「ele-king」と一致するもの

 『NYタイムス』の記事で、坂本龍一がよく行く日本食レストランの話があった。彼はその店の音楽が嫌いで、普通なら何も言わないでそこを立ち去るのだが、そのレストランは彼のお気に入りなので、音楽の選曲を担当させてくれないかと申し出た、という。ふんふんと頷きながらこの記事を読み進めていくと、同時に『CODA』が紹介されていた。


https://coda.mubi.com

 2014年6月、咽喉癌の段階3と診断された彼は、7月10日に公表し、治療に専念することにした。Alejandro González Iñárritu監督から突然電話があったのは、何ラウンドかの化学治療を終えた翌年の春のことだった。坂本龍一は、明日もし可能ならLAに来てくれないか、と言われた。起きたばかりでボーとしていたこともあり、休養期間にも関わらず、イエスと答えていた。20代から仕事をし、こんなに長く休んだのは初めてで、仕事をしないことが悪に感じていた頃だった。生命の危険を経験したことで、彼の創造力のモチベーションが上がり、音への追求が果てしなくはじまった。

 という、彼が癌治療をはじめてからの、休養期間に撮影されたドキュメンタリーだ。彼のミュージシャンとして、そしてひとりの人間として、音への情熱、社会に貢献する姿勢、癌後の人生についてなどが、彼の作品や昔の映像を合わせながら綴られている。彼のひと言ひと言に頷き、作品の美しさに体が震え、人間味溢れるキャラクターに親近感を覚えた。

 彼は2011年、津波の被害にあった福島に赴き、原子力反対の運動に積極的に参加し、津波の後に生き残ったピアノで、疎開している人達のためにコンサートを開き、現地のアイコンとなった。ピアノを弾き、災害の後に残ったこれこそが、自然の調律になっている、と彼は思ったと言う。物は自然のままが真の姿なわけだが、現代に生きる私たちは、それを忘れがちだ。

 雨の降る音、鳥が飛び交う音、木がそよぐ音など、自然の音に反応し、北極に行って水の音を録音したり、大雨の降る日に外に出てバケツを頭から被り音を感じたり、シンバルを持ち込んで、バイオリンの弦をあてたり、コーヒーカップで円を描くように音を出したり、理想の音を求め続ける姿が描かれる。

 彼の昔のバンド、テクノ・ポップのイエロー・マジック・オーケストラのライヴ映像や、若かりし日々の坂本さんのインタヴューや音楽、そして俳優としての姿──『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』の映像(ベスト・オリジナル・スコア賞を受賞)ばかりか、昔の東京の映像なども盛り込まれている。時代背景からも様々な想いを馳せることができる映画だ。

 この映画は、威厳としたリンカン・センター(https://www.lincolncenter.org)で見るのが筋かと思ったが(NYは7月末から公開で2映画館のみ)、坂本さんの家にも近い、こじんまりしたシネマ・ヴィレッジ(https://www.cinemavillage.com/)で観賞した。ゆるい雰囲気で、広告もほとんどなく、売り切れにもならず、何気に心地よい。『CODA』のおかげで新しい映画館も発見できた。

 小説家とは何を考え、どのように前に進むのか――デビュー20周年を迎える小説家・古川日出男。そのキャリアの節々で、雑誌でのインタヴューやトークイベントなど様々な場面で対話を繰り広げてきた批評家・佐々木敦。このふたりがこれまでに繰り広げた数々の対話を集成したインタビュー集を刊行します。

 ふたりはこれまで「作家と批評家」という関係に留まらず、様々な形でコラボレートしてきました。その対話は毎回、小説という営為、ひいては創作という行為の原理へと迫る深く濃密なものとなっていきます。

 作品ごとに「アスリート的」とも言われる集中力で臨みながら、通常の作家の数倍におよぶ大量の作品を世に出し続け、そして絶えず自己更新を重ねてきた20年。
 古川作品の背景を知る助けとなるだけでなく、小説家とはどのように小説を書き始め、どのように書き継ぎ、どのように書き終え、そしてどのように次の作品に向かうのか。そうした創作の舞台裏に、長期にわたって迫っていった貴重で壮絶なドキュメントであり、「創作」という行為に興味のある方すべてに読んでほしい一冊です。

