「ZE」と一致するもの

Ben Vida - ele-king

 ベン・ヴィーダは、シカゴのミニマル・アンサンブル・バンドとして有名なタウン・アンド・カントリーの元メンバーであり、バード・ショウ(Bird Show)名義で〈Kranky〉からアルバムをリリースしていた音楽家である。タウン・アンド・カントリーのアルバムは2006年にリリースされた『Up Above』、バード・ショウとしては2008年にリリースされた『Untitled LP』が、それぞれ現時点ではラストになっているが、ベン・ヴィーダ名義ではコラボレーション、ソロなど10年代以降もコンスタントにアルバムもリリースし続けていく(もっとも最初のソロは2000年の『Mpls.』である。とはいえベン・ヴィーダ名義でリリースが活発になるのは2010年の『Patchwork』、グレッグ・デイヴィスとの共作『Ben Vida, Greg Davis』からのこと)。〈PAN〉、〈Shelter Press〉、〈iDEAL Recordings〉などの著名なエクスペリメンタル・レーベルからアルバムをリリースし、マニアたちから密やかな(という言い方もおかしいが彼の作風からしてそういう方が合っているようにすら思えてしまう)注目を浴びた。
 加えて2010年には韓国においてグルーパーことリズ・ハリスとのライヴ、2013年にはニューヨークのブルックリンにあるイシュー・プロジェクト・ルーム(ISSUE Project Room)におけるタイヨンダイ・ブラクストン、サラ・マゲンハイマーらのプロジェクトなどのコラボレーションもおこなうなど、ライヴ活動も展開している。

 その彼が2019年に〈Shelter Press〉からUSBカード/データでリリースした4時間に及ぶドローン作品が、本作『Reducing The Tempo To Zero』である。この『Reducing The Tempo To Zero』には、全4曲各1時間のドローン・アンビエント・トラックが収録されている。4時間という途轍もない収録時間の『Reducing The Tempo To Zero』だが、その時間に怯む必要はない。長くじっくりと聴覚の遠近法を溶かすように聴き続けても良いし、カジュアルに、そのときの気分で聴きたい時間だけ聴いても良いだろう。どちらでも耳をリフレッシュしてくれるような効果を得ることができるはず。とにかく美しい音響作品なのだ。
 全4曲、サウンドのトーンは異なっている。聴き続けるとトーンの変化に聴覚が敏感になり、各曲における音響の微細な差異が明確に感じられるようになってくる。どの曲も、ひとつの持続ともうひとつの音が重なり、アンビエンスなオブジェのような音響空間を持っている。特に最終曲 “Reducing The Tempo To Zero (Part 4)” では、それまでのミニマムな音響を総括し拡張するようなドローンが1時間に渡って展開されており、息を呑むほどの美しさに圧倒された。これは本作のマスタリングを担当したステファン・マシューのアンビエント/ドローン作品にも共通するムードである。持続音の細やかな音のテクスチャーと時間意識の拡張だ。つまりはマシューに代表される00年代中期以降の現代ドローン/アンビエントの系譜を継承する作品の証ともいえよう。

 『Reducing The Tempo To Zero』は、ベン・ヴィーダのソロの系譜においても決定的な作品と私は考える。彼は2012年に〈PAN〉からリリースされた『Esstends-Esstends-Esstends』以降、鉱物的な響きによるミニマムな楽曲を突き詰めてきた。2016年に〈Shelter Press〉から発表された『Damaged Particulates』はその完成形といってもよいだろう。じじつ、それ以降、アルバム・リリースは途絶えた。2018年には〈iDEAL Recordings〉からマリナ・ローゼンフェルドとの共作『Feel Anything』をリリースしているが、次のソロ名義の発表に4年の月日を要したことは、ヴィーダが新たな音響作品を模索していた証左に思えてならないのだ。
 だがそのような長い時間こそ、彼には必要だったのではないかといまは思う。時間をかけること。時を経て変化するサウンドに耳を澄ますこと。時間が染みわたるように感じる瞬間が生まれること。持続する音響を聴き込むことで得られる無限からゼロへの時間の往復、そのような時の流れを音楽に求めること。
 すると『Reducing The Tempo To Zero』が、4時間もの時間を必要とするアンビエントだった理由もみえてくる。時間をかけて音/音響/音楽を聴き手の意識に、音の存在と変化のさまを浸透させるため、ではないか、と。かつて彼がメンバーだったタウン・アンド・カントリーもまたそのようなミニマムな室内音楽を展開していた。すべては反復と持続音の中に反復し、円環するのだ。それはもしかしたら、とても閉塞した世界かもしれない。だがしかし、ゼロと無限は両極であり同一のものでもある。ドローン音響音楽はそれを教えてくれる。

 時と音が反復し、反響し、交錯し、持続する。そうして長い持続の音響・音楽が生まれる。聴き手はその持続の時に、永遠でもあり、無でもある時間を意識する。本作『Reducing The Tempo To Zero』のアンビエント/ドローンには、そんな瞬間がそこかしこに鳴っていたのだ。まるでマーク・ロスコの絵画作品を前にしたときのように時が凍結するような感覚。『Reducing The Tempo To Zero』は、10年代の最後に現われた美しく、長大で、しかし優雅ですらある、現代ドローン・ミュージックの傑作である。

Daniel Avery - ele-king

 アシッドびしびしのダンス・レコードから『A.I.』シリーズのごときリスニング体験へ──その歴史をたどりなおすかのような音楽性で昨今の90年代リヴァイヴァルの筆頭にのしあがったともいえるイギリスのDJ/プロデューサー、ダニエル・エイヴリーがふたたび日本にやってくる。4月17日、会場は VENT。きっとまたすばらしい夜を演出してくれることだろう。詳細は下記。

Andrew Weatherall をはじめ、世界中のメディアが称賛する
トップ・テクノDJ、Daniel Avery が再び VENT にやってくる

Andrew Weatherall が大絶賛し、世界中のメディアが手放しで褒め称えた2枚の傑作アルバム『Song For Alpha』と『Drone Logic』。2010年以降のテクノ・シーンを駆け上がるようにスターダムにのし上がった Daniel Avery (ダニエル・エイヴリー)が4月17日の VENT に再びやってくる!

イギリスのテクノ・シーンの系譜を受け継ぐ Daniel Avery は、Andrew Weatherall の強力なフックアップを受けたあと、2012年にはロンドンの名門クラブ Fabric による人気ミックス・シリーズのコンパイラーとして選出された。その後 Erol Alkan のレーベル〈Phantasy Sound〉から2013年にデビュー・アルバム『Drone Logic』をリリース。また Fabric でも自身のレジデント・パーティーを始めイギリスだけでなくヨーロッパを代表するトップ・アクトの仲間入りを果たした。

2014年には BBC の人気番組『Essential Mix』、2016年には『DJ-Kicks』のミックス作品を手掛け、人気DJが辿ってきた道を順当に歩んできたと言えるだろう。そして2018年にはセカンド・アルバム『Song For Alpha』をリリースし、その人気はまさにワールドワイドで不動なものになったのだ。Four Tet や Jon Hopkins などによるリミックス作品もリリースされ、日本のレコードショップでも話題になっていた。

昨年には VENT での待望の初ギグを披露し、満員御礼のオーディエンスを狂喜乱舞させたことも記憶に新しい。「音楽は世界の全ての戯言からあなたを連れ去る力があり、暗闇の中で光を照らしてくれる。愛は世界を前進させ続けてくれるものなんだ。私にとってそれが最大のインスピレーションなんだ」という Daniel Avery の最新DJセットを再び VENT のフロアで直に体験してほしい!

[イベント概要]
- Daniel Avery -

DATE : 04/17 (FRI)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,600 / FB discount : ¥3,100
ADVANCED TICKET : ¥2,750
https://jp.residentadvisor.net/events/1385980

=ROOM1=
Daniel Avery

And more

VENT:https://vent-tokyo.net/schedule/daniel-avery-2020/
Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/192869298754685/

※ VENTでは、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case. Thank you for your
cooperation.

Jockstrap - ele-king

 ジョックストラップといえば男性用の下着だけれど、そう名乗るロンドンのオルタナティヴ・ポップ・デュオが〈Warp〉のファミリーに加わることになった。年内になんらかのリリースを控えているとのことで、本日ファースト・シングル “Acid” がデジタルで公開されている。試聴・購入はこちらから……って、ぜんぜん「アシッド」じゃないやんけ! いや、でも良質なポップです。

 ヴォーカリストにしてヴァイオリニストでもあるジョージア・エラリー(Georgia Ellery)と、おそらくはエレクトロニクス担当だろうテイラー・スカイ(Taylor Skye)の2名からなるこのプロジェクトは、2018年の4月にミニ・アルバム『Love Is The Key To The City』で〈Kaya Kaya〉からデビューを飾ったばかりの新星だ。
 ふたりともロンドンのギルドホール音楽演劇学校──チェリストのジャクリーヌ・デュ・プレや歌手のダイドを輩出したことで有名──の出身で、同年9月にはディーン・ブラントのミックステープ『Soul On Fire』にミカ・レヴィとともに参加、10月にアイスランドのフェスティヴァルに出演した際には、ビョークがわざわざ彼らのギグを観にきたという。
 翌2019年にはデーモン・アルバーン率いるアフリカ・イクスプレスのショウに参加する一方、リミックス盤『Lost My Key In The Club』を発表、BBCに紹介記事が掲載され、同年ファースト・アルバムをリリースしたばかりのアリゾナのヒップホップ・トリオ、インジュリー・リザーヴ(アルバムではフレディ・ギブスJPEGMAFIA をフィーチャー)のUKツアーに同行してもいる。

 それぞれソロ活動も熱心で、エラリーのほうは昨年、アンダーワールドの「Drift」シリーズに参加するかたわら俳優としても活躍、コーンウォールの漁村で起こった観光客と地元民との間の緊張を描いた話題のドラマ映画『Bait』──同作は BAFTA(英国アカデミー賞)の「英国映画賞」にケン・ローチ『家族を想うとき』などと並んでノミネートされ、つい先週「英国デビュー賞」を勝ちとったばかり──に出演し、先月その映画のライヴでグウェノーとともにパフォーマンスを披露している。スカイのほうは昨年末、上述のインジュリー・リザーヴのアルバムをほぼまるごとリミックスした音源をユーチューブに公開している。
 というわけで今後の活躍が楽しみな新人の登場だけれども、名前が名前だけに、検索するときはひと工夫されたし。

JOCKSTRAP
オルタナ・ポップ・デュオ、ジョックストラップが〈WARP〉と契約!
シングル “ACID” を解禁。

ロンドンで最も明るく、奇妙なポップを作り 出すデュオ、Jockstrapを聴くべきだ。 ──Dazed

催眠性エキゾティカ」 ──The Guardian

ロンドンを拠点にしたオルタナ・ポップ・デュオ、Jockstrap (ジョックストラップ)が、英名門レー ベル〈Warp〉と契約を結んだことを発表し、移籍後第一弾となるシングル “Acid” を解禁した。

