「P」と一致するもの

Roger Eno & Brian Eno - ele-king

 これは意表を突かれた。クラシックの殿堂〈ドイツ・グラムフォン〉からイーノ・ブラザーズによるコラボレイト・アルバム。兄は言わずと知れたアンビエント・ミュージックの提唱者で現実派。弟は兄が敷いた路線にのりながらも、どちらかといえばニュー・エイジに傾いた資質を持ち、ララージやビル・ニルソンと共にチャンネル・ライト・ヴェッセル(Channel Light Vessel)としても活動していた夢想派タイプである(オリエンタル調のCLVはヴォーカルにドリーム・アカデミーのケイト・ジョンを加えていた)。しかも2010年代のアンビエント・ミュージックは大雑把にいってインターネット・カルチャーを背景にシェアを伸ばしたヴェイパーウェイヴ〜ニュー・エイジの流れと、ブライアン・イーノがバックボーンとするミュジーク・コンクレート〜モダン・クラシカルの刷新へとシーンは二極化し、いずれもテンションを衰えさせることなく拮抗関係を持続した上で、兄と弟は手を組んだことになる(2017年に〈パン〉からリリースされたコンピレイション『Mono No Aware』もニュー・エイジとミュジーク・コンクレートの共存や融合を模索する試みだった。2010年代のアンビエントにはさらにシューゲイザー〜ドリーム・ポップも重要なファクターをなしているものの、複雑になるのでここでは省略)。

 ブライアン・イーノとロジャー・イーノが共同作業に従事するのは、これが初めてではなく、1983年にリリースされた『Apollo』はすでにブライアン・イーノ・ウイズ・ダニエル・ラノワ・アンド・ロジャー・イーノという共作名義となっていたし、その後も『Thursday Afternoon』 (85)から2000年代初頭の諸作まで2人は途切れることなく様々なかたちで共作を続けている。80年代であればブライアン・イーノの作品にロジャー・イーノが参加し、2000年前後ではこれが逆の立場になっているという違いがあるくらいだろうか。 『Mixing Colours』は2005年から取り掛かった作品だそうで、どの辺りで集中的に作業を進めたかはわからないけれど、2015年には久々にブライアン・イーノ名義の『My Squelchy』にロジャー・イーノがイディオフォンという打楽器でOMD風の穏やかなシンセ–ポップSome Words”に参加している(ちなみに『Apollo 』は昨年、新たに11曲を追加した「Extended Edition」がリリースされている──デヴィッド・リンチ監督『デューン』に提供された“Prophecy Theme”は未収録)。

『Mixing Colours』は名義が「ロジャー・イーノ&ブライアン・イーノ」という順番になっている通り、前半はとくにロジャー・イーノの文脈を柱としている。「ロジャー・イーノの文脈」とはピアノ主体のニュー・エイジであり、ブライアン・イーノが「あの手の音楽を聴くと、誰かを殴りたい気分にさせられる」と批判するスタイルで(本誌19号のインタビュー参照)、実をいうと僕もチャンネル・ライト・ヴェッセル以降、ロジャー・イーノのソロ作はキツいと感じ、2010年代以降の作品はさきほど、このレビューを書くためにまとめて聴いたばかり。そして、誰かを殴りたいとまでは思わなかったものの、卑弥呼のマグマエネルギーが吹き出しかけ……いや。ロジャー・イーノは2010年代後半になるとジ・オーブのメンバーに加わり、『COW / Chill Out, World!』(いつもの感じ)、『No Sounds Are Out Of Bounds』(これは傑作だと思う)、『Abolition Of The Royal Familia』(これは前作の出がらしだと思う)でピアノやトランペットを演奏し、現在はすでに脱退している。音楽的なスタイルは懐古的ながらもジ・オーブとして充実の演奏を聴かせた時期だったこともあり、ロジャー・イーノへのフィードバックもそれなりに期待させるものがあったかかわらず、ここ数年の彼のソロ・アルバムは代わり映えしないどころか、あまりにスノッブなそれに終始し、悪くすれば「太田胃散、いいクスリです」のCM音楽と同じに聞こえてしまう(あれはショパンか)。しかし、ブライアン・イーノはさすが、である。『Mixing Colours』は「ロジャー・イーノの文脈」を無視することなく、それらの発展形をなし、必要なだけの抑制がブライアン・イーノによって持ち込まれている。オープニングからギリギリでイージー・リスニングと近接し、同じ音階でも楽器の種類を変えたり、ロジャー・イーノに特有のチープなコード感を活かしたまま『Music For Airports』(78)で試した音の奥行きやグラディエーションをつくり出すなどしてニュー・エイジにありがちなクリシェを避けていく。メロ・ドラマ調の“Celeste(空色)”やシューベルトにインスパイアされたというわりにやはりショパンのパロディに聞こえてしまう“Quicksilver(銀鼠色)”がこうして音響的に洗練されたモードへと移植されていく。イーノの言葉に即していえばニュー・エイジに欠けている「闇」を埋め込んだということになるのだろうか(同インタビュー)。また、”Obsidian(シャープな緑)”や“Desert Sand(ベージュ色)”と、曲名はすべて色の種類で統一され、いかにもニュー・エイジが好みそうなネーミングであると同時に(Colour=)人種を混合させるという含みも持たせたのかもしれない(ないかもしれない)。国内盤にはオリジナルの17曲目と18曲目の間に『Apollo』を思わせる“Puter(青灰色)”が追加され、レアな色ばかり全19色が取り揃えられた。

