「S」と一致するもの

CoH & Wladimir Schall - ele-king

 コー(CoH)とウラジミール・シャール(Wladimir Schall)による本作『COVERS』は、静謐なピアノの響きと、硬質で冷ややかな電子音/ノイズが交錯し、美しくも深淵なサウンドスケープを展開するアルバムである。
 旋律は断片化され、ピアノの残響は電子処理によって引き延ばされる。もしくは削ぎ落とされる。その結果、本作は「ピアノ作品集」でも「電子音楽作品」でもなく、両者が拮抗しながら共存する不安定かつ精緻な音響空間を生成している。まずは、このアルバムがそうした音の在り方を徹底的に追求した作品であることを明確にしておきたい。リリースはスイスの実験音楽レーベル〈Hallow Ground〉から。

 まず、『COVERS』は一般的に想像される「カヴァー・アルバム」とは大きく異なる作品である点も指摘しておきたい。本作でおこなわれているのは、原曲をそのまま演奏し直したり、わかりやすく現代的にアレンジしたりすることではない。そうではなく、楽曲の内部に含まれている構造や時間の流れ、そして聴き手の記憶に残る感触を丁寧に取り出し、それらを一度解体したうえで、まったく別のかたちに再構築する試みが行われているのである。『COVERS』というタイトルは、その意味で意図的に挑発的だ。本作は「カヴァーとは何か」を問い直すところからはじまっているからだ。

 アルバムについて語る前にまず最初に、コーことイワン・パヴロフ(Ivan Pavlov)の経歴を簡単に振り返っておきたい。彼は1990年代後半から国際的に活動してきた電子音楽家である。ロシア出身で、旧ソ連崩壊後の混乱期を背景にキャリアをスタートさせ、活動初期からノイズ、インダストリアル、ドローンといった領域に関心を向けてきた。
 2000年代以降は、〈Raster-Noton〉、〈Editions Mego〉といった実験音楽/電子音楽の重要レーベルからも作品を発表した。現在はストックホルムを拠点に、電子音楽の境界を横断する制作を続けている。
 コーは多彩なレーベルから楽曲をリリースしているが、重要なのは〈Raster-Noton〉と〈Editions Mego〉からのリリース作品であろう。〈Raster-Noton〉の作品では、『Mask Of Birth』(2000・のちに〈Mego〉からも再リリース)も重要だが、特に2007年にリリースされた『Strings』(2007)が決定的なアルバムであった。ストリングスの音を電子的に解体し、クリック・ノイズやデジタル・グリッドを基盤とした厳格なミニマリズムを実践しているのだ。音は空間に配置される抽象的な「構造体」として扱われていたように思える。彼の作品のなかでもシリアスな作風といえよう。その現代音楽的な音響は、『COVERS』に通じている。
 その一方、〈Editions Mego〉からの作品群はよりヴァラエティに富んでいる。グリッチ以降のインダストリアル・サウンドの傑作『0397POST-POP』(2005・これは〈Mego〉時のリリース)、ギター・ノイズの粗さや歪みを強調したメタ・メタリックな『IIRON』(2011)、リズミックなビートやヴォーカル(ヴォイス)入りのポップな『Retro-2038』(2013)、『TO BEAT』(2014)など、よりヴァラエティに富んでいる。そして2016年リリースの『MUSIC VOL.』では不安定なノイズと静謐な音響空間が交錯するサウンドを構築する。続く2017年の『COHGS』では多彩なゲストを召喚し、不安定なノイズからリズミックなトラック、ヴォーカル導入まで、〈Editions Mego〉期の集大成ともいうべきアルバムに仕上がっていた。このひとつのスタイルや音響に留まらない姿勢こそ、コーの音楽が単なるミニマリズムにとどまらない理由でもある。
 また、コーのサウンドを理解するうえで、コイルのピーター・クリストファーソンとの関係も決定的である。クリストファーソンと共に活動した Soisong は、コーのキャリアにおける重要な転機となった。音楽を完成された作品ではなく、環境や儀式、経験と結びついた出来事として捉えるピーター・クリストファーソンの思想は、コーに強い影響を与えた。音の不完全さや偶発性、聴取状況によって意味が変化するという考え方は、Soisong 以降のコー作品において重要な軸となった。音楽を「機能する装置」として捉える視点をより明確なものにしていったのである。
 本作の共作者ウラジミール・シャールは、パリを拠点とする作曲家で、クラシック音楽および実験音楽の文脈を背景に持つ。音そのものの質感や沈黙、反復によって生まれる感覚のズレに強い関心を持ち、2020年にはエリック・サティの “Vexations” を無限にループさせるカセット作品を発表している。既存の楽曲を「完成された作品」として固定するのではなく、聴かれ続ける過程で意味が変容していくものとして捉える姿勢が、シャールの制作のコアにある。
 このふたりは「音」そのものに対する思想的な共通点を持ちながらも、明確に共同名義で制作された作品は本作が初めてであった。本作『COVERS』は、コーとシャールが本格的にタッグを組み、それぞれの考え方や手法を一つの作品世界の中で結びつけた最初の成果と言える。その意味で本作は、単なる企画的な共作ではなく、両者の関心が自然に交差した結果として生まれた作品でもある。
 本作をリリースした〈Hallow Ground〉というレーベルの存在も、『COVERS』を理解するうえで重要だ。〈Hallow Ground〉は、現代音楽、実験音楽、サウンドアートを横断しながら、ジャンルよりも聴取のあり方そのものを問い続けてきたレーベルである。静けさ、持続、反復、微細な変化に耳を澄ませる態度を要請する点で、〈Hallow Ground〉のカタログは一貫して能動的な聴取を前提としている。ピアノと電子音、記憶とノイズの関係を再構築する『COVERS』は、その美学と強く共鳴する作品だ。

