「Man」と一致するもの

アフリカは自分たちのゴスペルを創出する - ele-king

 2020年、コロナ禍のさなか、多くの人が〈Jerusalema〉に合わせて踊るところを自撮りし、SNSに投稿した。南アフリカの歌手が歌ったこの曲は神への信仰を歌ったゴスペルであると同時に、サブサハラのダンス・ミュージックを取り入れたアーバン・ミュージックの範疇にある。アフリカ南部とコートジボワール、コンゴのゴスペル音楽シーンを概観する。

 1922年ロンドンで行われた世界初のアフリカ人歌手による宗教音楽の録音が大英図書館のアーカイブに保存されている。西アフリカに広く普及しているヨルバ語の「Jesu olugbala ni mo f’ori fun e」という歌詞は明解である。「われは救世主イエスに身を捧ぐ」という意味だ。この曲を歌い、作詞・作曲者でもあるジョサイア・ジェシー・ランサム=クティ(1855-1930)は、イギリス保護領ナイジェリアの英国国教会の聖職者であり、人々を教会に惹きつける強い力を音楽に見出していた(1)。彼は録音の8年後に亡くなったが、彼の血筋はアフリカの知的・文化的歴史に名を刻むことになる。孫のフェラ・ランサム=クティ(1938-1997)はアフロ・ビートのパイオニアであり、「ブラック・プレジデント」と呼ばれているが、1977年に録音されたアルバム『Shuffering and Shmiling』(2) の中で、ナイジェリア国民が盲目的に宗教を受け入れている様を非難している。しかし、これは無駄なことだった。2060年には、地球上のキリスト教徒の40%がアフリカにいるだろう。そして、アフリカの宗教音楽も同様に社会での地位が高まりつつある。まず、典礼聖歌のレパートリーが解放されて、礼拝堂や教会の外で、「霊的に生まれ変わった」歌手たちによって歌われた。彼らはサブサハラの福音派、ペンテコステ派の信者で、時として女性である。この新しいアフリカのキリスト教音楽のアーティストたちは、福音派信仰の特徴のひとつである、「新生」に(たと) えるべき回心を自ら体験しているが、教会の中だけで歌い報酬を受け取らない典礼聖歌の歌い手とは異なっている。

 コロナ感染症拡大が社会や経済に与えた影響と魂の癒やしへの欲求が、音楽配信プラットフォームで新しい世代の歌手たちが頭角を現す後押しとなった。彼らはリンガラ語で、ヌシの言葉で(3)、ナイジェリアのピジン英語で、神の言葉と家族の価値を説く。彼らのリズムは、サブサハラのアーバン・ビート(南アフリカのアマピアノ[ハウス・ミュージックのサブジャンルのひとつ]、ナイジェリアのアフロ・ビート)も、5千万人以上のアメリカ人が高く評価している、R&B、ポップ・ミュージック、大編成のオーケストラとバイオリンといった、信仰に結びついた音楽の規範的様式も同じように取り入れている。

 ジンバブエ、エスワティニ(旧スワジランド)と南アフリカは、アフリカ南部にあって、才能が育つ好環境の土地である。そこは合唱団が数多く存在する土地であり、ボーカル・ミュージックが重要な地位を占めて、サブサハラの文化産業のニッチにあるキリスト教音楽の中心地であり続けている。2015年に行われたある調査によると、南アフリカの国民の13%がゴスペルを聴くのを好むということだ。この数字は世界の平均の3倍以上の値である(4)。この国では、国内のゴスペル・ミュージック市場は「世俗」音楽市場と競い続けている。それは、ソウェト・ゴスペル・クワイア(5)のような国境を越えて評価されている大合唱団や、ベンジャミン・ドゥべ(6)のような歌う牧師、活気あるこの業界、毎年11月にゴスペル音楽の活況をテレビを通して祝う南アフリカ放送協会のクラウン・ゴスペル・アワードの放送などのおかげである。アパルトヘイトの間、ゴスペル音楽は批判をかきたて、希望を鼓舞してきた(7)。今日でも「大部分の南アフリカ人にとってゴスペル音楽は、自分が何者であるか、人生をどう考えているか、どのような試練を経てきたかを表現するよすがとなっている」と、ヨハネスブルクのウィットウォーターズランド大学の民族音楽学教員、エヴァンス・ネチヴァンベは指摘している。

 モータウン・ゴスペル・アフリカはデトロイトのソウル・ミュージック会社の子会社レーベルである。2021年、1994年に結成された南アフリカのゴスペル合唱団ジョイアス・セレブレーション(8)との契約からアフリカ大陸での活動を始めた。アビジャンにあるユニバーサル・ミュージック・アフリカの社屋内に本社を構えて(9)、最近アフリカの3つのキリスト教歌曲が成し遂げた国際的成功を再現しようと、新しい才能の発掘も行っている。3つの曲のうちのひとつである〈Jerusalema〉[原題の意味は「エルサレム」]は、メソジスト教会の信者で、DJでもありプロデューサーでもある、南アフリカ人のガオゲーロ・モアギ、別名Master Kgが制作し、ノムセボ・ズィコデが歌って、2019年末に発表された(10)。リンポポ・ハウス(アフロ・ハウスのサブジャンルのひとつ)に乗ったズールー語の歌詞の最初の部分は、聖書(新約聖書の最後の書である『黙示録』)から引用されている。国内で発表されたあと、SNSのTikTokのダンス・チャレンジに用いられて(11)、まずアンゴラでヒットし、ポルトガルで勢いを得て、2020年夏のヨーロッパにおけるヒット曲のひとつとなった。そして、ナイジェリアのスター歌手ブルナ・ボーイのリミックス(12)のおかげでアフリカ大陸に凱旋した。この曲は今までに、5億6400万回以上YouTubeで再生されている。


スィナッチ photo by Pshegs, CC-BY-SA-4.0

 同じ時期にアメリカ合衆国では、別のアフリカのゴスペル曲が話題になっていた。ナイジェリア人歌手スィナッチの〈Way Maker〉である(13)。彼女は、いろいろと批判を受けているナイジェリアの牧師、クリス・オヤキロメ氏(カルト的偏向が特に非難されている)が設立した福音派教会である「キリスト大使館」の合唱団出身で、この曲は教会のレーベルLoveworldから2015年末に発売された。4年後、アメリカの白人キリスト教徒の歌手マイケル・W・スミスにカヴァーされて、〈Way Maker〉は(14)、コロナ・ウイルスの世界的蔓延の中、癒やしの曲になった。それと同時に、アメリカ音楽産業のバイブル、ビルボード誌で、キリスト教歌曲部門の1位を占めた最初のメイド・イン・ナイジャ(ナイジェリア)のゴスペル曲となった。そして、国際的ヒットの3つめは、[10年以上も前に作られた]〈Comment ne pas te louer〉[原題の意味は「あなたをほめたたえずにはいられない」](15)がSNSで爆発的に話題になったことである。この曲は、カメルーン出身のベルギー人で、聖霊布教会の聖職者であるオーレリアン・ボレヴィス・サニコの作曲で、今年初め、ヨーロッパの隅々まで圧倒的な人気を博したカトリック歌曲となった。