Jockstrap “Acid”
https://youtu.be/oOXho8yVaKk

ジョージア・エレリー、テイラー・スカイの2人による Jockstrap。2018年にデビュー・ミニ・アル バム『Love Is the Key to the City』を発表以降、リミックス・バージョン『Lost My Key In The❤️ Club❤️ 』を公開したことをはじめ、非常にエキサイティングな18ヶ月間を過ごしていた。
エレリーは英国インディペント映画賞を受賞(BIFA)、第73回英国アカデミー賞で新人賞を獲得したコー ンウォールの映画『BAIT』に出演しており、ウェールズの歌手グウェノー・ピペットとともに BFI で映画 のスコアのパフォーマンスを披露。一方スカイは独自にソロ・プロジェクトを進め、以前 Jockstrap とともにUKツアーを廻った仲間であるアリゾナのバンド Injury Reserve の最新作をリミックスした。エレリーは、昨年 Underworld が行なった実験的プロジェクト『DRIFT』にも参加している。

二人で参加したプロジェクトも多く、Dean Blunt の『Soul on Fire』(2018)では A$AP Rocky & Mica Levi らに並び参加アーティストとして名を連ね、昨年行われた blur / Gorillaz のデーモン・アルバーン率いる Africa Express のサーカステントで行われた1回限りの完売公演ライブの客演も果たしている。

本日解禁されたシングル “Acid” はスカイがプロデュースしており、バンドのリリースの中で初めて彼のヴォーカルをフィーチャーしている。エレリーはこう語る──「これは私の兄弟に向けた曲なの。広大で、活気があって、愛に満ちている。テイラーはこの美しい音世界をデザインしてくれた。8分の6拍子のバラードを彼に送ったら、予想外なものが返ってきたわ」。スカイはこう語る──「ジョージアが圧倒的で表情豊かな、柔らかい ピアノのデモを送ってくれたから、僕もベストを尽くしたよ。制作は本当に楽しかった。今までに作った中で、 一番元気づけられる歌だと思うよ。夏の雰囲気もあるしね」。

『Love Is Key to the City』と『Lost My Key In The❤️ Club❤️ 』が、Loud And Quiet、Dazed、Noisey、BBC、The Guardian、Apple など数々のメディアから賞賛され、強いサポートを受けた彼らが、2020年いよいよ世界に向けて活動を本格化させる。現在も新作を制作中であり、今年の後半には〈Warp〉からリリースされる予定だ。リリース予定を前に、初のライブやアンナ・メレディスのサポートなども決定しており、これからが何より楽しみなバンドと言えるだろう。

label: Warp Records
artist: Jockstrap
title: Acid
release date: 2020.02.04 TUE ON SALE

MOMENT 2 - ele-king

 日本のエレクトロニック・ミュージックを支えるレーベルのひとつ、〈PROGRESSIVE FOrM〉が新たにコンピレーション盤をリリースする。同コンピは2015年にリリースされた『MOMENTS』の第2弾にあたるもので、エレクトロニックありアコースティックありの多彩なサウンドを堪能することができるようだ。Anemone、Fugenn & The White Elephants、網守将平、VOQ (オルガノラウンジ)、LASTorder、M-Koda、fraqsea、Smany、Utae など多数のアーティストが参加しているとのことで、現在の同レーベルの方向性を確認する良いチャンスにもなるだろう。本日2月5日(水)から、Ototoy にて一週間先行で 24bit ハイレゾ先行配信が開始。詳細は下記より。

Various Artists "MOMENT 2" PFCD95 2020.2.12 release
https://www.progressiveform.com

発売日: 2020年2月12日(水曜日)
アーティスト: Various Artists (バリアスアーティスト)
タイトル: MOMENT 2 (モーメントツー)
発売元: PROGRESSIVE FOrM
販売元: ULTRA-VYBE, INC.
規格番号: PFCD95
価格(CD): 税抜本体価格¥2,000
収録曲数: 17曲
JAN: 4526180510567

◆Tracklisting

01. Anemone - Killing Me Softly
02. Yuichi Nagao - Harmonia feat. Makoto
03. Shohei Amimori – Kuzira with Satoko SHibata
04. Fugenn & The White Elephants - State Of Mind feat. KURO from iLU
05. VOQ - Ĉielarko
06. Satohyoh - Sukimakaze To Mikansei Na Uta
07. Fraqsea - Always With U
08. Super Magic Hats - Sleepless
09. Guitarsisyo - Redo feat. KURO from iLU
10. Abirdwhale - I Never Know
11. Nu:Gravity - Dorime
12. M-Koda - I Need Run Ahead feat. Mon
13. iLU - Today
14. Soejima Takuma - Coelacanth feat. Smany
15. LASTorder - Clockwork feat. Utae
16. Ninomiya Tatsuki - Regret
17. Kita Kouhei - I Can Not Remember Blue

◆【MOMENT 2】紹介文

時をかける調べ、永遠に続く響き

Fugenn & The White Elephants、網守将平、VOQ (オルガノラウンジ)、LASTorder、M-Koda、fraqsea、Smany、Utae をはじめとした多数アーティストが参加した必聴コンピ!

2015年12月にリリースされた『MOMENTS』の第二弾となる本作では、エレクトロニックやアコースティックをベースにした多様なサウンドにボーカルが溶け込み、それぞれの要素が美しく重なり合った至高の楽曲群より構成されています。
様々な季節やシチュエーションで多くの人が心地よくまた味わい深く堪能出来るアルバムです。

また本作収録17曲(約76分)中12曲にはオリジナルのミュージックビデオもあり、視覚の面からもお楽しみ頂ける内容になっています。

ハイ・クオリティーな音の魔法箱であり、多くの方に長く聴いて頂けるアルバムです。

Kamasi Washington - ele-king

 本日、カマシ・ワシントンが未発表曲 “The Bombshell’s Waltz” を Amazon Prime 限定で配信している。同曲は2007年のアルバム『The Proclamation』のために録音されたもののお蔵入りになっていた楽曲で、今回、カマシを追ったドキュメンタリー映画『Kamasi Washington Live at The Apollo Theater』公開の発表にあわせ、めでたく解禁されることとなった。同映画は2月6日より、おなじく Amazon Prime 限定で公開予定。カマシの2018年作『Heaven And Earth』のレヴューはこちら、カマシ本人へのインタヴューはこちら

KAMASI WASHINGTON
カマシ・ワシントン、ドキュメンタリー映画『Kamasi Washington Live at The Apollo Theater』が Amazon Prime で2月6日に公開決定!
未発表曲 “The Bombshell’s Waltz”も Amazon Music 限定で本日から配信開始!

新世代ジャズ勃興を象徴するサックス奏者、カマシ・ワシントンは、Amazon Prime 限定で2月6日にドキュメンタリー映画『Kamasi Washington Live at The Apollo Theater』を公開することを発表した。また、映画の発表に合わせて未発表曲 “The Bombshell’s Waltz” も Amazon Music 限定で本日から配信開始された。

米ポピュラー音楽を語る上では外せないNYハーレムに位置する伝説的音楽ホールのアポロシアターでのコンサートでのライブの様子やそのライブへの準備に取り組む姿、ハーレムのランドマークを訪れている様子などに密着したドキュメンタリー映画となっている。ライブでは『The Epic』『Harmony of Difference』『Heaven and Earth』など各アルバムからの楽曲が披露されている。

この映画の公開は、『The Epic』と『Heaven and Earth』が The New York Times、Rolling Stone、Pitchfork など数多くのメディアに「過去10年間のベストアルバム」と称賛されたワシントンの一連の栄光を締めくくるものとなる。ワシントンは昨年、『Heaven and Earth』にインスパイアされたショートフィルム『As Told To G/D Thyself』がサンダンス映画祭2019で初公開され称賛の嵐を浴びたほか、ツアーも積極的に行っておりここ日本でもライブはソールドアウトとなるなど、今ジャズ界を率いる絶対的アーティストとなっている。

label: Young Turks / Beat Records
artist: Kamasi Washington
title: Heaven and Earth
release date: NOW ON SALE

国内盤2CD: YT176CDJP ¥3,000
高音質UHQCD仕様/歌詞対訳・解説冊子封入
輸入盤4LP: YT176 ¥OPEN

Various ‎Artists - ele-king

 『Vanity Box』
幻の音源が一挙再発~動き続ける音の先端だけをとらえた記録

〈ヴァニティ・レコーズ〉ほど謎と伝説に満ちた日本のインディ・レーベルはないだろう。一昨年に亡くなった阿木譲氏が『ロック・マガジン』の刊行と並行して78〜81年に主宰した大阪のインディ・レーベル(おそらくJ-インディ界最古)であり、そこからは、フューがリード・ヴォーカルをとったアーント・サリー、エレクトロニック・ユニットのDADAやシンパシー・ナーヴァスなどの作品がリリースされていた……熱心なロック・マニアであっても、おそらくその程度が平均的な知識であり、カタログ中の数枚はきいたことがある……といったところではなかろうか。

 〈ヴァニティ〉からは4年弱の間に11枚のLP(うちひとつは2枚組オムニバス・アルバム)、3枚の7インチ・シングル盤、6本のカセット・テープがリリースされ、その他にもロック・マガジンの付録として世に出た12枚のソノシート(79〜82年)もあった。タイトル数としてはたいした数ではないが、なにしろ各タイトル(ソノシート以外)のプレス枚数が各300〜500枚であり、カセット作品に至っては数十本程度のコピー商品だったため、リアルタイムで全てを聴いていた者は極めて稀だったはずだ。
 もちろん私も例外ではない。最初に聴いたのはアーント・サリー『アーント・サリー』(79年)だったが、それは友人にコピーしてもらったカセットであり、現物を入手したのは84年、コジマ録音からの再発LPだった。80年代にはシンパシー・ナーヴァスやダダなどいくつかの中古盤やコピー・カセットを入手したが、全作品制覇はとても無理だった。6本のカセット作品に至っては、全く聴いたことがなかったし。つまり、名前だけは知っているけど全容は霧の中……そんなレーベルだったのだ。40年間も。

 しかし今、そうしたモヤモヤがやっと解消される時が来た。昨年10月の一挙再発によって。リリースされたのは『Vanity Box』、『Vanity Tapes』、『Musik』という三つの箱だ。内訳は以下のとおり。

■『Vanity Box』11CD  限定500セット
 (/)内はオリジナル盤の発売年と品番 
・DADA『浄 (Jyo)』(78年/vanity 0001)
・SAB『Crystallization』(78年/vanity 0002)
・Aunt Sally『Aunt Sally』(79年/vanity 0003)
・Tolerance『Anonym』(80年/vanity 0004)
・あがた森魚『乗物図鑑』 (80年/vanity 0005)
・R.N.A. Organism『R.N.A.O Meets P.O.P.O』(80年/vanity 0006)
・Sympathy Nervous『Sympathy Nervous』(80年/vanity 0007)
・BGM『Back Ground Music』(80年/vanity 0008)
・Normal Brain『Lady Maid』(81年/vanity 0009)
・Tolerance『Divin』(81年/vanity 0012)
・7インチ・シングル集
  Sympathy Nervous「Polaroid」(80年/VA-S1)
  Mad Tea Party「Hide And Seek」(80年/VA-S2)
  Perfect Mother「Youll No So Wit」(80年/VA-S3)
  の各3曲、計9曲を収録。

