「IO」と一致するもの

Horace Andy - ele-king

 レゲエを聴かないリスナーが、マッシヴ・アタックの衝撃的デビュー作『Blue Lines』(1991)でホレス・アンディの存在を知ってから、もう20年以上経った。その後も彼の声はマッシヴ・アタックのブリストル・サウンドにとって透徹したフェティシズムの対象であり続け、今日まで彼らの作品に欠かせない要素になっている。そして、レゲエ歌手がモダンなダブ/エレクトロ・サウンドの"ヴォーカル・パート"に用いられるトレンドの嚆矢ともなった。
 もちろん、当初"トリップ・ホップ"と形容されたマッシヴ・アタックのサウンドはレゲエ、ヒップホップ、ダブ、ダウンビート、アンビエント等々のファクターを縫うものだったわけで、レゲエ自体とは薄からぬ血縁があった。しかし彼らの音のなかにレゲエから引かれていたものは、レゲエの軽快で陽性の側面よりもむしろ、鋭利な重量感に雄弁な精神性が宿るダブの前衛と、同時にそこからにじみ広がるアンビエントなサウンドスケイプであり、そこにメタリックな光沢さえ感じさせるアンディのハイ・トーン&ヴィブラート唱法が強烈なマッチングを見せたのだった。

 そうしたアンディの特質と合致した彼の代表作として、とくにマッシヴ・アタック以降のファンが愛聴するのが、NYの〈ワッキーズ〉レーベルに残された名盤『Dance Hall Style』だ。ここで聴かれる80年代初頭のワッキーズ・サウンドの、音が地面に重くめり込んで歪んでしまったかのようなドラム&ベイスの暴力的なブースト、それから硬く無機質なダブの質感は、それまでのジャマイカ産の音とは明らかに異なっている。そしてルーツ・レゲエの陰影から冷たい闇のエッセンスだけを抽出、培養したようなそのサウンドが、90年代以降のブリストル・サウンドや欧州のダブ・クリエイションの新潮流にとって、ひとつのプロトタイプとなったことは間違いない。マッシヴ・アタックが『Blue Lines』収録の"Five Man Army"でアンディに『Dance Hall Style』の収録曲"Cuss Cuss"や"Money Money"のリフレインを歌わせたり、続く2作目『Protection』では同じく『Dance Hall Style』収録の"Spying Glass"を丸々アンディ本人を迎えてカヴァーしたのは、自分たちのサウンドの指向性(ルーツ)のひとつを示した、リスナーに対する種明かし的啓蒙だと言えるだろう。

 2000年代に入って、その〈ワッキーズ〉レーベルのカタログがベルリンのテクノ・プロダクション/レーベル:ベイシック・チャンネルによってリイシュー配給されたことも象徴的な出来事だったが、その後もレゲエとディジタル・ダブとエレクトロニカの分野の相互干渉と拡張はヨーロッパ全体で実に自然な成り行きのなかで進行し、折りに触れてジャマイカの源流を仰ぎ見ながらも、独特の、低温度でダークでヘヴィーなサウンドを醸成してきた。

 本作はその"支流"の最先端から、またも欧州型ダブ・エレクトロ・クリエイションとホレス・アンディとの相性のよさを再発見しよう、という企画である。とはいえアンディは近年も(彼らもブリストル・サウンドの代表的ユニット)アルファとのコラボでアルバムを発表したり(『Two Phazed People』)、UKハウス界のレゲエ通アシュリー・ビードルとも、〈ストラット〉レーベルの人気の異種ジャンル交配シリーズ〈Inspiration Information〉の一環でアルバムを作ったり、クラブ・ミュージック・クリエイターからの引きが切れなかったゆえに、いまとなってはこの種の作品に新鮮味を感じない人も多いだろう。

 ただ、本作の出口はハンブルクのダブ・レーベルの名門〈エコー・ビーチ〉だけに、その支持者がヌルい音で満足しないことはプロダクション側が一番よくわかっている。参加したクリエイターはレーベルに縁の深い名だたる面々で、ブリストルの顔役ロブ・スミス(RSD)、ベルリン・レゲエ・シーンの重鎮フロスト&ヴァグナーのオリヴァー・フロスト、ベルリンのダブ・テクノ・クリエイターのラーズ・フェニン、オーストリア/ウィーンから世界的名声を獲得したダブ・バンド:ダブルスタンダート、スイスのダブ・ユニット:デア・トランスフォーマーetc.......。

 肝心の収録曲は、前掲"Cuss Cuss"や"Money Money"、さらには"Skylarking"など、アンディのクラシック・チューンの焼き直し。〈エコー・ビーチ〉は、UKの名レゲエ再発レーベル〈ブラッド&ファイアー〉の古典ダブ音源を新世代のテクノ・クリエイターにリミックスさせた刺激的な〈Select Cuts〉シリーズの発売元でもあるから、昔の曲を聴かせるならこれもリミックス企画でよかった、という声も上がりそうだ。あるいは、この面々の作る音で新たに吹き込むなら、新曲のオリジナル・アルバムが聴きたかった、という意見も出るに違いない。しかしながら、ミニマル・ダブもダブステップもブレイクビーツもクラシカルなダブのセオリーもすべてが手段として前提化している上に、楽曲自体にも目新しさがない、というところまで自らハードルを上げておいて、この面々でアンディ・クラシックスの2013年版を提示しようとするわけで、つまりはそのレーベルの野心とクリエイターそれぞれの手腕とイマジネイションこそがまさに聴きどころだと捉える人なら、多くの曲でかなりスリリングな体験ができるはずだ。

 7楽曲で15トラック。つまりダブ・ミックスへの展開まで収録した曲があれば、同一曲を複数のクリエイターがそれぞれのヴァージョンにいちから作り変えた曲もあって、豊かなヴァージョニング・アートの妙が展開される。といっても、奇矯なトラックやミックスで驚かせるわけではない。還暦越えにしてなおもみずみずしいアンディの声は、その美点を削がぬようにとても丁重に扱われている。そしてカネに狂わされる人間の性(Money Money)、仕事、階級社会、若者の退廃(Skylarking)、善悪観念(Bad Man)、争いごと(Cuss Cuss)といった普遍的な曲のテーマ、直截的でシンプルな歌詞のリフレインも入念に強調されながら、サウンドとヴォーカルの調和はどれも見事に保たれている。これエイドリアン・シャーウッドがアレで使った技じゃん、というようなツッコミが免れないパーツもあったり、全トラック同じように感心できるわけでもないが、1曲1曲が濃密な仕事の集積であることはたしか。12インチ・シングル4枚とかにバラして出してもらうとよろこぶ人も多いんじゃないか。

 微妙にムッシュ・アンドレやバンクシーもどきなグラフィティ仕立てのジャケットはぞっとしないが、中身はきちんとヨーロッパのストリートの音がする。さすがに20年前のインパクトは望むべくもないにせよ、この我らがレゲエ・レジェンドは、変わらず新しい音に興味と理解を示し、そしていまもその上で自分の特性をきちんとアピールできている。

2週間後の僕らはソナーへ - ele-king

 「アドヴァンスト・ミュージック(進歩的音楽)」とは? その祭典を宣言する〈SonarSound Tokyo〉(以下ソナー)が今年もこの春、〈ageHa/STUDIO COAST〉で2日間にわたって開催される。
 例年どおり豪華極まりないラインアップで、UKテクノの大御所LFOやカール・ハイドのソロをはじめ、エイドリアン・シャーウッドとピンチがタッグを組む最強ダブ、ポスト・ダブステップの荒野からシンセ・ポップの波を漂うダークスター、アンビエント・テクノの新たな領域を切り拓くアクトレス、テクノとジャズと現代音楽を操る若き奇才ニコラス・ジャー、インディ・クラブを中心に次々とアンセムを送り出している新世代トラックメイカーtofubeatsなどなどなどなど......が、たった2日で勢揃いする。先鋭的なエレクトロニック・ミュージックを中心としながらも、面白い音であればジャンルも問わない自由度の高さで集められたラインアップである。
 また、〈Red Bull Music Academy〉がホストを務め気鋭のアクトを紹介するショウケースも、今年もバッチリ用意されている。〈テンパ〉のダブステップ周辺からアディソン・グルーヴやコスミンTRG、ベース・ミュージックのサイケデリックな場所に挑戦するイルム・スフィア、日本からはソウルフルなディープ・ハウスが世界中で高い評価を受けているsauce81など......光る才能がひしめいている。ある意味、ここが今年のソナーの肝と見て間違いはないだろう。未来を予感させる。
 だが何よりも、ソナーは自分の聴覚の新たな領域に挑戦せんとするあなたの姿勢によって完成されるイヴェントであるだろう。刺激的な音を、ときには思い切り踊り、ときにはじっくりと聴き入り、ときには視覚と共に体験しようとする好奇心こそを。そこで生まれるものこそを、アドヴァンスト・ミュージックと呼ぼうではないか。
 以下は、エレキングの20代男子3人によって深夜に繰り広げられた大放談(のいち部)である。そう、早くもソワソワしてしまっています。踊りたくて、楽しみたくて、ウズウズしています。あまりに話がまとまらないので僕は泣きましたが、それだけ楽しみ方が豊富に用意されているということでしょう! あと2週間少し辛抱して、会場で会いましょう。そしてあなたの体験について聞かせてください。

木津: 今回は、それぞれ期待するアクトの3つを挙げてくるということだったんだけど。僕が上から、ニコラス・ジャーダークスターアクトレス

斎藤: 僕はダークスター、エングズエングズ、トーフビーツ、あとボーイズ・ノイズですね。

竹内: 僕はまだ、定まらないんですよねー。観たいのがちょいちょいわかれてて。xxxy、サファイア・スロウズ、ジョン・タラボットあたりは絶対観たいけど。

木津: たしかにかなりのアクト数で、絞るのが難しいよな。

竹内: 比較するなら、エレグラよりも明確な重心がない感じ。

斎藤: そもそもこのソナーっていうイヴェントはなんなのですか?

木津: もともとはバルセロナ発祥のエレクトロニック・ミュージックが中心のイヴェントで。

竹内: 94年発で、02年から日本でもやってるんだ。しかも毎年。とすると、イベント・イメージは微妙に変化しているのかもしれないですね。

木津: うん。さっきのエレグラとの違いで言うと、ざっくりだけどもうちょっと振れ幅が広いというか、エレクトロニック・ミュージックやクラブ・ミュージックを中心として、そこからポスト・ロックっぽいものとか、エレクトロニカなんかに緩やかにはみ出していく感じ。「インターナショナル・フェスティヴァル・オブ・アドヴァンスト・ミュージック」と銘打たれてる。

竹内: toeとかいますもんね。グリーン・バターはヒップホップだし。でも、どちらも気持ちいいだろうなあ。

木津: そうか、ヒップホップ。たしかに。

竹内: 20代のリスナーの期待となると、やっぱりアクトレスあたり?

木津: アクトレスは観たいなあー! 『R.I.P.』の、あの繊細なスリルに満ちたテクノが、ライヴでどんな風に再現されるのか、あるいは変貌するのか。

斎藤: 僕はアウェイのトーフくんがどうかましてくれるのかに相当期待してます。

竹内: トーフ君はアウェイなの?

木津: そんなことないでしょ。

斎藤: なんだかんだ彼はJ-POPじゃないですか。こないだ改めてDJみたんですけど。

竹内: しかし、トーフビーツくんの名前は本当にいろんなところで見るようになったね。同年代で、リミックスしてもらってる立場からすると、どうなの? 応援したくなる?

斎藤: そりゃ、だって、アクトレスと同じイヴェントに出るんですよ! 超あがりますね。

木津: いいねえ。

斎藤: 若いひとたちにとって、ひとつの決め手になると思います。「他のメンツやばいし超楽しみだけど、トーフくん応援しに行きたい」って。ほぼ歳同じやつがこんな大舞台でやってたら、うおおおおおってならないほうが嘘でしょ!

木津: LFOとカール・ハイドと同じステージやもんね。

竹内: そこで言うと、やっぱりサファイア・スロウズでしょう!

斎藤: たしかに、たしかに。

竹内: あの子も相当ですよ。〈ノット・ノット・ファン〉~〈100%シルク〉~〈ビッグ・ラヴ〉という強い流れでキテるし。去年の、エレキングとのシブカル祭。で観て、ホントにかっこよかったんです。けっこう踊れて。〈NNF〉周辺では、よりダンサブルな女性アクトが出て来てる印象。

斎藤: やっぱり、若者にとって歳近くて共鳴できるアーティストが活躍しているのはとても大切なことだと思うんですよ! 今回のラインナップの要といってしまっても過言ではないかと!

木津: はははは。おじさんがLFOを観に来ているなか、かましてくれたらいいよね。や、僕はLFOすごく楽しみだけど。

竹内: 90年代〈ワープ〉の立役者だけど、アルバムは03年の『シース』が最後ですよね。ライヴはどんな感じなのかな?

木津: 本邦初公開って書いてるねえ。僕は2、3回観てるけど、LFOのライヴって音源よりもめちゃくちゃBPMが速くて。

竹内: へえ。

木津: けっこうアグレッシヴにゴリゴリ押してくる感じなので、たぶん初日夜のピークタイムにはなるかと。

竹内: それは想定外だ(笑)。僕は初日の「アゲ」要員ではxxxyを狙ってるんですけど。

木津: それ、僕はどういうのかあんまり知らないですね。

竹内: シカゴ・ハウス血統かな? もともとはダンスの人ではなかったらしいのですが、UKガラージを経由してアップリフトなダンス・ビートへと向かってる。レディオヘッドのリミックスをガラージ・ベースでやったり。

斎藤: (聴きながら)かっこいいですね!

木津: 声ネタのベースライン。いまっぽいね。若手で言うと、ニコラス・ジャーが僕はすごく楽しみなんだけど、ライヴがどんなのかは想像がつかない。

竹内: 未知数ですね。音的にも。

斎藤: 彼は僕と同い年。23才と若いですよね。前にソロのライヴセットは見ましたけど、今回はバンド編成と聴いているのでどうアレンジしてかましてくれるのか楽しみです。

木津: 歌うんだよね。どうせなら、思いっきりトリッピーにやってほしいな。いちばん異色のアクトになってもいいから。想像がつかないで言えば、ダークスターもね! 斎藤くん的に、劇的に音が変わった『ニュース・フロム・ノーウェア』後のライヴの予想はある?

斎藤: 映像を観る限り全員がサンプラー(MPC)を装備していて、かなりバンドとしての意識が高いものになるのではと思います。

竹内: もしかして、アウェイ?

木津: うーん、でも、ソナーはけっこう音楽性もスタイルもバラバラやからね。

竹内: たしかにアウェイというより、他のアウェイの人たちを繋ぎ止める役割を果たすかもですね。「俺たち〈ワープ〉だけど、いまこういう気分でこんな感じだからみんな大丈夫」みたいな(笑)。

斎藤: (笑)以前の暗い曲をどういうアレンジをして、今回の明るめな曲をどう織り交ぜてくるのか。しっかり歌声を聴かせてくれるのではとも思います。彼らに期待するのも、前知識なしで一度ライヴを観ているというのも理由としてありますね。当時、ダブステップすら知りませんでしたから、衝撃でした。アホな感想ですが、これは日本で生まれない音楽だー! とマジで思いました。

木津: それはいい話。たしかに、ブリアル以降として聴いてる耳よりも、ある意味新鮮かも。今回はもっと自由な広がりのある内容になりそうだしね。

竹内: 前にライヴ観てる人の記憶をも、華麗に裏切ってくれるんじゃないかと。

木津: 僕のなかではLFOとか、シャーウッド&ピンチ辺りが、かなり安定してカッコいいライヴをするんだろうなーという予想があって、そんななかで若手が未知数なのはすごく健全だなあと。

竹内: たしかに。その点、サブマーズてのが面白いですよ。

木津: どんなの?