「ロジャー・イーノの文脈」では以上のような聞こえ方でいいのかもしれないけれど、『The Ship』(16)や『Reflection』(17)と続いてきた「ブライアン・イーノの文脈」に『Mixing Colours』を続けてみると、さかなクンでなくてもぎょっとする。ポップ・ミュージックの作法に則るか、さもなければ作曲のシステムそのものを考案することがブライアン・イーノのアイデンティティだと思っていれば、それはなおさらである。ブライアン・イーノに過大な期待を寄せるのではなく、ここでの彼はトリートメントに徹しているようだし、『Mixing Colours』では音響アレンジャーとしての手腕を聴くに止めるのが正解だろうと思う。エンディングに近づくにつれ、ピアノの音が残っていないほど変形され、そのことによってピアノがピアノ以上の存在感を醸し出すのは『Music For Airports』と同じく。とくにそのことは“Deep Saffron(サフラン色)”や“Cerulean Blue(セルリアン・ブルー)”に顕著で、もしかすると、このあたりはブライアン・イーノのソロ作なのかもしれない(?)。それこそ前半から続く下世話なメロディに慣れた耳が一気に浄化される思いがあり、ブライアン・イーノが主張してきた「無意識にプロセスを感じさせる」構成となっている。そして、最後の最後に納得の着地も用意されている。

〈ドイツ・グラムフォン〉も最近ではエルヴィス・コステロのオーケストラ作品やスティングの中世音楽までリリースしていて、そういった意味ではこれだけニュー・エイジ趣味が突出していても驚きはないし、レデリウスやマックス・リヒターもカタログに加えてきたことを思うとブライアン・イーノを逃す手はないという判断なのだろう。そして、ニュー・エイジとミュジーク・コンクレートが混ざり合うヴィジョンを示したことは『Mono No Aware』やフェリシア・アトキンソン&ジェフリー・キャントゥ=レデスマ『Limpid As The Solitudes』(18)以降のアンビエント・ミュージックにどんな影響を与えるのだろうか。

三田格

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interview with Brian Eno
ブライアン・イーノ、ミニ・インタヴュー
(協力:ビートインク)

 以下のインタヴューは、6月24日刊行のエレキング臨時増刊号『コロナ時代の生き方』のために、5月6日ロンドン在住の坂本麻里子氏を介してノーフォーク在住のイーノに電話を通じておこなったもので、本作『Mixing Colours』についての話の抜粋になる。川のせせらぎや野鳥のさえずりが聞こえるのどかな村にいまはひとりで暮らしているそうで、5月15日に誕生日を迎えた際も、ひとりで迎えるつもりだとこの取材では語っている。クリスマスも誕生日も、ひとりで過ごすのが好きなのだといい、寂しくなったら自転車を漕いでロジャーの家に行って、彼の家族と会うのだそうだ。アンビエントの巨匠の素朴な日常である。
 とはいえ、彼の日常で思考された言葉が人を動かすこともある。臨時増刊号『コロナ時代の生き方』は、じっさいのところイーノと経済学者ヤニス・ヴァルファキスとの対談があったから実現させようと思った企画なのだ。その対談のなかでイーノは、資本主義の限界とアートの意味について明解に話している。あらためて問う。なぜアートは必要なのか? そしてアートとは何なのか? 
 我々が5月6日に取ることができた取材はその対談とは別の単独取材だった。音楽、とりわけインディ・ミュージックに関わる人にはぜひ読んでもらいたい内容なのだが、まずは彼の作品解説と香水の話をお楽しみください。(編集部)

ロジャー・イーノとはこれまで何度も共同作業をしてきましたが、2人の名義で作品を発表するのは初めてです(ダニエル・ラノワを含めた3人による共同名義の『Apollo』から数えても37年ぶりです)。

BE:うん。

なぜこのタイミングで2人の作品を出そうと思ったのですか?

BE:(苦笑)。

やっと、ですよね。なぜいまになって連名作品なんだろう? と。

BE:(笑)ああ、たしかに可笑しいよねぇ……でもあれは本当に、かなり偶発的に生まれた作品でね。ロジャーはキーボードを使ったちょっとしたピースをあれこれとやっていて、たまにこちらにも作品をメールしてくれるんだ。そこで、「だったらMIDIファイルを送ってくれないか?」と伝えたところ、MIDIファイルを送ってくるようになって。そこから、わたしも考え始めて……だから、ロジャーは純粋にピアノだけで作っていたんだけれども、それらを聴いて思ったんだ、「というか、これはサウンド面でもっと面白いことをやれるピースだぞ」と。というわけで、わたしはピアノの音を自分でこしらえたサウンドに置き換える作業をやり始め、そこから更に、コンポジションそのものの形状にもちょっと手を加えるようになっていった。

(苦笑)。

BE:「フム、このセクションは実に素敵な響きだな。じゃあ、この箇所を最後にリピートしたらどうだろう?」云々と考え始めたわけ。いやだから……正直、ただ楽しいからやっていたんだよ。別に「2人でアルバムを作ろう」なんて狙いはなかった。実際、この作業をやり始めたのは、かれこれ15年くらい前の話だしね(苦笑)。

そうだったんですね。お腹の中で育つのに長くかかった作品だ、と。
BE いや、というか懐胎すらしていなかったというか。自分でも、ここから何かが生まれるだろうとは思っていなかった(笑)。

(笑)。

BE:というわけで、正直なところ、これが形になったのはほんの1年半か、1年くらい前の話でね。あの頃に、わたしのマネージャー、たぶん君も知っているだろうけど……?

