Home > Reviews > Album Reviews > Jenny Hval- Apocalypse, Girl
ノルウェイのエクスペリメンタル・ヴォーカリスト、ジェニー・ヴァルは、インプロヴィゼーション/電子音楽レーベル〈ルネ・グラモフォン〉からアルバムをリリースしているのだが、ゴス・メタル・バンドを組んでいた時期もあるという。
この出自からもわかるように、いわゆるジャンル越境型の音楽家といえるだろうが、しかし、その音楽性には自身の身体性が強く刻印されている。越境と身体性の交錯。スワンズからセイント・ヴィンセントなどの北米ツアーサポートも行っているというが、これも越境型の彼女の個性ゆえだろう。
本作は昨年にリリースされたスザンナとのコラボレーション作品についでリリースされた新作ソロ・アルバムである。リリースはブルックリンの〈セイクリッド・ボーンズ・レコーズ〉。
プロデュースを手がけたのはノルウェイのノイズキング・ラッセ・マーハウグ(ジャズカマー)だ。彼はアレンジやソングライティングやミックスも手掛けている。マスタリングは近年〈エディションズ・メゴ〉から作品をリリースしているマーカス・シュミックラー。ゲストにはスワンズのドラマー、ソア・ハリスやジャガ・ジャジストのオイスタイン・モーインが参加している。
エクスペリメンタル・ミュージックのベテランが結集しているわけだが、そんな連中を前にしても彼女はまったく臆することなく自身の音楽を全面的に展開する。そう、すべては彼女の声=身体性からはじまるのだ。
1曲め“キングサイズ”はモノローグで幕を開ける。デンマークの詩人の言葉。環境音。資本主義について。ゴダールの映画のような雰囲気。やがてモノローグはヴォーカリゼーションへと変化し、環境音もまたボーカルとシンクロするように演奏へシームレスにチェンジする。
天上に昇るようなヴォイス/ヴォーカルを中心に据えながら、トラックはミュージック・コンクレートからモダンクラシカル、ノイズからポップソング、アンビエントからシャンソン、フィールドレコーディングからアブストラクトまでも横断する。クリアな歌声に対し、少し霞んだトラックの音色も素晴らしい。とくに3曲め“ザ・バトル・イズ・オーヴァー”のドラムのファットな音色!
声。環境音。ノイズ。楽器。空気。彼女は、世界の音すべてを音楽にする。そこで生まれる個人史と音楽の交錯。いわば音楽の個人黙示録。自分の声と、音楽と、世界の音によるミュージカル・シネマティック・サウンドである。傑作!
デンシノオト