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Sun Araw, M. Geddes Gengras Meet The Congos

Sun Araw, M. Geddes Gengras Meet The Congos

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野田 努   May 31,2012 UP
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 ザ・コンゴスの『ハート・オブ・コンゴス』という1977年にリリースされたアルバムは、リー・ペリーの代表作のひとつに挙げられる。ブラック・アーク・スタジオで録音されたこのルーツ・ダブの作品は、ダブという瞑想的な効果をサイケデリックな領域にまで引き伸ばしている。美しいコーラス、ナイヤビンギのドラミング(そう、コンゴの響き)、そしてペリーの呪文のようなダブミキシング......もし誰かがリー・ペリーを知りたければ、最初に聴くべき5枚に入る大大大名盤である。そうした歴史的なコーラス・グループ、ザ・コンゴスをコラボレーションの相手に選ぶサン・アロウとゲド・ゲングラスの度胸、そしてそのセンスは見上げたものだと言えるのかもしれない。もっともこのレーベルは、昨年は、イクエ・モリ(元DNA)とジュリアナ・バーウィックとのコラボレーションを仕組んでいるので、サン・アロウとゲド・ゲングラスのセンスというよりも、真実はレーベル主導の企画であるという可能性も高い。いずれにせよ、今日のUSインディの革新派を代表するふたりと70年代のジャマイカの伝説が邂逅するのは、ひとつの事件と言える。

 ところが、『ハート・オブ・コンゴス』を愛するリスナーが『アイコン・ギヴ・サンク』を同じように愛する可能性は低いと僕はみる。ダブというスタイルは、英語圏内では、昔は、X-レイ・ミュージックという異名があった。レントゲンを通して骨が見えるように、ダブ・ミキシングによって曲のドラム&ベースが浮き彫りになるからだ。そういう観点で言えば、サン・アロウとゲド・ゲングラスのミキシングはダブとしての体をなしていない。ロサンジェルス流とでも言うのか、出音のほぼすべてにエフェクトをかますミキシングでは、曲の骨格はさらに茫漠とする。シャキっとしたところがなく、だらしないのだ。ベースがないし、これほどのナイヤビンギを録音しながら、そのポリリズミックなビートを際だたせようと考えていない。享楽的だが、やかましいほど過剰なエフェクトとギターが反響している。船酔いしたような気分になるのだ。
 当たり前だが、『アイコン・ギヴ・サンク』にもそれなりの良さがある。アマンダ・ブラウンがDJスクリューに影響を受けたという話は前にも書いたが、結局、あのドロッとした感覚、つまりテンポを遅くすることで得られる幻覚性がダブへと行き着くのは、まあ、あまりにも自然な成り行きだとも言える。2010年のポカホーンティッドの最後のアルバム『メイク・イット・リアル』にはサン・アロウが参加しているが、そこにもリー・ペリー的なダブのセンスが注がれている。

 それにしても『アイコン・ギヴ・サンク』を聴いていると、「MEDICAL MARIHUANA PROGRAM」と記された身分証明書と同サイズのカードが思い浮かぶのは何故だろう。アメリカに普及しつつある医療目的(関節炎の痛み止め、不眠症など)のウィードの合法化、医療大麻購入の許可証だ。カリフォルニア州、ミシガン州、ニュージャージー州、アリゾナ州......、なんでも16の州で大麻は医療用に合法化されている。アメリカ人の友人は「これで私たちは吸うことができる」と自慢したものだが、少なからずこの動きは音楽に影響を与えているんじゃないだろうか。いまなぜスクリューなのか、ドローンなのか、ダンスなのか、クラウド・ラップなのか、まあ、誰もが大麻を好きなわけではないので、すべてをそこに集約することはできないけれど、軽視すべき話もでもないだろう。
 僕はアメリカの友人に、とりあえずは「I'm jealous!」とは言ったものの、医療目的の大麻の普及には政治権力の影もちらついている。かつてはオバマ大統領も「私も吸ったことがある」と正直に言って好感を得たものだが、そのオバマを今年の秋に控えた選挙でどうしても大統領の座から降ろしたい共和党のひとり、ロン・ポールが医療大麻の合法化に積極的だ。大麻にネガティヴな態度を見せはじめているオバマはすでにいち部のアフリカ系から「traitor(裏切り者)」などと言われている。ことモスリムからは、オバマが「同性婚を認めたこと」と大麻の合法化に乗り気でないことが重なって(モスリムは戒律として酒は飲めない)、オバマ離れをおこしている。そして、オバマがもっとも警戒しているロムニー(右傾化する共和党においては当然、同性婚反対)が支持を集め出しているらしい。
 つい先日もアメリカのあるニュース番組で大麻特集が組まれたそうだ。番組中にカリフォルニアの大麻ショップの店員は、思わず「オバマよりもブッシュのほうがマシだ」とさえ口走ってしまったという。景気回復のために富裕層への増税/中流以下への減税をはじめ、低所得者への医療的な配慮などに取り組んでいる現大統領よりも、あれだけの金、そして命を無駄にしながら意味のない戦争をした前大統領を称えている。これが、越智道雄の(入門書というにはあまりにもエモーショナルな)『大統領選からアメリカを知るための57章』が言うところの「貧すれば鈍す」であり、目的のためには手段を選ばない共和党に仕組まれた戦略なのだろうか。かつてオバマ支持層の主成分だったアフリカ系やミレニアルズは分裂をはじめている(次号、紙エレキングのローレル・ヘイローのインタヴュー参照)。
 いや、逆に、オバマの同性婚支持も人気取りのひとつの戦略と受け止める向きもあるようだが、『大統領選からアメリカを知るための57章』を読んでいる限りは、世界恐慌をおこしてまでもオバマを降ろしたがっている共和党が巻き返すよりはオバマ再選のほうがまだいいんじゃないかといまの僕には思える。『ハート・オブ・コンゴス』には骨があり、言ってみれば植民地主義への反論があった。『アイコン・ギヴ・サンク』にはそのどれもが見あたらない。ただ、酩酊している。

 サン・アロウはアメリカではすごい人気者なんだそうで、SXSWに行った菊地佑樹君は、リキッドルーム・クラスのヴェニューに開場3時間前に並んでも入れなかったと言っていた(興味深い話だが、サン・アロウの前作は東京ではわりと売れたのに、関西ではさっぱり売れなかったそうだ)。その点においては、はっきりと、「I'm jealous!」だね。

野田 努