さて、今回の主役はアーティストではない。イヴェンターである。いっぷう変わったスタイルで注目を集めるライヴ・イヴェント〈月刊ウォンブ!〉(https://gekkanwomb.com/index.html)の企画者、仲原達彦氏に話をきかせてもらった。
音楽産業の昨今をめぐっては、CDなどのフィジカル・リリースが苦戦をつづけるのに対し、大型ライヴ・イヴェントへの動員が増えているといった話が好んで取りあげられるが、仲原はそうした産業構造の変化を捉え颯爽とイヴェント業界に新規参入を果たした風雲児......とかではない。彼が活動するのは、もっと地味で、もっと儲からないフィールドだ。しかもその規模については、当人が明確に「自分の目の届く範囲」という限定を加えている。筆者がおもしろいと思ったのはこの独特の尺度である。
仲原が企画するイヴェントは、アーティストありきの公演スタイルではなく、そこにひとつの場所性を生むことを優先するものであるように見える。たとえば〈月刊ウォンブ!〉は月1開催・12回完結という異色のライヴ・サーキットだが、この連続性のなかで〈ウォンブ〉はまるで場所のように機能しはじめる。毎月そこに行く。行くとこのイヴェントのコンセプトをゆるやかに共有した他のリスナーがいる。「○○が出るから観にいく」というよりも〈ウォンブ〉に行く、という感覚が芽生えはじめている印象だ。趣味のコミュニティのような雰囲気に近いかもしれないが、もちろん会員制などではないし、どんな動機で観にいってもかまわない、かつ出演者のタイプも多彩だから、ほどよい流動性と距離が保たれる。それぞれにとっての「行きつけ」となる可能性が入口に横たわっている。
また、そこに集まる客とアーティストとオーガナイザーという三角形のなかで、やりたいことや金や充実感などがストレスなく回るような、三方一両得なシステムが模索されているようにも感じられる。詳しくは以下のインタヴューを読んでいただきたい。アートや音楽とそのマネタイズにまつわる問題は根深いが、それぞれに理想的な状態や条件を捨てずに運営できるサイズと方法が、たとえば〈ファクトリー〉のころには無理でも、いまならあるかもしれない。(こうしたことに異なった立場と方法で取り組んでいるひとりには、たとえば〈マルチネ〉のtomad氏などがいる。※ele-king vol.7参照)
......等々ということがらが、仲原の言う「自分の目の届く範囲」においてなら可能なのではないか。もちろん、仲間内のサークル活動ならば同様の動機によって発想されたものがほとんどだろう。しかし、商業的なイヴェントにこの単位を持ち込むのは難しい。両者は背反する原理を持っている。そのフィールドのなかで「自分の目の届く範囲」だからこそ守り、豊かにすることのできるものを、仲原ははっきりとつかまえている。そしてそうしたものが大切にされていること自体が、じつにいまらしい価値観であると感じられる。大規模イヴェントひとつの価値に、こうしたイヴェントひとつの価値が劣るということはない。むろんどちらにもそれぞれの楽しみがあり、欠点もあるだろう。単純に比べることはできないのだが、音楽イヴェントが提供できるもののなかで、音楽以外の部分が持っているたくさんの可能性について、彼らの活動はまだまだ多くを示唆している。
仲原は大学在学中から複数のイヴェントを形にし、年若くして企画力も行動力も持ち、何よりも活動の根本にはっきりとコンセプトや理念を据えている青年だ。東京では毎夜たくさんの音楽イヴェントが開かれていて、そこにはさまざまなイヴェンターの思いや苦闘や工夫が、同じだけさまざまな形態と規模をもって展開されているわけだが、その一隅で芽吹きはじめた彼と彼らの活動に注目してみたい。
では長くなりましたが、どうぞ本文を。収録は〈ウォンブ〉の第2回が行われた2月末。すでに第3回が行われた後のタイミングになってしまって恐縮だが、印象は変わらない。フロアにひとりとして知り合いはいないが、オオルタイチのノイズのカーテンを「やってる?」とくぐることができた。
- 月1開催・12回完結。〈月刊ウォンブ!〉とは?
- 〈roji〉というキー・ワード
- 金と人間関係。すべてのコミュニティはかなしく滅びる!?