■『Musik』2CD  限定400セット
 81年に「vanity 0010-11」としてリリースされた2枚組オムニバス・アルバム『Music』をそのままCD化。13組のアーティストによる計19曲を収録。タイトルのスペル(『Musik』)とジャケット・デザインは変更。

■『Vanity Tapes』6CD  限定300セット
 81年にリリースされた6アーティストのカセットテープ作品計6本のCD化。当時は単品での発売(それぞれ数十本ずつ)と共に、『Limited Edition Vanity Records Box Set』としてセットでも販売された。
・Salaried Man Club『Gray Cross』(81年/VAT1)
・Kiilo Radical『Denki Noise Dance』(81年/VAT2)
・Den Sei Kwan『Pocket Planetaria』(81年/VAT3)
・Invivo『B.B.B.』(81年/VAT4)
・Wireless Sight『Endless Dark Dream』(81年/VAT5)
・Nishimura Alimoti『Shibou』(81年/VAT6)

 つまり今回、『ロック・マガジン』付録のソノシート音源以外の全〈ヴァニティ〉作品が計19枚のCDとして一挙に再発されたわけだ。全国の読者から送られてきたカセット音源(おそらくほとんどが宅録)である『Musik』と『Vanity Tapes』に対し、阿木譲がプロデュースしてちゃんとスタジオで録音された『Vanity Box』のLP音源の方がクオリティが高いのは当然だが、といって、すべてが秀作というわけでもなく……。
 まずは『Vanity Box』に収められた全作品を、オリジナル盤の発売順に聴いていこう。

DADA『浄 (Jyo)』

 〈ヴァニティ〉の栄えあるLP第1弾は、キーボード(シンセサイザー/ピアノ)とギターのデュオ・ユニット、ダダのデビュー作である。ダダは、キング・クリムゾンの影響を受けたプログレ・バンド、カリスマのギタリストだった泉陸奥彦と、同じくプログレ系バンド飢餓同盟で活動していた小西健司によって結成された。本作のジャケットでは、平安〜鎌倉時代に描かれた「餓鬼草紙」が流用され、「鬱雲鉢」や「六神通」といった収録曲もすべて「餓鬼草紙」から着想されている。「イーノに捧ぐ」なるクレジットどおり、サウンド全体の土台にはアンビエント・ミュージックがあり、そこに彼らのルーツであるプログレが絡む、といった感じ。あるいは、ファー・イースト・ファミリー・バンド×ポポル・ヴーとでも言うか。そのサウンド・マナーは、当時の阿木譲の志向そのものだったと思われる。
 『ロック・マガジン』15号の編集後記に、阿木のこんな記述がある。「この2年、ずっと僕の心の中で暖め続けていた自身のレーベルである〈ヴァニティ・レコード〉も、いよいよ外に向けて活動を開始する時が来たようだ。第一弾として6月25日発売のダダのレコーディングのため一日中スタジオに籠る。泉陸奥彦君のギターを前面に押し出し、それに小西健司君のエレクトロニクス機器とピアノで作り出した簡素で静謐な音世界は心が洗われる」。『ロック・マガジン』創刊が76年2月なので、つまり阿木は雑誌創刊時からレコード制作を計画し、その第一号としてダダを出そうと考えていたわけだ。
 ちなみに、79年の『ロック・マガジン』26号では、「Vanity Records は無名だが才能をもったアーティストにレコード製作という機会を活用し、このレーベルを足場により広範囲に活動できることを目的として発足された」という文言があり、続いて、レーベルの制作方針として以下の4項目を挙げつつ、カセットテープでの応募も呼びかけている。
①エレクトロニクス・ミュージック
②“家具としての音楽”シリーズ(現代音楽)
③歌謡曲業界への進出
④実験的な新しいヴィジョンを持つ音楽(パンク、ニューウェイヴ、フリー・ミュージック、現代音楽等)
 ダダのデビュー作は、この中の特に①②に該当していたと言える。実は私は、本作のリリース直後(78年10月)に彼らのライヴを観たことがある。その時点ではまだアルバムをは聴いてなかったが、プログレ・マニアの間では「〈ヴァニティ〉が送り出した関西の新しいシンセ・バンド」としてけっこう話題になっていた。ライヴの印象は“稚拙なタンジェリン・ドリーム”といった感じで、正直退屈したのだが、その後にLPを聴いた時は、かなり楽しめた。78年の時点では、アルバムのコンセプトをライヴで十分に表現できるまでにはなっていなかったということだろう。彼らはその後メジャーからもアルバムを出し、バンド解散後も個別に活動を続けてきたこと(小西はP-MODEL他で、泉はゲーム音楽作曲家として活躍)は言うまでもない。

SAB『Crystallization』

 私はYoutubeが登場するまでSABの音を一切聴いたことがなかったし、どういう人物なのかも知らなかった。いや、今でも「〈ヴァニティ〉初期に、レーベルの専属エンジニア的役割を担っていた若者」ということぐらいしか知らない。今回の『Vanity Box』リリースに際して、発売元の〈きょうレコーズ〉は各ミュージシャンに再発許可及び版権返却の連絡をとったが、結局 SABとトレランス(後述)だけは連絡がつかなかった(行方不明)という。昔も今も謎の人物だ。一部でシタールやフルートなどのゲストも参加しているが、基本的には、当時19才だったという SABがシンセサイザー、ピアノ、ギターなど様々な楽器を多重録音したワンマン・ワーク。水音など自然音を混ぜるなどニューエイジ感覚を先取りしたエレクトロニク・サウンドはオール・レーベルのコズミック・セッションや70年代後半のクラスターにも通じるし、全体のバロッキーな迷宮感と瞑想性はちょっとマジカル・パワー・マコを思い出させたりもする。SABは本作発表後、インドの神秘思想家バグワン・シュリ・ラジニーシに傾倒し、間もなく音楽の世界から消えたというが、本作の世界は現在のヤソスやアリエル・カルマ、ララージなどとも確実につながっている。

アーント・サリー『アーント・サリー』

 本作に関しては、ここで改めて言及する必要もないと思う。シンガーのフューやギタリストの Bikke 等を擁した神話的バンドによる唯一のスタジオ録音アルバム。これこそは〈ヴァニティ〉の象徴であり、唯一、広く聴き継がれてきた〈ヴァニティ〉作品だろう。サラヴァ・レーベルにおけるブリジット・フォンテーヌ『ラジオのように』みたいなものか。本作を初めて聴いた時の衝撃は今も忘れがたい。当時19才だったフューはアンチ・ロック、アンチ・ヒッピーを身上としていたとかつて私に語ったが、確かに長髪ナマステ野郎もゲバ棒全共闘も一瞬に火炎放射器で焼き尽くしてしまうような凍りつくニヒリズムに満ちている。ジョン・ライドンがジュリエット・グレコに憑依したようなフュー(彼女は神戸のカトリック系超名門女子校出身)の歌声がカトリック的原罪意識と反カトリック的逸脱熱の間で揺れ動く様はなんともエロティックだ。
 以下の発言は、20年ほど前におこなったフューへのインタヴューからの抜粋。「突然ロック・マガジンのオフィスに行って、阿木さんにカセットを聴かせた。何の根拠もなく、なぜか〈ヴァニティ〉から絶対にアルバムを出せると思ってたんですよ。録音は一日でやりました。阿木さんは自分が元々歌手だったせいもあるんだろうけど、スタジオに入ってきて、お手本を示す感じで歌い出してね。勘弁してほしかったですよ、ほんと」。阿木譲の歌う怨念と自己愛いっぱいの“醒めた火事場で”も聴いてみたいけど。

トレランス『Anonym』

 ジャケ裏に書かれた文言「dedicated to the quiet men from a tiny girl」を元にナース・ウィズ・ウーンドが80年の2ndアルバムに『To The Quiet Men From A Tiny Girl』なるタイトルを付け、更に、かの《Nurse With Wound List》でも本作がリストアップされていた。といった事情もあって、海外のマニアの間では昔から人気が高い。日本では昔も今も知名度は低いけど、〈ヴァニティ〉から2枚のフル・アルバムを出した唯一のバンドだった。つまり、阿木譲は高く評価していたということだろう。トレランスは関西ではなく東京で活動していた丹下順子のソロ・プロジェクトで、2枚とも吉川マサミがギター他でサポートしている。シンセサイザー他によるノイジーな電子音とピアノ、語り風ヴォイスなどを駆使してモノトーンのキャンヴァス上に描かれた抽象画といった感じ。その手法と冷ややかなエロティシズムは、まさにナース・ウィズ・ウーンドやSPKなど当時の海外のノイズ・コラージュ・ワーク勢とも地続きだ。

あがた森魚『乗物図鑑』

 〈ヴァニティ〉のLP群中で最大の異色作ではあるが、前述したレーベル方針の③「歌謡曲業界への進出」を念頭に置きつつ①「エレクトロニクス・ミュージック」、④「実験的な新しいヴィジョンを持つ音楽」も取り込んでいるという点で、〈ヴァニティ〉ならではの作品だとも言える。“赤色エレジー”等のレトロ・フォークで知られたあがたと阿木は以前からの知り合いだったようで、制作に際し阿木は「コンセプトはテクノ・ポップで、泣きの曲はなし」と注文をつけたという(音楽史的には一応、この「テクノ・ポップ」なる新タームは阿木が考案したということになっている)。録音は、シンセサイザーやギターなど様々な演奏とアレンジを手掛けた前述のSABと、後述するノーマル・ブレインの藤本由紀夫が中心になっておこなわれ、向井千恵、INU の北田昌宏、コンチネンタル・キッズのしのやん(篠田純)、ウルトラ・ビデのTaiqui などがサポート。また、ジョイ・ディヴィジョン風の名曲“サブマリン”ではコーラスでフューが参加し、“エアプレイン”ではあがたが敬愛する稲垣足穂の肉声(ラジオでの対談音源)をコラージュ使用している。多士済々のサポート陣による音作りは、〈ヴァニティ〉のカタログ中、いやあがたの全作品中でも際立って多彩かつ実験的であり、また、翌81年から始動するあがた版テクノ・ポップ・ユニット、ヴァージンVSヘの助走となったという点でも非常に重要な作品だ。しかし、当時まだフォノグラムとのアーティスト契約が切れてない時期だったため、発売後間もなく回収され市場から姿を消したのだった。


R.N.A. Organism『R.N.A.O Meets P.O.P.O』

 80年代J-ニューウェイヴ・シーンで異彩を放った佐藤薫のEP-4の前身プロジェクト。ロンドンからの海外郵便を偽装して〈ヴァニティ〉に送られてきたカセット音源を元に制作されたという。シンセやリズム・マシーン等によるビートフルなエレクトロニク・サウンドとコラージュ・ワークはキャバレー・ヴォルテールに対する大阪からの返答といった感じか。メンバー(3人)クレジットの匿名性やジャケット・デザインのミニマリズム等々、高度にデザインされた総合的戦略性も佐藤薫ならでは。

