「S」と一致するもの

Marcellus Pittman - ele-king

 ムーディマンセオ・パリッシュリック・ウィルハイトから成る3チェアーズ、その第4のメンバーとしても知られるマーセラス・ピットマンの来日がアナウンスされている。11月1日(金)@大阪NOON、11月2日(土)@名古屋CLUB MAGO、11月8日(金)@東京VENTの3か所をツアー。次はいつ体験できるかわからない、デトロイト・ハウスの至宝によるDJセット──なにごとも速すぎる現代、ビートダウンしてダンスを楽しみたい。

Marcellus Pittman Japan Tour 2024


◆11/1 (Fri) 大阪 @NOON

DJ: Marcellus Pittman, MITSUKI (Mole Music), YOSHIMI (HIGH TIDE)
PA: Kabamix

Open 22:00

Advance Ticket 3,000yen + 1 Drink
U-23 3,000yen + 1 Drink
Door 4,000yen + 1 Drink

Info: NOON + CAFE http://noon-cafe.com
大阪市北区中崎西3-3-8 TEL 06-6373-4919
AHB Production http://ahbproduction.com


◆11/2 (Sat) 名古屋 @CLUB MAGO

DJ: Marcellus Pittman, TAIHEI, CAN TEE, SBT

Open/Start 22:00

Advance Ticket 3,000yen + 1 Drink
Ticket Information
https://club-mago.zaiko.io/item/366967

Door 4,000yen + 1Drink

Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


◆11/8 (Fri) 東京 @VENT

=ROOM1=
Marcelus Pittman
Midori Aoyama
SUZU

Open 23:00

Door ¥4000
Advance Ticket 2,500yen (priority entry) https://t.livepocket.jp/e/vent_20241108
※The purchase of ADV will be available until 23:59 on the day before the event.
※前売券の販売はイベント開催の前日23:59までです。
Before 24:00 2,000yen
SNS DISCOUNT: 3,000yen

Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652

[プロフィール]

Marcellus Pittman | Boiler Room x Beacon Festival

Marcellus Pittman (Unirhythm, 3Chairs / from Detroit)

マーセラス・ピットマンは、デトロイトに生まれ育ち、自身のレーベルUnirhythmを主宰する。
10代初めにはローカルのラジオステーションWJZZの熱心なリスナーになり多くを学び、Larry “Doc” Elliott や “the Rose” Rosetta Hinesの番組を聞いていたという。
ディスコがフェイドアウトし、よりプログレッシブな音楽が出始めた頃(当時デトロイトではハウスやテクノ、またそのプロトタイプ的なものは”Progressive"と呼ばれていた)、The Wizardと名乗っていたJeff MillsやElectrifying Mojoがラジオ電波上で新しいアーティストをプッシュし続け、世界中からの音楽をリスナーに提供していた。ヒップホップ、エレクトロ、テクノ、ハウス、ディスコをミックスするそのフリーなスタイルに大きく影響されたという。
Home Grownというヒップホップグループでトラックメイカーとして活動していたが、Theo Parrishに出会い、『Essential Selections』Vol.1、Vol.2をSound Signatureからリリース。Rick Wilhite、Kenny Dixon Jr. aka Moodymann、Theo Parrishで構成されていた3Chairsに、4番目のメンバーとしてDJツアーやプロダクションに参加している。また、Theo、Omar-S、Marcellusのプロジェクト、T.O.M Projectにも参加し、Omar Sのレーベル、FXHEからはM.Pittmanとして『M.Pittman EP』と『#2』をリリースしている。
デトロイトの新興レーベル/ディストリビューター、FITからリリースされた12”レコード、M.PITTMAN『Erase The Pain』は、某大御所DJ達の間でカルト的賞賛を得た。Hungry Ghost (International Feel), Ackin’ (Internasjonal), Madteo, Nina Kraviz, Erika (Interdimensional Transmissions), Motor City Drum Ensemble, Funkadelicらにリミックスを提供している。

IG https://www.instagram.com/marcelluspittman
RA https://jp.residentadvisor.net/dj/marcelluspittman

interview with Neo Sora - ele-king

『HAPPYEND』

新宿ピカデリー、 ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、絶賛上映中

監督・脚本:空 音央
撮影:ビル・キルスタイン
美術:安宅紀史
音楽:リア・オユヤン・ルスリ
サウンドスーパーバイザー:野村みき
プロデューサー:アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ、アレックス・ロー アンソニー・チェン
製作・制作: ZAKKUBALAN、シネリック・クリエイティブ、Cinema Inutile
配給:ビターズ・エンド
日本・アメリカ/2024/カラー/DCP/113分/5.1ch/1.85:1 【PG12】

ⓒMusic Research Club LLC

 ファスビンダーはゴダール作品の多くに複雑な感情を抱いていたが、『女と男のいる舗道』だけは例外で、27回も観たそうだ。まあ、映画には音楽ほどの身軽さはないけれど、好きな映画はたしかに繰り返し観たくなる。空音央は、喩えるなら、ひとりの人間が20回以上は観たくなる映画を目指している、と思われる。それにデビュー作というものには、かまわない、やってしまえ、という雑然としたエネルギー(そこには政治性も内省も含まれる)があるものだ。そしてその熱量は、彼のモンタージュを吟味するような余裕を与えない。ぼくはもういちど、『HAPPYEND』を観に映画館に行かなければならないのである。

 高校を舞台にアナキズムを突き刺した作品といえば、ぼくの場合は真っ先にリンゼイ・アンダーソンの『If もしも……』、日本では相米慎二の『台風クラブ』が思い浮かぶ。もっとも『HAPPYEND』は、当たり前のことだが、それらのどれとも違っている。映像作家、空音央の長編映画デビュー作は、近未来のSFと言いながらも現在を語っている寓話だ。生々しい現実を「リアリズム」ではなくフィクションによって表現する手法は、音楽ファンにはアフロ・フューチャリズムを想起させるだろう。ブラック・ユーモアもふくめ、それは「テクノの聖地であるデトロイト」が得意とするやり方だ。
 しかも興味深いことに、『HAPPYEND』ではテクノと岡林信康という、集団のための機能的な音楽と60年代のプロテスト・シンガーの歌が重要な意味を持つ。このじつに妙な組み合わせは、いま、我々の日常生活を支配する「リアリズム」に抵抗したマーク・フィッシャーの思想ともリンクしている、とぼくには思える。
 というわけで、読者諸氏のために、空音央監督が本作制作中に聴いていた音楽のプレイリストを掲載しておこう。クラブ・カルチャーが映画で描かれるときは、ドラッグとセックスというあくびが出るようなお決まりのパターンばかりだが、『HAPPYEND』はまったく違っている。

それこそマーク・フィッシャーが言うように未来がなくなること、そのアイロニーと距離を持って世界と接することであって、フィッシャーが言う「メシア的な希望」、それともう新しいものはなにも生まれないという資本主義、ネオ・リベラリズムの絶望をつねに反復しているみたいな。

質問に入る前に、まず、最初にひとつお伝えしたかったのが、「デトロイト、テクノの聖地」、まさかこのセリフを(日本の)映画で聞けるとは思っていなかったです。あの場面で、涙腺が緩みましたね(笑)。

空:コアですね(笑)。

ほかにも印象的なシーンがいくつもあったんですけど、いちばん笑ったのは、楽器屋で働く無愛想なおばさんがおもむろに店内のDJブースの前に立って、テクノを爆音でプレイしはじめる場面。

空:あの楽器屋さんのモデルって、じつはPhewさんなんです。最初Phewさんにお願いしたんですが、タイミングが合わなくて。でも今回演じてくださった方もとても良かったです。

Phewさんだとかっこよすぎるんじゃないですか(笑)。

空:そうなんです。Phewさんっぽいけど、もうちょっと普通の人みたいな感じにしたくて、あれをやってもらった感じです。

あの、DJをやっている姿がさまになってしまっているんですよね。

空:あれ本当に一日で習得してもらったんですよ。全然DJとかやったことない方でしたけど。

そうでしたか、あれは見事でした。それにしても、高校生を主役にした青春ドラマはたくさんありますが、「テクノが好きでDJもやる高校生」という設定はないと思います(笑)。このアイデアはどういうところから来たんですか?

