去る7月10日、ミカチュー名義でも知られる音楽家、ミカ・リーヴィが12分ある新曲 “slob air” をリリースしている。これまで自身の作品はむろんのこと、ティルザなどのプロデュース、種々のサウンドトラック制作など幅広く活躍、UKのアンガーグラウンド・ミュージックを支えてきたキイパースンのひとりが20周年を迎えた〈Hyperdub〉と契約を交わしたことは、ちょっとした事件といえよう。続報に注目です。
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正直なところ、ライヴが始まるまでは30年という月日の重なりが何をもたらすのかを想像できていなかった。それは小山田圭吾というミュージシャンの30年であり、私たちの30年の一片でもあった。成熟だけではなく、未熟さも含めた年月だった。すべてが既に過去であり、見ている瞬間はすべてが今の出来事で、現在地を示すための指標でもあり、未来へと続く見通しのいい景色のようだった。それらのひとつひとつの点を線で繋いで描いた輪の中に、コーネリアスは私たちを招き入れてくれた。夢のような美しい時間だった。

『The First Question Award』から30周年のアニバーサリーセットと題しながらも、ライヴはいつもどおり“Mic Check”からスタートした。ただし、映像は途中から30周年仕様にしっかりアップデートされていた。ステージ上の幕にデビュー時のコーネリアスの象徴でもある©️マークが映し出された瞬間、4人のシルエットが浮かび上がり、そこから音に合わせて歴代の作品のジャケットが次々と目まぐるしく現れる。コーネリアスのライヴのオープニングにはいつだって胸が高鳴る仕掛けが用意されている。他にも“Count Five Or Six”など、いくつかの昔の曲の映像にも過去のアルバムのジャケットを彷彿とさせる色やデザインが散りばめられていた。今回の会場では7枚のオリジナルアルバムのジャケットをモチーフにしたグッズを販売していたが(あまりの人気に開演前にはほとんど完売していた)、それがまるで伏線だったかのようにアートワークの面においてのキャリアも振り返る演出が随所に組み込まれていた。

東京ガーデンシアターという会場のスケールは、音と映像と照明を連動させるコーネリアスのパフォーマンスの魅力を最大限に引き出すのに非常に効果的だった。特に圧巻だったのは中盤にお披露目された新曲「Mind Train」。『攻殻機動隊ARISE』のサウンドトラックに収録された“Star Cluster Collector”とメタファイブの“Chemical”を掛け合わせたようなハイブリッドで疾走感のあるこの曲は、今公演の2日ほど前に突如配信リリースされ、数週間前に発売したばかりのアンビエント中心の作品集『Ethereal Essence』の心地よさにどっぷり浸かったままのリスナーをあっと驚かせた。近年のライヴの定番で、映像と音をシンクロさせたスタイルの到達点でもある“Audio Architecture”を手掛けた大西景太氏が今回もミュージックビデオを担当している。線路の上を加速しながら走る列車に乗って進んでいく臨場感あふれる映像に合わせて、一糸乱れぬ演奏がさらに迫力を増して続いていく。音の構造を可視化したアニメーションが大きなホールのスクリーンに映し出されるのを目で追っていると、バンドのダイナミズムとの相乗効果で体ごと無重力の世界に放り込まれてしまいそうになる。その没入感たるやすさまじく、まるで未来空間へとトリップしたような感覚。この9分にも及ぶ力作をデビュー30周年のアニバーサリーライヴの最大の見せ場として用意し、客席を沸かせてみせるのが進化を続けるコーネリアスの強みであり、この日の何よりのサプライズだと感じた。

演奏スタイル的に最近の曲が中心のセットリストになっていたが、30年間の活動の初期の部分は序盤の“Another View Point”で視覚的にもたっぷりと補完されていたし、2010年代の小山田圭吾の活動を示すサイドワークもしっかり組み込まれていた。まさかここにきて"外は戦場だよ”を披露してくれるとは誰も予想出来なかっただろうし、そのうえ大野由美子が歌い出した瞬間は息を呑んだが、他にも意表を突かれたのは “Turn Turn”のカヴァーだった。「スケッチ・ショーのおかげでYMOに入れてもらった」と本人が語っていたエピソードや、この曲をメタファイブで何度もカヴァーしていたことも含めて、YMOのサポートギターやメタファイブのメンバーとしての側面から、自身のキャリアを振り返る一環として選んだのではないかと思う。実際にアレンジはメタファイブの音にかなり近く、映像もメタファイブのステージで使われていたのと同じものを使用していた。いくつもの地球が回転しながら変化していき、途中から少しずつコーネリアス色に乗っ取られてしまう仕掛けはなんとも痛快だった。もう2度と見ることはないはずだった映像をリメイクして蘇らせ、引き継いでいこうとする意志も受け取った。加えて『Sensuous』から唯一演奏された“Wataridori”はこの日も精度が高い。リズムの高揚感に陶酔するあまり、どんな状況でもスピードを落とさずひたむきに前へと飛び続ける渡り鳥の姿にコーネリアスの長年の音楽人生を勝手ながら重ねてしまい、涙が出た。
本編のラストは“Thank You For The Music”。『Fantasma』の最後を締めくくるこの曲は、アルバムを振り返るように途中で収録曲の短いフレーズが大量にコラージュされている。しかしここでは代わりにデビュー曲である"太陽は僕の敵”のイントロだけを演奏し、そのまま『The First Question Award』の曲を4曲ほどダイジェスト的にワンコーラスずつ披露してみせたのだ。長いこと封印していた扉をやっと開いたその瞬間は、まばゆい光に包まれてとても暖かい光景だった。そこから再び“Thank You For The Music”に戻り、アディオス!という挨拶と共に幕を下ろすという、いかにもコーネリアスらしい遊び心のあるクライマックス。全体を通して感傷的なムードや湿っぽい演出は一切なく、楽しい仕掛けやサービス精神に溢れた楽完璧なショーだった。30周年の節目の大きなライヴにも関わらず、豪華なゲストは特に呼ばずに、それこそ“外は戦場だよ”の歌唱や“Brand New Season”のテルミンのパートでさえ誰もステージに上げずに、4人のメンバーだけで出来ることをやり切ったことにも強く胸を打たれた。今のコーネリアス・グループこそが特別だという証のように見えた。

アンコールは5年前の再発時の『Point』再現ライヴで久しぶりに演奏され、客席が歓喜の渦に包まれた初期の名曲“The Love Parade"をしっかりとフルで歌った。あれから様々な経験を重ねて『夢中夢』を経由したコーネリアスは、30年前のこの曲を違和感なく演奏していた。ノスタルジーではなく、今までの30年をもれなく肯定し、まるごと受け止めるような潔さと強さで。音楽には心をつなぐ瞬間がある。それが何度も何度も続けば30年になり、いずれ永遠になるかもしれない。エンディングの“あなたがいるなら”がこの日はまた少し違って聴こえた。
