「MAN ON MAN」と一致するもの

Robbie & Mona - ele-king

 ロビー&モナの音楽は夜の匂いがする。日が沈み冷たくなった空気と人が消え音が少なくなった世界の暗がりのその匂い。建物の色も形も闇に覆い隠されて、木々の香りも昼間とはまた違って思えるようなそんな匂いが漂ってくる。

 ブリストルのサイケ・ポップ・バンド、ペット・シマーズのメンバーと元メンバー、ウィリアム・カーキートとエレノア・グレイによるプロジェクト、ロビー&モナ。2019年にはじまったこのプロジェクトのその名前はなんでもエレノア・グレイの飼っていた犬に由来するらしいが、そんな由来のプロジェクトがペット・シマーズと並行しておこなわれているのもなんとも面白い(ペット・シマーズも本当に素晴らしいバンドだ)。
 ふたつのプロジェクトが同時におこなわれているからこそどうしたって比較してその違いを考えてみたくなってしまうけど、カラフルな夢の中をステップを踏みながら滑るようにやってくるペット・シマーズの音楽に対してロビー&モナの音楽はもっと静かで大きな主張をしてこない。ロビー&モナの音楽を聞いて感じるのは上記のような夜の匂いで、かすかに漂う残り香がそこに誰かがいたということを感じさせムードを形作っていく。それがたまらなく魅惑的に響くのだ。

 2021年の1stアルバム『EW』はソーリーのようなラフさと重ねすぎない引き算のセンスをシンセサイザーの上で混ぜ合わせたアルバムで、広がりのない小さな部屋のDIYの感覚がそれゆえに特別な輝きを生み出していたような傑作だったが、この2023年の2ndアルバム『Tusky』はそれよりももっと洗練されていて柔らかな匂いを放っている。上品で滑らかな響き、それは「夜会」とも「舞踏会」とも表現したくなるようなもので、クラシカルな雰囲気の漂う白黒映画をいまの技術と感覚で再現したみたいな架空の映画のサウンドトラックのようにも聞こえてくる。
 ゆったりとしたピアノと電子音が組み合わせるオープニング・トラック “Sensation” はアルバムの世界への導入として完璧に機能していて、違うときを生きるヴァンパイアのようなエレノア・グレイとウィリアム・カーキーの小さなそのささやきが幽玄とその空気の中を漂い現実と隣り合った世界との境界線を曖昧にしていく。サックスが加えられジャズのエッセンスに触れられた “Flâneural” へと続くこの音楽は同じ雰囲気を保ったまま、ゆっくりと新たな軌跡を加えていく。その先にある “Sherry Prada” はジョニー・ジュエルが手がける〈Italians Do It Better〉のバンドたちのようにエレクトロニクスの要素をより強く出した美しく儚い夜の世界を表現したような曲だが、その中であってもエレノア・グレイの甘く漂うヴォーカルが柔らかな印象を連れてくる。

 あるいはエレノア・グレイの声と、生の楽器の音、電子音の組み合わせの妙こそが『Tusky』の最大の魅力なのかもしれない。この2ndアルバムはこれらの要素を組み合わせることによって近未来の古典のような、違う星で作られた昔の物語のような新鮮な感覚を生み出しているのだ。その感覚はアルバム後半で特に顕著になり、ストリングスと聖歌隊の声が歪められ、そしてけたたましい電子音のビートに吸収される “Dolphin” やピアノとエレノア・グレイの美しい歌声に浸り思いを巡らせている内にエレクトロニック・プロダクションに接続されて、気がつけばサウス・ロンドンのヒップホップ・グループ NUKULUK のモニカのラップを噛みしめているという不思議な感覚を何度も味わうことになる “Mildred” に繋がっていく。

 アルバム全体としても曲単位としてもロビー&モナは細かく小さく美しさと奇妙な感覚、そしてジャンルの間を行き来する。それらが単なるパッチワークのように思えないのはきっと同じムードで統一されているからなのだろう。その境目がはっきりとは見えない夜の、美しく不気味な物語。最終曲、“Always Gonna Be A Dead Man” に辿り着く頃には抜け出せなくなるくらいにどっぷりとこの奇妙な雰囲気の音楽に浸かり込んでしまっている。陰鬱だが美しい、ここには極上の夜の香りが漂っているのだ。

Oval - ele-king

 グリッチの開拓者、オヴァルが新作を発表する。ピアノの導入でリスナーを驚かせた『Ovidono』(2021)以来のアルバムだが、先行配信中の “Touha” を聴くかぎりどうやら今回もピアノがフィーチャーされているようだ。『Romantiq』と題されたそれは5月12日に世界同時発売。かつてグリッチで世界を震撼させたマーカス・ポップが目指す「ロマンティック」とはいかなるものになるのか? 期待しましょう。

OVAL(オヴァル)
『ROMANTIQ』(ロマンティック)

THRILL-JP 57 / HEADZ 258 (原盤番号:THRILL 590)
価格(CD):2,200円+税(定価:2,420円)
発売日(CD):2023年5月12日(金) ※ 全世界同時発売
フォーマット:CD / Digital
バーコード:4582561399527

01. Zauberwort(ツァオバーヴォルト)
02. Rytmy(リートミー)
03. Cresta(クレスタ)
04. Amethyst(アメティスト)
05. Wildwasser(ヴィルトヴァッサー)
06. Glockenton(グロッケントーン)
07. Elektrin(エレクトリン)
08. Okno(オクノ)
09. Touha(トウハ)
10. Lyriq(リューリク)
11. Romantic Sketch A(ロマンティック・スケッチ A)
12. Romantic Sketch B(ロマンティック・スケッチ B)

Total Time:46:20

Tracks 11, 12…日本盤CDのみのボーナス・トラック

All music written, arranged and produced by Markus Popp
Artwork by Robert Seidel

'90年代中盤、CDスキップを使用したエポック・メイキングな実験電子音響作品を世に送り出し(2022年発表されたPitchforkの『The 150 Best Albums of the 1990s』にて1995年作『94diskont.』が132位にランクイン)、エレクトロニック・ミュージックの新たな可能性を提示し続け、世界中にフォロワーを拡散させた独ベルリン在住の音楽家、オヴァル(OVAL)ことマーカス・ポップ(Markus Popp)。
2020年1月リリースの『SCIS』(THRILL-JP 51 / HEADZ 243)以来のワールドワイド・リリース(米シカゴの老舗インディー・レーベルThrill Jockey Recordsより)となるオヴァルの最新アルバム『ROMANTIQ』にて、マーカス・ポップがまたしてもエレクトロニック・ミュージックの可能性を刷新した。
「ASMR 2.0」とも呼ばれた、2021年12月に発表された女優Vlatka Alecとのアートプロジェクト作品(マーカス自身のレーベル、UOVOOOからのOVAL名義でのリリースとなった)『OVIDONO』(Soの豊田恵里子も参加)でのクリエイションも反映させ、『OVIDONO』のアルバム・カヴァーを担当したデジタル・アーティストRobert Seidel(ロバート・サイデル。ドイツのイエナ出身で、現在はベルリンを拠点に活動。『ROMANTIQ』のアートワークも担当)とのオーディオ・ヴィジュアルなコラボレーション(2021年9月に開館したDeutsches Romantik-Museumのグランド・オープニング用のコラボレーション)が契機となり、多様な建築物かのように立体的な音空間を創り出している。
かつてのフォークトロニカ、ポスト・クラシカルとは一線を画した、2010年の『O』以降、職人芸のように磨き上げた、生楽器(オーガニック)とエレクトロニクス(デジタル)の境界線を曖昧にした独特なブレンドが、新たな領域に達し、所謂音楽家的なコンポーザー、メロディーメイカーとしての才能が一気に開花したかのような、圧倒的にオリジナルでロマンティックな音楽を創り上げた。
‘膨大な情報量を、見事に昇華し、これまでの作品の中でも最高峰に美しく洗練された、ノスタルジックでありながらフューチャリスティックでもある、情緒豊かな大傑作アルバム。

アルバムからの先行シングルとなった9曲目「Touha」(トウハ)のHEADZヴァージョンのMusic Video(video by Robert Seidel)は現在、以下URLにて限定公開中。
https://www.youtube.com/watch?v=itRb-9EkhC8

◎ 全世界同時発売(2023年5月12日)
◎ 日本盤CDのみのボーナス・トラック2曲収録
◎ 日本盤CDのみマーカス・ポップ本人によるマスタリング音源を使用(デジタル配信は、ワールドワイド版のThrill Jockey盤と同様に、Rashad Beckerによるマスタリング音源を使用)
◎ 日本盤CDのみマーカス・ポップとロバート・サイデルのお気に入り画像をメインに使用した、Thrill Jockey盤とは異なるオリジナル・デザインのジャケット。

Jungle - ele-king

 ジョシュ・ロイド=ワトスンとトム・マクファーランドからなるロンドンのエレクトロニック・ダンス・デュオ、ジャングル。総ストリーム数が約10億にものぼり、大型フェスではヘッドライナーを任されるほどの人気を誇る彼らが、4枚目のアルバム『Volcano』を8月11日にリリースする。
 多様な歌声をとりいれることが狙いだったというその新作には、ルーツ・マヌーヴァなどのゲストが参加。現在、ブルックリンのヒップホップ・グループ、フラットブッシュ・ゾンビーズのエリック・ジ・アーキテクトをフィーチャーした新曲 “Candle Flame” が公開中だ。「愛や人間関係における浮き沈み」をテーマにしているという同曲、MVも印象的なので視聴しておきたい。

ノエル・ギャラガー、ジャミロクワイ、ジャスティン・ティンバーレイクら大物ミュージシャンがこぞって大絶賛!!
極上のフューチャー・ディスコ・ユニット、ジャングルが帰還!
ニューアルバム『VOLCANO』8月11日リリース決定!

Radio 1【HOTTEST RECORD】選出の新曲「CANDLE FLAME FEAT. ERICK THE ARCHITECT」が先行解禁!
日本限定で数量限定トートバッグセットと日本語帯付きLPも同時発売!

マーキュリー賞にもノミネートされたデビュー・アルバム『JUNGLE』が、UKで9ヶ月に渡ってチャートインを記録する超ロング・セラーとなり、総ストリーミング数は10億以上、今や大型フェスのヘッドライナーも務めるフューチャー・ディスコ・ユニット、ジャングルが、8月11日に最新アルバム『VOLCANO』をリリース決定! アルバムからRadio 1【HOTTEST RECORD】にも選ばれた先行シングル「Candle Flame (feat. Erick the Architect)」を解禁した。

Jungle - Candle Flame (Ft. Erick The Architect) (Official Video)
https://youtu.be/esqRBsVumrw

デビュー以来、ノエル・ギャラガー、ジャミロクワイ、ジャスティン・ティンバーレイクら大物ミュージシャンが賞賛し、ダフト・パンク不在のダンス・ミュージックにおいて、今やシーンを牽引する存在にまで成長を遂げたジャングル。前作『Loving In Stereo』は、全英チャート初登場3位を記録し、米ビルボードのダンス・アルバム・チャートでは見事1位を記録。ビリー・アイリッシュのアリーナ公演にもゲストとして出演し、テイラー・スフィフトのリミックスも手掛けるなど、ポップ・ミュージックのファンからも注目を集める存在となった。そんな飛躍を遂げた前作以来、4枚目のスタジオ・アルバムが今作『VOLCANO』だ。時代を超えたディスコ、ソウル、ヒップホップの要素を、ジャングルらしい未来志向のプロダクションで見事にまとめ上げた新曲「Candle Flame」は、彼らのライブセットで披露した瞬間にオーディエンスの心を奪うであろう、大胆かつ情熱的なエネルギーを放つトラックだ。

俺たちは「Candle Flame」をすごく誇りに思ってる。パーソナルで親しみやすく、愛や人間関係における浮き沈みを、詩的で真に迫る方法で探求したかったんだ。エリック・ザ・アーキテクトと一緒に仕事をするのは本当に楽しかったよ。彼のユニークな視点と才能が、この曲にさらなる深みと豊かさを加えた。「Candle Flame」は、俺たちがバンドとして支持するもの、すなわち創造性や情熱、そしてファンの心を動かす音楽を作るというコミットメントをすべて表しています。この曲をみんなに聴いてもらうのが待ち遠しいよ。この曲が聴く人すべてに喜びとインスピレーションをもたらすことを願っている。
- Jungle