空:自分が好きだから、それだけでしかないんですけど。自分の高校時代は、テクノにドハマりしていたわけではなく、ファンクの方が好きだったんですけど、大学時代にかなりテクノにドハマりして、クラブに行くようになったんです。それで、近未来だったら高校生でもテクノぐらいやってるかなとか(笑)。自分の好きなものを入れたいから、そのために設定を紛れるみたいな。自分の趣味でしかないです。

行松(¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$U)くんが出てるのもすごく嬉しかったですね。

空:僕も嬉しいです(笑)。

行松くんとはどんな繋がりで?

空:行松さんはめちゃくちゃシネフィルで、エリック・ロメールの映画とかを観に行くといたりするんで、それでだんだん仲良くなったんです。蓮見重彦の本を渡されたりとか、そういう感じです。

じゃあ映画を通じて友だちになったという?

空:そうですね。友だちですね。ニューヨークに住んでたころから一方的にファンで、Keep Hushっていうイベントの日本編に観にいって、話しかけたこともありました。そのあと、やけに映画館でよく遭遇するようになったり、自分も「GINZAZA」という短編上映シリーズをやっていたんですけど、それを観に来てもらったりとか、普通に家に遊びに来たりとか、そういう感じです。映画の趣味が合うんですよ。それで、「映画作るんだけど、ちょっと出てくれませんか」みたいな感じで言ったら「はい」みたいな感じで。

ニュー・ジャーマン・シネマでいまいちばん好きなのは、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーです。『八時間は一日にあらず』という未完成のテレビ・シリーズも好きだし、まあでも、いちばん好きなのは『マリア・ブラウンの結婚』ですかね。

もともとファンクが好きだったということですが、音楽遍歴を教えてもらえますか?

空:子どものころからいろんな音楽を聴かされていて、ピアノとか、ヴァイオリンとかも子どものころは弾かされてたんですけど、ぜんぜん下手で練習も好きじゃなくて。最初にハマって、自覚的に自分からCDとか買いにいったのがレッド・ホット・チリ・ペッパーズかな。あとはゴリラズとか。

10代前半とかのことですか?

空:そうですね、中学生ごろです。そこからベースを弾きはじめたら、だんだんファンクが好きになり、ジャコ・パストリアスとかそこらへんを通りつつ、同時進行でレディオヘッドやポーティスヘッドを好きになったりとか。同時期に現代音楽とかもいろいろ聴いてたりとかして、大学に上がっていったら、テクノにハマったっていう。

おー、なるほどね。

空:ちょうど僕が大学にいたときに、〈ナイト・スラッグス〉が流行ってたんですよ。そこらへんをどっぷり浴びて。

〈ナイト・スラッグス〉かぁ、若い(笑)。ニューヨークですか?

空:ウェズリアンっていって、コネチカット州なんで、ちょっと違うんですけど、近いです。うちの大学はすごく、まあユニークなのかな、なんか生徒主体のコンサートを企画するクラブみたいなのがあって、大学からお金をもらってコンサートを企画するんですけど。で、僕が最初、大学に到着した日とかかな、僕の大学のなんかこう寮みたいなところで、ビーチ・ハウスグリズリー・ベアがコンサートしてたり、〈ナイト・スラッグス〉のDJ、アーティストが来たり、でかくなる前のケンドリック・ラマーがいたり、そういう感じの環境だったんです。だから、そこで本当にいろんな音楽を吸収しましたね。

じゃあ、もうかなりの音楽好きなんですね。

空:そうです。大学を卒業した後はブルックリンに住んでたんで、ブルックリンのクィアなクラブ界隈によく遊びに行きました。

〈Mister Saturday Night〉周辺とか、アンソニー・ネイプルスとか。

空:アンソニー・ネイプルスは交流があって、前にPV撮ったこともあります。アンソニー・ネイプルスの曲も、編集中にちょっと入れたりしてました。

じゃあ、DJパイソンなんかも。

空:大好きです。その界隈には本当によく遊びに行きました。で、楽器屋の店長がぶち上げる曲は、まだデビューもしてないんですけど、友だちの曲です。

ああ、なるほど。あの曲も、2010年代のNYのアンダーグラウンドな感じがありますね。で、そんな空さんが映画という表現を考えるきっかけになったことってなんなんでしょうか?

空:生活のなかに映画を観るという習慣がありまして、友だちとつるむときも映画を観ていたし、両親と一緒にも観ていた。高校のころは通学路に映画館があって、普通のシネコンなんですけど、そこで友だちと一緒になんでも観るみたいな。高2、高3ぐらいになってくると、友だちのカメラを使ってみんなで映像を作ってましたね。まだ出たばっかりのYouTubeに載せたり。それで、大学に行って映画の授業をとってみたら、面白いなと思ったんです。自分がけっこう映画作品を観ていたこともわかったし。僕は多趣味で、絵も描いて、写真も撮って、音楽も好きだった。遊びで演奏もしていました。でも、まあ全部趣味で、下手くそなんですよ。全部平均よりちょっと上ぐらいな感じのレヴェルで、突出したものはなかったんです。

謙遜じゃないですか(笑)。

空:そんなことはないです。高校ではいちばん絵が上手かったんですけど、大学に行ったら一番下手になるみたいな感じのレヴェルです(笑)。ただ、その全部が好きだったっていうのがあって、それで、映画だったらそのすべてをまとめてできるようなメディアじゃないかなっていうのがあった。しかも、映画の歴史の授業を最初に取るんですけど、そのときにやっぱり面白いなって思いました。で、体系的に学んでいくとさらに理解が深まったりもするんで、だんだん好きになっていきましたね。

とくに大きな出会いは?

空:『アギーレ/神の怒り』ですね。クラウス・キンスキーが最後に猿を掴んで投げるやつとか、もう頭から離れないですよ。猿を掴む感じ、なんだこれは? みたいな。リュミエールから順に見ていくみたいな授業があって、それでニュー・ジャーマン・シネマにたどり着いて。ニュー・ジャーマン・シネマでいまいちばん好きなのは、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーです。『八時間は一日にあらず』という未完成のテレビ・シリーズも好きだし、まあでも、いちばん好きなのは『マリア・ブラウンの結婚』ですかね。

ある意味もっとも過激な人ですね。あの人も音楽を効果的に使いますよね。『ベルリン・アレクサンダー広場』だって、戦前ドイツが舞台なのになぜかクラフトワークがかかる(笑)。

空:それこそ、大学ではクラウトロックとニュー・ジャーマン・シネマの関係性の論文を書いたりしてました。

ヴェンダースの『都会のアリス』(音楽はCAN)もあります。いつか自分の作品を撮りたいって思ってたんですね?

空:はい、ずっと思ってました。大学生のころから、2011年、2010年、そのぐらいからです。

じゃあもう、今回の作品の構想みたいなものもあったんですね。

空:7年ぐらい前にはありました。メモ帳を見ると、最初に出てくるメモが、2017年なんです。たぶん言葉にする前の段階では、2016年ぐらいからだったんじゃないかと思うんですけど、そのぐらいからずっとこれを作りたいと思ってたんです。

自分の第一作目を青春映画、学園ドラマというか、そういうものにしようと思ったっていうのは、なぜなんですか?

空:たぶん多くの監督のデビュー作って成長や青春、まあ、カミング・オブ・エイジと言われるような、そういうものになると思うんですけど、それは比較的、自然なことなんじゃないかなと思っています。なぜなら、最初に作るものには、それまで、自分が生きてきた体験を詰め込みたくなるからだと思います。まさに自分もそうで、高校〜大学、卒業した後に渦巻いていた僕のなかにあったものを全部このなかに入れたみたいな感じです。

なるほど、じゃあ実体験も入ってるんですか?

空:リミックスしてはいますけど、めちゃくちゃ入ってますね。ジェンガ(※積み木ゲーム)もやってましたし。

青春映画を作るにしても、とくに学校を舞台にしなくてもいいわけですけど、それを選んだのは?