- ぼくらに最適なサイズとは?
- 入場料とは何か
- リングが可視化するもの
月1開催・12回完結。〈月刊ウォンブ!〉とは?
僕は企業にいるわけでもないんで、ずっとつながっていてくれる人たちや環境があるというのはありがたいですね。
■第1回めってシャムキャッツの印象も強かったためか、華やかでフレッシュな、ロック・バンドらしいバンド・サウンドをメインにした夜、という印象がありました。新しくて勢いのある存在をフック・アップしようという。
仲原:若くて男くさい感じですよね(笑)。初回は元気をつけたいなと思って。
■あ、やっぱり「連続もののなかの初回」という意識があったんですね。それに対して第2回はシンガー・ソングライターの系譜を軸にしつつ、もっとじっくり歌とかムードを楽しんでもらおうというディレクションがなされていたと思います。実際にはブッキングについてどんな狙いや意図があったんでしょう?
仲原:そうですね、〈月刊ウォンブ!〉は12回あるわけじゃないですか。なので同じ傾向でずっとやっていくと、そこから外れることに不安が生じてくると思ったんです。変化させることが難しくなるといやなので、まずは最初の2~3回でできるだけいろいろなことをやろうと。試行錯誤の途上ですね。
■3月はオオルタイチさんから柴田聡子さんまで、またヴァリエーションが広がりましたね。
仲原:はい。でも振り幅をさらに広げても大丈夫だという自信が生まれてきましたね。
■実際すごくしっかり考えられてますよね、イヴェントの構想として。いい悪いは別として、イメージやヴィジョンを持たない企画も多いわけじゃないですか。
仲原:しっかり考えないとバレちゃいますから。何も考えてないなって。ただ集客が期待できそうだから組む、というのでは飽きられるし、僕自身がやってて楽しくないですね。スタッフ含め全員が楽しい状態でやりたいんですよ。
■まさに次に訊きたかったことなんですが、〈月刊ウォンブ!〉って全12回完結ですよね。長いサーキットなわけです。そんなふうにあらかじめ回数が決まってたりとか、会場をリングに見立てる演出があったり等々、イヴェントありきではなくて、イヴェントをやる意義そのものを問い直そうというような気概を感じるんですよね。そもそもこのイヴェントの構想がどんなふうに生まれてきたのか、そのなかに何を見ているのか、教えていただきたいです。
仲原:本当にはじめのことからお話しすることになるんですが、僕が去年、一昨年とやっていた〈プチロックフェスティバル〉からはじまると思います。〈TOIROCK FES〉というのもやっていました。どちらも普段ライヴをやるような場所ではないので、ゼロからイヴェントを作っていました。〈プチロック〉は日芸(日本大学藝術学部)の学園祭でやるフェスで、学校の力を借りず個人で企画してました。〈TOIROCK〉のほうはさいたまスーパーアリーナにTOIROってスペースができて、そこのオープニングで5日間何かやれないかということで生まれたイヴェントです。
(2012年)12月の〈TOIROCK〉をWOMBのなかのライヴ事業をやっている部署のかたが観に来てくれていて、こういうイヴェントができないかという相談を受けたんです。
僕自身、既存のライヴハウスでやることにはそんなに興味がなかったのですが、熱心にWOMBのスタッフの方が声をかけてくれて。12月の中頃に下見に行って、「もしかしたら変なことできるかもなあ」って思って、そこから現実的に考えはじめました。1回だけのイヴェントだとテンション上がらないな、と思ったので、やるなら1月から毎月、1年間やるのはどうだろう、という話をして。WOMBで毎月ライヴ・イヴェントは誰もやってないことなんじゃないかなと思って、徐々にやる気がでてきました。
WOMB(ウーム)って最初は読めない人が多いと思うんです。実際僕もそうでした。なので読み間違いである「ウォンブ」というイヴェント名をつけました。

さらに「ウォンブ」と『週刊少年ジャンプ』って似てるし、響きもいいなというところから〈月刊ウォンブ〉に。どうせならフライヤーもマンガにしたいと思って、『シティライツ』等の作者、大橋裕之さんにお願いしました。友人のイラストレーター、ゴロゥちゃんにお願いして、『ジャンプ』みたいなウォンブ・ロゴも作ってもらって。そういった作業が全部面白かったですね。
イヴェントのフライヤーって、イヴェントが終わると価値がなくなるじゃないですか。かわいければ取っておくけど、大抵捨てられちゃう。でもマンガになっていると捨てるどころか、わざわざ遡って集めてくれる人までいるんですよ。次も欲しくなるし。こういうフライヤーって無かったなと思います。
あと、これは初めて言うんですが、12ヶ月分のフライヤーを綴じる「表紙」を12月の月刊ウォンブでご来場者全員に配布します。このマンガにだけ興味あって集めてる人もいるかと思うんですが、いつかイヴェントにも来てくれるとうれしいですね。
■なるほどー。そうやってお訊きしたあとからこじつけるわけではないんですが、極端に言えばライヴというかたちを通したひとつのインスタレーションというかね、終幕とともに表紙をそれぞれが綴じるという、参加する側の行為によって完結するリレーション・アートみたいな側面があると思うんですよ。演者を観せとく、っていうものとは根本のところが違うと思うんですね。そういえば、日芸のご出身なんですか? なにか日芸コネクションというか、大学で会った仲間や知り合いが活動の母体になってたりします?