 『COVERS』は全7曲から構成されており、そこには明確な戦略がある。ピアノによる既存曲を出発点としながら、電子処理とデジタル操作によって、聴き慣れた旋律や和声の内部から「異物」を浮かび上がらせること。これらの楽曲は「音楽の機械装置を、欠陥も含めて誠実に露出させる」ための一連の装置として構想されている。楽器や楽曲の不完全さを補正するのではなく、その脆さをそのまま提示する態度が、アルバム全体を貫いている。
 1曲目 “MERRY XMAS MR ERIK” は、坂本龍一の “Merry Christmas Mr. Lawrence” とエリック・サティを重ね合わせることで、本作の核心を明示する楽曲だ。あの有名な旋律は、完全な形で現れることなく、響きと電子子ノイズの間を漂う。そうすることで坂本とサティが同じ「響き」を持っていることをあぶり出す。
 6曲目 “GNOSSIENNE À RYUICHI” でも、坂本龍一とエリック・サティというふたりの「静かな急進性」が結びつけられる。フランス近代音楽が切り開いた機能和声から解放された音色と余韻の美学は、直接的な引用ではなく、音の扱い方として継承され、電子的操作によって再び解体されていく。ちなみ坂本龍一は、コーの『To Beat Or Not To Beat』に坂本がリミックスの提供などをしている。
 1978年のソ連アニメ短編『Контакт』や『Ну, погоди!』シリーズに着想を得たという2曲目 “KOHTAK”、少ない音階の旋律を音色を変換しつつ展開する3曲目 “OKOLO KOLOKOLA” などは、音楽的記憶が歪み、変化を遂げていく過程をトレースしているかのようだ。アルバム中でももっとも静謐な印象を残す楽曲だ。
 4曲目 “SOII BLANC” では、コー自身の過去曲 “Soii Noir” (2011年リリースのアルバム『IIRON』に収録)をモートン・フェルドマン的な静謐なミニマム感覚を媒介に再構築し、自作すらも「他者の作品」として扱う姿勢を明確にする。そして5曲目 “SNOWFLAKES” は、存在しない原曲をカヴァーするという逆説的な試みであり、ノスタルジアという感覚の不確かさを露わにした。そして、アルバム最後に置かれた7曲目 “STAROST NE RADOST” では、喜びと悲しみ、親しみと疎外の境界が曖昧に揺らぎ続ける。