空:つまらない答え方だとなりゆきっていうか。友情の物語が核なんですけど、最初の方はもっと広い話で、学校外のこともいろいろ入ってたんですが、やっぱり物語を凝縮していって無駄なものをだんだん削っていくと、結局学校が舞台のメインになってきましたね。さらに予算のこととかも考えはじめると、最終的に(物語を作るうえでの)必要な場所が学校だったっていうのが正しいかな。

学園ドラマではあるんですけど、ひとつの寓話ですからね。

空:そうですね。まさにその通りです。

空さんの、いまの社会に対しての強い気持ちが、いろんな場面に現れていて、内的な葛藤みたいなものもふたりの主人公を軸に描写しているように思いました。で、空さんが最終的に何を言いたかったんだろうっていうのを考えるわけですけど……。

空:まあでも、伝えたいこととかはとくにないんです。(取材で)観客に対しての社会的なメッセージみたいなことをよく聞かれるんですけど、どういうメッセージなのかみたいな。映画とは、別にメッセージを伝えるものではないと思っています。メッセージを伝えるのは、プロパガンダ映画なんです。僕がこの脚本を書きたいって思うぐらい強い衝動が、2016年ぐらいに結実して書きだすんですけど、それは本当に溢れてくるから書くんですよね。書きたいという気持ちと、自分のなかで抑えきれない感情みたいなものが溢れてきて、それが合わさって映画になっていくみたいな感じでした。どちらかといえば、日記のように自分のなかの政治的な思いや社会に対する怒り、もしくは自分が経験した友人たちへの愛なんかを描いていくような。まあ実際に政治性をもとに人を突き放したり、突き放されたりっていう経験があって、その深い悲しみみたいなものだったりとか、まあそういうのが渦巻いてるわけですよね。とくに2016年にはトランプが大統領になってしまった。

なるほどね。

空:というのもあるんですけど、まあ、いろいろ渦巻いていて。自分は映画を、まあ練習してきたし、勉強していたんで、そうしたものを映画にするのがすごく自然だったんです。だから作ったという感じで、社会についてのメッセージを人びとに伝えたいっていう気持ちはむしろなかったですね。まあでも、映画を通して発言する機会を与えられるのであれば、言いたいことっていうのはいくつかあります。関東大震災のときの朝鮮人虐殺を忘れるな、っていうのと、いま起こってるジェノサイドに対して声を上げろっていうのを、どうせ発言の機会を与えられるんだったら、それを言いたいなってぐらいのことなんです。でもそれは別にこの映画とはある意味関係ないっていう。

ただ、ひとりの人間として言いたい、と。

空:映画ってすごい特異な場所で、劇場って何百人ぐらいの人が観るわけですよ、こっちのことを。しかもこんなに自分の脳内をさらけ出してるみたいな映画を観たあとに、監督本人が、質疑応答で出る機会があると、その人たちに対してなにか言える機会があってですね。そういう機会をくれるんだったら、そういうことは言いたいけど、でも、映画を通してそれを伝えたいかどうかって言ったら、違います。

映画を通して発言する機会を与えられるのであれば、言いたいことっていうのはいくつかあります。関東大震災のときの朝鮮人虐殺を忘れるな、っていうのと、いま起こってるジェノサイドに対して声を上げろっていうのを、どうせ発言の機会を与えられるんだったら、それを言いたいなってぐらいのことなんです。でもそれは別にこの映画とはある意味関係ないっていう。

僕が今年見た映画で一番ショッキングだったのが、この『HAPPYEND』にコメントを寄せている濱口竜介監督の『悪は存在しない』なんですね。で、あの映画は説明をしない。一方で空さんの映画には、説明しようとしているものを感じるんですよね。良い悪いでも、説明的という意味でもないですよ。

ああ、ただ設定が設定なので、説明しないと描ききれないというのがあるんです。

たしかに、未来が舞台なので、ある程度の説明は避けられませんからね

空:もっとも大変だったのは、友情が崩壊していくさま、その理由として政治性が芽生える。で、それを描くためには、政治性が芽生えるきっかけと社会の部分を描かないと描ききれない。それを描くには、左翼的な人たちが出てくるシーンも描くんですけども、難しかったのが、そういう人たちの会話の自然な台詞みたいなものを考えると、説明的になってしまうんです。なぜなら左翼は、めちゃくちゃはっきりとセオリーを言ってしまうから。資本主義はこうで、権力はこうでみたいなのを言うじゃないですか。で、そこをリアルに描いたヴァージョンもあったんですけど、そうすると映画的には非常につまらないものになってしまう。試行錯誤した結果、いまの形になってるんですね。座り込みのシーンもそうです。それを説明的に描いたらつまらないものになってしまったから、ああいうふうになってる。でも、本当はなるべく説明は避けたいと思っていますね。

なるほど。あと、これは音楽の話にもリンクするんですけどね、もうひとつ面白いなと思ったのは、未来の高校生たちが岡林信康の歌を歌うこと。あれはなんで岡林なのかっていう。

空:歌詞がすごくテーマとリンクしているっていうのもあるんですけども、単純にあの曲が好きです。プロデューサーの増渕愛子が教えてくれたんですけど。森崎東の『喜劇 女は度胸』っていう映画で歌われているのを増渕が発見して、YouTubeで聴かせてもらって、めちゃくちゃ面白いじゃんみたいな感じになって。それでしばらくして、脚本についてふたりで話し合ってたとき「合唱してるシーンって映画的だよね」みたいな話になって、そういうシーンを入れようとしたとき、ちょうどいいじゃんみたいな感じで。

未来の学園、テクノでDJで、岡林信康……。

空:いまってそういう感じじゃないですか。たとえば60年代70年代だったら時系列順にローリング・ストーンズ聴いて、ビートルズ聴いて、みたいな感じになってきますけど、いまはやっぱりもうTikTokの時代とかっていうストーリーですから。

まあそうですね、たしかに。

空:だから、新しい音楽と遭遇したのと同じように、岡林も発見したりするのが、たぶんいまの音楽や文化との接し方っていうか。新しいものを時系列に追うという感じじゃなくなって、まあモノ・カルチャーじゃないっていうことですよね。自分の興味にそそられるまま、ネットを通して、どの時代も、どの文化のものにもアクセスできるようになっているという。

なるほど。

空:この映画のなかには裏設定があって、DJっていうものがそんなにポピュラーじゃなくて、コアな変な人たちがやるものっていうふうにしたくて。この近未来の設定では、大衆が聴く音楽というのは、AIが生成して、自分のムードを検知したりとか、あるいは入れたりしたら、それを生成して聴かせてくれるみたいな時代になっている、と仮定しているんです。そのなかで昔の、——マーク・フィッシャーじゃないですけど——、古いものを再発見して、それで楽しむっていうのがユウタの癖というか、性癖というか。だけどそれって悲しいことであって、まあAIもそうなんですけど、結局古いものを融合させて、新しくないものをまた作り変えるみたいなことしかできない。それこそマーク・フィッシャーが言うように未来がなくなること、そのアイロニーと距離を持って世界と接することであって、フィッシャーが(『資本主義リアリズム』のなかで)ベンヤミンを引用して言う——英語でしか読んだことがないんですけど——「メシア的な希望」という、それともう新しいものはなにも生まれないという資本主義、ネオ・リベラリズムの絶望を常に反復しているみたいな。でも、「メシア的な希望」みたいなものを持ち合わせてないと革命は不可能なので、そのふたつの対立をここにいれたというような。だから、まさにマーク・フィッシャー。

(笑)

空:ユウタが、楽器屋の面接のシーンで言う、「新しいモノってないじゃないですか」っていうのもまさにそれで(笑)。

この映画をの作品名を『HAPPYEND』にしたのはなぜですか?

空:もともとは「アースクウェイク」、「地震」っていう仮タイルだったんですけど、で、考えていったときになぜか『HAPPYEND』っていうのに惹かれて。「ハッピー」が持っている語感のエネルギーみたいなものと「終末」を感じさせるエンディングが合体することによって、この映画の雰囲気っていうか、若者が発している、はつらつとしたエネルギーなんだけれども、それと対比して世界が、絶望的な世界がバックグラウンドにあるという、両方兼ね揃えたような雰囲気を醸し出しているかと思ってつけました。なので、有名なバンド名や曲名などとは関係はありません。

深読みされたりするんですか?