『VOLCANO』を駆け抜ける自由奔放なエネルギーが、本作がいかに自然に完成したかを物語っている。ジョシュ・ロイドとトム・マクファーランドは、レコーディングに入る前のツアー中にLAのAirbnbで大部分の曲を書いたという。その後ロンドンに戻り、二人のお気に入りという【Metropolis Studios】のStudio Bでアルバムは完成した。今回二人が求めたのは、より多種多様な歌声をアルバムに取り入れること。先行シングルに参加したラッパー、エリック・ザ・アーキテクト (フラットブッシュ・ゾンビーズ) 以外にも、前作収録曲「Romeo」やFKJとのコラボでも知られるバス (Bas)、UKを代表するMC、ルーツ・マヌーヴァ、コンプトン出身のアーティスト/プロデューサー、チャンネル・トレス、ロンドンの気鋭シンガーソングライター、JNRウィリアムズらがアルバムにフィーチャーされている。

『VOLCANO』のジャケットは、デビュー作から続くミニマルな美学を継承し、ユニット名のロゴを中心に添えつつ、アルバムのサウンド・スタイルを反映させた夏を感じさせる明るく鮮やかな背景となっている。

ジャングルは、8月26日にはロンドンの人気音楽フェスティバル『All Points East』にヘッドライナーとして出演し、その後には北米/ヨーロッパ・ツアーを行う予定。トータルで20万人近いオーディエンスに向けて最新セットを披露する。

ジャングルの最新アルバム『VOLCANO』は8月11日(金)にCD、LP、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース! 国内盤CDにはボーナストラックが追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。LPは通常盤(ブラック・ヴァイナル)に加え、限定盤(スプラッター・オレンジ/クリア・ヴァイナル)、BEATINK限定盤(オレンジ/ホワイト・ツートーン・ヴァイナル)、日本語帯付き仕様盤(歌詞対訳・解説書付)で発売される。さらに、国内盤CDと各種日本語帯付き仕様盤LPは、日本限定のトートバッグセットでも発売される。

label: BEAT RECORDS / CAIOLA RECORDS
artist: JUNGLE
title: VOLCANO
release: 2023.08.11 FRI ON SALE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13338

Tracklist
01. Us Against The World
02. Holding On
03. Candle Flame (Feat. Erick the Architect)
04. Dominoes
05. I've Been In Love (Feat. Channel Tres)
06. Back On 74
07. You Ain't No Celebrity (Feat. Roots Manuva)
08. Coming Back
09. Don't Play (Feat. Mood Talk)
10. Every Night
11. Problemz
12. Good At Breaking Hearts (Feat. JNR Williams & 33.3)
13. Palm Trees
14. Pretty Little Thing (Feat. Bas)
+ (Bonus track)

輸入盤LP

BEATINK.COM限定LP

インディー限定LP

interview with Lankum - ele-king

 ノイズもエレクトロもアンビエントもヒップホップも現代音楽も飲み込んだ21世紀型アイリッシュ・フォーク・シーンの最前線に立つランクム。通算4作目となる3年半ぶりの新作『False Lankum』に感嘆すると同時に、これほどの傑作が日本では発売されないと聞いて驚いている。欧米メディアで大絶賛された2019年の前作『The Livelong Day』も素晴らしかったが、この新作では自分たちの音作りの特徴──強力なドローン、深い陰影、繊細なノイズ等々を活かしつつ、音楽的洗練度が格段にレヴェルアップしているのだ。
 全12曲は、5曲のトラッド・ソング、2曲のカヴァ、3つのインスト小曲を含む5曲のオリジナル曲という構成になっており、アルバム全体で大きな物語を描いているような印象。ドラマティックである。

 日本ではまだほとんど無名なので、改めて簡単にバンドを紹介しておこう。ランクムは、ダブリン出身のイアン・リンチ(Ian Lynch:イリアン・パイプス/ティン・ホイッスル/ヴォーカル)、ダラグ・リンチ(Daragh Lynch:ギター/ヴォーカル)のリンチ兄弟と、コーマック・マクディアーマダ(Cormac MacDiarmada:フィドル/ヴォーカル)、そして紅一点レイディ・ピート(Radie Peat:コンサーティーナ他/ヴォーカル)から成る4人組。2000年代前半からリンチ兄弟がやっていたパンク&サイケ・テイスト溢れるフォーク・デュオ、リンチド(Lynched)に伝統音楽シーンで腕を磨いてきたコーマックとレイディが加わった14年にランクムへとバンド名を変え、アイルランドのトラディショナル・フォークに本格的に取り組むようになった。
 これまでにリンチドとして『Where Did We Go Wrong ?!』(04年)と『Cold Old Fire』(14年)、ランクムとして『Between The Earth And Sky』(17年)③と『The Livelong Day』(19年)をリリースしてきたが、リンチドの2枚目『Cold Old Fire』にはコーマックとレイディが既に参加しており、実質的にはこれがランクムの1作目とみなされてきた。

 コロナ禍のロックダウン期間中にじっくりと時間をかけて制作されたというこの新作について、リーダーのイアン・リンチに詳しく語ってもらった。
 なお、過去の原稿では彼らのバンド名を「ランカム」と表記してきたが、今回から「ランクム」に変えさせていただく。

DIYパンク・シーンで活動してきたという背景があるから、巨大レーベルやメインストリームな音楽業界に対する不信感が十分に培われているんだよ。そして年齢を重ねるごとに、それはすべて実際その通りだということがわかってきた。

新作の素晴らしさに感嘆しました。音作りに関して、あなたたちの頭の中にはどのようなヴィジョンやコンセプトがあったのですか?

イアン・リンチ(Ian Lynch、以下IL):アルバムの制作開始時にあった唯一の考えは、前作『The Livelong Day』のサウンドを拡張しようということだった。つまり、ダークな部分はよりダークに、綺麗な部分はより綺麗に、繊細な部分はより繊細にというように、『The Livelong Day』のサウンドのあらゆる側面を押し広げようとしたんだ。俺たちは、あのアルバムのサウンドにとても満足していたから、過去10年間に描いてきた軌道に乗ったまま、サウンドの拡張を続けようとしたんだ。作業が進むにつれ、それ以外のアイデアも色々と出てきたけれど、アルバム制作に向けた最大のコンセプトはサウンドを拡張するということだった。最終的にどんなアルバムができるかは、やってみないと自分たちでもわからなかった。

アルバム・タイトルの『False Lankum』に込められた意図について説明してください。

IL:俺たちのバンド名であるランクムの由来は古いバラッドで、そのタイトルが「False Lankum」というんだ。だから自分の頭の中には常にその言葉があった。2014年にバンド名をリンチド(Lynched)からランクムに変えたときも、当初のアイデアでは「False Lankum」にしたいと思っていたんだよ。とても気に入っているタイトルだからね。今回、アルバム・タイトルを『False Lankum』にしたのは、少し曖昧というか不明瞭な感じを持たせたかったからなんだ。俺たちの過去のアルバムのタイトルはすべて、曲の一部からの引用だったけど、今回のアルバム・タイトルは、人々が疑問に思うような、よくわからない感じにしたかった。「False Lankum(=虚偽のランクム)」とは何だろう? 「False Lankum」があるということは、「True Lankum(=真実のランクム)」もあるのだろうか? ……という疑問をリスナーに抱かせたかったんだ。俺たちがランクムとして表現していることは、俺たちの真の形、全体像ではないのかもしれない……そんな疑問。たとえば今回のアルバムの曲に “The New York Trader” というのがあるんだけど、それは、いままでの人生で悪事ばかり働いてきたジョナという名の奴が船に乗っていて、彼のせいで、船全体が危機的状況に陥ってしまい、船員たちは自分たちの命を救うために彼を船から追放しなければいけないという話なんだ。つまり、もしそれ(=ジョナ)が俺たちだったら? ということ。ランクムはアイルランドの伝統音楽を救うためにいるのではなく、破壊するためにいて、ジョナのように俺たちが船から追放されるべき存在だったらどうする? そんなことを考えていたんだ。まあ、あまり言葉で説明したくないんだけど(笑)、意図としてはそういうことだよ。

前作『The Livelong Day』はメディアでの評価が非常に高かったから、今回はプレッシャーが大きかったのではないですか?


Lankum『The Livelong Day』

IL:いや、あまりプレッシャーはなかったよ。まあ、アルバムを作るたびにある程度のプレッシャーはあるだろう。特に、前作のできが良いと、次の作品にも前作と同じくらいの期待がかけられる。そういう外部からのプレッシャーはあるけれど、俺たちは、音楽を作っているこの4人の身内サークル内にそういったプレッシャーは持ち込まないようにしている。というか、あまり意識していない。俺たちにとって大切なのは、アルバムの音を誰よりも先に聴いて、自分たちがその音に満足し、それを誇りに感じられるということだから。いままでもそういう意識でアルバムを作ってきた。前作も、音源をマスタリングに出す前の状態で、俺たちは自分たちが作り上げたものにとても満足していた。今回のアルバム制作には約2年という長い時間をかけた。すべてにおいて自分たちが100%納得するまでは外に出さない。そして、外に出す時点で俺たちは、他の人がアルバムについてどう思うのかということは気にしていない。今回のアルバムに関しては、長年のファンの中にはこれを気に入ってくれない人もいるかもしれないと思ったけれど、それは仕方のないことだと単純に思えた。たとえそうなっても、俺たちまったく気にしないよ。

今回の制作にあたり、〈ラフ・トレイド〉からは何か注文や要望はありましたか?

IL:俺が知っている範囲ではないし、あったとしても、俺自身は何も言われていない。レーベルがマネジャーに色々と注文していて、マネジャーが密かに俺たちの脳にアイデアの種を植えたり洗脳したりしているのかもしれないけど……いや、それも多分ないと思う(笑)。〈ラフ・トレイド〉と仕事ができるのはとても素晴らしいことだよ。メジャー・レーベルと契約したバンドからは酷い話をよく聞くからね。そもそも俺には、DIYパンク・シーンで活動してきたという背景があるから、巨大レーベルやメインストリームな音楽業界に対する不信感が十分に培われているんだよ。そして年齢を重ねるごとに、それはすべて実際その通りだということがわかってきた。でも、俺たちと〈ラフ・トレイド〉の関係はとても良好だ。俺たちの音楽的ヴィジョンを自由に追求させ、それを応援してくれる。彼らのアプローチもライトというか、あまり介入してこない。本当に素晴らしいと思うよ。同じようなアプローチでやっているレーベルは他にあまりないと思うから、そういう意味では非常に恵まれていると思うな。

ある曲の中には、セロリが育つ音がピッチダウンされた状態でどこかに忍ばせてあるんだよ。そういう細かいことをたくさんやったから、今回のアルバムではどの曲も、ものすごい数のレイヤーが含まれている。

前作『The Livelong Day』に対する反応で、特に嬉しかったもの、印象深かったものはどういったこと(言葉や事象)でしたか?

IL:アルバムに対する嬉しい反応やコメントはたくさんあったよ。特に感激したのは、ノルウェーのバンド、ウルヴェル(Ulver)の反応だった。彼らが90年代にリリースしたブラック・メタルのアルバムの何枚かは俺がとりわけ好きな作品で、彼らはその後も素晴らしいエレクロトニック音楽を作り続けていた。そんな彼らがランクムのヴィデオ・クリップをSNSにアップしてくれたんだ。「オーマイガッド!!!」と感激したよ。それからアメリカのロード・アイランド州プロヴィデンス出身のアーティスト、リングア・イグノタ(Lingua Ignota)がランクムもやっているトラッド・ソング “Katie Cruel” のカヴァーを発表したときに、インスピレイション源としてランクムの名を挙げてくれたんだ。彼女の音楽は大好きだからすごく嬉しかった。


Lingua Ignota “Katie Cruel”

 あと、イギリスのザ・バグ(The Bug=ケヴィン・マーティン)も俺たちのアルバムを高く評価してくれて感激した。俺たちが大好きな音楽を作るアーティストや尊敬するアーティストにランクムの音楽がようやく届くようになったということがすごく嬉しかった。仲間というか、同じような活動をしている人たちや自分が尊敬している人たちからのポジティヴな反応ほど嬉しいものはない。新聞や雑誌のレヴューで高く評価されるのも嬉しいけれど、やはり、自分が尊敬しているミュージシャンから評価されるのはまったく違う嬉しさがある。

前作『The Livelong Day』からこの新作までの約3年の間で、バンド内、あるいはバンド周辺で何か変化はありましたか?