 この3曲は、メディア・グループAudiovisuel Trace TVが2015年に開設したチャンネルであるTrace Gospelで何度も放送され、「フランス語圏アフリカのメンタリティの縛りを破り、自分たちの勢力圏に留まっていてはいけないと理解させることになりました」と、アビジャン在勤の番組編成者、カーティス・ブレイ氏は指摘している。「これまで私たちは実際のところ、英語話者に比べると、まったく保守的で伝統主義的でした。宗教音楽は教会でしか聴くことができませんでした」と彼は続ける。今では、ますます多くの、回心した若いフランス語話者のキリスト教信者が「自分の神への愛だけでなく、ミサを離れたコミュニティの中にあるアーバン・ミュージックへの情熱を正しいものだと認めることができる」この新しい考え方に従うようになってきているとブレイ氏は見ている。ブレイ氏はまた、「音楽クリップでわかるように、フランス語ゴスペルは明らかにプロフェッショナル化」しているとも指摘している。2019年、コンゴ人歌手、デナ・ムワナの〈Souffle〉[原題の意味は「いぶき」](16)のために制作されたクリップは、英語圏で制作されたクリップに比べても、まったく遜色がない。「目には見えないことを/聴くことができないことを/神の霊よ、あなたは知っている/そうあなたは知っている……」


デナ・ムワナ photo by Missionnaire2013, CC-BY-SA-4.0

 このデナ・ムワナは、モータウン・ゴスペル・アフリカのサポートを受けた最初のフランス語話者アーティストのひとりである。コンゴの福音派教会の合唱団で名を高めた後に、Happy Peopleレーベルと契約した[この契約を継続しつつ、モータウン・ゴスペル・アフリカのサポートを受けている]。このレーベルは、彼女の夫のミシェル・ムタリ氏が、モバイル決済サービスのマネージャーを経験した後、Canal+ Afriqueのセールス・ディレクター を経て立ち上げたもので、そのLinkedIn[ビジネス向けSNS]のページによると、「キリスト教の文化活動・感化活動の企画・実行に特化している」としている。ムタリ氏によれば、「新しいゴスペルにはふたつの目的がある。福音伝道と、アーティストが自分の才能によって生活することを可能にすることである」。アビジャンのゴスペル音楽業界に端的に表れているように、今やMP3のシステム、すなわち、3カ月ごとに1曲発表する、ということが大切である。


Femua15開会式のKSブルーム photo by Aristidek5maya, CC BY-SA 4.0

 コートジボワールの経済の中心地アビジャンでは、キリスト教ラップを歌う売出し中のラッパー、スレイマン・コネ、別名KS・ブルームが「人々を神の御許に導く(17)」ために歌っている。彼は2017年に「万物の創造主」と出遭ったという。それ以来、2021年に発表されたアルバム『Allumez la lumière』[原題の意味は「光をともせ」]とシングル曲〈C’est Dieu〉[原題の意味は「 神がお始めになった」](18)の発売にも支えられて、彼の人気は急上昇した。昨年の夏には、フランスの一般メディアの注目は集めなかったが、カジノ・ド・パリ[コンサート・ホール]を満員にした。4月の終わり、マジック・システム(19)のリーダー、サリフ・トラオレが創設したコートジボワールのFemua フミュア(アヌマボ・アーバン・ミュージック・フェスティバル)の第15回フェスティバルで、KS・ブルームはラッパーのブーバ(20)と並んで、出演者の一角を占めた。この26歳の若いアーティストの航跡には、コートジボワールの音楽シーン「クーペ=デカレ[ダンス・ミュージックのひとつの流れ]」の離脱者の驚異的な成功を見ることができる。多くの者が2019年8月のDJ アラファト(21)の事故死の後、[彼がいなくなった]クーペ=デカレから離脱して、それぞれ国内に4千ある福音派教会のひとつへと戻っていったのだった。

 新しい世代の出現があっても、新しいゴスペルも仲間内の足の引っ張り合いや意見の対立から免れているわけではない。「気をつけていなければ」とコンゴ人のキリスト教徒のラッパー、エル・ジョルジュ(22)は2022年7月に警告している。「キリスト教徒のアーバン・ミュージックは[主流のアーティストの模倣となってしまって]実のないものになってしまうだろう……。もしアーバン・ミュージックを通して神に仕えるように神が本当に君を呼んでいるのなら、君は同様に、独創性を発揮するビジョンももっているはずだ。独創性を伸ばせ(23)

 救世軍の一員で、ジンバブエのゴスペルの父である80歳のギタリスト、マカニック・マニエルーケ(24)は、これまでに約30のアルバムを出してきた。その彼は独創性をどう伸ばすかという問いを自らに問うたことはない(25)。「歌っている内容に自分が納得できているかだけが重要です」と、2018年に彼は説明している。若い人への彼のアドバイスはどういうものか? 「神を信じて、罪を犯さぬよう立派に行動しなさい。私たちが今日生きている世界は、まったくのところ、誘惑に満ちています」。今やそのひとつに、神を賛える歌を歌うことで財産を築くことができるという誘惑がある。