 『COVERS』はコーの単独作とも明確に異なる位置にあるアルバムだ。何しろ本作は「すでに存在する音楽の記憶」そのものが素材として扱われているからだ。構造を構築する存在から、記憶と聴取のズレを媒介する存在へ。この視点の転換こそが、『COVERS』をコーのディスコグラフィの中でも特異な作品へと位置づけている要因といえよう。
 要するに過去の名曲を懐かしむための作品ではない。音楽の記憶がどのように現在に作用し、変わり続けていくのかを静かに示すアルバムなのだ。耳を澄ませることで、知っているはずの音楽がまったく異なる表情を見せる。その体験こそが、本作最大の魅力といえよう。

Meitei - ele-king

 昨年はアンビエント・アルバム『泉涌』を発表した冥丁が、4月18日、彼にとっての思い出の地、京都、その市内にあるかの有名な清水寺にて「奉納演奏」する。「ライヴ演奏」とは言わず「奉納演奏」だそうで。
 ちなみに「奉納」とは、神事・仏事を意味するわけですが、まあ、たとえば、写真家の小原泰広がずっと撮り続けているハードコアな無形文化財の花祭(表層的なオリエンタリズムでしか日本を見れない人には見えない、ヴァナキュラーな精霊文化およびスピリチュアルなレイヴ文化)とか、有名どころではねぶた祭りとか熊野参りとかね、さもなければほのぼのした盆踊りとかね、考えてみればいろいろありますわなぁ。
 ああ、そうそう、失われた日本に関しては昔、「アイアンキング」というロボット戦闘モノの子ども番組がありましてね、ありゃあ、コンセプトそのものがラディカルだったスよ。日本に滅ぼされたオルタナな日本(とは呼ばないでしょう)があったとはね。そもそも日本とはなんぞやという定義からはじめなきゃならないという意味でも勉強になったです。
 ぜんぜん関係ないけど、昨年末、KATAにて開催されたBlack Smoker展における志人の作品は、マヒトゥ・ザ・ピーポーも驚愕するほどすごかった。あれこそ、失われた日本のもっとも過剰なエネルギーそのもの……あ、すいません。音楽のことを考えたいのに「日本」「日本」言うのは、このクソ忌々しい選挙のまっただなか、よからぬ政治的な意味をもたらしかねませんな。ご無礼の段、ご容赦いただけましたら幸いに存じます。
 てなわけで、すっかり脱線3しましたが、お知らせするのは冥丁の「奉納演奏」でした。以下、プレスリリースより抜粋。ファンの皆様、どうぞ参考にしてください。

「2026年4月18日、日本を代表するエレクトロニック・ミュージックのアーティストとして世界的な評価を集め ている冥丁は、世界遺産に登録されている音羽山 清水寺の本堂舞台において、彼の活動の集大成として奉納演 奏を行うこととなりました。
音羽山 清水寺において冥丁が奉納する音楽は、20代の頃より京都で見つめ続けてきた「日本の姿」そのもので す。自転車で町を巡り、寺社仏閣だけでなく、夜の嵯峨野の池に浮かぶ赤い月、路地の暗がりの奥に垣間見え る人々の暮らしの色彩、彼は夜な夜な京都を彷徨いながら、「日本とは何か」を自分の目で見つめ直し、町に 潜む“音”を探し続けてきました。そこで出会った風景や記憶は、やがて冥丁独自の音楽性を見いだし表現へと 昇華されていきます。それらすべてが生まれた場所こそ、⻑きにわたり音楽修行を重ねてきた京都でした。そ して着想を得た音楽を「失日本」と名付け、日本文化から失われつつある印象や記憶を、現代的な感性で再構 築してきました。その後、日本・欧州・アジアを巡る単独公演やツアーも実施。ライブハウスや野外フェスティ バルだけでなく、寺院や文化財、歴史的建造物などで、演奏を重ねながら、自身の表現を深め続けてきました。 そうして積み重ねてきた作品と、京都への想いのすベてを捧げる場として、世界遺産であり、古来より芸能奉納の場でもあった清水寺にて、奉納演奏を開催する運びとなりました。 冥丁は今回の奉納演奏に際しこのように語ります。
 『私は音楽活動を通じて、「失日本」という解釈を現代に掲げ、日本に古くから現存する自明でありながらも 幽微な世界に焦点を当てた独自の音楽を創造してきました。20代、京都に籠りながら人知れず時代を見つめ、 たった一人で音楽修行を重ねてきた経験を持つ私にとって京都は自分自身の礎となりました。そして、過去から現在まで続く数多の常識を自分自身の心の目で捉え表現を行い、音楽を通じて表現者として活動を行うことができる立場に至りました。このような人生を歩んできた現在の私の集大成を表現する奉納演奏となります。』
 本公演のキービジュアルの原画は、京都・⻄陣の唐紙工房「かみ添」が制作。京唐紙とは、版木を用いて和紙 に文様を写し取る、京都に古くから伝わる装飾技法によって生み出される紙の表現です。平安時代より、貴族 の邸宅や寺社仏閣、町家の襖や屏風を彩り、日本の美意識と暮らしに寄り添いながら受け継がれてきました。「かみ添」は、こうした京唐紙の歴史と技法を現代の感性で捉え直し、新たな表現として再構築する制作を続 けています。冥丁もまた「失日本」という視点から日本的な感性を再解釈し、音楽として現代に新しい表現として提示してきました。「かみ添」が描く京の意匠と、冥丁が表現する独自の方向づけが交差し、新しい世界 観が紡がれています。