空:されます。本当に関係ないです。たまたまつけたっていう。シンプルでいいと思いました。聞いたことあるフレーズだし、本当に誰でもわかるような言葉だけれども、独特のフィーリングみたいなものがこの映画とマッチしているんじゃないかなと。

『悪は存在しない』もそうだけど、映画のタイトルは、作品を見終わったあとに考えるうえでのヒントになるというか、『HAPPYEND』もそうですよね。そこには、アンビヴァレンスなんだけどどこか清々しさがあるっていうか。

空:それはそうかもしれないですね。映画を観終わったあとにまた、劇場を出て『HAPPYEND』ってタイトルを見たら、たぶん入る前とだいぶタイトルの印象は変わるし、含みもありますよね。でも意外とつけたのは直感的というか。自分もバッチリな選択でしたね。

空監督が今回の作品のなかでとくに気に入ってる場面ってどこでしょう。

空:たくさんあります。毎回笑ってしまうのが座り込みのシーン。窓がコンコンって鳴って佐野さんが開けて、寿司があってそれで何事もなかったかのようにカーテンをシュッて閉めるっていう。あの本当になんでもないように閉めるみたいな佐野さんのシーンがもう毎回爆笑しちゃって、すごい好きなんです(笑)。

なるほど(笑)。

空:でもなんでしょうね、全部好きですよ。どのシーンもうまくいったなって。あと、もうひとつすごい地味なんですけど、機材が盗られてしまって、職員室に北沢って先生と5人が並んで、奥が深くて、っていう。あのシーンはワン・カットなんですけど、めちゃくちゃうまくいったなと思っています。カメラも動かないし、本当に引き画だけなんですけど、事務員が入ってきて鍵を渡すタイミングと、それが全部終わったあとに後ろでタイラがひょこって出てくるタイミング、リズム感が完璧だったんですよ、あのテイクは。ひとつのシーンで本当にミニマルにすべてができたなっていうのが、職業病的に見るとうまくいった実感があって。リズム感がいいんですよ(笑)。

Jeff Parker, ETA IVtet - ele-king

 ジャズ・ギタリストのジェフ・パーカーがまたもこのうえないアルバムをつくりあげたようだ。今回は彼が率いるETAカルテットとの録音で、スタンダードからダブまでがつながっているような、アンビエント・ジャズ作品に仕上がっている模様。国内盤CDは12月11日リリース。要チェックです。

Jeff Parker, ETA IVtet 『The Way Out of Easy』
2024.12.11 CD Release

LAの伝説的ライブハウス、ETAで行われていたセッションから生まれたETAカルテット。ジャズ・ギタリスト、ジェフ・パーカーはじめ、ジョシュ・ジョンソン、アンナ・バターズら実力者たちによる音源が、国内盤CDでリリース!! 近年、LAを中心に盛り上がりを見せるアンビエント・ジャズのまさしく最前線ともいえる現場で、即興的に生まれる彼らの音楽、息遣いを聴くことができる。

ジェフ・パーカーがまたも極上のアルバムを作った。彼が率いるETA IVtetは、LAのETAというレストランで結成され、2016年から毎週レジデントで演奏を続けた。最初はスタンダードを演奏していた。次第に1曲の時間が長くなり、音楽の旅へ導くような演奏は客を惹き付け、レストランの外に入場を待ち望む列が出来るようになった。そのETAにおいて、途切れなく流れる長尺の演奏が厳選された僅か4本のマイクとカスタム・ミキサーで録音された。スタンダードからダブ/レゲエまでを美しいラインに繋げることができるアンビエント・ジャズのエッセンスがここに刻まれている。 (原 雅明 ringsプロデューサー)

https://youtu.be/ErvST4ZkS1Y

【リリース情報】
アーティスト名:Jeff Parker, ETA IVtet (ジェフ・パーカー、イーティーエーカルテット)
アルバム名:The Way Out of Easy (ザ・ウェイ・アウト・オブ・イージー)
リリース日:2024年12月11日
フォーマット:CD
品番:RINC130
JAN: 4988044124981
価格: ¥3,300(tax in)
レーベル:rings

Track List
1. Freakadelic (23:50)
2. Late Autumn (17:21)
3. Easy Way Out (21:59)
4. Chrome Dome (16:45)

Anna Butterss - amplified double bass
Jay Bellerose - drums, cymbals and percussion
Josh Johnson - amplified alto saxophone with electronics
Jeff Parker - electric guitar with electronics and sampler

オフィシャルURL: https://www.ringstokyo.com/jeff-parker-eta-ivtet/
販売リンク: https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008935886

Neighbours Burning Neighbours - ele-king

 今年、2024年はオランダのインディ・ロック・バンドの盛り上がりに確信を持たせるような年になった。素晴らしい2ndアルバムを出したアムステルダムのパーソナル・トレーナー(2枚目のアルバムはなんとも優しいギター・ロックだった)、ポスト・パンクの領域を広げたデビュー・アルバムを出したロッテルダムのトラムハウス、リアル・ファーマーのアルバムにザ・クリッテンスのEP、軽く考えただけでも次々に名前が出てくる。そのほとんどのバンドがイングランドにツアーに出かけ、音楽的影響を持ち帰り自身の音楽をさらに広げていく。
 比較的、地理的に近いということも大きいのかUKのバンドとの交流も多い。ノッティンガムのオタラ(これからサウス・ロンドン・インディ・シーン以降の重要バンドになるのではと期待しているバンドのひとつだ)にインタヴューしたときに、いままででいちばん印象に残ったライヴは何かと尋ねたのだが、オランダ、ロッテルダムのサーキット・フェス、レフト・オブ・ザ・ダイアルの名前を挙げていたのも印象的だった。曰く、こんなにたくさん好きなバンドが見られるフェスはなかった、と。レフト・オブ・ザ・ダイアルのラインナップは本当に凄く、UKを中心にヨーロッパやアメリカ、アジア、世界各国のアンダーグラウンド・シーンの気配を持った100を超える若手バンドが集まっている。そのラインナップはどのメディアの期待のバンド・リストと比べても遜色がないだろう。こうしたフェスが毎年おこなわれているというのもまたオランダのインディ・シーンの地盤の固さを物語っている。

 そんなオランダ・シーンの中で自分が今年いちばん期待していたのがロッテルダムを拠点に活動するネイバーズ・バーニング・ネイバーズのアルバムだった。ザ・スイート・リリース・オブ・デスやソロとして素晴らしいアルバムを作り上げたアリシア・ブレトン・フェラーのバンドであり、パーソナル・トレーナーやトラムハウスなどがインタヴューでおすすめのオランダのバンドを聞かれたときに毎回名前をあげるようなバンドで、このシーンの重要バンドと言ってもいいかもしれない。ノイズとポスト・パンクの間でうごめく冷たい炎が宿ったカオス、バンド結成初期の時期がコロナ禍と重なるという難しさもあったのかデビュー・アルバムのリリースまで長い時間がかかったが、しかしついにアルバムがリリースされた。金属のメロディを刻むギターに、高い位置で膨らむベース、陶酔した意識を引き戻すかのようなドラム、そぎ落とされたネイバーズのストイックな音楽は冷たく強烈な衝動でもって心を後ろ暗く躍らせる。それは庭で遊ぶ子どもが壁の隙間から何かを除き見るときのような、背徳と期待が入り交じった感情で、否が応でも胸を高鳴らせるのだ。

 たとえば “Familiar Place” と名付けられたその曲は、何かを伝える信号と引っかいたようなノイズを生み出す二本のギターが相まって心を落ち着かなくさせる。不安にゆれる “Always Winning” のアルペジオにしても同様で、アリシア・ブレトン・フェレールとダニ・ファン・デン・アイセルのふたりのギターとヴォーカルは交互に行き来しながら虚空に意味を刻んでいく。暴力的でありながら優しく静かに。あるいはそれはカミソリで指先を傷つけたその瞬間に似ているのかもしれない。糸を引くように線が生まれ、血が噴き出し、わずかに溜まり、そうして重力に引かれ落ちていく。痛みを感じるのはその後だ。
 おそらくこのアルバムのなかで最も古い曲であろう2019年から演奏されてる “Hesitate” はやはり素晴らしい曲で、ソリッドなアレンジを施されてこのアルバムのなかで一際輝きを放っている。はやる心にシンクロするようなアラム・シーヴのドラムに、爆発するキャット・カルクマンのベース、そして落ち着くことを許さない二本のギターのフレーズ、鋭く薄い金属の刃で幾重にも切りつけるかのようなこの曲は、ノイズのカオスのなかでいかにこのバンドが特別であるのかを証明する。

 そう、このバンドは特別なのだ。この1stアルバムがリリースされる直前にギターとヴォーカルを務めるアリシア・ブレトン・フェラーの脱退が発表されて、ここに収められたネイバーズの姿はすでにない。だが記録された楽曲がバンドの輝きを示し続ける。抑制が効いたノイズのカオス、コントロールされた衝動が封じ込められた青白くゆらめく炎、このバンドのライヴをもう見ることができないのは残念だが、いまはしかしこの素晴らしい1stアルバムを残してくれたということに感謝すべきだろう。地下でうごめく静かな熱を僕は感じる。