レイヴ・リヴァイヴァル、ダンス・ミュージックの復権は止まらない。パンデミックによる自制、あるいは社会的抑制からの開放。サルートのアルバム『True Magic』はこの動きと重なる一枚であり、ひとりの音楽家が正面突破を図り境界を越えようとする試みである。彼のキャリアを簡単になぞると、ナイジェリアから移住した両親のもとにオーストリア・ウィーンで生を受け、18歳でUKのブライトンに移り住み、後に現在の拠点であるマンチェスターに移住。UKに移住した動機は兄やゲームをきっかけとしてダンス・ミュージックと出会い自ら制作をはじめたからという根っからのプロデューサー気質。UKに移ってからは、様々な人たちと出会いつつ、ダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックのセンスに磨きをかけていった。いくつかのEPを発表した後に最初に大きく注目されることになったのが2018年~’19年にかけてリリースされたミックステープ『Condition』。それまではオルタナティヴなR&Bやダブステップといったスタイルでトラックメイキングをおこなっていて、いわゆる4つ打ち成分は控えめだったが、『Condition』で大きくUKガラージやハウスを取り込みダンスフロアに大きく接近。初期作品ですでに感じられた郷愁的なメロディとクラブで磨かれたビート・メイキングにシーンのフォーカスが集まるのはあっという間だった。そんなタイミングで訪れたパンデミック。勢いにブレーキがかかると思いきや、チャーリー・XCXやリナ・サワヤマのプロデュースもおこなう傍ら、ジェニファー・コネリーによる80年代のテクニクスCM曲 “愛のモノローグ” をサンプリングした “Jennifer”、“Want U There”、そしてパンデミックにおけるアンセムのひとつとなった “Joy” など立て続けにフロアヒットを発表。加えて2022年に公開されたメルボルンでの Boiler Room で一気に人気が爆発、そして〈Ninja Tune〉と契約、発表されたのが『True Magic』というわけである。トラックリストを見てわかるとおり、ほとんどの曲がコラボレーションである。リナ・サワヤマやディスクロージャーといった大物アーティストが名を連ねるほか、日本からは個性際立つ才能であるなかむらみなみ、マンチェスターの人気ドラム&ベース・デュオのピリ&トミーのピリ、ブルックリンのオルタナティヴ・シンガーソング・ライターのエンプレス・オブ、“Joy” のヴォーカルでもありムラ・マサともコラボするレイラ、ジョイ・オービソンやサンファやヴィーガン作品にフィーチャーされたレア・センなど、バラエティー豊かな存在が本作を支え、アルバムのポップさを次のレベルに押し上げている。
インタヴューは、RDCこと Rainbow Disco Club で来日したタイミングで対面でおこない、RDCの感想からアルバムについて、そしてパンデミックがもたらしたもの、最近のDJでプレイしているフレンチ・ハウスについてなど、様々な方向から彼に迫ってみた。
いままでダンス・ミュージックにあまり触れたことがない人や、ハウス・ミュージックを聴いたことがないティーンも気軽に聴けるような、ダンス・ミュージックに興味を持ってもらえるようなアルバムにしたかったんだ。
■初めまして。お会いすることができて嬉しいです。今回の来日で3回目ですよね。Rainbow Disco Club(以下RDC)でのプレイはいかがでしたか?
S:初日のトリでプレイできてとても光栄に思っているよ! 日本のオーディエンスはとてもエネルギーにあふれていて、私もよいセットでプレイすることができたんだ。
■RDCのオーディエンスは様々なパーティを楽しんできた人が多いので、そのようなオーディエンスについて貴方からポジティヴな答えが返ってきて、私個人としても嬉しいです。
S:個人的にも、RDCは最も好きなフェスになったよ。というのも、みんな酔っ払って楽しむフェスももちろん好きだけど、RDCは音楽をじっくり聴く、いい音楽を味わいたいオーディエンスが多いところは素晴らしいね! 音楽をプライオリティのトップとしている点はRDCの評価すべきポイントだと思う。加えて、制作面やサウンド・エンジニアリング、照明も含めたすべてがパーフェクトじゃないかな。音をじっくり聴く、大きすぎない規模であるということも私は気に入っているよ。
■当日出演したアーティストで、気になった日本人のDJがいれば教えて下さい。
S:今回は残念ながらタイミングが合わず聴けなかったんだけど、以前来日した際、大阪で私の前にプレイした SAMO が素晴らしかった。彼女は音楽のセンスもナイスで、速いものからスロウなものまで、いろいろなスタイルの曲を二時間のセットで組み立てていたんだけど、まるで旅に連れて行かれるような体験だった。曲の組み合わせ、流れ、パーフェクトだった。日本のDJは一般的にレベルやクオリティがとても高いと思うよ。今回のRDCで聴けたDJでは、DJノブとDJマスダによるB2Bのセレクト、あれは本当にアメージング!
■ここからアルバムについて質問をしていきます。まず、〈Ninja Tune〉と契約することになった経緯はどのようなものでしょうか? レーベル側からコンタクトがあったのですか?
S:そうなんだ。彼らからコンタクトがあったんだけど、じつは以前から、私のDJを何度か聴きに来てくれていたらしくて。〈Ninja Tune〉はもちろん大好きなレーベルで、12~3歳の頃からずっと聴いていたんだ。というのも『SSX』ってゲームがとても好きでそのサウンドトラックを〈Ninja Tune〉のアーティストが手掛けていて(編注:ザ・ケミスツか)、それまでレーベルのことは全く知らなくて、それでこの曲を作っているのは誰なんだろう? と調べていって〈Ninja Tune〉にたどりついたって流れ。そこから〈Ninja Tune〉のアーティストはずっと追いかけていて、例えばヤング・ファーザーズはすごく好きなバンドのひとつ。つまり、自分にとって憧れのレーベルなんだ。このアルバムを〈Ninja Tune〉からリリースできたことはとても光栄なことだと思っているよ。
『SSX』ってゲームがとても好きでそのサウンドトラックを〈Ninja Tune〉のアーティストが手掛けていて、この曲を作っているのは誰なんだろう? と調べていって〈Ninja Tune〉にたどりついたって流れ。そこから〈Ninja Tune〉のアーティストはずっと追いかけていて。
■アルバムを全曲聴いて思ったのは、これは凄い作品が出てきたぞ、というのが第一印象でした。ポップでエモーショナル、かつにじみ出るグルーヴもある、という私の意見です。あなたが感じている『True Magic』の手応えはどのようなものですか?
S:このアルバムを作っているときに念頭にあったのは、ポップなものにしたい、ポップ・ミュージックとダンス・ミュージックのクロスオーヴァーなものを作りたいということ。そして、ダンス・ミュージックを作るという視点、ポップ・ミュージックを作るという視点、どちらか片方からのアプローチではなくバランスを保ちながら、ダンス・ミュージックへの入口、として聴いてもらいたいという思いが強かった。例えば、いままでダンス・ミュージックにあまり触れたことがない人や、ハウス・ミュージックを聴いたことがないティーンも気軽に聴けるような、ダンス・ミュージックに興味を持ってもらえるようなアルバムにしたかったんだ。でも、最初はどのような音楽性のアルバムにするか、っていうアイデアは白紙で、実際に作る際のはっきりしたプランはなかった。ただ、強いポップなダンス・ミュージックを作りたいという思いは漠然とあって。でき上がったアルバムを実際に聴いた友だちからは、とてもエキサイティングなアルバムだって言ってもらっているよ。
■やはりそうだったんですね! 私も同意見です!
S:ありがとう!
