 坂本慎太郎というアーティストが持つ「孤高の異才」としての側面を、長年彼の音楽を聴いてきた批評家/ライターたちがそれぞれの視点で分析、ファンにとっては待望の一冊です。

菊判220×148/192ページ
*レコード店では1月23日に発売。

■内容
photos:塩田正幸

【interview】
interview with Shintaro Sakamoto part 1
新作『ヤッホー』をめぐるインタヴュー(安田謙一)
interview with Shintaro Sakamoto part 2
坂本慎太郎のおもに歌詞をめぐるインタヴュー(北沢夏音)

【interview】
宮藤官九郎──シングルの「美しい」とか、あの辺からもう、違う方向に行ってるって感じはしました。でもやっぱりソロを聴いたときはびっくりしましたけどね
大根仁──数キロ先の針の穴を突くようなことをあの人はずーっとやってるじゃないですか。そこはずっと変わってないんじゃないかなと
石原洋──僕らのあいだにはちょっと、愛憎まみえるところもあるんで

【interview】
坂本慎太郎バンドのメンバーが語る「坂本ワールド」(河村祐介/小原康広)
AYA──次元が違った。そのときに見た坂本さんがいまでも頭のなかにいる
菅沼雄太──トラックだけだったものに坂本さんの歌詞が乗った瞬間に、トラックがどうでもよくなっちゃう(笑)
西内徹──「とにかくいい感じで」って言われて「やまんです」って言って吹くだけですね

【interview】
海外の友人たち
ジョシュ・マデル(NY)──彼は本当にユニークなアーティストで、古いものと新しいもの、その両方のサウンドや影響を結びつけ、完全に没入的で包み込むような雰囲気を作り出しています
ヤン・ランキッシュ(ケルン)──彼には美しくタイムレスなスタイルを捉える特別な感覚があると思うし、それはどんなムードにも合うので、私は何年にもわたって彼の作品を追いかけてきました
ティム・ベルナルデス(サンパウロ)──彼は禅的なロックンロールか何かの達人であるかのようなんです。到達しうるかぎりもっとも洗練された “シンプル” であり、ほとんど “無為の芸術”、だから、坐禅ロックンロールの達人のようなんです
ジャスティン・サイモン(NY)──1999年、友人の東京のアパートで遊んでいたとき、ゆらゆら帝国のライヴVHSを再生したんです。私は画面をじっと見つめながら、衝撃を受けていました

【アルバム/シングル・ガイド】
幻とのつきあい方(柴崎祐二)
ナマで踊ろう(TUDA)
できれば愛を(松永良平)
物語のように(安田謙一)
シングル(河村祐介、TUDA、安田謙一、野田努)

【レポート】
アンビエント・ソウル、あるいは、フハッ、のようなもの
──坂本慎太郎バンド US/MEX TOUR 2025について(松永良平)

ゆらゆら帝国──不完全ディスクガイド(イアン・F・マーティン、河村祐介、野田努)

【コラム】
坂本慎太郎の世界 (野田努)
  偶然性・アイロニー・共謀──パスワードは「平和」と二回(水越真紀)
「不気味なもの」の充満する小部屋で──「坂本慎太郎的」を求めて(柴崎祐二)
ロックンロールの限界はどこにあるのか?──『しびれ』と『めまい』から坂本のソロへと(イアン・F・マーティン)
坂本慎太郎の音世界との出会い(山辺圭司)

デザイン:鈴木聖

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Taylor Deupree & Zimoun - ele-king

 テイラー・デュプリーとジムーンによる『Wind Dynamic Organ, Deviations』は、「音響現象」そのものへの深い洞察を提示するエクスペリメンタル・ミュージック作品である。全6曲・約43分から成る本作は、1997年よりニューヨークを拠点にデジタル・ミニマリズムと環境音響の可能性を探究してきた〈12k〉レーベルの思想が、現在進行形で結実した一作と言える。ここで示されているのは、音楽を「聴く」という行為そのものを問い直すための実験と実践である。極めて静謐でありながら高い緊張感を孕んだ音響の集積だ。