仲原:いや、あんまりいないんですよね。日芸の映画学科なんですけど。脚本コースってところがけっこうヒマで、よくライヴに行ったんです。そこでU-zhaanさんとかと仲良くなって、ライヴのお手伝いをするようになって、音楽の仲間も増えていきました。それで〈プチロック〉につながっていくんですが、そこで集まってもらったチームとほとんど変わっていませんね。アイディアを出してくれたり、発想や嗜好が近い人たちに集まってもらいました。仕事ができるというのはもちろんですが、おもしろがってくれる人を大事にしたいと思って。この3年間でだいぶチームとしてできあがってきたし、さらに今年の12回でまとまりも強くなっていくだろうなと感じています。〈プチロック〉で募集した学生のボランティアの人たちは十数人残ってくれてますし、すごく助けられてます。
■イヴェントってスタッフと協力体制がとっても重要でしょうからね。
仲原:僕は企業にいるわけでもないんで、なおさらですね。ずっとつながっていてくれる人たちや環境があるというのはありがたいですね。
[[SplitPage]]- 月1開催・12回完結。〈月刊ウォンブ!〉とは?
- 〈roji〉というキー・ワード
- 金と人間関係。すべてのコミュニティはかなしく滅びる!?
- ぼくらに最適なサイズとは?
- 入場料とは何か
- リングが可視化するもの
〈roji〉というキー・ワード
〈roji〉は結構ゆるくて適当で、つながりを強要されずに自然にみんなが集まってくる場所なのがいいですね。
■わたし自身、日本や東京のインディ・シーンに詳しいわけではないのですが、〈阿佐ヶ谷Roji〉ってひとつのキーワードになっているのかなと感じることがしばしばあるんですね。〈月刊ウォンブ!〉もフードの提供が〈Roji〉ってしっかり明記されてるんですけど、このイヴェントの本質をある部分から照らす存在なんじゃないかと思うんです。それについても後ほどうかがいたいんですが、まず〈Roji〉について紹介してもらってもいいですか?