■ほとんどの曲がカルマ・キッド(Karma Kid)との共同プロデュースとなっていますが、どのような流れで楽曲制作をおこなっていったのでしょうか? 声とトラックのバランスが絶妙だと感じました。
S:カルマ・キッドは17歳ぐらいから付き合いのある個人的な親友。僕のやりたいこと、自分らしさをいちばん解ってくれているのが彼なんだ。僕のとりとめもない思いつきを整えてアルバムにまとめてくれて、この曲はインディっぽくやろうとか、もっとポップにしよう、ダンスぽいサウンドにしようというようなアイデアを形にできるプロデューサーなのが彼。付き合いも長いからコミュニケーションも円滑でとてもクリア。こうしないとダメとか、これは違うとか、そういったネガティヴなことは言わず、僕のやりたいことを尊重してくれて、その上でアドヴァイスをする、そのような彼の姿勢が『True Magic』を作るうえでとても大きな役割を果たしてくれたと思っている。
特にヴォーカルに関しては、ポップなマインドを持った人たちに歌ってほしい、ポップなアーティストに歌ってほしい、ということがとても重要だったから、それをいろいろな方法で取り入れて形にできたのは良かったよ。この部分はとくに彼カルマ・キッドの力が大きく、正直、彼は天才! って思ってる。
フレンチ・ハウスは10歳ぐらいの頃から YouTube で聴いてて、例えばダフト・パンクの “Around The World” とか “One More Time” は何度も何度も繰り返して聴いた大好きな曲。彼らはソウルやファンクとかロックをサンプリングしているけれど、僕も同じようなメソッドでサンプリングをしたいとずっと考えていた。
■ヴォーカリストについても質問させてください。リナ・サワヤマとはとても仲がよいようですね。どのような経緯で本作に参加することになったのでしょうか?
S:10年ぐらい前から彼女とは付き合いがあって、彼女の曲のプロダクションを担当したこともあるし(アルバム『Sawayama』収録曲 “Snakeskin”)、彼女のファースト・アルバムの追加プロダクションを手掛けた経緯もあるんだ。彼女がビッグ・スターになっていく過程をずっと見てきたけど、素晴らしい魅力的な声の持ち主だよね。『True Magic』は友だちを集めて作りたかったところもあって、自分の音楽的な方向性、志向を世界に紹介するためのエキサイティングなポップ・スター、ということで彼女にはぜひとも歌ってほしかった。実現できてもちろん嬉しいし、とても特別なことだと思っているんだ。この曲 “Saving Flowers” は、『True Magic』のなかで二番目に書いた曲で、つまりかなり初期に書いた曲なんだけど、歌入れ前のインストの段階でスケールの大きなサウンドができ上がったから、この壮大なサウンドにふさわしい、僕の人生のスケール以上の規模で歌っている彼女がヴォーカリストとして浮かんだので彼女にオファーしたんだ。おかげでとても良い曲ができたよ。
■今回のコラボレーションで驚いたことのひとつに、なかむらみなみとの “go!” があります。以前来日した際に彼女と Itoa のコラボ曲 “oh no” をプレイしていましたね。“Go!” の歌詞は彼女にすべて任せた形ですか?
S:彼女の声は特別だと以前から思っていて、インスタで連絡したんだ。この “Go!” のトラックができ上がったとき、エネルギーに溢れた声がふさわしいと考えていて、さっきも話したけど、ポップでソウルフルな力がある声の持ち主に歌ってほしい、という考えでヴォーカリストを選んだのだけれど、そのような才能が並ぶなかでも彼女の声はとても目立つんだ。なかむらみなみのような個性的なアーティストには好きなようにやってもらったほうがうまくいく、そう考えて。トラックを彼女に送って、ヴォーカルを入れて戻してきたわけだけど、まず感じたのは、期待以上のものが来たぞ、ってこと!
■アルバム全体の歌詞についてですが、別れや喪失について歌われたリリックを多く感じました。あなたからテーマを提示して各アーティストが仕上げていくような流れで書かれたのでしょうか?
S:とくにテーマを決めてお願いをしたわけではなく、でき上がった詞がたまたまこのような内容になった、って感じかな。なにかはっきりした明確なイメージがあったわけではなかったけど、これまで経験した別れが反映されているのかな、といまは思う。意図したものではないけれど、エネルギーとかソウルとか心が動かされること、そういったことがテーマのように『True Magic』に現れているんじゃないかな。いちばん端的に示しているのがアルバム・カヴァーにも使われている車。映像や絵としてのインパクトがあって、そして車に乗って旅をするときのエモーションやエネルギーも込められていて、これらがテーマに含まれていると思う。
■リナ・サワヤマとの “saving flower” ではカシオペアの “朝焼け” がサンプリングされています。あなたにとって大切な曲のようですが、このサンプリングにはどのような意味が込められているのでしょうか?
S:日本の80年代後半から90年代前半にかけてのフュージョンがとても好きで、日本の音楽シーンにとっても特別な時代だと思っているんだ。Tスクエアやカシオペアなどをよく聴いてて、日本に来たときは日本のフュージョン作品のレコードを買い漁ったりしていた。彼らのサウンドは、とてもドラマチックで艶っぽくて、こういった音楽性や音のパレットというものは少なからずダンス・ミュージックに取り込まれている、と個人的には考えている。
“朝焼け” だけど、この曲のギターを聴いたとき、自分のなかでクリエイティブなアイデアが湧き出てきた。強烈なギターのサウンドをサンプリングできたことは本当に素晴らしいことで、おかげで『True Magic』のメインのひとつとなる曲に仕上がったよ。
ハウスやテクノを文化として認めた功績はとても大きいことだけど、私たちはそれがどこからやってきたのか、源流であるオリジナルを忘れがちなところがあると思う。
■『True Magic』の収録曲にもエッセンスが色濃いですが、ダフト・パンクやフレンチ・ハウスからの影響を公言しています。フレンチ・ハウスの魅力とは何でしょうか?
S:フレンチ・ハウスはすごくヒプノティックな部分があるシンプルなスタイルだと思う。基本的には短い音楽の断片をループさせた、わかりやすくシンプルゆえに踊りやすいんじゃないかな。フレンチ・ハウスは10歳ぐらいの頃から YouTube で聴いてて、例えばダフト・パンクの “Around The World” とか “One More Time” は何度も何度も繰り返して聴いた大好きな曲。彼らはソウルやファンクとかロックをサンプリングしているけれど、僕も同じようなメソッドでサンプリングをしたいとずっと考えていた。僕はジャズをサンプリング・ソースとしてよく使っているんだけど、アプローチの方法としては彼らと同じだと自負しているよ。様々な音楽性をサンプリングで色鮮やかに組み合わせていきたい、というところがフレンチ・ハウスから僕が影響を受けている部分だと思うな。
もちろん、UKガラージからはとても強く影響を受けていて、『True Magic』がUKガラージとフレンチ・ハウスのコラボレーションといえるアルバムになったことは、とても自然な流れだったかな。
■現在のような成功を手にするまでに、困難な状況もあったと思いますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか?