 今回は、7月30日の発売に先駆けて、佐々木敦による熱い前書きを公開します。

小説家の、苛烈なる饒舌 ―まえがきにかえて―
佐々木敦

 小説家はそもそもの最初から、そして常にいつも、饒舌だった。
 しかしそれは、こちらの話を封じ篭めようとするような、問う側と答える側の関係性においてやみくもにイニシアチブを取ろうとするような、よくある防御的な意味での攻撃的な饒舌ではない。自分語りへとナルシスティックに閉じていくようなものでもない。むろん単なる話し好き、おしゃべりとも全然違う。私が前のめりに、時にはやや不用意に投げかける問いに対して、ほとんどの場合、即答と言ってよい言葉を能弁に返しながら、そこにはいわゆる当意即妙さとはまるで異なる考え深さと、ある紛れもない繊細さがうかがえた。そこには情熱と誠実がともに宿っていた。
 古川日出男との対話は、初対面の時からずっと変わらず、そうだった。ここには収録されていない、いちばんはじめのインタビューは、今は存在しないカルチャー誌のごく小さな記事のための取材だったが、その時のことをよく覚えていると言うと嘘になるけれど、言葉を交わした瞬間の、打てば響く、響き合うような感触は、今も肌で思い出すことが出来る。しかしその時は、まさかそれからこれほどの長きにわたって何度も問いと答えを継続してゆくことになるとは、そればかりか、インタビューや対談以外のさまざまな試み、小説家と批評家という組み合わせを大きく逸脱する試みを幾つも一緒にやっていくことになるとは、もちろん考えてもみなかった。気づけば十年を超える時が過ぎており、われわれの対話はこうして一冊の書物になるほど蓄積されていた。古川さんの小説家としての二〇年を記念して編まれたのが、本書である。
 こんな言い方も芸がないが、われわれは要するに馬が合ったのだと思う。更に芸なく言えば、話せば話すほど、少なくとも私の方は、古川さんと自分はどこか非常によく似たところがある、と思うようになった。とはいっても、われわれは表面的には、たぶんまったく似ていない。また、これだけ長い付き合いになっても、いわゆる「友人」とは呼べない。理由なく会ったりしたことはこれまでに一度もない。私的な話だってほとんどしたことがない。だから「友人」ではないのだが、しかしわれわれは「同志」なのだ、何の同志か。「世界」と「小説」のかかわりをめぐる、それぞれの孤独な、けっして終わりの訪れることのない闘いにおける同志なのだ、と私は勝手に思っている。そして小説家と批評家が、そのような意味での「同志」になるということは、滅多にあることではない。
 この後に続くページから始まる、私と古川日出男の、ひとつひとつが大変ヴォリューミーな対話たちを再読、通読してみて、いささか驚いたことは、われわれが何度も何度も同じ話ばかりしているということだった。幾つかのキーワード、幾つかの問題意識が、繰り返し出て来る。正直言って、これほど一貫性、反復性があるとは思っていなかった。古川さんへのインタビュー、古川さんとの対話は、いつも完全なインプロヴィゼーションだ。私の場合、それは彼に限らないことだけど、古川日出男が相手の際は特にそうだ。機会によって、お互いのコンディションだってまちまちだし、毎回毎回どんな話になるのかあらかじめの決め事は一切なしに臨んでいるのだが、いつのまにか、いや、すぐさま、問いと答えの応酬は過剰な熱を帯び、速度と強度をいや増していき、そして必ず気づいてみると、その時々の対話のテーマから大きく離陸し、「小説」と「世界」をめぐる原理的な話題に突入している。その時その場に賭けようとすればするほど、アクチュアルであろうとすればするほど、そうなる。
 私にとって、古川さんとの対話は、ほとんど音楽のセッションみたいなものだ。もちろん私も古川さんもミュージシャンではないが、多分にミュージシャン的な気質があると思う。二人で話していると、そういう部分が急激に突出してくる。だから毎回終わってみるとひどく疲れているのだが、それは心地良い疲労である。良い汗をかいた、という感じだ。古川さんと話していると、互いが互いを相手に話しているだけではなく、ともに同じ方向を向いて猛烈に思考しながら語っているという感覚に陥ることがある。それがつまり、同志ということの意味だ。
 小説家と批評家との継続的な言葉のやりとりの歴史、そのひとつの区切りとして本書は立ち現れるわけだが、もちろんわれわれの対話はこれで終わりではないだろう。今後もおそらく何度となく古川日出男と私は話すことになるのだろう。そしてわれわれはやはり同じようなことを問題にし続けることになるはずだ。なぜならそれこそが真に重要なことであるからだ。「世界」と「小説」のかかわりについて、われわれが考えてきたこと、われわれが考えていることが、どのようなことであるのかは、二人の尋常ならぬ饒舌を読んで確かめていただきたい。


【内容】

■目次

小説家の、苛烈なる饒舌 ―まえがきにかえて― 佐々木敦

第一章 ルーツなき作家の誕生と再生の記録 二〇〇七年
第二章 朗読をめぐって 二〇〇八年
第三章 『聖家族』をめぐって 二〇〇八年
第四章 「対談」という「未知との遭遇」 二〇〇九年
第五章 全部小説のためにやっている 二〇一〇年
第六章 不可逆的な出来事の後に 二〇一三年
第七章 歴史を物語る声 二〇一四年
第八章 「三」をめぐる三時間 二〇一五年
第九章 エクストリームなミライへ 二〇一八年

あとがきにかえて

古川日出男 略年譜

作品紹介

【プロフィール】
古川日出男(ふるかわ・ひでお)
小説家。1966年福島県生まれ。
1998年、長篇小説『13』でデビュー。第4作となる『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞をダブル受賞。『LOVE』(2005年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(2015年)で野間文芸新人賞と読売文学賞をダブル受賞。2016年刊行の池澤夏樹=個人編集「日本文学全集」第9巻『平家物語』の現代語全訳を手がけた。
文学の音声化としての朗読活動も行なっており、文芸誌「新潮」で朗読CD、文芸誌「早稲田文学」で朗読DVD『聖家族 voice edition』、宮沢賢治の詩を朗読したCDブック『春の先の春へ 震災への鎮魂歌』(2012年)などを発表。
他ジャンルの表現者とのコラボレーションも多く、これまでに音楽家、美術家、漫画家、舞踊家等との共演・共作を多数行なっているほか、2014年には蜷川幸雄演出の舞台のために戯曲『冬眠する熊に添い寝してごらん』を書き下ろした。
2011年の東日本大震災の後、自ら脚本・演出を手がける朗読劇「銀河鉄道の夜」の上演や、言葉と表現をテーマにワークショップなどを行なう「ただようまなびや 文学の学校」の主宰など、集団的な活動にも取り組み文学の表現を探究している。

佐々木敦(ささき・あつし)
1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。小説、音楽、映画、舞台芸術、アートなど、複数ジャンルを貫通する批評活動を行う。
『「批評」とは何か』『「4分33秒」論』『批評時空間』『あなたは今、この文章を読んでいる。』『シチュエーションズ』『未知との遭遇』『即興の解体/懐胎』『ニッポンの思想』『テクノイズ・マテリアリズム』『ゴダール・レッスン』など著書多数。

「小説家」の二〇年 「小説」の一〇〇〇年/ササキアツシによるフルカワヒデオ
古川日出男 佐々木敦(著)
2018/7/30
本体2,500円+税
ISBN: 978-4909483-03-4

Yves Tumor - ele-king

 イヴ・テューマー? イヴ・テューモア? いまだ正しい発音がわかりませんが、さまざまな名義でチルウェイヴやらハウスやらを試みてきたショーン・ボウイが Yves Tumor 名義で2016年に〈PAN〉からリリースした『Serpent Music』は、なんとも形容しがたいそのサウンドをもって新たな時代の息吹を感じさせてくれる、たいへん優れたアルバムでした(『IDM definitive』をお持ちの方は278頁を参照)。その彼が昨年〈Warp〉と契約したことは大きな話題となりましたけれども(紙エレ21号をお持ちの方は43頁を参照)、ついに新曲がお披露目です。これはもしかしたら、近いうちにアルバムも出るのかもしれませんね。ただただ楽しみです。

YVES TUMOR
〈WARP〉が新たに契約した奇才、イヴ・トゥモア
ニュー・シングル「NOID」を公開

ベルリンの前衛レーベル〈Pan〉よりリリースしたデビュー・アルバム『Serpent Music』で、ソウル・ミュージックの新たな形を提示したイヴ・トゥモアが、〈Warp〉移籍後初となるシングル「Noid」をリリース!