はい。レイ・ハーン氏ですね。

BE:うんうん、で、あの頃、レイに「実は、ロジャーと一緒にやってきたインスト作品があるんだ。映画作家向けにプレゼンしてもらえないかな? きっと、いいサントラになると思うんだけど」と話していたんだ。で、そのためにいくつかの楽曲を、過去何年もの間に既に仕上げてあった楽曲をセットにまとめる作業をしていたところ、聴き返しているうちにハタと気づいたんだ、「これって実は、美しい1枚のアルバムになっているよな」と(笑)。あの段階で初めて考えはじめたんだよ、「おや? どうやら我々はアルバムを1枚作っていたようだぞ!?」と。というか、最初にそれを伝えた相手はロジャーだったな。で、彼にそう言ったら、返ってきたのは(ドライな口調で)「へえ。自分じゃそうは思わないけど。だろ?」というもので……(クククッと笑い出しながら)だから、当初の彼は、あれをアルバムだとすら考えていなかったっていう。

(苦笑)。

BE:でも、その後彼も何回か聴き直して、「うん、これは本当にいい」と認めてくれてね。だからこのアルバムは実にこう、もっとも未計画な、まったく計算外なところから生まれた1枚、ということになる。

『Mixing Colours』というタイトルの意味について教えていただければ幸いです。そもそも今回、色および自然現象をテーマにしたのはなぜでしょう? 

BE:まあ……実を言うと、各曲のタイトルとして単純に番号を振るのはどうか、という案を検討したこともあったんだよ。要するに、我々としてもあまり物語性の強い題名を曲に付けたくなかった。

イメージを特定し過ぎるタイトルは避けたかった、と。

BE:ああ。だから、この手の音楽は、得てして“暗い秋の夕暮れ”みたいな曲名になりがちだよね?

(笑)ええ。

BE:でも、あまりにかっちりしたイメージを付与したくなかったし、聴き手に定義してもらいたい。これらの色を使い、とにかく聴き手それぞれに自由に絵を描いてもらえたらいいな、そう思った。というわけで、今回のタイトル/テーマの色という点については……実は、ロンドンにある自分のフラットの一室の壁を塗っていたところだったんだ。で、色見本帳が手元にあった、と。

(笑)。

BE:(笑)。その、色んな色彩の名称を眺めているうちに、「綺麗な名前だよなあ」と思い始めてしまってね。(苦笑)というわけで、うん、そこから来ているんだ。とにかく、あまり深読みしなくて済むネーミングにはこれがいいんじゃないか? というごく単純な発想が元になっている。

パントンの色見本帳のようなものだ、と。

BE:うん、そういうこと。

だからなんですね、あなたがたがこのアルバム向けに、音楽のイメージに基づいた聴き手による自主制作ヴィデオをウェブサイトを通じて募っているのは……。

BE:うん。

あと、もうひとつ面白いなと思ったのは、『Mixing Colours』の曲目を眺めていたら、そのほとんどが香水の名前になりそうなタイトルだな、と感じたことで。

BE:(苦笑)ああ、うんうん!

「これらの曲名にちなんだ香水を調香師に作ってもらったらいいかもしれない」なんて思ってしまいました。

BE:(笑)。

(笑)「嗅ぐ」ヴァージョンのアルバム、ということで。

BE:というか、わたしの趣味は香水の調合なんだけれども。

ああ、そうなんですか! それは知りませんでした。

BE:うん、そうなんだ。で……ほんと、君には我々の先を見越されたな。というのも、このレコードの2、3曲向けに香水を作ろうかという計画を自分でも立てていて。

それは素敵ですね!

BE:だから、今から1年くらいの間に、その香水を作るつもりだ。

非常に楽しみです。

BE:そういえば、知ってるかな? どのパヒューマーも、日本の香水会社で働いた経験があるってことを?

へえ?

BE:どうしてかと言えば──わたし自身、かなりの数の調香師と知り合いだから知っているんだけれども──イギリスやフランス、アメリカの香水会社で働くとして、そこで彼らの作った香水は40ドルくらいの価格で販売される、と。ところが肝心な材料の原価は2ドル程度でね。それ以外のもろもろはすべて製品パッケージだのマーケティング費用に費やされている、と。でも日本の会社は、原価に5ドル支払うんだね。だから日本製香水は、通常、欧米の会社以上に質の高い原料を使っているわけ。だからなんだよ、調香師が日本の会社で働きたがるのは。とは言っても、これは20年前の話であって、いまでもそうなのかはさだかじゃないが。もしかしたら、その状況も今では変化しているのかもしれない。

ともあれ、あなたの香水を嗅げる日を(笑)、楽しみに待とうと思います。

BE:(笑)うん、いつかやるつもりだ。その暁には、最初の1本を送る人たちのリストの中に君もちゃんと含むようにするから(笑)。

ありがとうございます! というわけで、そろそろ終わりにしようします。またお話を聞けて本当に楽しかったです。どうぞ、お体には気をつけて。

BE:お互いにね。じゃあ、バイバイ!

