「Nothing」と一致するもの

SHAKKAZOMBIE - ele-king

 タイトルからもわかる通り、今年1月に亡くなった BIG-O ことオオスミタケシ氏へのトリビュートとして制作された、SHAKKAZOMBIE の〈cutting edge〉期の楽曲をリミックス/リメイクした6曲入りのEP。BIG-O および SHAKKAZOMBIE とも関わりの深いアーティスト、あるいは彼らに影響を受けた若い世代のプロデューサーやラッパーが参加し、時代的には90年代後半から2000年代前半に作られた楽曲を、いまのサウンドへとアップデートさせながら、同時に制作サイドの強い思いが滲み出る、非常に意義深い作品にもなっている。

 日本のヒップホップ・シーンの黎明期とも言える90年代半ばにデビューした SHAKKAZOMBIE であるが、同時代の様々なアーティストが日本人としてのヒップホップの表現方法というものを模索する中、彼らもまた独自のオリジナリティを築き上げていき、その結晶とも言えるのが、〈cutting edge〉からリリースした3枚のアルバム『Hero The S.Z.』(1997年)、『Journey Of Foresight』(1999年)、『The Goodfellaz』(2002年)だ。非常に繊細かつセンシティヴな感覚であったり、あるいは当時としては真っ直ぐすぎるほどのポジティヴな一面など、それまで他のアーティストがやっていなかったようなリリックの世界観を打ち出し、さらに音楽的には様々なジャンルの要素も貪欲に吸収しながら、最先端のヒップホップ・サウンドを追求していた彼ら。彼らが目指していた高いクリエイティヴィティの先にいまの日本のヒップホップ・シーンが存在しているのは間違いなく、このEPもまたその延長上にある。

 90年代の SHAKKAZOMBIE をリアルタイムに知っているファンであれば、“共に行こう CDS Version Pure 2021” は最も心が揺れる一曲だろう。ここではオリジナル・ヴァージョン以上に人気の高かった “共に行こう (Version Pure)” のトラックがそのまま使用されているが、当時は NITRO MICROPHONE UNDERGROUND 人気が爆発する以前の GORE-TEX、SUIKEN、DABO、MACKA-CHIN が参加していた代わりに、本作では Creative Drug Store の VaVa、JUBEE、BIM、in-d をフィーチャ。世代は全く違えど、SHAKKAZOMBIE と新しい才能との融合という20年以上前のコンセプトがそのまま踏襲され、日本のヒップホップ・シーンの時代の継承と進化を同時に感じることができる。

 本作中、最もチャレンジングなのが “5o tight So deep” だろう。5lack と PUNPEE が手がけたこの曲は、アルバム『The Goodfellaz』収録の “So Tight, So Deep” が元となっているわけだが、ラテンなテイストの原曲とは全く異なるグルーヴ感で、SHAKKAZOMBIE のラップやコーラスをそのまま使うのではなく、最小限が素材として取り込まれているのみ。そんなトラックの上で 5lack と PUNPEE が単なるリスナーであった時代に一ファンとして聞いた SHAKKAZOMBIE に対する思いがリリックで綴られており、実に美しいトリビュート・ソングに仕上がっている。個人的には Chaki Zulu がリミックスを手がけた “虹” も非常に好きな一曲だ。これもまたオリジナルは20年以上前の曲であるが、Chaki Zulu による現在進行形のサウンドを纏いながら、BIG-O と IGNITION MAN のラッパーとしてのふたりの普遍的な魅力が強く伝わってくる。

 『The Goodfellaz』以降はファッション・シーンでの活動に完全に軸を移し、おそらくオオスミ氏が SHAKKAZOMBIE というグループで活躍していたことを知らない人たちも多いだろう。このEPによってラッパーとしてのオオスミ氏の偉大さや SHAKKAZOMBIE というヒップホップ・グループの存在が若い世代に少しでも伝わると嬉しい。

David Sylvian - ele-king

 徹底的に音を探究する稀代の音楽家、デイヴィッド・シルヴィアン。ひさしぶりに嬉しいニュースの到着だ。これまでも多く彼の作品を送り出してきた現ベルリンのレーベル〈Grönland〉から、最新フォト・エッセイ本『– ERR –』がリリース。全世界550部限定とのことで、本人直筆サイン入りのエディションも販売される。なくなる前に、お早めに。

あくなき音の探究を続ける孤高の音楽家 "David Sylvian" の最新フォトエッセイ本が Grönland Records よりリリース! 全世界550部限定、本人直筆サイン入りの数量限定スペシャルエディション!

あくなき音の探究を続ける孤高の音楽家 "David Sylvian" の最新フォトエッセイ本が全世界550部限定で Grönland Records よりリリース、日本でも超数量限定で販売される。

「タワーレコードオンライン」、「HMVオンライン」、「ディスクユニオン」、P-VINEオフィシャルオンラインショップ「P-VINE SPECIAL DELIVERY」での取り扱いが決定。

本人直筆サイン入りとなり、「P-VINE SPECIAL DELIVERY」では特典として本書に寄せたデイヴィッド・シルヴィアンよるコメント(日本語訳)が付属する。写真家や文筆家、画家としても知られる藤原新也からのコメントも到着した。

それが都市であれ、砂漠であれ、アメリカの道の15センチ下には荒野が眠る。そして多くの写真家がそのアメリカの道の寂寥感を車の窓越しに撮ってきた。だが本書の写真の中では、1と0という永遠に中間値の失われたジャギーの暴力によってそのアメリカの道伝説があたかもクラッカーのようにとつぜん砕け散る。それはデジタルという空虚が与える新しい美学だと言える。 ──藤原新也

[本書に寄せたデイヴィッド・シルヴィアンよるコメント(日本語訳)付き通販ページ]
https://anywherestore.p-vine.jp/products/bookgron-200

[商品情報]
アーティスト:David Sylvian
タイトル:– ERR – limited edition
フォーマット:Book
発売日:2021年11月19日(金)
品番:BOOKGRON200
ISBN:978-3-00-069573-5
サイズ:38 x 28 x 8 cm
ページ数:216
価格:¥25,300(税込)(税抜:¥23,000)