 本作の音の核となっているのは、スイス・ベルン大聖堂に設置された「Wind Dynamic Organ(Prototype III)」と呼ばれる特殊なオルガンである。この楽器は、従来のパイプオルガンのように鍵盤操作によって音高や和声を構築するものではなく、風圧と空気量をリアルタイムで制御することで、音色そのものを連続的に変化させる構造を持つ。ノイズとして立ち上がる空気音、微細な揺らぎ、残響の変容までもが音として取り込まれ、建築空間と共振しながら「響き」が生成されていく。
 ジムーンは、この「Wind Dynamic Organ(Prototype III)」の可能性を探るため、長い時間にわたって同楽器と向き合い、継続的な研究と制作をおこなってきた。その成果はふたつのアルバムとして結実している。ひとつはジムーン単独名義による『Wind Dynamic Organ, One & Two』、もうひとつがテイラー・デュプリーとの共作である本作『Wind Dynamic Organ, Deviations』だ。前者が素材の純度と空間的存在感を前面に押し出し、オルガンの「呼吸」と残響そのものを聴取空間に満たす音響作品であるのに対し、『Deviations』は、同一の素材を起点としながらも、デュプリーの編集と構成によって再配置され、時間的・構造的に再解釈された作品となっている。両作に共通するのは、旋律や形式よりも、音が生まれ、持続し、消えていく生成過程そのものを前景化している点であり、音はここで「音楽」ではなく「現象」として立ち現れている。

 ここで両者の経歴を整理しておこう。テイラー・デュプリーは1990年代前半からエレクトロニック/アンビエント音楽の最前線で活動を続け、作家活動と並行して〈12k〉を主宰してきた。ハード・アシッド・テクノからアンビエント、グリッチ、ドローンに至るまで幅広い表現を手がけ、坂本龍一デヴィッド・シルヴィアンステファン・マチュー、スティーヴン・ヴィティエロ、クリストファー・ウィリッツらとの協働でも知られる。本作では、近年のフィールド・レコーディング的な風景描写や叙情性から一歩距離を取り、音が物理現象として立ち上がる瞬間の複雑さと静けさ、その均衡点に照準を合わせている。その編集は自己主張的ではなく、音が音として存在するための条件を精密に整える行為に近い。
 一方のジムーンは、スイス出身のサウンド・アーティストであり、音響彫刻やインスタレーションを中心に国際的評価を確立してきた人物だ。〈Room40〉などから音楽作品を発表する一方で、モーター、ワイヤー、段ボールといった工業的・日常的素材を用い、物理的運動そのものを音の源泉とする作品を制作してきた。制御と偶然が交錯するプロセスを可視化・可聴化するその手法は、音楽と美術の境界を意図的に曖昧にし、現代美術館や音響芸術祭での展示を通じて高く評価されている。ジムーンの仕事は、音を表現から解放し、出来事として空間に置く試みだと言えるだろう。

 『Wind Dynamic Organ, Deviations』は、こうしたふたりの異なる方法論が緊密に交差する地点で成立した記念碑的なアルバムである。全編は “Deviation I” から “Deviation VI” までの6トラックで構成され、それぞれが楽曲というより、同一の音響素材が異なる条件下でどのように振る舞うのかを観測する連続的な記録として機能している。“Deviation I” では素材の潜在的な立ち上がりが露わになり、“Deviation II” では微細な揺らぎが空間に拡散していく。中盤の “Deviation III” では深い低域が身体感覚を刺激し、音があたかも物質のような重量感を帯びる。“Deviation IV” では沈黙と残響が前景化し、聴取行為そのものが可視化されるかのような状態が生まれる。“Deviation V” ではジムーンのインスタレーション的性格がより強く表出し、終曲 “Deviation VI” ではすべてが収束し、静かな包摂と深い余韻が残される。
 本作はメロディやリズムを徹底して回避し、連続する変化と変容のプロセスに焦点を当てている。風圧と空気量の制御によって生まれる音は、トーンというより空間的な「音の層」として立ち上がり、空気の流れと反響が交差する地点で存在感を獲得する。聴き手は音を消費する主体ではなく、自らの聴取態度を内省する地点へと導かれていく。
 同時期に発表されたジムーンの『Wind Dynamic Organ, One & Two』と併せて聴くことで、『Deviations』における編集と再構築の精度はより明確になるだろう。前者が素材の質感と空間体験を直接的に提示するのに対し、後者は時間と構造を操作することで、聴取者を異なる音響的次元へと導く。その差異は、記録と構築、現象と作曲のあいだに引かれた繊細な境界線を浮かび上がらせる。このアプローチは、〈12k〉が長年掲げてきた「音の物質性」と「静寂の設計」という理念とも深く共鳴している。

 『Wind Dynamic Organ, Deviations』は、アンビエントやドローンといったジャンル名で安易に回収される作品ではない。それはむしろ、現代の音響表現における「聴くこと」の設計図を静かに書き換える試みであり、〈12k〉の美学がいまなお更新の途上にあることを示す確かな証左である。音はここで意味を語ることを拒み、空気とともに存在し続ける。聴き手に残されるのは、その沈黙に限りなく近い余韻と、「聴取」という行為そのものへの新たな意識である。