Sympathy Nervous『Sympathy Nervous』

 90年代以降、ベルギー〈KKレコーズ〉傘下の〈Nova Zembla〉や米〈Minimal Wave〉等から多くのテクノ系作品を発表し、晩年にはテルミン制作工房も運営していた新沼好文(2014年逝去)によるソロ・プロジェクト。このデビュー・アルバムも2018年に〈Minimal Wave〉からLP再発されている。「U.C.G.」と名づけられた自作のコンピュータ・システムとコルグのシンセサイザーを駆使した手作り感満載のエレクトロニク・サウンドに、サポートの千崎達也がノイジーなエレキ・ギターを加えるというスタイル。諧謔性と珍味溢れるノイズ・インダストリアル指向の分裂症的テクノ・ポップは、後のマックス・ツンドラやスクエアプッシャーなどにもつながっているように見える。

BGM『Back Ground Music』

 電子音楽家/プロデューサー/DJとして現在も第一線で活躍している白石隆之が初めて世に問うた作品。シンセサイザー/ギター/ヴォーカル担当の白石(当時17才の高校生)を中心とする4人組(白石以外はベイス、キーボード、ドラム)。無機質な電子ノイズをやたらとふりまく荒削りでファンキーなガレージ・ロック・サウンドは、彼らがア・サーテン・レイシオやP.I.L、あるいはキャバレー・ヴォルテールといった当時のポスト・パンク〜インダストリアル・シーンから強く影響されていたことを物語っている。演奏力はないし完成度も高くないが、日本におけるロック受容史の記録としては貴重な1枚だと思う。今回の『Vanity Box』リリースと同時期に〈Mule Musiq〉からも単品でLP再発されたが、それまでオリジナル盤は数万円で取り引きされるほどの人気盤だったようだ。

Normal Brain『Lady Maid』

 サウンド・アートのパフォーマーとして現在も世界的に活躍している藤本由紀夫のソロ・プロジェクトによる唯一のアルバム。タイトルのネタはもちろんマルセル・デュシャンの「レディメイド」。デュシャンやジョン・ケイジへの傾倒/研究を通し、オブジェとしての音/音響にこだわり続けてきた藤本の視点と姿勢は、既にこの作品でも明確に示されている。クラフトワークをパクった感じのオープニング・ナンバーからコンラート・シュニッツラー流「ディスクリート・ミュージック」風のラスト曲(B面全体を占める)まで様々なタイプのエレクトロニク・サウンドが聴けるが、いずれもドライ&ストレインジな感覚が横溢しており、デイヴィッド・カニンガム(フライング・リザーズ)の日本の兄弟といった趣。なお本作も、『Vanity Box』に先駆けてスイスのレーベル〈We Release Whatever The Fuck We Want Records〉から単品再発されている。

Tolerance『Divin』

 トレランスは前述どおり、〈ヴァニティ〉から2枚のLPを発表した唯一のユニットであり、これはその2作目にして〈ヴァニティ〉の掉尾を飾ったアルバムでもある。今回もまたほとんどメロディのない抽象的エレクトロニク・サウンドだが、溢れ出るイメージに沿って暗闇でやみくもにデッサンしていたような1作目に対し、音作りのアイデアがかなり絞られており、その分聴きやすい。多くの曲でドラム・マシーンを多用してリズミックなアプロウチをとり、テクノ・ポップの時代性を実感させる(けっしてポップじゃない)が、一方でテープの逆回転とパンニングによるファウスト〜スロッビング・グリッスルのような凶悪チューンもあったり。この孤絶し荒涼とした風景ゆえか、阿木譲は〈ヴァニティ〉のカタログ中で本作を最も気に入っていたという。

『7インチ・シングル集』

 同じ80年にアルバムも出したシンパシー・ナーヴァスの他、マッド・ティー・パーティ、パーフェクト・マザーの計3バンドによるシングル盤3枚(計9曲)を収録。マッド・ティー・パーティとパーフェクト・マザーは、当時メルツバウの初期音源など実験的カセット作品をたくさんリリースしていた東京のインディ・レーベル/総合アート集団《イーレム》の関係グループだ。シンパシー・ナーヴァスはアルバム同様、自作コンピューター制御されたエレクトロニク・サウンドだが、アルバムに先駆けてリリースされたこのシングル盤の音作りは、よりプリミティヴ。吉祥寺マイナーなどにも出ていたというガールズ・トリオのマッド・ティー・パーティは、ちょっとフリクションを想起させるA面の表題曲以下、全体的にダブ処理された音響実験が面白い。パーフェクト・マザーは《イーレム》の中心人物だった上田雅寛によるソロ・プロジェクトで、計4人で制作されたこのシングル盤には、後にTACOにも参加する“新人類”野々村文宏もテープ・エフェクトで参加している。リズム・ボックスとシーケンサーによる不気味な律動、ノイジーな楽器音と言葉/声のコラージュ、初期ゲーム音楽風のチープな電子音など様々なアイデアがランダムに詰め込まれた若さいっぱいの強欲宅録集。

 『Musik』(限定400セット)と『Vanity Tapes』(限定300セット)は前述どおり、〈ヴァニティ〉に全国から送られてきたカセット音源からの選集。
 2枚組CDセット『Musik』(オリジナルは2LP『Music』)に収録されたのは、Pessimist、Un Able Mirror、Mr、Adode/Cathode、Kiiro Radical、Tokyo、Daily Expression、Plazma Music、Nose、New York、Arbeit、Isolation、Necter Low の13組による計19曲。
 『Vanity Tapes』は、カセットでリリースされた6作品のCD6枚組セットで、収録アーティストと作品名は前述どおり。

 『Musik』と『Vanity Tapes』を全部聴いて、個人的に耳を惹かれたのは、電子ノイズの新たな可能性を探ったKiiro Radical、BCレモンズ(後にCDも出すサイケ・ポップ・女子バンド)の前身であるPlazma Musicによる和製スーサイド・ポップ、ピアノとメトロノームとラジオ・ノイズだけを用いた Wireless Sight によるノイズ・アンビエント・ワークス、ギターのドローン・ノイズとドイツ語の語りをコラージュしたArbeit(これだけは日本人ではなくドイツ人画家アヒム・デュホウ。彼は、ラ・デュッセルドルフのロゴ・デザインや『シンパシー・ナーヴァス』のジャケット写真も手掛けていた)といったところだろうか。また、Tokyo は数年後にハイ・ライズ等で有名になるギタリスト成田宗弘のバンド、New York「1976」は阿木譲本人によるニューヨークでのフィールド録音である。当然ながら玉石混交だが、機材の低価格化によって誰でも手軽に宅録できるようになったDIY時代ならではの奔放さと音楽的アイデアの多様性は間違いなく堪能できる貴重な記録だ。音質の悪さ(今回の再発に際し、すべてデジタル・リマスタリングされているが、元が元だし)も、ここでは逆にあの時代の空気感とリアリティを呼び起こしてくれる。


 以上、今回リリースされた三つのCDセットを駆け足で紹介してみた。それぞれが限定発売であり、しかもスイスのレーベル〈We Release Whatever The Fuck We Want Records〉が大量に予約購入したこともあり、実は10月のリリース時点で既にほとんど売り切れ状態だったという。つまり、ここで紹介しても、なかなか入手困難であることは最初から了解ずみだったのだが、本文中でも随時触れたとおり、今回各アーティストに版権が戻されたため、個別に他レーベルから単品発売されている(もしくはこれから発売される)作品も少なくないし、ネットでもある程度は聴けるので、ご了承いただきたい。
 ちなみに、〈ヴァニティ〉では当時、ヒカシューやノイズ(工藤冬里+大村礼子)、ウルトラ・ビデなどのリリース計画もあったようだ。

 最後に阿木譲の言葉を紹介しておきたい。篠原章氏の著書『日本ロック雑誌クロニクル』(初出は『クイック・ジャパン』Vol.34、34)から。『ロック・マガジン』での活動に関する発言だが、〈ヴァニティ〉に関してもそのまま当てはまると思うので。

「関心のあるのは先のことだけですね。留まるのがイヤなんですね。商売のことを考えるとどこかで留まったほうがいいんだけど、僕はやはり音楽の先端というかエッジに一番興味があって。もうそればっかり」
 「メジャーになってくると、もう僕別のところにいるんです。僕の役割は先端のもの、運動中のわけのわからない、まだ意味も判明していないものを、形にしていくことなんですね。音楽に普遍的なものなんかないっていう考えだから。──(略)──先端のことは、だいたい最初は僕がやったんじゃないかと自負していますが、評論家として確立したかっていうと、ちょっと疑問ですけどね」

日本語ラップ最前線 - ele-king

 端的に、いま日本のヒップホップはどうなっているのか? ヴァイナルやカセットテープ、CDといったフィジカルな形態はもちろんのこと、配信での販売や YouTube のような動画共有サイトまで含めると、とてつもない数の音楽たちが日々リリースされつづけている。去る2019年は舐達麻や釈迦坊主、Tohji らの名をいろんな人の口から頻繁に聞かされたけれど、若手だけでなくヴェテランたちもまた精力的に活動を繰り広げている。さまざまなラップがあり、さまざまなビートがある。進化と細分化を重ねる現在の日本のヒップホップの状況について、吉田雅史と二木信のふたりに語りあってもらった。

王道なき時代

トラップやマンブル・ラップのグローバルな普及で、歌詞の意味内容の理解は別として、単純に音楽としてラップ楽曲を楽しむ流れに拍車がかかっている感がありますよね。(吉田)

いまヒップホップは海外でも日本でも、フィジカルでもストリーミングでも、次々と新しいものが出てきていますが、初心者はいったい何から聴いたらいいのでしょう?

二木:いきなりかなり難しい質問ですねぇ……、では、すこし長くなりますが、まず国内のヒップホップについて大掴みで大局的な話をしますね。例えば、PUNPEE が星野源の “さらしもの” に客演参加、さらにNHKの『おげんさんといっしょに』に出演して日本のポップスの “ど真ん中” に現代のラップとブレイクビーツを持ち込んだ。それは画期的というよりも、2人のキャラクターもありますが、ナチュラルに実現しているように見えるのが、いまの時代の日本のラップとポップの成熟を示す出来事だなと感じました。一方でストリート系の DOBERMAN INFINITY や AK-69 らも作品を発表して変わらず存在感を示している。Creepy Nuts は作品の発表と並行してラジオ・パーソナリティとしても大活躍で、お笑いやアイドルの世界と接点をもって独自の立ち位置を確立している。R‐指定は般若から引き継いで、『フリースタイルダンジョン』の二代目ラスボスにもなった。他方で、2019年は自分のまとまった作品は発表しませんでしたけど、全国各地をライヴで回りつづける沖縄・那覇の唾奇のようなラッパーがいる。唾奇は新しい世代のインディ・シーンの象徴的存在だと思います。テレビやラジオで目立たっていなくても、全国各地のライヴハウスやクラブでのステージで腕を磨いて着実にファンを増やしていますね。彼のライヴは本当に素晴らしいのでぜひ観てほしいです。
 視点をすこしうつせば、鎮座DOPENESS と環ROY が U-zhaan、そして坂本龍一と “エナジー風呂 (Energy Flo)” を発表しました。あの教授と、です。曲名から察することができるように、“energy flow” を U-zhaan がタブラでアレンジしたラップ・ミュージック。シンプルに良い曲ですし、日本のヒップホップ史という観点でみると、ラップしているのは細野晴臣ですが、1981年にこの国の初期のラップである “RAP PHENOMENA/ラップ現象” を発表したYMOの教授と後続の世代との共作でもある。RHYMESTER は岡村靖幸と「岡村靖幸さらにライムスター」として “マクガフィン” を共作した。RHYMESTER が岡村靖幸とコラボすることそのものが彼らの日本のファンクの先駆者へのリスペクトの表明としてうつる。それら2曲は、そういう “ヒップホップ史” のような視点で見ても興味深い。それでもこれらは氷山の一角ですね。サブスクの浸透も大きいですし、単純にリリース量も尋常ではない。仮に『フリースタイルダンジョン』放送開始(2015年9月)をひとつの起点とすると、そこからのここ約4年ちょっとは、日本のヒップホップ史においても急激な変化の時代として記憶されるはずです。いろんな出来事が同時多発的に起きている。そういった数多くのアーティストの注目に値する楽曲や現象や動向を念頭に置いた上で、僕と吉田さんが2019年を振り返り、2020年に突入したいま、国内のヒップホップ、ラップについて語るといったときに、何に着眼するかということになりますね。どうでしょうか?