出典:ル・モンド・ディプロマティーク日本語版9月号

(1) Janet Topp Fargion, «The Ransome-Kuti dynasty », The British Library, janvier 2016. [このサイトで〈Jesu olugbala ni mo f’ori fun e〉(「 われは救世主イエスに身を捧ぐ」)を聴くことができる]
(2) [訳注]Fela Ransome-Kuti - Shuffering and Shmiling https://youtu.be/kjEObOMRJJE
(3) [訳注]nouchi:コートジボワールで主に若者によって用いられている、ジュラ語・マリンケ語・フランス語が混交した言葉。ラルース仏語辞典による。
(4) Darren Taylor, « In South Africa, Gospel Music Reigns Supreme », VOA, 8 octobre 2015.
(5) [訳注]Soweto Gospel Choir https://youtu.be/fjiVG1QKZJs
(6) [訳注]Benjamin Dube https://youtu.be/jkAcQs39fuA?list=RDcs0mtACUd58
(7) ヨハネスブルクのメソジスト宣教団がもつ学校の合唱団のために、教員のエノック・ソントンガが1897年に作曲した〈Nkosi Sikelel’ iAfrika〉(神よ、アフリカに祝福を)は、アフリカ民族会議(ANC)の賛歌となり、[アパルトヘイト反対運動の中でさかんに歌われ]のちに新生南アフリカのふたつの国歌のうちのひとつとなった。
(8) Murray Stassen, « Universal Music Africa and Motown Gospel sign superstar South African music group joyous celebration », Music Business Worldwide, 19 mars 2021. [Joyous Celebration - Ndenzel’ Uncedo Hymn 377 https://youtu.be/g-4QAtOrIoA]
(9) [訳注]モータウン・グループはユニバーサル・ミュージックの傘下にある。
(10) [訳注]Master KG - Jerusalema [Feat.Nomcebo Zicode] https://youtu.be/fCZVL_8D048
(11) [訳注]Jerusalema Dance Challenge https://www.youtube.com/watch?v=mdFudLPyqng
(12) [訳注]Master KG - Jerusalema Remix [Feat. Burna Boy and Nomcebo] https://youtu.be/9-RhCvYpxqc
(13) [訳注]Sinach - Way Maker https://youtu.be/QM8jQHE5AAk
(14) [訳注]Michael W. Smith - Way Maker https://youtu.be/iQaS3KudLzo?list=RDiQaS3KudLzo
(15) [訳注]Aurélien Bollevis Saniko - Comment ne pas te louer https://youtu.be/Wv_KsPW0tIY
(16) [訳注]Dena Mwana - Souffle https://youtu.be/NM-eXztJFc4
(17) « En Côte d’Ivoire, l’engouement pour le rap chrétien », Radio-France Internationale, 30 avril 2023.
(18) [訳注]KS Bloom – C’est Dieu https://youtu.be/m0N965nXmXY
(19) [訳注]Magic System - Anoumabo est joli https://youtu.be/oPK3-ogvAqI
(20) [訳注]Booba - Préstation Femua 15 Abidjan 2023 https://youtu.be/XRDes6dEipU
(21) [訳注]DJ Arafat - Ça va aller https://youtu.be/SfMd87D16a8?list=PLuD1V5DZjZV7uoReuPNyF2e1jPhbbWe3e
(22) [訳注]El Georges – Jubiler https://youtu.be/9l7fW_A9k2c
(23) « El George[sic] agacé par les artistes urbains qui imitent Tayc, Hiro», Infos Urbaines, 19 juillet 2022.
(24) [訳注]Machanic Manyeruke - Madhimoni (“Demons”) https://vimeo.com/452912642
(25) Sur cette figure zimbabwéenne, on peut voir Machanic Manyeruke : The Life of Zimbabwe’s Gospel Music Legend, de James Ault, https://jamesault.com

PJ Harvey - ele-king

PJハーヴェイのいくつもの声

 2001年、PJハーヴェイはロックの女神としての絶頂期を迎えていた。前年にリリースされた『Stories from the City, Stories from the Sea』は、これまででもっとも洗練された、理解を得やすいアルバムとなり、1998年の緊張感をはらんだ『Is This Desire?』でつきまとわれた暗い噂を一掃するような自信に満ちた一撃となった。その年の9月にマンチェスター・アポロでのハーヴェイのライヴを観たのは、彼女がマーキュリー賞を受賞してから数週間後のことで、私がこれまでに観た最高のロック・ギグのひとつとなった。ラジオ向きの、煌びやかな加工がされていない “This Is Love” や “Big Exit” のような曲は、より記念碑的に響き、まるで彼女がブルース・ロックの原始的な真髄にまで踏み込み、マッチョ的な要素や、陳腐なエリック・クラプトンのような、このジャンルにありがちなものすべてが刈り取られたかのようだった。

 だが、そのショウは、ほとんどウィスパーといえるほどの小声で始まった。ハーヴェイは単独でステージに上がり、ヤマハの QY20 でのハーモニウム風の伴奏に合わせ、子どものような、物悲しいメロディを歌った。私はその曲を判別できなかったが、サビのコーラスに差しかかると、客席でクスクス笑いが起こった。バブルガム・ポップのグループ、ミドル・オブ・ザ・ロードの1970年のヒット曲 “チピ・チピ天国” の有名なリフレイン「Where’s your mama gone? (あなたのママはどこへ行ったの?)」をとりあげたからだ。ポリー・ジーンにはユーモアのセンスが欠如しているなんて、誰にも言わせない。

 昨年リリースされたコンピレーション『B-Sides, Demos & Rarities』を聴くまで、このことはすっかり忘れていた。“Nina in Ecstasy 2” は、『Is This Desire?』のセッションで録音され、結果的には「The Wind」のB面としてリリースされたものだ。当時は珍品のように見做されていたに違いないが、この曲はハーヴェイの、その後のキャリアの方向性を示す初期におけるヒントだったのではないかと思い当たった。この曲で使われた、浮遊感のある、ほとんど肉体から切り離されたような儚い高音域の声は、2007年の『White Chalk』や、2011年の『Let England Shake』などのアルバムで再び使われた種類の声だ。さらに、今年の『I Inside the Old Year Dying』でも聴くことができる。この作品をハーヴェイのフォーク・アルバムと呼びたい衝動にかられるものの、それは、私がこれまでにまったく聴いたことのないフォーク・ミュージックなのだった。

 熟練したアーティストが、自分の強みを離れたところで新たな挑戦をするのには、いつだって心惹かれる。彼女のレコード・レーベルにとってみれば、『Stories from the City, ~』の路線を継承し、クリッシー・ハインド2.0へと変化を遂げてほしかったことだろう。だが、彼女は2004年に、セルフ・プロデュースしたラフな感じを楽しむようなアルバム『Uh Huh Her』 を発表した。アートワークは、セルフィ(自撮り写真)と自分用のメモをコラージュしたもので、そのひとつには、「普通すぎる? PJHすぎる?」との文字があり、彼女の創作過程を垣間見ることができる。「曲で悩んだら、いちばん好きなものを捨てる」という一文は、ブライアン・イーノとペーター・シュミットの「オブリーク・ストラテジーズ」のカードからの引用ではないかとググってしまったほどだ。

 ハーヴェイにとって「いちばん好きなもの」とは、彼女自身の声、あるいは少なくとも彼女の初期のアルバムで定義づけられた生々しい、声高な叫びを意味するのではないか。それは、驚くべき楽器だ。1992年のデビュー作『Dry』のオープニング・トラック “Oh My Lover” を聴いてみてほしい。歌詞はかなり曖昧なトーンで書かれているのに、彼女の歌声には驚くべき自信とパワーが漲っている。このアルバムと、それに続く1993年のスティーヴ・アルビニによる録音の『Rid of Me』にとって効果的だったことのひとつは、荒涼としたパンク・ブルースのおかげで、ヴォーカルに多くのスペースが割り当てられたことだった。ハーヴェイの喉の方が、当時のグランジ系が好んで使用したディストーションの壁よりも、より強力だったのだ。1995年の豊穣なゴシック調の『To Bring You My Love』では、彼女は自分の声をさらに先へと押し出し、BBCスタジオでの “The Dancer” のパフォーマンスでは、ディアマンダ・ガラスとチャネリングしているかのように聴こえたし、そう見えた。実際に彼女は自身の声の形を変える実験も始めていた。最近のNPRとのインタヴューでは、プロデューサーのフラッドに、閉所恐怖症的な “Working for the Man” の録音の際、毛布をかぶされ、マイクを喉に貼りつけて歌わされたことを回想している。