Billie Eilish - ele-king

 いまや世界一注目されるスーパー・ポップ・スターであるビリー・アイリッシュが繰り広げてきたダークなファンタジーは彼女がベッドルームで作り上げたものだということはよく言われるが、そこで自分が気になるのは、そのベッドルームが実家にあったということだ。いやもちろん、ティーンとしては一般的なことだろう。ここで言いたいのは、アイリッシュの歌──自傷や死の夢想、パラノイア──が家族に守られてきたことである。
 たとえばいまどきのアメリカのメジャーなアニメ映画などを観ていると、ジェンダーや人種のダイヴァーシティの意識が現代的に更新されていても、すごく古風に「家族」という価値観が守られているように感じられることが多い。ソニー制作で Netflix で配信されている『ミッチェル家とマシンの反乱』ではソーシャル・メディアに支配された現代を批評しつつ、クィアのキャラクターを自然に登場させ、強い父親がひとりで一家を守るのではなくメンバーが助け合う共同体としての家族が描かれていた(要は意識が高い)が、それでも「家族は素晴らしいし、支え合うものだ」という価値に揺らぎはない。いっぽうで、よりインディペンデントなアメリカ映画では、『フロリダ・プロジェクト』や『荒野にて』や『足跡はかき消して』のように……何なら今年アカデミー賞作品賞を獲った『ノマドランド』を加えてもいいが、緊密な関係にある家族を描きながら、それがもう壊れていることを露にしていた(これらの映画の背景にあるのは、容赦のない貧困である)。それこそ『大草原の小さな家』のようなアメリカの古き良き家族像の教科書だった作品にもまた反先住民的、反黒人的描写があるといって文学賞から外される現代にあって、よき家族とはどのようなものか、アメリカ社会は惑っているように見える。
 ビリー・アイリッシュの場合はどうか。彼女の歌がそもそも兄フィニアスとの非常に緊密な共同作業から生まれていることはよく知られているし、ドキュメンタリー『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』を観たりインタヴューを読んだりしていると、彼女の表現にとっていかに家族の支えが重要だったかが繰り返し強調されている。かつて「お騒がせアイドル」として世間に消費されていたブリトニー・スピアーズが現在、実父と財産や虐待の問題で揉めていることから、現在ではスピアーズに対する擁護の声が大きくなっていることを踏まえてもいいが、ポップ・スターにおける家族との関係性の理想像が時代とともにまた変化しているようにも思える。しばしば評されるようにアイリッシュがZ世代ならではのメンタルヘルスの問題を表象しているとして、それをケアするのは何よりも絶対的に信頼できるものとしての家族なのである(これは、アイリッシュの人気を広めるきっかけのひとつとなった Netflix のドラマ『13の理由』にも見られるテーマだ)。それはアメリカが古くから美化し理想化してきた家族像から大きくは外れておらず、その点でアメリカで支持されている部分もかなりあるのではないか。新世代のポップ・スターとして現代的なモチーフやテーマを背負いながら、同時にアイリッシュは伝統的な価値観とも連なってきた。
 だから、破格の成功を収めたデビュー・アルバムののちの正念場となる本セカンド作『Happier Than Ever』において、ジャケットではオールド・ハリウッドにおける美のイメージが引用され、音楽的にはフランク・シナトラやペギー・リーが参照されているのは合点がいく。実際にシナトラ的な要素が音楽のなかにあるのと同じくらい、彼女自身が影響を口にしていることが重要だ。それは、自分が必ずしもアメリカのポップ・カルチャーにおける鬼っ子ではなく、ゆるやかな継承者であるという態度表明である(METガラでマリリン・モンローのスタイルを採用したのも話題となったばかりだ)。
 とはいえもちろん、単純なレトロ回帰ではなく、“My Future” のようにジャジーな曲、“Your Power” のようにフォーキーな曲とともに “Not My Responsibility” の時空がねじれるアンビエント・ポップ、重たいビートが両足を掴むような “NDA” のノイジーなトラック、そしてベース・ミュージックをより密室的な響きで封じこめたような “Oxytocin” など、アメリカン・スタンダード再訪と新しい時代感覚のポップスが共存しているところがこのアルバムの面白さだろう。減退したとはいえトラップ以降の感覚はベースになっているだろうし、何よりポップ・シーンでプロデューサーとして頭角を現しはじめている兄フィニアスのセンスを信じて託している部分も大きい。

 このアルバムで描かれているのはアイリッシュが実際に直面したポップ・ワールドのえげつなさで、「ダーク」なのはベッドルームで見た夢ではなく外界のほうだった……という感覚がシェアされている。遊ぶ相手に機密保持契約を結ばせる経験(“NDA”)などはポップ・スター以外が共感するのは難しいだろうが、ソーシャル・メディアで身体が不特定多数にジャッジされること(“Not My Responsibility”)や特権的な力を振りかざす男たち(“Male Fantasy”)に対する怒りなど、アイリッシュのファンのメイン層だろう同世代の女性たちにとってとりわけ切実なモチーフが選択されているように見える。それはある意味、現代の10代らしい意識の高さの表れだが、アイリッシュは同時に、恋愛相手に振り回されるなど「正しく」振る舞えずに惑う自分自身も正直に描いている。「政治的な妥当性(PC)」では必ずしも掬えない感情の揺らぎや戸惑いにこそ、わたし(たち)のリアリティがあるのだと。それは政治的妥当性を優先しがちな現代のポップ・シーンへの批評としても結果として機能している。
 アルバムのハイライトである表題曲 “Happier Than Ever” のギターの爆発はグランジを連想させる。これはメディアから「新世代のカート・カバーン」などと短絡的なコピーをつけられたことへの皮肉である……というのはさすがに自分の穿った意見だとは思うが、ともかく、かつてのニルヴァーナの楽曲のように、良識を食い破っていく若者の感情の生々しさを捕まえることにアイリッシュは相変わらず腐心している。
 意識の高さや新しさだけでは自身の表現のリアリティを保てないと理解しているところにアイリッシュのクレバーさはあって、積極的にアメリカの過去に遡ってみせた本作でその志向が見えやすくなったように思う。たとえば、ここで彼女が参照しているオールド・ハリウッドは現代的な価値観でジャッジすると「政治的に妥当ではない」要素を数多く孕んでいるが、そこにも現代の我々が惹かれる美が宿っていることを彼女は知っている。そしてまた、それら古典を独善的に「アップデート」するのではなく、そうした割り切れなさが新世代にも──もしかすると、かつてよりもいっそう複雑な形で──偏在していることを仄めかすのである。ラナ・デル・レイほどその風刺に意識的ではなく、どこか直感的なところを残しているからこそ若い世代にも伝わりやすいのかもしれない。
 自分の関心は彼女の表現が家族の庇護を離れたときにどうなるか、にあるが、変わらず兄や両親の支えとともに「世界」に対峙してみせた本作もまた、現時点の彼女のリアリティに他ならない。(アメリカの)伝統と革新のせめぎ合い、あるいは混在を率直に体現しているからこそ、ビリー・アイリッシュは現代のポップ・アイコンにふさわしい。

Nic TVG - ele-king

 ここ数年続いているジャングルの発掘音源はほとんどが1993年に集中していてドラムンベースというフォーマットが確立されてからのトレンドはまったくといっていいほど素通りされている。ダークステップやニューロファンクなど90年代後半の熱狂はなんだったのかという感じで、そのようにして細分化していったなかには当時から注目度の低かった「ドラムファンク」というサブジャンルもあった。ドラムファンクというのはジャズステップが本腰を入れたというか、ドラムをライヴ演奏のように聞かせることを主眼とし、ドラムンベースをジャズの演奏に近づけようとした傾向のことで、オリジネイターはパラドックスことデヴ・パンディアだとされている。シーンの代表格だったブレイケージがダブステップに乗り換えてしまったこともあって、2010年を待たずしてドラムファンクは姿を消し、復興五輪のように風化したと思っていたものの、しかし、ドラムファンクはいつのまにかアメリカに主軸を移し、ポートランドの〈パインコーン・ムーンシャイン〉をベースにじりじりと音楽性を変化させることに。同レーベルを主宰するニック・TVGのセカンド・アルバムはそれこそ「ドラムをライヴ演奏のように聞かせ」るという部分が過剰に肥大し、ほとんどフリー・ジャズかと思うようなサウンドへと変形が進んでいる。いっそのことフリー・ジャズとして聴いた方が早いのかもしれないけれど、それにしてはドラムンベースやミニマル・テクノの要素が耳についてしまうので、やはりこれは「ドラムファンク」というべきなのだろう。