Wool & The Pants - ele-king

 ele-kingが、2019年の年間ベスト・アルバムの2位にしたのが東京を拠点に活動する3人組、ウール&ザ・パンツのファースト・アルバム『Wool & The Pants』だった。つまり傑作です。ところがこれ、アナログ盤のみのリリースだったので、あっという間に売り切れてしまい聴けない人が多かった。が、しかし……、6月19日ついにCDとして再リリースされる。特典として未発表曲のDLコード付き。じゃがたらとフィッシュマンズが好きならマストです!

タイトル:Wool In The Pool
アーティスト:Wool & The Pants
品番:PCD-20422
定価:¥2,000
発売日:2020年6月17日

★CD特典として未発表音源「stoned #2」DLカード封入

<トラックリスト> 
1. Bottom Of Tokyo
2. Just Like A Baby Pt. 3
3. Sekika
4. Soredake
5. Wool In The Pool
6. Kudo
7. Edo Akemi
8. I've Got Soul

<プロフィール>
Wool & The Pants
東京を拠点に活動する3人組。2019年にワシントンD.C.のレコードレーベルPPU(Peoples Potential Unlimited)よりLPをリリース。

Tom Misch & Yussef Dayes - ele-king

「『What Kinda Music』はサウス・ロンドン・ジャズ・シーンの集大成なのか?」

 昨今の音楽シーンを語る上でいまや欠かせない存在となったトム・ミッシュとユセフ・デイズ。今年の2月頃にふたりのコラボ・リリースのアナウンスがされたときはもちろん衝撃的だったが、トムが18年にリリースしたソロ・アルバム『Geography』のツアーの合間にインスタグラムでユセフとのスタジオ・セッションの動画をアップしたときに「いよいよこのときが来るのか!?」と興奮したのを鮮明に覚えている。それからあっという間に2年の歳月が経ち、ジャズ名門レーベルの〈Blue Note〉からこうして陽の目を浴びることになった。

 いまさらここの読者にふたりの経歴について語るのも野暮かもしれないので、クラブ畑で育った僕がふたりを知ったキッカケを少し綴りたい。どちらも4~5年前のこと、ユセフ・デイズに触れたのはカマール・ウィリアムスとのコラボ・ユニット、ユセフ・カマールの『Black Focus』が最初。カマール・ウィリアムスの別名義、ヘンリー・ウーの存在がすでにハウス界隈で騒がれていたし、このアルバムが所謂「UKジャズ・シーン」というコトバに火をつけたキッカケになっているのは間違いない。17年に Billboard Live Tokyo で来日した際はカマール・ウィリアムスがまさかのドタキャンで驚かせてくれたが、残念半分で観たライヴで「あのヤバイドラマーは誰なんだ!?」とそれを超える驚きを見せてくれたのはいい思い出だ。
 対するトム・ミッシュは16年にリリースしたシングル「Watch Me Dance」がハウス・プロデューサーのクラカザットにリミックスされた辺りから。翌年に発表した「South Of The River」はオランダのディープ・ハウス・デュオ、デトロイト・スウィンドルにもリミックスされるなど、ハウス/ディスコ界隈でその名を目にしていた記憶がある。その後リリースした『Geography』からは言うまでもないだろう。サマーソニックやフジロックにもその名を連ねるなど、その勢いは止まることを知らない。

 つまり多少距離はあったにせよ、どちらも「界隈」にいたわけで、今回のコラボはお互いの活動の延長線上、起こるべくして起こった化学反応なのは間違いない。どちらもサウス・ロンドンを拠点に活動し、世代も近く、アレサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、ニーナ・シモンらアメリカのジャズやソウルの教科書的アーティストもしっかりと通過し、ジャンルに縛られることなく自由に横断する「フュージョン感」はアルバムの中にも随所に散りばめられている。

What Kinda Music - Documentary

 『Geography』のファンであればアルバムの冒頭から随分とダークな内容に仕上がっていると感じるだろう。この部分は実験的なサウンドを好むユセフ・デイズのカラーが前に出ている。アルバム・ドキュメンタリーで「大半はジャムをしながら作っていった」と語っているように、日頃からのライヴで培ったユセフのスキル溢れるドラムにトムがギターで重ねてセッションしていくというのが主な制作の流れだったんだろう。アルバムすべてにおいて、まさにドラムがメイン・パートになっており、彼の十八番でもある高速ドラミングから4曲目の “Tidal Wave” のようにスローだがグルーヴの感じるトラックまで様々だ。

 多くの曲のクレジットに「Produced by Tom Misch」と書かれているのにも注目して欲しい。ベッドルーム・スタジオでのビートメイク上がりのトム・ミッシュが自身のアルバムを通して、レコーディングのスキルをより充実させより理論的にサウンドをプロデュースしていく部分も非常に興味深い。「ジャムで作った」と簡単に言いながらも、音楽に対する間違いのない技術と豊富な経験値や知識がなければこのレヴェルの高い作品はできるはずがない。