竹内: UKの若手2ステップ~ガラージなんですけど、〈マルチネ〉からも多数リリースしてるひとで。

斎藤: ほええ。なぜ〈マルチネ〉から。

竹内: 僕は最初、そっちを何も知らずに聴いてて。本国では真面目なダンスを作り、〈マルチネ〉ではインディ・ボーイの裏クラシック“agepoyo(あげぽよ)”というのがありまして......。(https://maltinerecords.cs8.biz/97.html

一同: (聴く)

斎藤: 渋谷GAL'sのサンプリングじゃないですか(爆笑)!!

木津: (笑)すげー、それでベースラインやん!

竹内: tomadくんのネット監視の成果。って言ったら怒られるかな(笑)。

斎藤: アガル↑↑↑↑↑

竹内: この辺を果たしてやるのか。やってほしいけど(笑)。

斎藤: やってほしいですね!!

木津: やらないと意味ないんじゃない(笑)?

竹内: これは期待できますね(笑)。楽しみになってきた。辰也、エングズエングズは?

斎藤: 最高!!!

木津: その話をしてよ。

斎藤: まさかこんなに早く〈フェイド・トゥ・マインド〉(〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベル)のアクトが日本で観られるとは思いませんでした。ジャム・シティしかり、ヴェイパーウェイヴとは遠くない感性があって、合成感とでもいいましょうか、『DIS magazine』が好みそうな。そういう連中が日本に来てくれることが嬉しいです。

竹内: たしかにDISだねー。ディストロイドっていうんだっけ。

斎藤: それはヴェイパーウェイヴと対照的に、流行らなかったタグですね。

木津: (聴きながら)でもヒップホップ感覚もすごく自然に持ってるね。

斎藤: そうですね。やっぱグライムがあるのかもと。

竹内: ちょっとジュークぽさもあるのか。

斎藤: やっぱり、〈ソフトウェア〉あたりとも遠くないです。彼らのリミックスをしているトータル・フリーダムも来日していますし、そこら辺りのインターネット/PC加工感まる出しの連中が実はこぞっている感じも、ヤバいと思います。

竹内: たしかにこのリミックスはヤバいね。

斎藤: こないだ工藤キキさんがレポート書いてましたけど、あの感じを体験したいです!

竹内: あの感じか。

木津: あの感じね。ドーム・ステージのホストを務める〈Red Bull Music Academy〉というのが、そういう未知なる才能を拾って育てようとしてるみたい。今年のラインアップを見た感じでは、さらに新しい音を貪欲に拾っているよね。

竹内: そういや、ボーイズ・ノイズの話がまだ......。これは任せた。

斎藤: 超楽しみなんですけど(笑)。まあ、ぶっちゃけEDMに聴こえるわけじゃないですか。でも彼はとっても硬派で、客をチャラチャラさせるための音楽ではないんですよ。

竹内: そうなの?

斎藤: だって彼はEDM嫌いですからね。

竹内: それよりはロック的なノリに近い感じ?

斎藤: 遠くないですね。彼の音聴いて、間違いなくハード・ロック好きだなと思ってたら、インタヴューしたとき、AC/DCのパロディーTシャツ着てましたからね。で、AC/DC好きですかって訊いたら好きだって。

木津: でも、たしかにハード・ロック感はあると思う。ノリっていうか、男の子っぽさね。

斎藤: “サーカス・フル・オブ・クラウン”の酩酊感あるベースとか、カッコいいですよ。彼もけっこうアウェイ感あるじゃないですか。

竹内&木津: うん。

斎藤: そこは満場一致かよ。インディ野郎どものなかで、彼がどうアゲてくれるのか楽しみです。トーフくんも同様ですね。

木津: なるほどねえ。でもボーイズ・ノイズは自分のレーベルで、シーパンクやベースラインを取り込んだコンピも作ってるもんね。今回DJだし、その辺りも含む幅の広いプレイになれば、じつは今年のソナーにバッチリ合うのかも。

斎藤: フェスという観点で期待したいのは、〈アゲハ〉ってそもそも常時フェスみたいな会場なんですよ。アミューズメント・パーク。ステージはいつも数か所ある。そういう環境でいかに特別な「フェス」として成立するのか。そこに注目してます。他のイヴェントとの差異がどう出るのか楽しみです。

木津: ちょっとアート・オブジェ的なものも出たりすんだけど、わりと「場」としては自由な作りにはなってるんだよね。

竹内: 疲れたらゆっくりできる感じですか?

斎藤: 外でメシ食えますよ。

木津: しかし、たしかに“あげぽよ”とアクトレスが両立するイヴェントっていうのはすごいよなあ。

斎藤: (笑)

竹内: テン年代的だし、いかにも日本ぽい。

斎藤: まあ、フェス感がどんな風に出るかが僕はいちばん楽しみです。

竹内: じゃあフェス感とは?

斎藤: そのフェスだからいく、と思わせるような何かです。フジロックってだけでいくひといるじゃないですか。ソナー野郎というのがいるのかという。

木津: 僕は今回友だちを連れて行く予定やけど、まあそいつは、ソナーだから行くって感じやけどね。

斎藤: ほお。ソナラーが。

竹内: ソナラーって(笑)。生のソナラーの声とは。

木津: いや、そいつもオールナイトのイヴェントとか、そもそも行き慣れてなくて。去年スクエアプッシャー目当てで行って。で、いろんなアクト観たりとか、それ以上に、オールで頑張って踊りながら明かすって場が楽しかったみたいで。で、ソナーって音楽としてはアーティなアクトが揃っているので、そういう聴いたことのない音楽に出会えるきっかけぐらいには思ってるかも。

竹内: おおー。

木津: いま、今年出るアクトをいろいろ紹介してるけど、LFOとか、ダークスターの“エイディーズ~”とか、気に入ってるよ。

竹内: 2013年ソナー的にはバッチリじゃないですか。

斎藤: なんか今回は、とてもアングラ感がゴチャゴチャしていて、出演者同士、張り合いみたいになって愉しいのでは。

竹内: ダンス系のフェスとはいえ、ひとつひとつのアクトがお互いにほぼ無関係くらいの距離感てのが面白いですね。

斎藤: それはマジで言えますね。そのなかで張り合ってほしい。

木津: うん、それだけいまのエレクトロニック・ミュージックの範囲が広がってるんだと思うし、それをドキュメントし得るラインアップになってると思う。だから、今年のソナーに関しては、目当てのアクトもいいけど、よく知らないアーティストにチャレンジしてみるのもいいんじゃないかな。

竹内: “あげぽよ”からディストロイドまで、一気に駆け抜ける夜にしましょう!

木津: ま、2日目は寝不足でもね(笑)。

斎藤: やっぱ踊り明かすのが最高でしょ! ダンスをするのが超大事! カルチャーは僕たちが踊りながら作る!


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フューチャー・ガラージの使者 Satol - ele-king


Satol
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Pヴァイン

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 昔クラブのフロアは、隣で踊っている人が見えないほどに真っ暗だったが、最近のクラブには闇がない。今日のインダストリアル・ミニマルにしろ、ニュースクール・オブ・テクノにしろ、ブリアル以降の流れは、クラブに闇を、暗さを、アンダーグラウンドを取り戻そうとする意志の表れとも言えないでしょうか。「フューチャー・ガラージ」と形容されるSatolも、そうした機運に乗っているひとりである。
 Satol(サトル)は、いわゆる新人ではない。一時期ベルリンに住み、すでに3枚のアルバム──『madberlin.com』(2010)、『Radically Nu Breed's Cre8』(2010)、『Superhuman Fortitude』(2011)──を出している。昨年、故郷である大阪に戻ってからは地元での活動に力を入れている。今回がデビューというわけではないし、すでにキャリアがある。とはいえ、〈Pヴァイン〉から出る新作『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』が、多くの人の耳に触れる最初の機会となるだろう。
 彼の音はブリアル直系の冷たく暗い2ステップ・ガラージの変形で、インダストリアル・ミニマルとも共通する音響を持っている。セイバース・オブ・パラダイスを彷彿させる刃物がこすれ合う音、ひんやりとしながらも、ダンスをうながすグルーヴが響いている。3月はO.N.Oとツアーをして、その闇夜のガラージを日本にばらまてきたようだ。
 彼の名前はまだ全国区になってはいないかもしれないけれど、Satolの作品が素晴らしいのは疑う余地のないところ。ブリアル~Irrelevant
Irrelevant~Satol......ニュー・インダストリアル、そしてフューチャー・ガラージの使者を紹介しましょう。



アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。

生まれは大阪ですか?

Satol:愛媛の松山です。

では、大阪に住まれたのは?

Satol:僕が2歳のときからです(笑)。

そういうことですね(笑)。

Satol:いま親は、河内長野というところです。僕は、大阪市内です。

Satolさんはいまおいくつですか?

Satol:33です。

じゃあ、けっこうキャリアがありますね。

Satol:まあ、そう言ってもらえれば(笑)。

バンドをやっていたんですよね?

Satol:10代から20代にかけて、5~6年、バンドをやってましたね。

どんなバンドでしたか?

Satol:ハードコアです。

ああ、それって大阪っぽいんですかね?

Satol:そうですね。大阪にはハードコアがありますし、先輩もみんなどうだったんで。

いつぐらいからクラブ・ミュージックにアプローチしたんですか?

Satol:20代の前半のときにはヒップホップが好きでしたね。ウェストコーストも、2パックも、ノートリアスも、いろいろ好きでしたね。

ヒップホップのクラブには行っていたんですか?

Satol:20歳のときぐらいから行くようになりました。

DJはどういうきっかけではじめるんですか?

Satol:DJはやったことないんですよ(笑)。

えー、そうなんですか。ベルリンで暮らしながらDJやらないなんて......いちばんメシの種になるじゃないですか?

Satol:エイブルトンという機材、あるじゃないですか。僕はエイブルトンを使ってのライヴ・セットなんですよ。エイブルトンには自信があります(笑)。

先ほど、最初はヒップホップだと言ってましたが......

Satol:もっと最初を言うと、ブルー・ハーブとかなんですよ。精神的なものが大きかったんですよね。自分に正直になっていくと、まあ、いろいろなパイオニアも言ってることだと思うんですけど、自分に正直になっていくと、メロディが生まれてくるんですよ。悲しいことも思い出して、悲しいメロディも生まれる。それから、UKガラージのブリアルが好きになりましたね。

ブリアルがファーストを出したばかりの頃?

Satol:ファースト・アルバムです。

2006年ですね。それが大きなきっかけですか?

Satol:あと僕、ファッションが好きなんですよ。モードっぽいものが。

それがすごく意外ですね。パリコレみたいな?

Satol:そうそう、ミラノとか。あの、暗く、シュールな感覚が好きなんですよ。

好きなデザイナーは?

Satol:アレキサンダー・マックイーンは好きですね。

ビョークとかやってた......僕は、ジョン・ガリアーノとかの世代なんで(笑)。

Satol:格好いいですね。そういえば、ブリアルの曲は、絶対にショーで使われているだろうと思っていたら、アレキサンダー・マックイーンが使っていたんですね。

へー。まあとにかく、ブリアルがきっかけで作りはじめたんですか?

Satol:いや、ホントに最初に作りはじめたきっかけはブルー・ハーブとかなんですよ。ロジックとか使って、作りはじめましたね。クラッシュさんとか、ONOさんとか。

関西と言えば、クラナカ君とかは?

Satol:それが、僕は、まだお会いしたことないんですよね。

タトル君は?

Satol:いや、まだ知らないんです。

絶対に会ったほうが良いですよ。それはともかく、ブルー・ハーブがきっかけだったら、ラップを入れるでしょう。言葉が重要な音楽ですから。

Satol:ええ、そうですね。ですから、実は自分でそこもやっていたんですよ。

ラップしていたんですか?

Satol:いや、ラップというか......アンチコンのホワイの歌い方をアートって呼ぶらしいんですけど、頭のなかで浮かぶ言葉をオートマティックに出していく感じなんですけど、シュールレアリスムに似ているというか。それを僕もやっていました。それだとふだんは出てこないような、グロテスクな、ダークな言葉も出てくるんですね。だからラップじゃないですよね。ブルー・ハーブも韻を踏んでいますけど、アメリカのラップとは違いますよね。そこが好きでした。大阪だと土俵インデンとか。凄い研ぎ澄まされた人で、基本短髪な方で、僕らのイメージとしては僧侶みたいな人がいるんですけど、最初に自分でイヴェントをやったときに声をかけました。それとMSCの漢でした。

そこに自分も出て?

Satol:出ました(笑)。

ONOさんとツアーをまわるのも、その頃からの繋がりがあるんだ?

Satol:いや、全然なかったです(笑)。

ただ、いっぽうてきに好きだった?

Satol:ブルー・ハーブの全員が好きでした。ヌジャベスさんも好きでした。

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ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。


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とにかく、2006年にブリアルを知って、それでガラージに行くわけですね。

Satol:はい。

そこから〈madberlin〉と出会って、それでベルリンに移住するまでの話をしてもらえますか?

Satol:まず、知り合い4人でクラブをはじめるんです。〈ルナー・クラブ〉っていうんですけど。テクノ、エレクトロ、ハウスに特化したクラブでした。あとは、自分がやりたいことをやってました。300人ぐらいのキャパで、入るときは400ぐらい来てましたね。そのクラブをやっているときにkill minimalを呼ぶんですよ。2009年ぐらいですか。

kill minimal?

Satol:マドリッドからベルリンに移住したヤツで、僕は本名でジュアンって呼んでるんですけど。

〈madberlin〉のmadって、Madridのmadだったんですね。狂ったベルリンじゃなかったんですね(笑)。

Satol:ハハハハ。マドリッドのほうとかけているんですけど、ただ、本人いわく「あのmadでもいいよ」と。

kill minimalを呼んだのは?

Satol:いっしょにやっていた連中が好きやったんですよ。ビートポートで聴いて、みんな好きだったんです。僕はあんま好きじゃなかったんですけどね。カローラ・ディアルっていう女の子とジュアンが〈madberlin〉をやっていたんですど、ふたりとも日本に来るのが夢だったみたいで、「ありがとうございます」みたいな、で、ふたりともスペイン人的な情熱的な人で、人懐こい人間で、それで、なんだか僕がふたりと仲良くなってしまったんです(笑)。そのときジュアンから、「エイブルトンを教えるから、おまえ、これでがんばってみろ」って言われて、教えてもらうんですよ。エイブルトンは、ベルリンに本社があるドイツのソフトなんですね。〈madberlin〉のアーティストのほとんどが使っていて、「難しいけど、面白い」って言ってましたね。ジュアンはベルリンで、そのソフトの使い方の講師のようなこともやっていました。

スペインは不況で、仕事がないから、多くの若者がベルリンにやって来たというけど、そのなかのひとりだったんでしょうかね?

Satol:ハハハハ、そんな感じだったと思います。kill minimalはいまは、ヨーラン・ガンボラ(Ioan Gamboa)という名前でやっています。

今回のアルバム『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ(異なる利害関係を調和)』の前に、〈madberlin〉から3枚出しているんですよね?

Satol:はい。〈madberlin〉もかなりゆっくりやっているレーベルですから(笑)。

ベルリンに移住したのは?

Satol:いまから1年ちょっと前ですね。音楽活動が日本ではやりにくいかなと思ったんですね。いまは、反骨精神でがんばってますけど、でも、クラブで下手したらJ・ポップとか流れるんですよ(笑)。レディ・ガガとか。オールジャンルというか。

昔のディスコですね。ヒット曲がかかるみたいな。

Satol:そう、ディスコ化しちゃってるんですよ。

それはきついですね。

Satol:大阪はそうですよ。ガッツリ音楽をやっている人間には活動しにくいところです。

それでもう、ベルリンに行こうと?

Satol:そうです。後、特にクラブ摘発の件が大きく左右しました。

〈madberlin〉から作品を出しているという経歴もあって、アーティスト・ビザを収得できたんですか?