Yves Tumor - Noid
https://youtu.be/Edthfw5Pbxk

『Serpent Music』が、アルカやブライアン・イーノらと並んで、Pitchforkの【The 20 Best Experimental Albums of 2016】に選出されるなど、最高級の評価を獲得し、注目を集めたにも関わらず、まだまだ謎の多いイヴ・トゥモア。昨年行われた貴重なインタビューの中でも「多くの人は私の存在が何なのか困惑してると思う。けどそれでいい」と自ら語っている。

それでも今回の新曲リリースは、ますます新たな展開に期待させる素晴らしい内容となっている。

label: WARP RECORDS
artist: Yves Tumor
title: Noid

iTunes: https://apple.co/2OgBkBL
Apple Music: https://apple.co/2LoC4XP
Spotify: https://spoti.fi/2uRYfLr

DJ HOLIDAY - ele-king

 今年アルバムを出したハードコア・バンド、ストラグル・フォー・プライドの今里といえば、ここ1~2年はDJ HOLIDAY名義で、かなり精力的にDJとして活動しています。もっぱらレゲエをよくプレイしているそうですが、そんな彼が、〈アリワ〉音源のミックスCDを出しました。
 〈アリワ〉はUKレゲエにおける重要レーベルのひとつで、その主宰者であるマッド・プロフェッサーは、UKダブにおける重鎮であると同時にラヴァーズ・ロックのプロデューサーの第一人者でもあります。
 で、ラヴァーズ・ロックというのは、UKにおいて生まれ80年代に発展した、文字通りラヴリーでメロウなレゲエのスタイル。恋人とのひとときのための音楽です。日本でもずっと人気ジャンルとして聴かれ続けています。もちろんele-kingも大好きです。
 そんな甘々なジャンルの音源をDJ HOLIDAYが選曲し、ミックスしたのが『ARIWA tunes from my girlfriend’s console stereo』。すごくいいですよ。オススメです!


DJ HOLIDAY
ARIWA's tunes from my girlfriend's console stereo.

ARIWA/OCTAVE-LAB
Amazon

ウインド・リバー - ele-king

 『スリー・ビルボード』を観た人間の評価を分けるのはおそらくラストで示される独特の倫理だと思うのだが、そこに至る大きな前提として「いまのアメリカでは警察が、ひいては法が役に立たない」ということがあるのではないか。とくに田舎町では。娘がレイプされ殺されたというはっきりとした暴力があり、しかし法はそれに対して無力を示すばかり。そのとき個人や特定のコミュニティによる私刑は下されるべきなのか、どうか。そこで問われるのはアメリカ的正義なるものがあるとして、誰の手によって誰のために行使されるのかということだ。
 西部劇は言うに及ばず、アメリカ映画はフロンティアにおけるある種の無法状態を繰り返し取り上げてきた。法治国家たるアメリカのエッジでは必ず法が無効化される場合があり、そこでルールが根本から問い直されるのである。クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』(08)は当然アメリカ的正義を体現してきた人間が己の限界を吐露するものだったろうし、あるいは近年ではデブラ・グラニク『ウィンターズ・ボーン』(10)には目を見張るものがあった。ミズーリの山奥に住むヒルビリーたちの間には警察も手出しできない独自の掟が存在し、コミュニティに属する者たちはそこから外れることが許されない。だが、その掟から否応なく零れ落ちてしまう少女が現れたとき、コミュニティのルールが根幹から問い質されるのである。そこでは「法」でも「掟」でもない倫理が再考されていると言える。

 『ボーダーライン』(15)の脚本で名を挙げたテイラー・シェリダンが、『最後の追跡』(16)の脚本に続く初監督作として撮りあげた『ウインド・リバー』。『ボーダーライン』ではメキシコ国境地帯を、『最後の追跡』ではテキサスの田舎町を舞台にして、無法状態のなかでこそ立ち上がる倫理を探っていたシェリダンは、〈フロンティア3部作〉とする連作のラストとなる本作でもまったくもってその路線を踏襲している。今回の舞台はワイオミング州の極寒地帯であり、ネイティヴ・アメリカンの保留地だ。そこで暴行を受け逃走中に死亡したネイティヴ・アメリカンの少女が発見されるところから物語は始まる。しかも、この保留地では似たような犯罪が繰り返されていることが次第に明らかになってくる。
 体裁としてはクライム・サスペンスになっており、ベテランの白人ハンターであるコリー(ジェレミー・レナー)と若手のFBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)が事件を追っていく過程が中心になるのだが、ここでもFBIという「法」を体現する人物が明らかに経験不足であるものとして描かれる。つまり、この土地ではアメリカ全体のコンセンサスを得た正義など通用するわけがないということで、そしてこの映画においてもまた私刑がどこまで認められるかが重要な問いとして立ち上がってくる。シェリダンはどうも、この3部作で法を超越した裁きの可能性を探っているようなのである。たとえば米墨の境界をモチーフとして取り上げているという点で『ボーダーライン』の横に並べられるであろうドキュメンタリー『カルテル・ランド』(15、キャスリン・ビグローが製作総指揮を務めている)では自警団が過剰に暴力化する様が容赦なく映されていたが、シェリダンも私刑の危険性をもちろん承知だろう。それでもなお、だからと言って「法」が守るべき人間を守れていないではないかという怒りが収まらないようなのだ。(ただしその意味では、ジェーンが曲がりなりも成長していく様が同時に描かれていることからは、「法」にも変わる余地があるとしているようにも思えるが。)

 そもそも、ネイティヴ・アメリカンたちが住む土地としてこのような厳しい土地を与えたこと自体が「アメリカ最大の失敗」だとシェリダンは糾弾している。そして、ひとが住めるような土地ではないところでは「法」は通用しなくなり、若い女性の多くがレイプされるような「掟」が幅をきかせることになる、と。だからこそ西部劇をはじめとするアメリカ映画の伝統を持ちこんで、正義の本質を問いかける。『ウインド・リバー』にはある種のカタルシスがあるが、それは監督の「法」の無能に対する苛立ちの表れであり、素直に受け止めるのが躊躇われるほど重いものだ。そして、ハリウッドが現在「多様性」への取り組みをアピールするために称揚するようなマイノリティではない、本当に弱い立場の人間にこそアメリカの正義があるとする。いま、田舎を舞台にしたアメリカ映画に説得力と重大さが備わっていることを証明する一作である。『ウインド・リバー』の画面を覆い尽くす真っ白な雪を染める血の赤さを、わたしたちはもっとしっかりと見たほうがいいだろう。
 なお音楽を担当しているのは、様々な映画作品で活躍を見せるニック・ケイヴとウォーレン・エリスのコンビ。この厳格な映画にきわめて抑制された叙情をもたらしている。