 10枚のソロ・アルバムと、長年のコラボレイターであるジョン・パリッシュとのデュオ・アルバム2枚というハーヴェイのディスコグラフィを貫く共通項は、おそらく、頑なに繰り返しを拒んできたことだろう。多くのアーティストが同じことを主張しがちだが、ハーヴェイは暴力的なほどの意志の強さでこれを貫き、デイヴィッド・ボウイと匹敵するほど、自分をコンフォート・ゾーン外に意図的に追いやってきた。『White Chalk』では、ギターを、ほとんど弾くことのできないピアノに替え、元来の声域外で歌った(彼女は当時のKCRWラジオのインタヴューで「多分、自分が得意なことをやりたくなかっただけ」と語っている)。歌詞においても、それまでの自分には、手に負えないだろうと思うようなテーマに努力して取り組んでいる。『Let England Shake』は主にオートハープを使って作曲されたが、第一次世界大戦の歴史を考慮に入れて、自らをある種の戦争桂冠詩人に変身させた。2016年の『The Hope Six Demolition Project』 では、写真家のシェイマス・マーフィーと世界中を旅した経験から、現代政治と外交政策の意味を探ろうと試みた。

 『I Inside the Old Year Dying』は、もうひとつの、ドラマティックな変化を示している。この作品は、2022年に出版された、彼女の生まれ故郷のドーセット地方の方言で書かれた長編の詩集『Orlam』が進化したもので、歌詞カードには、曲を彩る難解な言い回しの意味の説明の脚注が付いている。「wilder-mist(窓にかかった蒸気)」、「hiessen(不吉な予感)」、「femboy(フェムボーイ=少女のような少年)」、「bedraggled angels(濡れた羊)」などだ。それらの言葉の馴染みのなさは、音楽にも反映され、音楽の元の素材から連想できるようなフォークの作風は意識的に避けられている。ハーヴェイはこのアルバムを、パリッシュとフラッドというもっとも信頼するふたりのコラボレイターに加え、フィールド・レコーディングをリアルタイムで操作した若手のプロデューサー、アダム・バートレット(別名セシルとして知られる)と共に制作した。フラッドは、より伝統的な楽器編成を古風なシンセサイザーで補い、「sonic disturbance(音波の攪乱)」としてもクレジットされている。これは、温かいが、尋常ではない響きのアルバムであり、ハーヴェイの成熟した作品を定義するようになった、どこにも分類することのできないクオリティを保っている。この音楽は、時間や場所を超えて存在するようなものではあるが、彼女にしか創り得なかったものなのである。

The many voices of PJ Harvey

written by James Hadfield

In 2001, PJ Harvey was at the peak of her rock goddess phase. “Stories from the City, Stories from the Sea,” released the previous year, had presented her slickest, most accessible album to date – a confident blast to dispel all the dark rumours that had accompanied 1998’s fraught “Is This Desire?”. The show I saw her play at the Manchester Apollo that September, just weeks after winning the Mercury Music Prize, was one of the best rock gigs I’ve ever seen. Without their radio-friendly production gloss, songs like “This Is Love” and “Big Exit” sounded even more monumental, as if she was tapping into some primal essence of blues rock, shorn of all the macho, Eric Clapton cliches you’d normally associate with the genre.

Yet the show had started almost at a whisper. Harvey took the stage alone and sang a plaintive, childlike melody, over a harmonium-style accompaniment played on a Yamaha QY20. I didn’t recognise the song, but when she reached the chorus, a chuckle rose from the audience: she’d lifted the “Where’s your mama gone?” refrain from “Chirpy Chirpy Cheep Cheep ,” a 1970 chart hit by bubblegum pop act Middle of the Road. Let nobody say that Polly Jean doesn’t have a sense of humour.

I’d forgotten about this until I heard the song again on the “B-Sides, Demos & Rarities” compilation, released last year. “Nina in Ecstasy 2” was recorded during the sessions for “Is This Desire?” and ended up getting released as a B-side to “The Wind.” It must have seemed like a curio at the time, but in retrospect it strikes me as an early hint of where Harvey would head later in her career. The voice she used on that song – floating, almost disembodied, delivered in a fragile higher register – is one that she would return to on albums such as 2007’s “White Chalk” and 2011’s “Let England Shake.” You can hear it again on this year’s “I Inside the Old Year Dying,” which I’m tempted to call PJ Harvey’s folk album, except that it doesn’t sound like any folk music I’ve heard before.

It’s always striking to hear an accomplished artist play against their strengths. Harvey’s record label probably would have loved her to continue on the trajectory of “Stories from the City…,” morphing into Chrissie Hynde 2.0. Instead, she delivered 2004’s rough, self-produced “Uh Huh Her,” an album that seemed to revel in its imperfections. The artwork, a collage of selfies and notes-to-self, offered glimpses into her creative process. “Too normal? Too PJH?” reads one of the notes. “If struggling with a song, drop out the thing you like the most,” reads another – a quote that I had to Google to check it wasn’t actually from Brian Eno and Peter Schmidt’s Oblique Strategies cards.

For Harvey, “the thing you like the most” can mean her own voice – or at least the raw, full-throated holler that defined her earlier albums. It’s a formidable instrument: just listen to “Oh My Lover,” the opening track on her 1992 debut, “Dry.” There’s a startling confidence and power in her delivery, even as the lyrics strike a more ambiguous tone. Part of what made that album and its 1993 follow-up, the Steve Albini-recorded “Rid of Me,” so effective was that their stark punk-blues left so much space for the vocals. Harvey’s larynx was more powerful than the walls of distortion favoured by her grunge contemporaries. On 1995’s lushly gothic “To Bring You My Love,” she pushed her voice even further: in a BBC studio performance of “The Dancer,” she sounds – and looks – like she’s channelling Diamanda Galas. But she had also begun to experiment with altering the shape of her voice. In a recent interview with NPR, she recalled that producer Flood recorded the claustrophobic “Working for the Man” by getting her to sing under a blanket with a microphone taped to her throat.

If there’s a common thread running through Harvey’s discography – 10 solo albums, as well as two released as a duo with longtime collaborator John Parish – it’s a stubborn refusal to repeat herself. Plenty of artists claim to do this, but Harvey has shown a bloody-mindedness to rival David Bowie, deliberately forcing herself out of her comfort zone. For “White Chalk,” she switched from guitar to piano – an instrument she could barely play – and sang outside her natural vocal range. (“I just didn’t want to do what I know I’m good at, I guess,” she told an interviewer on KCRW radio at the time.) Lyrically, too, she has made a deliberate effort to engage with themes that had seemed out of her grasp. “Let England Shake” – written mostly on autoharp – found her transformed into a kind of war laureate, reckoning with the history of World War I. 2016’s “The Hope Six Demolition Project” attempted to make sense of modern politics and foreign policy, based on her experiences travelling around the world with photographer Seamus Murphy.