星野源 “さらしもの (feat. PUNPEE)”

吉田:そこでひとつの着眼点として、やはりサウンド面が挙げられると思うんですよね。ちょっとこれも長くなりそうですが(笑)、2019年の日本のヒップホップもUSと同様にざっくり、ブーム・バップ的なものとトラップ的なものの違いがまずは目に入ってきますよね。見立てとしては、前者については90年代からどうやって日本語で韻を踏むかという格闘の歴史があって、いまもその延長線上に括弧付きの「日本語ラップの歴史」的なものが続いていると。そのフィールドにトラップ的なものが新たに加わってきたとする。2019年の日本語のトラップ的な表現においては、もはやかつてのように日本語がフィットするのかしないのか、というような議論が出てくる段階にはないですよね。これはひとつには今日ラップ・ミュージックがいかにグローバルな言語となっているかということを示しているし、トラップの BPM70 にオンビートで言葉を置いていくスタイルが日本語ともいかに相性が良いかということも示していると思います。例えば LEX の『!!!』にしても、OZworld の『OZWOLRD』にしても、英語にちゃんぽんされている日本語含め、海外の人が聞いても、この曲って英語も聞こえてくるけど別の言語も少し入ってるよね、くらいの感覚で聞けるというか。トラップやマンブル・ラップのグローバルな普及で、歌詞の意味内容の理解は別として、単純に音楽としてラップ楽曲を楽しむ流れに拍車がかかっている感がありますよね。そもそも日本は90年代以前から必ずしも英語リリックの意味を理解することなしにUSヒップホップを楽しんできたという意味でも、ヒップホップ/ラップ・ミュージック先進国と言えると思いますが。

二木:ビートに関してはどうですか?

吉田:ビート面で言えば、先ほど挙げた LEX や OZworld がUSメインストリーム的な音で勝負する一方、トラップと一概にいっても、サウンドには相当の多様性があるわけですよね。USメインストリームのビートといったときに思い出すのが、2000年前後のティンバランドやネプチューンズの当時日本では「チキチキ」と呼ばれることもあったサウスのサウンド。それらがチャートを席巻したとき違和感を覚えた人たちがいた理由のひとつは、そのビートが非常にキャッチーで商業的な楽曲やアーティストと結びついていた点だと思うんです。当時のそういった新しいビートのモードを伴う商業化への反発を最近のトラップへの違和感と重ねる見方があるのはすごく理解できる。でもトラップというプラットフォームが面白いのは、かつてのホラーコアをルーツとするようなフロリダ勢のダークで激しく歪んだ表現や、トラップコアやトラップメタルと呼ばれるエクストリームなサウンドも同時に生み出していることです。例えば Tohji 『Angel』では MURASAKI BEATZ がアルバムのゴシックなムードと違わずダークで叙情的かつ歪んだビートをぶつけているし、Jin Dogg の『MAD JAKE』ではキラーチューン “黙(SHUT UP)” に象徴的なようにタイプビートを活用しながらトラップコアを展開しているし、MonyHorse の『TBOA Journey』の3chのビートも、メロウ寄りもダーク寄りもシンプルながら耳に残る異形のループを追求しているように聞こえる。

Jin Dogg “黙(SHUT UP)”

商業化への反発を最近のトラップへの違和感と重ねる見方があるのはすごく理解できる。でもトラップというプラットフォームが面白いのは、ダークで激しく歪んだ表現やエクストリームなサウンドも同時に生み出していることです。(吉田)

二木:MonyHorse といえば、MONYPETZJNKMN の “Gimme Da Dope” はやたら気持ち良い曲でした。これぞ快楽至上主義といった感じです。

吉田:一方でトラップ的なもの以外ではどうだったかというと、全編ビートを担当する Illmore がブーム・バップを再解釈する Buppon の『I’ll』、シングルですけど相変わらずぶっ飛んだ Ramza と Campanella の “Douglas fir”、全編アトモスフェリックなテクノ・サウンドの Hiyadam の『Antwerp Juggle』、田我流の『Ride On Time』も自身のビート・メイキングが満を持してすごく面白いところに到達したし、かと思えば釈迦坊主の『HEISEI』もそれこそカテゴライズを拒絶するようなサウンドで、少し前ならエレクトロニカと呼ばれたかもしれない。そういう状況だから MEGA-G のブーム・バップが超目立つわけですよね。そこには英語を内面化するトラップとは違って、これまでの日本語におけるライミングの格闘の蓄積をベースにさらにそれを突き詰めようとする、いわば良い意味でガラパゴス的な日本語ラップが追求してきた日本語のライムが乗る。例えば THA BLUE HERB、ZORN、田我流、舐達麻らが、それぞれブーム・バップを基軸にしたビートで、それぞれの日本語表現を追求する作品をリリースした。こうやってみると、王道と言われるようなサウンドは存在しないといっても過言じゃない。というか、日本のヒップホップが王道なき時代に突入していることを確認させられた2019年ですよね。

Campanella “Douglas fir (Prod by Ramza)”

二木:王道なき時代だからこそ、Campanella と Ramza の曲とかはもっと騒がれてほしい。2019年のこの国で、あえて言えば、菊地成孔の言う “ヒップホップはジャズの孫” をもっとも先鋭的に提示した曲のひとつではないでしょうか。ちなみにこの曲のMVを撮っている土屋貴史は、先日公開され話題となっている SEEDA の伝記映画『花と雨』を撮った監督でもあります。ところで、吉田さんがおっしゃった “ガラパゴス的な日本語ラップ” の追求で忘れてならないのは、Creepy Nuts ですよね。R‐指定がライターの高木 “JET” 晋一郎を聞き手にして日本語ラップについて語りまくった『Rの異常な愛情──或る男の日本語ラップについての妄想──』(白夜書房)がとても面白い。この本の Mummy‐D との対談を読むと、R‐指定の “日本人のヒップホップ” へのこだわりが内包するアンビヴァレントな感情が彼のラップのアプローチや方法論に直結しているのがわかる。『よふかしのうた』収録の表題曲は、「オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー」のテーマソングということもあると思いますが、フックのメロディには “ラップ歌謡” 的な側面がある。一方 “生業” ではトラップでセルフ・ボースティングを展開するわけですが、吉田さんの言葉を借りれば、これぞ “日本語におけるライミングの格闘の蓄積” の賜物。2019年時点でその最高峰のひとつと言って間違いないと思います。彼の、まさに異常ともいえる日本語ラップの知識量を考えれば、いろんな引用やオマージュが散りばめられていると推測できますが、ひとつ、イントロの「アカペラでも聴けるラップだぜ」というリリックは Maccho の「アカペラで聴けねえラップじゃねえぜ」(“24 Bars To Kill”)のオマージュだと思われます。
 そして、“日本人のヒップホップ” という課題にたいして、R‐指定とはまた異なる角度からアプローチをしていたのが、2018年2月に惜しくもこの世を去った FEBB ではないでしょうか。去年、GRADIS NICE & YOUNG MAS (FEBB)名義の『SUPREME SEASON 1.5』が出ています。この作品は、『L.O.C -Talkin' About Money-』(2017)に連なる作品です。『L.O.C』に収録された “THE FIRST” で FEBB は日本語を英語の発音に近づけたり、英語を日本語の発音に近づけるようにするのではなく、ふたつの言語を同居させて、おのおのの発音の特性を素直に活かして明瞭にフロウしている。言い換えると、ガラパゴス的な日本語ラップと英語を内面化したラップを1曲のなかで共存させている。彼がこの曲で歌う「引けを取らない日本人のヒップホップ」を体現したクラシックだと思います。

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ブーム・バップとトラップ

いまでもブーム・バップとトラップはどこかで対立するものとして語られたり、捉えられがちだけど、そういう二元論で思考していると聴き逃してしまうものがあまりに多くてもったいない。(二木)

吉田:USでは、ミーゴスやフューチャーのマンブル的な楽曲に加えて、毎年新人の注目ラッパーを紹介する XXL のフレッシュマンのサイファーの2016年版に、21サヴェージ、コダック・ブラック、リル・ウーズィ・バートらが登場してそのスキルが疑問視されたりした。5人もいてまともなのはデンゼル・カリーしかいないじゃないか!って(笑)。それでどうしても「マンブル・ラップ対インテリジェント・ラップ」のような図式が生まれて、ベテランのスキルフルなラッパーがマンブルを否定するというような対立構造になっていますよね。日本でも、両者が完全に異質なもの、相容れないもののように見えている感がある。でも、USでも、そもそもクリエイティヴな表現を追求しているアーティストは、いろんなスタイルでラップしたいと思っているはずですよね。エミネムの『Kamikaze』(2018)のように、トラップという文法に対して自分ならどうアンサーするかっていうのかっていうのがモチベーションになる。例えばケンドリックもリッチ・ザ・キッドとの “New Freezer” (2018)で俺だったらこう乗りこなすぜって感じの圧巻のフロウを披露しているし、フレディ・ギブスなんかも『Shadow of a Doubt』(2015)の頃から一枚のアルバムのなかにマーダ・ビーツとの曲もありつつ、ボブ・ジェームスネタのブーンバップでブラック・ソートと一緒にラップしちゃう(笑)。J・コールにしても、あからさまなトラップらしいビートはなくても、BPMがトラップ並みに遅い曲を挿入してブーム・バップ曲とのメリハリをつけている。BPM 90や100のブーム・バップでフロウするのと、60や70のトラップビートで三連符や32分音符でやるのはルールの違うゲームみたいなものだから、アーティストとしては自分でも試したくなるだろうと。

