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Todd Terje

DiscoHouse

Todd Terje

It's Album Time

Olsen/ビート

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木津 毅   Apr 21,2014 UP

 そもそもトッド・テリーをもじった名前がジョークであり同時にハウス・ミュージックへの愛の表明だったように、ノルウェーの名プロデューサー、トッド・テリエはこの初となるフル・アルバムでも茶目っ気たっぷりにこちらにウインクする。アルバムの時間だよ……タイトルがいい。おそらく、リンドストロームやプリンス・トーマスの弟分として10年以上地道にリミックスやリエディットを発表してきた彼にとって、このオリジナル・アルバムは「満を持して」発表するはずのものであるはずだが、そこでもあくまでシャレを効かせてくる。
 2000年代終わりごろのコズミック・ディスコ・ブームを思い返すとき、あの大らかな折衷性がまたいだ範囲は広い。親しみやすいメロディをフックとするトッド・テリエもまた、イタロ・ディスコやジャズ、フュージョンを混ぜ合わせる貪欲さとテクニックを持ち合わせながら、しかしそれを愛らしくまとめることを忘れない。配合が要である自らの音楽を「カクテル・トランス」とテリエは言っているそうだが、彼の音楽はビーチで出てくるカクテルを頭で思い浮かべるときのカラフルさで彩られている。

 リエディットもののイメージを払拭したかったのか、本作ではアルバムらしいストーリーテリングが用意されている。ジャジーでムーディな序盤から、南米音楽のパロディのような“スヴェンスク・ソース”までの流れ自体、オシャレでレトロなコメディ映画のようではないか? 80sのフレーヴァーが香るこのシンセ・ディスコ集は、なにひとつ肩に力が入っていないし、ムキになって踊らせようともしていない。ちょっと休憩して、気が向いたら身体を揺らせばいいよ、とでも言うかのような気楽さがあり、しかし、中盤“デロリアン・ダイナマイト”(ふざけたタイトルだ!)にアルバムが辿り着くころにはたしかにスペイシーな領域にまでちゃんと連れて行ってくれる。ロバート・パーマーのカヴァー“ジョニー・アンド・メアリー”ではブライアン・フェリーのような大物を呼びながら、それもアルバムにおいて気の利いた味つけのひとつとしてスッと消化させてしまう。
 無闇なまでにギラギラしたコズミック・ファンク二部作“スウィング・スター”を通過したラスト2曲がアルバムのハイライトだ。フュージョン・ジャズめいた“オー・ジョイ”の素朴な高揚と、2012年の大ヒット・シングル、“インスペクター・ノース”のメロウさの混じった幸福感。それらはダンス・カルチャーにおけるスウィートネスを謳歌し分かち合うかのようで、そしてアルバムはクラウドの歓声で幕を閉じる。
 真顔でないから示すことのできる愛もある。これは、強いアルコールでもドラッグでもない。トッド・テリエは微炭酸のユーモアをたっぷり注ぐことで、見た目も可愛いソーダ・カクテルを作っている。ちょっとだけ酔っぱらって、でもたしかに気分は良くなっている。

木津 毅