“I Inside the Old Year Dying” marks another dramatic shift. It evolved from “Orlam,” a book-length poem that Harvey published in 2022, written in the dialect of her native county, Dorset. The lyric sheet comes with footnotes explaining the meanings of the arcane terms that pepper the songs: “wilder-mist” (steam on a window), “hiessen” (a prediction of evil), “femboy” (a girly guy), “bedraggled angels” (wet sheep). The unfamiliarity of the language is mirrored by the music, which consciously avoids the folk idioms which the material would seem to encourage. Harvey created the album with Parish and Flood, two of her most trusted collaborators, along with the younger producer Adam Bartlett (otherwise known as Cecil), who supplied field recordings that were manipulated in real-time. Flood complemented the more traditional instrumentation with archaic synthesisers, and is also credited for “sonic disturbance.” It’s a warm but also uncanny-sounding album, with an unplaceable quality that has come to define Harvey’s mature work. It’s music that seems to exist out of time, out of place, but could only have been created by her.

なのるなもない × YAMAAN - ele-king

 00年代に降神として頭角をあらわし、ソロでも活動をつづけているラッパー、なのるなもない。その新作は、かねてよりコラボを重ねてきたトラックメイカーのYAMAANとの共作アルバムに。アルバム単位でがっつり組むのは今回が初めてだという。題して『水月』、10月10日リリース。YAMAANによるニューエイジ~アンビエント・タッチのトラックのうえで、なのるなもないによる独特のことばが流れていく……いや、このマッチング、相性ばっちりなのではないでしょうか。ダンサブルな曲もアリ。CDは特殊パッケージで、モノとしてのよさも堪能できそうだ。ぜひチェックしてみて。

https://linkco.re/1cnUB1Tg

ラッパー・スポークンワーズアーティストのなのるなもないと、プロデューサー・トラックメイカーのYAMAANが共作アルバム『水月』を10月10日(火)にリリース。

ラッパー・スポークンワーズアーティストのなのるなもないと、プロデューサー・トラックメイカーのYAMAANが共作アルバム『水月』を10月10日(火)にリリースする。
なのるなもないは2002年頃から志人とのユニット「降神」として活動。日本語のヒップホップの言語表現の枠を大きく拡張してきた。ソロでは「melhentrips」「アカシャの唇」などの作品を発表し、日常の中にある小宇宙を詩的な感覚ですくいあげて、ラップやスポークンワーズという形で表現してきた。
YAMAANは降神や多彩なアーティストが在籍するクルーTemple ATSのメンバーとして活動を開始。アンビエントやヒップホップ、ハウスなどを行き来しながら活動し、’20年に『幻想区域EP』 を発表。’21年にはアンビエントとメンフィスラップにインスパイアされたCHIYORIとの共作「Mystic High」を発表した。
なのるなもないとYAMAANは2005年の”melhentrips” 収録の“shermanship” をはじめとして多くの楽曲を生み出してきたが、今回が初の共作アルバムとなる。タイトルの「水月」から想起されるように、しなやかで静的なムードも漂うトラックの上で、なのるなもないの小宇宙が展開する作品となった。
瑞々しいニューエイジアンビエント的なサウンドと真夏の白昼夢のようなリリックでアルバムの幕をあける『空よりも青く』や、躍動的なビートの上で生命や時間についての考察、死生観をも感じさせる詩が力強く歌われる『Beacon』。ディープハウストラックに官能的なリリックとスクラッチが心地よく刻まれる『優しくして』、不条理で暴力的な社会に対するリリックをトラップサウンドの上で綴った『Criminal Spirituals』など、なのるなもないとYAMAANの様々な側面が表現された8 曲入りのアルバムとなっている。
アルバム中の2曲にはTemple ATSのメンバーでもあり、数々のDJバトルでも実績を残してきた DJ SHUNがスクラッチで参加。楽曲の世界観に呼応した音楽的でスキルフルなスクラッチを演奏 してくれている。
アルバムのオリジナルアートワークは尾道在住の画家、白水麻耶子。深い緑の森や水辺のような不思議な心地良さを持った絵画が「水月」の世界観を押し広げている。
そしてオリジナルアートワークをもとにデザイナーTakara Ohashiがディレクションを担当。今回モノとしてリリースする面白さを大切にしたいという意向を汲み、箱庭型に組み立てが出来るジャケットを監修してくれた。
本作は自主レーベル「studio melhentrips」からの記念すべき第一作。フィジカルはCD、デジタルはBandcamp、ストリーミングにて発表となる。


なのるなもない x YAMAAN
"水月"

1. 空よりも青く
2. Beacon
3. Bloom Rain
4. 優しくして feat.DJ SHUN
5. モールスコード
6. Criminal Spirituals
7. VIBLE feat.DJ SHUN
8. 物語をはじめよう

レーベル : studio melhentrips
発売日 : 2023年10月10日(火)
フォーマット : CD
品番 : SMT-001
販売価格: 2,200円(税込)

Metamorphose ’23 - ele-king

 メタモルフォーゼが帰ってくる。2000年にスタートしたこのエレクトロニック・ダンス・ミュージックを中心とする祭典が最後に催されたのは2012年。じつに11年ぶりの復活だ。しかも富士山の裾野で実施されるのは20年ぶりとのことで、眼前に富嶽広がるソーラーステージ、巨大ウェアハウス・パーティを再現するオールナイトのルナーステージともに充実のラインナップ。テクノからクラブ・ジャズ、ヒップホップ、ロックのレジェンドたちが大集合しているが、そんな大ヴェテランたちに混ざってGEZANや羊文学といった新進気鋭、若手アーティストが加わっている点は要注目だろう。テント・エリアもあり自分のペースで楽しめるフェス、開催はもう間もなく。


Metamorphose ’23
2023年10月14日(土)~15日(日)

OPEN 14日 10:00 / CLOSE 15日 21:00

https://www.metamo.info/

会場
御殿場市 遊RUNパーク玉穂

主催
Metamorphose 実行委員会

後援
御殿場市
御殿場市観光協会
J–WAVE
K-MIX

10/14 (土) SOLAR STAGE
Afrika Bambaataa / Dorian Concept / GEZAN
JAZZANOVA (DJ SET)/ paranoid void / 富岳太鼓

10/14(土) LUNAR STAGE [ALL NIGHT]
Carl Craig / CYK / Darren Emerson / DJ KRUSH
DJ YOU-KI / Joaquin“Joe” Claussell / MAYURI
ManoLeTough / Q’HEY / Timmy Regisford

10/15(日) SOLAR STAGE
DUENDE / Los Hermanos / Nai Palm / Ovall
SMTK / toconoma / 羊文学 / 家主