二木:そのようなルールの違いを認識していたからこそ、GRADIS NICE は “THE FIRST” について「トラップについていけない人たちのためだったりもする」とCDジャーナルの小野田雄のインタヴューで発言したのだと思います。FEBB とも共有されていたその目的意識のもとに作られたのが、『L.O.C』、そして『SUPREME SEASON 1.5』だったと考えられます。つまり、ブーム・バップとトラップというある種の “分断” をこえる、あるいはビートにしてもラップにしても両者の良さを融合してオリジナルのヒップホップを作る、そういった明確な目的のもとに作られているのではないか。後者では “THE FIRST” とは異なり、たとえば “skinny” という曲では日本語と英語の切り替えを短い尺のなかでより頻繁にくり返して、ガラパゴス的な日本語ラップと英語を内面化したラップを融合させようとするような高度なフロウを披露してもいる。そのように FEBB はとても短い期間のなかでいろんな試みを凄まじいスピードでやっていた。この連作からは、FEBB と GRADIS NICE の高い志が強く感じ取れます。

吉田:ブルックリンのアンダーアチーヴァーズやフラットブッシュ・ゾンビーズなんかも、特に初期の音源はトラップと同様の遅いBPMでブーム・バップを再解釈して、マンブル・ラップではないスキルを見せることがひとつの特徴になっている。プロ・エラとも組んでいる彼らは、ブーム・バップ・ルネッサンスを単に原点回帰だけではなくて、トラップとのハイブリッドという方法論で表現しようとしているところがあると思います。だから、FEBB が志向していたことと、共通する部分もあるんじゃないですかね。

二木:たしかに。僕もそう思います。たとえば、それこそプロ・エラのジョーイ・バッドアスも参加したスモーク・DZAの『Not for Sale』(2018)というアルバムもそういう文脈で聴くとより楽しめる作品ですね。また、さきほど名前が出た MEGA-G は素晴らしいソロ・アルバム『Re:BOOT』収録の “808 is coming” で彼なりのユニークなトラップ解釈を披露している。ビートは I-DeA です。タイトルが暗示していますが、オールドスクール・ヒップホップとトラップを直結させる試みですね。ぜひ聴いてほしいです。だから、これは自戒も込めて語りますが、いまでもブーム・バップとトラップはどこかで対立するものとして語られたり、捉えられがちだけど、そういう二元論で思考していると聴き逃してしまうものがあまりに多くてもったいない。さらに、それによって世代間対立みたいなものまで不必要に煽られてしまうのはネガティヴですよね。そういう定着してしまったジャンル分けや言語を使うことで耳の自由が奪われるときがある。そういう分節化はとても便利だし、もちろんこの対談でもそういう分節化に頼って語らざるを得ない側面はあります。ただ、ときにそれによって失うものがあったり、分断させられてしまう現実の関係があるというのは常に注意しておきたいなと。

吉田:日本でもそういう表面的な二元論とは別に、現場では様々な面でクロスオーヴァーが見られるのかなと。たとえば Red Bull の「RASEN」のフリースタイル。1回目は LEX、SANTAWORLDVIEW、荘子it (Dos Monos)、 Taeyoung Boy で、2回目は Daichi Yamamoto、釈迦坊主、dodo、Tohji。両方とも素晴らしいクオリティとセッションの緊張感で無限に繰り返し見ていられるんですが(笑)、この中だと荘子it や Daichi Yamamoto、dodo が日本語ラップ的なフロウをしているように聞こえる。確かに荘子it はエイサップ・ロッキーではなくて元〈デフ・ジャックス〉のエイサップ・ロックが好きだそうで、彼のインテレクチュアルなスタイルに照らすと頷けるけれど、SANTA はいわゆるトラップよりもフラットブッシュ・ゾンビーズとか、スキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッド、レイダー・クランへのシンパシーを口にしていたり、釈迦坊主は志人から影響を受けたそうなんです。彼らのようにオリジナリティが際立っているアーティストたちは、一見全然別のことをやっているように見えるけど、結局はそんな風にエッジィな表現に惹かれていて、互いにコネクトするんだなと。だから、分断して考えたくなるのは外側だけなんだと改めて感じました。こういう風なメディアでの語りにしても、ある程度ジャンル分けしないと整理できないし、大きな潮流も取り出せないけれど、自分の好みはどのジャンルなのか線を引きやすくなってしまう弊害もありますね。あるサブジャンルを代表するいくつかのアーティストが肌に合わなかったときに、そのサブジャンル全体を否定的に見てしまうことのもったいなさがある。

LEX/ SANTAWORLDVIEW/ 荘子it/ Taeyoung Boy – RASEN

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ラップ~ビート~音響、それぞれの変質

マンブル・ラップの多様性もそうですし、そうやって自分のスタイルやイメージを規定せず、自分のなかに多様なスタイルを持つのもいまのラッパーのあり方だと思うんです。(二木)

二木:今年の1月に入ってから SANTAWORLDVIEW が出した『Sinterklass』も良かったですね。YamieZimmer のビートのヴァリエーションも面白かった。

吉田:それから SANTA や Leon、あと Moment Joon も “ImmiGang” で披露しているトラップビート上の32分音符基調の早口フロウにしても、Miyachi の『Wakarimasen』収録の “Anoyo” や JP The Wavy らが乗りこなす三連フロウにしても、近年のトラップとの格闘を通じて再発見された、日本語のラップ表現にとって大きな財産だと思います。オンビートの早口は子音と母音がセットになるいわゆる開音節言語の日本語とすごく親和性が高いし、Leon はサウンド重視と自分でも言っているけど、例えば『Chimaira』収録の “Unstoppable” なんかは早口であっても非常にメッセージが伝わってくる楽曲になっている。これは90年代の終わりにチキチキビートが世を席巻したときに、日本語でどうやって倍速の譜割でラップを乗せるか格闘した時期にもダブるものがありますね。

二木:わかります。TwiGy が『FORWARD ON TO HIP HOP SEVEN DIMENSIONS』(2000)というアルバムでいち早くサウス・ヒップホップにアプローチしたのとも被りますね。“七日間”、“GO! NIPPON”、“BIG PARTY”、“もういいかい2000”、特にこの4曲は TwiGy の先駆性を如実に示している。彼は日本のトラップ・ラッパーのパイオニアですね。スリー・6・マフィアなどのサウスのラップだけではなく、倍速/早口ラップの参考にしたのは、『リズム+フロー』にも登場していたシカゴのトゥイスタやUKのダンスホールのディージェー、ダディ・フレディだったという主旨の話も ele-king のインタヴューでしてくれました。もうひとつ、Leon Fanourakis の『Chimaria』から、自分のような世代の人間が個人的に連想するのは、DABO の『PLATINUM TONGUE』(2001年)でした。それは Leon が DABO を意識しているとかそういう意味ではなくて、セルフ・ボースティングの手数の多さで猪突猛進するスタイルという点において、ですね。DABO の “レクサスグッチ” を久々に聴きましたけど、この曲が20年前に切り拓いたものってでかいなとあらためて痛感しました。

吉田:当時 DABO のバウンスビートへのアプローチは早かったし、地声ベースの低音ヴォイス中心のアプローチも共通するところはありますよね。

二木:SANTAWORLDVIEW、Leon とともに、YamieZimmer がプロデュースを手掛ける Bank.Somsaart も素晴らしいラッパーですよね。さっき GRADIS NICE & YOUNG MAS “THE FIRST” について日本語と英語の発音のそれぞれの特性を活かして同居させていると話しましたけど、『Who ride wit us』の Bank はむしろ日本語と英語それぞれの発音やアクセントの境界線を消滅させて、ウィスパー・ヴォイスで呪文のようなフロウをくり出していく。さらに彼のルーツのひとつであるタイ語も含まれるということなのですが、正直に告白すれば、タイ語の部分がどこなのかまだ自信をもって聴き取れていない側面もあります。ただ、こんなにささやくようにラップしてリズミカルなのがすごいな、と。

吉田:Bank もまさにそういう境界を曖昧にするスタイルですよね。彼のラップがマンブル的かどうかという問題は別としても、マンブル・ラップの解釈もすごく多様になってきている。「日本語」ラップといっても、例えばブッダ・ブランドの頃から英語をミックスするラッパーたちは、もともとマンブル性というか、何を言っているかわからないところがあった。バイリンガル・ラップの系譜に Bank のようなラッパーもいるとして、日本語を徹底的に崩すという点では、釈迦坊主もそうですよね。最初は脱構築された日本語の発音に阻まれて、全然言っていることが分からないんだけど、歌詞を見ると間違いなく日本語だし、意味が途端に入ってくるという。かつて LOW HIGH WHO? 時代の Jinmenusagi や Kuroyagi がやっていたことにも近くて、曖昧母音を多用したり、あるいは開音節から母音を引いて閉音節にしてしまったりと、子音や母音のレヴェルで発音を英語的なものに近づけているわけですよね。5lack や冒頭で触れた LEX もそのような系譜にあると思います。でも釈迦坊主がとてもユニークなのは、日本語のアクセントや子音母音の仕組みを壊しているけど、だからといって個々の語の発音自体を英語に近づけているわけではないところです。日本語には聞こえないけど英語に空耳するわけではないという、まるで架空の言語を創造しているような。Tohji が “Hi-Chew” で聞かせるようなマンブル的発語なんかとも合わせて、これまでの日本語と英語の対立軸を超えているし、それは釈迦坊主が時々見せるインドへの目配りやエスニックなサウンドやスケールの導入ともリンクしている。最新EP「Nagomi」でも独特のメロディセンスが突き抜けてるのは勿論、ラップの声が持つパーカッシヴな側面をそれこそミーゴス並みに引き出してると思います。

釈迦坊主「NAGOMI」

二木:僕は釈迦坊主の「NAGOMI」のなかで、UKブレイクス×ラップ・シンギン×ニューエイジと言いたくなるような “Alpha” がとても好きでした。でも全曲良いですよね。ここですこし補足しますね。マンブル・ラップをざっくり定義すれば、歌詞の意味よりもリズムやノリを重視するラップとなります。それゆえに、マンブル・ラップは一部では否定的な意味合いを込めて使われる。これは FNMNL の記事で知りましたが、チーフ・キーフが自分がマンブルを発明したと主張する一方、ブラック・ソートのようなベテランまで自分が元祖だと主張したりもしているという。ただここで僕と吉田さんはマンブルだから良いとか悪いとかそういう価値判断をしたいわけじゃない、そういうことですよね。Bank が去年の11月にサンクラにアップした “you're not alone” という曲はこれまでとガラリとスタイルが異なり、前向きなメッセージを日本語の発音を明瞭にすることで伝えようとしていた。マンブル・ラップの多様性もそうですし、そうやって自分のスタイルやイメージを規定せず、自分のなかに多様なスタイルを持つのもいまのラッパーのあり方だと思うんです。

吉田:じゃあそういうマンブル的な状況でラッパーがどう表現していくかというと、やっぱりフレージングが重要になりますよね。先ほどの「RASEN」のサイファーでいえば Tohji や LEX が顕著ですが、フリースタイルでいかに2小節や4小節の印象的なフレーズを次々と繰り出すかということを競っている。従来のフリースタイルは2小節ごとに踏む韻を変えながらひとつの物語を作っていった。でもいまは2小節ごとに異なったリズムやメロディのフレーズを切り替えて、それでいかに耳をひけるかを追求する。韻ではなくてフレーズが牽引するという。USのトラップ以降のラップ・ミュージックは、いかにこのフックでリスナーを掴めるかの戦いですよね。かつてのヒップホップ・ソウルの時代はフィーチャーしたR&Bシンガーがコーラスを歌ったけど、ドレイク以降はラッパーが自分で歌う。より音楽的になったとも言えるし、メロディだけじゃなくてリズムの解像度も高くて、トラップのような隙間の多いビートを彩る新しい解釈が求められる。