IL:変化はたくさんあったよ。パーソナルなものからアーティスティックなものまで。一番大きな変化はコンサーティーナのレイディ・ピートに赤ちゃんが生まれたことだね。それはとても良い変化だった。その一方で、みんなの精神衛生面が悪くなってしまったり、健康面での問題もあった。ロックダウンにも大きな影響を受けたけど、そのせいで逆に、俺たちは各自のソロ・プロジェクトやアルバムに専念することができた。だから悪い時期ではなかったと思う。この数年間で俺たちは各自の成長を遂げることができた。コロナという状況を最大限に活かすことができたと思う。このアルバムもその期間内に作ることができたし、各メンバーもそれぞれの変化を体験して、進化していった。3年前に比べると、バンドのランドスケープ(=置かれている状況や環境)がまったく違うものになったと感じられるね。

コロナ禍が本作に及ぼした影響について、もっと具体的に語ってもらえますか。

IL:影響は大きかったね。俺がいまいるこの大きな部屋は、ダブリン南部にある築200年くらいの塔なんだ。ロックダウン中にこの塔の所有者が俺に連絡をくれて、「自分はこの塔を所有していて、管理してくれる人を探している」と言うので、しばらく塔で暮らすのも悪くないなと思い、承諾した。しかも、バンドを連れてきて、ここで作業してもいいと所有者は言ってくれたんだ。ちょうどアルバムの制作にとりかかるいいタイミングだった。ロックダウン中で、お互いに会いに行ったりすることができない状況だったから、バンド・メンバー全員がこの塔に来て、みんなで一緒に暮らすことにしたんだ。とても良い体験だったよ。この塔からは海が見渡せるんだ。屋上からダブリンの町全体も見える。確か1803年か1804年、ナポレオン率いるフランス軍の侵略を恐れていたイギリスが、ダブリンの湾岸に沿って建てたんだよ。

軍事的見張り塔だったんですね。

IL:うん。その環境が無意識にアルバムの内容に反映されていったのだと思う。今作に「海」や「海軍」的な要素が多く含まれているのもそのせいだと思う。ほとんどの収録曲が「海」と何らかの関係があるんだ。もしも状況が違っていたら、まったく違うアルバムができていたと思うよ。俺たちはそれまでの数年間、結構ハードなツアー活動をやってきていて、ロックダウンになる前は、かなり疲弊していた。ツアー中は、アルバムに向けて新しい曲を作っていくのが難しい。前作の評判がすごく良くて、ようやく俺たちにも道が開けてきた! と思っていたところに、コロナ禍ですべてが急停止してしまったわけだが、もしロックダウンになっていなかったら、この新作の内容がどうなっていたか想像もつかないね。

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特に伝統的な曲をアレンジする場合は、映画音楽を作っているようなイメージなんだ。つまり、曲の感情的な部分を、ときには絶妙に、また、あるときには強烈に引き出したいと考えている。映画音楽を制作するということは、映画監督が描くストーリーを表現する手助けをしているということだ。そこには、観衆を絶妙に導いていく役目があり、観衆がどう感じるべきかをダイレクトに主張するのとは違う。物語を優しく語る手助けをする。

今回も、ジョン “スパッド” マーフィー(John ‘Spud’ Murphy)がエンジニアを務めていますが、ランクムにおけるスパッドの立ち位置や役割について、具体的に説明してください。私には、彼はほとんど第5のメンバーのように思えます。

IL:まさにその通りなんだ! スパッドはアレンジからプロダクション、その他の作業でも、俺たちと同じくらいの役割を果たしているからね。今作では、彼が中心的役割を担った箇所もある。たとえば、曲と曲の間にあるインストの「フーガ」3曲(“Fugue I”~“Fugue III”)はすべて彼のアレンジによるものだ。彼がアレンジしたものを俺たちに聴かせて、そこに俺たちが手を加え、また彼に戻したりしていた。他の曲に関しても、自分たちでは思いつかないような素晴らしいアイデアをたくさん提案してくれた。彼は音楽に対する耳が非常に良くて、音階を完全に理解している。エンジニアの達人だよ。スパッドはまさに第5のメンバーだ。彼がいなかったらこれはまったく別のプロジェクトになっていた。
 スパッドと初めて一緒に仕事をしたのは、2015年に「パーラー(The Parlour)」という音楽番組で演奏し、その中の1曲 “Rosie Riley” のヴィデオを作るときだった。スパッドはそのヴィデオのサウンド・エンジニアを担当したんだけど、そのときに、ランクムに欠けていた低音域の音をうまく引き出してくれたんだ。


Lankum “Rosie Reilly” [Live at The Parlour]

 当時の俺たちは、扱っている楽器がシンプルだったということもあって、みんなそれぞれひとつかふたつくらいの楽器しか演奏していなかった。いまではみんな10種類くらいの楽器を各人が扱っているけどね。当時の俺たちはそんなミニマルな編成だったわけだが、スパッドはその音を聴いて、ベース音を引き出したり、それ以外の素敵な要素を引き出し、EQで音質の補正をおこない、完璧なサウンドにしてくれた。そのことがあって以来、俺たちのサウンドは急速に良くなり、ドローンや低音域のサウンド、サブベース音などを追求するようになった。俺たちはいまでもその旅路を続けているのだと思う。スパッドの存在なしでは不可能だったことだ。彼はいまでは俺たちのライヴ音響もやっているんだよ。スパッドに頼む前までは他の人にやってもらっていたんだけど、彼のように明確なヴィジョンを持っている人はあまりいなかったと思う。他の人は「あるバンドのためにライヴ音響をやっている」という普通のお仕事スタンスだったけれど、スパッドが担当になったときは、「ランクムのサウンドはこういうものだ」というヴィジョンが彼の中にすでにあった。そして幸運なことに、そのヴィジョンは俺たちが描いているものと同じだった。彼と一緒にこのような旅路ができていることを嬉しく思うよ。

今作では、初めてジャケットにメンバーの写真が使われていますね。しかも撮影は、あのスティーヴ・ガリック(Steve Gullick)で。

IL:ハハッ、そうなんだよ、なぜだろうな(照れ笑い)。確かにバント・メンバーの写真を使ったのは今回が初めてだね。俺たちがティーンエイジャーの頃は、彼が撮ったニルヴァーナやブリーダーズといったバンドの写真を自分たちの部屋に貼っていたんだ。だから今回彼が撮影してくれることになったときは、素晴らしい機会だと思った。アルバム・ジャケットのコンセプトとしては、スティーヴ・ガリックが撮った写真と、ギュスターヴ・ドレによるイラストを使うということだった。スティーヴ・ガリックの写真はアイコニックだし、イラストも含めて全体的にとても良い感じに仕上がったと思う。撮影当日、彼はどんな写真を撮るかということについて、色々なアイデアを提案してくれたけれど、スティーヴ・ガリックが撮るなら絶対にかっこいいものになると信じていたから、俺たちからは特に何も伝えなかったよ。そして彼は期待通り、かっこいい写真を撮ってくれた。このアルバム・ジャケットからは、グランジ・バンドのような、90年代初頭っぽいテイストが感じられる。俺自身が当時のグランジ・ロックに目がなくて、特に12歳から14歳くらいの頃はそういう音楽を熱心に聴いていたということもあり、あの時代の美的感覚がたまらなく好きなんだよ。

スティーヴ・ガリックが撮影したジャケット例
https://www.discogs.com/ja/master/18393-Nick-Cave-The-Bad-Seeds-The-Boatmans-Call
https://www.discogs.com/ja/master/611610-Gallon-Drunk-Black-Milk
https://www.discogs.com/ja/master/178891-The-Waterboys-A-Rock-In-The-Weary-Land
https://www.discogs.com/ja/master/77388-Richard-Ashcroft-Alone-With-Everybody
https://www.discogs.com/ja/master/166975-Mercury-Rev-Little-Rhymes
https://www.discogs.com/ja/master/8066-Bonnie-Prince-Billy-Master-And-Everyone

海のような潮の満ち引きが感じられるようにしたかった。だから意図的に、ダークで強烈な曲の次には、波が引くようにリラックスした曲を配置し、その次は、また強烈な感じの曲にするという構成にしたんだ。

今回ゲスト参加したミュージシャンについて具体的に教えてください。

IL:ゲスト・ミュージシャンは何人かいるが、特に印象的だったのはアイルランド人コンサーティーナ奏者のコーマック・ベグリー(Cormac Begley)だね。彼はソロ・アルバムも数枚出している。様々な種類のコンサーティーナを持っていて、大型のベースのようなコンサーティーナをよく使っている。彼はリズムに対する感覚が特に素晴らしいんだ。④“Master Crowley's” では、コーマックとレイディ、レイディの妹のサイド・ピートが3人一緒にコンサーティーナを演奏している。あとこれも身内の繋がりなんだが、フィドルのコーマック・マクディアーマダの兄のジョン・ダーモンディが数曲でドラムとパーカッションを演奏している。実は俺は1996年くらいに、ジョンとパンク・バンドを一緒にやっていたんだ。だから彼がアルバムに参加してくれたのはとてもクールだった。


Cormac Begley “O'Neill's March”

 それから、アメリカのノースカロライナ州在住のシンガー・ソングライター、アンディー・ザ・ドアバム(Andy the Doorbum)にもゲスト・ヴォーカルで参加してもらった。彼の音源データをアメリカから送ってもらったんだけどね。俺たちは長い間、彼の音楽の大ファンだったんだ。ランクムが前回アメリカをツアーしたときは、彼も同行し、移動の運転を引き受けてくれたり、ライヴにも参加してくれたんだ。


Andy the Doorbum “Wolf Ceremony and the Howling”

楽器や機材の点で、これまでと違う新しい試みは何かありましたか?

IL:新しい試みや実験的なことは今回たくさんやったよ。前作で使われていた基本的な楽器は、ギター、フィドル、ヴィオラ、コンサーティーナ、アコーディオン、イリアン・パイプスだったけれど、今回は、パーカッションやダルシマーを多くの曲で使用したり、俺がハーディ・ガーディを多用したりもした。バンジョーやギターのボウイング奏法も多くやったね。それからイリアン・パイプスにマイクを入れて、それをペダルボードにつなげて、ディストーションやディレイやリヴァーブのエフェクトを実験的に加えたりもした。その他、タスカムの4トラックのカセット・マシーンを使ってテープ・ループ機能で実験し、その素材でアンビエントなテクスチャーを作ったし、フィドルの弓でピアノの弦を擦って音を出してみたりもした。こんな感じで、楽器を変則的に扱って実験的な音遊びを続けていたから、スタジオの所有者が中に入ってきたときに、慌ててピアノの中のフィドルの弓を隠したなんてこともあったよ(笑)。あと、部屋で歌っているときの共鳴音を、ピアノの弦からのみ録音したりとか。ファウンドサウンド(自然音などのサンプル集)の音源を使うこともやった。ある曲の中には、セロリが育つ音がピッチダウンされた状態でどこかに忍ばせてあるんだよ。そういう細かいことをたくさんやったから、今回のアルバムではどの曲も、ものすごい数のレイヤーが含まれている。だからこそ、スパッドの細部にこだわる性格にはとても助けられた。俺たちはとにかく色々なことを試しては、トラックを次々に録っていっただけだったからね。たとえば、俺はハーディ・ガーディで20の異なるトラックを1日で録音したりした。弦のチューニングを上から順に動かしてやったり、1本の弦だけをずっと弾いてみたりも。そんな音源をスパッドは整理して、俺たちが録音した荒素材からトラックを作っていってくれたのさ。とにかく自分たちが持っている楽器とスタジオで使える楽器すべてを録音したいという思いがあった。俺が一番楽しいと感じられる瞬間だったね。色々な楽器のサウンドやノイズに没頭して迷い込む……そういうことに瞑想的な効果を感じるんだ。たとえば、パイプのドローン音を2時間くらいずっと録音し続ける。ただそこに座ってパイプのドローンだけに没頭するんだ。俺が一番好きな午後の時間の過ごし方さ。そういうのが大好きなんだ。