GEZAN - ele-king

 驚きのニュースが飛びこんできた。東京でオルタナティヴな試みをつづけるバンド GEZAN が11月14日から17日にかけてウガンダで開催されるフェスティヴァル《Nyege Nyege Festival》に出演することになった。ネゲネゲといえば、南アフリカのゴムやアマピアノ同様、2010年代以降のエレクトロニックなダンス・ミュージックに新しい風を吹き込んだカンパラのコレクティヴである。そのフェスティヴァルに GEZAN が出演することは日本のアンダーグラウンド・シーンにとっても小さくはない意味をもつにちがいない。彼らの新たな一歩に注目しよう。

2024/11/14~17 at Uganda Jinja Golf Course
https://nyegenyege.com/tickets/

アフタートーク - ele-king

水谷:昔はダーティーな感じって、今よりもっとカッコ良かったですよ。ぶっきらぼうで悪そうなんだけれど、真っ直ぐで不器用っていう人が「かっこいい男」の象徴だった気がします。

山崎:確かにそうですね。若者の憧れの姿としてそういう人の方が味わい深くてかっこいい時代って確かにありました。・・・というかまた今回も「昔は」から入りましたね。この連載のお決まりになってきましたよ。

水谷:僕らもやっぱり毎晩のようにお酒が入ると「昔は」になるじゃないですか? ザ・老害ですが、老化の始まりの50’sとかってそんな年齢なんでしょうかね?

山崎:自分が若い頃は、「昔は良かった」って言う、おっさんに嫌気が差していましたが、いざおっさんになるとこれは避けて通れないですね。昔話って楽しいですから。で、話を戻すとこれは完全に時代が変わったことへの妬みですが(笑)、今はダーティーな人よりも小洒落ている人の方が優っている気がします。身なりも生き方も少しダーティーな方がカッコよく感じたのは00年代くらいまでかもしれません。今はすぐに悪い意味で『ヤバイ奴』っていうレッテルを貼られてしまいますからね。

水谷:昔はそのヤバさがカッコよかったと思います。そんな世の中だからか?最近、コアなソウルのレコードが他と比べてとても売りづらいんですよ。ブルースもしかりで。もう時代についていけないですよ。心地の良い爽やかでクリーンなものしか世の中の人たちは求めていないのでしょうか。

山崎:でもいま人気の日本のヒップホップの人たちはめちゃくちゃダーティーじゃないですか?

水谷:ダーティーというかサグというか?そっちはびっくりするくらいの不良っぷりをアピールしていて(笑)。この感じは昔とはずいぶん違います。うまく言えませんが両軸を持った絶妙な味わい深いものがあまりウケない。例えば厳つい輩の作品の中にインテリジェンスを感じたり、時にはそんな漢が女々しく歌ったり、ヒップホップなんかもあれは黒人特有のセンスで、素でやっていたと思いますが、そんなゴリラみたいな男が、繊細で気の利いたサンプリングをしたり。そんなのがよかったのですが・・僕は造詣があまりないですがパンクとかもそうでしょ?その衝動と時に見せる計算高いセンスの良さに“上がる”というか。あんまりそういう感覚って今の若者は無いんですかね?最近のJ-POP的なのは大丈夫なんでしょうか。そのような観点で音楽を聴いてきた僕のようなジジィにはとても受け入れ難いのですが。

山崎:なんだか血の通っている生々しさや人間らしさを避けている傾向もありますね。アートでもアニメでもアイドルでも綺麗でわかりやすい偶像をみんな求めていて、リアルなものから目を背けている気がします。たとえば白土三平とか寺山修司のようなものは今、流行らないかもしれません。

水谷:そういうのを『サブカルチャー』って言っていましたが、そんな言葉も今はあまり使われませんね。なんでこういう話をしたかと言うと、Groove-Diggersのコンピレーションの選曲をする中で今の時代を意識する必要があったんです。

山崎:今回のコンピレーション、『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』とても良かったですね。飽きずに最後まで聴ける流れと選曲で、ハズレ曲というか、無駄な曲がなかったです。

水谷:僕にとってその『ハズレ曲』や『無駄な曲』って、存在意義としてとても重要なんですよ。そういう曲で周りを固めるとキラー曲が、より栄えますので。ただ、全部が最高のタイパ、プレイリストの時代にそぐわない気がしましたので、あえて入れませんでした。リック・メイソンとかも候補にはあったんですけど(笑)。

RICK MASON AND RARE FEELINGS / Dream Of Love

山崎:リック・メイソンの「Dream Of Love」はヘタウマ系の最高峰ですね(笑)。とてもいい曲です。収録アルバムのオリジナル盤も人気で10万超えの高額盤ですが、一部のコアなファンにしかウケないんですよね。
前談が長くなりましたが、今回のコラムは『Groove-Diggers presents - "Rare Groove" Goes Around : Lesson 1』についてです。

水谷:今回、僭越ながら選曲をさせていただきました。そしてこんな選曲なので、 ジャケットは僕らのMOMOYAMA RADIOスタジオからの風景を山崎さんが撮影してくれて、すなわち、僕らVINYL GOES AROUNDメムバーによる合作となりました。

山崎:自画自賛ですがいい写真ですよね。でも僕の腕ではなくてテクノロジーの進化のおかげです。
さて、選曲はこれまでGroove-Diggersでリリースしたアルバムからのピックアップですが、特に思い入れのある曲はなんですか?

水谷:音楽的じゃない話しになってしまうのですが、マシュー・ラーキン・カッセルをリリースしたときの話なんですけれど、原盤の所有者にたどり着くのがすごく大変でした。本当に全然見つからなくて。いろいろな方法と角度から辿っていったのですが、そしたらアメリカのローカルのラジオ局にマシュー本人が出演したという情報を得ることができたんです。それでそのラジオ局に連絡したら局員の方がマシューに繋いでくれたんですよ。

山崎:2008年の話ですよね。その頃、レアグルーヴ界隈でもマシュー・ラーキン・カッセルの再評価なんて誰もしていない時代でしたよ。今ではオリジナル盤は高すぎてすごいことになっていますが。

MATTHEW LARKIN CASSELL - Fly Away

水谷:連絡したら「なんで日本人のお前が俺のレコードなんて知っているんだ?」ってびっくりしていました。当時は大して売れもしなかったレコードが数十年以上経てマニアに人気が出ているなんてことを本人は知らないんですよ。だから連絡すると驚く人は多いです。継続してミュージシャンをやっている人なんてほとんどいませんから。マシューは学校の先生をやっていました。リリースのオファーを快く受け入れてくれてとても歓迎されましたよ。

山崎:本人は当時、想いを込めて作った作品でしょうから「よくぞ見つけてくれた」っていう喜びは大きいでしょうね。こういうところもレコード・ディギングの素晴らしいところかもしれません。

水谷:あとはやっぱりイハラ・カンタロウの「つむぐように(Twiny)」ですね。70年代〜80年代に制作された楽曲とは40年以上の時間差がある中、それらの曲に影響されて同じマナーで音楽制作をしている彼へのリスペクトもあって、この選曲の中に入れたかったんです。なので一番人気のウェルドン・アーヴィンのカバー曲「I Love You」ではなくて彼のオリジナル楽曲を収録しました。

CANTARO IHARA – つむぐように(Twiny)

山崎:これはイハラくんにとって、すごく良いことですね。

水谷:彼もAORとかライトメロウな曲に詳しいので「こんな素晴らしい楽曲たちの中に自分の曲を並べていただいて嬉しいです」と言っていました。はじめからイハラくんでコンピレーションを締めくくることを考えていたので最後の曲にしたのですが、「つむぐように(Twiny)」の美しい旋律は、今回の「締め」に相応しかったと思っています。

山崎:このコンピレーションをどういう人に届けたいと思っていますか?