仲原:ああ、なるほど。〈Roji〉っていうのは、ceroの高城くん(vo.)とお母さんのルミさんがやっているお店ですね。高城くんって、僕の大学の先輩なんですよ。時期はかぶってはいないんですけどね。大学1年生のときからceroのライヴによく行くようになって、〈Roji〉にもよく行くようになって、2011年の6月くらいに声がかかって週1で入ることになりました。〈Roji〉はシャムキャッツの夏目くんとか、王舟とか、他にもたくさんのミュージシャンが集まってくる店でもあるので、その界隈のミュージシャンと仲良くなりました。〈Roji〉で働くようになってから知ったミュージシャンも多いです。結構ゆるくて適当で、つながりを強要されずに自然にみんなが集まってくる場所なのがいいですね。
2月の〈ウォンブ〉のフードのことも、「火曜メシ出さない?」って店長のルミさんにきいたら「いいよー」ってふたつ返事で決まって、そんなくらいの気負わない店なんですよ。だから、僕にとっても大切な場所だけど、何か組織として機能している場所って感じではぜんぜんないですね。生活の一部くらいな感じです。
■ああ、なるほど。その生活の一部だっていうような感じで、表には見えなくてもコンセプトの底の方に隠れてるものなんじゃないかなって思ったりしたんです。ひとつのカフェやバーという場所を起点にしてゆるやかに音楽コミュニティが形成されているっていうこと、しかもそれがいくつかのアーティストの成功によってそこそこ大きいかたちでシーンのなかに存在感を示しはじめている、そういうのはいまどき珍しいなと感じるんですよね。この数年はとくにネット・レーベルとかネット上のプラットフォームを利用して、様々なコミュニティとか刺激的な表現が生まれてきてると思うんですが、そういうものに比較して、地域性やリアル空間でのコミュニケーションに根ざして生まれてきているシーンを、仲原さんはどのように見ていらっしゃるんでしょう?
仲原:なんだろうなあ。〈Roji〉だけじゃなくて、阿佐ヶ谷ってベッドタウンみたいなところなので、わざわざ遊びに行くというよりは帰りに一杯飲んで帰る、みたいな雰囲気は良いですよね。ミュージシャンばっかりじゃなくて、ライヴ好きな若い音楽ファンも多くて、さらにお互いの距離が近い感じはあります。はたからみたらコミュニティだけど、内部ではそこまで意識してるわけではなくて、趣味の近い人が集まってるって感じですね。今回こんなふうに指摘されて、そういうこともあるなと気づいたくらいで。
ただ、たしかにイヴェントには〈Roji〉のお客さんも多いんですよね。べつに特に意識して呼びかけたわけじゃないんですけど。あとは〈TOIROCK〉〈プチロック〉もネットでしかチケットは買えなかったんですけど、唯一リアルな場所で買えるのは〈Roji〉だったりはしましたね。それも僕がバイトしてるから売りやすいってだけだったんですけど、もしかすると、無意識に〈Roji〉という場所の作用が働いていたりするのかもしれないですね。
■〈ウォンブ〉が12回完結になることには様々な偶然や条件も働いたわけですけれども、やっぱり持続する場所性――1回きりじゃなくて、そこが「場所」であるということがどこかで意識されているんじゃないか、その意識の底には〈Roji〉みたいなものが原型としてあるのではないか、そんなことを感じるんですよ。
仲原:それは僕が2月のイヴェントを終えたときにすごく感じたことのひとつですね。すごくいい場所になったなあと思っていて。1回目じゃわかんなかったんですけど、2回目は「あ、この人前回も来てくれてたな」っていうのがあったし、「また来月ね」みたいなやりとりとかも聞こえたり、そういう人たちがまた新しい人を連れてきてくれたりっていうことを感じました。毎月1回の、みんなの決まった用事、みたいなことっていままでなかったなって。
■ああー。
仲原:それはすごくうれしい言葉だし、こちらが強要するわけでなく、また来月ここに集まろうねっていう場所を作れているのならいいなって思います。来月の出演者に興味がなくても来てくれるとか。「場所」を作ったなっていうのは、ちょうど昨日ライヴが終わって感じたことですね。ツイッターとかを見てもそう思いました。「前より音よくなってるじゃん!」とか。前との変化をみんなが楽しんでくれて感想を言ってくれるのはすごくうれしいことでした。「ステージのかたち変わってたじゃん」「今回煽りVTRないの?」とか(笑)。
■○○が出るから、というのではない動機が生まれている。
仲原:そうです。だんだんそうなっていけばなって思ってたのに、2回目からみんながそれを意識してくれている。僕以上に。だからけっこうびっくりしてますね。そうして場所っぽくなることに。
■わたし職業的に問題がありますけど、ライヴって得意ではないんですよ。そこにいるだけで気が散ったり緊張してしまうし、演奏だけ観たい。ましてアーティストのMCに笑うとかそんな余裕がない。けど〈ウォンブ〉ってわりとつられて笑ったりできるんですよね。だから内輪かそうでないかギリギリのところで、でも排外的じゃない感じのインティメットな空気が流れていて、けっこう居心地がいいんです。それはやっぱりうまく場所を作れているということなんじゃないですかね。出演アーティストの種類だけで作れるものではない。
仲原:そうですね、僕だけでも作れませんしね。あそこの雰囲気を作っているのはお客さんがいちばんかなと思います。僕らが楽しんでいるということも大事なんでしょうけど、お客さんの感じがいいです。みんなずっと楽しそう。特定アーティストのときだけ観る、という感じじゃないですしね。〈プチロック〉も〈TOIROCK〉もそうで、本当に音楽が好きなお客さんたちなんだなって。それに毎回助けられています。
金と人間関係。すべてのコミュニティはかなしく滅びる!?
