ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Betty Hammerschlag ——マニア受けしていたZ世代のe-girlシンガーが、実は中年のおじさんだったニュース
  2. Columns Dennis Bovell デニス・ボーヴェルひさびさの新録は無類のカヴァー集
  3. Mori Wa Ikiteiru ──森は生きているのアルバム2枚が新たなミックスでリイシュー
  4. THE CROWD──ele-king presents HIP HOP JAPAN
  5. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  6. 微風ゾーン - The West
  7. interview with NF Zessho サンプリングは、それを突き詰めればDJプレミアみたいなすごいことになるけど、俺がDJプレミアになれるわけじゃない。だったら自分にないものを埋めたいと思って。
  8. interview with Tyondai Braxton ひさびさの新作を出した実験音楽家タイヨンダイ・ブラクストン
  9. Juan Atkins ──デトロイト・テクノの創始者、ホアン・アトキンスが日韓ツアー、来日は13年ぶり
  10. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  11. Tyondai Braxton ──タイヨンダイ・ブラクストン、来日公演のサポートにジム・オルーク+石橋英子が決定
  12. 自転車日記 - デヴィッド・バーン 著 / 東辻賢治郎 訳
  13. interview with Weirdcore 謎のヴィジュアル・アーティスト、ウィアードコアへの質問
  14. 野田 努
  15. R.I.P. Miru Shinoda 追悼:篠田ミル
  16. interview with HASE-T and Bose パンクからレゲエ/ヒップホップへ、それから30年後の “現代” へ | ──80年代日本ラップ黎明期のリアルな物語をHASE-TとBoseが語る
  17. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  18. ニートtokyo ──約9年の活動に幕、記念としてTシャツ、フーディーなどのグッズが発売
  19. The Durutti Column - Renascent | ザ・ドゥルッティ・コラム
  20. 未来マニア──エレクトロニック・ミュージック・ガイド

Home >  Reviews >  Album Reviews > Sun Araw- Belomancie

Sun Araw

AmbientDubExperimentalLee Perry

Sun Araw

Belomancie

Sun Ark Records

Amazon iTunes

野田努 Mar 05,2014 UP

君は“あちらが側”に行きたいと思うか。空をめくった先にある場所のことだ。ある種の力をもった音楽と同じように、サン・アロウは連れていってくれるかもしれない。ただし、連れていってくれたとしても、それはある種の力をもった音楽が見せる“あちらが側”とは少し……いや、かなり違う。
 彼がザ・コンゴスと一緒にやったことは、〈RVNG Intl.〉というレーベルがしくんだ企画かと勝手に思っていたけれど、前作『The Inner Treaty』でも見せたダブ追求(ディレイとエコーのダブではない。ミキシングボードのダブである)という彼の試みは、新作でも継続されている。前作同様にあっけらかんとしていて、つまり、古代ローマを主題にしたことのある彼だが、重たさというものがなく、笑って良いのかどうなのか、ものすごく微妙なレヴェルを飛行しながら、微妙にニンマリさせてくれる。“あちらが側”で。

 僕は音楽について書く。さも知った風に。ところがサン・アロウの音楽は、知った風な言葉を寄せ付けないから困る。アルバムのタイトル曲を聴いてもらえれば君にもわかるだろう。いったい何なんだ、これは? これは、言うなれば温泉で鼻歌を歌っているリー・ペリーだ。実際には、脈絡を感じないフルートの音──深遠さとも、周囲の気を引くために演技とも違う──が聴こえるのだのだが、まあ何せよ、温泉で鼻歌を歌っているリー・ペリーに対して、君は何を言える? 何も言えやしない、何も。立派なことも、もっともなことも、暗い話も啓発的な話も。鼻歌は、ミキシングボードに繋がれている。ギター、ベース、パーカッション、シンセサイザーとともに。
 空間は伸縮する。そうだ、これはひとつの境地であろう……はずがない。しかし、たしかにこれは超然たる何か……などのはずはないとは思うのだが、サン・ラの宇宙語を思わせる音が散りばめられ、実験的でありながら、ずば抜けてリラックスしたフィーリングが通奏低音となっている。なにせこれは、一歩間違えれば相当アホな音楽のように思える。そして、相当アホな音楽が、いま欠乏していることに君は気がつくだろう。他人からの見られ方、ツイッター依存、そんなものとはまったく無関係な、ゆっくり揺れる飛行機に乗ってみたいと思わないか?

 君は、いくらでも深刻になれる。君は、気の抜けたサイダーが甘いことを知っている。君は、ぬるいビールが好きだ。ストーンするとイライラすることも怒ることもないように、君は“あちらが側”にいることを選んだ。14分にもおよぶ“Remedial Ventilation(治療のための換気)”の面白さをどういう風に伝えたらいいのだろう。ガスの音がしゅーしゅーと鳴っている。換気口から白い煙が部屋に入ってくる。吸って、肺にためて、吐き出す。サン・アロウとともに、とぼけた1日がはじまる。快適な1日が。

野田努