S:実際のところ、なぜ、自分のキャリアが変化したのか、パンデミックのときに考えたことがあって。パンデミックが自分に与えた影響はかなり大きかった。あの時期、ショウも何もできず、外に出ることすらできなかった。自分とPCだけがある、音楽にとても集中した時間だった。あのような困難な状況で、音楽から自分が何を欲しているのか、音楽を使って自分が何をしたいのか。とてもじっくり考えた。
まっさらな状態から、自分のやりたいこと、音楽で表現したいことを本当にじっくり考えた時間だった。それまで作った音楽はもちろん気に入っているし、作ったことを後悔しているわけではないけれど、ハッピーだったときに作った音楽がほとんどで、ハッピーじゃない状況で音楽を作る経験は初めてだったから、僕にとってそれはとても大きなことだったんだ。自らに嘘をつかず正直であればオーディエンスは音楽を受け入れてくれる。いまはそう考えているよ。
■あなたにとってダンス・ミュージックとはどのようなものでしょうか? ある人は人生、ある人は仕事、またある人は喜び、など様々な意見があります。
S:中央ヨーロッパで育ったものとしてダンス・ミュージックはいつもそこにあった大きな存在だったことは確かだね。僕の兄はいつもハウスを聴いていたから生活のなかでもダンス・ミュージックは身近な存在だった。大人になって改めてダンス・ミュージックと向き合ってみると、僕にとっては「逃げ場」だった。例えば、DJをするときはポジティヴなマインドになるし、ハウスをかければ自由な気持ちが湧き上がってくる。一方で、ダンス・ミュージックには人と知り合うための手段という側面があって、コミュニティを形成するための存在でもあると思う。マンチェスターのお気に入りのクラブにいって、人と新しく出会ったり馴染みの友人と楽しんだりとか、そういうことが好きなんだ。すべての音楽にそういった部分はもちろんあるけど、僕にとってのダンス・ミュージックは、素晴らしい気分を味わうための手段、辛いときの逃げ込める場所、そう思っている。
■最後の質問になります。先日ベルリンのテクノ・カルチャーが、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。他方で、オリジナルであるデトロイト・テクノに対する言及がないことについて批判も上がっています。これについて、あなたの意見を聴かせていただけますか?
S:その批判には僕も同意見だよ。ハウスやテクノを文化として認めた功績はとても大きいことだけど、私たちはそれがどこからやってきたのか、源流であるオリジナルを忘れがちなところがあると思う。ハウスやテクノは、クィアやブラックが集まって皆でひとつになれる場所を見つけるために生み出した音楽。(編注:ニューヨークやシカゴや)デトロイトのクィア・シーンやブラック・シーンが作ってきた音楽だと僕は考えていて、このふたつをスルーすることにはとても失望したよ、正直。
ベルリンのテクノ・カルチャーは重要で、ベルリンもデトロイトがなければそこには存在していなかったのに、本当に残念な話だと思う。私たちは、ブラックの人びと、アフリカン・アメリカンの居場所に光を当てることを決して忘れてはいけないんだよ。
1999年5月18日に永眠したルーツ・レゲエの偉人、オーガスタス・パブロ。そのご子息であるADDIS PABLO が今週末から日本をツァーする。それに連動してADDIS PABLO PRESENTS “TRIBUTE TO AUGUSTUS PABLO”、「Rockers International 51st year anniversary pop up & photo exhibition & Additional」が7月15日より神泉の JULY TREE(ロゴは坂本慎太郎デザイン)にて開催される。
Rockers InternationalやADDIS PABLO関連グッズ、音源の販売、カメラマン菊地昇、石田昌隆、仁礼博による往年のオーガスタス・パブロのポートレイト、さらに生前のパブロと親交の深かった石井“EC”志津男(OVERHEAT RECORDSプロデューサー、雑誌『Riddim』発行人)によるパブロゆかりの品々を展示。また、7月15日にはADDIS PABLOのサイン会とDJによるウエルカム・パーティ。7月19日にはADDIS PABLOほか、石井“EC”志津男、石田昌隆をゲストに招きトークショー、およびADDIS PABLOによるミニ・ライヴもあり。
ちなみに、ただいま絶賛発売中の、早くも売り切れ店が出てきているele-king books刊行の『キング・タビー――ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男』も会期中に JULY TREEにて販売されます。
■ADDIS PABLO:プロフィール
メロディカ・キーボード奏者でレゲエミュージシャン、作曲家でプロデューサーでもあるAddis Pablo。ルーツレゲエの代名詞の1人でダブの先駆者であるAugustus Pabloの息子である。 早くに夭折した父と過ごした日々の中で父の創作活動過程を目の当たりにしてきた事を基に、2005年に父親の作品を練習し始めてメロディカとキーボードにおいて自身の音楽スタイルを発見し始め、2010年にはそのキャリアをスタートさせた。 2013年からは多数のヨーロッパの主要フェス、日本を含めたアジア、アメリカ、メキシコやプエルトリコをツアーして、2014年にEarl 16などのベテランゲストアーティストを迎えて録音したデビューアルバム“In My Fathers House”をリリース。2022年5月にドロップした2枚目のアルバムLPの “Melodies from the House of Levi”は自身の成長と音楽的成長を示すものになった。 父、Augustus Pabloが創立したRockers International Labelの51周年である今年2024年は、 その歴史の新たな歩みを刻み始める為に父の誕生日である6月21日のロンドンの老舗クラブ Jazz Cafe でのAugustus Pablo Tribute Showを皮切りに アディスは日本でも7月13日のGEZANとの共演によるSUPERNOVA KAWASAKI でのB.O.B. (Blessings On Blessings) vol.2から父A.Pabloと録音、セッション経験がある日本人ラスタミュージシャンを中心メンバーにRockers Far East名義で活動するベテランバンドを従えてのフルバンドショーを中心とするツアーを予定している。 同バンドでのFUJI ROCK出演も決定している。
■展示情報
ADDIS PABLO PRESENTS
TRIBUTE TO AUGUSTUS PABLO
Rockers International 51st year anniversary
pop up & photo exhibition & Additional
会期:7月15日(月)〜7月25日(木)*予定
会場:JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
*詳しい営業日等詳細はSNSをご参照下さい。
■イベント情報
2024.7.15(mon)サイン会+DJ
出演:ADDIS PABLO
START:18:00
ENTRANCE FEE:\1,500+1drink
2024.7.19(fri)TALK & MINI LIVE
出演:ADDIS PABLO
TALKゲスト:石井”EC”志津男、石田昌隆
START:19:00
ENTRANCE FEE:\2,000+1drink
お申込み方法:こちらのインスタグラムDMにてお名前と人数をお伝えください。
19日のみ定員20名予定となります。
■ライヴ情報

STANDARD WORKS CO. LTD.