Satol:僕の場合は、マグレですね。簡単に取れる時期がありましたけど、いまは難しいです。

ユルかったですよね。

Satol:そうですね、昔はユル過ぎましたね。

良いことでしたけどね。では、ベルリンではジュアンたちといっしょに住んでいたんですか?

Satol:弁護士といっしょに(笑)。カイ・シュレンダーという。ハハハハ。彼のおかげです。

本当に良い友だちを持たれましたね。

Satol:ただ、いまは大阪でがっつりやっていますけどね。要するに、ビザが取れてしまったので、もういつでもベルリンに戻れるからっていうか、「もう一回大阪でがんばってみよう」って思うようになったんですね。ベルリンでがんばるんじゃなくて、大阪でがんばってみようって。

素晴らしい(笑)。

Satol:ホント、なんか、ギャグです(笑)。ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。

今回リリースされることなった『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』ですが、何で、P-VINEから出すことになったんですか?

Satol:アンダーグラウンドなところを探すのが好きで、まあ、P-VINEをアンダーグラウンドって言ったら失礼かもしれないけど、とにかく送ってみて、そして栃折さん(担当者)に連絡しました。

Satolさんのスタイルは、「フューチャー・ガラージ」と呼ばれていますが、その定義について教えてください。

Satol:ガラージとダブステップの雑種ですよね。ブリアルの流れの、2ステップな感じで......。

ハウスのピッチで、アトモスフェリックで、それで、金属音のような効果音、ちょっとインダストリアルな感じもあって、アンディ・ストットなんかとも感覚的に似ているなと思ったんですよね。

Satol:ありがとうございます。アンディ・ストットは前から好きだったみたいです、名前は覚えないんですけど、曲は聴いてました。

Satolさんの音楽もひと言で言えば、非情にダークですよね。

Satol:ハハハハ、そうですね。

暗いなかにも艶があるというか。

Satol:日本では味わえないことをベルリンでは味わえるので、その経験も活かしつつ......。

ベルリンではクラブに行きました?

Satol:かなり行きました。たくさん行きましたけど、とくにベルグハインとトレゾアはすごいと思います。

どんなインスピレーションを受けましたか?

Satol:スタイルとしてはテクノやミニマルなんですけど、しかし音楽性は幅広いという、変な広がり方があって、それは影響されました。

しかし、冷たい音楽ですよね。

Satol:ゴス・トラッドさんは「ダーク・ガラージ」と呼んでくれました。

何を思って作っているんですか?

Satol:いや、もう思いつくままにやっています。ひたすら、テーマから逸れていくというか......僕は音楽をやる意味は、聴いてくれた人が前向きになってくれるかどうかなんです。

前向き?

Satol:外れたこと言ってるかもしれませんが、勇気というか。

このダークな音楽で? こんなアンダーグラウンドな音楽で?

Satol:ハハハハ、だから、逆にこんな音楽でもいいんだよっていうことをわかってくれたら。

こういうアンダーワールドな音楽のどこに価値があると思いますか?

Satol:アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。冬だけど、でも、寒くないっていう感じでしょうか?

ああ、そういうことですか。

Satol:寒いけどやっていける、というか。

ブリアル以外に、Satolさんに方向性を与えた人っていますか?

Satol:ロシアのガラージですかね。名前は出てこないんですけど、ロシアのフューチャー・ガラージはよく聴いていました。

フォルティDLは?

Satol:やっぱ好きですね。

しかし、ブルー・ハーブ、DJクラッシュ、そしてゴス・トラッドというとひとつの世界が見えてくるようですが、Satolさんはそこにパリコレもあるんですよね(笑)。

Satol:いや、もう好きです。ウォーキングのときにかかる音楽が大好きです(笑)。

interview with inc. - ele-king


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 肌を出すことが、兄弟が親密にくっついていることが、モノクロームの表象が、こんなにキマるなんておかしい。インクのアート・ディレクションは水際立っている。上質というよりは完璧。ある強い美意識が、音とヴィジュアルとを貫いているのがわかるだろう。肌と肉とはときに機械のような精密さと硬質さをもって映りこみ、ときに機械をさびつかせるブルーを醸し出す。「肌と肉」を音に置き換えても同様だ。そして実際に見て聴いて納得してもらうより他ないが、それらはいずれも、方法ではなくて精神性によって磨かれたかのように鈍い光を放っている。細い煙とシーツがゆれるばかりのPVが成立するのは、そこに研磨された意識や心のありかを検知できるからである。金のかかった一流品という雰囲気ではないが、きわめてハイセンス、そしてとても気高いものがある。

 ハウ・トゥ・ドレス・ウェルのセカンド・フル、トロ・イ・モワのサード・フル、そして本作。少なからずインディ・ミュージック・ファンには意識されていることだろうが、ポスト・チルウェイヴやその傍流にあった音たちの着地点のひとつとして、ストレートなR&B志向を挙げることができる。何度も述べるように「チル・アンド・ビー」などという呼称はまさしくそうした傾向を象徴するものだ。出自は違えど、たとえばいまライが評価され歓迎されていることも、同じようなムードが広く共有されていることを証している。レコ屋の店頭でライと本作の両方を買われた(迷われた)方も多いのではないだろうか。アンダーグラウンド・シーンから誕生したシンガーたちによるポップス回帰の流れは、一抹のノスタルジーを巻き込みながらも、確実に新しくリアルな息づかいを感じさせている。インクはこの流れを率先する大きな才能であり、表現の精度という点でも抜きん出て高く、ジャンルを超える訴求力を秘めた存在でもある。「いまらしいね」ということと「いい音楽だね」ということがともに備わっている。2枚のEPのリリースの後、フル・アルバムの完成がまさに待望されていた。

 どんなオシャレなふたりかと思っていたが、会ってみると筆者の「オシャレ」の観念など所詮は富士山に対するマッチ棒みたいなものだったことを痛感した。盛ることや飾ることとはほど遠い、やはり肌を多く露出するファッションだったが、それは肌の表面にもその内側にもじっと視線を凝らしている人間に可能な格好なのだということを想像させる。肌を出す人がみなそうだと言うのではない。だがインクにとって肌とは心であり――ヴィジュアルであり音であり――布をかけるべきものではない。そのことは以下の回答からもよくわかるだろう。隠す部分の少ない肌=音。これが彼らの美しさであり完璧さであり、表現そのものの本質でもある。

時が経てば、僕たちの音楽そのものが語りだすと思うよ。僕らはいちど音楽を作ってしまった。これ以上できることはないんだ。

いきなりですけど、「ピッチフォーク」がかつてあなたがたの音楽を指して「誰でもプリンスのマイナー曲から盗みを働ける」と評していましたが、これはある意味では的を外した議論です。オアシスを指してビートルズのパクリだと怒る人はいないわけで。ただ、実際に比較をされることについてはどうでしょう。プリンスというのはおふたりにとってどのような存在ですか?

アンドリュー:音楽的な影響ということでは、特筆すべき名前はないかもしれない。ただ、時が経てば、僕たちの音楽そのものが語りだすと思うよ。僕らはいちど音楽を作ってしまった。これ以上できることはないんだ。だけど別の次元で、このできあがってしまった音楽たちが自然にいろんなことを示してくれると思う。

ダニエル:「ピッチフォーク」は読まないんだ(笑)。

アンドリュー:そもそも「ピッチフォーク」は時代に遅れつつある。僕たちはもう別のレベルで動きはじめているんだ。もっと新しい、新しすぎて記事に載らないようなことをやろうとしているんだよ。それに、メディアを通さずに直接リスナーに届くものが作れたらいいなと思ってる。だから、日本であなたのように『3』からちゃんと聴いてくれている人がいるというのはうれしいよ。

ははは、なるほど。『3』と比較すると、今回はさらにスムーズになった印象があります。『3』はもっと大胆に音の空白を使っていたというか、ローファイでノイズ感も強め、とってもエッジイな仕上がりだと思いました。今回は、よりポップスとしての洗練を目指したということなのでしょうか?

アンドリュー:感覚的に作ることが多いから、狙って違いを出そうと思ったわけではなかったんだけど、このアルバムに関しては冬に作ったから、あたたかくて、オープンで、癒しの要素があるかなとは思うよ。

僕の個人的な見解に過ぎないけど、90年代は音楽に主張があった最後の時代だと思う。音楽自体、ギターの音色ひとつにもステートメントがあった。それはもはやクラシックと呼んでもいいものじゃないかな。

プロダクションについてのこだわりがあるのかどうか、というあたりをもう少しお訊きしたいです。USのインディ・ロックとかシンセ・ポップはしばらくローファイなものが優勢だったと思うんですね。今回はもう少しスタジオ録音的な、整った印象があったので、そのあたりはどのくらい意識されたのかな、と。

アンドリュー:プロダクションということで言うと、今回は『3』やこれまでのものよりもクリーンでピュアな音を目指したんだ。耳にどう聴こえるか、身体にどう作用するか、フィジカルな意味でもちょっと違うものになったかなとは思っているよ。とくに低音にはこだわっていてね。TR-808を使ったりして。ギターはグランジな感じにした。そういうところにはこだわりがあったといえばあったんだ。ただ制作の途中段階で、思いつきで新しい方法を試したりということはしなかったよ。限られた楽器のなかでやっていくということが自分たちの方法に合っていると思った。音数は減らしてるんだ。

グランジという言葉が出てきましたけれども、いま若いアーティストの作品において90年代のR&Bが参照されることがすごく多いなと感じるんですね。インクにはもちろんR&Bのルーツも感じるわけですが、その他の90年代の音楽にもやはり原体験や思い入れがあるのでしょうか。

アンドリュー:僕の個人的な見解に過ぎないけど、90年代は音楽に主張があった最後の時代だと思う。音楽自体、ギターの音色ひとつにもステートメントがあった。それはもはやクラシックと呼んでもいいものじゃないかな。それ以降のものには、何を主張したいのかが伝わってこない。少なくとも僕にはね。2パックやカート・コバーンが何を言いたいのか、それは明瞭なことだし、何よりも歌詞のなかにそれがはっきりあった。メッセージの明確な音楽という意味では90年代が最後だよ。そういうものを聴いてきたのが90年代だった。初めて行ったライヴはスマッシング・パンプキンズなんだ。そしてミッシー・エリオットは革新的なヴィデオを作ろうとしていた。

なるほど。そのあたりでひとつの切断線が引けるとは思います。一方でハウ・トゥ・ドレス・ウェルとか、R&Bに接近しながら独特の音作りをするアーティストも目立っています。共感を覚える同時代のアーティストを教えてもらえませんか?

アンドリュー:同世代の音楽というよりは、先輩になってしまうんだけど、ラファエル・サディークには曲作りの方法も含めていろいろと教えてもらったし、手本にしているところがあるよ。あとはこれから出てくるだろうなというアーティストたち。L.A.の〈フェイド・トゥ・マインド〉というレーベルにトータル・フリーダムというDJがいて、彼にもインスパイアされるところが大きい。どちらかというとバンドよりもDJに影響を受けるかもしれないね。ヘッド・フット・バイ・エア、ニッキー・ブロンコ、ケレラ、フィジカル・セラピー......まだ無名なんだけど、今年以降名前を聞くことも多くなるんじゃないかな。ジェイムス・フェラーロとかね。アリエル・ピンクのキーボーディストがルームメイトで、友だちの音楽から学ぶことも多い。つるんでるから、いっしょにプロジェクトをやらなくても何かしらを共有していたりはするんだ。友だちがいちばんいい影響をくれるよ。

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肌より以上に脱ぐことはできない。すべてをさらけ出しているときがもっとも人間らしい。そして、よりヒューマンでありたいと僕は思う。


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R&B系のシンガーの作品には、ここのところオートチューンの使用も顕著でした。声を変調することについて、あるいは変調しないことについて、何かお考えがありますか? おふたりは生の声をとても繊細に使われますね。

アンドリュー:声の変調ということ自体には否定的ではないよ。ただ、生々しくて守られていない......人の身体から出てくるそのままの声に魅力を感じるよ。たまたまこの前友だちの家に遊びに行ったときに、ヴィンセント・ギャロのライヴを隠し録りしたものがあって、いっしょに聴いてたんだ。ギャロの声がすごく生々しくて、すごく魅力的だった。ラッパーにしてもそうだけど、僕は「その声」「その響き」が欲しいんだ。だから極力、加工はしないようにしているよ。加工していくのではなくて、練習をして、積み重ねて生まれてくるワン・テイク、内側から出てくるパフォーマンスというものが自分には魅力的に感じられるよ。だから自分もそうするんだ。

おふたりは男性のデュオにして、ノー・スリーヴで肌の露出も多い。それをすごくスタイリッシュにヴィジュアル・イメージとして用いていますね。80年代のある文化へのオマージュでもあるように思われますが、他方でマッチョイズムに対するとても微妙な距離も感じさせます。おふたりにとっての男性性とは美学的なものですか?

アンドリュー:ええと......。こういうことはあまり語ったことがないので、言葉にするのが難しいな。でも、時として何も身につけない、何も隠さないことがいちばん美しく見えることがあると思う。肌より以上に脱ぐことはできない。すべてをさらけ出しているときがもっとも人間らしい。そして、よりヒューマンでありたいと僕は思う。僕たちのゴールは、僕たちのことをすべてわかってもらうことだと思っている。表面も内面もね。そのふたつを裏返して全部を見てもらいたいと思っているんだ。そしてできることなら聴いているひとにも、聴いているあいだは同じようであってほしい。そう思っています。

外の世界を遮断するという意味での「ノー」ではないんだ。むしろ自分のなかの世界に目を向けるという意味の「ノー」。

先ほどメッセージを大切にしていると言っておられましたが、それも裸になるということと関係がありますね。歌詞では実際にどのようなことを歌われているんですか? まだ詞も翻訳も手許になくて。

アンドリュー:今回の『ノー・ワールド』はどちらかというと内に向いていて、自分を見つめ直したり自分を癒すというような内容が多い。そして祈りや自分を守るというテーマ。"エンジェル"という曲があるんだけど、この世のなかで、できることなら善でありたいという祈りと、そしてどちらかというと楽観的な歌詞に思われるかもしれないけど、暗い時間を抜けたあとの答え、辛さや困難を知った上での希望へ向けた答えを歌ったつもりなんだ。ポスト・グランジとしての――暗い時代を知った上での――答えがあると思うんだ。いまはその中間かもしれないけど、怒りや葛藤ののちの時代として僕は希望になる答えを見つけたい。そのほかは自然の摂理とか、「侘び寂び」についての歌だよ。

なるほど。じゃあ、『ノー・ワールド』の「ノー」は否定のノーじゃないんですね。

アンドリュー:外の世界を遮断するという意味での「ノー」ではないんだ。むしろ自分のなかの世界に目を向けるという意味の「ノー」。これはタイトルをつけたあとのことなんだけど、フィオナ・アップルが何かの賞を受賞したときに、「わたしがこんな立場にあることをあなたはすごいというかもしれないけれど、すごいということはない。わたしは自分のなかだけを見つめてここまで来たのだから、あなたもそうすればいいのよ。」っていうようなことを言っていて、それを思い出したよ。それにはすごく共感するし、どちらかというと、外の世界とどう接するかというよりは、自分のなかを見つめるということを大切にしたいと思うよ。

Chart Meditations 2013.03 - ele-king

Shop Chart


1

Ferial Confine - The Full Use Of Nothing Siren Records
英ドローン作家Andrew Chalkによる初期のノイズ名義、Ferial Confineの伝説的な85年録音ものが遂にCD再発。金属の軋みノイズの種を水分多めで育てあげ、野に放ち、野生化させたような、生々しく儚い感触があります。

2

Cankun - Culture Of Pink Hands In The Dark
Not Not Funでお馴染みのシンセシスト、Cankunの新LP。Co LaやHeatsick、Peaking Lightsらに通じる抜け感のポップさ、継ぎ接ぎのビートからは南国の風が吹き抜けて何処までも心地良くダンスします。