 7年前(!)のファースト・アルバムに比べてグリッチなどエレクトロニカ度が増し、ドラム以外の要素もかなり複雑になっている。短いイントロダクションを経て最初からドラミングは激しく、あまりにも乱れ打ちで、いくつのドラム・パターンが重ねられているのかもよくわからない。これだけドラムを畳み掛けてアフロっぽくならないのも時流的には珍しく、ファンクではあってもファンキーにはならない。ジェームズ・ブラウンをサンプリングしてるのかなあと思う曲もあるけれど、少し間延びさせて他のドラム・サンプルと組み合わせてるのか、そう簡単にリズムにのせてくれるわけでもない。緊張感に次ぐ緊張感。予定調和なリズムは片端から崩れていく。中盤の “Tamukeyama” ではいったんドラムが後退し、トータスノイ!が出会ったようなベース・ドローンにモードが変わる。もともとドラムンベースにはアトモスフェリックなイントロダクションを過剰に配する傾向があるとはいえ、続く “Nika Sees” でもアブストラクトな感触は持続し、異常なテンションはキープされたまま。マウス・オン・マースを思わせる “Er Ist Immer Mude I” やBPMが早くなったり遅くなったりする “One Record” も新機軸で面白い。とにかくこの人の音楽は誰にも似ていない(感性という意味ではかつてフォテックが “七人の侍” をやろうとしたことに近いのかも?)。

 アメリカで起きた国会突入こそ失敗だったものの、今年はミャンマーの軍事クーデターといい、アフガニスタンが武装勢力に国家主権を奪取されるなど、教科書でしか読んだことがないような国家規模の事件が次々と起きている年であり、客観的に見ればヘンにダラダラした音楽よりも『I Know Where the Vultures Live(=ハゲタカがどこにいるのか知っている)』のように不穏で緊張感みなぎる音楽が時代のサウンドトラックにふさわしいのではないかと。否定されているのはそのことごとくが西欧近代で、世界がどんどん『ゲーム・オブ・スローン』化しているみたいだけど。

メシアTHEフライ - ele-king

 先日お伝えしたように、JUSWANNA のMC、メシアTHEフライの2010年のソロ・アルバム『MESS - KING OF DOPE-』が本日9/15にCDでリイシューされる。そのタイミングにあわせ、同作のストリーミングでの配信も解禁となった。ジャケをあしらったTシャツも限定で販売されるとのことで、あわせてチェックです。

JUSWANNAのブッ飛んだ救世主ことメシアTHEフライが2010年にリリースした傑作ファースト・ソロ『MESS -KING OF DOPE-』の復刻CDリリースに合わせて待望のストリーミング配信も解禁! またそのジャケットを用いたTシャツが完全限定で発売&予約受付開始!

 メッセージ性の強いパンチラインを最大の武器に独自のスタンスで常に斜め45度から世間を騒がす反逆者であり、MEGA-G、DJ MUTAとのユニット、JUSWANNAのブッ飛んだ救世主ことMESS a.k.a. メシアTHEフライ。そのメシアがJUSWANNAとしての活動休止後の2020年12月に発表した傑作ファースト・ソロ『MESS -KING OF DOPE-』の復刻CDが本日リリースされたのに合わせ、本日より各ストリーミング・サービスにて同作の配信も開始!
 また本日よりその『MESS -KING OF DOPE-』のジャケットを用いたTシャツの予約受付が開始! ボディはGILDAN T2000 6oz ウルトラコットンヘビーウェイトTシャツを使用し、カラーはホワイトとブラック、ロイヤルブルーの3パターン。本日9/15(水)からP-VINE OFFICIAL SHOPのみの完全限定生産での予約受付となり、受注期間は9/28(火)正午まで、発送は10月下旬頃を予定しております。
 その『MESS -KING OF DOPE-』は同時に帯付き2枚組/完全限定プレスでのアナログ盤も12月にリリースを予定しております。こちらも完全限定生産となりますのでご予約はお早めに!

*メシアTHEフライ 『MESS -KING OF DOPE-』 Tシャツ 販売サイト
https://anywherestore.p-vine.jp/products/mtf-messt

★『MESS -KING OF DOPE-』Tシャツに関する注意事項
※新型コロナウィルスによる状況によっては、発送期間が大幅に遅れる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
※オーダー後のキャンセル・変更は不可となります。
※配送の日付指定・時間指定は出来ません。


[CD情報]
アーティスト:メシアTHEフライ
タイトル:MESS -KING OF DOPE-
レーベル:Libra Records / P-VINE, Inc.
発売日:2021年9月15日(水)
仕様:CD
品番:LIBPCD-013
定価:2.640円(税抜2.400円)
Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/bT6jlsZm

[LP情報]
アーティスト:メシアTHEフライ
タイトル:MESS -KING OF DOPE-
レーベル:Libra Records / P-VINE, Inc.
発売日:2021年12月2日(木)
仕様:帯付き2枚組LP(完全限定生産)
品番:LIBPLP-001/2
定価:4.950円(税抜4.500円)

ガールズ・メディア・スタディーズ - ele-king

「まず自分でやってみる」なんて余計なお世話。他人に言うことじゃない。やりたいのに、なぜだかちょっと踏み出せないでいる自分に対して、そっとつぶやいてみればいいんだと思う。
 それでも、どこへむかって踏み出せばいいのか、さっぱりわからないということもある。そういうときに役に立つ教科書があってもいい。この本は「女性たちがどのようにメディアの中で描かれているか、もしくは女性たちがどのようにメディア文化をいきいきと創っているのか、という点に関心のある学生たちにむけての教科書」だという。「表彰と解釈」と括られた前半では映画や広告、音楽からメイド喫茶や援助交際まで、若い女性たちがメディア空間でどのように表象されるかが分析される。メイド喫茶のメイドがツイッターなどのSNSを使ってどのようにセルフ・ブランディングをしているか、それはどのような「労働」なのか。あるいは90年代の女子高生ブームとはなんだったのか。援交する美少女像は誰が必要としたのかなど、メディアを利用しながら、実際には翻弄もされる女の子たちが見えてくる。「考えてみよう」「調べてみよう」「話し合ってみよう」などと、研究の指針が示されているのも親切じゃないか。
 「ワンダーウーマン」「キャプテンマーベル」などの映画から、表彰としての女性とフェミニズムとの関係を分析したり、ビヨンセやレディ・ガガなどを上げながらポピュラー・ミュージックにおけるジェンダー表象の読み解き方が解説されたり、90年代に起きた女子高生ブームの男性研究者による調査や分析をさらに分析する。
 好きなのは後半の「交渉と実践」のパートだ。アート、ダンス、ファッション、ジンの製作、社会運動を取り上げ、それぞれ、実践の場所の現状や先人の試みが紹介されている。たとえば美術展では女性客が圧倒的に多く、美大でも女子学生が多いにもかかわらず、日本の美術界ではジェンダー不平等がまかり通っている現状や、それでも表現としてはフェミニズム的な発想が増えていたりすることや、「ジン」と呼ばれるようなミニコミ出版物を作るときのたくさんのヒント、あるいは社会運動のはじめ方など、現実に役立てられそうな知識が詰まっている。
 じつは私も学生のころ、女子学生だけでミニコミペーパーを作っていた。ウーマンリブが「怖いもの」と言われていたポストフェミニズム的な80年代初頭の気分をそのまま写しとった、つまり「大卒女子が子供を産んだ後も雇われ続けるために、“女には” 何が必要か」「企業は社員を能力で評価してほしい」「雇われるためには女も意識を高くしなきゃ」みたいな、まさしくその後の新自由主義経済を待望するかのような内容だったが、(短大ではなく)4年制大学に行くことでかえって就職しにくくなると言われていた時代には切実なテーマだった。で、そのミニコミには当時できたばかりの人材派遣会社や、育児休暇制度を作ったばかりの百貨店などがけっこうな額の広告費を出してくれていた。女子学生が企業社会での性差別解消を訴えるミニコミに、企業が広告を出すのだ。企業と「交渉」しているような気持ちでいたが、どうだったんだか。──「ポストフェミニズムにおいて「女」はネオリベラリズム時代の労働者の特権的なシンボルとして立ち現れているためである。たとえば、今ではネオリベラリズムとそれに基づく市場原理主義によって、全ての労働者が柔軟な自己管理、つまり自身の身体を他者化・対象化・商品化することを求められるようになってきたが、これは「女らしさ」においては歴史的に今までもずっと求められてきたことである」。まったくだ。
 テーマとしては馴染めないながらもおもしろいと思ったのは「メディアをまとい闘うBガール」という章で、男性的な空間である「ストリート」の考察だ。確かに映画「スケート・キッチン」を観ると、アメリカでもストリートは圧倒的に男子のものだった。80年代のたけのこ族では女の子もたくさん見かけたのだけどなあ。スポーツとジェンダーやフェミニズムの問題は五輪を機に話題も増えていたが、女子が学校などの管理下にいて、男子がそこから押し出されてストリートに出ている可能性が考察されている。そのことと、ダンスという文化の根幹にある「まなざし」による権力関係との関わりをはじめ、Bガールたちのファッションや音楽との関係など、興味深い。
 メディア文化とはいえ、しばしば、心ならずもいつのまにか、若い女は見られる存在となっている。自分は見る側だと、主体的に活動しているつもりでいるのに、気がつくとどこかから、誰かから見られる側になっている。90年代の「女子高生」も80年代の「女子大生」も、勝手な視線で勝手にまとめられていて、どちらも「まとめて語るな」と怒っていた。
 この本からは、たとえば「見られること」を対象化する方法、見る/見られる関係を更新する考え方なんかを体得するツールがなにか見つかるだろう。加えてもう一息の自粛生活で、しばしご無沙汰だった「外」が拡がるかも。