水谷:入門編として聴き心地の良い曲を並べたとても聴きやすいアルバムなので、若い人たちにとって、古き良き時代の音楽“にも”触れるきっかけになればいいと思っています。
この世界(レアグルーヴなど)ってレコードが高額なイメージが強いので、自省も込めて言いますと、オリジナル盤にこだわるマニアたちが敷居を高くしてしまっていると思うんです。すると若い人たちは入りづらい。レアだからすごいってことではないが、もちろんプレス数による現存云々はありますが、基本内容の良くないモノは高くはなりませんので、こういうコンピレーションで、レア・エクスペンシヴ盤の世界への間口を広げることができれば良いです。

山崎:本作には通して聴くからこそ良く聴こえてくる化学変化みたいなものがあると思います。そこがこのアルバムの良さですね。いままでこれらの曲に出会わなかった人たちが出会える盤になるといいですね。

水谷:今はレコードブームの中で、レコードをBGMとしてかけるカフェやバーも多いので、そういうところでかけてもらえたら嬉しいです。店内で流しても誰も傷つかない選曲をしていますので。昔はカフェとかでよくかかっていた、『ホテル〇〇』とか、そういうお洒落系CDコンピレーションがたくさんあって、個人的には好きではなかったけれど、でも今、そういうのは全然ないじゃないですか。当時はそのようなコンピレーションはすごく意味があって、一般的に聴かれるはずのない曲たちが日の目を見ることにもつながっていました。そういえば最近の僕らの流行の新語SJ(以前の『情熱が人の心を動かす』の回、参照)の話しを友達にしたら、クラブでプレイしないDJをDJ-Bar DJって云うらしいですよ。

山崎:それはもう体力の低下でクラブのテンションにはついていけてない僕のことですね(笑)

水谷:あとは、ここに収録の曲はいわゆるAORベストみたいなチャートには入らない曲ですが、そういう大物ミュージシャンがやっている王道系もいいんですけど、こういうオルタナティヴな側面を一般的なAORファンにも是非聴いてほしいです。

山崎:レアグルーヴなんてローカルな低予算レコーディングの自主制作に近い盤ばかりですから、世の中の音楽シーン全体で考えたらB級作品なんですけど、でもB級作品の美学ってありますからね。

水谷:それこそ『サブカルチャー』ですよ。昔は『サブカルチャー』を掘っていくと、誰も知らないところで自分だけが知っているみたいな嬉しさがありました。でも今はネットでほとんどの情報がすぐに手に入るから、見え方として『サブカルチャー』というカテゴライズが必要無いのかもしれません。でもマスメディアやネットに流されないで自分が何を取捨選択するかをちゃんと考えて、自分の趣向に合いそうならこういう世界も覗いてほしいと思います。

山崎:僕らはひねくれ者なのかもしれませんが、若かりし頃は「王道ソウルはあいつ聴いているし、俺はいいや」って思って深掘りしていましたね。

水谷:ヒップホップにおけるサンプリングの表現も一緒ですよ。だれも知らないものをディグる精神は重要だと思います。

山崎:新しいカルチャーもこういうところから生まれますしね。

水谷:だからってこのコンピレーションを買って欲しいと言っているわけではなくて、どこかで聴いて、シャザムしてスポティファイで聴いてもらってもいいです。おかげさまで、レコードはまもなくPヴァインのメーカー在庫も売り切れますが、本連載冒頭にもリンクがありますのでYouTubeのMOMOYAMA RADIOで聴いてみてください。全編通してアップしていますので。気に入った曲があったらそこからその曲が収録されているアルバムまで辿ってもらえると嬉しいですね。
他にもいい曲あったりしますし、文化ってこういうことで次世代に継承されていくと思いますので。

山崎:そんな次世代の仲間募集中!ご連絡は履歴書や自己紹介文を添えてこちらまで。
vinylgoesaround@p-vine.jp


Groove-Diggers presents
"Rare Groove" Goes Around : Lesson 1

A1. ERIK TAGG - Got To Be Lovin You
A2. LUI - Oh, Oh (I Think I'm Fallin' In Love)
A3. CHOCOLATECLAY - The Cream Is Rising To The Top
A4. TED COLEMAN BAND - If We Took The Time (Where Do We Go From Here)
A5. BABADU! - All I've Got To Give
A6. DANNY DEE - My Girl Friday
B1. POSITIVE FORCE - Everything You Do
B2. JIM SCHMIDT - Love Has Taken It All Away
B3. MATTHEW LARKIN CASSELL - Fly Away
B4. MOONPIE - Sunshine Of My Life
B5. CANTARO IHARA – つむぐように(Twiny)

Neek - ele-king

 ブリストルの重要人物のひとり、ヤング・エコーのメンバーにしてカーンとのコラボでも知られるニークが9年ぶりの来日を果たす。サポートするのは、ゲットー・サウンド~ベース・ミュージックを再解釈するパーティ《SUPER PLAY》と、東京でブリストル魂を発露させるコレクティヴ BS0。10月25日(金)@渋谷R Lounge、総勢13組が集う一夜、響きわたる低音に身体を揺らせ!

『UKブリストルのモダンDubミュージックのダークサイド最重要人物、Neekが9年ぶりの来日』

Neekは、コレクティヴYOUNG ECHOのメンバーとしても活動しているが、その中で最もよく知られているのはKahnとのコラボレーションだろう。BS0第1回を彩った2015年の初来日ツアーは、このKahn
& Neekとその別名義Gorgon Soundとして世界のヘッズを魅了するブリストルミュージックの先端が日本中に届いた瞬間でもあった。

グライムやダブステップ、ダンスホールレゲエやUKダブ、レフトフィールド・アンビエントまで、作品/名義ごとに様々な魅力をみせるNeekは、’10年代前期以降、Deep
Medi、Butterz、Hotline
Recordingsといった名門レーベルからのリリースを続ける。近年ではJabuとの独創性が鈍く光る実験音楽ユニットO$VMV$Mの存在感も強く、ブリストルの外へ、そしてベースミュージックリスナーの外へも影響力を広げていくことになる。

パーティクルーSUPER PLAYは、MEGURO、kobachiが主催しBDS、neneeedy、yunioshiがレジデントを務めるゲットーサウンドのグルーヴ、ベースミュージックを新解釈するニューエラなパーティで、下北沢LIVE
HAUSやclubasiaで回を重ねながら9月に2周年を迎えた。今回のパーティではアグレッシブなプレイでジャングル、ダブステップ、テクノを横断するMEGUROとUKベースカルチャーを軸にストイック&エンジョイなプレイが広く愛されるBDSがそれぞれNeekをサポートする。このBS0とのセッションでも、彼らの稀有なキュレーションは炸裂している。スタイリスト兼プロデューサーで謎多きOZZY’S
VISION、先述のBS0初回にも出演したSakanaは国産グライムレーベルnullrebelのMC、YammyBox、吐黒とのセッションを披露。ヒップでブレイキンなスタイルのMaya
Bridgetとスモーキーで黒い感性をもつyayoiとのドラムンベースB2B、ルーツと現行の解釈を交差させ新たなDUBシーンを担う“重低”からakiiが名を連ねる。

ブリストルの音とスピリッツを都内に表出させるパーティ/コレクティブBS0からは、オリジナルメンバー1TA、Dx、Osam Green
Giantが揃ってBS0 Gangとして登場。BS0のスピンオフ・クルーBS0xtraから、ヒップホップ、ダブ、サウンドシステムミュージックを咀嚼して、独自のRebel
Beatzを追求するDADDY VEDAが出演。

さらに、VJには音響ブランドM.A.S.F.の開発者で、ENDONのエレクトロニクス奏者Taro Aikoという驚きのサポーターが加勢する。

SUPER PLAY × BS0 feat. NEEK

2024年 10月25日 金曜日
Open 21:00
Door ¥3,500
ADV ¥3,000
Before 23:00 ¥2,000

Lineup:
Neek (Bandulu Records / Gorgon Sound / Young Echo / O$VMV$M)
Sakana + YammyBox, 吐黒 (nullrebel)
OZZY'S VISION
DADDY VEDA
yayoi × Maya Bridget (Smashee Break)
akii (重低)
BDS
MEGURO
BS0 Gang (1TA, Dx, Osam Green Giant)

VJ: TASC

Food: ちょっと遠いレコード

Flyer: OMEGA

ADVANCE TICKET (Livepocket):
https://t.livepocket.jp/e/zdsfu
R Lounge Web:
https://rlounge.jp/

Bonna Pot - ele-king

 2022年、川崎のちどり公園での開催が話題となった野外パーティ「Bonna Pot」。音響に対する高いこだわりで知られる、アンダーグラウンドでもっとも信頼の厚いこのレイヴが2024年も敢行されることとなった。
 今回は11月8日(金)~10日(日)の二晩、西伊豆の「オートキャンプ銀河」にてオールナイト・パーティとして開催。
 メルボルンのCS + Kreme、ベルリンのTHOMASH、O/Yのライヴが予定されており、DJには∈Y∋をはじめバンコクの人気テクノDJ、Sunju Hargun、デトロイトのScott Zachariasなどが登場する。出演者からサウンドシステム、タイムテーブルまでこだわり抜かれた二夜。秋の森で良質な音楽に浸りたい。