① “Go Dig My Grave” はアメリカのアパラチアン・フォーク・シンガー、ジーン・リッチー(Jean Ritchie)の音源を参考にしたそうですが、他4つのトラッド・ソング④⑤⑧⑨の参照出典を教えてください。また、それらの原典の中で、特に思い入れのある作品/楽曲/ミュージシャンと自分との関わりについて、何か面白いエピソードがあったら、教えてください。


Lankum “Go Dig My Grave”

IL:⑧ “The New York Trader” は俺が知っていた曲で、ルーク・チーヴァーズ(Luke Cheevers)というアイルランドのトラッド・シンガーが歌った音源を参考にしている。俺たちは彼の音源を聴いて、曲を学んだんだ。いまでは彼と交友関係にあるけれど、彼が実際に歌っているところを見たことはなくて、1980年代に彼がパブのセッションで歌っている音源しか聴いたことがない。俺たちは、その音源が昔から好きだったんだ。この曲は制作初期にできた曲で、レコーディング開始の最初の週に完成させた。


Lankum “The New York Trader”

 ⑨ “Lord Abore and Mary Flynn” ではフィドルのコーマックがリード・ヴォーカルをとっているが、俺も以前は歌っていた。この曲は、イングランドやスコットランド由来の古い歌を集めた『チャイルド・バラッド(The Child Ballads)』という本(アメリカの文献学者フランシス・ジェイムズ・チャイルドが19世紀後半にまとめた民謡集)に収録されている。ブリテン諸島やアメリカなどでは伝統として残らず、民俗学者たちはもう継承されていないと思っていたんだけど、70年代初めにトム・モドリーというソング・コレクターが、この曲をダブリンのパブで誰かが歌っているのを聴いて衝撃を受けたらしい。それが唯一録音されている伝統的なヴァージョンだそうだ。だからこの曲はダブリンとも関連がある。母親が自分の息子と彼のガールフレンドに嫉妬して、息子を毒殺してしまうというとても悲しくて美しい物語歌だ。


Lankum “Lord Abore and Mary Flynn”

 ④ “Master Crowley's” はレイディ・ピートが幼い頃、コンサーティーナ奏者のノエル・ヒル(Noel Hill)から直接教わったものだ。この先生は、クレア州出身の非常に有名なコンサーティーナ奏者だよ。


Lankum “Master Crowley's”

 そして⑤ “Newcastle” は弟のダラグがルームメイトから教わった曲だ。彼の名はショーン・フィッツジェラルド(Sean Fitzgerald)といって、デッドリアンズ(The Deadlians)というダブリンのフォーク・ロック・バンドで活動している。数年前にショーンがこの曲を録音して、ダラグがそれを気に入ったんだ。


“Newcastle” を収録した The Deadlians『Ruskavellas』

 実は最初はダラグが歌ったものを録音したんだけど、レイディが歌った方がいい感じだったからレイディの声を採用した。俺たちはいつも、「誰が何をやるべきか」ということにこだわりすぎないで、音にすべてを委ねて、一番良いと思うサウンドを目指している。誰がどの曲を歌うとか誰かの見せ場を作るとかは重要視していない。それがランクムの良いところだと思っている。個人のエゴが音楽の邪魔をしないというか、「俺はこれがやりたい」とか「これは私がやる」というよりも、みんながバンドにとって最適なサウンドを求めているんだ。


Lankum “Newcastle”

⑧ “The New York Trader” は途中で一度途切れ、後半でよりロック的なサウンドになりますが、こういう構造にした理由、目論見について教えてください。

IL:これは自分でも最近よく考えていることなんだけど、俺たちのアレンジの仕方、特に伝統的な曲をアレンジする場合は、映画音楽を作っているようなイメージなんだ。つまり、曲の感情的な部分を、ときには絶妙に、また、あるときには強烈に引き出したいと考えている。映画音楽を制作するということは、映画監督が描くストーリーを表現する手助けをしているということだ。そこには、観衆を絶妙に導いていく役目があり、観衆がどう感じるべきかをダイレクトに主張するのとは違う。物語を優しく語る手助けをする。俺たちが伝統的な曲をアレンジする時は、そういうアプローチに近いものがあると思うんだ。“New York Trader” が一度中断し、途中からヘヴィーな感じになる箇所は、海で嵐に巻き込まれている様子を再現しようとしたんだ。曲の中で起こっている事柄に音楽の感じを合わせるようにしたのさ。

つなぎの3つのインスト曲 “Fugue” を含め、アルバム全体の構成と流れがかなり緻密ですが、この点についてはかなり意識したんでしょうね。

IL:俺たちは、アルバムというひとつの作品として機能するものを作りたいと思っている。最近の若い人たちはアルバムを通しで聴かずに、ストリーミング・サービスで自分が聴きたい曲しか聴かないなどとよく言われているから、そういう意味ではランクムは古風なのかもしれない。でも俺たちがアルバムを作るときは、やはりひとつのアルバムとして完結しているものを作りたいと思うんだ。ひとつの旅路のようなアルバムというか。今回のアルバムのコンセプトとして念頭にあったのは、「海」のようなものにしたいということだった。先ほども「海」との関連性について触れたけど、アルバム全体で海のような潮の満ち引きが感じられるようにしたかった。だから意図的に、ダークで強烈な曲の次には、波が引くようにリラックスした曲を配置し、その次は、また強烈な感じの曲にするという構成にしたんだ。あと、どの順番がいい流れに聴こえるかということも重要だった。だから、今回録音した曲の中にはアルバムの枠組みに収まらなかったものもいくつかあったから、アルバムから外すという選択をした。曲単体としては非常に良いものでも全体の構成に合わないものはアルバムに含めないで、またの機会に使うことにしたんだ。

ランクムと並ぶ、現在のアイリッシュ・フォークの新しい旗手たち──イェ・ヴァガボンズ(Ye Vagabonds)、ジュニア・ブラザー(Junior Brother)、リサ・オニール(Lisa O'Neill)が最近立て続けに新作を発表しました。こういった他ミュージシャンたちとの連帯意識と、実際の活動状況(共演とか)について教えてください。

IL:俺たちは、いま、挙げられたイェ・ヴァガボンズともジュニア・ブラザーともリサ・オニールともダブリンのセッションを通して仲良くなったからみんな友だちだよ。俺たちはみんなアイルランドの伝統に魅力を感じ、大なり小なりのインスピレイションを受けているという点においては共通していると思う。けれど共通しているのはその点だけで、バンドとしてのアウトプットはそれぞれとても違うものなんだ。音楽に対するそれぞれの嗜好や感性もかなり違うと思うし。彼らとの共通点は、アイルランドの伝統を扱っているということだけだね。もしイェ・ヴァガボンズを街のセッションで見かけたら、一緒に曲を歌ったり演奏したりすることはあると思うけれど、俺たちがアルバムで表現したいことや、バンドとしてやっていきたいことは、彼らのそれとはまったく違うことだと思うんだ。だからこれらのバンドが何らかのシーンを形成しているというよりも、そこには、友人同士のゆるいつながりがあって、それは音楽的というよりも社交的なつながりという感じがするな。

この新作に自分でキャッチ・コピーを付けるとすれば?

IL:そんなことはしないよ(笑)。俺は、自分が作った音楽を言葉で説明するのが好きではないというか、そもそも苦手だし。俺はとにかくノイズを出して音に迷い込んでいたい。ただそれだけなんだ。その音楽をどのように説明するか、どのようにカテゴライズするのかは他の人に任せたい。俺にはできないから。俺は様々な音楽やジャンルからインスピレイションを受けたり、色々なアイデアを思いついたりするけれど、それをいちいち切り離して、ひとつずつ理解しようとはしないんだ。様々な要素がごちゃ混ぜになった自分の音楽を作り、「はい、できあがり! めちゃくちゃだけど俺はこれに納得してるからそれでいい」、そんな感じなんだ。いつか日本に行く機会があればと願っているよ!

interview with Black Country, New Road - ele-king

ワンテイクで撮ったのだと思って欲しくないな、と思った。ここは正直に、3日間の公演を通して撮られたものだと知ってもらいたかった。そこで毎晩違った格好をしようということになった。(エヴァンズ)

 アイザック・ウッドがブラック・カントリー・ニュー・ロードを脱退して1年が経った。
 正直、僕はまだ彼の才能が恋しいし、もうBCNRが『Ants From Up There』をプレイしないということを本当に残念に思っている。しかしBCNRは止まらない。メイン・ヴォーカルの脱退というバンドにとって致命的なアクシデントを乗り越え、BCNRの絆はより強固なものになっている。『Ants From Up There』は言うまでもなく美しい名盤で、様々なメディアでも2022年のベスト・アルバムの上位に並んだ。しかしウッドの脱退を受け、バンドは全曲新曲でのツアーを決めた。ツアーがはじまるまでの限られた時間で曲を持ち寄り作られたライヴ・セットは一年のツアーを経て研磨され『Live at Bush Hall』へ帰結する。

 過去のインタヴューでメンバーがよく口にしていた民主的なバンドの意思決定プロセスが『Live at Bush Hall』では濃く反映されているように感じる。各曲でメイン・ヴォーカルが変わるスタイルも要因として大きいだろうが、誰かひとりが編曲を統括しないことで生まれる流動的で自由なグルーヴがライヴ・アルバムというアイデアと相性が良く、これはスタジオではなくライヴで録るべきだというバンドの選択に合点がいく。プロムや学芸会的なアイデアも、会場を友人やレーベルの人間と飾りつける様子もBCNRが獲得したスタイルをよく表現している。

 サウンド面でも評価されるべきアルバムだと思う。ただでさえメンバーが多いBCNRだが、ピアノ、ドラム、ヴァイオリン、サックス、フルートなど音量がバラバラな上、パーテーションで仕切ってあったが、ステージはかなり小さいので録音はかなり難しかったと思う。先行してYouTubeにアップされているライヴ映像を見ると、ギターのルーク・マークとベースのタイラー・ハイドの後ろにはアンプがなくステージの後方、ピアノの裏まで押し込んであったりいろいろ工夫が施されてある。マスタリングにアビー・ロード・スタジオのエンジニアがクレジットされているのでしっかりしているのは納得だが、生々しいがクリアで暖かく重厚感のあるサウンドはライヴ・アルバムとして理想的な録音になっている。

 語るべきストーリーのあるバンドは多くの人から愛される。我々ファンや音楽ライターは往々にして悲劇やそれを乗り越えるバンドのストーリーを勝手に作りあげてしまうが、そんなことは彼らには関係なく、「ミュージシャンとしては、1日を大切に生きてその瞬間を楽しむということが大事だと思うんだ」と言う彼らの素直に音楽を楽しむ姿勢は、そんなストーリーよりも貴重で素晴らしいと思う。

よくあるライヴ映像は、複数のライヴ映像のうまい部分を編集して繋ぎ合わせて、見栄えを良くしているけれど、僕たちはそのやり方はしたくないと思った。(マーク)

シングル「Sunglasses」のリリース時から聴いていたのでインタヴューできることを大変嬉しく思います。まずは簡単な質問から。BCNRのSpotifyにみなさんのプレイリストがあります。多彩で面白く楽しみに聴いているのですが、あれはみなさんが普段聴いている曲なのでしょうか? それともバンドのためのリファレンスのような物として共有しているのでしょうか?

ルイス・エヴァンズ(Lewis Evans、以下LE):あれはバンド・メンバーで共有しているプレイリストで、各自が好きな音楽を追加しているんだ。普段みんなが聴いている曲を入れているだけで、BNCRが作る音楽のレファレンスとも言えるけど、僕たちは具体的な曲をレファレンスにして制作をすることはあまりしないから、その時々に聴いている曲をシェアしている感じだね。

ルーク・マーク(Luke Mark、以下LM):BCNRがこういう曲を聴いているとか、こういう曲に影響されているということをリスナーに知ってもらいたいという意識は特になくて、僕があのプレイリストに載せているのは、ただそのときに自分が聴きまくっていた曲というのが多い。だから、同じ曲がプレイリストに何回も入っていることもある。誰かが載せた曲を、他のメンバーが聴いて、またそれをプレイリストに載せたりするからね。

いちばん最近のものに青葉市子やBuffalo Daughterなど日本のアーティストが入っていましたが、日本のアーティストも普段聞きますか? どんなアーティストでしょう?

