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Neu!

Neu!

Neu! ’86

Grönland Records /Pヴァイン

野田 努   Jun 05,2012 UP Old & New

 「NEU!――その大文字と感嘆符、アート・ポップ・スローガン。労苦や障害を破壊するかのようだ。2、3分後、退屈なセットが歌い出す。唐突に何かがクリックする。目的地を持たない旅。実にファンタスティックなダンスビート、上機嫌な音、純粋に脈打つ推進力、エゴのない悦びの表現、激しく、本能的で、身体的な経験かつトリップ。これがノイ!体験。これを知ったあとでは、伝統的な歌の構造は......平凡で、つまり不要!」
 2009年にUKで出版された『クラウトロック』において、ノイ!はこのように紹介されている。宇川直宏は文章中に、メールでも原稿でも対談でも「!」を多用するが、その源流はノイ!だろう。ノイ!が「ノイ」だったら、やはり寂しい。「ノイ!」は「「ノイ!」なのだ!!!!!!!

 クラウス・ディンガーが東京にやって来たとき、僕はステージを見ながら、「ああ、この人は本当にヒッピーで、純粋なロックンローラーなのだ」と思ったものだった。本作に収録されている"ドライヴ(グルントフンケン)"を聴けばわかるように、ノイ!はもともとはシンプルなロックのバンドだ。バンドのトレードマークであるミニマル・ビートは、ディンガーいわく「自動車を運転しているような気持ち」「どんどん進んでいくような気持ち」を表していることから、モータリック・サウンドと呼ばれているが、この気持ちよさの恩恵に授かっているロック・バンドはいまでは世界中にいる。我が国ではオウガ・ユー・アスホールがそうだ。
 実を言えば僕は、中学生のときにジョン・ライドンがファンだからということで、初めてノイ!のファーストを聴いたものの、これのどこが良いのか最初は理解できなかった。迫力あるセックス・ピストルズのデビュー・アルバム、迫力満点のベースと残酷なギターのPIL、あるいはザ・フォールのニヒルな展開......といったノイ!の子供たちの音楽のほうが親身になれた。ノイ!の「エゴのない悦びの表現」その「上機嫌」な音、その「推進力」を充分に感じ取るには、いろんな意味において、まだ未熟で、狭量で、若すぎたのだ。
 だから1970年代初頭、ドイツのロックを"クラウトロック"とバカにしたイギリスのジャーナリストの気持ちがわかる。グラムやハード・ロックやプログレ全盛の時代においてこのペラペラとした軽さ、なかば間の抜けた空間は、アングロサクソンの高慢で保守的な耳にとっては嘲笑の対象だったのだ。いまとなっては立場は逆転している。コニー・プランクとともに彼らが作ったファーストから『ノイ!75』までの3枚は、今日のインディ・ロックやテクノおける大きな影響、すなわちクラシックな作品として広く認識されている。

 ノイ!とは、ふたりの男の喧嘩の物語だ。セカンドをリリース後にいったん別れ、レコード会社との契約上、もう1枚作らなければならなかったため、ふたたび一緒にやることになったクラウス・ディンガーとミヒャエル・ローターは、パンクの青写真となった1975年の『ノイ!75』の録音途中で結局、喧嘩別れしている。そして、10年後の1985年10月、またしても一緒にドュッセルドルフのスタジオに入って録緒をはじめている。が、1986年になってもそれは完成しなかった。ふたりの仲はまたしても険悪になり、レコード会社もその事態に関心を寄せず、プロジェクトは消えた......。
 1995年、クラウス・ディンガーが〈キャプテン・トリップ〉を通じてリリースした『ノイ!4』はそのときのセッションの記録だが、のちにミヒャエル・ローターが所有していたマスターテープをエディットし、選曲したものが『ノイ!86』。何曲かは『ノイ!4』と重なっているが、こちらはミヒャエル・ローター主導でリリースされたという点がミソである。
 ローターはそもそも、アンビエントな方向性への関心が深まって、ディンガーから離れて、1973年、クラスターのふたりと一緒にハルモニアを結成している。ハルモニアの素晴らしい2枚のアルバム、そして『ノイ!75』のA面の3曲とそれ以降のソロ作品を聴けばわかるように、この頃の彼は穏やかさ、メロウな感性に向かっている。
 しかし、ローターが2010年に監修した1986年の録音物は、紛れもなくディンガーとローターふたりのノイ!だ。上機嫌なモータリック・サウンドは走り、ところどころでディンガーの野性味もよく出ている。"クレイジー"はパンク・ソングの"ヒーロー"(『75』収録)の再現のようだし、"ドライヴ"は歴史的名曲"ハロガロ"(ファーストの1曲目)の発展型だ。"エラノイツァン"のようなアンビエントもある。
 そのいっぽうで、"ウェイヴ・マザー"のような陽気なジョイ・ディヴィジョンに聴こえる曲もある。"デンツィン"や"ラ・ボンバ(ストップ・アパルトヘイト・ワールドワイド!)"のようなシンセ・ポップは笑えたが、"ユーフォリア"にいたってはほとんどニュー・オーダーじゃないかという......当時のニューウェイヴを強く意識している。
 美しくも幸福な"ノーヴェンバー"を経て、そして『ノイ!86』は、"KD"の豪快な酔っぱらいっぷりで終わる......"KD"とは当然クラウス・ディンガーのことだろうが(彼は2008年に死んでいる)、彼はそういう人だった。大酒をかっくらって、ギターを抱え、「バーバールッバー!」をわめいている人だったのだ。結局、それがノイ!の最後のメッセージとなった。
 あらためて言えば、ノイ!とは水と油が同居した奇跡的なバンドだった、そうした奇跡的な、必然とも偶然とも取れる混乱こそ、強度のある音楽を生む、セックス・ピストルズのように。僕はいまでも"ハロガロ"を聴くと気持ちが舞い上がる。

野田 努