Li Yilei - ele-king

 古い中国の絵画の中に描かれる花や鳥たちのような電子音楽である。

 中国出身、現在ロンドンを拠点とするサウンド・アーティストの Li Yilei のアルバム『之 / OF』を聴いたとき、まずそう思った(Li Yilei はアジアとイギリスを拠点とするアート・コレクティヴ〈NON DUAL無二行動〉のメンバーでもある)。じじつ、宋王朝の芸術がインスピレーションの源だったようだ。特に宋王朝時代の絵画、特に花や鳥の絵画は、曲やトラック全体で共通のテーマだという。

 それにしてもなんと優雅な電子音楽だろうか。ミニマルでいて絵画的。空間的にして無時間的。瀟洒にして美麗。この「無時間的な感覚」は、やはりコロナ禍の状況からの影響か。前作とはサウンドの質感やムードが異なるのだ。
 じじつ、コロナ禍の初期に中国・上海に戻った Li Yilei は、検疫のために二週間ホテルに滞在することになったという。ここで Li Yilei は時間に対する意識が高まった。この『之 / OF』の制作自体はコロナ以前からはじまっていたとのことだが、やはりコロナは本作の制作に大きな影響を与えることになった。

 ちなみにコロナ禍で生まれたアンビエント的な電子音楽といえば KRMU『Peel』やイーライ・ケスラー『icons』がある。『Peel』は不安の中の癒しを鳴らし、『icons』は都市の静寂と変化を表現していた。対して『之 / OF』はコロナ禍によって生まれた停止するような無時間的な感覚を音によって表現しているように感じられた。いわば1曲1曲が詩や短歌のように、時を凍結していくような感覚が濃厚なのである。

 同時により浮き彫りになったのがより「個」的なサウンドでもある。アスペルガー症候群でありノンバイナリーのアジア人でもある Li Yilei 自身が以前から自身のアイデンティティに対して誠実に向かいあって作品を制作していたことと無縁ではないだろう。先の二作も同様だが、コロナ禍でなくとも、アーティストたちは、やがてこれらのような「個」を濃厚に感じる傑作を作り上げたはずだ。よって聴き手側が、社会と作品を結びつけるのは、卵が先か鶏が先か程度の戯言とすべきかもしれない。だが、われわれが世界という大きな状況の中に生きている以上、世界の変動から無縁に生きられるわけではない。互いに相関しているのだ。

 ともあれ本作には、ミニチュアールな感覚と無時間性、有限と無限が横溢している。小さなものに宿る永遠性の感覚がある。ミニマルで室内楽的な音楽性の中に東アジア的な時間感覚があるとでもいうべきかもしれない。2020年にリリースされた前作『Unabled Form』は電子音とノイズが交錯する作風でこのようなアジア的な要素が希薄だった。やはり『之 / OF』は自身のルーツへと遡行する中で生まれた作品なのでないかと考えてしまう。

 リリースは Meitei / 冥丁のアルバムを送り出してきたUKの〈Métron Records〉である。アルバムには全12曲が収録されているが、どの曲にも「TAN / 潭」「CHU / 處 」「HUO / 惑」「WEI / 未」「HAI / 海」などの漢字一文字が用いられていて、これまた無時間的な感覚を表しているように思えた。
 じっさい『之 / OF』には、ミニマルな電子音楽、フィールド・レコーディング、アンビエント、テクノ、ドローン、現代音楽的な要素など、さまざまな音のエレメントが交錯している。しかしそれらは、ただ雑然とまとめ上げられたような印象はまるでない。
 時を超えるような永遠性のなかで、まるで中国の古い絵画のように、静寂と音の「あいだ」で慎ましく音楽が鳴っているように私には感じられた。1曲1曲がまるで小さな詩のように、有限と無限をあいだを往復しているような感覚を発しているとでもいうべきか(「之 / OF」という前置詞を用いたタイトルも「部分と全体」を意味しているという)。
 加えて『之 / OF』を聴いていると近年再評価が続いた吉村弘、芦川聡、廣瀬豊などの日本の「環境音楽」からも影響を受けていることも想像できる。しかし彼らの音楽にもミニマルな無時間的な、あえていえば東アジア的な時間感覚があったと思う。となればこれは「影響」というよりも30年以上の時を経た繋がったアーティスト同士の「共振」といえるのではないか。音楽は時代も国境も世代も超えるのである。

 ちなみに本作は、レコード、CD、データで販売されているが、Li Yilei が自ら制作した中国版オカリナにダウンロード・コードを付属したものも販売されている。音楽とアートフォームの新たなあり方を提案してもいるといえよう。

Tomorrow’s People - ele-king

 アナログ・レコードにまつわる新しい試みとして〈Pヴァイン〉が取り組んでいるプロジェクト「VINYL GOES AROUND」からニュー・アイテムの登場だ。
 今回のタイトルは、シカゴのソウル・グループ、トゥモロウズ・ピープルの1976年作『Open Soul』のテスト・プレス。1枚ずつ手づくりで制作されたシルクスクリーン・ジャケット仕様。今回も超限定商品のため、お早めに。

Tomorrow's People「Open Soul」LPのテストプレスがハンドメイドのシルクスクリーン・ジャケットでVINYL GOES AROUNDから超限定発売。

Tomorrow's People「Open Soul」LPのテストプレスを株式会社Pヴァインの新規事業「VINYL GOES AROUND」限定で9/15(水)午前10時より販売する。