presents
=B.O.B. (Blessings On Blessings) vol.2=
-Tribute to Augustus Pablo - Rockers International 51st year anniversary Japan Tour with ADDIS PABLO
associated with All Di Best Music
7/13(sat)
17:00-22:15
Ticket:
advance / 4,500yen
at door / 5,500yen
別途1ドリンク
-Live Act-
•ADDIS PABLO(from JAMAICA)
with ROCKERS FAR EAST
•GEZAN
Sound Engineer : 内田直之(NAOYUKI UCHIDA)
-Selector-
ITAK SHAGGY TOJO @itaktojo KEN-ROOTS @abyssinia_jah_rising RAS KOUSKE
-Soundsystem-
JAH RISING S.S
-Food-
JAMAICAN FOOD
RICE&PEAS
Live House
SUPERNOVA KAWASAKI
神奈川県川崎市幸区大宮町1-13,
1-13, Omiyacho, Saiwai-ku, Kawasaki-city, Kanagawa
@supernova_kawasaki
招聘:(株)錦コミュニケーションズ @nishikicommunications
〈店舗情報〉
JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
住所:153-0042
東京都目黒区青葉台4-7-27 ロイヤルステージ01-1A
・HP: www.julytree.tokyo
・Instagram:@july_tree_tokyo
・Twitter:https://twitter.com/julytree2023
営業日: 基本月火休館13時~18時ではございますが不定期での営業となります。
*営業日等お問い合わせについてはJULY TREE 公式Instagram、Twitterにてお願いいたします。
相変らずショーン・オヘイガンが作る音楽は、誰にも似ていない。
2003年の『Beat,Maize & Corn』においてショーン本人の言葉で、「じゃがいもの袋は変わったけれど、それでも中に入っているのはじゃがいもだ」とあったが、この変化に対しての冗談めいた意志表明(タイトルを訳すと『甜菜、とうもろこし、そして穀物』となる)は、『Hey Panda』を聴くと予言として機能していたのではないかとさえ思えてくる。いや、もちろん変わり続けてきたのがハイラマズで、90年代の初期ハイラマズから、98年『Cold and Bouncy』、99年『Snowbug』、2000年『Buzzle Bee』あたりのエレクトロニックに影響を受けたサウンドはわかりやすく変化として捉えることができたし、雰囲気はどこか初期に戻りつつも明らかにポップスとしての画角を押し広げた『Beat, Maize & Corn』、2006年『Can Cladders』、2011年『Talahomi Way』は、変化を感じさせる間もなく、驚くほど自然な形でリスナーをラマズの世界に引き込んだ。レコード屋のソフト・ロックのコーナーで偶然発見した『Hawaii』に衝撃を受け、初めてのリアルタイム・ラマズは『Talahomi Way』だった自分も、遡るにあたってエレクトロニックに影響を受けたアルバムに多少のハードルを感じた薄い記憶ならある。でも「これほどまでにハイ・ラマズの音楽に焦点を当て直したものはない」というのは事実だろう。問題作というインフォメーションにも頷ける。
散々語られている通り、現行 R&B やヒップホップからインスピレーションを得たということも、仮にハイラマズの作品だと知らずに聴いたとして、これはハイラマズだろうということも、一聴してわかる。今作にも参加しているフライヤーズ、レイ・モリス、ボニー“プリンス”ビリーとの仕事や、ロックダウン中に家の中で子供たちが聴いていたというSZAやソランジュ、ノーネーム、スティーヴ・レイシー、エズラ・コレクティヴ等々から影響を受けたそうだ。2000年代に感銘を受けたというJ Dillaへの思いが時を経て伏流水のように湧き上がったロマンもある。
第一印象は、サブベースやトラップぽいビート、オートチューンに多少の驚きを感じつつも、ラマズらしいストリングスやピアノ、シンセの響きに耳を傾けると鳴らしっぱなしにされているというよりは細かい単位で配置されながら曲が展開されていくことに気付いてくる。たしかに新しい魅力だと感じた。それでいて、全然煽られる瞬間がなくて、むしろ展開に対してとても豊かな時間の流れがアルバム全体に通底している印象を受けた。BPMがゆったりなこともあるが、現行のプロダクションを抑制をよく効かせながら深く取り込みつつ、やはりハイラマズのポップスとして聴かせるショーンの手腕は流石であるということまではわかった。「僕は、毎日巨大なニンジンを食べるパンダのTikTokファンとして、ロックダウンと回復を過ごした。とても幸せだった。」となんとも言えない安堵感を誘うコメントから察するに、ロックダウンの束の間の豊かな時間も反映されていそうと思ってしまうが、深読みだろうか。
ところで、この機会でハイラマズを久しぶりに聴きなおしてみると、よく覚えていることに自分自身驚いた。アウトロで次の曲のイントロが脳裏に浮かぶあれだ。思っていたよりもよく聴いたのだろう。いまよりも時間の流れがゆっくりだったのかもしれない。ハイラマズ以降そういうアルバムが何枚あるだろうか。わざわざレコードで買った新譜の何枚を2回以上聴いただろうか。問題作は自分自身だった。
レーベル〈Drag City〉のインスタグラムには、「現代のポップ・ミュージックの魅惑的な錬金術で幕を開けた『Hey Panda』は、定義が時間とともにどのように変化するかを多角的なレベルで反映した素晴らしい曲集です。喜びを広げ、自信をかき立てることを目的としたアルバムで、若くて勇敢な世界へのラヴレターです」とあった。リスナーもまた時間と共に、楽しみながらラマズの変化を感じていけばよいというか、そうするしかないというか、なんとも楽観的で核を突くメッセージを受け取りました。
いや、アルバムは相変わらずのポップ・センスを充分に湛えていて、これからの季節にぴったりだと思うし、素直に飛び込んでくる作品だとも思います。ただ、偏屈な僕にはありがたい棘が少し残りました。ラスト・トラック“La Masse”は南米の香りが感じられる(個人的にはエドワルド・マテオを想起した)必ず救われるキラーチューンだし、アウトロのらしいコーラスワークからのフェイドアウトは、まだまだハイラマズは続くという暗示を感じます。レコードは買う。
最近はアリス・コルトレーンやアンドレ3000、ミルフォード・グレイヴスのレヴューなど、ele-kingに寄稿している在日のアフリカ系アメリカ人アーティストのKinnara : Desi Laが7月23日夕方以降のみの高円寺にてイベントを開催します。音楽だけではなく、彼のアート、テクノロジー、ファッションも展示され、販売されます。ぜひ足を運んでみてください。デジさんは日本語も流暢なので、話しかけてましょう。

3Dメディアアーティスト / エレクトロニックミュージシャン / グラフィックデザイナーであるKinnara : Desi Laが、7月23日午後5時から10時まで、東京・高円寺のAMP CAFE(https://ampcafe.jp/)でSPHERE OBJEKTSポップアップを開催します。これはアート、テクノロジー、音楽、ファッションが融合した一夜限りの特別なイベントであり、Kinnara : Desi Laにとって6年ぶりのポップアップとなります。
SPHERE OBJEKTSは、もともと2021年にメタバースのNFTとして構想され、複雑な3D建築庭園オブジェクトの革新的なシリーズであり、キメラのようにきらめきます。各オブジェクトは、仏教の黄金、環境瞑想、自然と金属の建築融合の小宇宙です。いくつかのSphere Objektsは、銀座で開催された人気のShinwa Digital Art Week 2022で初めて展示されました。現在、このシリーズはさらに多くのオブジェクト、空間3Dゲーム、そしてユニークなオーディオ体験へと大幅に拡大しています。
このテクノロジー満載のマルチメディアの夜には、イベント限定で入手可能な新しいカセットリリース、遊べる空間ARビジュアル、Desi LaのBeautiful Machine衣料品ブランドの新商品、そしてDesi Laの最新オーデイオビジュアルパフォーマンスSPHERE OBJEKTSを初めて体験する機会が提供されます。地元で人気のVloqeeがDJサポートを務めます。
2010年代後半、ニューエイジとジャズのあわいを行く作風で徐々にその名を広めていったジョン・キャロル・カービー。ソランジュのプロデュースからコーネリアスのリミックスまで幅広く手がけるこのLAの鍵盤奏者、近年は〈Stones Throw〉から着々とリリースを重ねている彼の単独来日公演が決定した。しかもバンド・セットと聞けば、どんなパフォーマンスが披露されるのか気になってしかたがなくなる。《朝霧JAM 2024》への出演を控える10月11日、渋谷WWW Xでそのステージを目撃しよう。
ジャズ、ソウル、アンビエントからエレクトロニックまで横断するメロウなサウンドに、どこか癖になる不思議な魅力を携え注目を集めるJohn Carroll Kirby。フルバンドセットでは初となる単独公演が10/11(金)東京・WWW Xにて決定!
