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FKJ

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French Kiwi Juice

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小川充   Apr 04,2017 UP

 ディミトリ・フロム・パリにしろ、エールにしろ、ダフト・パンクにしろ、カシウスにしろ、昔からフランスのアーティストは遊び心が旺盛な人が多い。そうした遊び心やユーモアから、彼らのようなロマンティックでドリーミー、またはセクシーで煌びやかなサウンドが生まれてくるのだろう。1990年代半ばに〈イエロー・プロダクションズ〉、〈Fコミュニケーションズ〉、〈ディスク・ソリッド〉などが設立され、そうしたフランスならではのクラブ・サウンド(=フレンチ・タッチ)が、USやUKといったクラブ・ミュージックの本場に対抗する勢力として狼煙を上げたが、そんなフレンチ・アーティストの遊び心は、ミスター・オイゾ、ジャスティス、オンラなど、いろいろと形を変えつつも継承されている。カシウス、オイゾ、ジャスティスらが所属する〈エド・バンガー〉は、現在のフレンチ・タッチを代表するレーベルで、近年はブレイクボット(元アウトラインズ)の活躍が目覚ましいところだ。ブレイクボットはヒップホップやR&B、ハウスやエレクトロ、ディスコやブギー、チル・ウェイヴやドリーム・ポップ、AORなどあらゆる要素をミックスした折衷的なクラブ・サウンドに、フレンチ・タッチならではのユーモラスでお洒落なセンスを巧みにコーティングするのが得意だ。そんな〈エド・バンガー〉の路線を担いつつ、ディスクロージャー以降の新しいハウス・サウンドを担うレーベルとして、パリで〈ローチェ・ミュージック〉が設立されたのが2012年。フレンチ・タッチをバックグランドに持つこのレーベルの主宰者が、FKJ(フレンチ・キウイ・ジュース)ことヴィンセント・フェントンである。

 最初はサウンドクラウドなどを舞台に、リミックスやオリジナル曲を発表していたのだが、その中の“ライイング・トゥゲザー”が世界中で人気を集め、シカゴのセイヴ・マネー(チャンス・ザ・ラッパーも所属)のクルーのトゥキオがすぐさまサンプリングして“アイ・ノウ・ユー”という曲を発表するなど、アメリカでも一躍注目される存在になる。その後、フィジカルで初のEPである『タイム・フォー・ア・チェンジ』(2013年)をリリースし、第2弾EPの『テイク・オフ』(2014年)を経て、初のアルバム『フレンチ・キウイ・ジュース』を発表するのである。FKJはキーボード、ギター、ベース、サックスから、サンプラー、ラップトップPCまで操るマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、また自身でヴォーカルもとる。本作もそんな具合に、ひとりで何役もこなしながら作られたものだ。2016年はケイトラナダやジョーダン・ラカイなどの若いマルチ・ミュージシャン/プロデューサーのアルバムが出たが、FKJもそうした人たちに並ぶ才能の持ち主と言えるだろう。

 『フレンチ・キウイ・ジュース』の音楽的な骨格にはソウル・ミュージックがある。“ウィ・エイント・フィーリング・タイム”や“スカイライン”、“ベター・ギヴ・ユー・アップ”あたりがその代表曲だが、ビートは打ち込みでもギターや鍵盤などの楽器演奏により極めてオーガニックな味わいのナンバーとなっている。鍵盤は主にフェンダー・ローズを使っているようだが、そうしたヴィンテージ機材を巧みに用いることにより、敢えてレトロでメロウな質感を感じさせる点が彼の特徴である。“ウィ・エイント・フィーリング・タイム”や“チャング”でのジャジーなサックス・フレーズも、そんなFKJのレトロ・センスの表われであるし、“ホワイ・アー・ゼア・バウンダリーズ”の枯れた味わいは1970年代のニュー・ソウル的でもある。“スカイライン”もビートは新しく洗練されたものだが、楽器の音色は意図的にヴィンテージ感を出している。また、ヴォーカルとコーラス・アレンジのセンスも抜群で、全体にポップなフィーリングを漂わせる大きな要因となっている。どの曲からも優れたメロディ・センスが感じられ、中でも“ブレスド”はチル・アウトでメロウな味わいが格別である。仄かなマリン・フレーヴァー漂うこの曲は、先日他界したリオン・ウェアが若いビートメイカーになって蘇ったようでもある。ディミトリを筆頭に、フレンチ・タッチのアーティストはメロディ・センスやポップ・センスにも優れた人が多かったのだが、そうした点でFKJもフレンチ・タッチを今に受け継ぐアーティストであることは間違いない。

小川充