このまま続けて、結果を出したいと思ってます。このやり方で誰もが大丈夫っていう状態をつくれてはじめてイヴェントだというか......。とりあえずまだ諦められないですね。
■あえて悪くきこえるかもしれない質問なんですが、ネットと違って、いまいったような「場所」の維持ってけっこうなコストがかかると思うんですよね。それは経済的にもそうだし、人間関係においても出てきたりするものではないか、一般的には。多くの音楽コミュニティやそれを母体にしたレーベルも、わりと悲しい歴史をたどっていたりしますよね。いくらマーケット・システムに、音楽や人間関係といった貴重な財を絡め取られないようにってがんばっても、たとえば〈クリエイション〉のアラン・マッギーとかも苦闘しつつレーベルを潰すわけだし、「アーティストに最大限のバックを」って考えてたトニー・ウィルソンの〈ファクトリー〉なんかも同様で、そういう顛末はみんなすでに物語になってるくらいです。そういった歴史に鑑みて、なかなか音楽コミュニティの永続というのは難しい。わたしは〈ウォンブ〉に12回という縛り、時限が設けられているのを興味深く思っているんですが、どこかでコミュニティとその限界みたいなものについての嗅覚が働いていたりするんでしょうか? 経済的な部分について、また人間関係的な部分について、お考えがきければなと思います。
仲原:いや、経済的なところはほんとにいろいろありますよ。お客さんや演者にはなるべくそこは意識させないようにって思っています。隠すという意味ではなくてね。この12回もいろいろ大変だっていうところはもちろん見えているわけで、正直そこはもう少しどうにかしなければいけないという意識があります。スタッフにも還元したいですしね。それはやる側のモチヴェーションにもつながる大事な話です。
ではたとえば入場料を上げるのか? 3000円にすれば簡単なことではあるんです。けれどそれをやるとせっかくの「場所」をつくるという部分が損なわれてしまう。節約できる部分だってあるでしょうね。たとえばリングを特注していますが、あれにもすごくお金がかかっている。でも12回のイヴェントのそもそもの根本を考えて、必要だと判断しているわけです。ここはほんとに難しくって......。
■いや、でもそこに挟まって苦闘されている話をこそききたいというか、それによって勇気づけられる人もいるでしょうし、たとえばここで仲原さんが斃(たお)れても、それを越えていく人のための大事な礎になると思うんですよ。音楽とかイヴェントにとって一種の理想主義はとっても重要なものですし、それがどのように達成され、あるいは失敗してしまうのか......達成してほしいですし、提示された音楽性とはまた別の部分で、この行く末って注目したいところです。
仲原:やっぱり、正直なところ経済的な部分は見せたくないって面もありますよ。普通のお客さんなら気にしないところだとは思いますけど。
■じゃあ極端ですけど、究極的には貧乏しても理想を通したい? それとも儲からなければ理想も意味ない?
仲原:僕は、理想を通して儲からないかなって思ってます(笑)。
■ああ、偉いですね。
仲原:このまま続けて、結果を出したいと思ってます。12回あるわけだからこのなかでどうにかしていきたい。僕はこれに賭けているという部分もあるので、〈ウォンブ〉がうまくいくかいかないかというのはとても重要です。おもしろいと思ってくれている人がいても、結果が出なかったり、誰かが過度に苦労したり、スタッフが困ってしまうような状況になったとすれば、それは続けないほうがいいんだと思ってます。このやり方で誰もが大丈夫っていう状態をつくれてはじめてイヴェントだというか......。とりあえずまだ諦められないですね。
■うーん、応援したいです。一方で、イヴェントのもうひとつの柱である音楽的な方向性についてなんですが、やっぱり、〈ウォンブ〉も演奏を観せるだけではなくて、新しいアーティストや音を紹介していく場を兼ねてもいるわけじゃないですか。「こんなシーンがある」っていうのは、アーティストたちがそう名乗るわけじゃなくて、われわれメディアやイヴェントやファン・コミュニティなんかが歴史にしていくわけですよね。
仲原:そうですね。いまはピンときてないんですが、いつか「こんなシーンがあった」って語ってもらえたらうれしいなとは思います。
ぼくらに最適なサイズとは?