3

Robert Lawrence / Mark Phillips - The Dadacomputer: The Birth Of 5XOD Iceage Productions
81年の知られざるインダストリアル/電子音楽な怪作がCD再発。目玉はMinimal WaveのVAに収録されていたComputer Bankでしょう。早過ぎたアシッドハウス+インダストリアルとも言うべきバキバキの劣悪電子音が駆け巡ります。

4

MV & EE - Fuzzweed Three Lobed Recordings
ベテランのサイケ夫婦MV & EEの最新作。雄大なドローンのサイケデリア、優しく響くコーラスの調和、B面の組曲では爆発的な熱量のインプロ放出ありと、膨大な作品数と比例した宇宙ドローンの無限の広がりは目を見張るものがあります。

5

Gnod - Presents.. Dwellings & Druss Trensmat
サイケバンドGnodが突如として、ポストパンクやインダストリアル/ミニマル・テクノの黒い影響を感じさせる極圧振動ビートを発表。破壊力抜群で、再生した途端に目や耳には感じ取れない分厚く黒い雰囲気がモクモクと沸き上がります。再入荷予定あり。

6

Birds Of Passage / Je Suis Le Petit Chevalier / Motion Sickness Of Time Travel / Aloonaluna - Taxidermy Of Unicorns Watery Starve Press
現行地下シンセ界の強力女性作家4名によるスプリット2カセット。葉っぱや毛糸が挟み込まれたパッケージ+大判ジンという丁寧な作りで、フィジカルでこその感動があります。

7

CHXFX - The Unhaptic Synthesizer Further Records
Maurizio Bianchi、Kplr、Hieroglyphic Being、Conrad Schnitzler系の狂ったの出てきました。緩やかに起動した電子機器が徐々に勢力を増し、脱線&分離&集合を繰り返す強力な電子音の嵐。

8

Transmuteo - Transmuteo Aguirre
全新人類に...現行ニューエイジの雄、Transmuteoによる初LP。ナレーションに載せて満ちるデジタルの波、夕陽が浮かぶ楽園風景、神経内の機械都市が活発化するアシッド、ヴェイパー的スクリューなどなど、3Dヴァーチャルな世界観の更なる拡張がなされています。

9

Alex Cima - Cosmic Connection Private Records
シンセ狂レーベルPrivate Recordsより、79年のコズミック過ぎるディスコ/ジャズのカルト名盤が遂に再発。黄ばんだネオン管から広がる華やかな町並みや、快適な宇宙生活を夢見る幻想が、シンセの音色からモクモクと立ちこめて虜にさせてくれます。

10

S.M. Nurse - 30th Anniversary: 1980?-?1983 Domestica
80年代初期のオランダ地下のミニマルシンセユニットが発掘。プロト・テクノ/アシッドな熱量、秀逸なサンプリング、歪な電子音と男女ボーカルのダンスからなる圧倒的なグルーヴと、文句無しに唸らせられる必殺曲ばかりです。

KEIHIN(ALMADELLA/Maktub) - ele-king

過日、紙のele-kingの企画で三田格さんと倉本諒さんとINDUSTRIAL対談しました。
ダンスミュージック限定の私的INDUSTRIAL10選です。
意外に最近の盤が多くなりました。
どれも思い入れのあるレコードなんで、興味のある方は是非チェックしてみてください。

3月29日(金)ニューパーティー"Maktub"をAIRにて始動致します。
https://www.air-tokyo.com/schedule/1334.html

私的INDUSTRIAL10選


1
Ken Bennet / David J. Wire - An Introduction To The Workplace - Downwards

2
Outline Meets Surgeon - Blueprint 7 - Blueprint Records

3
Deuce - Deuce EP - Ostgut Ton

4
Surgeon - Whose Bad Hands Are These? (Disinvectant Dislocated Finger Mix) - Dynamic Tension

5
The Weakener - What Do You Know About It - Wordsound Records

6
O/V/R - Post-Traumatic Son (Marcel Dettmann Mixes) - Blueprint

7
Ugandan Methods - Beneath The Black Arch - Ancient Methods

8
Aphex Twin - Ventolin - Sire

9
Vex'd - Degenerate - Planet Mu

10
Karenn - Sheworks 001 - Works The Long Nights

Dazzle Drums - ele-king

NagiとKei Suganoの男女2人組ユニットで、それぞれDJは90年代から、楽曲制作は05年から活動しています。LOOPの閉店に伴い、毎月日曜日に開催していたBlock Partyを一時期休止しておりますが、その時間の空きを制作やその準備につぎ込んでいる日々です。昨年夏から各方面にお問い合わせ頂いたOnce In A Lifetimeのオーヴァーダブが、ようやく3月中にはアナログリリースされるとのこと。チャートは素直に自分達がいまプレイして楽しいものを新旧選ばせていただきました。
https://www.dazzledrums.com

Dazzle Drums Chart March 2013


1
DJ Greg, Hozay, Lisa Moore - Give Me (DJ Spen & Thommy Davis Mix) - Quantize Recordings

2
Angela Johnson - Love (Souldynamic Zanz Deep Mix) - Tony Records

3
Daniel J, DJ Jaz, Dahrio Wonder - I Can't Get Enough (Harlum Remix) - Moulton

4
Lil Soul - New Day (Abicahs Reloaded Vocal Mix) - Abicah Soul

5
Dino Lenny - West End Girls (Original Mix) - Strictly Rhythm

6
Intruder - U Got Me - Murk

7
Romanthony - The Wanderer (Dixon Edit) - Glasgow Underground

8
Can - Vitamin C (Joe Claussell Edit) - Sacred Rhythm Music

9
Sister Sledge - Lost In Music (DK Edit) - CDR

10
10. Talking Heads - Once In A Lifetime (NK Overdub Of Moplen RMX) - NKRMX004

Varoius Artists - ele-king

 これはダンス・ミュージックだ。が、初めてフットワーク/ジュークを聴いたとき──〈プラネット・ミュー〉からのコンピ──、「これがダンス・ミュージックと呼べるのか」という感想を僕は抱いた。生まれて初めてアシッド・ハウスを聴いたときもそう思った。「これがダンス・ミュージックと、ひいては音楽と呼べるのか」と。しかし、アシッド・ハウスは明らかにダンス・ミュージックのひとつのスタンダードとなった。ジェフ・ミルズのDJを初めて聴いたときもそうだった。「これがダンス・ミュージックと呼べるのか」と。しかし、これもまた、ハード・ミニマルというジャンルになった。フットワーク/ジュークもそうなるのだろうか。
 そうなる可能性は高い。すでにそうなっているのかもしれない。

 『160OR80』は、フットワーク/ジューク熱の高まりを証明する1枚(配信リリース)。日本のトラックメイカーの作品にラッパーが言葉を載せている。興味深い顔ぶれだ。
 ラッパーは、名古屋の若きCampanella 、ダウンノースの仙人掌、御大ECD、クラウド・ラップめいた新世代Cherry Brown、そしてシミラボからはMaria、人気沸騰中のPUNPEEらといったすでに人気やキャリアのあるラッパーをはじめ、mikE maTida、MVJIMOB、Squash Squad、あべともなり、trinitytiny1、Carios & DKXO......
 トラックメイカーは、DJ Fulltono、foodman、Uncle Texx、D.J.G.O.、Klone7023、Guchon、Skip Club Orchestra、HABANERO POSSE、CRZKNY、Satanicpornocultshop......ジュークを世界に紹介したUKでさえも、この手の、ラッパーとトラックメイカーのタッグによるコンピレーションはないようなので、いかに日本で短時間のあいだに、この音楽が拡大していったかがうかがい知れる。企画の勝利というか、名前のリストを眺めるているだけでも気を引く。
 そもそもこのディアスポラ・ミュージックは、アシッド・ハウスの変異体であり、エレクトロの最新型でもある。ハウスであり、ヒップホップ。ゆえにラッパーに好まれるのも自然なことだが、しかしなんと言ってもこれはダンス・ミュージックである。言葉よりもリズム、意味よりも官能、謙虚さよりも露骨さ、そしてチルではなくバトル......だ。
 そういう、シカゴのダンス・サークルの、ことナンセンス路線で言えば、MVJIMOB(Beat by Klone7023)、あべともなり(Beat by 食品まつりa.k.a foodman)、グライム風のAIR BOURYOKU CLUB(Beat by HABANERO POSSE)......あたりが面白いのだけれど、フットワーク+ヒップホップの独創的な展開として、要するに、なんの先入観もなく聴けば、ほとんが力強く、良い感じに仕上がっている。Campanella(Beat by Uncle Texx)の"sullivan show"ような速度を感じる曲はもちろん魅力的だが、Maria vs Jason (Beat by CRZKNY)、そしてPUNPEE(Beat by Satanicpornocultshop)の"Bad habit"に関しては、このリズムをポップに活かさない手はないんじゃないかと思えてくるほどの出来。正確に言えばこのアルバムは、フットワークとラップだけではなく、テクノ、アシッド・ハウス、レイヴ、ファンク、ソウルなど、多様な接点を持っている。DUBBPARADE、DJ SEKIS、DJAflowらのインストゥルメンタルもユニークだと思う。

 フットワーク/ジュークは、こうして、たんなる輸入品ではなくなった。世代的にも、シーンとしても、幅広く集まってきているところも良い。シリーズ化するのもアリだと思うし、もっと多くのナンセンスな音楽がこのなかから生まれてきて欲しい。そして、つまらない音楽を粉々にしてやろう。

https://160or80.tumblr.com/ 

Prettybwoy - ele-king


Various Artits
Grime 2.0

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 時代は少しづつ変わっていきます。5月に〈ビッグダダ〉からリリース予定のグライム/UKガラージのコンピレーション盤『Grime 2.0』には、Prettybwoyと名乗る日本人のプロデューサーの曲が収録される。
 グライム/UKガラージとは、ブリテイン島の複雑な歴史が絡みつつ生まれたハイブリッド音楽で、ジャングルやダブステップと同じUK生まれの音楽だが、後者が国際的なジャンルへと拡大したのに対して、グライム/UKガラージは......英国ではむしろメジャーな音楽だと言うのに、ジャングルやダブステップのように他国へは飛び火していない。言葉があり、ある意味では洗練されていないからだろうか。
 僕はグライムの、洗練されていないところが好きだし、そして、迫力満点のリズム感も好きだ。グライム/UKガラージの最初のピークはワイリーやディジー・ラスカルが注目を集めた10年前だったが(ダブステップやフットワーク/ジュークに目を付けた〈プラネット・ミュー〉も、最初はグライムだった)、コード9が予言したように、最近もまた、昨年のスウィンドルのように、このシーンからは面白い音源が出ているようだ。そもそも〈ビッグダダ〉がグライムのコンピレーションを出そうとしていることが、その風向きを証明している。
 そのアルバムには、ひとりの日本人プロデューサーも加わっている。10年前にはなかったことだ。日本にながらグライム/UKガラージをプレイし続けている男、Prettybwoyを紹介しよう。

生まれはどちからですか?

Prettybwoy:東京生まれですが、地味に引越しが多く、学生時代は茅ヶ崎~逗子~横須賀と。学校は、小:鎌倉、中~大:横浜でした。東京には大人になってから帰ってきたという感じです。

子供の頃に好きだった音楽は?

Prettybwoy:子供の頃はコナミのファミコン全盛期? で、ゲーム・ミュージックがとても好きでした。サントラCDとかも良く買っていました。ゲームのはまり具合とかもあると思いますが、「ラグランジュポイント」というファミコンソフトの音楽は強烈に印象に残っています(笑)。たしか他にはないFM音源チップをカセットに積んでるとかで、カセットサイズが倍くらいあるんです。ゲームって、クリアしたらもうやらないタイプだったのですが、CDはいつまでも聴いてましたね。
 余談ですが、ゲームのサントラを買っていたのはスーパーファミコン期まで。あの制限のなかで表現している感が好きだったんだと思います(笑)。

クラブ・ミュージックやDJに興味を覚えた経緯は?

Prettybwoy:ちょうど高校生の頃、Bボーイブーム(?)のようなものがありました。行きませんでしたが、さんぴんCAMPとかもその頃だったと思います。その頃に、まぁ、人並み過ぎるんですが、HIPHOP/R&Bからクラブ・ミュージックに入りました。初めて買ったのが、バスタ・ライムスのファースト・アルバムだった気がします。そこから、フィーチャリングのアーティストを掘り進めて、買っては新しいアーチストと出会い......というのが面白くて聴いていました。
 共有できる友だちはクラスにたくさんいたと思いますが、あまり人付き合いが得意ではなく、独りで掘り進んでいました。その頃は、神奈川のローカルTVで毎週ビルボードTOP40(usR&BのPVをよくVHS録画してました)、それとどっかの局で深夜にクラブ専門番組、それ終わって「ビートUK」って番組やってたり、インターネットが普及しはじめの時期だったので、情報はそんなくらいでした。
 大学入ってヒップホップ~テクノとか適当に聴いていて、やっと、学校のPCルームでインターネットのありがたさを実感した頃でした。あるとき、バイト代が数十万貯まっている事に気付いて、たまたまVestaxの2CD&MIXER一体型のCDJを買って、さらにいろいろ満遍なく聴いてみるようになりました。

UKガラージとは、どのように出会ったのでしょう?

Prettybwoy:たまたま買ったR&Bミックス・テープのラストに、原曲の後に、2step remixを繋がれていて。ビートはかなり軽快で、あくまで歌が主役なんだけど、不協和音で、いままでのUSヒップホップとは別次元の、妙によどんだ空気を感じました。なんだコレ? って思った最初の音楽かもしれません。こういうの何て言うんだろう?今 より全然情報の無いインターネット、それとかろうじてHMVとかでもPUSHされていたおかげで、それが2ステップ/UKガラージ/スピード・ガラージという呼ばれ方は変われど、同質のひとつのジャンルなんだと知ることができました。
 いまよりもずっと、DJがミックステープでかける曲が、未知の音楽体験を与えていた時代かなと思えます。いまはリスナーがちょっと調べたら最先端を視聴程度ならできますからね。

UKガラージのどんなところが好きになりましたか?

Prettybwoy:当時横浜のHMVですら、UKガラージのミックスCDをコーナーで置いていました。MJコールのファースト・アルバムが、出たかくらいの時期だったと思います。まず僕はミックスCDから手をつけて行きました。きっと僕は運が良かったのか、これもめぐり合わせだと思うのですが、いちばん最初に手にした〈Pure Silk〉から出ていたMike"Ruff Cut" LloydのミックスCDが、最高にかっこよかったんです。まず、こんなにアンダーグラウンド感があるんだ? って感想でしたね。入ってるトラックは、いまではレジェンド級の名曲オンパレードなんだけど、全体的に土臭くてRAWな質感にヤラレました。
 派手なシンセなんかはほとんどまったく入ってなくて、お馴染みのサンプリング・ネタも随所に散りばめられて、BPM140くらいのベースと裏打ちリディム、そこにカットアップされたヴォーカル。とにかく黒いなぁ。って思いました。2000年くらいだから、ヒップホップも正直つまらなくなっていたし。本当の黒さがここにあるなって衝撃でした。
 あと面白いのが、後になって、オリジナルを手に入れて、曲の地味さに驚くことがすごく多いジャンルですね(笑)。いまは結構元から派手目なトラック多いですけどね。それだけDJのミックスしがいのあるってことだと思います。ただ繋いでるだけじゃ、絶対伝わらない。ミキサーのフェーダー使いもスイッチが随分多いジャンルだなって思いました。

PrettybwoyさんなりのUKガラージの定義を教えてください。

Prettybwoy:とても難しい質問だと思います(笑)。
 僕は、2ステップの時代にこのジャンルを知りました。そこから掘り起こしてみると、UKガラージという言葉が出てきました。さらにその前は、スピード・ガラージという言葉まであります。コレは、UKガラージのなかから発生したひとつの流行が、名前を付けて出て来たに過ぎないと思っています。
 いまに例えると、Disclosureがとても人気があって、流行っています。UKガラージのディープ・ハウス的アプローチがとても流行っています。これ単体に新しいジャンル名がつくとはまったく思いませんが、大小合わせて、そういうのの繰り返しと言うことだと思います。
 とくに2000年以降、ダブステップやグライム、ベースライン、ファンキーという言葉も出てきました。さらにはそこからまた派生ジャンルまで......ひとつひとつを厳密にジャンル分けして考えることは、もはや無意味だと思います。
 ここ6~7年で、ダブステップは世界的に拡がり、独自性をもったジャンルになっていると思います。いわゆる、特徴的な跳ねたビート・フォーマットのことをUKガラージといってしまうと、じゃああんまり跳ねない重たいビートはガラージじゃないの? ってことになるし、逆にそれさえ守ればUKガラージなの? って話にもなるし......。じゃあ、グライムは何でガラージと親和性を保っているの? という話も出てきますし。
 懐古主義ではないけれど、1997~8年から2002年くらいの、オールドスクールと言われるUK ガラージの良さを、理解して、現在、ガラージなり、グライムなり活動しているアーティストを、僕はUKガラージと定義しています。例えば、DJで言うと、Rossi B & Luca,EZ、Q、Cameoなんかは、わかりやすいですよね。UKガラージと言われるけれど、グライムもプレイするし。僕自身、UKガラージ/グライムのDJと言っていますが、厳密なジャンル分けはこの周辺音楽にとってはナンセンスと思ってます。
 ついでに、フューチャー・ガラージなんて言葉もありますが、例えばWhistlaのレーベル・アーティストなんかは、もともとUKガラージとは別の活動をしてきた人がほとんどみたいです。そういった、ガラージフォーマットを使って活動しているアーティストをフューチャー・ガラージと言うのかと思います。

衝撃を受けたパーティとかありますか?