Human Race - ele-king

Christopher Willits & Chihei Hatakeyama - ele-king

 およそ20年にわたり〈12k〉や〈Ghostly International〉といったレーベルからリリースを重ねてきたエレクトロニカ~アンビエント作家のクリストファー・ウィリッツテイラー・デュプリー坂本龍一とのコラボでも知られる彼だが、このたび2019年以来となる来日公演が決定している。今回の公演では最新アルバム『Gravity』からの楽曲に加え、未発表の新曲も披露する予定とのこと。岐阜・大禅寺と神田・POLARISでの2公演、いずれも畠山地平との共演だ。この秋注目のアンビエント・ライヴのひとつ、見逃せません。

 ちなみに、10月20日発売の別エレ最新号『アンビエント・ジャパン』には畠山地平のインタヴューを掲載しています。ぜひそちらもチェックを。

Christopher Willits – Japan Live Performances – October 2023

クリストファー・ウィリッツの2019年以来となる来日が決定致しました。昨年Ghostly Internationalから最新アルバム『Gravity』をリリースしましたが、そこからの楽曲に加え、未発表の新曲も披露する予定です。
また、日本での公演は、複数のアルバムで共演した故・坂本龍一氏の友情と指導に捧げられているとのことです。

2004年の初来日イベントから、ウィリッツは日本で熱心なリスナーの支持を集めてております。彼の日本への愛と尊敬は、天河寺、伝書会館、大島洞窟、坂本さんとの複数のコラボレーションなど、これまでの公演で示されているように、心からの生涯の旅路です。

Christopher Willits – Japan Live Performances – October 2023

▶︎7th October @DAIZENJI Gifu

▶︎14th October @POLARIS Tokyo

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LISTENING IN THE TEMPLE
『大禅寺でリスニング』

日程:10月7日(土)
会場:岐阜・大禅寺

時間:17:00 – 21:00
料金:ADV ¥5,500

LIVE:
Christopher Willits
Chihei Hatakeyama

チケット:https://listening-in-the-temple.peatix.com/

クリストファー・ウィリッツと畠山地平のライブセットによる世界最高峰の没入型アンビエント・ミュージック・イベントを岐阜県の歴史ある大禅寺で体験しませんか?

この魂の癒しとなるイベントは、大禅寺住職の根本一徹紹徹上人の指導による瞑想で調和のとれた夕べのはじまりを迎えます。畠山地平につづきクリストファー・ウィリッツの上演は彼の親愛なる友人である坂本龍一氏へのトリビュート・ライブパフォーマンスを披露。両公演とも、原音に忠実な四音没入型サウンドで、深遠なリスニング体験に最適な音の聖域を作り上げることでしょう。

ライブ終了後には、軽食を囲んで談話などのために集まります。この親密なイベントが、みなさんとのつながりや絆を感じるひとときとなることを楽しみにしています。

「やわらかくしなやかなに流れるものは、硬く強固なものに勝る」– 老子

Sponsored by Envelop (https://envelop.us/)

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Christopher Willits / Chihei Hatakeyama

日程:10月14日(日)
会場:POLARIS, Tokyo

時間:OPEN 19:30 / START 20:00
料金:ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 *別途1ドリンク代金必要

LIVE:
Christopher Willits
Chihei Hatakeyama

チケット:https://polaris231014.peatix.com/view

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CRISTOPHER WILLITS:
クリストファー・ウィリッツ(Christopher Willits)はミズーリ州はカンザスシティ出身で、現在はサンフランシスコを拠点に活動しているミュージシャン/アーティストである。彼は地元カンザスシティのアート研究所で絵画、写真、ビデオ/インスタレーション・アート、サウンド・アートを学んでおり、ミルズカレッジではフレッド・フリス(Fred Frith)やポーリン・オリヴェロス(Pauline Oliveros)に師事し、電子音楽の修士号も取得している。多岐に渡るその活動はコンポーザー、プロデューサーに留まらず、フォトグラファー、フィル ムメイカー、システム・デザイナーにまで及ぶマルチぶりだ。電子音楽とギターを融合させるスタイルのパイオニアであり、自身が作成したソフトウェアを駆使 して、複雑に練り込まれたパターン、テクスチャー、ハーモニーなどで彩り豊かな視聴覚パフォーマンスをみせ、音と光が重なり合い、没入させる独特のサウン ドを構築している。それはかつてピッチフォークに「ギターでペイントをしているようだ」、Nownessに「魅惑的で複雑なエレクトロニック・サウンドス ケイプ」と称された。90年代後半から音楽活動を開始し、自身のソロだけでなく、坂本龍一やブルックリンのサウンド・アーティスト、テイラー・デュプリー(Taylor Duepree)等とのコラボ、マトモス(Matmos)とのサブコンシャス・アトラクション・ストラテジーズ(Subconscious Attraction Strategies)、ヘラ(Hella)のドラマーで、先日惜しくも解散したデス・グリップス(Death Grips)のメンバーでもあった、ザック・ヒル(Zach Hill)とブレイクコアのパイオニア的存在、キッド606(Kid 606)とのトリオ編成によるフロッシン(Flossin)などのプロジェクトがあり、これまでに20枚以上の作品をリリースしている。それらは自身の主宰するOverlapをはじめ、テイラーの12K、Fällt、Sub Rosa、Nibble Records、Ache Recordsなど様々なレーベルから発表されており、近年はGhostly Internationalに所属している。2014年には、これまでの集大成とも言えるオーディオ・ヴィジュアル・プロジェクト作品『OPENING』をリリース。そして2017年には『Horizon』、2019年には『Sunset』をリリース。収録曲は数千万再生を記録している。2022年には現時点での最新作である『Gravity』をリリースし、深いリスニングへの意図を持ったスローダウンし、感じ、癒すためのツールだという極上のアンビエント・ミュージックを披露し、幅広いリスナーに支持されている。

畠山地平:
1978年生まれ、神奈川県出身、東京在住の電子音楽家。2006年にKrankyより1stソロ・アルバム『Minima Moralia』を発表。以降、デジタル&アナログ機材を駆使したサウンドで構築するアンビエント・ドローン作品を世界中のレーベルからリリース。そのサウンドはリスナー個々人の記憶を呼び覚まし、それぞれの内的なストーリーを喚起させる。2013年より音楽レーベル『white Paddy Mountain』を主宰。2023年には音楽を担当した映画『ライフ・イズ・クライミング!』が公開。近年は海外ツアーにも力を入れており、2022年には全米15箇所に及ぶUS Tourを敢行した。またマスタリングエンジニアとしても活躍中。

PACIFIC MODE 2023 - ele-king

 来る10月21日&22日、川崎・東扇島東公園にて野外パーティ《PACIFIC MODE 2023》が開催される。ベルリンのDJファート・イン・ザ・クラブ、ニューヨークのハウス/フットワーク・プロデューサー、クッシュ・ジョーンズに、今回が初来日となるアンビエント・アーティスト、マリブーやウラらが出演。日本からも強力な面々が勢ぞろいする。
 主催は、これまでSustain-Releaseのサテライト・イヴェント「SR Tokyo」などを企画してきたPACIFIC MODE。野外パーティは今回が初とのこと。
 詳細は下記をご確認ください。