SolangeやFrank Oceanのコラボレーターとしても注目され、多くのソロ作を世に送り出し、多方面の音楽ファンやミュージシャンから愛される音楽家・John Carroll Kirby。今年、USではKhruangbinのツアーサポートを務めライブパフォーマンスの実力を示し、またYMOのメンバー細野晴臣のトリビュート企画への参加や、高円寺の街中で撮影したミュージックビデオの公開で話題を呼ぶなど、日本のシーンとの交流も窺える中での待望の来日公演が決定した。昨年のフジロック出演以来の来日となり、フルバンドセットでの初の単独公演となる。
出演が予定されている朝霧JAM 2024直前となる10月11日(金)、東京・WWW Xにて開催。チケットはただいまより抽選先行予約の受付を開始。
John Carroll Kirby
出演:John Carroll Kirby (Band Set)
日程:2024年10月11日(金)
会場:WWW X https://www-shibuya.jp/
時間:open 18:30 / start 19:30
料金:前売 ¥7,800(税込/ドリンク代別/オールスタンディング)
<<チケット>>
先行受付(抽選)
受付期間:7月9日(火)17:00~7月15日(月祝)23:59
受付URL:https://eplus.jp/johncarrollkirby/
一般発売:7月20日(土)10:00-
e+ https://eplus.jp/johncarrollkirby/
Zaiko https://wwwwwwx.zaiko.io/e/johncarrollkirby (English available)
主催:WWW X
協力:SMASH / STONES THROW
お問い合せ:WWW X 03-5458-7688
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/018045.php

John Carroll Kirby(ジョン キャロル カービー)
LA出身の鍵盤奏者/プロデューサー/作曲家のジョン・キャロル・カービー。
これまでR&B界のイノベーターでもあるソランジュやフランク・オーシャンとのコラボ、多作のソロ作品リリース、2023年フジロックの出演、クルアンビンとのUSツアーなどで、ジャズ~ソウル/R&B~アンビエント~ニューエイジ~エレクトロニックなど多方面の音楽リスナーから大注目のアーティストの一人である。
2020年、LAの優良レーベルStones Throwからデビューアルバム“My Garden”をリリース。メロウでドリ-ミーなサウンド、ジャズからアンビエントまで飲み込んだこれまでにないフレッシュなスタイルで大きな話題を呼んだ。その後も不思議な魅力に溢れたバンドサウンドや、独創的なエレクトロニックなど、様々なスタイルを取り入れたアルバムやサウンドトラックを次々と発表。現在、6作の作品がリリースされている。2023年には、各方面から称賛されたエディ・チャコンの最新アルバムのトータルプロデュースを行ったほか、自身の最新アルバム”Blowout”も立て続けにリリース。本作はインディー音楽界のグラミー賞と呼ばれる「A2IM Libera Awards」で、Best of Jazz Albumを受賞し高く評価された。2024年にはYMOの細野晴臣氏のトリビュート企画に参加し、カバー曲をリリースしたばかりだ。
"Rainmaker"
"Sun Go Down"
"Mates"
"Oropendola"
"Blueberry Beads"
John Carroll Kirby - Fuku Wa Uchi Oni Wa Soto (feat. The Mizuhara Sisters)
*Haruomi Hosono cover song 細野晴臣トリビュート企画 カバー曲
https://youtu.be/TLxa-jEgAgY?feature=shared
70年代にJamやHEAVENといった雑誌をサポートしていた群雄社という出版社があり(84年に倒産。ニューアカで有名な冬樹社が表なら、こちらが仮に裏とでも思って下さい)、そこで出版部長を務めていたYさんから「ミチロウがテクノに興味を持っていて、彼のスタッフから連絡が行くと思う。電話があったら相談にのってあげてくれ」と言われたことがある。ラフィン・ノーズのYOSU-KOとPONがCOW COWというハウス・ユニットを始めた頃で、パンクからハウスへの変化は必然だったと彼らから聞いていたこともあり、ミチロウがテクノというのもありえない話でもないのかなとは思ったものの、結局、スタッフから電話がかかってくることはなく、次の年にはテクノどころか「遠藤ミチロウがギター一本で全国ツアー」みたいな告知文を目にすることとなった。ザがつかないスターリン解散直後のことで、ミチロウが次に何をやろうか迷っていたなかに何パーセントかはテクノという可能性もあったのかなと(スタッフの勘違いでなければ)。
遠藤ミチロウは何度か音楽性を変えていて、『Fish Inn』はそのことが最初に議論を呼んだアルバムだった。『TRASH』から『虫』までザ・スターリンはずっとパンクだったし、その次に出た『ベトナム伝説』はソロで、しかもカセットだったから、音楽性が変わってもそういうこともあるだろうぐらいの感じだったから、変わったことに関してはザ・スターリン名義でリリースされた『Fish Inn』に議論は集中した。『Fish Inn』が変わったといっても歌詞に大きな変化があったとは思わなかった。サウンドは勢いがなくなった。もしくは重くなったというのが最初に出てくる感想だろう。客席に臓物やゴミをブチまけるステージが評判になり始めた頃、ミチロウが「音楽誌は最後でいい」とコメントしていたのが印象的で、社会と対峙するのがパンク・ロックだからまずは一般紙誌で取り上げられることが目標だったと。そして、それはすぐに達成され、いよいよ音楽誌がスターリンに裁定を下すという段階で『Fish Inn』が俎上に上げられた。批評に熱があったとは思わないし、そもそも自分の気持ちもよくわからなかった。ミチロウやザ・スターリンについて決定的な言葉というのを読んだ記憶がなく、なるほどと思える批評に出会わなかったことで自分の気持ちもどこかへ散ってしまったままになった。パンク・ロックが音楽性を変えてしまうことはすでに前例がたくさんあり、ジョン・ライドンがセックス・ピストルズからPILになり、ポール・ウェラーがザ・ジャムからスタイル・カウンシルになるなど驚くようなことは出尽くしていた感があったので、ザ・スターリンがどう変わろうと驚くことはなかっただろうし、むしろ驚かせてみろという気持ちだったかもしれない。そういう意味では『Fish Inn』の変化は中途半端で、『TRASH』のスタジオ・サイドに収められていたラストの “溺愛” だとか、同じく『虫』のタイトル曲など既視感がなかったわけではない。人がいうほどの変化ではなかったというか、『虫』までの演奏でPIL『Metal Box』も随所で取り入れられていたから、『Fish Inn』はもしかすると最初はザ・スターリンからパンクを差し引いたら何が残るかという実験だったのかもしれない(といいつつ、ソニック・ユースやカスパー・ブロッツマン・マサカーのようなポスト・パンクはどうしても思い出す)。もしくはザ・スターリンはその前に自閉体と名乗り、自衛隊がディフェンスに徹している様をうまくとらえた名義を使っていたということだったので、外よりもうちへ向かうエネルギーに集中したという解釈は可能かなと思ったり。『虫』に収められていた “アザラシ” ですでに無力感は訴えていたので、それもまったくの新しい局面ということではなく、 “T-Legs” で「お前は空白 落ち込むことさえできない」とさらに追い打ちをかけることに。それでも外にエネルギーは漏れ出してしまったというか、基本的な力強さという意味ではなかなか並ぶもののない存在だった。
