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John Carroll Kirby

FunkJazzSoul

John Carroll Kirby

Septet

Stones Throw

小川充   Jul 15,2021 UP

 昨今のUS西海岸の音楽シーンを中心に、有能なセッション・ミュージシャン及びソング・ライター/プロデューサーとして活躍してきたジョン・キャロル・カービー。共演やコラボしてきたメンツには、フランク・オーシャン(“DHL”でキーボードを演奏)、ソランジェ、ブラッド・オレンジ、バット・フォー・ラッシーズ、シャバズ・パラセズ、コナン・モカシン、セバスチャン・テリエ、ジ・アヴァランチーズ、イエロー・デイズなどが並ぶ。特にブラッド・オレンジの『フリータウン・サウンド』(2016年)への参加で名を広め、ソランジェの『ホエン・アイ・ゲット・ホーム』(2019年)では主要プロデューサーに名を連ねている。1990年代に活躍したソウル・デュオのチャールズ&エディの片割れであるエディ・チャコンが昨年リリースした復活作の『プレジャー,ジョイ・アンド・ハピネス』では、全面的に制作を任されている。

 そんな裏方仕事が多いジョン・キャロル・カービーだが、自身のソロ作品も地道に作ってきており、2017年に『トラヴェル』という処女アルバムを残している。キーボード奏者である彼ならではの各種鍵盤&シンセサイザーなどを多重録音したアンビエント~ニューエイジ系の作品だった。続いてカセットのみで発表した『メディテーションズ・イン・ミュージック』(2018年)はタイトルどおり瞑想のための音楽で、『タスカニー』(2019年)はピアノのみで綴る20分弱の曲がレコードのA/B面にそれぞれ収められ、〈ECM〉的なジャズとアンビエント~モダン・クラシカルの中間のような作品だった。そんなジョン・キャロル・カービーが昨年〈ストーンズ・スロー〉と契約を結んだのは意外だったが、最近の〈ストーンズ・スロー〉はリジョイサーなどジャズからアンビエント寄りのアーティストの作品もリリースしているので、彼もそんな新機軸を担うアーティストとして期待されたのだろう。

 〈ストーンズ・スロー〉からは2020年4月に『コンフリクト』と『マイ・ガーデン』の2作が立て続けてリリースされた。『コンフリクト』は『タスカニー』の延長線上にある静穏としたピアノとシンセによる作品集で(一部にフルート演奏もあり)、“ワビ(侘び)” と題された楽曲も収録されている。彼のピアノ演奏は昨年末にコロナ感染で死去したハロルド・バッドがブライアン・イーノとコラボしていた頃のサウンドを彷彿とさせるものだ。
 『マイ・ガーデン』のほうはもう少しシンセが前面に出て、フルートやマリンバなど楽器使いもカラフルになっている。曲によってしっかりとした骨格のリズム・セクションによるジャズやジャズ・ファンク寄りのアプローチあり(日本人ベーシストの鈴木良雄が1980年代に作っていたニューエイジ・ジャズからの影響が強いようだ)、メディテーショナルなモダン・クラシカルあり、チルウェイヴやヴェイパーウェイヴに繋がるところも感じさせる楽曲ありと、より広がりのある世界を見せる作品集だ。

 そして、『コンフリクト』と『マイ・ガーデン』から約1年ぶりの新作が『セプテット』である。ちなみにジャケットの写真は前述のエディ・チャコンによるものだ。ジャズのセプテットは7人組の楽団だが、今回はジョン・ポール・マランバ(ベース)、ディーントニ・パークス(ドラムス)、ニック・マンシーニ(マレッツ)、デヴィッド・リーチ(パーカッション)、ローガン・ホーン(ウッドウィンズ)、トレイシー・ワンノメイ(ウッドウィンズ)が参加し、文字どおり7人組バンドによる録音。いままではほぼひとりで多重録音してきたが、『セプテット』はバンド・サウンドによるアプローチへ変化している。
 そうした変化は “レインメーカー” あたりに顕著で、バンド・サウンドならではのグルーヴに富むメロウ・ナンバーだ。この曲に見られるように『セプテット』の方向性はジャズとソウルやファンクの融合で、これまでのアルバムとは異なるカラーを持つ。ある意味でより〈ストーンズ・スロー〉らしいカラーのアルバムかもしれない。たとえば “スワロー・テイル” はクルアンビンあたりに近いレイドバックしたファンク・ナンバーで、レトロなアナログ・シンセの音色がサイケデリアを演出する。

 “センシング・ノット・シーイング” はアフロ・ラテン調のミステリアスなジャズ・ナンバーで、カマシ・ワシントンの『ヘヴン・アンド・アース』(2018年)にも参加していたトレイシー・ワンノメイらによる木管が重厚で神秘的な音色を奏でる。ジョン・キャロル・カービーの鍵盤はむしろ管楽器などの引き立て役で、『セプテット』において彼は全体のプロデュースを主眼としていることを示している。“ジュビリー・ホーンズ” も同様にホーン・アンサンブルが主役となるが、ここではジョン・キャロル・カービーのエレピも印象的な演奏を聴かせる。1970年代のロニー・リストン・スミスあたりに近い演奏と言えよう。
 メロウの極みと言える “ウィープ” でのエレピとマリンバの絡みも素晴らしく、サンプリング・ソースとしても有名なボビー・ハッチャーソンの名曲 “モンタラ” を彷彿とさせる世界だ。“ザ・クエスト・オブ・チコ・ハミルトン” はジャズ・ドラマーのチコ・ハミルトンに捧げた作品で、『ペレグリネーションズ』(1975年)、『チコ・ハミルトン・アンド・ザ・プレイヤーズ』(1976年)、『ノマド』(1980年)などクロスオーヴァー/フュージョン期の彼の作品をイメージしている。“ニュークレオ” のマリンバを絡めた変拍子のドラミングも印象的で、エスニックな雰囲気とミニマル・ミュージックに繋がる要素を感じさせる。ジョン・キャロル・カービーならではのニューエイジ・ジャズと言えるだろう。

小川充