僕にとっては、僕自身の手の届く範囲のなかでやりたいということがいちばん大きいです。自分の手の届ききらないものになってしまったら、たぶんやめちゃうと思います。
■ところで、またちょっとあえてネガめの質問なんですけど、このイヴェントが大きくなっていく未来があったとして、大きくなることは、ある意味で異物を巻き込んでいくことでもあると思うんですね。もしかするとわたしだってそうかもしれないですが、もっと無責任に参加してきて、悪意のある非難をする人も出てくるかもしれない。ステージの規模を上げるっていうのは、そういう危険を呼び込む可能性も高くなるということです。どうでしょう? それでも大きくなっていくべきなのか、そうなったときに守りたいものが何なのか、それにおいては規模を上げる必要もないということなのか。
仲原:うーん、異物を排除していきたいという気持ちはないです。実際に大きくならないとわからない部分はあるんですが、でも、うーん......あんまり気にしてないですかね(笑)。でも、僕にとっては、僕自身の手の届く範囲のなかでやりたいということがいちばん大きいです。自分の手の届ききらないものになってしまったら、たぶんやめちゃうと思います。顔が見える範囲でやっているのが楽しいし、大きくなっちゃったとしてもたぶんそのレベルが変わらないところまでというか。それに、このまま大きくなっていけるのかもしれないし。
■そうか、そうですね。それは確かにいま考えることではないですから。でも「手の届く範囲」というすごくシンプルな、でも根本的なものさしを意識されているというのが印象的でした。その範囲においては問題というかブレは起こらないと。
仲原:そうですね。今回のイヴェントだって批判をする人はいるでしょうし、もちろんそれは受け入れていきます。ただそれに引っ張られるわけではなくて、僕はやっぱり、やりたいことをやりながら、いつかその人たちにも納得してもらえるようなものを目指していきたいですね。
■やっていることも方法も違いますけれども、たとえば〈マルチネ〉のtomadさんたちなんかも、やりたいこととお金の問題と、それをどうアーティストやまわりに還元していくかということに対してとても繊細な工夫と挑戦をされていて感心するんですよ。イヴェントとレーベルでは役割も活動するレイヤーも違いますけど、そのへんの音楽とお金の構造をめぐっては、ぜひ妥協せずに実験なさってほしいなと思います。でかいビジネスにするんじゃなくて、アーティストにもスタッフにもユーザーにも理想的な状態や条件を捨てずに続けられるサイズと方法が、〈ファクトリー〉のころには無理でも、いまはあるかもしれない。それは音楽にとってもいいことのはずです。
[[SplitPage]]- 月1開催・12回完結。〈月刊ウォンブ!〉とは?
- 〈roji〉というキー・ワード
- 金と人間関係。すべてのコミュニティはかなしく滅びる!?
- ぼくらに最適なサイズとは?