Prettybwoy:昔、六本木にCOREという箱があって、そこで開催されたUKガラージのパーティのゲストがZED BIASだったんです。僕は大学生だったんですが、初めて見たUKガラージのアーティストだったので、衝撃でしたね。
 ちょうど、「Jigga Up(Ring the Alarm)」をリリースする前で、その曲をかけてたのがすごい印象に残っています。それと、派手な衣装を着たダンサーがブース横にいました(笑)。一緒に来日していた、たしか、MC RBだったんですが、急に曲が止まって、みんな、後ろを観てくれ! って煽って、後ろを見たら、そのダンサーたちのダンス・ショーケースがはじまったんです。しかもSunshipかなんかの曲で(笑)。その時のちょっとバブリーなパーティ感は忘れないですね。ああチャラいなと(同時に、Moduleなんかでは、超アンダーグラウンドな音楽勝負!! みたいなUKガラージのパーティもおこなわれていました)。
 それと、DBS Presentsで、GRIMEのワイリーとDJ スリミムジーが来日したパーティ。代官山UNITですね。いままで経験したなかで、MCがあんなに喋って、DJがあんなにリワインドしたパーティは初めてでした。2005年、あの時期にこれをやるDBSって、凄い!!っ て思いました。

最初は、どんなところでDJをはじめたのでしょうか?

Prettybwoy:ヒップホップのDJをやっている友だちがいて、彼に、ラウンジだけど、DJやってみる? って言われたのがきっかけで、DJ活動をはじめました。正直それまではミックステープを渡しても、個人的に好きだけど、現場ではねぇ......って言われて、やれる場所を見つけられず、DJ活動は正直半ば諦めて、働いていた服屋でBGMとして自分のミックスをかけるくらいでした。それでもちょっとアッパーすぎて、お店からNGを出されることも良くありました(笑)。それが、2006年の初め頃です。
 でも、ヒップホップ/R&Bのパーティのラウンジでやってても、共演者に上手いね。こっちのパーティでもやってよって言われることはあっても、なかなかお客さん自体に反応を貰うことはありませんでしたね。
 そんなときに、Drum&Bass Sessionsから、SALOONをUKガラージでやりたい、っていうことでオファーを頂いたんです(実は、DBS GRIME特集のパーティに言った直後、DBSのサイトに直接メールをして......)。それが、D&B、そして俗に言うUK BASS MUSICのシーンへの入口でした。それからすべてがはじまりましたね。

自分に方向性を与えた作品(シングルでもアルバムでも曲でも)を5つ挙げてください。

Prettybwoy:実は、2月に国書刊行会から出版された『ダブステップディスクガイド』で相当な枚数のUKガラージ、アーリー・グライム紹介させていただいたので、ここではあえて当時学生でお金も無く、すごい欲しかったけどレコードでは集め切れなかった盤を5枚。当時、このBPMで、ヒップホップしてるのがすごいかっこ良かったです。

・G.A.R.A.G.E(DJ Narrows Resurection remix) - Corrupted Cru ft.MC Neat
https://youtu.be/CtN8qHLaSqU
・Fly Bi - T/K/S
https://youtu.be/aj_M50uh8hg
・We Can Make It Happen (Dubaholics 4 to the floor) - NCA & Robbie Craig
https://youtu.be/Ft0V2-Wp6mM
・Haertless Theme - Heartless Crew
https://youtu.be/qEYQM1mm8Rc
・Whats It Gonna Be (Sticky Y2K Mix) - Neshe
https://youtu.be/Qp0mKDiPFP4

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UKのパーティには行ったんですか? 

Prettybwoy:残念ながら、まだ飛行機で北海道(修学旅行)しか行ったことないです。

トラックを作りはじめたのはいつからですか?

Prettybwoy:大学生の頃、(まだWindows98)ノートPCでACIDの廉価版を買って、弄っていましたが、本格的にはじめたのは、2010年の後半から、PCを新しくしてからです。その前少しのあいだ、友人から古いPCを頂いて、使っていたのですが、ソフトも新しくして、それまでWin98だったのでWin7になって一気にリニューアルしたので技術の進歩に感動しました(笑)。

DJの技術や音楽制作はどのように学びましたか?

Prettybwoy:独学ですね。DJに関しては、僕はいま家にターンテーブルしかないので(CDJはなし)。たまに楽器屋にいって、弄ってみるか、現場で覚える感じです。ターンテーブルを買った学生のとき、ちょうどパイオニアのスクラッチ可のジョグダイヤルのタイプが初めて発売された頃でした。で、当時仲良くなった店員さんが元DJで、「凄いの出るよ!」いろいろと教えて貰ったり、ふたりで店でB2Bみたいなことをよくやっていました(笑)。よく現場で言われる、CDJのちょっと変わった使い方の基礎はこの頃覚えたものです。
 いま思い出しましたが、1回、日曜デイタイムのお店のDJイヴェントに出させて貰ったのが僕の人前でのDJデビューでした。そのときも、UKガラージでしたね(笑)。
 制作は、失敗と成功の繰り返しです。いまも、毎回曲を作るごとに、思いついた新しいことを1回1回やっています。FL Studioを使っていますが、僕はとても気に入っています。ハッキリ言って、人に誇れる技術は持ち合わせていないと思います。毎回がテストです。作ってみて、仲良しの海外UKガラージのアーティストに送ってみて、感想を聞いてみたり。その人だけかもしれませんが、イギリス人は、素直に感想を聞かせてくれて、良い曲だと、プレイで使ってくれたり、日本人よりも反応がわかりやすいので、デモは彼らにまず送ってます。

どのようなパーティでまわしてたののですか? 

Prettybwoy:大きいパーティだと、「Drum & Bass Sessions」で、サブフロアのSALOONですが、たまに呼んで頂いています。それと、Goth-Trad主催の「Back To Chill」も定期的に呼んで頂いてます。
定期的にD&Bのパーティではやらせていただいてますね。Soi、Hangover、Jungle Scape......など。やっぱり、親和性は高いと思います、D&B/ジャングルは。
 それ以外は、スポットで呼んで頂いて、やらせてもらっています。
ただ、やはり、UKの低音カルチャーに重きを置いたパーティのブッキングがほとんどです。僕個人としては、UKガラージの多様性を活かして、ハウス、テクノ、ヒップホップ、レゲエなど、いろいろな音楽と交流できればと思っています。そこはもっと、リスナーの理解と、自分自身の知名度が必要だと思いますが。

UKガラージは、まさにUKならではの音楽スタイルですが、日本に根付くと思いましたか?

Prettybwoy:いまでも、根付いているとは思ったことがありません。まだたまに、日本でUKガラージが聴けると思わなかった! って外人さんから言われます(笑)。
 いま多くの日本に根付いているのは、2ステップでしかないんです。それがいい悪いではないのですが。本当に根付いているならば、こんなにグライムとUKガラージに壁があるわけはないと思います。本当に、ごくごく一部のリスナーにしか、まだ根付いてる、とは言えないと思います。
 ただ、ダブステップ、グライムがジャンルとして確立したおかげで、UKガラージに興味を抱く人が昔より増えたと思います。そういう人たちに、あまり個人では堀りにくいオールドスクールからいまの流行まで紹介していけたらいいと思っています。

もっともインスピレーションをもらった作品/アーティストを教えてください。

Prettybwoy:「U Stress Me 」K-Warren feat. Lee O(Leo the Lion)です。コレはアナログしか出てなくて、Vocal mixとDub mix(両方K Warren本人プロデュース)が入っています。こんなにハードでRawでベースなヴォーカル・トラックがあるんだなぁって。こういう前のめり感って、UKガラージならではの魅力だと思います。

UKガラージはレコードもなかなか日本に入ってきません。音源はネットを探しているんですか?

Prettybwoy:いまは時代が時代なので、比較的データ・リリースも多くはなったと思います。残念ながら、iTunesのみのリリースとかも見かけます。本当に仲良くなったアーティストは新曲を日本でも紹介してくれって送ってくれます。むしろリリース予定は無い曲とかもありますが。けっこう、昔からブート・リミックスも大量にあるので、そういう曲はフリーダウンロードになっていたり、プロモメールのみだったり。いまはほとんどそういう曲をプレイしています。
 レコードに関しては、日本の中古レコード屋で、100円とかでたまに掘り出し物みつけますね(笑)。ただ、UKガラージオリジナルの曲だと、ほとんど中古にはないです。昔はBig Appleで、初期ダブステップ、グライム、ガラージを扱っていたので、(昔はグライムではなく、SUBLOWでしたね)そこと、HOTWAXを利用していました。いまアナログを本気で掘ろうと思ったら、あんまり教えたくないんですが(笑)、DNRっていうイギリスのレコード・ショップが、大量の在庫を持っています。たまに僕もここで購入します。

Prettybwoyと名乗るようになった理由を教えて下さい(カタカナ表記も教えてください)。

Prettybwoy:あまり、カタカナ表記は拘りないのですが、プリティブォイですね(笑)。本当、思い付きです。名前をつけた20代中盤頃、クラブで女子に、何故かカワイイと言われることが多かったのと、ガラージ・アーティストで、Pretty boy Entertainmentってのがいたんで、語呂もいいし、呼びやすいかなって。もともと、ガラージ・アーティストでなんとかボーイって多かったですし。

Pretty Boy Entertainment - Buttas (Sunship Vs Chunky Mix)


 それと丁度、SoundBwoy Ent.ってアーティストが2ステップ曲出して日本にも入ってきてたので、じゃあ、Prettybwoyでいいやって(笑)。後から、prettyboyって、男好きな男子とか、チャラ男とか、いい意味ではないよって外人の友だちに言われて、まあ、ガラージDJでプリティブォイとかまんまだしネタになるしいいか。という具合です。

いつぐらいから良いリアクションが得られるようになりましたか?

Prettybwoy:もう、それこそ、その時々でリアクションは違いますが......。DBSに出させていただいてから、こんな人がいたんだってリアクションはありました。最初の頃、ガラージDJっていうイメージがもう、チャラいんですよね。でも、みんなが想像するより、低音が凄くて、ていうのは最初の頃よく言われていました。
 ただ、それは僕が好きなラインがそういう、グライムとガラージの中間ぐらいが好きなので、いい具合にみんなの期待を裏切れたんだと思います。だから、もっと、いろんな層に、違うアプローチで試してみたいとはつねづね思っています。超お洒落セットとか(笑)。

日本にもガラージ・シーンと呼べるものがあるのでしょうか? あるとしたら、どんな人たちがいるのか教えてください。

Prettybwoy:シーンと呼べるものは、ないと思います。ただガラージが好きで、メインでガラージDJをやっていなくても、プレイできる人はけっこういると思います。僕は僕のやり方で、求めるガラージ感を追求していくことが、いまやるべき事と思っています。ガラージをメインに活動している人間自体が、僕しかいないと思っているので、他にももしいるんなら、名乗り上げてほしいですね(笑)。シーンは、僕のDJや曲がいいねって言ってくれる人が増えたら、それがイコールシーンになるのかな? と、うっすら思っています。

地方ではどうですか?

Prettybwoy:DBSに初めて出演したときに、真っ先に反応してくれたのが名古屋のクルーの方だったのですが、名古屋では2000年当初、UKガラージをメインにパーティをやっていたクルーがいて、いまでも名古屋の現場にいます。だから、名古屋は比較的、ガラージに理解があると思います。栃木で活動しているBLDクルーもガラージには理解があります。他の都市は、正直ほとんど行ったことがないのでわかりません。

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Various Artits
Grime 2.0

BIG DADA

Amazon

とくにMCが重要なシーンですが、日本人MCでとくに素晴らしい人は誰がいますか?

Prettybwoy:誤解を恐れず、言わせていただきます。いません。UKガラージだけで見ても、UKにはDJの数と同じくらいMCがいます。MCのスキルだけあっても、どれがUKガラージのアンセムで、どれがいまヤバイ新譜で、という、ナビゲートができるMCでないといけないと思います。さらにレジェンドMCと言われるレベルのMCまでたくさんいます。彼らはみな、自分の決め台詞を持っています。
 また、グライムの若いMCと、UKガラージのMCとでは、求められる質が違います。MCというスタイルで、日本でそこまでやっている人が、UKガラージ、ちょっと広げてBPM140のシーンにどれだけいるでしょうか? 僕が知らないだけかもしれませんが、いないと思います。
 D&Bや、別のシーンで活躍している人は、そうやって頑張っているMCがいると思います。UKガラージシーンもまだないので、MCもこれから一緒に育っていけたらいいな。と思います。いまUKガラージに対する思い入れがあるMCは、Rallyさん、名古屋のYukako、Agoさん、福井のGoship君、僕が知っているのはこれくらいです。

J-Hardcore Dynasty RecordsのMC RALLYさんについて教えてください。

Prettybwoy:もともと、六本木クアイルでステップスという2ステップのパーティをやっていて、そこでMCをやっていました。残念ながら僕はそのパーティに行ったことはないのですが。現在はメイン活動はハードコア・テクノのパーティでマイクを握ってます。UKガラージには特別思い入れがあり、ある程度知識もあるMCだと思います。DJ Shimamuraさんと一緒にトラックも作っていたり、かなりアッパーなMCですね。元気すぎるときもあります(笑)。

UKガラージはUSのR&Bからの影響もありますよね。PrettybwoyさんはUSのヒップホップやR&Bは聴きますか?

Prettybwoy:もともと、クラブミュージックの入り口が90年代初期ヒップホップ/R&BBなので、その年代のはとくに、いまでも聴きます。TLCは大好きでDVDも買いました(笑)。

日本のR&Bというと、Jポップなイメージがついてしまっているのですが、アンダーグラウンドで良いシンガーはいますか?

Prettybwoy:僕自身、シンガーの方の知り合いがほとんどいないのでアレなのですが、名古屋にいて、D&BのMC活動もしている、yukakoというシンガーとはいま、一緒に曲を作っています。いわゆるJポップ・ガラージになってしまうのは嫌なので、いろいろ密に話し合って試行錯誤しています。初めての経験なので、勉強になるし、楽しいです。機会があれば、日本語のMCモノとかにも、今後は挑戦してみたいです。

ダブステップやジャングルなど、親類関係にあるジャンルもありますが、ガラージのみにこだわっている感じですか?