後年になって知ったのは『Fish Inn』は「ザ・スターリンを終わらせる」というコンセプトを持っていたということ。なるほど。これで終わりという気持ちは確かに感じられる。整地された空き地のような落ち着きがあって、どこへ飛んでいくのかわからない無邪気さは皆無。「ザ・スターリンを終わらせる」とは、しかし、どういうことか。ザ・スターリンは最初からインパクトがあって、ソリッドな演奏と暴力的な言葉遣いが魅力だった。言葉が汚ならしいだけでなく、立て看でしか見たことがない言い回しや「コミュニスト」とか「インテリゲンチャ」といった思想家を罵倒する言葉の使われ方が新鮮で、佐野元春やダウンタウン・ブギ・ウギ・バンド、あるいはパンタ&HALが社会全体に風刺の言葉を向けたり、漠然と世の中全体に文句を言うのではなく、社会について何か考えを持っている人に攻撃の矛先を向けたということに興味を掻き立てられた。いま思うと “ロマンチスト” などは俗流の構造主義解釈で、当時の流行りだった相対主義に落ち着いただけなのに、何か思想を持つことに対する否定的な感情というだけでものすごい感じがしたものである。ミチロウ本人が自分自身に向けた言葉も多かったのだろうけれど、なんというか、ユース・カルチャーが政治性を失い、「敵が誰だかわからない」という常套句がまかり通っていた時代に攻撃対象が明確にあるというだけで他とは決定的に違っていた。 “玉ねぎ畑” “解剖室” “アレルギーβ” “虫” と忘れられない曲は多く、 “Stop Girl ” の「おまえは帰るとこがない だからここにいる オレは行くべきとこがない だからここにいる」という歌詞もなぜか好きだった。「ザ・スターリンを終わらせる」というのは、だから、ザ・スターリンもついに攻撃対象を見失ったということではないだろうか。たとえば “メシ食わせろ” で「おまえらの貧しさに乾杯!」と歌っても80年代後半に意味するビンボーはもはや集団就職や全共闘時代のそれではなく、ザ・スターリンが想定する対立点はことごとく、そして巧妙に隠蔽されるようになっていた。実際には原発労働や国鉄民営化など労働問題はむしろ重厚さを増していたのに、それは「おいしい生活」(©︎糸井重里)という認識の変換がすっかり見えないものにしてしまった。ザ・スターリンが、もしくは遠藤ミチロウが政治運動ではなく、ポップ・カルチャーに止まり続けるにはスタンスを変える必要があり、実際、『Fish Inn』後にミチロウが取るスタイルはニュー・グロテスク・ポップと名付けられたレトロ・フューチャー感覚で、寺山修司の表現を手掛かりとし、歌詞に政治色はなく、セックスを連呼するような不道徳路線がメイン、曲調はリズム・ギター全開の60s回帰だったり、プリンスを思わせるファンク・ビートやビートルズのダムド風カヴァーなどだった(そして、ブルーハーツが “リンダ リンダ” をヒットさせた2年後にザがつかないスターリンとして復活し、和光大学の卒業試験で行ったデビュー・ライヴによって再び新聞沙汰に)。
『Fish Inn』は2年後にビル・ラズウェルによるリミックス盤がリリースされ、05年にCD化されたものはアナログ起こしだったそうで、今回が初めてマスターテープからのCD化。オープニングの “廃魚” が「腐った魚が食いたくて」という歌い出しだったので、東北大震災が起きた4ヶ月後の真夏に気仙沼に行き、屋根の上まで腐った魚で埋め尽くされていたことを思い出した。あの凄まじい悪臭のかたまりをステージからぶちまけられたら……(ちなみにスターリンというバンド名だと中国では発売禁止だそうです。みんなで風船にCDをくくりつけて中国に向けて飛ばそう!)。
荒廃した都市の深淵から深く、そして重厚に響く強烈な音響。アンビエント、ドローン、ノイズ、ヴォイス、工業地帯の音、いわばインダストリアル・サウンド、そしてエコー。それらが渾然一体となって、崩壊する世界の序曲のようなディストピアなムードを醸し出している。このアルバムにおいて、ふたりの才能に溢れたアーティストが放つ音は渾然一体となり、さながら都市の黙示録とでもいうべき圧倒的な音世界が展開されていく……。
といささか煽り気味に書いてしまったが、このアルバムの聴き応えはそれほどのものであった。ザ・バグことケヴィン・リチャード・マーティン(KRM)と、〈Dagoretti〉、〈Editions Mego〉、〈Other Power〉などの先鋭レーベルからリリーするナイロビのアンビエント・アーティトのジョセフ・カマル(KMRU)によるコラボレーション・アルバム、KRM & KMRU『Disconnect』のことである。
これは単なる顔合わせ的な共作ではないと断言したい。われわれ現代人の聴覚=感覚をハックするようなサウンドスケープを形成し、インダストリアルとアンビエントとダブが混合する有無を言わせぬ迫力に満ちた音世界を縦横無尽に展開しているのだ。まさに世代の異なる天才的アーティストの遭遇によって生まれた作品といえよう。
リリースはイギリスはブライトンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈Phantom Limb〉から。ケヴィン・リチャード・マーティンは2021年に『Return To Solaris』をこのレーベルから発表している。
アンビエント・アーティスト KMRU が手がけたコラボレーション作品といえば2022年にブリストルの〈Subtext〉からリリースされた Aho Ssan との『Limen』があった。これもなかなかのアルバムで、惑星的終末論のような壮大なSF的ムードを生成するドローン作品である。いっぽう本作『Disconnect』は『Limen』とはかなり異なる雰囲気だ。「惑星から都市へ」とでもいうべきか。荒廃した都市のサウンドトラックのような音響を展開しているのだ。
やはりコラボレーターによる変化は大きい。今回はケヴィン・リチャード・マーティンのカラーも反映されているといってもよい。じじつ、どうやらケヴィン・リチャード・マーティンが KMRU のドキュメンタリー映像を観たことが本作の創作の発端だったようだ。そこで KMRU の「声」の魅力に気がついたケヴィン・リチャード・マーティンは、コラボレーションを持ちかけたとき、ジョセフ・カマルに彼のヴォーカルを用いたいと申し出た。アンビエント作家の「声」とはさすがの着眼点である。
そうして完成した本作は両者の個性が交錯し、錯綜し、その結果、まるで都市を覆う神経系統のような、もしくは断線したネットワーク回線のような、それとも荒廃した都市に鳴り響く不穏な工事音とような不穏なサウンドとなった。アンビエントからインダストリアル、そしてダブの要素が交錯するサウンドスケープはじつに刺激的だ。