今年のBonna Potは西伊豆のオートキャンプ銀河で開催します。前回、会場の使用許可がおりなかった一番美しい森の中の空がひらけた芝生のサイトがダンスフロアになります。
サウンドシステムは前回以上に細部に至るまで磨きをかけ、この2年間で検証とアップデートを繰り返した、最先端のハイエンド機器とオリジナルで組んだ唯一無二の仕様です。しっとりとしたパワフルな低域の質感と、滑らかさと繊細さが同居し、聴覚を可視化するような立体感と表現力で楽曲制作者の細部に渡る意図/意思を再生します。とろけるような快楽性と浄化性、感覚のより深いところまで到達するサウンドを目指します。
そんなサウンドシステムを奏でるのは、一人一人が幅広い音楽性とオリジナリティを持ったDJ/ライブアクトです。海外からはデトロイト、ベルリン、バンコク、メルボルンから計7アーティストが来日します。初来日の人も複数いるので初めて聞く名前も多いかと思いますが、全てのアーティストのプレイを生で聴いて、BonnaPotで一緒にやりたいと思った人たちです。国内勢も初出演の4人を含め全員絶大な信頼をベースにイメージを共有しています。
太陽と月、星空と空間の移り変わりをベースに構成されたタイムテーブルを組んでいますので、是非金曜日から日曜日まで三連休にしてご参加下さい。あらゆる音楽や芸術、人々、世代、国籍、人種、宗教、それぞれの信じるもの、などが音楽の下で溶けて混ざり合うことをイメージし、それぞれが光を失わずにどう調和していけるのか、そういったことを考えながら全体を組んでいます。
持ち込みたい芸術作品や創作物、装飾やパフォーマンスなど、会場内に飾って頂いたり販売して頂いて大丈夫です。ぜひ自由奔放な発想で参加して頂ければと思います。ヴェジやハラル対応のフードなども用意します。
新しいモノに触れた時に伴う違和感や、どうなるのか分からないドキドキ感、でもあらがえない好奇心で未知の世界へ一歩踏み込むような、そんな気持ちで参加していただけたら嬉しいです。11月の澄み渡った空の下で広がる想像力とインスピレーションに溢れた音楽体験を一緒につくりあげることを楽しみにしています。

開 催 概 要
名 称:BONNA POT

日 時:
2024年11月8日(金)〜10日(日)

会 場:
オートキャンプ銀河 西伊豆

出 演(A to Z):
Abiu
AKIRAMEN
ALICIA CARRERA
An-i
CHIDA
CS + Kreme -LIVE-
∈Y∋
鏡民
nø¡R
O/Y -LIVE-
Scott Zacharias
Shhhhh
Sunju Hargun
THOMASH -LIVE&DJ HYBRID-
Toshio “BING” Kajiwara
7e

Sound Space:
HIRANYA ACCESS

Speaker System:
TAGUCHI

Lighting, Deco & Structure:
Hikariasobi Club
密林東京
RGB
SHINOBU HASHIMOTO
Stretch Tent Company
and more

料 金:
・早割入場チケット: ¥18,000 (販売終)
・GA(一般入場): ¥20,000
・駐車場A(再入場不可): ¥4,000
・駐車場B(再入場可): ¥7,000 (完売)
・テントチケット: ¥3,000 (1テント/タープにつき1枚必要、最大4m x 3.5m)

チケット購入:
https://bonnapot.zaiko.io/e/bonnapot24
※チケット販売は11月7日(木)23:59 JSTまで

Instagram:
https://www.instagram.com/bonnapot_nusic/

SoundCloud:
https://soundcloud.com/bonnapot

X:
https://x.com/Bonna_Pot

Fabiano do Nascimento and Shin Sasakubo - ele-king

 ブラジル音楽から影響を受けたリオ出身LA在住のギタリスト、ファビアーノ・ド・ナシメント。南米音楽を中心に世界各地の音楽とリンクする秩父出身のギタリスト、笹久保伸。両名によるコラボレーション・アルバムが12月11日に発売される。現在 “Após a Tempestade” が先行配信中で、公開されているMVには、レコーディングがおこなわれた大磯SALOスタジオやそのまわりの景色とともに、ふたりの演奏する姿が映し出されている。染みわたるギターの音を堪能したい。

Fabiano do Nascimento & Shin Sasakubo 『Harmônicos』
2024.12.11 CD, LP, Cassette Tape Release

日本でも人気の高いブラジリアン・ギタリストのファビアーノ・ド・ナシメントと、南米音楽を中心に世界各地とリンクする、秩父出身ギタリストの笹久保 伸が、日本でのライブ共演をきっかけに始まったギターデュオ作が、CD、LP、カセットテープでリリース!! 大磯SALOスタジオで作り上げられた2人だけの物語、今ここに新たな名盤が生まれた。

ファビアーノ・ド・ナシメントと笹久保 伸が初めて一緒にコンサートをやった4日後に、3日間に渡る録音は始まった。同じ空間と時間を共有して、異なるスタイルと出自を持つ二人のギタリストは、音を探り出して、共鳴や反発をさせ、対話とアイデアの交換を重ねた。身近で見たその一つ一つのプロセスから、この音楽は形作られていった。弦とボディの響きと共に、スタジオの空気も大切なものとして記録されている。アルバムという形あるものとして残し、聴き手に届けることにいつも以上にワクワクする気持ちを抑えられないでいる。ピュアで研ぎ澄まされていて、キュート(ファビアーノは「Kawaii」という)でもある二人の音楽を、自由に楽しんでもらえたら本望だ。 ──(原 雅明 ringsプロデューサー)

【リリース情報】
アーティスト名:Fabiano do Nascimento and Shin Sasakubo (ファビアーノ・ド・ナシメント & 笹久保 伸)
アルバム名:Harmônicos (アルモニコス)
リリース日:2024年12月11日
フォーマット:CD, LP, Cassette Tape

●CD
品番:RINC128
JAN: 4988044124318
価格: ¥3,300(tax in)

●LP
品番:RINR18
JAN: 4988044124325
価格: ¥4,400(tax in)

●Cassette Tape
品番:RINT2
JAN: 4988044124332
価格: ¥2,750(tax in)

レーベル:rings
オフィシャルURL: https://www.ringstokyo.com/fabiano-sasakubo-harmonicos/
販売リンク: https://diskunion.net/latin/ct/news/article/1/125279

 空が澄んでいる。8月7日午後、僕は緑豊かなトイエン公園でノルウェーの夏を満喫していた。日本のサマー・フェスが温暖化に伴って年々危機的な状況に直面している一方で、北国は夏の野外イヴェントには最高の気候だ。とにかく心地いい。さっそくビールを買いに行くと、1杯125クローネ(約1700円)。…………。まあいっか! この開放感を躊躇していられない。

 前夜の〈Club Øya〉を腰が動かなくなるまで楽しんだのちにオイヤ・フェスティヴァル本番を迎えたわけだが、まず驚いたのが会場の近さだ。僕が宿泊していた街の中心地にあるホテルから地下鉄で2駅、ほんの5分ほどで着いてしまう。自転車やキックボードで来ているひとも多く、そういう意味でも環境負荷の少ない大型イヴェントになっているという。
 会場は思っていたより小さく、15分もあれば会場全体を歩き回れるくらいの規模感だ。ステージ間は2、3分で歩ける距離にあるので、隣同士のステージの時間をずらしてタイムテーブルが組んである。つまり、ひとつのアクトを見終えたらすぐに次のアクトを観られる状態なので、歩き回らなくても気軽に次々ライヴを楽しむことができる。天気に恵まれたということもあるけれど、正直に言って、これまで参加してきた音楽フェスでもっとも楽な環境だと感じた。ポンチョと上着とレジャーシートをバッグに突っこんでさえいれば、街の公園にリラックスしに来た感覚そのままで過ごせるのだ。


