Home > Reviews > Album Reviews > Lindstrøm- It's Alright Between Us As It Is
コズミック・ディスコの一大拠点である北欧。その中心はビョーン・トシュケ、プリンス・トーマス、リンドストローム、トッド・テリエらを輩出したノルウェーである。彼らのサウンドにはディスコ、ダブ、ハウス、テクノ、エレクトロニカ、レフトフィールド、バレアリック、シンセウェイヴ、チルアウトなどいろいろな要素が含まれているのだが、それらと同じくジャズの影響があることも見逃せない。コズミックの概念そのものが様々な音楽の融合・折衷であるので、ジャズやロックの要素が入り込むことも当然なのである。リンドストロームに関して言えば、最初のプロジェクトのスロー・シュープリームはフュージョン的な要素が強く、ブラジリアン・リズムを取り入れたヒット曲“グラナダ”は、当時2000年頃の流れでいくとフューチャー・ジャズの一種と見なされた(リリース元はオスロでジャズ・クラブを運営する〈ジャジッド・コレクティヴ〉だった)。その後、2000年代半ばよりプリンス・トーマスと共にコズミック・ディスコ路線を本格化するが、DJであると同時にドラム、ギター、ベース、キーボードなどを演奏するマルチ・プレイヤーでもあるので、彼の中にはジャズやフュージョンをはじめとしたミュージシャン的な感覚が最初から存在していたと言える(1990年代にはシルヴァー・ヴォイシズというゴスペル・ロック・バンドに在籍していたこともある)。現在の彼が拠点とする〈スモールタウン・スーパーサウンド〉は、ビョーン・トシュケ、プリンス・トーマス、トッド・テリエも属するノーウェジアン・コズミック・ディスコの最大手であるが、同時にヤガ・ヤシストからネナ・チェリー&ザ・シングをリリースするなど、そもそもジャズ~ロック~アヴァンギャルドに強いレーベルなのである。
2010年代に入ってのリンドストロームは、アルバム『スモールハンズ』(2012年)やEP『ワインディングス』(2016年)のようなエレクトリック・ダンス作品の一方で、ジャズ・ロックや前衛的な要素の強い『シックス・カップス・オブ・レベル』(2012年)を発表したり、トッド・ラングレン、エミル・ニコライセンとコラボしてプログレ大作『ランダンス』(2015年)を作るなど、変幻自在さが増していく。そして『イッツ・オールライト・ビトウィーン・アス・アズ・イット・イズ』は、『スモールハンズ』以来5年ぶりのソロ・アルバムである。ジェニー・ヴァル、フリーダ・サンデモという北欧のふたりの女性シンガー・ソングライターが参加するほか、スキン・タウンというシンセ・ポップ・ユニットのシンガーであるグレース・ホールもフィーチャーされるが、彼女は2015年にリリースされたディープ・ハウスの“ホーム・トゥナイト”でも歌っており、それに続くコラボである。そのグレースが歌う“シャイニン”は、1980年代後半から1990年代初頭の雰囲気が漂う作品で、ヴォーカルの質感などを含めてケヴィン・サンダーソンのインナー・シティあたりを思い起こさせる。アルバム中では比較的ポップな作品で、スペイシーな高揚感に包まれた先行シングル・カット曲“テンション”、SF映画感覚に満ちたエレクトロ・ブギー“スパイアー”と共に、リンドストロームのダンサブルな側面を象徴している。“スパイアー”はジョルジオ・モロダーを彷彿とさせるサウンドで、フリーダ・サンデモが歌う“バット・イズント・イット”もそうしたミュンヘン・ディスコの流れを汲む。バレアリックな“ドリフト”も含め、これら作品はCDでは一連の流れの中で繋がっており、トータルで一種のサントラのような作りとなっている(リンドストローム自身はアルバムについて、「9つの連動したトラックからなる、ひとつの連続した流れ」と述べている)。“バングル(ライク・ア・ゴースト)”にはジェニー・ヴァルがフィーチャーされるのだが、彼女はノイズ~アヴァンギャルド系でも歌う人。そうした風変わりな歌もあって、レフトフィールド・ディスコ的な香りを漂わせる。中間にはアブストラクトなムードのピアノがフィーチャーされ、リンドストロームのジャズ・ミュージシャン的なセンスも露わになっている。これに続く“アンダー・ツリーズ”はアルバムを締め括る曲で、中間のピアノ・ソロは〈ECM〉の北欧ジャズに通じる透明感を持ちつつ、次第に混沌とした音のうねりの中に包み込まれていく。前述の『ランダンス』の流れを汲む実験的な作品で、『イッツ・オールライト・ビトウィーン・アス・アズ・イット・イズ』がダンサブルな側面とは真逆の要素も持っていることを示す。これら終盤の2曲にリンドストロームとジャズの結びつきが表われているわけだが、ダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックとジャズや前衛音楽との間を取り持つ彼のスタンスは、故アーサー・ラッセルに重ね合わせることができるかもしれない。
小川充