Ikonika - ele-king

 UKではダンス・ポップが盛ん、というのは日本からはなかなか見えづらいかもしれないが、ここにひとつ、その例証となるようなアルバムが届けられた。ロンドンのエレクトロニック・プロデューサー、アイコニカはみずから歌うことを選択し、いま、新たな扉をノックしている。
 もう15年くらい経つんだなあと感慨深くなるけれど、ポスト・ダブステップの追い風のなか、そこにエレクトロやチップチューンを導入するスタイルでアイコニカことサラ・アブデル=ハミドは〈Hyperdub〉から浮上してきた。つぎつぎとベース・ミュージックが更新されていった00年代末~10年代前半のあの空気を形成したひとり、それがアイコニカだった。

 けれどもその認識はもう古い。3枚目『Distractions』(2017)リリース後の、おそらくはパンデミック中なのではないかと推測するけれども、アブデル=ハミドには転機が訪れている。バカルディ・ハウスやゴム、アマピアノといった南アフリカ産音楽への深き傾斜──ロンドン在住の髙橋勇人によれば、アイコニカは(コード9らとともに)DJプレイでもそれらの普及に一役買っていたそうだ。
 グライム/UKドリルに寄った「Hollow EP」(2020)や『No Feelings Required』(2021)、あるいはダンスホール・シンガー、45ディボスとの共作(2018/2023)なども興味をそそるリリースではあるものの、大きな画期といえそうなのは2021年、〈Adult Swim〉のコンピに提供された楽曲 “No Way” だろう。UKファンキーとアマピアノが溶けあう同曲では、初めてアブデル=ハミド自身のヴォーカルが披露されてもいる。南ア×歌というこのアプローチは2022年の「Bubble Up EP」にも引きつがれ、2024年にはキラーなポップ・チューン “Details” へと結実している。

 そうした新機軸をアルバム単位で全面展開したのが新作『SAD』だ。冒頭 “Listen to Your Heart” からしてUKらしいメランコリアを携えた本作では、ベース・ミュージックがもつダークな美とアフリカ由来のリズムとがみごとに融合、“Gone”、“Take Control”、“Slow Burn” と、ほの暗くも気高き舞踏がつぎつぎと繰りひろげられていく。かつてエジプト出身の父がタブラで教えてくれたリズムが表現されているという “Whatchureallywant”、バカルディ調のビートがえもいわれぬせつなさを運んでくる “Your Vibe” もたまらない。オランダのグライム・プロデューサー JLSXND7RS をフィーチャーした “Sense Seeker”、ベースに耳を奪われる “Activate”、ザンビアのプロデューサー、シー・スペルズ・ドゥームを招きパーカッションを炸裂させる “Drum1(Take It)” と、終幕に向け各楽曲たちはどんどんその強度を高めていく。アルバム中唯一本人以外のヴォーカリスト(作家のタイス・シン)が参加した最終曲 “Make It Better” では、古参ファンへのサーヴィスだろうか、もう興味がなくなっちゃったのかなと不安になっていたチップチューンの断片がさりげなくしのびこまされてもいる。

 サッド。悲しい。みじめな。ぜんぶ大文字表記にしてあるのは、「社交不安障害(social anxiety disorder)」の意味も含ませるためのようだ。インスタグラムのアカウントをのぞくと、プロフィール欄に「they/them」と記されている。どうやらアイコニカは数年前、ノンバイナリーとしての自認を公表していたようで、それがみずからヴォーカリストとして立つことと連動しているのは、かつてソフィーが “It's Okay to Cry”~『Oil of Every Pearl's Un-Insides』でたどった道と完全に一致している。いやはや、ソフィーの影響力の大きさといったら……(ただし、身体をめぐるアイコニカの苦悩自体は2021年、まだヴォーカルが導入されるまえの “Bodies” でも表現されていた)
 ヴォーカリストとしての覚醒と、クィアであることの表明。それらが、サウンド面における南ア産音楽へのアプローチと両立している点こそ『SAD』の醍醐味だろう。2010年代以降、少なからぬアーティストがアイデンティティに題材をもとめてきたわけだけど、ここではそれがBLM以降のポストコロニアリズムの文脈と接続されているようにも映る。ようするに、これはきわめて2020年代的な作品ということだ。意識的にせよ無意識的にせよ、時代の流れをとらえられる音楽家は強い。本作は今後、アイコニカ第二期の代表作として語りつがれていくことになるだろう。

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