ハンドメイドのシルクスクリーン・ジャケットは、青みを含んだグリーンの女性のポートレートと、鮮やかな赤の文字でデザインし一枚ずつ丁寧にプリント。

本作はバートン4兄弟を中心としたシカゴのソウルグループの1976年に制作されたアルバムで、DJやソウルマニアの間で究極のコレクターズアイテムとなっている作品。中でも一際光る存在の20分を越える壮大かつグルーヴィなファンク「OPEN SOUL」は、永遠と繰り返されるフレーズがドープなダンストラック。またディープなソウル曲「Lovers to friends」や極上のファンキー・チューン「Let’s Get With The Beat」、疾走感のあるインストゥルメンタルファンク「Hurt Perversion」などを収録。また当アイテムは先日eBayにて先行販売をしてUS $132で落札された。

[購入ページリンク]
https://vga.p-vine.jp/exclusive/
※9/15(水)午前10時より販売開始


[商品情報]
アーティスト:Tomorrow's People
タイトル:Open Soul (Test Press)
品番:VGA-5001
フォーマット:LP(シルクスクリーン・ジャケット/シリアルナンバー入り)
価格:¥7,700(税込)(税抜:¥7,000)
★VINYL GOES AROUND限定販売
★9月15日(水)午前10時より販売開始

[TRACK LIST]
A1. Lovers To Friends
A2. It Ain't Fair
A3. Hurt Perversion
A4. Hurry On Up Tomorrow
A5. Let's Get Down With The Beat
B1. Open Soul


[VINYL GOES AROUND]
株式会社Pヴァインが立ち上げたアナログ・レコードにまつわる新しい試みを中心としたプロジェクト。
https://vga.p-vine.jp/

interview with Amyl & the Sniffers - ele-king

憎しみでいっぱい
こんな壁は大嫌い
何もかも大嫌い
“Don't Fence Me In”

 必然というか、当たり前というか、パンク・ロック登場。日本というたいへんな国からではない。これはオーストラリアはメルボルンからの一撃。名前はアミル&ザ・スニッファーズ。火の玉のようなヴォーカリスト、エイミー・テイラー擁するパンク・バンドのデビュー・アルバムが2019年に〈ラフトレード〉からリリースされると、彼らの新しいとは言いがたいパンク・ロック・サウンドは、しかし瞬く間に欧米では評判となって、ことUKでは熱狂的なファンを生んでいる。

望んでいたのは公園を散歩することだけ
望んでいたのは川沿いを歩き 星を見ることだけ
どうかもう私を痛めつけないで
“Knifey”

 プロデューサーがアークティック・モンキーズの『AM』を手がけたロス・ロートンだったことも理由のひとつなのだろう。メルボルンのパブでやってきたことをただ続けているだけというこのバンドの荒削りなサウンドを有能な彼はうまくまとめている。だとしても興味深いのは、およそ10年前からはじまったインディーにおけるドリーミー路線とはまるっきり逆の、言いたいことを言いまくっては暴れるパンクの熱風とAC / DC譲りのハードかつなかば漫画的な勢い、そしてミソジニーから気候変動、資本主義の限界と自分への激励が込められた若さ全開の言葉が今日の欧米のインディー・キッズの心をとらえたということである。しかも、彼らはたんに熱くエネルギッシュというだけではない。エイミーが手がける女性の不自由さを代弁する歌詞は、新世代のフェミニスト音楽としての評価もある。ちなみに彼女は、今年の初頭にリリースされたスリーフォード・モッズのアルバム収録の“Nudge It”という曲で客演しております。

ただ資本のため
私は動物なの?
あくまでも資本のため
でも私が気にする必要ある?
“Capital”

 音楽文化が何かと世間で叩かれている日本で暮らすぼくは、いま、自分たちがどこから来たのかを確認する意味でも、小さなところからまたやり直すことは、それはそれでひとつのやり方として未来かもしれないと思う。アミル&ザ・スニッファーズは労働者階級を崇拝しているという批評家の指摘に対し、エイミーは2018年の『ガーディアン』の取材において「何も崇拝はしていない」と答えている。また、あるインタヴューでは「フェミニストを引用したいわけではない。ただ前向きにアップデートしたいだけ」とも話している。メディアからのカテゴライズを忌避しばく進をもくろむ彼らの『Comfort To Me』は注目のセカンド・アルバムだが、これがおそらく日本では最初にちゃんとプロモートされる作品になる。アミル&ザ・スニッファーズ、ぜひ注目していただきたい。質問に答えてくれたのはエイミー・テイラー、そしてベース担当のガス・ローマー。(※文中に引用した曲はすべて新作から)

あるとき知り合いが未成年や子供でも入れるハードコアのイベントに連れていってくれたの。会場には30人くらいのお客さんがいて、みんなすごく攻撃的で、イカってる感じで、汗だくだった。みんなクレイジーな踊りをしてたり、空をパンチしたり、フロアを走り回ったりしていた。それがすごいかっこいいと思って、自分はこの場所にいたいと思った。


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Comfort To Me

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(歌詞対訳付き)

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オーストラリアはいまどんな感じでしょうか?(※取材をしたのは8月18日)

エイミー(以下A): いまオーストラリアはロックダウン中だから、午後9時以降は外出禁止令が出ている。メルボルンでは6回目のロックダウンだよ。でもロックダウンしていなかった時期はギグを5回やることができて、ヴィクトリア周辺の田舎町でライヴをやることができた。それは最高だった。それからメルボルンでもライヴを一度やることができて、そのライヴに関してはお客さんが2019年からチケットを持っていたものなんだ。今回のロックダウン開始が、その夜の12時だったからそれが最後のライヴ。だから最近はまったくやってないよ。

暇な時間は何をして過ごしていますか?

ガス(以下G):パブに行ったり、ベッドで寝っ転がってゴロゴロしたり……俺的にはよくベッドでゴロゴロしてるのが多いね。テレビ観て、リラックスする。俺は家でくつろぐのが好きなんだ。快楽主義者なのさ。

A: 私はその正反対。私はトレーニングしたり、音楽を聴いたり、走りにいったりするのが好き。最近は読書も少しするようになって、それも楽しんでる。それくらいかな。あとは絵を描くのも少しやってる。そんな大層な絵じゃないけど、趣味としてやってるよ。

いつ、何がきっかけでパンク・ロック出会い、どのような経緯でメルボルンのパンク・シーンのなかに入っていったんでしょうか?

A:私は幼い頃、小さな町で育って、その町はヒッピーっぽい感じのゆるい所だった。そしてライヴ音楽に関しては、未成年や子供でも入れるものがほとんどなかった。あるとき知り合いが他の町で行われている未成年や子供でも入れるハードコアのイベントに連れていってくれたの。会場には30人くらいのお客さんがいて、みんなすごく攻撃的で、イカってる感じで、汗だくだった。みんなクレイジーな踊りをしてたり、空をパンチしたり、フロアを走り回ったりしていた。それがすごいかっこいいと思って、自分はこの場所にいたいと思った。
 それ以降、未成年や子供でも入れるイベントがあるとどんなバンドでも観にいくようにしていたよ。ハードコアやパンクだけじゃなくてガレージ・ロックとかにも行っていた。ライヴ音楽で、エネルギーが感じられて、コミュニティがあればジャンルは何でも良かった。ライヴ音楽を取り巻くコミュニティが好きだったんだよね。メルボルンに移ってからは壮大なライヴ音楽の世界が開けて、週に6回くらいライヴに行っていた。それくらい夢中になっていたんだ。

パンクのどんなところがあなたがたを惹きつけたのでしょうか?

A:うーん、攻撃的な感じに惹かれたのかもしれない。でもはっきりとはわからないな。子供の頃はパンクの雰囲気が怖いと思っていたけど、それは良い意味であって、そこに興味を引かれていたんだよね。パンクの表現の仕方に共感したんだと思う。あとは単に楽しいから! すごくハイテンションで、私自身もハイテンションだから。

逆にいうと、あなたにはパンクを聴かなければならない条件が揃っていたということだったのでしょうか?