予告編

Andy Stott - ele-king

 緊急速報です。デムダイク・ステアと並ぶ〈モダン・ラヴ〉の看板アーティスト、10年代のテクノ~インダストリアルの潮流を決定づけた異才、アンディ・ストットが2年半ぶりに来日、一夜限りのライヴ・セットを披露することが決定しました。前回はデムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーとのユニットであるミリー&アンドレアとしての来日でしたので、ソロ名義としては3年半ぶりの来日となります(最新作『Too Many Voices』発表後としては初の来日)。今回はいったいどんなサウンドをぶちかましてくれるのか。ブリストルからは実験的ベース・ミュージックを展開する〈Livity Sound〉のアススが、日本からは Ultrafog と Romy Mats が参加。8月24日はUNITに集結しましょう。

イギリス・マンチェスターを拠点とする超優良レーベル〈Modern Love〉の看板アーティスト、Andy Stott の約2年半振りの来日公演が決定!

伝説の Basic Channel を源流とするミニマル~ダブ・テクノの可能性を拡張させながら、インダストリアル~ドローンの荒野を開拓する唯一無二の存在として、圧倒的なクオリティーとポテンシャルの高いベース・ミュージックでクラブ・ミュージックの枠を越えたファンを獲得している。2012年に発表された『Luxuary Problems』は Pitchfork、Resident Advisor、Fact Magazine、Spin などのレヴューで軒並み高得点を獲得、続く2014年作の『Faith In Strangers』も Resident Advisor の年間ベスト・アルバムのトップに選出されたのを筆頭に、Fact Magazine やミュージック・マガジンでも年間アルバムにチャートイン、世界中で新たなファンを増殖させた。2016年にリリースされた通算4作目となる『Too Many Voices』では、前作で展開されたゴシック~ニューウェイヴ・テイストを継承しながら洗練されたフューチャリスティックな鋭利なグライム・ビートで未開の新境地へと到達している。

常にその特異なサウンドスケイプとプロダクションを進化・深化させながらトレンドをアップデートする稀有なアーティスト、Andy Stott の最新ライヴ・セットをご堪能あれ!

更にイギリス・ブリストル出身でダブステップの興隆と共にシーンに登場、あの〈Livity Sound〉の中核として知られる Asusu がDJとして参戦。〈solitude solutions〉や〈angoisse〉などの新興レーベルからのリリースで知られる音楽家 Ultrafog のライヴ・セット、Asusu、Bartellow、Imre Kiss、S Olbricht などの新鋭を招聘してきたパーティー《解体新書》のレジデントDJである Romy Mats というドープな布陣でカッティング・エッジなエレクトリック・ミュージックを縦横無尽に網羅する一夜になることでしょう!

UNIT / root & branch presets UBIK
8.24 fri @ 代官山 UNIT
live: Andy Stott (Modern Love, UK), Ultrafog
djs: Asusu (Impasse / Livity Sound, UK), Romy Mats (解体新書 / N.O.S.) and More to be announced!!

Open / Start 23:30
¥3,000 (Advance) plus 1 Drink Charged @Door
Ticket Outlets (Now on Sale): PIA (123-868), LAWSON (70299), e+ (eplus.jp), diskunion CLUB MUSIC SHOP (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, JET SET TOKYO, clubberia, RA Japan and UNIT
Information: 03-5459-8630 (UNIT)
www.unit-tokyo.com


■ Andy Stott (Modern Love, UK)

Basic Channel を源流とするミニマル~ダブ・テクノの無限の可能性を現在も拡張させ続けている超優良レーベル〈Modern Love〉を代表する最重要アーティストが Andy Stott である。〈Modern Love〉から2005年に「Ceramics」「Demon In The Attic EP」「Replace EP」の3作品をリリース。ハード・テクノをスクリューしたようなノイジーなドローン、ロウビート、圧倒的な音響感のエクスペリメンタル・ビーツは一躍シーンの寵児として注目された。2006年、ファースト・アルバム『Merciless』をリリース。2008年、これまでリリースされたEPをまとめたコンピレーション・アルバム『Unknown Exception』をリリース。2011年、12インチ2枚組『We Stay Together』『Passed Me By』の2作品をリリース、これら2作品をCDにまとめた『We Stay Together / Passed Me By』もリリース。これらの作品で展開されたオリジナリティーに溢れるアヴァンギャルドかつエクスペリメンタルなダブ・テクノ・サウンドは、数多の Basic Channel のフォロワーを明らかに凌駕する新しいサウンドの斬新さに溢れている。2012年、約1年振りとなるアルバム『Luxury Problems』をリリース。Pitchfork、Resident Advisor、FACT magazine、Rolling Stone、SPIN などレヴューでは軒並み高得点を獲得、現在最もポテンシャルの高いベース・ミュージックを奏でるアーティストとしてクラブ・ミュージックを越えたファンを獲得する事となった。2014年には Demdike Stare の Miles とのプロジェクト、Millie & Andrea 名義でアルバム『Drop The Vowels』をリリース、そして2年ぶりとなるアルバム『Faith In Strangers』を発表、この作品は Resident Advisor の年間アルバム・チャートで首位を獲得、Fact Magazine の年間アルバム・チャート4位、ミュージック・マガジン誌のテクノ/ハウス/ブレイクビーツ部門の年間ベスト・アルバム2位と世界各国で大きな注目を集め、幅広いリスナー層を増殖させ続けている。2016年、通算4作目となる『Too Many Voices』では、前作で展開されたゴシック~ニューウェイヴ・テイストを継承しながら洗練されたフューチャリスティックな鋭利なグライム・ビートで未開の新境地へと到達している。

■ Asusu (Impasse / Livity Sound)