- 入場料とは何か
- リングが可視化するもの
入場料とは何か
イヴェントを楽しめる/楽しめないということは料金設定にも関係しますから。モトが取れた感覚があると楽しい。
仲原:アーティストへの還元は僕も悩みながらいろいろ考えているところで。今回はチケット代をちょっと安めにして、そのかわりフードとか物販を大きくしたんですよ。物販ってその場でダイレクトにアーティストにお金がいく場所なので、けっこう重要だし、そこでひとつの還元が可能になるんです。CDショップだとそうでもないかもしれないけど、お客さんからしてもライヴ会場の物販でお金を払うときって、アーティストに直で渡してる感覚が強いと思うんですね。ライヴ・チケットが3000円だとすると、1000円のものを買うのに躊躇しちゃうけど、2000円だったら1000円くらいは財布のひもも緩む。だからその意味でも僕のイヴェントはできるかぎり入場を安く抑えようと思ってるんです。
〈プチロック〉の入場料は1500円なので、ほんとに物販がすごく売れるんですよ。たくさん持ってきた物販が全部なくなってるとかってことが結構あって。お客さんの意識が高いのもありますが、これはすごいなって思います。来て、何か買うっていうスタイルがスタンダードになってほしいですね。CDだけだと見に来ないかもしれないけど、フードやフリマがいっしょに並んでると、ちょっと物販のぞこうかなという気にもなる。あまりたくさん出演料をお渡しできるイヴェントではないので、そのあたりの工夫でアーティストに少しでも還元したいです。
■ああ、それは新鮮ですね。ストレートに入場料からではなく、物販への誘導という別ルートから還元のシステムをつくる。みんなやってることなんですか? オリジナルなアイディア?
仲原:どうなんでしょう。わざわざそういう話をしあうということはないんですが、僕には経験的な体感としてあったんですよ。入場料1500円なら確実に物販が売れる、っていうのは。それから、〈トイロック〉は2000円ですけど、そのうち1000円分はフード・ドリンク・チケットにしたんですよ。3000円でライヴだけだと、「3000円分ライヴ楽しまなくちゃ」って思っちゃうけど、その分何か付いてるとちょっと違ってくる。「あれ? 俺たちほとんどメシ食いにきただけじゃん?」っていうのもいいと思うんですよね。
■チケット代のなかに入場以外のサーヴィス代も含まれていると感じられれば、楽しみ方も変わってくると。USとかだと、ライヴハウスがただのレストランみたいなところだったりして、出てるのが誰か知らなくても食べに来て音を聴くっていいますしね。
仲原:何か手本があってはじめたわけではなくて、ほんとに実感からはじめたことなんです。でもお金ってほんとに微妙で繊細なものでもあって、もし入場料で3000円とってたら、もっとイヴェントへの批判もあったかもしれませんね(笑)。そういうものだと思います。イヴェントを楽しめる/楽しめないということは料金設定にも関係しますから。モトが取れた感覚があると楽しい。
■なるほど(笑)。もちろん、音楽だけでもそれは可能だと思うんですが、イヴェントというものの別のあり方をとても意識していらっしゃる、とくにそれが、音楽を聴く場であることを超えた居場所となることを考えておられるから出てくる発想だと思うんですよね。
仲原:だからといって、フリー・イヴェントが成功するということでもない。そこは自分がやることになったとしても、お客さんの目線でどうやって楽しめるものにするか考えます。
■小規模ながら「フリマ」があるのも楽しかったですよ。文化祭みたいな手作り感で入りやすいし、かといって閉じた感じもなかったですね。物販っていう制度を押し付けられるわけでもなくて、参加型というか。やる側と観る側とスタッフの三角形のなかで、どうやって快適さとお金を回していくのか、まだ未完成なんでしょうが、そういう大きめのヴィジョンが感じられました。
仲原:フリマは基本的に僕の知り合いにお願いして出展してもらってるんですが、僕も当日まで何が出るとか把握しなくて、毎回すごく楽しみなんですよ。ライヴの転換中にフリマのフロアが賑わってるのを見るのもすごくうれしいし、楽しい。もしかしたらこういうのをいろんな制度とか、型にはめてやっちゃうと楽しくなくなるのかもしれないですね。
リングが可視化するもの

(リングに)ロープもつけてセッティングしたときに興奮しましたね。あれはまだまだアップグレードできるし、僕はお金をかけていくところだと思ってるんです。
仲原:あとはプロレスのリングのことですね。あれは単に、今年の1月4日に新日本プロレスの〈1.4〉に連れて行かれて、めちゃくちゃ感動したのがきっかけなんです。東京ドームだったんですけど、すごく興奮して。 格闘技は好きだったんですけど、WOMBでイヴェントやるってなったときに、真ん中にステージ置きたいなって思ってたのもあって、つながりましたね。次の日には僕の知り合いにプロレスの衣装を作っている人がいるので、その人に相談しました。その人の奥さんは内装のデザイナーみたいなことをされていたので、3人で話して、リングを特注しようということになりました。
■えー。すでに本番2~3週前じゃないですか?