A:とくにそういうのはなかったよ。別にひどい環境で育ったというわけでもないし……。でも自分自身の中なかに怒りという感情がすごく溜まっていたんだと思う。私は若い頃から社会を批判してきたし、それは基本的な形で表現していたのね。例えば「なんでお父さんは週6日働かなくちゃいけないの?」とか「なんで生活がその日暮らしなの?」とか、そういう基本的な疑問を問いかけてた。それに自分が女だということもあって、この社会に対する批判的な感情があったんだと思う。

ではガスさんはいかがでしょう?

G:最初は13歳くらいのときかな、友だちにパンク・ミュージックを教えてもらったり、あ、俺はずっとスケボーをしてたから、スケボーのヴィデオにパンクが使われていたりしてパンクを知ったんだと思う。ガキの頃は身近にそういう音楽があったから、そういうのを聴いてた。その後は何年かパンクから離れたんだけど、またパンクを聴くようになって、アミルの活動をするようになったんだ。

A:私も音楽のスタイルやジャンルはとくにこだわっていなくて、自分たちのバンドも、最近までパンク・バンドだという自覚がなかったくらいなんだ。いま振り返ってみれば、私たちが作っていた音楽はパンクだったと理解できるけど、当時はただ音楽を作っているという認識しかなかった。ライヴをいろいろなところでやるようになってから、自分たちはパンク・バンドなんだと自覚した。でも私たちは音楽全般が好きで、私が一番大きな影響を受けたのはやっぱりロック。ガレージ・ロックやクラシック・ロックや、他にもたくさんのスタイルから影響を受けてる。本質的にアミルはパンクなのかもしれないけど、私たちはパンク以外にも大好きな音楽がいっぱいあるんだよ。

なんでこんなしつこくパンクについて訊いているのかといえば、質者は13歳のときにリアルタイムでラモーンズやセックス・ピストルズと出会ったことで人と違った人生を歩んでしまった現在50代後半のオヤジであると同時に、資本主義が人びとを追い詰めて、これほど社会が壊れてしまった(分断されてしまった)時代において、より必要な音楽だとも思うからです。スリーフォード・モッズのやビリー・ノーメイツのような音楽がもっと出てきて然るべきだと思うし。

A:(うなずいている)うん、うん!

だからスニファーズがラップでもフォークでも他のジャンルでもなく、パンクでなければならなかった理由を詳しく知りたいんですよ。

A: そうだよね。私のなかには、そしてガスもそうだと思うけれど、私たちのなかには何かに対して怒りを感じている部分があるってことなんだと思う。スリーフォード・モッズも同じで、私たちに共通するのはある特定の精神であり、私たちは別に「パンク」というサウンドを表現をしようとしているわけではないんだけど、結果として、そういうふうに聴こえてしまうんだと思う。

1976年にパンクが生まれて40年後の2016年にスニファーズは誕生していますが、ある意味、パンクのなかにもまだまだ変えていかなければならかなかった側面があるがゆえに、スニファーズの音楽はノスタルジックではなくリアルであると言えますか? 

G:リアルだと思うね。俺たちの音楽はいろんな解釈をされていて、ロックンロールという人もいれば、超パンクだという人もいる。でも俺たちは過去のパンクの人たちみたいになりたくて音楽をやっているんじゃない。だからアミルはリアルタイムのバンドだと俺は思うね。誰かへのオマージュとしてバンドをやってるわけじゃないから。

A:私とガスはアミルの音楽を現代的にしたいと思ってるんだけど、ギタリストのデックは「1974年以降の音楽は何も聴きたくない!」なんて言っている奴で、その時代が大好きでそこに留まっていたいんだ。だからアミルにはそういうノスタルジックな要素もあるけど、個人的には——もちろん過去のアーティストたちを尊敬しているけど——自分はいまの時代に生きて、この活動をやりたい。なぜなら過去のパンクにも現在のパンクに対しても批判できることはたくさんあるから。だから両方から良いものを残していけばいいと思う。

パンクにおいて変わっていかなければならないこととは、たとえばどんなことだと思いますか?

A:まわりの他のバンドを見ると、かなり男性がメインだということかな。もちろんそのなかには偉大で最高なバンドもいるけど、個人的にはもっと多様になってほしい。多様なメンバーがいる、最高なバンドもたくさんあるのに、そういうバンドは(男性メインのバンドと比較すると)あまり取り上げられない。アリス・バッグなど、女性や有色人種がいるパンク・シーンはあるのに男性だけのバンドと比べるとあまり注目されないことがある。他にも変えるべきところはたくさんあるけど、いま挙げたのが一番大きな課題だと思う。

女性のパンク・ロッカーとして挙げた方についてもう少し教えていただけませんか?

A:アリス・バッグはいまでも現役で活動している人で、最近は『Violence Girl』という本も出したんだよ。彼女はロサンゼルスのパンク・バンド、ザ・バッグズというバンドをやっていて、 素晴らしい、楽しい人。他にもそういう女性のパンク・ロッカーはたくさんいる。彼女たちはたしかに存在しているのに、パンクのシーンは女性を蔑視するところがあるからあまり注目されない。それは間違ってると思う。

ちなみに、メルボルンのパンクのシーンというのはどんな感じなのでしょうか?

G: 最高なパンク・バンドがたくさんいるよ! 若いバンドに関しては、俺はあんまり知らないけど、いると思うよ。自分がオヤジになった気分だ。昔みたいにそんなに出かけないし、最近のキッズのことも知らない。でもメルボルンのパンクのシーンは最高で、やばいバンドがファッキンたくさんいる。

A:最近はこの状況のせいでライヴ音楽のシーンがどうなっているのか分からないということもあるよね。でもクールなシーンがあるってことは間違いないよ! 日本では、パンクのシーンは盛り上がってるの? いまは難しいと思うけど……

通訳:いまはたしかに大変だと思いますね。正直なところ、私はパンクのシーンはあまり詳しくないのですが、若い人たちの間ではパンクやハードコアが人気なのではないかと思います。それにスケート・カルチャーも日本では人気ですからね。

A:それはクールだね!

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パンデミックはアルバム制作に大きな影響を与えたよ。音楽を作る時間がたくさんできたから。音楽についてよく考える時間もたくさんあったし、どういうものを作りたいのかということもじっくり考え抜くことができた。すごくポジティヴなことだったよ。

2016年、バンドがはじまったとき、地元のシーンでのリアクションはどうでしたか?

A:バンドをはじめたのは、そもそもホームパーティでライヴをやりたかったから。活動をはじめて、バンドにとって少しでも喜ばしいことがあると、私たちは全員感激して、「これはものすごいことだ!」と言っていたよ。地元のどんなリアクションでもすっごく嬉しかった。地元のラジオ曲でアミルの曲が1回かかっただけで「すげー、私たち超ビッグじゃん!」って言って盛り上がっていたし、他のバンドの前座を務めることになったときも「オー・マイ・ファッキン・ゴッド! すごいことだよ!」って喜んでた。いま振り返ると、そういう地元のリアクションはけっこう普通のことだったのかなって思うけどね(笑)。

2019年に〈ラフトレード〉からアルバムを出したことによって世界中からリアクションがあったと思いますが。

A:そうね……(考えている)

G:何かあったかな……ファック……、すごく昔のことのように思えて、思い出すのがファッキン難しいよな?

