Home > Sound Patrol > New Face > フューチャー・ガラージの使者 Satol
ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。
Satol harmonize the differing interests Pヴァイン |
■とにかく、2006年にブリアルを知って、それでガラージに行くわけですね。
Satol:はい。
■そこから〈madberlin〉と出会って、それでベルリンに移住するまでの話をしてもらえますか?
Satol:まず、知り合い4人でクラブをはじめるんです。〈ルナー・クラブ〉っていうんですけど。テクノ、エレクトロ、ハウスに特化したクラブでした。あとは、自分がやりたいことをやってました。300人ぐらいのキャパで、入るときは400ぐらい来てましたね。そのクラブをやっているときにkill minimalを呼ぶんですよ。2009年ぐらいですか。
■kill minimal?
Satol:マドリッドからベルリンに移住したヤツで、僕は本名でジュアンって呼んでるんですけど。
■〈madberlin〉のmadって、Madridのmadだったんですね。狂ったベルリンじゃなかったんですね(笑)。
Satol:ハハハハ。マドリッドのほうとかけているんですけど、ただ、本人いわく「あのmadでもいいよ」と。
■kill minimalを呼んだのは?
Satol:いっしょにやっていた連中が好きやったんですよ。ビートポートで聴いて、みんな好きだったんです。僕はあんま好きじゃなかったんですけどね。カローラ・ディアルっていう女の子とジュアンが〈madberlin〉をやっていたんですど、ふたりとも日本に来るのが夢だったみたいで、「ありがとうございます」みたいな、で、ふたりともスペイン人的な情熱的な人で、人懐こい人間で、それで、なんだか僕がふたりと仲良くなってしまったんです(笑)。そのときジュアンから、「エイブルトンを教えるから、おまえ、これでがんばってみろ」って言われて、教えてもらうんですよ。エイブルトンは、ベルリンに本社があるドイツのソフトなんですね。〈madberlin〉のアーティストのほとんどが使っていて、「難しいけど、面白い」って言ってましたね。ジュアンはベルリンで、そのソフトの使い方の講師のようなこともやっていました。
■スペインは不況で、仕事がないから、多くの若者がベルリンにやって来たというけど、そのなかのひとりだったんでしょうかね?
Satol:ハハハハ、そんな感じだったと思います。kill minimalはいまは、ヨーラン・ガンボラ(Ioan Gamboa)という名前でやっています。
■今回のアルバム『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ(異なる利害関係を調和)』の前に、〈madberlin〉から3枚出しているんですよね?
Satol:はい。〈madberlin〉もかなりゆっくりやっているレーベルですから(笑)。
■ベルリンに移住したのは?
Satol:いまから1年ちょっと前ですね。音楽活動が日本ではやりにくいかなと思ったんですね。いまは、反骨精神でがんばってますけど、でも、クラブで下手したらJ・ポップとか流れるんですよ(笑)。レディ・ガガとか。オールジャンルというか。
■昔のディスコですね。ヒット曲がかかるみたいな。
Satol:そう、ディスコ化しちゃってるんですよ。
■それはきついですね。
Satol:大阪はそうですよ。ガッツリ音楽をやっている人間には活動しにくいところです。
■それでもう、ベルリンに行こうと?
Satol:そうです。後、特にクラブ摘発の件が大きく左右しました。
■〈madberlin〉から作品を出しているという経歴もあって、アーティスト・ビザを収得できたんですか?
Satol:僕の場合は、マグレですね。簡単に取れる時期がありましたけど、いまは難しいです。
■ユルかったですよね。
Satol:そうですね、昔はユル過ぎましたね。
■良いことでしたけどね。では、ベルリンではジュアンたちといっしょに住んでいたんですか?
Satol:弁護士といっしょに(笑)。カイ・シュレンダーという。ハハハハ。彼のおかげです。
■本当に良い友だちを持たれましたね。
Satol:ただ、いまは大阪でがっつりやっていますけどね。要するに、ビザが取れてしまったので、もういつでもベルリンに戻れるからっていうか、「もう一回大阪でがんばってみよう」って思うようになったんですね。ベルリンでがんばるんじゃなくて、大阪でがんばってみようって。
■素晴らしい(笑)。
Satol:ホント、なんか、ギャグです(笑)。ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。
■今回リリースされることなった『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』ですが、何で、P-VINEから出すことになったんですか?
Satol:アンダーグラウンドなところを探すのが好きで、まあ、P-VINEをアンダーグラウンドって言ったら失礼かもしれないけど、とにかく送ってみて、そして栃折さん(担当者)に連絡しました。
■Satolさんのスタイルは、「フューチャー・ガラージ」と呼ばれていますが、その定義について教えてください。
Satol:ガラージとダブステップの雑種ですよね。ブリアルの流れの、2ステップな感じで......。
■ハウスのピッチで、アトモスフェリックで、それで、金属音のような効果音、ちょっとインダストリアルな感じもあって、アンディ・ストットなんかとも感覚的に似ているなと思ったんですよね。
Satol:ありがとうございます。アンディ・ストットは前から好きだったみたいです、名前は覚えないんですけど、曲は聴いてました。
■Satolさんの音楽もひと言で言えば、非情にダークですよね。
Satol:ハハハハ、そうですね。
■暗いなかにも艶があるというか。
Satol:日本では味わえないことをベルリンでは味わえるので、その経験も活かしつつ......。
■ベルリンではクラブに行きました?
Satol:かなり行きました。たくさん行きましたけど、とくにベルグハインとトレゾアはすごいと思います。
■どんなインスピレーションを受けましたか?
Satol:スタイルとしてはテクノやミニマルなんですけど、しかし音楽性は幅広いという、変な広がり方があって、それは影響されました。
■しかし、冷たい音楽ですよね。
Satol:ゴス・トラッドさんは「ダーク・ガラージ」と呼んでくれました。
■何を思って作っているんですか?
Satol:いや、もう思いつくままにやっています。ひたすら、テーマから逸れていくというか......僕は音楽をやる意味は、聴いてくれた人が前向きになってくれるかどうかなんです。
■前向き?
Satol:外れたこと言ってるかもしれませんが、勇気というか。
■このダークな音楽で? こんなアンダーグラウンドな音楽で?
Satol:ハハハハ、だから、逆にこんな音楽でもいいんだよっていうことをわかってくれたら。
■こういうアンダーワールドな音楽のどこに価値があると思いますか?
Satol:アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。冬だけど、でも、寒くないっていう感じでしょうか?
■ああ、そういうことですか。
Satol:寒いけどやっていける、というか。
■ブリアル以外に、Satolさんに方向性を与えた人っていますか?
Satol:ロシアのガラージですかね。名前は出てこないんですけど、ロシアのフューチャー・ガラージはよく聴いていました。
■フォルティDLは?
Satol:やっぱ好きですね。
■しかし、ブルー・ハーブ、DJクラッシュ、そしてゴス・トラッドというとひとつの世界が見えてくるようですが、Satolさんはそこにパリコレもあるんですよね(笑)。
Satol:いや、もう好きです。ウォーキングのときにかかる音楽が大好きです(笑)。
取材:野田 努