LM:チャーリー(・ウェイン/ドラム)とメイ(・カーショウ/キーボード)が青葉市子の大ファンなんだ。僕は彼女の音楽を聴いたことがなかったんだけど、今度、彼女とロッテルダムのMOMOというフェスティヴァルで共演することになった。だから残りのメンバーはこれから彼女の音楽を聴いて知ろうと思っているところだよ。

LE:プレイリストに載せたかどうか覚えてないけど僕は渡辺美里をよく聴くよ。“My Revolution” とか。ポップ・ソングの書き方に関してはエキスパートだと思うからね。トップ・クオリティだよ!

LM:僕たちの家では朝食の時間にかける音楽だよな。

LE:そうそう、コーヒーを飲みながら聴いてるんだ。


今回取材に応じてくれたルーク・マーク(ギター)


今回取材に応じてくれたルイス・エヴァンズ(サックス/フルート/ヴォーカル)

アイザックが抜ける前の時点で、BCNRにはライヴやフェスティヴァル出演をする機会がたくさん予定されていた。その機会を活かしてライヴなどに出演するのか、音楽以外の現実味のある仕事を見つけるかという話で、全員が前者を希望した。(エヴァンズ)

いろいろなインタヴューでもお話しのように、様々な音楽的バックグラウンドをお持ちですが、音楽以外の影響はどうでしょうか? 好きな映画や本やアートなど、音楽以外からの影響について教えてください。

LM:バンドのメンバーたちは様々なメディアから影響を受けているよ。たとえばタイラーはアート専攻だったから現代美術について詳しいし、チャーリーは美術史が好きだからヨーロッパをツアーしているときは美術館に行きたがる。チャーリーがメンバーの中で、いやタイラーと同じくらい、いちばん美術史について知っていると思う。僕はヴィジュアル・アートに関しては好きなものは少しあるけれど、あまり知識がない方なんだ。最近は、近代美術家のピーター・ドイルという人がロンドンで展示会をやっていたから行ったけど、とても良かった。とても親しみやすいというかわかりやすいから自分でも好きなんだろうな(笑)。デカいサイズの、カラフルな絵を描く人だ。僕がいちばん好きなのはピーター・ドイルかな。本はどうだろう……?

LE:僕は本をあまり読まないんだ。

青木:では映画はいかがですか?

LE:映画は好きだよ。映画は大好き。僕には本は読むだけの集中力がないんだ。だから1時間半くらいの映画が僕にとってはちょうどいい。映画かあ……僕がいちばん好きな映画って何だっけ?

LM:ルイスがいちばん好きな映画は『Waiting for Guffman』(96:クリストファー・ゲスト監督)だよ。

LE:そう、『Waiting for Guffman』で、えーと誰が作ったんだっけ?

LM:あれだよ、あの人!

LE:『Spinal Tap』(84:ロブ・ライナー監督)を作った人! 彼(*脚本のクリストファー・ゲスト)と、彼がいつも起用するキャストのメンバーが登場する、最高な90年代の映画だよ。全てがアドリブなんだ。『Waiting for Guffman』は本当に大好き! あとはかっこいいホラー映画も好きだよ。最近は日本のホラー映画も観てるんだ。『仄暗い水の底から』(02)も観たし……

LM:『仄暗い水の底から』はすごく良かったよな。

LE:『リング』(98)も観た。あれは有名だよね。

LM:『リング』も『仄暗い水の底から』と同じ監督だよね(*中田秀夫)。『仄暗い水の底から』の方が怖かったと思う。

LE:『仄暗い水の底から』の方が?

LM:『リング』の描写は他の映画で何度も模倣されているというか……去年も『Smile』(22)というホラー映画を観たんだけど、『Smile』の基本的なストーリーは、『リング』の結末から始まる感じなんだ。だからパクリだと思ったよ。僕は映画にあまり詳しくないけれど、今年は、可能な限り、映画を一日一本見るということをして、映画に詳しくなろうとしているんだ。これをやれば年末までに365本の映画を観たことになる。ルイスと僕にはルームメイトがふたりいるんだけど、そのふたりとも映画が大好きなんだ。彼らの方が僕よりもずっと映画には詳しい。だから僕は最近、デュー・デリジェンスの取り組みとして、昔の名作映画をたくさん観ているよ。イングマール・ベルイマンやフェデリコ・フェリーニといったアートハウス系の名監督の作品を観ている。いままでそういう作品を観たことがなかったからね。最近は初めて『8 ½』を観たけど、素晴らしいと思ったよ。

映像の途中でみなさんがセットを作るシーンが印象的でした。プロムや学芸会的な演出はどこから出てきたのでしょうか?

LE:今回のプロジェクトのフォーカスは、通常のアルバム・リリースではなく、ライヴ映像にしたいと思っていたこと。このプロジェクトに収録されている曲は、アルバムのために書いた曲ではないんだよ。だからライヴ公演みたいな感じにしたかった。でもライヴ公演では、全てのテイクが最高なテイクになるとは限らない。だからなるべく最高なテイクを披露できるための環境を自分たちで作り上げた。つまり、公演を複数回おこなうということだ。でも、今後テレビなりYouTubeなりでこの映像を観た人が、これをワンテイクで撮ったのだと思って欲しくないな、と思った。ここは正直に、3日間の公演を通して撮られたものだと知ってもらいたかった。そこで毎晩違った格好をしようということになった。確か、アート・ディレクターのローズ(Rosalind Murray)が学芸会的なアイデアを思い付いたんだと思う。それか僕かタイラー。よく覚えてないけど、3人の誰かが思いついた。

LM:(爆笑)僕もそのときにいたよ。

LE:タイラーがイメージの絵を描いていて、ローズがアイデアを思いついて、みんなで脚本を書いたんだっけな? とにかくアート・ディレクターと一緒にこのアイデアを思いついたんだ。それに加えて、これをすごく楽しくて、馬鹿げていて、面白いヴィジュアル・プロジェクトにしようという思いがあった。そうすることで映像主体のリリースにすることができた。そして観客に対しても、一連の曲を聴くという体験よりも、映像を観るという体験を提供できるという、クリエイティヴで面白い手法になった。

LM:3公演やったのは、曲を上手に演奏する機会を3回設けるためだった。それに、よくあるライヴ映像は、複数のライヴ映像のうまい部分を編集して繋ぎ合わせて、見栄えを良くしているけれど、僕たちはそのやり方はしたくないと思った。だから学芸会的なアイデアが出る以前から、ひとつひとつの公演のヴィジュアルを独特なものにしようと話していたんだ。だから公演ごとにバンドとして統一感のある格好にしようと決めていた。その方が、どの公演の演奏なのかが明確になるからね。その考えが発展して、学芸会のアイデアへとつながったんだ。

青木:つまり、一晩ごとに同じ衣装を着て、次の夜の公演はまた別の衣装、という流れだったんですね。

LM:その通り。だから僕たちがひとつの衣装を着ているときは、その衣装でワンテイクしかしていないということなんだ。各曲はひとつの公演で一回ずつしかやっていないということだよ。

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僕たちが近い将来、新曲を披露しはじめたら、その曲はおそらく、『Bush Hall』に収録されている曲とほぼ同じ状態だと考えていいと思う。(マーク)

スタジオ・アルバムではなく、ライヴ・アルバムでのリリースになったのはどういう経緯があったのでしょうか?

LE:アイザックがバンドを脱退したとき、僕たちは「活動を休止するか、しないか」という究極の選択を迫られた。アイザックが抜ける前の時点で、BCNRにはライヴやフェスティヴァル出演をする機会がたくさん予定されていた。その機会を活かしてライヴなどに出演するのか、音楽以外の現実味のある仕事を見つけるかという話で、全員が前者を希望した。

LM:もちろんバンド活動を続けたいし、ライヴをやりたいという気持ちもあったよ!

LE:そこでフェスティヴァルで演奏できるようなライヴ・セットを3カ月間という短期間で書き上げたんだ。だから今回の曲は、アルバムを想定されて作られたものではなかった。各曲についても、他の曲を考慮しながら書かれたものでもなかった。「手持ちの曲がある人は、リハーサル室に持ち寄ってきて。いま、それをみんなで練習しよう! 締切があるんだ」──そういう感じだった。このプロジェクトの仕上がりに満足していないわけではないけれど、これはアルバムとしては適切ではないと感じていたんだ。アルバムとしてリリースするのはしっくりこなかった。だからこうやってライヴ・アルバムとしてリリースできたことは嬉しい。良いリリースの仕方だったと思う。今回の曲がライヴのために書かれたものだということが明確に伝わる作品になったと思う。

LM:僕も同感だ。

ブッシュ・ホールでのライヴは去年のフジロックで来日されたときよりもアレンジも変わりかなり演奏がまとまり、一種のBCNR第二章の総括のような印象を受けました。以前のインタヴューでは(チャーリー・ウェインが)発展途上だとおっしゃっていましたがいまはどう考えますか?

LM:以前、曲についてインタヴューされたときは、今後もっと変更していこうと考えていたんだと思う。僕たちは通常そうやって曲を発展させていくから。曲をライヴで演奏したら、その後にはリハーサル室に集まって、細かい修正をしながら、曲を改善していく。でも今回は、ライヴの回数が多すぎて、あまりそれをやることができなかったんだ。去年はすごく忙しくて、自由な時間があっても僕たちはみんな疲弊していたから、追加の作曲セッションはほとんどやらなかった。だから通常のBCNRの曲と比べて、今回のアルバムの曲はオリジナルに比較的忠実だと思う。

LE:でも今後6カ月くらいのうちに、『Bush Hall Live』アルバムの曲のどれかに嫌気が差して、書き直したいと思う時期が来ると思う。そのときには曲の修正をするよ。

LM:最終的にどの曲も書き直しが入るんじゃないかな。お客さんも『Bush Hall Live』の曲を気に入ってくれているし、今後僕たちが、ライヴ向けではない、アルバム向けの作曲をしていくに連れて、お客さんは『Bush Hall Live』の曲もアルバム・ヴァージョンを聴きたいと思うんじゃないかな。そのときに、僕たちの最新の音源に合うように、『Bush Hall Live』の曲を調整していくと思う。僕たちはいままでもそういうアプローチでやってきたんだ。それが気に入らない人も一部いるんだけどね。でもそれがベストなやり方だと思う。

LE:自分たちがいちばん納得できるやり方だよね。

演奏力もさることながら、楽器の数にしてはすごくタイトになってきて、すごいバランス感だと思います。全体の編曲はどなたかが担当されたのでしょうか? それともツアー中に研磨されていったのでしょうか。

LE:ツアー中に研磨していったものがほとんどだった。中には1、2曲どうしてもうまくいかない曲があって、数カ月間ライヴで演奏していたんだけど、毎回問題があったから、スタジオに入って微調整をおこなわなければならないものはあった。自分たちの満足がいくように修正する必要があったんだ。でもそれ以外の曲は全て、編曲などはせずに、時間をかけて研磨されていった。編曲する時間がなかったということもある。ルークが言ったように、僕たちは10月頃に1カ月のオフがあったんだけど、みんな完全に疲弊しきっていて、一緒に集まって作曲するのは無理だということになり、ただ一緒に集まって遊んでいた。だから編曲というよりは研磨されたということだね。

ブッシュ・ホールではオーディエンスも曲を知っている様子ですごく暖かい印象でした。“Up Song” なんかはすでにアンセム的な情緒があると思います。昨年のツアーを経て新生BCNRは世界のリスナーにすでに受け入れられていると思いますが、オーディエンスの反応はどう感じていますか?

