ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 別冊ele-king 日本の大衆文化はなぜ「終末」を描くのか――漫画、アニメ、音楽に観る「世界の終わり」
  2. Nídia & Valentina - Estradas | ニディア&ヴァレンティーナ
  3. ゲーム音楽はどこから来たのか――ゲームサウンドの歴史と構造
  4. Neek ──ブリストルから、ヤング・エコーのニークが9年ぶりに来日
  5. interview with Sonoko Inoue ブルーグラスであれば何でも好き  | 井上園子、デビュー・アルバムを語る
  6. Bonna Pot ──アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いレイヴ、今年は西伊豆で
  7. Loren Connors & David Grubbs - Evening Air | ローレン・コナーズ、デイヴィッド・グラブス
  8. アフタートーク 『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』
  9. Wunderhorse - Midas | ワンダーホース
  10. レコード蒐集家訪問記 第⼀回 ピンク・フロイド『夜明けの⼝笛吹き』を60枚以上持つ漢
  11. interview with Tycho 健康のためのインディ・ダンス | ──ティコ、4年ぶりの新作を語る
  12. Black Midi ──ブラック・ミディが解散、もしくは無期限の活動休止
  13. ele-king cine series 誰かと日本映画の話をしてみたい
  14. Gastr del Sol - We Have Dozens of Titles | ガスター・デル・ソル
  15. Seefeel - Everything Squared | シーフィール
  16. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(前編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  17. アナキズム・イン・ザ・UK 第8回:墓に唾をかけるな
  18. Columns ノルウェーのオイヤ・フェスティヴァル 2024体験記(後編) Øya Festival 2024 / オイヤ・フェスティヴァル 2024
  19. interview with Still House Plants 驚異的なサウンドで魅了する | スティル・ハウス・プランツ、インタヴュー
  20. Young Echo - Nexus  / Kahn - Kahn EP / Jabu - Move In Circles / You & I (Kahn Remix) | ヤング・エコー

Home >  Reviews >  Album Reviews > 網守将平- SONASILE

網守将平

ElectronicaIDMPop

網守将平

SONASILE

PROGRESSIVE FOrM

Tower Amazon

デンシノオト   Jan 22,2017 UP

 網守将平が〈プログレッシヴ・フォーム〉からリリースしたアルバム『ソナジール』を聴いていると、「ニッポンのポップ・ミュージック」とは、「そもそもポップ・ミュージックとは何か」を「問い直すこと」だと改めて確信した。「問い直すこと」とは、すなわち「実験すること」であるので、わが国において、誠実なポップ音楽とは、そもそも実験なのである。
 思い出してみよう。サディスティック・ミカ・バンド、イエロー・マジック・オーケストラ、ピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギター、コーネリアス、サニーデイ・サービス、相対性理論、サカナクション、セロ、ヤイエルに至るまで、時代を彩ったニッポンのポップ・ミュージックは、そもそもが西洋音楽であるポップ・ミュージックをいまいちど問い直し、そのうえでニッポンのポップ音楽(歌謡曲も含む)として再構築するような側面があった。そして、この網守将平の『ソナジール』もまた、そのニッポンのポップ音楽の最先端に位置しているアルバムなのである。
 じじつ、『ソナジール』は、グリッチ・ノイズからドローンまで00年代以降のエレクトロニカ的な手法を大胆かつ緻密に採用しつつも、そこにヴォーカルやメロディを洪水のように導入し、まるで東京の都市に溢れる過剰にして清潔な情報空間のごとき新しいポップ・ミュージックをコンポジションしているのだ。いわばマーク・フェルやアルヴァ・ノトの系譜を継ぐニッポンのポップ・ミュージック?

 もともと網守は、現代音楽畑の作曲家であり、坂本龍一のTV『スコラ』にも出演したこともある音楽家だ。くわえて「日本音楽コンクール」の第1位を受賞(作曲部門)するなどの実績を持ち、同時にラップトップ・コンピューターでのパフォーマンスもおこなっていたという。つまり「坂本以降のアカデミックな教育を受けたポップ音楽家の系譜」に置くことも可能だし、じじつ、ピアノやコンピューターによって華麗かつ精密に作曲・トラックメイクされたサウンドのそこかしこに網守の作曲家としての基礎学力や力量を聴き取ることは可能である(1曲めのピアノ曲“ソナジール”の優雅さや、2曲め“プール・テーブル”の細やかな音響交錯、10曲め“メア・ソング”のフォーキー+室内楽曲のような見事な作曲力! この曲は本当に素晴らしい)。
 しかし、『ソナジール』全編に横溢している過剰な情報の炸裂のようなポップ・ミュージックは、むしろコーネリアスの『ファンタズマ』を刷新するかのようなポップ・アルバムとして位置づけるべきではないかと思う。ceroやミツメなど現代のニッポンのポップ・ミュージックの現在とつなげるように聴いたほうが、よりしっくりくるようにも思える。なにしろ、ゲストボーカルに柴田聡子(3曲め“クジラ”)が、作詞とギターにceroのサポートも務めた古川麦(10曲め“メア・ソング”)などが参加しているのだから。

 それにしても、本作の電子音響/エレクトロニカ以降の手法をポップ音楽として再活用する本作の楽曲を聴き込んでいくと、日本のポップ・ミュージックとは、やはり実験なのだと改めて思ってしまう。外国の音楽の手法を問い直し、再検証し、自分たちのものにすること。それは一種の実験であり、実践なのだ。繰り返そう。この国では、「ポップであること」は、常に「ポップとは何か」と問い直すことである。『ソナジール』は、そのような「ポップ・実験・日本」という系譜の最先端にある作品といえよう。

デンシノオト

RELATED

anemone- anemone PROGRESSIVE FOrM

Reviews Amazon