従来のフリースタイルは2小節ごとに踏む韻を変えながらひとつの物語を作っていった。でもいまは2小節ごとに異なったリズムやメロディのフレーズを切り替えて、それでいかに耳をひけるかを追求する。韻ではなくてフレーズが牽引する。(吉田)

二木:“USのトラップ以降のラップ・ミュージック” というラインが出ましたが、Leon、SANTAWORLDVIEW、Bank.Somsaart、そして YamieZimmer にふたたび話を戻すと、彼らは FNMNL の磯部涼のインタヴューで特に YamieZimmer がサウス・フロリダのヒップホップを熱心に聴いていると語っていましたね。ただ、その発言ももう2年前ぐらいのことですから、そのあいだに本人たちのなかにもいろんな変化があったとも推測できます。それはそれとして、僕が最初に彼らの音楽に惹かれたのは、ダーティ・サウスのファンクネスを継承する音楽に通じるものを感じたからなんです。彼らの音楽を聴いて2000年前後の TwiGy や DABO を連想したのもそういうことかもしれない。ちなみに、スモークパープが昨年出した『Dead Star 2』というアルバムに入っていたデンゼル・カリーとの “What I Please” のMVが今年に入って公開されましたね。

吉田:スモークパープがようやくアングラから浮上してまるで新人のように扱われていることに複雑な思いもありつつ(笑)、フロリダはアトランタと比較しても洗練されていなくて、歪んでいて、ときに不穏で、ときにユーモラスという、ダーティ・サウスになぜ「ダーティ」という形容詞がついていたかを体現しているようなサウンドですよね。スキー・マスクやデンゼル・カリーは、トラップコア的な冷たい暴力性や、ウィアードな音を多用するところに作家性を感じます。Leon のアルバムはロニー・J 的というか、BPMもトラップ以降の遅さで統一されてるけど、一方で Bank のアルバムはドレやマスタードのファンクをもっとダーティでロウなサウンドで更新するようなBPM速めのビートも多くて、YamieZimmer の懐の深さを感じますよね。

二木:実際に、Leon の『Chimaria』に収録された “Keep That Vibe” はサウス・フロリダのベース・サンタナのビートです。ここから語るのは多少強引な極私的解釈ですが、スヌープ・ドッグとファレルの大名曲 “Drop It Like It's Hot” をサンプリングしたスキー・マスクの『STOKELEY』(2018)収録の “Foot Fungus” は、少ない音数と音色でファンクを捻り出すいわば “ミニマル・ファンク” です。そして、そういうファンクの源流にはスライ&ザ・ファミリー・ストーン『暴動』(1971)があるのではないかと。YamieZimmer が作り出すファンクの律動とグルーヴはその最先端を行っているのではないか。そんなことを考えたりしました。ちなみに彼は Bank の “Who ride wit us” という曲では、80年代後半のマーリー・マールを彷彿させる原始的なブレイクビーツ、それこそブーム・バップと言ってもいいようなビートを作っています。そういう柔軟性も YamieZimmer の魅力だと思います。彼が前述したインタヴューで Budamunk について言及していたのがまた印象的でした。「今の日本語ラップは全く聴かない」と前置きした上で、Budamunk のビートを称賛している。そういう日本のヒップホップの聴き方もある。例えば、Budamunk が90年代、00年代のヒップホップやR&Bのインストをミックスする『Training Wax』というミックス・シリーズが昨年2枚出ましたよね。

吉田:あれめっちゃいいよね! 完全に音響の世界に行ってて、元のハイファイ寄りの音源をいかにかっこよくローファイに汚せるかということをやっている。「あの曲がこういうふうに聞こえるのか!」という驚きがある。

二木:まさにそう! 吉田さんがあのミックスを聴いているのが、めちゃうれしいですし、信頼できます(笑)。フィジカルでこっそり流通していただけですもんね。あまりにもあの音響が衝撃的で、Budamunk 本人に「あの音響はいったい何なんですか?」って訊いたんですよ。これは、僕の記憶が間違っていたら謝るしかないんですけど、「EQをいじっているだけですよ」って答えてくれたと記憶しています。EQいじるだけでこんなにも独創的な作品を作れるのかとさらに驚いた。

吉田:当時多かった「ヒップホップ・ソウル」とも呼ばれていたような、ヒップホップマナーのサンプリングループでビートが作られたR&B曲を、単にDJミキサーのEQでモコモコにフィルタリングするだけで彼の色にしてしまうという。ヒップホップ的な価値転倒が全編で表現されていて最高です。

二木:そう。ヒップホップ・ソウル色が強かった『Training Wax VOL.1』も素晴らしかった。たとえば、セオ・パリッシュのDJが好きな人にはぜひ聴いてもらいたいし、絶対気に入ると思う。それと、これは、僕のいささかロマンチックな歴史認識のバイアス込みで語りますが、『Training Wax』は Budamunk のオリジナルのビートではないものの、DJ KRUSH の『Strictly Turntablized』のリリースから25年つまり四半世紀のときを経た2019年のビート・ミュージックのひとつの成果を示している、それぐらい重要な作品だと感じています。

吉田:Budamunk は基本サンプルを使うんだけど、ミニマルで音数が少ないから、空間が多くて、リズムと同じく一音一音のテクスチャーというか、音質にも凄く耳がいきますよね。2019年は仙人掌の『Boy Meets World』の傑作リミックス盤が出たけど、そのなかの “Show Off” の Budamunk リミックスは音響的にかなりこだわっていて、中央で鳴るサブベースにリヴァーブの効いたコードのスタブに、ざらついたスネアが少し右のほうで鳴っている。このスネアは中央で鳴るハットと位相がズレていて、さらにそのスネアの残響音は左の方から聞こえるという確信犯的な立体感。終盤ではさきほど話した得意のEQフィルタリングも聞こえてきます。ミニマル・テクノやアンビエントを聴く耳で、細かい音の肌理やテクスチャーを追うと全然違う楽しみ方ができると思います。ひとつひとつの音の追い込み方と、その結果生まれている快楽がずば抜けている。

仙人掌 “Show Off - Budamunk Remix”

日本という地域のローカルな言語で表現されるラップ。その2019年の代表格である舐達麻が、グローバルに耳を刺激するビートメイカーと組む。こういうことがいま起きている。(二木)

二木:『Boy Meets World』のリミックス盤の制作の相談役が Budamunk でしたからね。彼はLA、ニューヨーク、中国のヘッズにも知られていると聞きます。SoundCloud や Bandcamp を通したビート・ミュージックの世界的なネットワークのなかにいる、日本のビートメイカーの先駆的存在じゃないでしょうか。

吉田:Bugseed にしても GREEN ASSASSIN DOLLAR (以下、GAD)にしても海外のオーディエンスがたくさんついてますよね。Bugseed は『Bohemian Beatnik』の衝撃からもう10年なのか……ウィズ・カリファにビートを使われた事件で脚光を浴びたりしましたが、SoundCloud でワールドワイドに認知度を上げて Bandcamp で作品を販売する日本のビートメイカーの先駆けとなった感がありますよね。

二木:いま GAD の名前も出ましたが、彼が2019年に大躍進した埼玉・熊谷のグループ、舐達麻の作品における主要ビートメイカーである事実は忘れてはならないですよね。彼はドイツのレーベルから作品を発表していますね。対談の冒頭で吉田さんから、ガラパゴス的な日本語ラップという言葉が出ました。つまり日本という地域のローカルな言語で表現されるラップということですね。その2019年の代表格である舐達麻が、グローバルに耳を刺激するビートメイカーと組む。こういうことがいま起きている。この話の流れで付け加えておくと、冒頭で触れた星野源が PUNPEE を客演にむかえた “さらしもの” のトラックを作ったのは、チャンス・ザ・ラッパー “Juke Jam” (『Coloring Book』収録)のビートを手掛けたり、『ブラック・パンサー』のサントラに収録された “I AM” という曲にもクレジットされているドイツ人のプロデューサー、ラスカルでした。ということで、次は舐達麻の話からはじめましょうか。

(後編へ続く)

漢 a.k.a. GAMI監修『MCバトル全書』 - ele-king

昨年9月に発売されたD.Oの自伝『悪党の詩』も話題になりましたが、今度は漢 a.k.a. GAMI監修のMCバトル名鑑、『MCバトル』全書が1月14日に発売されています!
『フリースタイルダンジョン』によっていまやお茶の間にまで急速に浸透したMCバトルですが、そんなMCバトル黄金期だけでなく、黎明期のシーンにも触れられているのは、漢の監修だからこそ。
B BOY PARKを懐かしいと思うほど、盛り上がりを見せている現行のジャパニーズ・ヒップホップシーンですが、その発起人CRAZY-A氏のインタヴューも掲載されているようでこれまた気になるところ。他にもZeebra、晋平太、サイプレス上野、呂布カルマ等錚々たるメンバーのインタヴューも。まだまだ続いていくであろうMCバトルをこれから牽引していく若手ラッパーたちについても『MCバトル全書』でチェックできますよ◎
UMB、R-指定という名前を確認できないところがまたまた気になるところではありますが、MCバトルでよく見かける花形ラッパーたちのインタヴューをこれほどまでまとめて読める本はなかなかないのではないでしょうか……?

漢 a.k.a. GAMI監修『MCバトル全書』

全国各地の強者ラッパーが、ビートに乗せて即興のラップで戦い、そのスキルで勝敗を決する「MCバトル」。

今やヘッズのみならず、お茶の間の話題ともなりつつあるMCバトルの歴史と現在、そして選りすぐりの人気MCたちのインタビューを含む、詳細なプロフィールを紹介し、誰も知らなかった彼らの全貌を露わにする。

また、今や歴史として語られるあの事件や、あの名バトルの裏側も初掲載。

モンスター級のベテランMCのみならず、昨今目覚ましく活躍する若きMCたちにもフォーカス。MCバトルは、もはや流行を超えて時代の一部となろうとしているのか!? 監修は、MCバトル黎明期からシーンを牽引してきた鎖グループ代表、漢 a.k.a. GAMI。

ジャパニーズヒップホップの“リアル”が体現された1冊が誕生した。

-目次-
<特集1>
MC漢 独占インタビュー!! 新宿ストリート発 MCバトルのリアル

<特集2>
MC漢VS般若 対談

<全国 MCバトル紹介>
B BOY PARK MCバトル
SPOTLIGHT
THE罵倒 MC BATTLE
戦極MC BATLE
KING OF KINGS
ENTA DA STAGE
口喧嘩祭
MRJ
高校生RAP選手権
フリースタイルダンジョン

<インタビュー>
CRAZY-A
Zeebra
ダースレイダー
KEN THE 390
HIDADDY&ERONE
晋平太
FORK
サイプレス上野
呂布カルマ
輪入道
TKda黒ぶち
NAIKA MC
裂固
・MCバトル参戦ラッパー紹介

φonon - ele-king

 この1月で設立2周年を迎える佐藤薫主宰の〈φonon (フォノン)〉。じょじょにタイトル数も増えている同レーベルだけれど、きたる2月、新たに2作品がカタログに加わることとなった。ひとつは、宇川直宏と森田潤によるユニット=グレイヴスタイルやギャルシッドなどを収めたオムニバスの『Mutually Exclusive Music 2』。もうひとつは、ドイツ出身のトランペット奏者=アクセル・ドナーのソロ第2作。どちらもただならぬ匂いがぷんぷんなので、しっかりチェックしておこう。

「φonon(フォノン)」のニュー・リリース2タイトル 2020年2月21日(金)発売

新レーベル〈φonon (フォノン)〉は、EP-4 の佐藤薫が80年代に立ち上げたインディー・レーベル〈SKATING PEARS〉のサブレーベルとして2018年に始動。SKATING PEARS は当初カセットテープ・メディアを中心に多彩な作品をリリースしてきたが、〈φonon〉は佐藤薫のディレクションによって主にエレクトリック/ノイズ系の作品を中心にリリースする尖鋭的なレーベルだ。これまでに13タイトルを発表、2020年2月発売の2タイトルを合わせて15作品にのぼる。

レーベルサイト
https://www.slogan.co.jp/skatingpears/

2020年2月21日(金)
2タイトル同時発売!!