LM:みんなにとっては嬉しい驚きだったみたいだね。僕たちも、みんなが新曲を気に入ってくれたことが驚きだった。新生BCNRの最初のツアーはUK でやったんだけど、小さな会場で新譜を披露した。最初のライヴはブライトンだった。BCNRのファンだけでなく、僕たちの友人たちでバンドをやっている奴らもこのライヴを観にきてくれて、みんなすごく良いと言ってくれた。僕たちと関わりのあるPR会社の人や、マネージャーや、バンドの近しい人たちで、まだ新曲を聴いていなかった人たちもライヴに来てくれて、みんな新曲を素晴らしいと言ってくれた。とても嬉しかったよ。幸先が良いと思った。それ以降、公式な音源がリリースされるまでの間、様々な映像や情報がYouTubeなどで公開されてきたけれど、ネガティヴな反応はほとんどなかった。とてもポジティヴで寛容的なものばかりだった。みんな僕たちのことを応援してくれてサポートしてくれた。本当に嬉しいことだよ。

LE:素晴らしいことだよね。お客さん全員が僕たちの曲を知っているという、ニッチなシーンに出くわすのが面白いよねという話をごく最近していたんだ。去年の夏にラトヴィアに行ったんだけど、僕たちのことを知っている人はあまりいないと思っていた。案の定、そのフェスティヴァルは5000人収容の場所だったけど僕たちのライヴには150人くらいしかお客さんがいなかった。その1週間後、僕たちはリトアニアでライヴをやったんだけど、そのときは僕たちを観ている観客が1000人くらいいたんだ! しかも曲の歌詞を知っている人ばかり。「ラトヴィアとリトアニアは隣国同士なのに、なぜこんなにも違うんだろう!?」と思ったよ。自分が一生行くことがないだろうと思っていた二カ国に行くことになって、そのうちの一カ国では僕たちことを知っている人が大勢いた。とても奇妙な体験だったよ。
 先週は香港に行ったんだけど、香港でもBCNRの曲の歌詞を知っている人がたくさんいた。すごく変な感じだよ。それに、僕たちの曲を知らない人でも僕たちのライヴに来て、僕たちを観にきてくれるということが嬉しい。観客の前から3列目くらいまでは、コアなファンで、未発表の曲もすでに全て知っているという人たち。大人数の観客の場合、3列目より後ろの人たちは、曲を知らないけれど、僕たちがバンドとして上手いと思っているからライヴを観ていて、そのフェスティヴァルで同じ時間帯にやっている他のバンドが観れなくても、僕たちを観る方がいいと思ってくれている人たち。そういう人たちがいるのを見ると感激するし、そう思ってくれる人たちがいるということに感謝しているよ。僕たちが作る音楽は良いものだと自分でも思っているけれど、お客さんがいまでも僕たちのことを好きでいてくれて、リスペクトして観にきてくれるということは嬉しいことだよ。

わかっている唯一のことは映画音楽をやりたいということ。僕はインタヴューされるごとに必ずこう言っているんだ。いつか僕の言葉が映画監督かプロデューサーに届いて「BCNRを起用したい」と言ってくれるかもしれないことを願ってね。だから日本で映画音楽が必要な人がいたら教えてくれよ。僕たちがやりたい!(エヴァンズ)

アルバムの中で特にお気に入りの曲は何ですか?

LM:お気に入りの曲はいくつかあって、理由もそれぞれ違うから答えるのは難しいけれど、1曲だけ選ぶとしたら “Turbines” かな。初めて聴いたときも「なんて素晴らしい曲なんだ」と思ったんだ。

LE:“Turbines” はおそらくいちばん良い曲だろうな。でも演奏するのがいちばん好きという曲ではないかもしれない。演奏していてすごく疲れるし。

LM:ストレスを感じるよな。僕が演奏していて楽しいのは “Dancers” の終盤。“Up Song (Reprise)” も演奏していてすごく楽しかった。満足感もあったし、美しいと思った。あまり演奏する機会はないんだけれどね。先日は “Up Song (Reprise)” のロング・ヴァージョンをやったよね。台北でヘッドライン公演をやったんだけど、そのときは前座がいなかったし、僕たちのセットはそもそも短めなんだ。セットも急ぎな感じで演奏してしまったよね。お客さんはみんな楽しんでくれていたけれど、セットが終わりに近づくに連れて「今日のライヴではあまり長い時間演奏していないよね」ということに自分たちで気づいて、僕とタイラーとルイスが “Up Song (Reprise)” の即興部分を指揮しながら長いヴァージョンにしていったんだ。結構良い感じになったよな?

LE:ああ、クールだったよ! あとこれはセットの中でも良い曲に入る感じでは到底ないんだけど、“The Wrong Trousers” の後半部分を歌うのはめちゃくちゃ好きなんだ。

LM:タイラーと歌い合うところだろ? あれはストレスを感じないもんな。

LE:そうそう。僕は自分の歌う感じがクールだと思っていないけど、そのことを十分自覚した上であの後半部分を歌っているんだ。キーが変わる陳腐な感じも好きだし、タイラーと僕がお互いに問いかけ合うようにして歌っている感じや、僕とタイラーが一緒にやるダンスなどが気に入ってるんだ。自分が「Turn around(=振り向く)」という歌詞を歌うところでは実際に振り向いたりして、すごくダサい瞬間なんだけど、やっていてすごく楽しいんだ。

もし現在のBCNRを定義するとしたらどういうジャンルになると思いますか?

LE:オルタナ・フォーク・ロックかな?

LM:なんだろう? むずかしいな。

LE:ポスト・パンク以外ならなんでもいいや。

LM:ハハハ!

ブッシュ・ホールで演奏されている曲はメンバーが持ち寄って作られたと伺いました。今後スタジオ・アルバムを作るとして、作曲プロセスは変わらないのでしょうか?

LM:おそらく変わらないだろうね。僕たちはほぼずっとそうやって作曲をしてきたからね。次のスタジオ・アルバムがあると仮定したら、今回のライヴ・アルバムとの違いは、曲を研磨するプロセスが長くなるということだろう。曲がレコーディングされる前に、より多くの段階を経て、変化させていくだろう。僕たちが近い将来、新曲を披露しはじめたら、その曲はおそらく、『Bush Hall』に収録されている曲とほぼ同じ状態だと考えていいと思う。その新曲がレコーディングされるまでには多くの段階を経て、より洗練されていくだろう。でも僕たちはいまでも、メンバーが曲の骨格を持ち寄って、それにみんなで一緒に肉付けしていくというプロセスを多くの場合取っているよ。

最終日のプロム公演の準備では〈Ninja Tune〉のスタッフが総動員でセット制作の手伝いをしてくれて、風船を膨らませてくれたんだ。〈Ninja Tune〉のCEOでさえも!(エヴァンズ)

今後、BC,NRはどのような方向性を目指すと考えられますか?

LE:どうだろうね。わかっている唯一のことは映画音楽をやりたいということ。僕はインタヴューされるごとに必ずこう言っているんだ。いつか僕の言葉が映画監督かプロデューサーに届いて「BCNRを起用したい」と言ってくれるかもしれないことを願ってね。だから日本で映画音楽が必要な人がいたら教えてくれよ。僕たちがやりたい!

LM:しかも日本に行って音楽制作をするよ。

LE:そう、日本でやりますよ! バンドのみんなと将来どんなことをやりたいかと話すとき、具体的な話になるのは映画音楽をやりたいということだけなんだ。僕たちはバンド活動においては、毎日を1日ずつ生きている。バンドのみんなと一緒に音楽を作っているときは楽しいし、今後も一緒に音楽を作っていきたいと思っているよ。でもこの先、具体的にどうやって音楽を作っていくのかなどはあまり話さないんだ。いままでもそこまで計画的にやってこなかったけれど、うまく行っているし、ミュージシャンとしては、1日を大切に生きてその瞬間を楽しむということが大事だと思うんだ。

昨年はかなり長いツアーをされていましたが、フェスティヴァルなどで共演されたバンドの中で印象深いバンドはいましたか?

LE&LM:ギース(Geese)!

LE:彼らはクソ最高! めちゃ良い!

LM:実際にバンドの奴らと会うこともできたんだ。良い奴らだったよ。

LE:パリのフェスティヴァルはなんて言ったっけ? La Route du Rockだったよね。フランス北部のフェスティヴァルだったかも。そこで彼らを観たんだ。

LM:La Route du Rockだ。ギースの音楽は前にも聴いたことがあって、確か〈Speedy Wunderground〉のダン・キャリーがミックスを手がけたアルバムを出している。だからバンドのことは知っていたんだけど音楽はちゃんと聴いたことがなかった。でもそのフェスティヴァルで彼らのライヴ・セットを観ることができた。僕はルイスと一緒にいて、チャーリーとタイラーとメイはどこか他のところにいた。バンドのみんながギースを観ているとは知らずに、偶然彼らのライヴの後に他のメンバーと遭遇したんだよ。「すごく良かったよな!」ってみんなで話していた。ライヴの後にギースのメンバーと話す機会があって、彼らは今度リリースするセカンド・アルバムについて、BCNRのファーストからセカンド・アルバムへの移行と似ている感じだと教えてくれた。僕たちもファースト・アルバムをリリースした後は、いままでとは違う方向性に行きたいと思って、ワクワクしながらセカンド・アルバムの制作をした。彼らのセカンドもそんな感じになるらしいよ。セカンド・アルバムからのファースト・シングルはすでに公開されていて、すごく良い感じだよ! だからあのライヴでは彼らの新曲を聴くことができた。最高だったよ。

LE:あとは誰を観たかなあ。

LM:ボニー・ライト・ホースマンも良かった。

LE:ボニー・ライト・ホースマン!

LM:ボニー・ライト・ホースマンはトラディショナルなフォーク音楽をやるバンドで、イギリスのフォーク音楽を主にやっていると思うんだけど、カントリー調に演奏するんだ。カントリー・バンドのセットアップで、フェンダーのテレキャスター・エレクトリック・ギターを使ったりしている。バンド・メンバーたちはステージで、お互いに近い場所、1メートルくらいの距離で立って演奏していた。すごくタイトな演奏でメンバー全員が歌っていて、合唱していた。

LE:素晴らしいミュージシャンシップだったよ。確か僕たちと彼らは3つのフェスティヴァルに連続で共演したんだ。ヨーロッパ北部のフェスティヴァルが3件くらい連続でブッキングされていたんだよ。ドイツ北部とスカンジナビアの辺り。それで、その後、彼らとスイスのクラブに一緒に行ったんだよ。

LM:そのことをすっかり忘れていた!

LE:あれはすごく楽しかった。最高だったよ。

LM:僕はボニー・ライト・ホースマンのことを知らなかったんだけど、フェスティヴァルでは彼らの後にBCNRが演奏する予定だったから彼らの演奏中にステージの脇で機材のセットアップをしていたんだ。ステージ脇から彼らのセットをずっと観ていたよ。すごく感動したね。その後にも彼らと共演する機会があったんだけど、最初に彼らのライヴを観たときは素晴らしくて驚いたよ。

LE:あとは、Primaveraでゴリラズを観たときは興奮したね。最高だった。子どもの頃の思い出が一気に蘇った瞬間だったよ。

去年のアンソニー・ファンタノー(Anthony Fantano:アメリカのユーチューバー、音楽評論家)のインタヴューで〈Ninja Tune〉との契約について話されていたことが面白かったので、ぜひ日本のメディアでも紹介したいです。〈Matador〉や〈Sub Pop〉など伝統的なインディ・ロック・レーベルではなく〈Ninja Tune〉との契約を決めた経緯について教えてください。

LM:ミスター・スクラフをリリースしたレーベルということしか知らなかった。それはクールだと思ったけどね。〈Matador〉にも「〈Ninja Tune〉には期待しない方がいい」と言われていた。