仲原:実際に話を進めたのは1週間前からで(笑)。制作期間は4日間で、当日の朝仕上がりました。もうどんなんができてるんだ!? って状態です。1本1本はただの鉄の棒なので、迫力もないし、大丈夫かなって。でもロープもつけてセッティングしたときに興奮しましたね。あれはまだまだアップグレードできるし、僕はお金をかけていくところだと思ってるんです。
■へえー! そこですか(笑)。
仲原:もっと進化させます。誰も期待してない進化ですけどね(笑)。音響とかは僕もすごく意識して、よくなるように取り組んでますけど、映像とかリングとかって誰も進化することを想定してないと思うんですね。そこをよくしていくと「あ、変わった」っていう反応がくると思うんです。
■これは意図したところではないかもしれないですけど、やっぱりライヴってステージという線があるかないかで別のものに変化すると感じました。観る側がステージというものを意識すると、どうしてもアーティストにこうべを垂れるというかたちになる。もちろんその構図はぜんぜん悪いものではないです。ですけど、そこにあの一本のロープが張られることで、あっちは見せ物だぞという感じが強調されると思うんですよね。極端な話、観客がゼロでも成立するのが音楽です。でもあのロープは、観てるやつがいないと成立しないぞ、ということを意識させる。客が優位になって、前のめりな参加ができる。
仲原:ちょっと喧嘩腰ですよね(笑)。
■野次がいい感じに飛んでますよね。
仲原:そうですね、盛り上がるところで盛り上がってもらえるようになったなというか。そういう感じはありますね。
■そうそう、音楽にとってそれが最良の聴かれ方だという意味ではなくて、イヴェントの魅せ方、楽しませ方としてやっぱり斬新なものはあると思うんです。
仲原:最初にミツメの映像が流れたとき、みんなポカーンとなったと思うんです。何だこれ? みたいな。でもビーサン(Alfred Beach Sandal)が悪役として出てきて、最後にシャムキャッツが現れたときには、異様なヒーロー感が出てたんですよね。それぞれが何かを残したわけではなくて、ああ、これプロレスを真似てんだなってお客さんが理解してくれるなかで、勝手にそういう見え方ができていくというか。シャムキャッツのときには花道に行ってハイタッチしてる人たちもいましたから(笑)。お客さんが楽しみ方を見つけてくれるということを感じて、すごくうれしかったし、あの仕掛けはそういうものなんだなって思いました。カメラマンがリングサイドからカメラでぐいってのぞき込んで撮ってるのも、そのまんまプロレスじゃねえかよ! って感じで楽しかった。
■きっとリングは最初に思っていたこと以上の効果を持っていると思いますよ。
仲原:そうですね。きっかけはただプロレス観に行ったというだけだったんですけどね。不思議な気持ちがします。あんなに機能するとは思ってなくて。リングだけじゃなくて、WOMBっていう会場の力に助けられている所もたくさんあります。映像を大きく映せるので、SphinkSさんとmitchelさんに協力してもらってリアルタイムVJを投影してます。めちゃくちゃカッコいいですよね。あと全フロア、普段のWOMBではあり得ないくらい照明を明るくしていて、そのおかげか未来都市みたいな、不思議な雰囲気になりました。フロアが多いのもWOMBの魅力なので、そういった良さは全て活かしたいです。あと毎月、来月のウォンブのチケットを会場内に隠していて。WOMBを隅々までじっくり見て欲しくて(笑)。
■なるほどー。ではちょっとインタヴュー・ドキュメンタリーみたいなシメになるんですが......そう儲かるわけでもない、苦労も多い、いってみれば裏方でもあるこんな取り組みを続けているのはなぜなんでしょうか?
仲原:これがいまやれることだから、ですかね......。僕が少しでも求められてるなって感じる場所でもあるし、同年代で同じようなことをしている人もいないから、やるべきことなんだろうなという気がする。12月までウォンブを続けるのは、そうスケジュールを決めちゃったから、というだけですね。なんかしまらないなあ(笑)。