 ドキュメンタリーの後半では「15年前くらいにユセフが学校のイベントでドラムを叩いてるのを観たことがある」、「お互いの親父がアルバムを通していまでは自分たちより仲良くなってる」と語るように、親の世代でも距離が近く、世代や人種、ジャンルを超えてコラボレーションが盛んなロンドンのミュージック・シーンならではのコンセプトがこのアルバムのなかに強烈に落とし込まれている。何度もアルバムを聴き返し、彼らの言葉にも耳を傾けると、ある種2015年ごろから火がついた「UKジャズ・シーン」と呼ばれる一種のムーヴメントの集大成的アルバムの位置付けのような気もしてくる。トム・ミッシュしか知らなかった人はユセフ・デイズや彼の関連作品を、逆もまた然り。このアルバムをキッカケにまた色々な作品を掘り下げていけばジャンルを超えた新たな音楽体験が待っているのかもしれない。

Moses Sumney - ele-king

 パレットの片方には真っ黒な絵の具、もう片方には真っ白な絵の具をたっぷり出して、それらをゆっくりと混ぜていく。できるだけゆっくり、ゆっくり、もう少しゆっくりと……。そうやって出来上がった「グレー」は単色ではなく、無限のグラデーションを生み出している。
 モーゼス・サムニーのセカンド・アルバム『GRÆ』は黒と白が混ざった色としての「グレー」を巡るコンセプト作だが、それはちょうど彼自身の存在への問いでもある。ガーナ系アメリカ人としてのアイデンティティを持ち、ニーナ・シモンとよく比較される「フェミニンな」ハイ・トーン・ヴォイスで、ソウルとインディ・ロックとチェンバー・ポップが入り混じった音楽のなか、ロマンスとエロスの境界が溶けた地点の情動を歌う……。それは彼のなかにある多層性や複雑さをさらに撹拌する作業であり、ブラックの男性であることから世間に貼られるレッテルを丁寧に鮮やかに剥がすことでもある。個々のアイデンティティが強く問われたことで2010年代なかばに生み出された傑作がケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』のような「黒い」アルバムだったとすれば、黒人男性のアイデンティティの揺らぎを音楽に白い絵の具を混ぜることで繊細に封じこめたフランク・オーシャンの『Blonde』を通過し、2017年にデビュー・アルバム『Aromanticism』をリリースしたモーゼス・サムニーはさらにその先を模索しようとしている。

 ごく初期にグリズリー・ベアのクリス・テイラーのレーベル〈Terrible Records〉から7インチを出していたり、スフィアン・スティーヴンスと共演したりしていることが象徴的だが、インディ・フォーク/ロック界隈との繋がり、なかでもオーケストラル・ポップや室内楽の要素がその音楽に入っていることがモーゼス・サムニーの個性であり強みだ。それらは一般的に「白い」とされているものなのかもしれないが、あらかじめ彼のソウル・ミュージックと溶け合っていた。そもそもがとてもマージナルな存在で、たとえば音楽性は異なれど、ンナムディと並べてみると現代的なムードが感じられるのではないだろうか。
 『GRÆ』はそんなモーゼス・サムニーの抽象的な折衷性の奥ゆきを深めたアルバムで、前作からもっとも洗練されたのが「ゆっくり」という感覚、そのスローなタイム感であるように思う。ダブル・アルバムとなった本作は、室内楽フォークやソウル/ゴスペルの要素が基盤になっているのはこれまでと同様だが、ジャズ、エレクトロニカ・ポップ、オーケストラル・ポップ、さらにはノイズ・ロックを取りこみ、それらを余裕のある間合いで扱うことによってスムースに聴かせる。アルバムのオープニングにおいて、荘厳なストリングスとスポークン・ワードとスペーシーなシンセ・サウンドが重なる “Insula” から “Cut Me” へとイントロダクションがまず見事で、けっして性急なテンポにならない “Cut Me” はフレーズの細やかなクレッシェンドやコーラスとアンサンブルの重なりの妙味で魅せるチェンバー・ソウルである。ジャンルを折衷するために異なる要素を無理にぶつけず、丁寧に並べてしなやかな歌声で繋いでいく。メロウかつ甘美にドリーミーな “In Bloom” を挟んでシングル “Virile” に至るころには、インディ・シーンの要人ロブ・ムースが手がけたストリングスとパワフルなバンド・アンサンブルによってダイナミックなサウンドの広がりを聴かせるが、あくまで余裕のあるスピード感でじっくりとエモーションを高めている。2枚組といえど通して1時間少しとじつはそんなに長いアルバムではないのだが、1枚聴き通すころには壮大な音楽トリップをしたような充実感を味わえるのは、この、ゆったりとした展開によるところが大きい。