Prettybwoy:いままでの質問のなかでも触れましたが、とくにガラージのみにこだわっているわけではありません。トラックに関しては僕はガラージDJといいつつ、DBS(ドラムンベース・ジャングル)やBTC(ダブステップ)などに出演させてもらっているのもあって、そのいま現在の現場で培ったものを昇華して、UKガラージ的アプローチで表現できればな、と思って作っています。グライムとガラージは、とくに、インストモノ・グライムと、ガラージは僕のなかでまったく区別していません。ダブステップや、他にたくさんいいプレイヤーが周りにいるので、僕があえてプレイすることもないと思っています。ジャングルやD&Bに関しては、完全に僕は後追いなので、出演しているパーティで、こんなのもあるんだぁ、と勉強している感じですね。

2011年に自分ではじまた「GollyGosh」について教えてください。どんなコンセプトで、どんな感じでやっているのでしょうか?

Prettybwoy:もともとは月曜日というのもあり、気軽に楽しめるUKガラージ/グライムというコンセプトではじめました。UKガラージ好きだけど、普段あまり現場でかけることができなかったり、そういうDJの側面を実際に見て、親交を深められれば、という比較的緩い雰囲気でした。
最近は去年イギリスから日本に引っ越してきたFrankly$ickというDJとやっています。彼は、UKガラージ/グライムそしてオリジナル楽曲以外に、Jackin'という、ガラージの兄弟のようなジャンルを最近プレイするようになって、ここでしか聴けない音楽、という要素がここ最近強くなったような気がしています。
 また、Ustream配信もおこなっていたのですが、それによっての海外からの反応が意外とあることに驚きました。もともと、なかなか東京に来れない地方都市のUKガラージファンとの交流としてはじめたのですが、意外な発見ですね。これがきっかけで仲良くなった海外アーティストもいます。(ちなみに、次回は4/8月曜日です)

UKガラージというと、UKでは一時期、警察に監視されていたほど、ラフなイメージがあるのですが、日本のフロアはどんな感じでしょうか?

Prettybwoy:日本はピースですよ。さすが世界でも有数の安全な国です(外国に行ったことはありませんが)。どういうわけか日本では、そういうやんちゃな若者が、ガラージ/グライムに辿り着かないですからね。大人が聴く音楽というイメージは引きずっています。だいぶ変わってきてるとは思いますが。正直若い人たちにもどんどん聴いてほしいですね。

今回、UKの〈ビッグダダ〉のコンピレーション盤『Grime 2.0』に参加することになった経緯を教えてください。

Prettybwoy:まず、僕が自宅からUstreamでアナログのみでミックスを配信していたら、ツイッター経由でイギリス人が、「そのアナログどこで買ったんだ?」って聞いてきて、友だちになりました。そしてある日、「今度日本に行くよ!」と言ってきて、「え? 旅行?」って聞いたら、「DJだよ」って。それがHOTCITYでした。彼を呼んだのは、80kidzのAli君の「PEOPLE ROOM」というパーティでした。場所はUNITでした。
 来日した彼に音源CDRを渡して、彼が帰国後、すぐに「俺の友だち(Joe Muggs)が〈Bigdada〉のコンピに関わってて、お前のトラック入れたいってよ! やったなコングラチュレイション!」ってメールが来て......という流れです。最初は、騙されているんじゃないかと思いました(笑)。夢みたいで契約書来るまでほとんど誰にも言いませんでした。
 それと、収録される"Kissin U"は結構前からできていて、現場でも比較的プレイしていたトラックなのですが、今回リリースが決まってから、(先ほど話に出た)yukakoに新たにヴォーカルを歌って貰いました。よりドープなヴァージョンになったと思います。

日本人としては初のガラージ/グライムという感じで紹介されるんじゃないでしょうか?

Prettybwoy:おそらく、公式なリリースモノとしてはそうだと思います。最初は、Bandcampなどで自主リリースでもしようかと考えていたので、本当によいチャンスを貰えたと思います。それにこんなビッグ・レーベルで、僕がずっとやってきたことの成果として、『Grime 2.0』というコンピレーションに参加出来て本当に光栄です。日頃から、ちょっとヒネくれたガラージ表現をしてきて良かったと思います(笑)。
 これ以外でも、「Don't watch that TV」というUKアンダーグラウンドミュージックの情報サイトや、UKG専門の情報サイトなどで僕のDJ動画や、曲の紹介はしてもらっていました。
 また、去年の暮れにイギリス国内~国外でUKガラージの神様的存在として知られ、ラジオ局「KissFM UK」で10年以上ガラージ専門の番組を続ける超人DJ EZの番組で、「Guest Track from Japan」という感じの扱いで僕のトラックを紹介してくれたりしました。去年からUKのガラージDJたちからの反応が少しずつ出はじめてきたところです。たぶん、まだリスナーにまではなかなか届いていないと思います。

今後の予定を教えてください。

Prettybwoy:そうですね。せっかくだから、向こうから収録アーティスト何人か来て、リリース記念ツアーとか出来れば最高かなと思いますが、いまのところそういうお話はないので、いままで通り、トラックを作り、DJをやり続けたいと思います(笑)。
 国内から、いくつかリリースのお話はいただいているので、そちらを順に取り掛かります。それと、いくつか国内外アーティストと曲を作ったりが溜まっているのでそれもそのうち何らかの形で世に出せればと思います。パーティ情報はオフィシャル・サイトか、FACEBOOKで更新しています。いちばん直近だと、3/30に千葉〈CRACK UP MUNCHIES〉というところに行きます。

最後に、オールタイム・トップ・10のアルバムを教えてください。

Prettybwoy:アルバムに絞るとこんな感じですね。相変わらずアルバムが圧倒的に少ないですよね。個人的に、アルバムとして世界観の完成度が高かったと思うものをセレクトしました。
・MJ Cole / Sincere / Talkin' Loud
・Wookie / Wookie / S2S Recordings
・So Solid Crew / They Don't Know / Independiente
・Wiley / Treddin' On Thin Ice / XL Recordings
・In Fine Style / Horsepower Productions / Tempa
・Jammer / Jahmanji / Big Dada Recordings
・The Mitchell Brothers / A Breath Of Fresh Attire / The Beats Recordings
・Luck & Neat / It's All Good / Island Records
・True Steppers / True Stepping / NuLife Recordings
・Donae'o / Party Hard / My-ish
(順不動)

ありがとうございました! 

Prettybwoy:こちらこそ、ありがとうございました!

interview with RITTO - ele-king

 沖縄に移り住んで2年になる。本島を南北に貫く主幹道路、国道58号線。観光地をつなぐ格好のドライヴルートは「わ」ナンバーで渋滞し、米軍占領時に整備された元軍道は、那覇軍港や普天間飛行場、嘉手納基地を結び、軍用車両と「Y」ナンバーが行き交う。沖縄県の面積の約10パーセントを占める米軍関連施設。道沿いに延々と続く米軍基地フェンス。柵に取り囲まれたかのような町並みや、その上空ぎりぎりを爆音で飛び去る軍用機に、いまだ慣れないでいる。
 たしかに沖縄は「リゾート」だ。カラッと晴れた日は本当に気持ちがいいし、その心地よさを楽しむ余裕だってある。でも、それだけじゃない。普天間基地移設問題が全国的に報じられるようになって以降は、どんなに沖縄に疎い人でも知るところだろう。
 かつての琉球王国はいま、日本という島国のなかの島でありながら、すぐ近くに米国があり、お隣中国からにらまれている。戦争と侵略......、多難の道を歩み続けてきた。過去を背負い続ける人の悲しみを、移住して初めて、肌で感じている。"すべての武器を楽器に"沖縄県の音楽家、喜名昌吉の歌詞だ。プリントされたステッカーが、県内のレコ屋や服屋に並べられていた。そして、地元の人はきっとこう言う。「沖縄に来て良かったね。最高でしょう?」と。ここには、決して絶望で終わらせない、底抜けのタフネスがあるように思えてならない。

 沖縄のラップ・シーンが盛り上がっている。牽引するのが、リット(RITTO)。石垣生まれ、那覇育ち、生粋の琉球人MCだ。2月に、ファースト・アルバムとなる『AKEBONO』を赤土レックよりリリース。発売からおよそ2週間で、初回プレス分が完売した。昨年のUMBで沖縄代表に選ばれ、3回戦で優勝者・R指定と対戦、惜しくも敗れたが、同大会のベスト・バトルとも称された。そんな経緯もあって、コアなヒップホップ・リスナーからは、すでに一目置かれていた。

ゆるさの中にあふれる闘志 具志堅用高 カンムリワシ 
適当なようで適当じゃない 目を見りゃわかる いかれたヴァイヴ
"ボツ空身"


RITTO
AKEBONO

AKAZUCHI REC.

Amazon iTunes

 バトルあがりのすきのない緊張感、研ぎ澄まされたリリシズムに、『イルマティック』の頃のナズを思わせると言った人がいた。矢継ぎ早に繰り出される言葉、強いパンチラインに、ウータン・クランのゴーストフェイス・キラーを思わせると言った人がいた。その一方で、レイドバックした中にある凄み、自由度の高いフロウと間に、MFドゥームを重ねる人もいた。あ、「南のボス・ザ・MC」と評する人もいたな。本人は恐縮していたけれど。ストイシズムを貫いてはいるが、安易にダークネスには陥らない。「極東」の「南」の情熱とソウルを注入する。「今日はほんとにいい天気っすね。気持ちいいな」チルした普段の姿は、とても穏やかだ。「ちゃす!」ライヴの合間にみせる別の顔は、ユーモラスで、お茶目でさえある。

 「お前の目、何でそんなにピュアなんだよ」MSCのMC漢が言ったそうだ。「俺らは毎日、東京で戦ってるのに......」。沖縄の人と音楽に魅せられ、ここを何度も尋ね、滞在するMCがいることを知っている。あるMCは「自分は沖縄に住むべきだ」とさえ言っていた。ビッグ・ジョーは今年、沖縄でのレギュラーイヴェントをスタートさせた。ここはいま、本当にアツい。まさに、沖縄で言うところの「ヤッケー」だ。まだ知らない人は是非、リアルな沖縄を体感してほしい。リットと、赤土レックの代表・トオルに話を訊いた。 

参加者:リット(赤土レック)、トオル(赤土レック)、DJカミカズ(クロックワイズ・レコーディングス)

リット:本土の人は、沖縄をリゾートだと思ってるから。
トオル:俺たちは真逆だもんね。
リット:そこに疑問を感じないかな? 沖縄の問題っていろいろあるじゃないですか。本土には、「沖縄は国からお金をいっぱいもらってるんだから」っていう考えもあると思うんですよ。

ラップをはじめた経緯は?

リット:「ヒップホップは、簡単にやったら殺される」って思ったんすよ。それはよく覚えてる。

なぜですか?

リット:わからん。インスピレーション受けましたね。これは危ない音楽だって。人も死ぬし。冷静に見てました。格好もすぐには入れなかったですね。歴史とか、色々勉強しました。それから、じょじょに入っていった感じですね。

きっかけは何だったんですか?

リット:高校時代に、カルチャーとして、自然と入ってくる感じでした。

高校はどちらだったんですか?

リット:宜野湾高校ですね。

トオル:俺らサッカーしてたんですよ。サッカーが強くて、誰でも入れるバカな学校でした(笑)。クラスの半分以上が他の高校を一次で落ちて、二次で受かって来たみたいな奴らで、不良が多かったですね(笑)。

 沖縄県宜野湾市は、沖縄本島の中南部に位置する地域。普天間飛行場やキャンプ瑞慶覧があり、基地の街でもある。

最初は、どんなヒップホップを聴いていたんですか?

リット:一番初めに聴いたのは、小学校の頃でしたね。アメリカに行く機会があって、そこで会った白人がクーリオを歌ってたんですよ。「何だろう?」ってずっと気になってて。日本に帰ってきて、じょじょに聴くようになりましたね。

何でアメリカに行ったんですか?

リット:家族旅行ですね。1ヶ月くらい行ってたんですけど。

そこからなんですね。

リット:MTVで、何気に聴いてはいましたね。

トオル:リットのお母さんがイケてるんですよ。

リット:「あんた、ラップしなさい!」みたいな。オカー(お母さん)が先に言いましたね。リットって本名なんですけど、ギタリストのリー・リトナーから来てるんですよ。おやじが元々ギター弾きで。クレイジーなんですけど(笑)、音楽のエンジニアやったり、現場に入ったりしてて。もう長いこと一緒には生活してないんですけど、影響は大きいですね。ロックは日頃から聴いてました。音楽はずっと生活の中にありましたね。

ご両親ともに石垣出身なんですか?

リット:そうですね。俺も石垣で生まれて、小学2年の頃に(沖縄本島に)移住して。

ご兄弟は?

リット:すげぇ姉ちゃんがいる。パンチがものすごい(笑)。姉ちゃんは流行りの音楽聴いてたよな。

トオル:リットのネエネエ(お姉さん)がリットに流行りの音楽を教えて、リットが同級生に教えて。

リット:モンパチ(MONGOL800)とか、インディーズが流行ってたな。

トオル:俺ら中学生の時、ちょうどピークで。

リット:中学までは、がっつりバンドだったな。ラップもちょくちょくやってましたよ。でも、「ああなりたい」みたいな人がいなかったですね。特に思い入れはなかった。

音源はどうやって手に入れてたんですか?

トオル:洋服屋ですね。DJが作ってるミックスCDとか。あとはクラブで。まだ高校生がクラブに入れる時代だったんで、高2くらいから行き始めて。

リット:毎週行ってたな。

那覇ですか?

トオル:沖縄市のコザが多かったっすね。もう今はそのクラブはないんですけど。

 沖縄県沖縄市に属し、通称「コザ」と呼ばれる地域。嘉手納基地に隣接している。かつては、米兵相手のサービスを提供する施設が立ち並ぶ歓楽街だった。今も当時の面影を色濃く残し、米兵が多く遊ぶエリアだ。

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フリースタイルを一緒にやってて、「何が?」って聞いたら、「ニガー」って聞こえたみたいで。あいつら、めっちゃデカいけど、俺らも、全然引く気がないから(笑)。バカだったな? 「なにー(怒)」みたいな感じでやってましたね。で、その後、友だちになって。

米軍基地で働く外国人もたくさん出入りしてたんですか?

リット:そうそう。

トオル:那覇のクラブも多かったですね。ギャングの兄ちゃんたちがいて、怖かったです。恐る恐る行ったっすね。

リット:体がデカかったよな。服もダボダボだろ。

地元でヒップホップをやっている人はいたんですか?

リット:DJターシーさんとか、DJの影響を受けて育ったっすね。MCだったら、ページ・ワン。

かかる音楽はヒップホップ?

リット:ばっかりですね。外国人も多かったし。

トオル:四つ打ちとか、聴いたことなかったよな? 

リット:イヴェントでマイク取りに行ったりもしました。県外のアーティストが来たら、フリースタイルしかけて、怒られて(笑)。やんちゃしてました。

洗礼受けました?

リット:かなり受けました。当時、俺らが一番年下だったから。今の奴らは、みんな礼儀正しくやるんですけど、あの時の俺らはもう「絶対、負けん」みたいな。

MCバトル系の大会は?

リット:初めて見たのは、米軍基地の外国人と沖縄のMCのローカルなバトル。外国人のバトルを生で見れて、面白かったですね。

DJカミカズ:サイファーとかも?

リット:ガンガンやってましたね。外国人の若い奴らが、ストリートでやってましたね。米軍基地の外国人のMCクルーがバトルで「レペゼン沖縄」って言っちゃったんですよ。そしたら、相当ブーイングくらって。「何で、こいつが"沖縄"って言ったら、ディスられるんだろ」って思ったのを覚えてますね。

トオル:危なかったな。

リット:外国人が多い分、沖縄は流行りの音楽が入ってくるのが早かったって聞いたこともありますね。

音楽的な土壌には恵まれてたとも言えるんですかね?