Øya 会場


Øya 会場

 ゴミの分別や資源の回収に力を入れているだけでなく、無駄なゴミが発生しないようにスポンサーには試供品の提供を禁止し、使い捨てプラスティックも禁止。トイレの排泄物ですら地域暖房のためにリサイクルに回しているそうだ。会場で売られているフードもオーガニックなものの割合を増やすよう努めている。また、近年の音楽フェスで議題となっているジェンダー・バランスの問題にも10年以上取り組んでおり、すべてのステージでアーティストの男女比をほぼ半々にしていることを発表している。こうした北欧らしい(と感じられる)「意識の高さ」は、しかし、実際に会場で過ごしていると無理している感じがしない。フェスティヴァル側が啓発的に上から目線でそういう取り組みをおこなっているというより、街ないしは社会全体にそうした意識が行き届いていて、参加者の想いに応えているような自然さが感じられるのだ。環境や他者に配慮することは、自分の心を整えることでもあるのだと。


Øya 会場


Øya 会場

 会場内にパートナーシップを組んでいるというLGBTQの権利を訴えるオスロ・プライドのブースがあったので、話を聞いてみた。このタッグは昨年オスロの歴史あるゲイ・クラブにテロ行為があったことに対するリアクションとして実現したそうで、プライド・イヴェントをプロモートすると同時に参加者に対してグリッターのフェイスペイント・サーヴィスをおこなっているという。そうしたテロ行為が起きることもあるし、世界中と同じようにトランスフォビアは問題だし、差別主義者は少数ながら存在するものの、ノルウェー社会全体で性の多様性を受容し合っているというコンセンサスがあるので、クィア当事者は暮らしやすいと感じているひとがほとんどなんじゃないかな、とブースにいたふたりは話してくれた。もちろん、そこにはコミュニティが権利を勝ち取ってきた自負もあるのだろう。このあと、僕はグリッターを顔につけて楽しそうに過ごす若者たちの姿を会場内で多く見ることになる。


オスロ・プライドのブースにて

 そんなわけで、よくオーガナイズされたフェスで僕は4日間まったく困ることもなく(トイレもまったく並ばなかった)、日本の暑さを忘れて存分に別世界を味わったのだった。ご飯がハチャメチャに高いのは致し方なし、というかフェスのせいではない。街のレストランが多く出店しているので味のレベルは高く、199クローネ(2700円ぐらい)のフィッシュ&チップスはフェス関係なく人生最高のうまさだった。


水も無料で飲むことができる


白身魚がものすごくおいしかったフィッシュ&チップス

 アクトについては細かく書いているとキリがないので、印象的だったものをいくつか挙げておこう。近年のフォーキーなテイストと初期の生々しいロックを行き来しながら、圧倒的な存在感で会場全体の空気を引き締めたPJハーヴェイ。ときには観客をステージに上げて踊らせながら、超ファンキー&エロティックなパフォーマンスで沸かせたジャネール・モネイ。クラブ・ミュージック新世代としてのニア・アーカイヴスやLSDXOXOの若いオーディエンスからの人気ぶりには目を見張ったし、カオティックなIDMとレゲトンをハチャメチャに混ぜながらスモークをまき散らしたりブランコに乗ったりやりたい放題だったアルカも痛快だった。個人的にずっと観たかったディスコ・モードのジェシー・ウェアは、クィア・ダンサーを引き連れ本人も踊りまくるアッパーなステージを披露。USインディ・ロックからは話題のウェンズデイやビッグ・シーフもそれぞれバンド・ミュージックとしてのロウな感覚を提示していた。パルプやエールに関しては、なぜ90年代のビッグ・アクトを僕は2024年にノルウェーで観ているのだろうか……と不思議な感覚を抱いたが、世代の異なるオーディエンスに受け入れられていて、これもストリーミング・サーヴィスによって時代感覚が撹拌している現代のフェスならではの光景と言える。パルプが “Disco 2000” をプレイしたとき、隣にいた20代前半くらいの女の子グループが大騒ぎしていて、思わず笑ってしまった。
 しかしながら、今回の僕のオイヤ・フェスティヴァル参加で強く印象に残っているのは、知らなかったノルウェーのミュージシャンたちだ。ジャジーなテイストを持ったヒップホップ・ユニットのトイエン・ホールディング(Tøyen Holding)のステージではなぜかステージ上からシェフが焼いた牡蠣が振る舞われ独自のユーモア・センスを提示していた(?)し、ノルウェーのひとから「絶対観て!」と言われていた「ハッピー・マンデーズへのノルウェーからの回答」というコピーのフョールデン・ベイビー!(Fjorden Baby!)もいい感じにやさぐれたダンス・ロックで楽しかった。スカンディナヴィアの先住民サーミの文化をするエラ・マリー(Ella Marie)は、フォークロアが持つ政治性を浮かびあがらせるとともに北欧社会で見落とされてきた音楽風景を立ちあげていた。アッパーなダンス・ポップで地元のオーディエンスを大いに沸かせていたカシオキッズ(Casiokids)や4日間の大トリを飾ったポップ・シンガーのガブリエル(Gabrielle)はノルウェー国内でよく知られたポップ・アクトだがグローバルにもっと人気が出る可能性のある存在だと感じたし、日本の音楽リスナーにもアピールしうる存在ではないだろうか。あと、バリトン・ヴォイスで渋いアート・ロックを演奏するシヴァート・ホイエム(Sivert Høyem)はノルウェー版のインディ叙情ロックという感じで、僕はすっかりファンになったのだった。レコード・ストアのひとが話してくれたようにジャンルもスタイルも本当に多様で、発見と興奮に満ちている。


Tøyen Holding


Fjorden Baby!


Sivert Høyem

 クラブ・シーンの充実も垣間見ることができた。klubben(ノルウェー語でクラブ)という名前のステージではジョイ・オービソンらが出演していたのだが、地元ノルウェーのアクトとしては日本にもしばしば来てプレイしている人気のDJスケートボードはベテランらしい卓越したプレイでオーディエンスを気持ちよく踊らせ続けていたし、新世代のアーティストも多数登場していた。なかでも面白かったのは、冷たくアグレッシヴな感覚を持ったエレクトロニックなトラックとオルタナティヴR&Bをミックスするスワンク・マミ(Swank Mami)。ケレラFKAツイッグスらと北欧からシンクロする存在と言えるかもしれないが、奇抜な衣装で歌い踊るパフォーマンスにはユーモラスな風合いもあって引きこまれる。これからの躍進を予感させる個性を放っていた。


Swank Mami

 またフェス関連イベントとして、チケットは別なのだが〈Øyanatt〉というプログラムもあり、これは各日の深夜、街のクラブやヴェニューでDJプレイやライヴが観られるもの。僕は2日目の深夜にクラブに行ってリンドストロームを観ることができた。当然だが会場は大入りだ。勝手にDJと思いこんでいたら、生ドラムとシンセも入れた3人編成のライヴで、誰もが彼に期待する「コズミック」な大らかさや楽天性を感じさせる高揚感があり、ああ、自分はいまノルウェーで踊っているんだなあ……! という感慨に浸ったのだった。
 ライヴが終わったあとの深夜2時ごろ、横で踊っていた兄ちゃんに「これから別のクラブに行くけど、きみも来る?」と誘われたのだが、やはり腰が限界なので残念ながら断った。元気だなー。聞けば彼はオイヤ・フェスティヴァルそのものには参加していないそうで、街を挙げた音楽イヴェントとして多様な楽しみ方ができるのもよいと思った。

 3日目に少し小雨が降ったくらいで、4日間と半日、僕はひたすら快適な気候と穏やかな街と多彩な音楽を味わったのだった。フェスティヴァルがグローバルな産業として似通ってくるなかで、僕が体験したオイヤ・フェスティヴァルはオスロという街、ひいてはノルウェーの音楽文化のムードをたっぷり吸いこんだものだ。それは社会のあり方とも繋がっている。ノルウェーも近年は移民・難民問題の議論で荒れているところもあると聞くし、一週間少しの滞在ごときでいち観光客がわかった気になってはならないとは思うが、日々の暮らしを快適にすることと社会をよりよくしていこうという意識がこの街では地続きであると僕には感じられた。


自転車で来ているひとも多い


キックボード派も

 とにかく、オスロの街の空気感と音楽を同時に堪能するには最高のフェスティヴァルであることは間違いない。僕は行く前よりもはるかにノルウェーを身近に感じられるようになったけれど、もっともっと知りたくなったし、何よりこの国の音楽をもっと聴きたい。そう遠くない未来に、オスロの明るくて涼しい夏をまた体験したいと思う。

Special Thanks:キティさん、髙橋くん。ありがとう!

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