LE:ダンス・ミュージックのレーベルだからという理由でね。

LM:そう、だから何の期待もしていなかった。しかもレーベルの所在地がサウス・ロンドンの少し怪しいところにあった。そしてオフィスの上に通されて、イギリス支店のトップだったと思う、エイドリアンに紹介された。彼の役職は定かではないんだけど、A&Rもやっていると思う。とにかくすごくいい人だった。エイドリアンは僕たちを座らせて、「これが変わった状況だというのはわかっている。我々は、君たちのようなバンドと契約するようなレーベルではない。でも逆になぜそれが良いことなのか説明するよ」と言っていろいろと説明してくれた。〈Ninja Tune〉は僕たちが公開した音楽が好きで、レーベルの人もBCNRという音楽をリリースすることにワクワクしているし、BCNRというプロジェクトに一緒に関わっていきたいと思っているということ。僕たちがいままでやってきた音楽や、僕たちの美的感覚を全て尊敬しているし、僕たちに今後もリリースに関する指揮を取ってほしいと。それはまさしく僕たちが望んでいたことだった。〈Ninja Tune〉には僕たちみたいなアーティストがいなかったから、そういう意味で僕たちはリリースのタイミングを自由に決めてよいということだった。似たようなバンドのリリースとかぶることがないからね。異例の選択をするということは僕たちにとっても有利になるということを説明してくれた。
 彼の説明はもっともだったけれど、いちばんの決め手はレーベルの人たちが僕たちのプロジェクトに熱意を感じていたことと、レーベルの人たちがいい感じだったから。そして僕たちが作り上げたものをベースに一緒に仕事をしていきたいと思ってくれていたから。当時はいまよりも、自分たちの音楽と、その表現方法だけで評価されたいと僕たちは強く思っていた。だからプレス写真も公開していなかったし、自分たちが作った音楽やカヴァーした音楽だけを公表していた。〈Ninja Tune〉はその考えに共感してくれたんだよ。それで僕たちもその場で説得された。〈Ninja Tune〉のオフィスを後にして、僕たちみんなはしばらくの間黙っていた。みんなが同じ気持ちかどうか気になったから。そしてすぐにみんなで「このレーベルが一番だね!」と道端で話し合ったよ。「〈Ninja Tune〉が最高だから彼らと契約しようぜ!」と話していた。そして結果的に僕たちは正しい選択をしたということが証明された。〈Ninja Tune〉は、活動をサポートしてくれる一方で、僕たちの好きなようにやらせてくれる。最もわかりやすい例がこの映像プロジェクトだよ。これはかなり実現が難しいものだった。事前の綿密な計画も必要だったし、費用もかさんだ。〈Ninja Tune〉にとってはキツかったと思うよ(笑)。でも全て僕たちのためにやってくれたんだ。

LE:これは映像には含まれていないけれど、最終日のプロム公演の準備では〈Ninja Tune〉のスタッフが総動員でセット制作の手伝いをしてくれて、風船を膨らませてくれたんだ。〈Ninja Tune〉のCEOでさえも! 僕たちのプロジェクト・マネージャーも細かい準備作業を全て手伝ってくれた。みんなすごく親切なんだよ。

LM:みんな本当に風船を膨らませていたんだよ。最高だった。彼らは僕たちを信頼しているし、僕たちも彼らを信頼している。少なくともいまのところは……(笑)

ありがとうございました。最後に日本に来る前に日本のファンに何か一言ありますか?

LE:日本に行くのがすごく楽しみだよ! 名古屋と大阪公演のチケットをたくさん買ってねー(笑)! とにかく、本当に日本に行くのが待てないよ。自分がいままで行った国の中で、いちばん最高な国だったと思うから、早くまた行きたい。すごくワクワクしてるよ!

LM:素晴らしい国だよね。日本で僕たちを見かけたときに、僕たちが興奮してはしゃいでいるように見えたら、それは興奮しているフリをしてるわけじゃなくて、本当に興奮してるってことだからね。日本のファンに会えるのも楽しみにしてる。みんなすごく良い人たちだったからね。

LE:ああ! 特に大阪と名古屋ではたくさんのファンに会えたらいいなって思ってるよ! みんなのお父さんもお母さんもライヴに連れてきてー!

青木:4月は前回の(フジロック)のように暑くないし、気候も最適だと思いますよ。

LM:それは僕とルイスにとってはありがたい。僕たちは暑さが苦手なんだ。いまいるタイも暑すぎるよ。

青木:ルイスさん、マークさん、今日はお時間をありがとうございました!

LE&LM:東京で会えるね。

青木:はい、もちろんです。タイとインドネシア・ツアーを楽しんでくださいね。東京でお会いしましょう!

LE&LM:ありがとう! またねー!

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

Kassem Mosse - ele-king

 ガンナー・ヴェンデル、カッセム・モッセ名義4枚目のアルバムは古巣、ロウテック率いる〈Workshop〉から。本名義での〈Workshop〉からのリリースはというと、コレより前がファースト・アルバムにあたるLP2枚組『Workshop 19』が2014年、ということでココからのリリースはじつにひさびさ、9年ぶりの作品となるわけですね。もろもろのコラボやライヴ盤などを除くと名門〈Honest Jon's Records〉からの2016年『Disclosure』、続く、自身のレーベル〈Ominira〉からは『Chilazon Gaiden』を2017年にリリースしています。またマンチェスターのレフトフィールド・テクノなレーベル〈YOUTH〉(〈PAN〉の切り開いた「その後」を個人的には感じてしまうレーベルです)から、別名義の Seltene Erden で2020年にリリースしたり。また上記のようにコラボや DJ Residue 名義で〈The Trilogy Tapes〉からアブストラクトな電子音響作品『Residual Manifesting』のテープ・リリースもありますが、今回は待望の本名義のアルバムと言えるのではないでしょうか?

 2010年前後、〈Workshop〉がもろにそうですがディープ・ミニマルからの、セオ・パリッシュなどのローファイでラフなハウス・サウンドを昇華したある種のジャーマン・ディープ・ハウスの新たな展開、そうした流れの象徴的なアーティストのひとりとしてあげられるのではないでしょうか。そのサウンドは上記『Workshop 19』あたりを聴いていただければと思いますが、セオ・パリッシュの影響を感じさせるビートダウン・ハウスを、さらにドイツ流にミニマルにクリアに展開といった感覚のサウンドで注目を集めました。
 さて時系列的にそのサウンドの流れを追うと、セカンド『Disclosure』はちょっと異質な作品で、ディスコグラフィーを後から見渡すと、どちらかと言えば Seltene Erden 名義や DJ Residue 名義のアブストラクトな電子音の冒険の前哨戦といった感じもします。前作にあたるサード『Chilazon Gaiden』は、そうした電子音の実験がストレンジな音感のハウス・グルーヴへと進んだ感覚で、ファースト『Workshop 19』が醸し出すムードとも、セカンドの電子音響的な実験的な世界観とも違ったシンプルなリズムの探求を目指した結果という感覚もします。どこかグルーヴだけを手がかりにストーリーやムードといった表現を排除したような、「鳴っている」ことの面白さを極めているようなそんな作品です。

 こうしたキャリアのなかでリリースされた本作は『Chilazon Gaiden』で示されたクリアな質感とシンプルなリズムを表現の中心に備えた作品ではありますが、同時に初期にあったデトロイト・ディープ・ハウスの影響を後半に見せてもいるのが特徴ではないかと。アルバム冒頭、シンプルなフレーズとパーカッションが蛇行したグルーヴを淡々と作る “A1”、彼の真骨頂とも言えるディープ・ハウス・トラック “A2”。このあたりはリズムの冒険を中心に据えた楽曲と言えると思いますが、こうした楽曲でこれまでの作品になかった要素としてあげられそうなのは、ダビーとも表現できそうなサブベースの使い方(サブスク音源だったりあまり現代的でない指向性のスピーカーだとそれほど伝わらないので再生環境に注意が必要ですが)。ミキシングなのか機材なのかマスタリングなのか判断しかねますが、本作の下の方でブンブンと低音が鳴っているのが結構印象としては強いアルバムです。
 リカルド・ヴィラロボス的なサイケデリアを発する “C1” やキックを排した “D2” などの楽曲にもやはりベースラインがよりサウンドの要として活躍しています。リズム、フレーズ、そしてスウィングする地鳴りのようなサブベース、この3つの要素が有機的にからんでグルーヴを作り出していく、そんな印象を受けます。“B1” や “B2” はベースラインの印象は薄いですが、初期ハーバートあたりを彷彿とさせるストレンジなファンクネスです。このあたりの要素は『Chilazon Gaiden』の先にある作品であることは間違いないでしょう。そしてアルバム後半はハイライトとも言える “C2” 以降、前作にはなかったストリングスが流麗にムードを作り出していて、このあたりは逆にファーストあたりで見せていたデトロイト・ディープ・ハウスの影響をひさびさに感じさせるサウンドになっています。アルバムのラスト “Provide Those Ends” は “C2” のダブ・ヴァージョン的な趣ももあります。

 テクノ由来の電子音の実験性が醸し出すストレンジな感覚、淡々とどこまでも続く抑制的なディープ・ハウスのグルーヴ、このふたつの有機的な絡み合いがこの名義の魅力と言えるとは思いますが、本作では彼のキャリアをひとつ総括するように、その才覚が遺憾なく発揮されています。サブべースの援用はもちろん昨今の制作ソフトウェアや機材、モニタリング機材、PAを含めた再生・音響技術の変化といったテクニカルなところから、不断となったベース・ミュージックとハウス/テクノの関係性というモダンなシーンへの反応というアップデートを示すものとも言えるでしょう。ともかく、なんというかミニマルなジャーマン・ディープ・ハウスの真骨頂、そんな言葉が浮かぶアルバムです。アゲず、終わらずなグルーヴの感覚、そこから導き出されるヒプノティックないわゆる「ハメ」の感覚は、バシッとDJプレイでハマったときに「アレからのコレ」なのか「コレからのアレ」なのか、まぁともかくこうした楽曲の真価はそうした瞬間に訪れるものですよね。

Jitwam - ele-king

 ムーディマンによる素晴らしいミックス『DJ-Kicks』を覚えているだろうか。そこで4曲目につながれていたのがジタム(Jitwam)のトラックだった。
 インドに生を受け、オーストラリアで育ち、ロンドンでエレクトロニック・ミュージックと出会い、現在は(おそらく)ニューヨークを拠点にしているこのコスモポリタンは、すでに3枚のアルバムを送りだす一方、ララージエマ=ジーン・サックレイなどのリミックスをこなしてもいる。ソウルフルでジャジーなダンス・ミュージックを展開する、注目のプロデューサーだ。
 そんなジタムの来日ツアーがアナウンスされている。3月17日から31日にかけ、東京Circusを皮切りに、大阪・京都・広島・金沢・名古屋の6都市を巡回。次世代を担うだろうプロデューサーのプレイを目撃するまたとないチャンス、予定を空けておきましょう。

「インド発、ニューヨーク経由。ネクスト・ネオソウル & ダンスミュージックの新鋭Jitwam来日ツアー!」
インド、アッサム州にルーツを持ち、音楽活動をロンドン、ニューヨーク、そしてメルボルンなどで展開。ビートメーカー、ギタリスト、シンガー、DJとマルチな才能を発揮している。ある人は彼の音楽をジミヘン(Jimi Hendrix)と、ある人はJ Dillaのよう、そしてある人はMoodymann、と聴くにとって多彩な印象を与える彼の独創的なスタイルはジャンルを超えて多くのオーディエンスを魅了。自らのプロデュースに限らず、音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されており、昨年、満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。そんな今が間違いなく「旬」なJitwamの6都市を結ぶジャパンツアーが決定。各都市の個性的なローカルアーティスト達との化学反応を見逃すな。

Jitwam Japan Tour 2023
3/17(金) 東京 Circus Tokyo
https://circus-tokyo.jp/event/eureka-with-jitwam/
3/18(土) 大阪 Circus Osaka
https://circus-osaka.com/event/jitwam/
3/20(月) 京都 Metro
https://www.metro.ne.jp/schedule/230320/
3/24(金) 広島 音楽食堂ONDO
https://www.ongakushokudoondo.com/
3/25(土) 金沢 香林坊Trill
https://www.instagram.com/trill/
3/31(金) 名古屋 club JB’s
http://www.club-jbs.jp/pickup.php?year=2023&month=3&day=31