本名、Craig Stennett。ダブステップの興隆とともにシーンに登場して以降、刺激に満ちたダンス・ミュージックの新たな在り方を提案し続けるプロデューサー。UKガラージ、ジャングル、ミニマル・テクノといった要素が混然一体となったカテゴリー不可能なサウンドを武器に、Peverelist と Kowton と共に〈Livity Sound〉の中心的存在として、2010年代のダンス・ミュージックに新たな地平を切り開いた。2011年に発表した「Velez」はスマッシュ・ヒットを記録。タメの効いたミニマルなジャングル・トラックがジャンルの垣根を超えて、多様なDJたちにプレイされることになった。2015年には自身のレーベル〈Impasse〉をスタート。第1弾として発表された「Serra」には、サウンドシステム映えのする強烈な重低音を備えたテクノ・トラックを収録。Asusu の音楽観を見事に体現してみせた。近年も〈Timedance〉や〈Dial〉といった尖ったレーベルにも楽曲を提供するなど、革新的なダンス・ミュージックの可能性を模索し続けている。2017年より東京を拠点に活動中。

■ Ultrafog

Kouhei Fukuzumi によるプロジェクト。
〈Solitude Solutions〉、〈Angoisse〉からカセットを発表。
今年1月に行ったNYCでのツアーでは DJ Python、Patricia、Bookworks などと共演、〈RVNG Intl.〉が運営する Commend でのライブも行った。
今年5月には Huerco S. の来日公演をサポート。

■ Romy Mats (解体新書 / N.O.S.)

1994年、東京生まれ。世界中のアンダーグラウンドから日本へと伝わるダンス・ミュージック/電子音楽を独自の視点で紹介するパーティー《解体新書》を主宰。2018年には東京のレーベル兼レイヴプラットフォーム〈N.O.S.〉の一員としても活動をしている。本名名義の Hiromi Matsubara(松原裕海)でフリーランスのライター/エディターとして活動し、2014年からは、国内では老舗のエレクトロニック・ミュージック・メディア『HigherFrequency』で編集長を務めている。ライターやジャーナリストとしてダンス・ミュージックに接している経験をDJとしてのトラック・セレクトにも活かし、伝統と革新、都市と楽園、調和と混沌などをテーマに、幅広い視野で文脈を超えたミックスに臨んでいる。

Miss Red - ele-king

 ダンスホールっていうのはじつに面白い。まずこの音楽は、置き去りにされた下層民による寄り戻しとして誕生した。それは意識高い系の音楽へのあてこすりのようにも見える。国際的な感性/知性に訴えることができたルーツ・レゲエと違って、80年代に登場したダンスホールはアンチエリートの庶民派だが文化的には保守的で、言うなれば引きこもり的なそれは、周知のように内向きな暴力やゲイ嫌悪を露わにしたことで国際舞台で厳しく叩かれたこともある。
 しかしながらそのスタイルは、どメジャーからアンダーグラウンド、ジェイミーXXからイキノックス、カナダから南アフリカまでと、いまもまったく幅広く愛されているし、進化もしている。その成分はR&BにもUKグライムにも注がれている。そして、こんなにも矛盾をはらみながらも途絶えることなく拡大しているのは、ひとつにはダンスホールの敷居が低さゆえだろう。

 ケヴィン・マーティンはダンスホールの側にいる。近年は主にザ・バグ名義による精力的な活動で知られるマーティンは、彼のもうひとつの主題であるダブの探求の成果をつい先日はBurialとの共作12インチ(Flame 1)によって発表したばかりで、あるいはまた彼のエクスペリメンタルな側面は、たとえば2年前のアース(ドローン/ドゥーム・メタルのバンド)との共作アルバムによって表現されている。そして、彼はいまミス・レッドとともにダンスホールに戻ってきた。リングに上がって、ファイティング・ポーズを取っている。
 ダンスホールは基本的には楽しみの音楽であり、アドレナリンの爆発であり、ユーモアが込められた音楽だ。さばさばしていて、活気があって、エネルギーの塊。ダンスホールにおいて重要なのはマイク一本握って自分をより格好良く見せることだが、モロッコ人とポーランド人の両親を持つイスラエルはテレ・アヴィヴ出身のミス・レッドは、ダンスホールの引きこもり的傾向にまずはパンチを一発、風穴を開けてこのエネルギーを外側へと放出する。
 そして彼女はアルバムを通じて“マネー”というものに何度もパンチをお見舞いする。セコンドには……もちろんケヴィン・マーティンが付いている。まわりくどい表現はない。センチメンタルなメッセージもない。あるのはダンスのリズム、リズムに乗ったシンプルな言葉。トラックは、それこそイキノックスとか、はたまたポルトガルの〈プリンシペ〉なんかとも共振している。

 ケヴィン・マーティンは、たとえばインガ・コープランドグルーパーのような素晴らしいアウトサイダーに声をかけながら、基本、ウォーリア・クイーンやフローダンのような現場で揉まれてきたMCのことを評価し続けている。彼がザ・バグ名義で何人もの強者MCたちと仕事をしていることはdiscogsを見ればわかる。ミス・レッドの『K.O.』は彼女にとってのファースト・アルバムであり、ケヴィン・マーティンのダンスホール愛がもたらした、その最新盤ということでもある。パンク・スピリッツもあるし、まったく見事な一撃。この勢いをもらって、ちょうどいま話題の恥知らずな政治家=杉田議員にも一発と。ちなみにミス・レッドは、いま人気急上昇の日本のBim One Productionとも仕事をしているし、また、今年話題になったサイレント・ポエツの最新作にもフィーチャーされている。

Okzharp & Ribane - ele-king

 ポール・トーマス・アンダーソン監督『ファントム・スレッド』(上映中)はなんともおそろしい映画で、これを最後に俳優業を引退して靴職人になるというダニエル・デイ=ルイスに三流職人の役をやらせただけでなく、三流の証として「他人の立てる音」に我慢できないという性格まで与えている(ダニエル・デイ=ルイスは何をやらされているのかわかっているのだろうか?)。他人といっても、それは妻であり、いわゆる生活音を敵視し、それはそのまま現代人が他人の立てる音を許容できない芸術家気取りのようなものになっているというカリカチュアへと跳ね上がっていく。この作品にスマホは出てこないけれど、スマホと一緒に持ち歩いている個人の空間がどのように他人の空間を侵食し、そのことが周囲に被害者意識を増大させていることか。このことが果てしなく誇張され、他人の領域に入ることの難しさ──それはまるでいまや芸術家同士の付き合いのようだとこの作品はからかい、ダニエル・デイ=ルイスもありふれたモラ夫にしか見えなくなってくる。これを見て自分のことだと思わない人の方が僕には恐ろしいし、ましてや男女の枠組みを描いた作品だと了解してしまう単純さにも呆れ返る。オーケーザープのデビュー・アルバムがどうして『近づいて・離れて(Closer Apart)』というタイトルになったかはわからないけれど、これが人と人との距離感を示すものであるとしたら、それこそ「Closer」と「Apart」を重要なキーワードとして使い分けたジョイ・ディヴィジョンの問題意識とも重ね合わせたくなるし、カーラ・ダル・フォーノなどインターネット時代にそれを試みているミュージシャンはやはりそれなりに注目を集めている時期ではある。“Why U in my Way”などという曲のタイトルはそうした邪推に拍車をかけてくれるというか。

