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Sun Araw

Sun Araw

The Inner Treaty

Sun Ark Records/P-ヴァイン

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野田 努   Dec 04,2012 UP
E王

 2012年は奇妙な年だった。バランスは崩れ、何人かの人たちは東京から脱出した。ものごとは二元化され、逃げることも組みすることもできない中途半端な人間はサン・アロウを聴いた。『ジ・インナー・トリーティ』はコンゴスとの共作『アイコン・ギヴ・サンク』に続くリリースで、昨年の『Ancient Romans』に次いでのソロ・アルバム。ファラオ・サンダースのカヴァーをやっている。1970年に〈インパルス〉から発表されている『Summun Bukmun Umyun - Deaf Dumb Blind』というアルバムのA面の最初のパートをやっているわけだが、しかし、なんという、まったく、なんという気の抜けようだろうか......。

 先日、紙エレキングの年末座談会のために、木津毅、田中宗一郎、松村正人、三田格という面々と1年を振り返った。そのとき、結局誌面には載らなかったのだが、「アメリカの終焉」という話が出た。ラナ・デル・レイの繰り返されるアメリカン・ドリーム用語集をはじめブルース・スプリングスティーンの新作のメッセージ、同性婚と大麻合法、そして白い子供たちのレイヴ三昧......まあ、戦後アメリカの繁栄とそれを支えた価値観が壊れているのだろう。そもそも僕には、木津毅や倉本諒のように、アメリカが良い国だなんて、まあ、とてもじゃないが思えない。もちろん、彼らが賞揚するような良い部分はあるにはある、が、僕が何度も何度もアメリカに行くたびに感じたのは、より露骨な格差社会、日本の格差社会などかわいいものだと不謹慎に思えてしまうほど生々しく視覚化され、都市の構造と化した貧富の差。ああいう社会でサヴァイヴするのは、自分には無理かもな......と思った。

 そういうなかにおいてサン・アロウのファンク(恐怖)のないファンク、気が抜けたダブはちょっとした突然変異に思える。昔ながらの、アメリカ的なレイドバックな感じではない。ただ、とにかく、腰が入っていない。覇気がない。サン・アロウは、そのずっこけ感を極めつつある。
 かつてリー・ペリーがプロデュースを手がけたキングストンの伝説のコーラス・グループ、コンゴスとの共作は、サン・アロウのキャリアにおけるピークかと思えたが、新作『ジ・インナー・トリーティ』は、彼のジャマイカ体験が無駄ではなかったこと、それどころか体験が彼の養分となったことを明らかにしている。「こんなユルくていいんですか」と、僕は、1曲目の"アウト・オブ・タウン"の隙間だからけのリズム、ベース、ギターを聴きながら感心した。これは......ザ・スリッツにもブリストルにもアレックス・パターソンにも(もちろんベーシック・チャンネルにも)思いつかなかった、間抜けなダブの真骨頂だ。
 ダブという技法、スタイル、ジャンルは、もうたいがいのことがやられているけれど、サン・アロウを聴いていると、まだ次の一手が残っていたことを思い知らされる。徹底的に脱力すること、気合いなど入れないこと。マスタリングをソニック・ブームが担当しているように、これをEARのダブ・ヴァージョンと位置づけることもでるかもしれない。小刻みなリズムが気持ち良すぎる。全体的にだらしないが、バランスを失っていはない。

 ああ、疲れた。肩が凝る。サン・アロウを聴こう。嬉しいことに日本盤には訳詞がついている。そして、キャメロンの歌詞が、興味深いダブルミーニングの言葉遊びとナンセンスであることを知る。それでこの音楽性か......ますます好きになったわ。

野田 努