PACIFIC MODE 2023

NY-東京発のPACIFIC MODEが送る“都会を遊ぶオープンエア・パーティ”が10月21日土曜午後から22日日曜午前にかけ川崎のベイエリアにて開催。チケットも即日販売。

海外からダンス・アクトとしてDJ FART IN THE CLUB、KUSH JONES、PLO MANに加え、アンビエントのライブ・アクトとして初来日のMALIBUとULLAが登場、国内からDJ TRYSTERO、E.O.U、FOODMAN、LIL MOFO、MARI SAKURAI、SAMO、SUIMIN、ULTRAFOG、YELLOWUHURU、ローカルのクラブ・シーンの中核を担うDJ/アーティストがラインナップ。

これまでNYブルックリン発のレイヴ・パーティSustain-Releaseのサテライト・イベント「SR Tokyo」含む企画、招聘、ジャパン・ツアーを行い、並行して都内やNYのベニューを中心に様々なイベントを開催をしてきたプロモーターPACIFIC MODE。今回初となるオープンエア・パーティではこれまでの活動の軌跡を辿るように、午後から夕方にかけるアンビエント/エレクトロニック・ミュージックの静隠なムードから、夕方から夜へかけじっくりとダンスへと向かい、深夜のハイ・エナジーなレイヴへ到達、朝方のアフターへと流れる。PACIFIC MODEのクラブを起点としたダンス・エレクトロニック・ミュージックのエネルギーを野外という開かれた都会の空間で遊んで欲しい。

Title: PACIFIC MODE 2023
Date: 2023/10/21 SAT 12:00 - 22 SUN 10:00
Venue: 川崎東扇島東公園 / Higashi-Ogishima Higashi Park Grass Field
Instagram
Website
Ticket

UNDER 23: ¥6,000 *Photo ID Required / 年齢確認のため要写真付ID
CATEGORY 1: ¥9,000 *LTD / 数量限定
PARKING / 駐車券: ¥2,000
TENT / テント券 (一張り): ¥2,000 *LTD 50 / 50枚限定

DJ FART IN THE CLUB [DE/KR]
DJ TRYSTERO
E.O.U
FOODMAN
KUSH JONES [NY]
LIL MOFO
MALIBU [FR]
MARI SAKURAI
PLO MAN [DE/CA]
SAMO
SUIMIN
ULLA [DE/US]
ULTRAFOG
YELLOWUHURU

PA: SHOTA MURAKOSHI, SEMMEI KAI (WHITELIGHT)
LIGHTING: HITOSHI SATO

PR: Loca1 W0rld
Creative Direction: mamastudio™
Music of video: ICEE MAN by KUSH JONES

promoted by PACIFIC MODE

■ ガイドライン
PACIFIC MODEでは、お互いが尊敬し、助け合い、そして安心して楽しむことができる環境づくりを目指しています。
困っている方や、体調が優れない方がいたら、スタッフや周りの人に知らせてください。

■ チケット
・18歳未満の方は保護者同伴の場合のみご入場いただけます。保護者の方はお子様にケガ・事故等がないよう十分ご注意ください。
・中学生以下はチケット不要です。
・電子チケットは必ず、紙に印刷してご持参ください。スマートフォンの電池切れや、電波が弱い等の原因により、QRコードをご提示いただけない場合は受付できません。
・電子チケットの転売・譲渡は禁止されており、当事者間の自己責任となります。このような行為により入手されたチケットが、二重利用等により受付時無効となっていた場合は、当方は一切責任は負いません。
・不正入場が発覚した場合、理由の如何にかかわらず身柄を警察に引き渡します。
・開催期間中は再入場が可能です。
・UNDER23チケットにつきましては、ご入場時に有効な写真付き身分証明証(コピー不可)をエントランスにてご提示ください。ご提示いただけない場合は、当日料金との差額分をエントランスにて追加でお支払い頂きます。
・前売りが規定枚数に達した場合、当日券の販売はございません。

■ 持ち込み物
・持ち込み不可品 アルコール類/カン/ビン/違法物/危険物/ペット等の動物の同行は禁止にさせて頂きます。
・安全面、環境面の観点から、エントランス付近で荷物チェックを行います(再入場も含む)。アルコール類/カン/ビン類については発見次第没収し、違法物/危険物については即時退場/通報等の措置を取らせていただきます。
・ソフトドリンクを持参される場合は、カン/ビン類以外の容器に事前に移し替えてください。会場内ではカン/ビン類の回収は行いません。
・美しい会場を守るため、ポイ捨ては厳禁です。所定のゴミ捨て場までお持ちの上、分別にご協力ください。
・煙草のポイ捨ては厳禁です。
・主催者の許可なく個人の楽器、スピーカー、レーザー等を会場内で使用することは、固くお断りします。

■ 運営
・会場内外において、他のお客様のご迷惑になるような行為を行ったり、スタッフの指示に従わない方については、強制的に退場していただきます。その際、チケットの払戻し等は一切致しません。
・会場内・外での事故・紛失・盗難・ケガ・病気等の責任は、一切負いません。
・雨天決行。但し、台風など開催不可能な荒天の場合を除きます。
・会場は普段から風が強いエリアになります。テントを建てられる方はテントが飛ばされないように十分にご注意ください。破損した場合や、怪我をされた場合につきましては、責任を負いかねます。
・会場は都内近郊で10月の開催ですが、風が強くなり冷え込む場合もありますので、上着や雨具などをご準備ください。
・会場内は火気厳禁となります。バーベキュー等はできませんので、お食事はフードエリアの飲食出店をご利用ください。
・会場内には公園の来場者専用の駐車場もありますが、お車でご来場される方は必ず駐車券を購入し、PACIFIC MODEの係員に沿ってイベント専用の駐車場をご使用ください。
・会場内の映像・写真が公開されることがありますので予めご了承ください。
・出演アーティストのキャンセルや変更、本番中の中止等をやむを得ず行う場合がございます。これに伴うチケットの払い戻しは行いません。
・主催の判断によりやむを得ず運営上のルールを変更する場合がございます。これに伴うチケットの払い戻しは行いません

Ted Coleman Band - ele-king

7038634357 - ele-king

 米国・ヴァージニア州を拠点とするネオ・ギブソンによるプロジェクトの名称である。実に記号的な名前だが、どうやら携帯電話の番号らしい。本当なのだろうか。軽いジョークだろうか。もちろん真意のほどは定かではない。
 ではこの名のとおり、本作が「記号的・抽象的な電子音響作品」なのかというとそうではない。確かに実験的な作風ではあるが、ネオ・ギブソンのヴォーカルが入った曲もあるし、聴きやすい旋律のミニマルな音楽もある。
 しかし一方、ノイズが炸裂する展開もある。持続「しない」アンビエントという不思議な曲もある。かといって、アルバム全体がカオスかといえばでそうもない。どこか慎ましやかで、奇妙な人懐こさもあるアルバムなのである。実験的ではあるが他人を拒絶するような作風でもないのだ。
 何より非常にパーソナルな音楽に思えた。アルバムには7曲が収録されているが、「ネオの7曲」という意味でのアルバム名『Neo Seven』だろうか。アルバム名に、自身の名を付けるということは、やはり自信作なのだろう。