リット:10代の頃は、本土(本州)に行ったことがないから分からないですけど、先輩の話を聞くと、そうだったみたいで。知らない曲は、知り合いの外国人に聞くと教えてくれるし。

外国人とのトラブルはなかったんですか?

リット:フリースタイルを一緒にやってて、「何が?」って聞いたら、「ニガー」って聞こえたみたいで。あいつら、めっちゃデカいけど、俺らも、全然引く気がないから(笑)。バカだったな? 「なにー(怒)」みたいな感じでやってましたね。で、その後、友だちになって。

外国人MCとのバトルは日本語なんですか?

リット:そうですね。

トオル:ベース(基地)の人たちは、またすぐどこかに行っちゃうから、わざわざ日本語を覚えようとしないじゃないですか? かといって、俺らも英語を覚えるわけでもない。

リット:だから、身振り手振りで。

去年のUMBはどうでした?

リット:ベスト8だったんですけど、ひとりだけ超リラックスしてましたね。アルバムのことばっかり考えてて、バトル・モードになってなかったんですよ。

トオル:2006年のUMBにリットが沖縄代表で出場した時、初めてリットを知った人がいると思うんですよ。その後ずっと作品を出さないでいたから、周りはみんなまだバトルMCだって思ってたと思うんです。でも、リットの中では、バトルはもうだいぶ前から一線ひいてるところがあって。ただ、去年は沖縄予選の会場が〈ラヴ・ボール〉(トオルが運営する那覇のクラブ)だったんで、「だったら、俺らがとりにいこう!」って。で、出場したら、優勝して、全国大会行ったんですけど。

リット:全然ダメでした。でも、勝負事は好きなんで。1回戦の相手は山口代表の奴で、アツいんですよ。ヴァイヴスがヤバいって聞いてたから、俺もヴァイヴスで返して。楽しかったですね。2回戦の相手は長野代表の奴で、ソウルフルな人だったんですけど、だったら俺も絶対負けんし。3回戦の相手が大阪代表のR指定で、優勝した奴なんですけど。大阪はフリースタイルが上手な人が多いし、上手いし、実力もあって、俺より優れてるのはわかってるけど、負けるわけにはいかないんで。前は、沖縄代表っていうとオプション的な存在っていう感じだったんですけど、本気モードでぶつかってきてくれて。

2006年のUMBは?

リット:もうお祭りですね(笑)。「あんなヘコんでたのに、何で(沖縄予選で)優勝したば?」って。家のトラブルで借金があって、それを返さないといけないっていう使命があったんですよ。「俺、どうすればいいんだろう?」って、ラップもなよなよしてて。外をふらふら歩いてたときに「バトルあるよ」って言われて。髪の処理も何もしてなかったんで、頭ボーボーなんですよ(笑)。で、全国大会で初めて2、3千人の前でラップしたんですよ。東京に行ったのも、その時が初めてで。みんなでピクニック行くような気分でしたね。しかも、1回戦勝ってしまったんですよ。2回戦は記憶ないっすね。映像も見てない。恥ずかし過ぎて。「シーサー」とか言ってた(笑)。

フリースタイルする時と、作品作るときは、やっぱり違うんですよね?

リット:いまのフリースタイルはスポーツみたいですよね。だから、俺らのスタイルではなくなってきてる。ずっとバトルMCでいっちゃうと、ラッパーとしての作品が目立たなくなってしまうというか。高校生の頃、地元の同級生でガンガン面白いフリースタイルをやってる奴らがいて、俺も一緒にマイクジャックしてましたね。すごく楽しかったです。ステージに立てなくて、むしゃくしゃしてた頃、発散してました。そういう流れでフリースタイルを始めましたね。バトルとはまた違うんですけど。いまは、フリースタイルで曲作るみたいな。この間のカミカズさんとのセッションもそうですけど、フィーリング・フリースタイルっていうか。家でもそういう遊びをしてますね。

外国人を含むバトルやフリースタイルの経験が、ある種、日本人離れした独特のヴァイヴスにつながってるんですかね?

リット:初めて言われましたね。

DJカミカズ:内に向かうような「北」の感じとも違いますよね? 

内省的な感じ?

DJカミカズ:ジメッとしてないというか。

トオル:真逆ですよね(笑)。

カラっとしてるし、外に開いてる感じの部分もあるという。ライヴなんかもそうですよね。

DJカミカズ:オープンなだけかというと、そういうわけでもない。

リット:あ、それ最近思ってた。ストイックになった方がいいのかなって。アルバムを出して、自分を見つめ直さないとって。考えることは考えるんですけど、寝て、起きて、動くと、結局、いつもの調子なんですよね(笑)。

トオル:アルバム出した後に、「俺、ストイックにならんでもいい?」って。むしろ、ならんでって(笑)。

リット:普通に生活してます(笑)。もちろん、いろいろ考えてはいるんですけどね。

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家のトラブルで借金があって、それを返さないといけないっていう使命があったんですよ。「俺、どうすればいいんだろう?」って、ラップもなよなよしてて。外をふらふら歩いてたときに「バトルあるよ」って言われて。髪の処理も何もしてなかったんで、頭ボーボーなんですよ(笑)。


RITTO
AKEBONO

AKAZUCHI REC.

Amazon iTunes

アルバムはどうやって作られたんですか?

リット:最初は、トラック集めでしたね。

トオル:俺らの環境にトラックメーカーがいなかったからな。ゼロに近い。

時間がかかった?

リット:かかったっすね。スティルイチミヤと仲が良くて、田我流に「アルバム出したい」って言ったら、ヤングGがすぐに作ってくれて。「疾走感のある曲にしよう」って"風音"ができて。それが『AKEBONO』のはじまりですね。

トオル:田我流との出会いがキーポイントになってますね。山梨にいながらこれだけ作品出してる。東京に染まってないし、むしろ、俺らより田舎モンだし。実際に行ってみても、相当田舎だった。それでもできるんだっていう自信になりましたね。

田我流と知り合ったのはいつですか?

リット:5年前くらい。ポポ・ジョニーっていう大好きなレゲエ・アーティストが「山梨のラッパーがいるよ」って紹介してくれて。沖縄に自分探しの旅に来てたみたいで。そのとき、俺はイケイケだったんで、「何だ?」ってフリースタイルしかけたら、田我流もガンガン詰めてきて、ケンカになりそうなくらいアツくなっちゃって。それから友だちになりましたね。
 でも、最近まで田(でん)ちゃんとは連絡とってなくて。で、〈ラヴ・ボール〉にたまたま田我流のCDがあって、聴いたら「こいつ面白いね。呼ぼうぜ」ってなって。ポポ・ジョニーに「田我流ってわかるか?」って聞いたら、「お前、友だちよ。田ちゃんだよ」「え! 田ちゃんって田我流なの?」って。すぐに電話して(笑)。
 「覚えてる?」「覚えてるよ。どうしたの?」「お前のCD聴いた。良かったよ。沖縄来るか?」って言ったら、飛んで来てくれて。〈ドンタコス〉っていう自分のイヴェントに出てもらった。それが一昨年の7月。それ以来、本土との架け橋になってくれてる。勇気もらいましたね。

トオル:地元のこと歌ったり、YouTubeで山梨の案内したり、山梨のNHKに出たり、地元密着のあったかいアーティストだなと思って。それで、俺らも「自分たちでやろう」みたいな。

アルバムのタイトルにもなってる那覇市曙は、リットさんの地元の地名ですよね。港があって、倉庫が立ち並ぶような。 

リット:工業地帯。元々、石垣島とか宮古島とか、離島の人たちが多く住んでる場所で。ヤクザ屋さんの事務所も結構あって。変な人が多かったですね。

トオル:怪しいよな(笑)。ゲットーだよな? 潮風で車がすぐダメになるし、家賃も安いし。

リット:昼と夜でまったく違いますからね。車も道知ってる人しか通らないっすよ。

『AKEBONO』には日の出のような意味合いもあるんですか?

リット:ちっとあるっす。でも、盤面の太陽は夕日なんですよ(笑)。好きなんですよ。(沖縄本島の)西側に住んでるから。

イエスノー言える 玉を込める 引き金ひいて 腰動かして イク瞬間 呼吸合わせて イったらなぜか涙流れて やーのソウル わーに吸い込まれ わーのソウル やーに吸い込まれ ......
"ボツ空身"

"ボツ空身"は血生臭く、ハードボイルドですよね。冒頭、「2011年、波乱の年、人生かけて挑んだ年、あらかじめ言い訳なし、われ貫く意地、ここにあり」というリリックがあります。何があったんですか?

トオル:激動だったよな。みんなが腹決めた年ですね。リットは仕事しながら、音楽と両立させてたんですけど、「もう辞めよう」って。音楽を仕事にしないとスピード上がらんし、やりたいこともできん。俺も、この頃から本気でクラブをやって、クラブをライフスタイルにしようって思いましたね。

リット:「ラッパーにならんといけん」って決断した年でした(笑)。

「空身」って「身ひとつ」みたいなことですか?

リット:そうっす。適当っすよ(笑)。

でも、あの曲からは並々ならぬ緊張感が伝わってきますよね。トラックを手がけるDJコージョーはどんな人なんですか?

リット:北海道の人ですね。いまは、沖縄の伊是名島に住んで、さとうきびを作る仕事をしてます。ああいうトラックを作る人とは思えない感じで、のほほんとしてる。

9曲目"ボツ空身"から12曲目"女 -HITO-"への流れは凄まじいですよね? 身震いしました。

リット:アルバムができる過程で、やってて楽って思えたスタイルが、9曲目からラストなんですよね。そのなかに、オリーヴさん(オリーヴ・オイル)との出会いがあったりして。

オリーヴ・オイルとは、どういう出会いだったんですか?

トオル:自分たちがやってるイヴェントにエル・ニーニョで来たときですね。ヒカルさん(DJヒカル)に紹介してもらったっす。2011年ですね。このイヴェントから、オリーヴさんがめっちゃ沖縄に来るようになって、遊ぶようになって、音も制作するようになって。

リット:実は、だいぶ前に、オリーヴさんが沖縄でライヴやってるのを見たことがあって、その時からハマってました。「あのちっちゃい人、何?」って。

トオル:感覚も"島んちゅ(島人)"だし。

 〈オイルワークス〉のオリーヴ・オイルは、沖縄でじつによく見かけるアーティストのひとりだ。それはもちろん、赤土クルーをはじめ、彼の音を愛する人たちがイヴェントに招待しているからなのだけど、オリーヴ・オイルもまた、この地を気に入っているように思えてならない。
 現在、福岡を拠点に活動を続けるオリーヴ・オイルは、奄美諸島・徳之島出身だ。ちなみに、現在、沖縄在住で、赤土クルーの「パイセン」ことDJヒカルと同郷だ。思えば琉球王国は、奄美群島までもを統治していた時代があった。歴史的には複雑な背景もあるようだけど、文化や思想など、近しいところがあるのも事実。これは勝手な想像だけど、南国の楽園の設計を夢見る彼が、沖縄に親しみを覚えると同時に、何かしらの可能性を見ているのかもしれない。

ライヴでもオリーヴ・オイルのトラックをよく使ってますよね? 

リット:イメージが一番湧きやすい。言葉がフワッと出てくるんですよ。

DJカミカズ:優しさなんじゃないですか?

リット:そうそう、人的な。あの人、不思議だよな。

"NINGEN State Of Mind"の曲作りはどうやって進めたんですか?

リット:スタジオで、オリーヴさんのトラックのストックを聴いて、曲を選んで。でも結局、一番手こずりましたね。言葉がどんどん出てくるんですけど、最終的にそれをまとめる必要ないかもしれんって思っちゃう。初めての感覚でしたね。「曲に溺れる」って思いました。何回も録り直しました。オリーヴさんはデカかったな。有名人だと思ってましたけど、すんなり入り込めた。自分にとってプラスになる表現が見つかった感じでしたね。

年を重ねて今のストーリー居心地いい 大事な力抜きスッピンでハプニング (中略) 気持ちは走りドンピシャ 浮かび弾けたソウルはドープ閃きの和 揺れるマイフロウ
"NINGEN State Of Mind"

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田我流との出会いがキーポイントになってますね。山梨にいながらこれだけ作品出してる。東京に染まってないし、むしろ、俺らより田舎モンだし。実際に行ってみても、相当田舎だった。それでもできるんだっていう自信になりましたね。


RITTO
AKEBONO

AKAZUCHI REC.

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"女 -HITO-"は、どうやって作られたんですか?

リット:先にリリックがあって、オリーヴさんにプロデュースをお願いしたら、ああなって帰って来た。1回目聴いたときは「何じゃこりゃー」で、2回目で「あー」ってなった。「何この感じ? 初めて聴いた」って。

沖縄の人からすると特別な思い入れが?

リット:びっくりしました。

トオル:しかも、リットの曲を作るから、沖縄の音楽をディグったわけじゃないんですよ。奄美にいた頃から、聴いてたらしくて。

〈ラヴ・ボール〉のフロアで、オリーヴ・オイルがお酒を飲みながらずっと踊ってる姿が印象的ですよね。

トオル:愛されてますよね。毎回、延泊するし(笑)。

リット:オリーヴさんとは、いままた新しい作品を作ってます。何が起こるのかな?

ゆらゆら揺れる 情熱とフロウ ゆらゆら揺れる 景色とフロウ きらきら 音 お前とフロウ 抱き寄せた唇 お前のフロウ (中略) 吐き出すフロウ お前の色  
"女 -HITO-"

リットさん、女性好きですよね?

リット:好きですね(笑)。沖縄の女性も好きです。力強くて。黒髪も好きですね。

ラストの曲、印象的ですよね。これまでの世界の先にたどり着いた感があります。

トオル:このアルバムの罠だよね。1曲目から聴いていって、最後にあんな世界を見せられて、「こいつ、どうなってくんだろう?」って思ってほしいという思いを込めて、曲順を考えました。

リット:型にはまることなく、自由にやってますね。その分、「生きてきたのかな」って思います。日頃、見たり、考えたりしてることがオリーヴさんとの曲に写せたのかな。でも、「ふと」ですよね、ほんとに。流れっていうか。"G.O.D"は、トラックを作ってるアーロンさんがぶっ飛んでる人で。面識なかったんですけど、「ラップやってるんでしょう? ビート聴きに来ない?」って言うから「何だ?」って思いながら(笑)。人とのつながりでそのまま作っちゃったんですよね。

フィーチャーされているサイファーは誰ですか?

リット:俺の女です。ポエトリーやってるんですよ。

トオル:リットの3倍くらいぶっとんでるから(笑)。突然、〈ラヴ・ボール〉に来たんっすよ。いきなりマイク持ち出してしゃべりはじめて。「何してんの? あの人」って。この時期、いろいろな人に出会って、いろいろな音楽に出合って、そういうことが多かったですね。アルバム制作を通して、いい意味で、ヒップホップってこんなんだったなっていうのを確認できましたね。いる人でやって、ある物で作るっていう。

アルバム前半の多くのトラックを手がけるネクストはどういう方なんですか?

リット:沖縄の先輩ですね。沖縄には、トラックメーカーの歴史があまりないというか。若い連中は、何かあったらネクストみたいな。ネクストのところに行って、「ちゃす! 何かありますか?」(笑)。そんな感じですね。アルバム前半の作品は、けっこう早い段階でできてましたね。

そうなのかなって思いました。

トオル:聴いててわかるっすよね。(アルバム後半にいくにしたがって)オリジナリティが増してく。

"女 -HITO-"はボーナストラック的な意味合いがあるから別として、"ボツ空身"のリリックだけ歌詞カードに載せていないのは、意味があるんですか?

リット:30分くらいでできたんですよ。わりとすぐできちゃったんで、「別に」と思ってたんですよ。だけど、歌っていけばいくほど味があるなって。後から聴いたら、けっこう、自分の心理を歌ってるのかなと思って、好きになりましたね。アルバムに入る予定もなかったんです。

そうなんですか? 