 その “Virile” では「男らしさを誇張しろ/お前は間違った考えを持っている、息子よ」とある種反語的に繰り返されるが、典型的な男性性の抑圧のモチーフがアルバムには散見できる。黒人男性にかかる男らしさのプレッシャーはアメリカにおいてとりわけ強く、それは白人目線からの性的な期待を内面化したものであることが昨今指摘されているが、モーゼズ・サムニーは黒人男性である自分の男性性と女性性の「グレー」なゾーンを探求しているようだ。アメリカで生まれた彼は幼少期に一度ガーナに家族とともに移住し、しかしそこでのコミュニティに馴染めなかった経験があるというが、したがって彼のなかにあるアンビヴァレントな感覚はルーツと現在という点にも及んでいるだろう。『GRÆ』にはダニエル・ロパティン(ほんとにどこでも名前を発見できますね)をはじめジェイムス・ブレイクサンダーキャット、ジル・スコット、FKJ などなど30名以上のゲストが参加しており、それが本作の音楽性の拡張に貢献していることは間違いないのだが、それでも中心として表現したかったのはモーゼス・サムニーそのひとのなかの複雑さだったように思う。(サムニーも参加した)レーベル・メイトのボン・イヴェールによる『i, i』がやったような異なるアイデンティティ(人間)の共存と融和ではなく、個人のなかに潜っていくことでひとりの人間のなかに宿っているはずの多様性を発見するというあり方だ。だから、とろけるようにジャジーなソウル・ナンバー “Colouour” も、それこそグリズリー・ベア的にフォークとクラシックが熱狂的に交わる “Neither/Nor” も、淡いコーラスがひたすら心地いい室内楽フォーク “Polly” も……すべて、サムニーのなかにあるグレーのグラデーションなのである。
 2枚目にあたる “Two Dogs” 以降はとりわけフルートやハープの調べによって天上的な響きを増していき、その陶酔感を高めている。そこではサムニーの存在を通してルーツと現在、男性性と女性性、アヴァンとポップ、肉体と精神、黒と白……の境目がなくなっていく。そしてその「なくなっていく」ことが聴く者の快楽になるのである。「二面性」などというものはないと言わんばかりに。弾き語りフォークの小品 “Keeps Me Alive” やジェイムス・ブレイク参加の “Lucky Me” のミニマルなアンサンブルを通過したあとにやってくる、“Bless Me” のクライマックスはただただ圧倒的だ。
 ブレス・ミー、わたしを祝福せよ。『GRÆ』のまばゆい美しさと甘美な陶酔は、単純に切り分けることのできない人間の内面の複雑さや、そのグラデーションのなかを変容していくことを祝福していることによって生まれている。

Black Atlantica Edits - ele-king

 ダニエル・ハークスマン、ベルリンを拠点に南アメリカおよびアフリカのリズムを調査し続けるこのDJ/プロデューサー/ジャーナリストによる新しいプロジェクトは『Black Atlantica Edits』、もちろんポール・ギルロイの1993年の著作に由来する。
 『Rio Biaile Funk』によってブラジルのバイレ・ファンキの紹介者として知られるハークスマンは、自身のレーベル〈Man Recordings〉からアフリカおよび南アメリカにおける雑食性豊かなダンス・ミュージックをすでに100作以上リリースしている。そしていま彼は〈BBE〉から彼が蒐集したビート・コレクション──カメルーン、ブラジル、ガーナなどなど、南アメリカおよびアフリカの古いのから新しいモノまで──を自らのエディットによって紹介する。すべてがダンスホール音楽、つまり踊るための音楽で、いや、もうこれはいまは家の中で踊るしかない。黒い大西洋から生まれた面白いリズムが揃っている。ちなみに、ダニエル・ハークスマンは故・飯島直樹さんがイチオシだったアーティストでもある。

https://www.bbemusic.com/downloads/black-atlantica-edits/

CAN - ele-king

 クラフトワークとともに70年代クラウトロックのもっとも大きなインパクトとして知られるCAN。この度、〈Traffic〉より(英〈Mute〉経由にて)CANの全18タイトルがリイシューされる。過去何度かリイシューされているCANだが、今回はリミックス盤の『Sacrilege』(1997)、ライヴ盤『Music (Live 1971-1977)』(1999)、ベスト盤の『Anthology』(1994)、あるいはファンのあいだでは賛否両論の『Out Of Reach』(1978)や『Can』(1978)もリイシューされる。第一弾は7月17日。以後、2か月おきにリリースされていく予定。
 『エーゲ・バミヤージ』のTシャツ付限定盤も発売、そして唯一の生存者であるオリジナル・メンバーのイルミン・シュミットの最新ソロ・アルバム『ノクターン』も同時にリリースされる。乞うご期待。

■第一弾再発シリーズ一覧 (7/17発売, 6W)
全作品共通情報:
・発売日:2020年7月17日(金)
・定価:2,400円(税抜)*Tシャツ付限定盤除く。
・紙ジャケット仕様(オリジナル・アートワークを再現)
・高音質CD: UHQCD仕様
・海外ライナーノーツ訳/ 日本盤解説付

https://amzn.to/36gc204

CANはドイツのケルンで結成、1969年にデビュー・アルバムを発売。
20世紀のコンテンポラリーな音楽現象を全部一緒にしたらどうなるのか。現代音楽家の巨匠シュトックハウゼンの元で学んだイルミン・シュミットとホルガー・シューカイ、そしてジャズ・ドラマーのヤキ・リーベツァイト、ロック・ギタリストのミヒャエル・カローリの4人が中心となって創り出された革新的な作品の数々は、その後に起こったパンク、オルタナティヴ、エレクトロニックといったほぼ全ての音楽ムーヴメントに今なお大きな影響を与え続けている。ダモ鈴木は、ヴォーカリストとしてバンドの黄金期に大いに貢献した。