 これまで名称違い(703 863-4357など)でエレクトロニックなトラックをセルフ・リリースしたり、7038634357名義でCD-Rや配信などを中心にエクスペリメンタルな楽曲を発表してきたが、本作は高柳昌行、ザ・シャドウ・リング、そのメンバーだったグラハム・ランキン小杉武久+鈴木昭男もリリースするニューヨーク・ブルックリンのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Blank Forms Editions〉からのリリースである。マスタリングを名匠ステファン・マシューが手がけていることも注目したい。この点からも『Neo Seven』が特別なアルバムであることを伝わってくる(気がする)。
 確かにグリッチやアンビエントなど00年代のエレクトロニカへのノスタルジアも深く感じさせる作風だが、それを踏まえて新しいサウンドを作り出そうとしているようにも感じられるのだ。

 私が特に注目したいのがときおり訪れる「間」であり、一瞬の「静寂」である。アルバム冒頭の “Winded” ではアンビエント的な音響が流れては消え、流れては消えを繰り返す。そこにほんの少しのあいだ無音の「間」があるのだ。この種のアンビエントは持続によって聴き手に没入感を与えるものだが、この曲はそうではない。まるで波の満ち引きのように音が生成し消えていくさまを繰り返す。
 これは観客にあえて没入させないための「皮肉な」方法論なのだろうか。自分はむしろ逆にとる。聴き手を信頼しているからこその「間」ではないかと。静謐な時間。無音の時間。音楽が生成する手前の貴重な時間。それを共有させるというのは観客の聴く力と聴こうとする意志を信じているからではないか(わずか1秒に満たない間に大袈裟だろうか?)。
 2曲目 “Everytime” は水の音に導かれ、柔らかく穏やかな電子音が鳴り始める。音と音のレイヤーによって音階が生まれていく不思議な楽曲である。やがて音は次第に大きくなり、そこに変調された声による素朴な「歌」が加わる。心の深いところにあるノスタルジアが生成されていくような曲だ。シンプルな音像だがどこかフェネスのロマンティシズムに近いムードを感じる。続く3曲目 “Square Hear” もヴォーカルが加わる曲である。“Everytime” よりもメロディがはっきりとあり、シンガーソングライター的な楽曲だ(この曲にもところどころ無音になる「間」がある)。90年代のハイ・ラマズ/ショーン・オヘイガンのようなソングライティングに感じられた(つまりは典型的な「ベッドルーム・ポップ」の系譜とでもいうべきか)。
 4曲目 “Acolyte” も電子音による持続が無音の「間」を挟みながら展開する曲である。その音は次第に変化を遂げていく。この曲に限らず音色のトーンの変化によるコンポジションが本作の特徴だろう。続く5曲目 “Overbraid” はシンプルなコード進行を反復する曲だ。同じ進行を4分48秒続けるミニマルな楽曲だが、“Acolyte” と同じく音色が次第に変化していくため、まったく飽きることはない。2曲ともアンビエントともミニマル・ミュージックともテクノとも異なる不思議な印象の楽曲だ。
 6曲目 “Eraser” は1分54秒の短い曲ながらアルバム中もっともドローン的なトラックである。この曲も音色のセンスが抜群だ。そしてアルバム最終曲の7曲目 “Perfect Night” は、アンビエント、ミニマル、ヴォーカル、強烈なノイズが炸裂するトラックであり、本作を代表する曲である。中盤でノイズが炸裂し、そこに掻き消されそうになるヴォーカルが重なるのだが、あるとき不意にノイズが消失し、ヴォーカルと柔らかい電子音が残る。その瞬間、不意に耳の感覚が変わるのだ。なんと見事なコンポジションだろうか。

 『Neo Seven』を聴いたいま、2021年に自主リリースされた『Permanest』や『My Way Out』などを聴き直してみると、そこも「間」と「無音」のコンポジションや、さまざまなミニマルなドローンなどの実験音楽の方法論を慎ましく、かつエモーショナルに展開する技法などが展開されていたことに気が付く。いわば本作『Neo Seven』において、その方法論や技法がもう一段階深い「音楽」として結実したとすべきだろう。“Winded” にはじまり、“Perfect Night” に終わる完璧な円環を描く本作には、ネオ・ギブソンという音楽家の感情の彷徨が、慎ましやかに、しかし深いエモーショナルに刻印されている。同時にいくつもの音素材を用いて、柔らかい実験音楽を作り出そうとしているのだ。
 そう、ネオ・ギブソンは、さまざまな実験音楽の手法を用いて、しかし決して大袈裟にならず、慎ましやかなムードを湛えたミニマル/エモーショナルな電子音楽作品を作り上げたのだ。美しく、かけがえのない「ひとり」の時間から生まれたような珠玉のエクスペリメンタル・ミュージックである。

EL NINO - ele-king

 とにかく、ふだんは滅多に聴けないような、いろんな音楽がかかり、忘れがたいライヴが見れます(BLACK SMOKERSも出る)。いまエレキングで自らのきつい体験を綴ってくれているKLEPTOMANIACも出演します。チェックしましょう。

 『国産エクスペリメンタリズムの臨界 EL NINO がasiaに帰還』
 まるで黒い煙がかかっている。まっすぐに歩けないほどの音圧と、快楽に依存する耳と頭。驚異的な集中力が収穫する音楽の核と電子と即興が導く甘美な漆黒。フリー・ジャズやヒップホップ、ビートやダブ、テクノ、ノイズが融合する紛れもないオリジナリティを有しながらも、それは形容し難く、融通無碍の怪物に圧倒、翻弄される歓びに身をまかせる。

2003年5月の第1回から20年の節目を迎える、
BLACK SMOKER RECORDS主力イベントEL NINOがasiaに帰還だ。

LIVE:BLACKSMOKERS(K-BOMB, JUBE, BABA, DJ YAZI, CHI3CHEE) 、ENDON、鬼の右腕
DJ:Akie、Masa a.k.a Conomark、DJ Yazi(Black Smoker Records)、KLEPTOMANIAC、K8(TYO GQOM)、Lil Mofo、Lily、OG Militant B、Torei(Set Fire To Me)
特殊照明 VJ:ROKAPENIS
音響:Hironobu Kobayashi
舞台美術:HEAVEN HUG
Art work :Kosuke Kawamura
Food :マガリビ by kidotama

2023/9/23(sat)23:00-
@clubasia
DOOR(当日): 4,000yen
ADV TICKET(前売): 3,000yen
clubasia zaiko - https://cultureofasia.zaiko.io/buy/1veR:uQ2:8293a

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