A:私も何も思い出せないな。

世界からのリアクションよりも、地元のちょっとしたリアクションの方が記憶に残っているというのは面白いですね。

A:そういうちょっとしたものは、自分でも理解できる類のものだから。アミルをはじめる前に、私が普段行っていたライヴはせいぜい100人とか200人くらいのものばかりだったし、音楽雑誌を読み耽っていたわけでもなかった。レコード・レーベルの仕組なんかについても何も知らなかった。だから自分の理解できる範囲内で、バンドが活躍していたら、そのすごさが理解できたけど、海外で自分たちのバンドがすごいことになっているということを聞いても、それが良いことだとはわかるけれど、具体的に何なのかということが飲み込めなかった。自分との繋がりが感じられないから、そのことをリスペクトして「ファック・ヤー!(よっしゃー!)やばいね!!」と思うけど、同時に「これってなんのこと?」って思ってる(笑)。

『Comfort To Me』は、コロナ禍でロックダウン中に地元で制作されたわけですが、パンデミックというネガティヴな状況下においてポジティヴに思えたことがなにかあったら教えて下さい。

G:パンデミックはアルバム制作に大きな影響を与えたよ。音楽を作る時間がたくさんできたから。音楽についてよく考える時間もたくさんあったし、どういうものを作りたいのかということもじっくり考え抜くことができた。パンデミックが起きていなかったから、俺たちはツアーを続けていただろうし、そうなっていたら、いつ新曲を作ったり、レコーディングできていたかわからないからな。だから時間が有り余るほどあったということはすごくポジティヴなことだったよ。

A:私もガスと同感。ひとつの土地にずっといることで、自分の部屋というスペースもできたし、ツアーをするのは楽しいけど、定住して人間が普段の生活でやるようなファッキン・ルーチン的なことをやるのも悪くないなと思った。

私が見えている世界は、やはり男性が見ている世界とは違うものだと思う。その世界がいつも悪いとか良いとかという話ではなくて、私は夜、ひとりで外を歩くことに不安を感じる。それはフェアじゃないと思う。


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アルバムとしてのひとつの大きなテーマがあったら教えて下さい。

A:バンドの最新の曲を集めたものって感じかな。アルバムを聴くと、ひとつのテーマがあるように聴こえるかもしれないけど、それは私の脳が、ある特定の期間に考えていたことだからだと思う。でも一貫したテーマがあるというわけじゃない。

なぜ『Comfort To Me(私に安らぎを)』というタイトルにしたのですか?

A: 『Comfort To Me』はアルバムに収録されている“Capital(資本)”という曲の歌詞の最初の一節。すごくニヒルな曲だよ。歌詞は「Comfort to me, what does that even mean (私にとって安らぎとは何?) / What reasons do we persevere (何のためにみんな頑張ってるの) / Existing for the sake of existing (存在するために生きている) / Meaning disappears (その意味が消えていく)」だから、このタイトルはアルバムに隠されたイースターエッグのようなものなの。それに、みんなに「タイトルの『Comfort To Me』ってどんな意味?」って訊かれるけど、曲では「それってそもそもどういう意味?」と訊き返している。曲の内容としては、すべてのことに意味はなくて、みんなそれぞれやっていることをただやっているだけで、私たちがわかるのはそこまでということ。
 また『Comfort To Me』のもうひとつの意味として、去年からロックダウンを経験したことで、典型的な安らぎとされているもの——つまりジャージを履いてベッドに入ることや、自分が悲しいときに誰かが夕食を作ってくれることなど——に対して感謝できるようになったという意味もある。でも私にとっての安らぎとは、汗だくのライヴでもあるし、車を高速で飛ばすことでもあるし、毎晩ホテルで寝泊りするということでもある。だからたくさんの意味があるんだ。

“Don't Need A Cunt”や“Knifey”といった曲で歌われている、ミソジニーや男性中心的な世界観への批判や恐怖というのはスニファーズにとって重要な主題のひとつだと受け取って良いのでしょうか? 

A:そう思う。経験上、私が本質的に感じているのはそういうことだし、私の経験からして、私が見えている世界は、やはり男性が見ている世界とは違うものだと思う。その世界がいつも悪いとか良いとかという話ではなくて、私は夜、ひとりで外を歩くことに不安を感じる。それはフェアじゃないと思う。自分が着たいと思うような服を着て、外を出歩くことに危険を感じる。私は別にセクシャルな意味でその服を着ているわけじゃない。その服を着たいから着てるだけ。すごく単純なことなんだけど、男性からの期待というものがあるから、すごく複雑なことになってしまう。私はその期待に強烈なまでに反抗して、過激な服を着たりする。そして、もしその服を着ている私でさえ気まずいと感じているのなら、男性陣はそれを見て気まずいと思うべきなんだよ! という主張をしているんだ(笑)。

ちなみに、エイミーさんにとって重要な女性パンクロッカーは誰でしょうか?

A:プラズマティックスのウェンディ・オーリン・ウイリアムズが大好き! アリス・バッグも好き! 彼女は最高だと思う。X・レイ・スペックスのポリー・スタイリーンも好き。あとは誰が好きかな……ちょっと思い出してみる! アップチャック(Upchuck)というアトランタ出身のバンドがいて、彼らのパフォーマンスも最高。いま思い出せるのはそれくらいしかないけど、ロックで好きな人もいるよ。ディヴァイナルズの活動で好きな時期もあったし、ザ・ランナウェイズがすごく好きな時期もあった。それに女性ラッパーもパンクな一面があると思う。ニューヨーク出身のジャングル・プッシーは私にとってもっともパンクでイケてる女性だと思う。

最初のほうの質問と重なってしまいますが、パンク・ロックには、サウンド面でもまだ開拓する余地はあると思いますか?

G:作れるノイズは無限にある。いつでも、何かしらのファッキン・サウンドは作れると思うんだ。だから余地はあると思うよ。パンクは平面的なサウンドとして捉えられることもあるけど、他の音楽と同じで、いろいろな方向に進むことができると思うんだ。だから今でも新鮮でオリジナルなサウンドを作り出すことは可能だと思うよ。

A:私はパンクは主に精神だと思うの。その人の精神や価値観。それはジャンルを超えることができるから、まだ成長する余地はあると思う。JPEGMAFIAもパンクだと思うし、スケプタもパンクだと思う。こういう人たちは精神がパンクだと思う。昔ながらのパンクの象徴であるモヒカンや革ジャンもたしかにパンクなんだけど、パンクは装飾でもジャンルでもなく、態度のことをいうのだと思う。私たちのサウンドがパンクと呼ばれるのは、みんながまだ楽器の演奏の仕方がよくわかっていないから。私たちみたいな人たちは、演奏よりも、その根底にある精神に駆られて音楽をやっているから。ギターとベースとドラムを使い、反復するコードの演奏が多いのは、みんな初心者だから同じようなコードを何回も弾いているからで、それが自分たちにとってはいい感じに聴こえる。それで十分なんだ。それ以上のことは後からついてくればいいと思う。

どうもありがとうございました。いつか日本でライヴをやってそのエネルギーをばらまいてください。

A:ぜひそうしたい! 私たちと話してくれてありがとう!

