Home > Reviews > Album Reviews > Bjørn Torske- Trøbbel
90年代初頭からなんらかの名義で作品を出し続けているビョーン・トシュケがノルウェーのエレクトロニック・ミュージックのパイオニアであることは事実であるが、彼はただ“早かった”だけではない。DJソトフェットからトッド・テリエ、プリンス・トーマス、リンドストローム、あるいはインディ・ロック寄りのロイクソップにまで影響を与えている。ダンスの深い地下まで掘っている人たちに人気のレーベル〈Sex Tags Mania〉からも作品を出し続けている。ぼくはトシュケの作品のなかではサード・アルバムに当たる『Feil Knapp』(2007)が最高に好きなのだけれど、それは控え目ながら優雅な彼の幅広い音楽性/そのユニークな折衷主義が楽しめるからであり、また、北欧系独特のオプティミズムを感じられるからだ(同作は、FACT MAGのゼロ年代のベスト100枚にも選ばれている)。
その名作の前に、彼はソロ名義では2枚のアルバムを出していて、今回はそのうちの1枚、2001年にリリースされたセカンド・アルバム『トロベル』のリイシュー/リマスター盤を紹介しよう。再発した〈Smalltown Supersound〉からはつい先日プリンス・トーマスとの初のコラボレーション・アルバムがリリースされたばかりなのだが(トシュケにはこの共作というスタイルの作品が多数ある)、ここは再発盤のほうを紹介しよう。というのも、これがまた古くなっていないどころか、いまも新鮮で楽しいからだ。〈Sex Tags Mania〉のファンもトシュケを再発見するだろう。
2001年というと、90年代的なダンスの熱狂がいったん落ち着いた/ピークが終わった直後でもあるので、本作はダンス・ミュージックを基調にはしているが、家聴き(ラウンジ)用に作られたものだろうか。2曲目の“Bobla”という曲は、ほとんどジ・アップセッターズの『Blackboard Jungle Dub』を彷彿させるユニークなダブで、モンド・レゲエとでも言えそうな“Møhlenpris”も面白い。3曲目の“Hard Trafikk”などはいまウケているハーヴィー・サザーランド系の生演奏の入ったディスコ・ファンクで、透明感のある上物とベースのうねりが見事な“Trøbbel På Taket”やロイクソップとの共作“Westside Hotel”、メロディアスで軽快なスティーリー・ダン調の“Don't Push Me”もまったく魅力的。まあ、マシュー・ハーバート的な、茶目っ気ある、奇抜なサンプリングをループさせた1曲目の“Knekkebrød”からして素晴らしい。
この作品がいまも新鮮というのは、彼こそが北欧的折衷主義(AORからモンドまで何でもアリ)のディスコ・ダブの型を作ったというか、さもなければ周期的なこともあるのかもしれない。この頃からたいした変化がないということでもあるのだろうし、いまシーンは落ち着いている/なんらかのピークが終わった後である、ということなのかもしれないが、なんにせよ没頭できる音楽がここにある。思い詰める音楽ではなく、軽くて微笑みのある、楽しい瞬間を増幅させてくれる音楽をお探しなら、この作品はお薦めである。ダンス・ファンのみならずいろんな人がアプローチできる音楽という点で、本作のオリジナル盤をリリースした〈テレ〉が、インディ系のレーベルという話もうなずける。
野田努