アーティスト:Various Artists
アルバム・タイトル:『Mutually Exclusive Music 2』(ミューチュアリー・エクスクルーシヴ・ミュージック 2)

発売日:2020年2月21日(金)
定価:¥2,000(税別)
品番:SPF-014
発売元:φonon (フォノン) div. of SKATING PEARS

「你墜入騒音地獄──森田潤・法外監修!」
昨年〈φonon〉からリリースし驚愕の注目を集めた70歳を超えるというソプラノ女性歌手、Madam Anonimo (アノニモ夫人)のアルバム『il salone di Anonimo (サロン・アノニモ)』の音楽プロデュースを担当した森田潤。その森田が2018年に発表したオムニバス・アルバム『Mutually Exclusive Music』に続くシリーズ第二弾が登場する。副題の『Cohesion and Coupling of Modules (モジュールの凝集度と結合度について)』とは、電子楽器のプログラミング/パッチングの相互排他的な抽象度による関係反転原理が、操作する者とその音楽作品としての効果/結果に及ぼすある種の仕掛け/ギミックのことだ。それは、前作のシニカルなエレクトロ・ビートの概念から、アンビエントやハーシュ・ノイズなどを包摂していく本作の編纂過程でもある。

参加アーティストは、貪欲騒音機械を操るグレイヴスタイル(宇川直宏+森田潤)、ギャルシッド、フューエルフォニック、デイヴ・スキッパー、ハタケンという5組。これこそモジュラーのダイバーシティだ。


GRAVESTYLE/グレイヴスタイル
DOMMUNE 代表の「宇川直宏」とモジュラー楽士「森田潤」の二人によるユニット。1989年に結成され、VJの概念が未確立の時代に、芝浦 GOLD などで行ったオーディオ・ビジュアル・パフォーマンスが伝説的な評価を得る。30年ぶりの再編で「沖縄電子少女彩」に楽曲を提供。GRAVESTYLE 名義では今回が初の作品リリースとなる。


galcid/ギャルシッド
モジュラーシンセと TB-303 リズムマシーンを駆使した “完全即興ライヴ” が話題の「Lena」によるソロユニット。 2016年の 1st. アルバム『hertz』が賞賛を得た後、18年には坂本龍一による Spotify の『SKMT Picks』にも選ばれ、電子音楽に特化した国内外イベントへの出演を重ねる。19年秋以降、4つのレーベルより作品をリリース予定。


fuelphonic/フューエルフォニック
趣味が高じてバイクのエキゾーストノートだけでプレイするようになったというDJの「坂田律子」と、シンセ/コンピュータ好きが高じた果ての演奏を披露する「野本直輝」による、2018年末結成のデュオユニット。奇妙なエレクトロニクスサウンドと疾走感満点のバイクノイズが織り成す、ドラッグレースのような摩訶不思議音響ワールドが魅力だ。


Dave Skipper/デイヴ・スキッパー
英国出身の現役キリスト教宣教師。2010年より東京で活動を始める。アナログモジュラー機材を中心としたライヴ・パフォーマンスを様々なクラブにて展開。サイケデリック~ノイズ~アブストラクト~日射しで脳が溶解──聖書とノイズの関係性を求め研究に邁進中。“Tokyo Festival of Modular” や “Heavier Than Jupiter” などのイベントを主催。


HATAKEN/ハタケン
発信する新たな音響世界が国内外から注目を集めるモジュラーシンセ・パフォーマー/プロデューサー。“Tokyo Festival of Modular” を主催するほか、欧州から、北米、アジア各地でのフェス出演やワークショップを敢行。また「Greg Hunter」とのプロジェクトやギタリスト「SUGIZO」との共演、「Coppe’」のプロデュースなど、精力的に活動する。


Jun Morita/森田潤
DJとしてワールド・ミュージック、ジャズ、エレクトリック・サウンドに幅広くコミット。同時に、モジュラー・シンセの自動演奏に即興を組み合わせたパフォーマンスでライブ活動中。2018年、ソロ作品『LʼARTE DEI RUMORI DI MORTE』発売。レア・ヴァイナル復刻のマスタリング・エンジニアとしても評価される。

ライナーノーツ・毛利嘉孝
ジャケットデザイン・福永和三郎

トラックリスト:
01. Introduction to Modular Synthesizer with _Kaiwa_
02. GRAVESTYLE - Thee Temple OV Ocarina Youth
03. galcid - Metal Processing
04. galcid - Rubber Snake
05. fuelphonic - sunabokori
06. Dave Skipper - Alienoid
07. Dave Skipper - Lab Panic
08. Dave Skipper - Incursion
09. Dave Skipper - Excision
10. Dave Skipper - Nightfade
11. HATAKEN - expansion phase

アーティスト:Axel Dörner (アクセル・ドナー)
アルバム・タイトル:『inversich』(インファージッヒ)
発売日: 2020年2月21日(金)
定価:¥2,000(税別)
品番:SPF-015
発売元:φonon (フォノン) div. of SKATING PEARS

「トランペットの《零度》もっと深く……」
ヨーロッパや日本をはじめ世界を駆け巡り多彩な演奏活動を続けるドイツ出身のトランペット奏者「アクセル・ドナー」のソロ第2作。2018年に第1作として発表した『unversicht/ウンフェルジヒト (SPF-007)』は、ポストデジタル時代の指標としてその存在の特異点を示した作品となっていたが、本作でも電子的に拡張/メタモルフォーゼさせたトランペット音による孤独な実験の成果を、一連の新世紀音響ガイドとして聴く者に提供する。タイトルの『inversich』とはドナーによる造語で存在しない単語だが、ドイツ語的には、反転/自己/逆の/私の/逆しま/自分自身──などの意味的交わりを想起させながら、前作『unversicht』と共鳴している。多様なプレイヤーとのセッション作品が多いドナーながら、ここでは続編として一貫した圧倒的ソロ・アンサンブルを構成。トランペット音とエレクトロニクスを加工編集した実験的な音像が、前作からの流れを継承しながら新たな展開を迎える!

ライナーノーツ・渡邊未帆
ジャケットデザイン・日下聡

トラックリスト
01. 1
02. 2
03. 3
04. 4
05. 5

Ovall - ele-king

 ジャズ、ソウル、ヒップホップを軸にしたミュージシャン/アーティストを多数抱え、独自なスタンスを貫き通してきたレーベル/プロダクションである、〈origami PRODUCTIONS〉。特にライヴ・ミュージックというものにこだわりながら、彼らが長年やってきたことは、結果的に今の世界の音楽トレンドとも合致しており、その先見性には恐れ入る。そして、その〈origami PRODUCTIONS〉を象徴するアーティストが、Shingo Suzuki (ベース)、mabanua (ドラム)、関口シンゴ (ギター)という3人によるバンド、Ovall であり、彼らが4年間の活動休止期間などを経て、待望の3rdアルバムとしてリリースしたのが本作『Ovall』だ。

 メンバー3人はそれぞれがソロ・アーティストとしても活動している Ovall だが、さらに様々なアーティストのサポート・ミュージシャン、そしてプロデューサーとしての活躍も非常に目覚しい。特に mabanua はプロデューサーとして Chara から RHYMESTER、藤原さくら、向井太一など、非常に幅広いメンツの楽曲を手がけ、さらに一昨年リリースしたソロ・アルバム『Blurred』でも非常に高い評価を得たのも記憶に新しい。そして、このバンドを立ち上げた張本人である Shingo Suzuki、そして関口シンゴもまた同様にソウルからヒップホップ、さらにポップスまで、メジャー、インディ含めて実に多彩なアーティストの作品にプロデューサーやミュージシャンとして参加している(その膨大な参加作品の詳細はオフィシャル・サイトを参照してください)。そして、彼ら3人が外仕事で積み重ねてきた豊かな経験が、6年ぶりのリリースとなった今回のアルバムにも大いに活きている。

 これまで、2枚のアルバム『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』、『DAWN』、さらにミニ・アルバムやシングルなども複数リリースしてきた Ovall であるが、改めてこれら過去の作品を聴いてみると、彼らの軸となっているジャズ、ソウル、ヒップホップといった要素を融合させながら、自分たちの音楽を作り上げようと大いに試行錯誤してきた様子が伺える。彼らがミュージシャンとして非常に優秀であることは間違いないが、彼らが理想としているサウンドやグルーヴ感に近づけていくのは決して容易なことではなかったはずだ。そして、ミュージシャンとしての高いアドバンテージは、逆に最先端のサウンドをバンドという形式で作り上げる中で、どこか足かせにもなっていた部分もあったようにも思う。ところが、今回の『Ovall』を聴くと、そこに迷いというものは一切感じられず、明確に Ovall としてのサウンドとグルーヴ感が提示されている。特にライヴ・ミュージックと打ち込みによるプロダクションとの絶妙なバランス感覚は、このアルバムの大きなポイントになっており、それこそが、おそらく彼らがこの6年間で習得してきたことの最大の成果であろう。バランス感覚という意味では、先行シングルともなった “Stargazer” などは一曲の中で見事に完成されているし、逆にライヴ感が前面に出た曲があれば、それを抑えた曲もあたったりと、アルバム全体でのバランス感覚も見事だ。ゲスト・シンガーとして唯一フィーチャされているのが、フィリピンのバンド、Up Dharma Down の Armi が参加した “Trascend” で、それ以外のヴォーカル曲は mabanua が歌う2曲(“Come Together”、“Paranoia”)だけで、あくまでも楽器が主役となっているのも新生 Ovall の姿勢というものが表れている。また、一昨年亡くなったロイ・ハーグローヴへのトリビュートとも言える “Dark Gold” など、彼らの音楽的なバックグランドを深く理解している人であれば、ニヤリとする仕掛けも随所に込められていたりと、聴けば聴くほどに引き込まれていくアルバムだ。

 すでに海外への進出もスタートしている Ovall であるが、いずれは日本を代表するアーティストになるかもしれない彼らの、現時点での最高傑作をぜひ聴いて欲しい。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151