Drexciya - ele-king

 デトロイト・テクノにおける最大級の伝説、ドレクシア──奴隷船から投げ出されたアフリカの妊婦から生まれ、海の中で進化した水陸両生の生き物たち。Bubble Metropolisで生活するDeep Sea Dwellers=深海居住者たち、wavejumper=波を跳躍する者たち、彼らの出生の物語=アフロ・フューチャリズムがいまアブドール・カディム・ハックあらためアブカディム・ハックと佐藤大によって語られる。『The Book Of Drexciya, Vol. 1.』、ドレクシアのオリジナル・メンバーだったGerald Donald とドレクシア=James Stinsonの母親も全面的に協力、アラン・オールダムら複数のデトロイトのアーティストも参加している。
 5月22日、ハードカバー、76ページ。ベルリンのレーベル〈Tresor〉より刊行予定。
 https://www.modernmatters.net/music/promotion/tresor318_6sgsu1nbbj9/

Motohiko Hamase - ele-king

 尾島由郎、芦川聡、廣瀬豊、高田みどり、清水靖晃、川井憲次、深町純、ムクワジュ・アンサンブル……などの復刻で知られるスイスの〈WRWTFWW〉(We Release Whatever The Fuck We Want)レーベルがまた1枚、日本の隠れ名盤をリリース。ジャズ・ベーシストの濱瀬元彦が1988年に〈ワコール・アート・センター〉傘下のレーベル〈Newsic〉からリリースした『♯Notes of Forestry(樹木の音階)』。2018年にいちど再発されているもののすでに売り切れで、マニアの間で高値で取引されている。
 バブル最高潮時に企業の文化事業部からリリースされたこのアルバム、たしかにあの時代のあざといほどの透明感がありつつも、しかしアルバムの後半がまったく素晴らしい。先日、ジョン・ハッセルのファースト・アルバム『Vernal Equinox』がリイシューされて日本でも好セールスと聞いているが、『♯Notes of Forestry』にもハッセルと同じくジャズからアンビエントへのアプローチがある。ベースがうねりまくるその展開は、エレクトリック・マイルスとポストロックとの溝を埋めるかのようだ。
 なお、〈WRWTFWW〉は追って濱瀬元彦の1993年の『Technodrome』と『Anecdote』もリリース予定、値がつく前にぜひチェックしよう!


Motohiko Hamase
♯Notes Of Forestry

WRWTFWW
※海外発売は5月29日
...

Ayane Yamazaki - ele-king

 先日、細田成嗣が紹介した角銅真実らと並んで、目下、次世代シンガーソングライターとして注目される山﨑彩音。1999年生まれの彼女は16歳から作品を発表しているというおそろしい早熟娘で、すでに2枚のアルバムがある。昨年の2nd『LIFE』から、彼女の音楽的冒険が本格的にはじまったようで、それは「ニュー・ラウンジ」とも「new Tokyo city pop」とも言われているわけだが、『LIFE』からはいまや売れっ子ダンス・プロデューサーとなった工藤キキによるremix曲(kirchen song)もある。これ良いです。

kitchen song-Kiki Kudo and Brian Close Remix

https://open.spotify.com/track/2zJTtzXRDzV5oMsk7kbiw3?si=aYbVDcJVQ46KcvOQOzIuIg

 彼女の魅力的な声と東京発のドリーム・ポップ・サウンドは、イギリスのレーベル AWALから配信され、瞬く間に欧米のみならず南米やアフリカにも伝播したそうだ。海外では、「次世代の野宮真貴」という声もあるようだが、たしかに彼女の声は渋谷系ともリンクしている。そしてこの注目のシンガーの最新作は、アルバムのクローサー・トラック“眠りの理由 Sleep to Dream”のTOYOMU Remix。これが素晴らしいです。



https://open.spotify.com/album/1gyidA79GUoRepNYgiyJRN?si=qR2aGzAGSS2QWLvhs4t-BQ

 いわば冷撃沈する東京のシティポップ、甘くヒリヒリしたドリーム・ポップ──山﨑彩音、次に何をやるのか期待しましょう!