 黒人が自分の顔に黒いインクを塗りたくるというクリス・サンダーズのヴィデオがインパクト大だった“Dear Ribane”(15)は当初、オーケーザープによるソロ名義の「Dumela 113 EP」としてリリースされたものの、ヴォーカルとダンスにフィーチャーされていたマンテ・リバンのイメージが強烈すぎたからか、2016年以降はオーケーザープ&リバン名義で「Tell Your Vision EP」へと続き、デビュー・アルバムもふたりの名義でリリースされることになった。ソウェト出身のマンテ・リバンは南アフリカを拠点とするファッション・モデルで、自身の体をキャンバスに見立てたデザイナー活動やダイ・アントワードのダンサーとして早くから注目を浴び、大胆なアフリカン・カラーをフィーチャーした彼女の衣装はそれこそグレース・ジョーンズやニッキー・ミナージュを思わせる。オーケーザープは元々、アフリカン・リズムとグライムを交錯させたLVから分かれたジェルヴァーズ・ゴードンによるソロ・プロジェクトで、アフリカン・ミュージックに対する興味はリバンと出会ったことで、より本格的になったと考えられる。音数が少ないのは元からで、どんなタイプのサウンドでもスネアがとにかく彼はいい。『クローサー・アパート』はそして、これまでのダンス・シングルに対してどちらかといえばチルアウト的なつくりとなり、冒頭から侘しい展開が続くなど前半はファティマ・アル・ケイディリのアフリカ・ヴァージョンといったものに。それはリバンが成長してジャズやクラシックを聴くようになり、“Maybe This” や“Fede”のように民衆を扇動するような歌詞から自称レディ・サイドと呼ぶ穏やかで幻想的なスタイルに改めたからだという(言葉遊びは前より巧みになっているとのことだけど、そこまではわからず)。中盤からはミドル・テンポが味を出しはじめ、ゴムやクンビアといったリズムがさりげなく入り混じる。“Dear Ribane”や“Teleported”に匹敵する曲がないのはちょっと残念だけど、それらに続編といえる“Dun”では陽気な側面も覗かせる。

 オーケーザープは早くに南アフリカを離れてしまったためにクワイトやゴムといった故郷のサウンドに少し距離を感じ、南アから離れようとしないマンテ・リバンは逆にシャンガーンやクワイトに揺るぎない誇りを持っているという。同じ土地に異なるパースペクティヴで突き刺さったふたりの持つずれがおそらくは南アという土地に向かいあう時に予期しない効果をサウンドに与えるのだろう。無理に離れるわけでもなく、あえて回帰的になるでもなく、ふたりの編み出すサウンドはいわゆるハイブリッドとも違った面白い着地点を見出したと思う。エンディングは意外にもインディー・バンド風のチルアウトだったりで、この先、どこに向かうかもわからない点も含めて期待はまだ続きそう。

バンヒロシ特別インタヴュー - ele-king

ミスター知る人ぞ知る、バンヒロシ
20世紀の音盤が狂い咲きのアナログ化

インタヴュー構成・文 安田謙一(ロック漫筆)

 京都が生んだロックンローラー、バンヒロシ。芸能生活42周年を迎える。ロックンローラーと芸能生活。一見、相反するこのふたつを無意識に同居させる男、それがバンヒロシである。小西康陽、クレイジーケンバンドの横山剣など彼の音楽への偏愛を公言するものも少なくない。それとは別に、マーク・ボラン、デヴィッド・ボウイ、荒井由実などと生身で関わった時間が生む伝説の数々も忘れ難い。知る人ぞ知る、という言葉をこれほど見事に体現した男もそうはいない。「ミスター知る人ぞ知る」の称号を与えたい。
 私(安田)自身、ほぼ40年に近いつきあいがあり、その距離感ゆえ、つい、特異な個性を見失ってしまうことがある。もったいない話である。今年リリースされたバンビーノのアルバム『お座敷ロック』が雑誌レヴューされ、「今の時代に“君の瞳に恋してる”を日本語カヴァーしてしまうセンスがすごい」と評された。なるほど、そういう見方もあるわな、と思いつつも、これをモジるなら「どんな時代にもバンヒロシのセンスはすごい」ということなのだ。それを実感してもらう音源が立て続けにアナログ化される。78年のアップルドールズ、83年のスマッシュ・ヒッツがそれぞれ7インチで、そして、20世紀のバンヒロシの作品集がアルバムでリリースされる。
 それぞれの盤が作られた当時のエピソードを中心にバンヒロシ、御本人に語ってもらった。

■アップルドールズ「あの娘になげKISS / グッドナイト・スウィート・ハート」(1978年)