1曲目 “Differences” から共作の成果は存分に出ている。楽曲全体をジョセフ・カマルの声が読経のように響きわたり、聴く者の精神を深く鎮静へと導く。同時にベースの動きをする低音部分、深いエコーがダブのような重層的な音響空間を生成・構築し、それが薄暗い不穏感覚を演出していく。まさに鎮静と不安の混合体のようなサウンドだ。もしくは崩壊と蘇生とでもいうべきか。とにかく灰色の質感に満ちたディストピアなムードがたまらない。この音像はケヴィン・リチャード・マーティンと KMRU のアンビエンスの交錯から生まれたものに違いない。そこに一種の「主演俳優」のようにジョセフ・カマルの声がレイヤーされる。見事な「演出」だと思う。
2曲目 “Arkives” はカマルの声と透明なアンビエンス、ケヴィン・リチャード・マーティンによるダーク・ダブ・インダストリアルな音像が地響きのように展開する曲。3曲目 “Difference” ではビートが加わり、まるで作品世界を方向するような音響的展開を聴かせてくれる。そこにカマルのヴォイスがまたもレイヤーされていくわけである。
やがてビートが静かに消え去り、4曲目 “Ark” がはじまる。ノイズの周期的なループにカマルの声の反復が重なる。それが列車の音の進行のように進み、いつしか雨のような音と反復音のみが残る。5曲目 “Differ” ではその荒廃したムードを受け継ぎつつ、周期的なリズムが刻まれていくトラックだ。ここではカマルの声もほんの少しだけ希望の兆しを感じもする。
そしてクライマックスであるアルバム最終曲6曲目 “Arcs” に行き着く。反復するノイズ、パチパチしたノイズ、加工された声のレイヤー、アルバムで展開されてきたいくつもの要素が統合され、アルバムの終局である音世界を鳴らす。やがて鐘のような音が世界に警告を鳴らし、静まり返った世界に降り注ぐ雨の音のようなノイズでアルバムは幕を閉じるのだ……。
アルバムは全6曲にわたり、都市の終焉と世界の再生のように不穏と希望のインダストリアル・アンビエントを展開するだろう。ときにビートも織り交ぜながら、交響曲のように展開するさまは、どちらかといえばケヴィン・リチャード・マーティンの個性によるものかもしれない。一方でジョセフ・カマルの「声」が啓示のように響く。まさにレクイエムのようなインダストリアル・アンビエントだ。
いずれにせよ『Disconnect』において、ケヴィン・リチャード・マーティンとジョセフ・カマルは相互に深い影響を与えつつ、それぞれが別の逃走=闘争線を引くように生成変化を遂げている点が重要だ。お互いの個性が明確に鳴り響いていても、しかし全体としては未知の音になっている。コラボレーション・アルバムは数あれど、これほどの相互作用が生まれた作品も稀であろう。
私はこれまでも KMRU の音楽を追いかけてきたが、本作は彼のディスコグラフィのなかでも異質にして特別な仕上がりになっていると思う。彼はケヴィン・リチャード・マーティンという圧倒的個性を前にして、ナチュラルな姿勢で対峙し、音と音の新たな交錯を実現した。これはもはやコラボレーションではなく「KRM & KMRU」というユニットの音楽といえるのではないか。まったく新しいインダストリアル・アンビエント・アルバムの誕生を祝福したい。
これを待っていた。コーネリアスによるアンビエントをフィーチャーした作品集である。昨今は日本のロック・ミュージシャンがアンビエントに挑むケースも見受けられるようになったけれど、もともと少なめの音数で特異かつ高度な音響を構築してきたコーネリアスだ。相性が悪かろうはずもなく、凡庸の罠にからめとられることもありえない。
布石はあった。ひとりの音楽家として大きな曲がり角を迎えたあとの、重要な1枚。影と光、そのいずれをも表現した復帰作『夢中夢 -Dream In Dream-』は、全体としては彼のルーツを再確認させるようなギター・サウンドに彩られていたわけだけれど、終盤には穏やかなインストゥルメンタル曲が配置されていたのだった。アルバム・タイトルと関連深い曲名を授けられ、アルバム中もっとも長い尺を与えられた “霧中夢”。それは、ここ10年くらいの欧米のアンビエント/ニューエイジの動きにたいする、コーネリアスからの応答だった。じっさい、リリース時のインタヴューで彼はジョゼフ・シャバソンや〈Leaving〉、ケイトリン・アウレリア・スミスといったエレクトロニック・ミュージックを聴いていたことを明かしている。近年断片的に発表してきたアンビエント寄りの楽曲のコレクションたる『Ethereal Essence』は、だから、出るべくして出た作品といえよう。
もちろん、彼がアンビエントへと関心を向けはじめたのは最近のことではない。独自の音響に到達した『Point』の制作時、小山田はよくアンビエントを聴いていたという(当時のお気に入りはザ・KLFやイーノだったそうだ)。たしかに、『Point』や『Sensuous』などに収録された一部のエレクトロニカは、こんにちの多様化したアンビエントの観点から眺めれば、そうタグづけされたとしてもなんら不思議はない。『夢中夢』の軸が原点を振り返ることにあったのだとしたら、今回は長年にわたるそうした関心を集約、一気に解放してみせた作品と位置づけられる。
アンビエント寄りといってもノンビートの曲ばかりで埋めつくされているわけではない。ザ・ドゥルッティ・コラムを想起させる “Sketch For Spring” はしかしサマーでもウィンターでもなく、過ぎ去った春の陽気をありありと思い出させてくれる。湿気に圧殺されそうないまこそ聴くのにぴったりの曲だけど、波のごとくギターが左右に揺れ動く “Melting Moment” もおなじタイプの心地よさを提供してくれている。
中盤の “サウナ好きすぎ、より深く” や最後の坂本龍一のカヴァー “Thatness And Thereness” のようなヴォーカル入りの曲はいいアクセントになっていて、本作がたんなる寄せ集めではなく、構成の練られたひとつの作品であることを示している。音響上の冒険としては、リンゴをかじるような音を水中音のように聴かせる “Forbidden Apple” がベストだろうか。
異色なのは、谷川俊太郎の詩の朗読を電子音でトレースする “ここ” だ。この曲だけはまったり聴き流すことができなくて、どうしてもコーネリアスが「ここ(=アンビエント)こそがいまの自分の居場所だ」と主張しているように思えてしまう。もしかしたらぼくたちはいま、新しい──そして初めから大きな──アンビエント作家の誕生の瞬間を目のあたりにしているのかもしれない。
コーネリアスのようにすでにみずからの音楽性を確立しているアーティストがアンビエントの世界に参入していくことの意味は小さくない。音楽家のなかには「アンビエントなんてだれでもつくれる」と考えているひともいる。パンデミック以降アンビエントのリリースが増え、玉石混交の念を抱くリスナーがいることはうなずけるけれど、そうした軽視や狂騒めいた状況にコーネリアスは、その質とオリジナリティでもって一石を投じているのではないか。
だから、いつかコーネリアスによる、すべて新曲の本格的なアンビエント・アルバムが登場する。いろんなアイディアが詰めこまれたこの『Ethereal Essence』を聴いてそう確信した。これはきっとその助走なのだ。