Jitwam profile
Jitwamにとって、自身の音楽キャリアは常に運命と共にある。彼が最初に購入したたった2ドルのホワイトレーベルのレコードが、Moodymannのトラックであり、それを見つけたのが、まさしく彼の音楽がMoodymannのDJ Kicksコンピレーションにフィーチャーされたのとほぼ同時期だった。インドのアッサム州グワハティで生まれたJitwamは、両親と共にオーストラリアに移住。郊外で育った彼は、The Avalanches、Gerling、Sleepy Jacksonなどのバンドの影響を受け、ギターを弾き、キーボードのレッスンを受け、14歳で曲を書き始めることになる。その後、南アフリカやタイ、そして自身の故郷であるインドなどを転々と移り住み、次に流れ着いたロンドンでエレクトロニックミュージックの洗礼を受ける。そこでの生活の中で、彼が育ったロックの影響を織り交ぜ、Jitwamの代名詞でもある、様々なジャンルを内包したタイトでメロディックな作品へと融合させることを可能にした。その後ニューヨークに移り住み彼のキャリアは一気に前進。2017年に自身のファーストアルバム「ज़ितम सिहँ (selftitled)」を皮切りに、続く2019年にはセカンドアルバム「Honeycomb」をリリース。この作品について彼は「Jimi HendrixやJ Dilla、Moodymann、RD Burman、Bjork… 彼らはまさに自分だけの世界観を作り上げていて、僕も自分自身の音楽で同じようなことを成し遂げたいんだ。『Honeycomb』はロックンロールがソウルと出会い、ブルースがテクノを歌い、ジャズはどんなものにでも変容する世界なんだよ」と語っている。またJitwamは音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されている。そして2022年には満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。数多くの運命に導かれながら多様な土地で吸収した音楽を、新たな高みへと昇華させている。

Soundcloud: https://soundcloud.com/jitwam
Instagram: https://www.instagram.com/jitwam/

WE LOVE Hair Stylistics - ele-king

 現在、糖尿病の合併症などのため入院中の中原昌也。彼を支援すべく、コンピレーション企画が始動している。『WE LOVE Hair Stylistics!』と題されたそれには当初17組が参加、配信にて去る3月3日リリースされているのだが、面子がとんでもないことになっている。食品まつり、工藤冬里、石橋英子ジム・オルーク、山本逹久、渡邊琢磨、TORSO、坂本慎太郎石原洋井手健介に2MUCH CREWに……バンドキャンプをチェックすると、さらにコーネリアスやDMBQも加わっていて、中原の存在の大きさを痛感させられます。
 また、これまでも中原作品を販売してきた高円寺のオルタナティヴなレコード店LOS APSON?では、「爆買いフェア」と題し、レアな音源がついてくるキャンペーンも実施。ぜひとも足を運びましょう。

https://savenakahara.bandcamp.com/album/we-love-hair-stylistics

緊急入院中の中原昌也を支援するプロジェクトに豪華17組のアーティストが参加
コンピレーションアルバム「WE LOVE Hair Stylistics!」
3月3日(金)17:00 より配信開始!
レコードショップLOS APSON?での爆買いフェアも決定!

糖尿病による合併症等で現在緊急入院中の中原昌也を支援するプロジェクトとして、コンピレーションアルバム「WE LOVE Hair Stylistics!」の配信が決定。併せて、本プロジェクトに参加している豪華17組のアーティストが明らかとなりました。また、東京・高円寺のレコードショップ LOS APSON?では「第二回ヘア・スタイリスティックス爆買いフェア!!!」の開催が決定。


コンピレーションアルバム「WE LOVE Hair Stylistics」
作家・映画評論家、そして「Hair Stylistics」名義でミュージシャンとしても活動する中原昌也の緊急入院に伴い、支援プロジェクトとしてコンピレーションアルバムの配信企画が始動。
全17組のアーティストによる18曲が収録されており、今後音源が追加される場合は公式ツイッター(https://twitter.com/savemasaya1?s=20)にて随時告知が行われます。

bandcamp URL:
https://savenakahara.bandcamp.com/album/we-love-hair-stylistics

参加アーティスト一覧 *敬称略/50音順
A Virgin
石橋英子
石原洋
井手健介
Queer Nations
工藤冬里
コサカイフミオ
坂本慎太郎
ジム・オルーク
食品まつりa.k.a foodman
T.Mikawa
Texaco Leather Man
DerekGedaleciaToriKudoRichHoush
2MUCH CREW
TORSO
山本逹久
渡邊琢磨

第二回ヘア・スタイリスティックス爆買いフェア!!!
Hair Stylisticsの自主制作CD-Rシリーズを応援している、東京・高円寺のレコードショップLOS APSON?。「第二回ヘア・スタイリスティックス爆買いフェア!!!」では、自主制作CD-Rシリーズを3枚買うとVIOLENT ONSEN GEISHAのレアカセット「SUPER SLY」のCD-R復刻版を特典としてプレゼント! 激しい絶叫も記録されているほか、コラージュやテープ回転変調&逆回転の源流も感じられる貴重な内容で、中原昌也の音楽活動をこれまでのファンのみならず新たなリスナーへと届ける試みとなっています。また、5枚購入者には前回のフェア開催時(https://www.losapson.net/blog/index.php?e=1088)も好評を博した中原昌也の初期ワークス重要作、VIOLENT ONSEN GEISHA「SHOCKING EARLY WORKS 83-85」のCD-Rもプレゼント!
本企画とは別途、中原昌也によるオリジナルアート原画やBandcampのみで販売する支援アイテムで入院費用等への支援も行う予定です。

LOS APSON?
〒166-0003 東京都杉並区高円寺南4丁3‐2 三光ビル1F

Peterparker69 - ele-king

 もっと、全てが数字で示される世界になると思っていたよ!

 あれはいつ頃だったかなー……10年くらい前かな。PVだUUだってぜんぶ数字になっちゃって、その後5年前くらいにはバズだなんだってもうすごい勢いでわーってきちゃって、さもしいアイデア泥棒だらけで、あぁこのままこうやって数の力に制圧されるのかぁ、って。

 でも、世の中そんなにつまらなくないんだよね。ゆるい Discord に Bondee でフライしたら Mastodon へ雲隠れ、音声メディアで証拠を霧散させたあと公式見解は Twitter へ、と見せかけてコミュニティでチル。アーティストも同じで、ビデオは YouTube と TikTok に分散されるし、とにかく見えないヒットが多すぎて、単純に数字で全てを計るのは難しくなったってわけ。これは、表現者たちの知恵。何もかもを計測し可視化させようとした大人に対する、すばらしく利口な逃亡。

 というわけで、いよいよ皆が「いかにバズらないか」を考えている2023年なのだが、その点 PeterParker69 ほど利口な逃避を成し遂げている人たちはいない。今回届けられたEP「deadpool」は、表の現実社会から隠れたとあるホテルでひっそりとおこなわれるパーティをパッケージングしたような一枚。昨今コンセプチュアルな小規模のレイヴ・イベントがアンダーグラウンド音楽シーンで多発しているが、まさにそのような、表には姿を見せないクローズドでパラレルワールド的な脱‐現実感覚が本作には広がっている。

 元々 Discord 内で探したクリエイターとコラボするようなゆるさを持ち合わせていた彼らだが、そこから地続きに昨年は欧米のハイスクールで開催される「プロム」に着想を得た《CHAV PROM 2016》を開催したり、tohji t-mix japan tour after party でのプレイが話題になったりした一方で、Spotify プレイリスト「Fresh Finds Indie」に採り上げられ、tofubeats 『REFLECTION』のリミックスに参加し、しまいには “Flight to Mumbai” がAppleのCMソングに採用されるまでに至った。小規模で大切にコミュニティ感を培っていくところも突然マスメディアで楽曲が発信されていくところも、どちらも PeterParker69 らしさであるし、それこそがいまの理想的なヒットの在り方のように思う。再生回数をカウントする計測器自体があまりにもブレイクスルーのメカニズムと直結してしまったいま、彼らの動きからはどこか現実から浮遊しようとするスタンスを感じつつ、それとは裏腹にぬるりと自作をヒットさせているのも面白い。この、ぬるりという感覚が大切なのだ。実際、彼らはライヴ・パフォーマンスもぬるりとしている。キモ可愛く加工した声も、そう感じさせる一因としてあるのかもしれない。もちろん、hyperpop を通過したうえでの歪曲したサウンド・テクスチャも原因にあるだろう。

 小さくて親密な遊び場である「ホーム」と、不特定多数を躍らせる「マス」という公の場──このEPは、脱‐現実的な浮遊する空間として双方を夢見心地に行き来する。ライター/インターネッツ・フィールドワーカーの namahoge が彼らへのインタヴュー記事で “Flight to Mumbai” を「奇妙につるつるしたテクスチャー」と形容している通り、Peterparker69 の抑えて掴もうとしてもぬるっと滑ってしまうような存在感は、「ホーム」でも「マス」においても、どこかよるべない身体性とともに鳴らされている。インターネットとストリート、ヴァーチャルとリアルといった対立関係から抜け出した第三の世界。そういった非現実的なリアリティこそが Peterparker69 が打ち立てた新たな概念だ。

 さぁ、旅をしよう──第三の新たな空間へ。1曲目の “loloi” から、不安定な重力のもと、パラレルワールドをぬるりと行ったり来たりするようなリスナーそれぞれのキモ可愛いtours༼ꉺɷꉺ༽が始まる。少しずつ人が集まってきたホテルの中で、モンスーンによるシャワーのような雨が降り注ぎ、キュートな音が響く。続くアンセム “Flight to Mumbai” で、冒頭にサンプリングされるのは knapsack の “parnassus” (『Bend』収録)。knapsack と言えば、underscores の『fishmonger』(hyperpop の名作!)にも客演していた優れたベッドルーム・ポップの作り手(現在は gabby start として活動)。つまり、PeterParker69 は本作において、親密で個人的なスペースであるベッドルームを起点に作品を開始させるのだ。その旅はMVで描かれているような地元のショッピングモールを経由し、「脱ぎ捨てたんだよ黄色いガウン/鼓膜で暴れたMP sound」と歌いながら、いつしか架空のムンバイへと私たちを連れていく。

 その後も、tours༼ꉺɷꉺ༽は終わらない。3曲目 “Tours pt.2” はシングルでリリースされた “Tours” からドロップが加えられ、より劇的なムードへ。“fallpoi” では気怠さとハッピーなマインド──つまり鎮静と興奮──が引っ張り合い無重力の彼方に飛んでいくサイケデリックなサウンドのもと「I’m spidey逃げちゃうこのまま」「ボニーアンドクライドさえ/銃置いて舞を舞い/脳は体にない状態/あんまいい気分にない/ボニーアンドクライドさえつらい/ってそう信じたい」と歌う。極めてトランシ―なリリック世界に絡む音の一つひとつを紐解けば、じつはエフェクトやサンプリングなど膨大な手数が施されているものの、彼らはそれを決してひけらかさず、むしろあえて表層的な軽やかさの次元に留めているよう見せる。意図的な軽薄さのフックに引っ掛けられるのは、2000年代後半のインディ・シンセ・ポップやチルウェイヴに宿っていた煌めき、2010年代のEDMにある祝祭感、そしてジョイ・オービソンの近作にも連なるダーク&トロピカルなムード。軽さに軽さを掛けていくことによる、無重力の演出の巧みさがここにある。それは言い換えるならば、人工的でプラスチックな音が、ムンバイの湿度と熱気であたたかくふやけていくような感覚でもあるだろう。

 最後の曲 “deadpool” では、「今は明日も後に」という時空が歪んだような謎めいたリリックを織りまぜ本作は幕を閉じる。インターネット空間の四方八方へ飛び散った hyperpop の狂騒を経て、いま、PeterParker69 はそことはまた異なる第三の世界への逃避劇を展開する。インターネットでもリアルでもない、数の制圧が及ばない場所へ。だからこそ、彼らが “spiderman4” でピンクパンサレスをサンプリングしていたのは重要だ。なぜなら、ピンクパンサレスもまさにベッドルームでもクラブ・フロアでもない、プラネットで鳴るレイヴとして私たちに新たなサウンドを届けてくれたから。

 2023年のムードとして、確実に新たな世界を鳴らし描写している PeterParker69 の「deadpool」──この並びには、トゥー・シェル「lil spirits」やオーヴァーモノ「Is U」といった、今年に入りリリースされた優れたEP群も連ねることができるだろう。利口な逃亡が多く生まれてきている。希望だ、これは確かに希望だ。皆もっと逃げよう、大人に見つからないところへ……とびきりのtours༼ꉺɷꉺ༽へ……。

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