バンヒロシ:高校のときにやってたバンド、京都クールスはクールス、キャロル、ロックンロールのカヴァー・バンドで、そこではヴォーカルとサイドギター。卒業でみな離れ離れになってバンドは解散。で、僕は家業の散髪屋を継ぐということで美容学校に行って、もう音楽は辞めるつもりだった。そしたら美容学校の同級生(ギターの堀家新一とベースの前田雅彦)がバンドやらへんか、と声をかけてきて。じゃあってことで、中学の同級生で大学行ってる、正ちゃん(中村正造)にドラム叩いてもらって。それがアップルドールズ。僕と正ちゃんは18で、あとのふたりは16歳。その美容学校の近くに今でいうパブみたいなんがあって、そこを杉山エンタープライズって音楽事務所がやってて。演歌のいわゆる委託盤をキングとかクラウンから出してた会社やけど、そのころCharとかヤングのサウンドも人気やということでオーディションがあり、5、6バンド出て、中にはめちゃ巧いメタルのバンドみたいなんもあったんやけど、なんか優勝してしまって。歌もので、アイドル系みたいなとこが評価されたんかも。で、「ミックスレコード」で“あの娘になげKISS”を録音して、千枚プレスやったと思う。“あの娘……”はいとこの、のぶちゃん(林信幸)がうちに来て、一緒に作った曲。ジャケは木屋町四条下がったところにあった店の前で、その隣には後に万歳倶楽部になる前のジミー・クラブって店があった場所です。
 そのパブみたいな店で何回かライヴをして。その頃の京都はブルース・ブームがいったん落ち着いて、サザン(オールスターズ)みたいなバンドや、アースシェイカーが磔磔に出てたころやから、僕らはそんなんとまったく関係ないと思ってた。完全な「芸能指向」やから。ナベプロに入って、紅白に出て、かくし芸大会に出るのが夢みたいな。だからライヴハウスにはツテもなくて全然出なくて、営業ばっかりしていた。高島屋や藤井大丸の屋上、ボウリング場とか、河原町のBALの地下にあった村八分が出てたガロってディスコとか、あとレコード屋に幟(のぼり)もって行って「新曲キャンペーン」とかやってた。美容学校卒業して、みんな就職するということでアップルドールズは自然に解散。活動期間は1年半ほどでした。

[レヴュー]
 キャロルを経由したビートルズ愛溢れるポップンロール。発売されたばかりのローランドSH-1の音色が76年(ウイングスの時代)を記録している。甘くて酸っぱいヴォーカルにすべてのジョニー大倉主義者が涙にむせぶだろう。カップリング“グッドナイト・ スウィート・ハート”はポール・マッカートニーを彷彿とさせるど直球のバラード。ほぼ英語詞で、サビが日本語でいうのがいいんです、これがまた。(安田)

■スマッシュ・ヒッツ「テルミー / 恋のハリキリボーイ」(1983年)

バンヒロシ:就職してた兄貴が実家に戻り、僕が家業を継ぐ必要がなくなった。それで昼は家の手伝い、夜はスナックでカラオケの司会なんかしながらお金を貯めて、万歳倶楽部を始めた。それが19の時。バンドへの道はあきらめてたんやけど、店の常連だったニシダさん(福田研)に誘われて、180度これまでの音楽性が違うノイズ・バンド、のいずんづりに入ってギターを弾いた。西部講堂で花火打ち上げたり、めちゃくちゃやってて。バンドはますますノービートになってきて、面白くなくなったんで脱退して、その後でギターを弾いてたのが、らっちゃん(森口邦彦)で、あとハルヲくん(天王寺春夫)もいて。そのふたりが続けてバンドを辞めて、元のいずんづりの三人で万歳倶楽部でグチを言いあってるうちに、当時、出て来たストレイ・キャッツに刺激されて、デヴィッド・ボウイと小林旭を同じようにロカビリーにするみたいなコンセプトではじめたのがスマッシュ・ヒッツ。最初の1年間はふたりの女性コーラスをつけて、レヴィロスを意識したスタイルでライヴやってた。フィフティーズのエイティーズ解釈。そのうちコーラスと初代のドラムが抜けて、さっちゃん(後にバンヒロシのパートナーとなる松永幸子)が加入。そのころ、僕が宝島に連載していた「京都てなもんや通信」を読んだ大門さん(“キッスは目にして!”のヒットを飛ばしたVENUSのプロデューサー、大門俊輔)が声をかけてくれて、レコーディングしよう、と。ドラムスが女の子でカウシルズみたいで可愛いとか言ってくれて。それで、83年、彼が興した〈ダイアモンド・ヘッズ・レコード〉から「テルミー / 恋のハリキリボーイ」をリリース。キングトーンズや、編曲で白井良明、松武秀樹も参加したスリーミンツ、プラネッツのシングルも同時に発売された。“テルミー”はグランド・ファンク・レイルロードの“ハートブレイカー”に影響されて。もともとは「ハートブレイク・ストーリー」ってタイトルやったけど、京都三条にあった散髪屋の屋号「テルミー」から取った。ストーンズじゃなくて(笑)。〈ダイアモンド・ヘッズ〉は原宿のペパーミントがやってるレーベルで、プロダクションみたいにもなってて。東京でライヴやるときはペパーミントの寮に泊まって、お手伝いさんもいて。そこで月に一回は「タモリ倶楽部」とかテレビに出たりとか、そのあと東京にいる一週間は六本木のディスコで営業させられて。一晩、30分8ステージとか。雨の日に全然客がいなくて、ひとりオッサンが彼女かホステスかを連れてきてて。で、僕らが演奏しているときに、店のボーイを呼びよせてメモにリクエスト書いて渡して。それをボーイがステージに持ってきたら「イエスタディ」って書いてて(笑)。ひとりで弾き語りで歌ったよ。終わってからチップで一万円もらう、そんな世界。で、これは違うな、と。ハルヲくんはアメリカに行くと。新しいベースを入れるという案は棄てて、京都に帰ることにした。しばらくサラリーマンしながら、84年に『バンちゃんとロック』を録音して、ソノシートで発売することになった。

[レヴュー]
 “テルミー”はテンプターズ“忘れ得ぬ君”、“神様お願い”あたりから連なる哀愁のGS歌謡。ネオGS・ムーヴメントを数年先駆けている。心象風景を投影する荒涼としたロック風景にすべての松崎由治主義者はすすり泣くだろう。タイトル(だけ)フォーシーズンズから拝借した“恋のハリキリボーイ”は絵に描いたようなネオロカビリー名曲。“テルミー”の良さは別として、スマッシュ・ヒッツ のデビュー曲としてはどう考えてもAB面が反対だろう、と37年前に思ったことを昨日のことのように思い出す。(安田)

■バンヒロシ『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』

バンヒロシ:『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』は1999年までにやった仕事をまとめてみようかなと。(今回再発される)2枚のシングルの曲と、“バンちゃんとロック”と、著作権の関係でソノシートには入れられなかった“十代はゴールデンタイム”のカヴァーもここに入れた。あとスマッシュ・ヒッツの音源とか、ソロで作った宅録音源とか。ジャケットはジャズ漫画という名目で舞台に立っていた木川かえる先生に描いてもらった似顔絵。スマッシュ・ヒッツで京都花月のポケットミュージカルのコーナーでチャーリー浜のバック・バンドやってた最後の日に頼んだもの。完全に私家盤として、CDで24枚しか作ってなくて、それを知り合いだけに配った。で、このCDを聴いた小西くんが昔、ソノシートで愛聴していた「バンちゃんとロック」を思い出して、じゃあ、レディメイドの〈524〉レーベルから再発しよう、というきっかけになった(02年に実現)。その復刻を機に僕のことを知ってくれたJET SETのスタッフがオークションとかで過去の音源を集めていて、24枚しか存在しない非売品のCDも持っていて、それが時を越えて今回、はじめてLPになります。

