Home > Sound Patrol > New Face > フューチャー・ガラージの使者 Satol
![]() Satol harmonize the differing interests Pヴァイン |
昔クラブのフロアは、隣で踊っている人が見えないほどに真っ暗だったが、最近のクラブには闇がない。今日のインダストリアル・ミニマルにしろ、ニュースクール・オブ・テクノにしろ、ブリアル以降の流れは、クラブに闇を、暗さを、アンダーグラウンドを取り戻そうとする意志の表れとも言えないでしょうか。「フューチャー・ガラージ」と形容されるSatolも、そうした機運に乗っているひとりである。
Satol(サトル)は、いわゆる新人ではない。一時期ベルリンに住み、すでに3枚のアルバム──『madberlin.com』(2010)、『Radically Nu Breed's Cre8』(2010)、『Superhuman Fortitude』(2011)──を出している。昨年、故郷である大阪に戻ってからは地元での活動に力を入れている。今回がデビューというわけではないし、すでにキャリアがある。とはいえ、〈Pヴァイン〉から出る新作『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』が、多くの人の耳に触れる最初の機会となるだろう。
彼の音はブリアル直系の冷たく暗い2ステップ・ガラージの変形で、インダストリアル・ミニマルとも共通する音響を持っている。セイバース・オブ・パラダイスを彷彿させる刃物がこすれ合う音、ひんやりとしながらも、ダンスをうながすグルーヴが響いている。3月はO.N.Oとツアーをして、その闇夜のガラージを日本にばらまてきたようだ。
彼の名前はまだ全国区になってはいないかもしれないけれど、Satolの作品が素晴らしいのは疑う余地のないところ。ブリアル~Irrelevant
Irrelevant~Satol......ニュー・インダストリアル、そしてフューチャー・ガラージの使者を紹介しましょう。
アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。
■生まれは大阪ですか?
Satol:愛媛の松山です。
■では、大阪に住まれたのは?
Satol:僕が2歳のときからです(笑)。
■そういうことですね(笑)。
Satol:いま親は、河内長野というところです。僕は、大阪市内です。
■Satolさんはいまおいくつですか?
Satol:33です。
■じゃあ、けっこうキャリアがありますね。
Satol:まあ、そう言ってもらえれば(笑)。
■バンドをやっていたんですよね?
Satol:10代から20代にかけて、5~6年、バンドをやってましたね。
■どんなバンドでしたか?
Satol:ハードコアです。
■ああ、それって大阪っぽいんですかね?
Satol:そうですね。大阪にはハードコアがありますし、先輩もみんなどうだったんで。
■いつぐらいからクラブ・ミュージックにアプローチしたんですか?
Satol:20代の前半のときにはヒップホップが好きでしたね。ウェストコーストも、2パックも、ノートリアスも、いろいろ好きでしたね。
■ヒップホップのクラブには行っていたんですか?
Satol:20歳のときぐらいから行くようになりました。
■DJはどういうきっかけではじめるんですか?
Satol:DJはやったことないんですよ(笑)。
■えー、そうなんですか。ベルリンで暮らしながらDJやらないなんて......いちばんメシの種になるじゃないですか?
Satol:エイブルトンという機材、あるじゃないですか。僕はエイブルトンを使ってのライヴ・セットなんですよ。エイブルトンには自信があります(笑)。
■先ほど、最初はヒップホップだと言ってましたが......
Satol:もっと最初を言うと、ブルー・ハーブとかなんですよ。精神的なものが大きかったんですよね。自分に正直になっていくと、まあ、いろいろなパイオニアも言ってることだと思うんですけど、自分に正直になっていくと、メロディが生まれてくるんですよ。悲しいことも思い出して、悲しいメロディも生まれる。それから、UKガラージのブリアルが好きになりましたね。
■ブリアルがファーストを出したばかりの頃?
Satol:ファースト・アルバムです。
■2006年ですね。それが大きなきっかけですか?
Satol:あと僕、ファッションが好きなんですよ。モードっぽいものが。
■それがすごく意外ですね。パリコレみたいな?
Satol:そうそう、ミラノとか。あの、暗く、シュールな感覚が好きなんですよ。
■好きなデザイナーは?
Satol:アレキサンダー・マックイーンは好きですね。
■ビョークとかやってた......僕は、ジョン・ガリアーノとかの世代なんで(笑)。
Satol:格好いいですね。そういえば、ブリアルの曲は、絶対にショーで使われているだろうと思っていたら、アレキサンダー・マックイーンが使っていたんですね。
■へー。まあとにかく、ブリアルがきっかけで作りはじめたんですか?
Satol:いや、ホントに最初に作りはじめたきっかけはブルー・ハーブとかなんですよ。ロジックとか使って、作りはじめましたね。クラッシュさんとか、ONOさんとか。
■関西と言えば、クラナカ君とかは?
Satol:それが、僕は、まだお会いしたことないんですよね。
■タトル君は?
Satol:いや、まだ知らないんです。
■絶対に会ったほうが良いですよ。それはともかく、ブルー・ハーブがきっかけだったら、ラップを入れるでしょう。言葉が重要な音楽ですから。
Satol:ええ、そうですね。ですから、実は自分でそこもやっていたんですよ。
■ラップしていたんですか?
Satol:いや、ラップというか......アンチコンのホワイの歌い方をアートって呼ぶらしいんですけど、頭のなかで浮かぶ言葉をオートマティックに出していく感じなんですけど、シュールレアリスムに似ているというか。それを僕もやっていました。それだとふだんは出てこないような、グロテスクな、ダークな言葉も出てくるんですね。だからラップじゃないですよね。ブルー・ハーブも韻を踏んでいますけど、アメリカのラップとは違いますよね。そこが好きでした。大阪だと土俵インデンとか。凄い研ぎ澄まされた人で、基本短髪な方で、僕らのイメージとしては僧侶みたいな人がいるんですけど、最初に自分でイヴェントをやったときに声をかけました。それとMSCの漢でした。
■そこに自分も出て?
Satol:出ました(笑)。
■ONOさんとツアーをまわるのも、その頃からの繋がりがあるんだ?
Satol:いや、全然なかったです(笑)。
■ただ、いっぽうてきに好きだった?
Satol:ブルー・ハーブの全員が好きでした。ヌジャベスさんも好きでした。
取材:野田 努