リット:何気に書いたものだから。ちょうど、彼女と出会ったくらいの頃かな。あいつと出会って、いろいろ変わりましたね。面白いもんな(笑)。

いつの時代も困難 王朝からゲットー、今はリゾート 噛めば噛むほど味が消えるの...... 隠し味政府のスパイス オーマイゴッド オジーオバーの姿受け継ぐ気持ち崩さんさ オトーオカーの姿でかい気持ちをありがとな 
"ミライニナイ"

"ミライニナイ"は、「ニライカナイ」に由来するんですか?

リット:初めて気付いてくれた(笑)。

ほんとに?

トオル:逆に、うちなーんちゅ(沖縄県出身の人)は気付かないんだよな。

 "ミライニナイ"は「ニライカナイ」をもじったタイトルだ。「ニライカナイ」とは、沖縄県などに伝わる他界の概念で、いわゆる理想郷のこと。このままいけば「理想郷は未来にない」とうたっている。

リット:本土の人は、沖縄をリゾートだと思ってるから。

トオル:俺たちは真逆だもんね。

リット:そこに疑問を感じないかな? 沖縄の問題っていろいろあるじゃないですか。本土には、「沖縄は国からお金をいっぱいもらってるんだから」っていう考えもあると思うんですよ。それも分かった上で、もう1回確認ですね。沖縄のラッパーは、1曲は必ず沖縄について書くんですよ。何となくそういう流れがあって。沖縄の問題は、俺らにとって生まれつきみたいなもんですからね。

生まれる前からずっと続いてますよね。とくに沖縄は、先祖崇拝だし、代々伝わる思いや考えなど、本土の人間とは違うものがあると思います。

リット:島の文化とか歴史とかありますよね。これからが大事になってくると思うんですよ。基地問題もあるけど、10年後の沖縄はリトル・トーキョーになってるかもしれんし、もっと危ない状況になってるかもしれない。観光地化もさらに進んで、外国人がもっと増えてるかもしれないし。

トオル:いまもうすでにチャイニーズが増えてる。

リット:だから、ナイスなタイミングじゃないですか? この土地はこれからどうなるのかなって。

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実際、国のばらまきの金でみんな暮らしてきてるから、もし、基地がなくなったら食えん人もいっぱいいるし。掘り起こせば、戦争に負けて、アメリカがここに基地を作った時点で、アメリカに依存しようっていうのは、戦後からはじまってることで。いまさらどうしようと思っても、矛盾だらけで、もう回らないわけじゃないですか? 

普天間基地問題について、鳩山が首相としては初めて県外移転を取り上げた時、どう思いました?

トオル:絶対無理だと思ってましたよ。

リット:反対してもどうせダメだって。

トオル:反対派と賛成派が意見を交わせればいいですけど、賛成派は現れないから、結局、時間稼がれてるだけ。それに、「反対」って言ってない人は全員「賛成」だっていう無条件の票みたいなものがあって、それはおかしいだろって思うんです。原発問題もそうだと思うんですよ。「デモに何万人集まりました。すごいね」。でも、「東京都に何十万人もいる中の、デモに何万人って言われても別にたいしたことない」っていう感じじゃないですか? 基地問題も同じで。実際、国のばらまきの金でみんな暮らしてきてるから、もし、基地がなくなったら食えん人もいっぱいいるし。掘り起こせば、戦争に負けて、アメリカがここに基地を作った時点で、アメリカに依存しようっていうのは、戦後からはじまってることで。いまさらどうしようと思っても、矛盾だらけで、もう回らないわけじゃないですか? 

リット:最近思うのが、人種問題になってるってこと。基地のなかにいるアメリカ人が悪いわけじゃないし、中国人は「(尖閣諸島は)俺たちの土地だぞ」ってこっちをにらんでる。この島で人種がぶつかり合うようになったら、それこそ本当に良くないなって思って。だから、開き直るわけじゃないけど、沖縄には本当の平和があるからこそ、基地があるし、中国にもにらまれる。それを受け入れてあげようっていう、ピースな島なんだって考えることもありますね。薩摩に侵略された時も、武器を取り上げられて何もないなかで、空手だけで戦ったっていう歴史もある。この土地がそういう場所なのかな。平和について考えさせられる島っていうか。
 広島や長崎もあるのに、沖縄だけが「俺ら、かわいそうだろ?」っていうのも違うと思うし。だから、沖縄だけどうこうっていうのはもうやめようぜって思いますね。でも、この土地に生まれて良かったと思ってます。俺は誇りに思ってます。本土から来た人も沖縄に興味を持ってくれてるし、その分、胸張っていられるところもある。「俺らの島ってめっちゃいいよ」って言うんです。

世代によって、考え方は違いますか?

リット:かなり違いますね。本土でいじめられてた人たちもいるんで。

トオル:不動産屋で家借りられないとか。本土の人からすると、沖縄がまだ外国みたいな頃で、沖縄の人には家貸さないっていう時代があった。沖縄の出入りにはパスポートが必要だったし。本土に対する思いは、いまの若い人たちはだいぶくだけてきてると思うんですけど、俺らの親世代は、相当警戒してるっすね。

リット:何で「ナイチャー(本州の人)、ナイチャー」って言うのかも、俺たちにはわからないし。

トオル:いろいろあったんだろうなって。

リット:侵略されたり、裏切られたり。去年のオスプレイ(強行配備)のときに痛感しましたね。この歳になって、初めて実感でわかりました。(これまでデモが少なかった)那覇でもガンガンやって、あれだけ沖縄の人が頑張ったのに、「あー、本当に来ちゃうんだ」って。

 インタヴューは赤土レックのスタジオでおこなわれた。なかに入ると、壁に貼られた地元新聞の記事が目に入った。オスプレイ強行配備のニュースが、一面で大きく報じられていた。
 昨年10月、普天間飛行場に計12機のオスプレイが到着した。前月に、約10万3千人が参加した「オスプレイの配備に反対する県民大会」が行われるなど、地元の反発が強まる中でのできごとだった。

トオル:若者たちがネットを通じてデモの情報を知って、いままでよりたくさん集まるようになったと思うんですよ。それでも、全然無理だった。「もう決まってるから」っていう感じだったじゃないですか?

リット:2日間くらい立ち直れなかったですよ。オジー(おじいさん)たちが言ってたのは、こういうことだったのかって。小学生の頃に(米兵による少女)レイプ事件が起きて、いけないことが起きてることはわかったけど「どういうことなんだろう?」って思ってた。だから、オスプレイが目の当たりにした瞬間でしたね。

トオル:今後の沖縄について考えましたね。いまも、本当にそればっかり考えてる。現に、ずっと(オスプレイが)飛んでるじゃないですか?

リット:飛行禁止区域も飛んでますから。

トオル:県内には、オスプレイをプッシュしてる奴らもいるし、ファンクラブもある。逆に安全なんだよって。でも、どこの統計だよって思いますね。

おふたりとも本土での生活の経験がありますよね。沖縄に関するニュースの報道のされ方に温度差を感じませんでした?

トオル:向こうのテレビで(ニュースが)やってないことに驚きました。

沖縄の新聞やテレビでは、毎日、基地問題がピックアップされてますもんね。

リット:去年の12月に、オスプレイのサウンド・パレードに参加したんですよ。

トオル:10台くらい装甲車が走って。ヒカルさんも一緒で。

リット:俺らの目線で参加できて、意味があったと思いましたね。いままでと違う見方もできたし、考えることもできた。「デモ」ってやったら、響きが悪かったんじゃない?

トオル:俺の親は、こんなの嫌がるんですよね。どうせ無理だって。戦争に負けた俺らの親より上の世代は、死ぬつもりで戦ったのに、国が負けたって言っただけで、いきなり「負け」になったわけじゃないですか? 死んでもないのに。だからたぶん、(基地問題など国の政策に)反対し続けて、でも、勝てなくて。俺らの親は、そういう姿をずっと見てきたから、諦めてる世代なんですよね。今年の正月、親父に初めて「世界平和ってあるのかな?」って聞いたら、「お前が戦争して勝つしかないよ」って言われたんですよ。たぶん、その考えは間違ってるって思ってるんですけど、でも、それしかない。何してもかなわんから、本当にかなえたいんだったら、戦争して勝て。たとえ、殺し合いの戦争じゃなくても。

DJカミカズ:いまの話、そのまま"G.O.D"を聴いてるような感じがした。

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コージョーっていうラッパーからニューヨークの事情を聞いたら、基地のなかにいる奴らの多くはゲットー出身者で、若くて、まだ何もわからないときに、「金欲しいでしょう? だったら、軍に入りなよ」って言われて。奴らも国にハメられてるんだよって。

生まれたときから、代々引き継いでいる思いの深さや厚みのようなものがあって、それは他の土地の同世代の人間には、なかなかない感覚というか。

トオル:良くも悪くも、特別ですよね。

リット:いまはもう「戦争ってこうだったんだよ」っていうより、命の尊さが受け継がれてるように思うっすね。

いまの若い世代は、カルチャー的には米軍基地で働く外国人から影響を受けたりもしてますよね。友人もいるし。でも、基地問題は、政治絡みの問題だから、一概にいいとか悪いとか言えない、複雑な立場なのかなと思いますよね。

リット:最近も読谷で、米兵が中学生を暴行して逃げた事件があったけど、だからって「外国人は(みんな)ダメ」って言うのは、決して良くないこと。コージョーっていうラッパーからニューヨークの事情を聞いたら、基地のなかにいる奴らの多くはゲットー出身者で、若くて、まだ何もわからないときに、「金欲しいでしょう? だったら、軍に入りなよ」って言われて。奴らも国にハメられてるんだよって。

トオル:軍事に目を向けさせるために、貧困差を付ける。仕方ないよな。米兵が悪いわけじゃないし。

リット:ここ数年、見方が変わってきたよな? 昔の沖縄に黒人はいたのかと思って、タクシーの運転手に聞いたら、「いたよ」って。「黒人ってどうだったの?」「仲間だろ。あいつらは何もしないよ」って。俺らはブラック・ミュージックが大好きだから、黒人に親しみを感じるけど、当時からそういう目線で見てる人もいたんだと思って。

普天間基地移設問題については、移設先の辺野古の環境的な問題も指摘されてますよね?

リット:ジュゴンとか、珊瑚礁とか?

沖縄の人から見て、そういう視点からの問題はどう考えてますか?

リット:本土の人の方が熱心ですよね。旅行で沖縄に来て、見て、くらって、そのままずっと居続けるとか。科学者とか医者の人も多くて、沖縄の人はそういう人たちに助けられてますよ。いろいろな知識を分け与えてもらって。

トオル:最近よく昔の沖縄に関する本を読むんだけど、あの時代の本って内地(本州)の人が書いてるものばっかりな気がするんですよ。その世代の沖縄の人は、そういうことを表現したがらないんだと思うんですよ。

オリーヴ・オイル、イル・ボスティーノ、ビッグ・ジョーの"MISSION POSSIBLE"はどう思いましたか?

リット:聴いてなかったんですよ。

そうなんですか? 先日、〈ラヴ・ボール〉でおこなわれたビッグ・ジョー主催のイヴェント〈ユナイオン〉で一緒にやってましたよね?

リット:(笑)ジョージさんがライヴでやるってなったから、パンチラインだけでも覚えようと思って(笑)。でも、できないから、横でとんでるふり(笑)。あまりにも失礼だ。歌えんかったらヤッケーだし。でーじ(めっちゃ)緊張したんっすよ。フワフワしながらやってました。ジョージさんに「サビわかる?」って聞かれて、「はいはい。携帯でリリック見てます!」って(笑)。俺の友だちは聴いてましたよ。

沖縄では、賛否両論あったとも聞きました。

リット:それはあるだろうなと思ってやったんじゃないですかね。

ライヴでビッグ・ジョーは「沖縄のどのくらいの人がこの曲知ってるかな?」って言ってから、はじめましたよね?

リット:沖縄を訪れて、状況を見て、ヤバいことになってるって感じたことを書いてくれたと思うんですよ。他の奴がやってたら「バカヤロー」ってなると思うんですけど(笑)、嫌な気持ちにはならなかったですね。ビートもかっこいいしな?

〈ユナイオン〉は、レギュラーイヴェントになるんですか?

トオル:最低でも、年に1回はやりたいって言ってましたね。

ライヴ後に友人から聞いた話ですが、北海道だと、ビッグ・ジョーにフリースタイル挑んでくる人はもうあまりいないらしいのですが、沖縄はまったく違ったと。フロアで地元の若い子たちとやってましたよね。

トオル:(笑)楽しそうだったな。ずっとやってたよな? 

リット:フリースタイル・セッションみたいな。

北海道のフィーメールMCオナツも、沖縄のラップ・シーンがヤバすぎて帰れないでいるっていう話を友人から聞きました。

トオル:そうそう。

リット:あいつは〈ラヴ・ボール〉で、ほぼ毎週、くたばるまで飲んでます。

トオル:もう仲間っすね。

先日、リットさんが共演したオムスビはどうでした?

トオル:相当くらってたな。俺らがゲストを呼ぶ時はいつも、「絶対負けん」っていう気持ちで呼んでます。

リット:電話が来たっすね。「あ、『AKEBONO』聴きました」「何でかしこまってる?」って(笑)。

同じMCから見て、沖縄のラップ・シーンはヤッケーんだと思います。

リット:周りの反応にビックリしてます。欲が出て来ましたよね。次はどんなことやろう、みたいな。

"血と骨 生身の歴史が飾りない時空生み出した 吸い込む悲劇上の空 俺たちの気 囲む強さ"("NINGEN State Of Mind"より)

 沖縄の土は赤い。赤土だ。青い空の下、青い海を望み、地に足をつけ、踏みしめるのは、たくさんの悲しみが詰まった赤い土だ。服につくと、繊維の奥まで染み込み、酸化して、洗濯してもおちない。赤土クルーが放つヴァイヴスもまた、聴く者の魂に深く入り込み、じわじわと化学反応を起こして、心をつかんでくる。
 沖縄の地元MCが集う〈ラヴ・ボール〉。若いラッパーが次から次へと登場する。ハーコーな連中もわんさかいる。そして、ほとんどの人が叫ぶ。「ピース」と。彼らの体から沸き起こるこの言葉が、自然と胸に響く。熱く、厚い思いが、今夜も、「愛と平和がけんかする」この島のあちこちに、あたたかな輪を作っている。

輪になる笑い声をひとつに
癖になる笑い声に幸と価値
"風音"

 ひと息入れて、酒を浴び、うたい、踊る。何があっても「踊るときは笑顔だね」。ここの人たちは、楽しむ才能に長けている。

 まずは、リットの『AKEBONO』を聴いてほしい。願わくば、沖縄まで来て、〈ラヴ・ボール〉でライヴを体験してほしい。それがかなわないなら、せめて、近くの人はツアーに足を運んでほしい。

3/31 @ 沖縄県沖縄市 OTO-LAB https://otolabkoza.ti-da.net/
4/6 @ 沖縄県那覇市 Cyber-Box
4/7 @ 沖縄県沖縄市 喫茶カラーズ
4/12 @ 沖縄県那覇市 LOVEBALL https://loveball.ti-da.net/
4/13 @ 渋谷 LOUNGE NEO https://loungeneo.iflyer.jp/venue/
4/20 @ 町田 The Play House https://www.theplayhouse.jp/
4/26 @ 京都 BLACK BOXXX https://www.kyoto-blackboxxx.com/
4/27 @ 大阪 CONPASS https://conpass.jp/
5/3 @ 町田 flava https://www.machida-shi.com/S112523.html
5/5 @ 渋谷 NO STYLE https://dp43053767.lolipop.jp/
5/10 @ 池袋 bed https://www.ikebukurobed.com/
5/11 @ 吉祥寺 warp https://warp.rinky.info/

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