R.I.P. Little Richard - ele-king

 スパイダースのマネージャーだった奥田義行は高校生の忌野清志郎が歌っているところを見て「リトル・リチャードだ!」と思ったという。ラジオで週に1時間しか洋楽が流れなかった時代、奥田さんは日劇(現有楽町マリオン)の地下に米兵しか入ることができないバーがあり、その店に潜り込むとジュークボックスの裏に隠れてアメリカン・ポップスを聴き漁ったと言っていた。和田アキ子や萩原健一がデビュー前にどれだけ人の噂になっていたかなど60年代のことをあれこれと話してくれた奥田さんは、同じように若き忌野清志郎のインパクトがさらに凄まじく、思わず「君はリトル・リチャードだ!」と本人に告げたところ、清志郎からは「違うよ、オーティス・レディングだよ」と未知のソウル・シンガーの存在を教えられ、それに共感したことでRCサクセションのマネージメントをすることになったという。しかし、若き忌野清志郎を見てリトル・リチャードを連想するというのはとてもよくわかる話である。清志郎がオーティス・レディングのようなパッションとソウルを併せ持つ歌い方になっていくのはもう少し後のことで、ナイフのような歌声だと評された初期の頃はソウル色よりも勢いに溢れんばかりだったリトル・リチャードと言われた方がイメージが湧きやすい。何かに急き立てられているようなリトル・リチャードの歌い方。清志郎もよくスタジオなどで“Tutti-Frutti”をふざけて演奏していたけれど、それは早すぎて口が回らないというパロディであることが多く、真面目に最後まで演奏したところは一度しか見たことがない。奥田さんが芸能界に入って最初に坊やを務めたスウィング・ウエストというカントリー・バンドが結成50周年を祝うライヴ(つーか、ディナー・ショー)を観に行った時はホリプロを起こした堀威夫や田辺エージェンシーの田邊昭知などメンバーがすでにご高齢に達していたため、「今日はテンポを落として“Long Tall Sally”を演奏します」などと言っていたぐらいで、リトル・リチャードはとにかく「早い」ロックンローラーだったのである。「早い」どころか、リトル・リチャードの全盛期は僕が生まれる前に終わっている。“Tutti-Frutti”や“Long Tall Sally”のヒットが1956年、最後のヒット曲といえる“Good Golly, Miss Molly”でも1958年である。スプートニク・ショックすらまだ起きていない。

 僕がリトル・リチャードのことを知ったのはビートルズがカヴァーしていたからである。ビートルズによる吐き捨てるような解釈も悪くはなかったけれど、オリジナルのリトル・リチャードに感じられる張りの良さが僕は気に入ってしまい、それはクライド・マクファターやロイド・プライスといった同時期のロックンロールやリズム&ブルーズにも共通して思うことだった。清志郎さんの影響だったのかもしれないけれど、どちらかというと陰のあるサウンドが好みだった僕にしては珍しい趣向となった(やさぐれたムードだったらパンクを聴いた方がいいというか)。カントリーやソウルといった要素を含まないリズム&ブルーズやロックンロールには「疲れた」感じがなく、意味もなく明るくなれた。それがとにかく良かった。〈スペシャリティ〉から3枚のロックンロール・アルバムをリリースした後、ロックは悪魔の音楽だといって牧師になってしまい、ゴスペルに転向したリトル・リチャードが5年ぶりに『Little Richard Is Back』(64)でロックンロールに戻ってきた際はバック・バンドにジミ・ヘンドリックスが紛れ込んでいたり、エリック・クラプトンが一時期、活動を共にしていたデラニー&ボニーもリトル・リチャードとつながりがあったために“I Don't Want To Discuss It”などをライヴで取り上げることもあって、スワンプ・ロックが好きだった僕は60年代後半のリトル・リチャードにも自然と耳馴染むことになった。最後に聴いたのはクインシー・ジョーンズのサントラ盤『$』(72)に収められていた“Money Is”だろうか。これもインスト・ヴァージョンの“Money Runner”をフレンチ・タッチのボブ・サンクラーが”Disco 2000 Selector”(96)としてド派手にサンプリングしたためにまたしてもヘヴィー・ローテーションと化すことに(あのベースラインはいい!)。そういえば彼がゲイだったということは、この頃まで知らなかった。ジェームズ・ブラウンの伝記映画にも言われてみればそのような雰囲気で描かれていたけれど……。むしろ気になったのはリトル・リチャードが彼の使っていた聖書をプリンスにプレゼントしたというエピソードで、調べてみると2人はセヴェンデイ・アドヴェンティストという異端の宗派に属していた。エホバの証人を産んだ母体であり、世界が終わりの時を迎えていると本気で信じている宗派である(リトル・リチャードがスプートニクに恐怖し、プリンスがスペースシャトルの爆発事故を受けて“Sign "O" The Times”をつくったのも世界の終わりを信じていたから)。菜食主義で、死んでも復活すると信じており、本当ならドラッグやダンスも許されない宗派である。

 リトル・リチャードについて、あるいは彼の精神生活についてはあまり詳しいことは語られていないのではないだろうか。音楽はシンプルだけれど、ゲイで牧師になったというだけで充分に複雑だし、「悪魔の音楽」とまで毛嫌いすることになったロックンロールに再び回帰したという感覚(サム・クックへの嫉妬?)もやはり常人の感覚では理解が追いつかない。よくよく考えてみるとナゾだらけである。87歳まで生きたというのは悪くない人生だったのかなと思うものの、ロックの偉人としてこのままきれいに葬り去るのではなく、彼が本当に抱えていた葛藤などが明らかになる日が来ることも僕は望みたい。ちなみに“Tutti-Frutti”というのはドラムの音を表したものだそうで、最近でいえば南アのゴムもスネアを叩く音に由来し、グルーパーやJ・リンが自然科学の用語を音楽に引用することも興味深いけれど、音楽の現場からしか出てこない言葉が使われるのはもっと好きなんです。Tutti-Frutti!

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