 今日も雨が降っている。雨の日には Portishead を聴くことが習慣化していたが、こう雨続きだと他の選択肢も取り入れなくてはいけない。そう思いながらもまた『Dummy』のLPに針を落とす。8月が終わり9月に入った途端に、ブレーカを落としたかのように太陽は消え、暗く陰気な日が続いている。今年の夏の雨は、一度降りはじめたらなかなか止まず、それがあらゆる場所に水害をもたらした。去年までこんなことはなかった。と、毎年言っている気がする。窓を流れ落ちる雨の音にクラックル・ノイズが混ざり合い、Beth Gibbons の悲しく震えた声が語りかける。「How can it feel, this wrong」

 先日、私はとある政治的な目的を持った集会に参加し、がらんとした広い講堂の中に作られた簡易的な議場で、いろいろな表情をした他の参加者と意見の交換や危機感の共有をおこなった。あらゆる課題が話されたが、それについて活動している方がいたこともあり、環境問題についての話が多く出た。環境問題が今後の政治で大きな比重を持つことは間違いなさそうだ。
 私はUKの Extinction Rebellion を支持している。Extinction Rebellion が何かわからない人はこちらをみてもらいたい。 https://extinctionrebellion.uk/
 2019年末に宣言した通り、私は2020年度のDJの出演料の10%を Extinction Rebellion に寄付した。Radiohead が『OK Computer』の未発表音源をハックされ、身代金をハッカーに払う代わりに Bandcamp で音源を全て公開した事件を覚えている人は多いだろう。その売り上げの寄付先も Extinction Rebellion だった。
 私は彼らの大規模なパフォーマンスで大企業や政府に圧力をかけるやり方に賛同している。というのも、市民ひとりひとりの努力だけでは限界があると感じているし、市民ひとりひとりの努力に頼るやり方というのは簡単に言えば搾取だと思っているからだ。レジ袋有料化も政府が果たすべき責任を市民に押し付けたに過ぎない。私はできる限り環境に配慮してより良い生き方をしたいと思って、そういう選択を心がけるようにしている。SNSやweb媒体では意欲的な、あるいは責任感や危機感のある人が情報を発信し、同じような人が増えるよう呼びかけている。しかし、忘れてはいけないことは、選択肢の量は金銭的余裕に比例するということだ。

 最近まで私には余裕がなかった。例えば学生の頃の私の生活──白目を剥きながら通学して課題をこなし、終わったらアルバイト、夜には何かを求めてクラブへ行き、目を閉じながら勘で部屋に戻るという生活──でひたすら消費されるカロリーを支えていたのは粗悪な肉だった。米の上に乗っていたりパンに挟まれていたりと、いくつかのバリエーションはあったが、基本的には粗悪な肉だった。それが安かったからだ。それが環境に悪いということを当時は知らなかったが、体に悪いということは知っていた。しかし、その頃の私は、飢えているいま現在の自分をなんとかすることで精一杯で、生きているかどうかもわからない未来の自分の体調など、考える余裕もなかった。いまでは随分とマシな生活になったが、満足のいく「環境に優しい生活」を送れるほどではなく、日々罪悪感と向き合って過ごしている。もっとお金に余裕があれば。もっと時間に余裕があれば。もっと選択肢があれば。もっと未来に希望があれば。願うことは多い。同じような思いの人も少なくないと思う。ではなぜ金銭的にも時間的にも余裕がなく、選択肢は限られ、未来に希望がもてないのだろうか。これは私個人だけの問題なのだろうか。そうは思わない。確実に政治によって改善しうる部分が多分にある。もちろん個人の選択に関わる問題だけではない。こうして市民がない袖を振りながら少しでも何かしなければと行動しているその間に居酒屋チェーンが大量に焼肉屋をオープンし、自己中心的なビリオネアが大量の燃料を燃やして宇宙へと飛んでいる。気候変動に対する抗議活動の中で何度も「THERE IS NO PLANET B」というフレーズを見かけた。しかし、もし PLANET B が存在していたとしても、そこに逃れられる人間は限られている。

 ニール・ブロムカンプの『エリジウム』では、富裕層はもう地球には住んでいなかった。衛星軌道上に建設したユートピアで暮らし、ヴェルサーチのロゴがあしらわれた医療ポッドで体をメンテナンスしている。彼らが忘れ去ろうとし、敵意すら抱く地上では、代替可能なパーツとして人びとが労働し、ユートピアの繁栄と地上の管理体制を支えている。物語の最初と最後には「理不尽なことがあるのよ」と孤児院のシスターがマックスに語りかけるカットが挿入される。そう。理不尽なことがあるのだ。セレブリティや政治家だけが医療を受けられる状態というのは2154年まで待つ必要もなく、いますでにそうなっている。衛星軌道上にユートピアが建設されなかったとしても、富裕層は大量のリソースを使うことで、もう少しのあいだ快適な生活を続けられるだろう。その犠牲としてオセアニアの島のいくつかが沈み、熱波が都市を襲い、何種類もの動物が絶滅し、人びとの住める場所が限られて大量の難民や移民を出したとしても、彼らの住むゲートで閉ざされた街に影響はないのだろう。もし、ゲートを乗り越えようとすれば、エリジウムのデラコートみたくティーカップ片手に攻撃を命令すれば良い。
 富裕層や特権的な層には考える必要がなく、それ以外の人たちには考える余裕が与えられないという構図は、他のあらゆる問題にも当てはまることだろう。

 Extinction Rebellion やグレタ・トゥーンベリはじめ、多くの人たちによる活動の結果、環境問題が世界で共通の大きなイシューのひとつとなり、多くの人がそこに関心を寄せている。日本も例外ではない。この秋に予定されている衆議院選挙では多くの政党が何かしらの「環境問題への取り組み」を掲げるだろう。しかし、本当にそれに取り組めるのは、誤魔化しやポーズで済まさないのは、どういう政党だろうか。
 先に述べた内容の帰結として「環境問題への取り組み」は格差の是正やノブレス・オブリージュのような持てる者の責務を果たさせることとセットでないと成功しないと思っている。それができるのは、間違いなく自民公明や維新ではないだろう。野党共闘に希望を見出せる人もいれば、そうでない人もいるだろう。しかし、間違いなく自民公明維新に比べれば遥かにマシだ。ほんの少しでもマシな方へ、ほんの少しでも良い方へと動かしていくしかない。それはどんな政党が政権を握っていたとしても変わらない。選挙はもちろん署名や抗議活動など、やり方は先人たちから学んできた。抗議活動をしていると、しばしば「そんなことしてないで選挙に行け」と言われることがある。抗議活動に参加していて、かつ選挙権を持っている人が選挙に行っていないと、本気で思っているとは思えない。この国で生まれ育っていても、どれだけの間この国で暮らしていても、選挙権がない人たちが大勢いることをわかって言っているのだとしたら、非常に差別的で意地の悪い言葉だ。とにかく、何を言われようと、できることは全てやりたい。

 9年のあいだ続いている自民党政権以外の状態を、選挙権を得たばかりの18から20歳前後の人たちはよく知らないし、89年生まれの私ですら、記憶にあるかぎりのあらゆる将来の不可能性が景気などの経済的理由に由来するものだった(そう言い聞かせられてきた)。ミレニアル以降の世代が再帰的無能感と運命論的価値観に支配されるのは当然の帰結のような気もするし、そう仕向けられていたような気もする。搾取され続ける中で未来に希望を持てず、全てを諦めて現状に身を委ねて生きている状態は、『Matrix』に描かれた人間プラントとどちらがマシだろうか。目覚めたくなかったと言って裏切ったサイファーも未来に希望を持っていなかった。一方で赤いピルを選んで(それがネットでジャーゴンとして使われていたことは有名だ)陰謀論に傾倒していく者たちがいたことも記憶に新しい。
 残念ながらこの世界には救世主もいなければ、勧善懲悪のスーパー・ヒーローも存在しない。しかし、ECD も言っていた。どうして無力だと思いたがるのか。あるよ。ひとりにはひとり分。力が。


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