[レヴュー]
今回復刻される2枚のシングル(「あの娘になげKISS」はA面のみ)に「バンちゃんとロック」のいわば完全版となる5曲、スマッシュ・ヒッツが幻のアルバム『スマッシュ天国』(02年〈love time records〉からCD化)に収録予定だった3曲にライヴ音源、さらにソロ活動として開始していたフォーク・スタイルの音源に宅録テクノ・デモを加えた15曲入り。20世紀のバンヒロシが真空パックされている。なんといっても、木川かえる先生の似顔絵が30センチ四方のサイズで蘇るという事実に打ち震えます。(安田)

 99年春に『ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ』を作って、その暮れにはこれまでと異なる手法で録音を開始、翌年にはデジタル・ ロカビリー・バンド、バンビーノを結成。01年には4曲入り12インチ・シングル「il bambino ed Rock」を発表。ここに収録された“すっとびヒロシ五十三次”が、横山剣に強い影響を与え、クレイジーケンバンドの楽曲“まっぴらロック”、“京都野郎”に結実する。
 今回、アナログ化される3枚の音盤はそれぞれプレス千枚だったり、私家盤の24枚だったりと極めて希少性が高い。そんなことより! そこに秘められた勢い、色気、アイデア、ユーモア、そして若さをターンテーブルで解放される瞬間を想像して興奮している。20世紀のバンヒロシがダンスフロアに逆襲する。

JET SET presents
バンヒロシ還暦アニバーサリー・スペシャルリリース企画
~ヤァ!ヤァ!ヤァ!バンヒロシがやってくる!~

■第1弾

SMASH HITS
テルミー / 恋のハリキリボーイ (7")

税抜販売価格:1,500円
発売日:2018年11月7日(水)

横山剣氏(クレイジーケンバンド)との出会いのきっかけとなった事でも知られる SMASH HITS 名義での代表曲であり、永遠の名曲「テルミー / 恋のハリキリボーイ」。
早すぎたネオGS、和ロカビリーとして和モノ・ファンにも大人気の市場価格高騰中のレア盤です。

■第2弾

アップルドールズ
あの娘になげKISS / グッドナイト・スウィート・ハート (7")

税抜販売価格:1,500円
発売日:2019年冬発売予定

SMASH HITS 結成前のバンヒロシのデビュー・シングルにして、数々のコレコターから現物にすらお目にかかれない1枚と言われていたアップルドールズ名義での「あの娘に投げキッス / グッドナイトスイートハート」。ファンならずとも見逃せない1枚です。

■第3弾

バンヒロシ
ベリー・ベスト・オブ・バンヒロシ

発売日:2019年春発売予定
CD-Rのみで世界に24枚だけ存在すると言われているメガレアな初期ベスト・アルバムがアナログ盤として遂にリリース決定!

ご予約は下記より。
https://www.jetsetrecords.net/i/816005485719/

食品まつり a.k.a Foodman - ele-king

 日本を代表するプロデューサーのひとりである食品まつりことフードマン。フットワークから影響を受けつつ、そこに留まらない数々の試みで多くのリスナーの支持を集めてきた彼が、なんとサン・アロウの主宰するレーベル〈Sun Ark〉と契約、9月21日にニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリースする。現在、“MIZU YOUKAN”と“SAUNA”の2曲が公開中。どちら素敵なトラックです。試聴はこちらから。

・世界中から注目を集めるトラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman が9月にニューアルバムをリリース!
・新曲2曲をResident Advisorにて公開!

ダンス・ミュージックの定義を書き換える、他に類を見ない独自性溢れる音楽性で世界中から注目を集める名古屋出身トラックメイカー、食品まつり a.k.a foodman。国内での精力的な活動に留まらず、近年は全米・ヨーロッパツアーも成功させた彼が、最新アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』を米レーベル〈Sun Ark〉から9月21日にLPおよびデジタル配信でリリースすることを発表した。

ドラムやベースを大胆に排除した楽曲も多く収録され、「ウワ音だけのダンス・ミュージック」をイメージして制作したという本作。シカゴのジューク/フットワークにインスピレーションを受けながら、既存のエレクトロニック・ミュージックの定石を覆し、誰も聞いたことのない音楽を生み出してきた姿勢はそのままに、今までよりエモーショナルでメロディックな表現を取り入れている。

さらにアルバムアナウンスに伴い、先行シングル第1弾となる「MIZU YOUKAN」と「SAUNA」が、Resident Advisor にて先行公開された。タイトル通り水菓子を思わせる涼しげなサウンドが夏にぴったりの「MIZU YOUKAN」と、無類のサウナ好きとしても知られる食品まつりのサウナ愛が情趣漂うメロディーから感じられる「SAUNA」の2曲を聴きながら、食品まつり a.k.a foodman によるこれまでの数多くのリリースの集大成とも言える本アルバムを心待ちにしたい。

■Resident Advisor でのプレミア公開記事はこちらから:
https://www.residentadvisor.net/news.aspx?id=42152

■各配信サービスにて新曲「MIZU YOUKAN」「SAUNA」配信&アルバム予約受付中!
アルバムDL購入には収録曲をイメージした本人手描きのドローイングによる全14ページにわたるブックレットPDF付き!
https://smarturl.it/2pq1mv

■リリース情報
アーティスト:食品まつり a.k.a foodman
タイトル:ARU OTOKO NO DENSETSU
リリース日:2018/9/21
※LP国内発売日未定

[トラックリスト]
01. KAKON
02. PERCUSSION
03. 337
04. AKARUI
05. FUE
06. BODY
07. MIZU YOUKAN
08. CLOCK feat. MACHINA
09. TATA
10. TABIJ2
11. SAUNA
12. MOZUKU feat. PILLOW PERSON

■バイオグラフィー

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンス・ミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの〈Orange Milk〉よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、Diplo主宰の〈Mad Decent〉からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に〈Orange Milk〉からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』はPitchforkやFACT、日本のMUSIC MAGAZINE誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月にニュー・アルバム『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリース予定。

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