 なお、チケット発売は、2026年2月14日(金)正午より。 
 詳しくは以下をご覧ください。
 冥丁 Instagram. :https://www.instagram.com/meitei.japan
 主催:しばし Website. sibasi.jp/


Photo by 琴音

■奉納演奏詳細
会場:音羽山 清水寺 本堂舞台 (京都市東山区清水1-294)
日程:2026年4月18日(土)
開場:19時30分
開演:20時30分
主催:しばし
協力:
音羽山 清水寺「Feel Kiyomizudera」プロジェクトチーム
KITCHEN.LABEL
Inpartmaint Inc. / p*dis
チケット料金:
本堂舞台 着席席 8,000円
本堂舞台 スタンディング 5,000円
奥の院 着席席:4,000円

チケット発売日時:2026年2月14日(土)正午
チケット発売サイト: meitei.peatix.com

お問い合わせ先:
メール info@sibasi.jp
電話 080 4189 3396(電話の受付時間:13時〜19時)
※音羽山 清水寺へのお問い合わせはご遠慮ください。

チケット
一般チケット(オンライン販売のみ)
チケット発売サイト: meitei.peatix.com ※発売開始日時より有効となります。

特別チケット(実券)
「奉納公演鑑賞記念符」
「しばし」店頭で販売
〒606-8335京都市左京区岡崎天王町76-16
営業時間:12時-19時(月曜定休)/ 12時-22時(土日のみ)
sibasi.jp/
instagram.com/sibasikyoto/
※一般チケットと特別チケットの料金は同額です。


©︎discovery go

KEIHIN - ele-king

 2000年代から、長らく東京周辺のアンダーグラウンドで活動を続けてきたDJ、KEIHINがこのたびファースト・アルバムをリリースした。ライフステージの変化とともにDJとしての活動を2度ほど休止しながらも、育児や家事、仕事という日常生活の合間をぬって制作、このパラノイックとも言えるドープな本作を完成させたそうだ。その制作意志にまずは感服するばかりだ。

 そのDJとしての本格的なキャリアは2000年代初頭、peechboy、CMT、MutronらとのDIYパーティ・ポッセ、DOEL SOUND FORCEに遡るが、2000年代後半には、東高円寺〈GRASSROOTS〉、関西の〈FLOWER OF LIFE〉、千葉の〈FUTURE TERROR〉といったクラブ、パーティ周辺人脈──いわゆる〈RAW LIFE〉前後に勃興したアンダーグラウンドなDJシーンで活躍していくことになる。しかし、サウンドとして本作につながる起点としてはやはりパーティ〈ALMADELLA〉だろう。現在では上海のエッジーなレーベル〈SVBKVLT〉からのリリースでも知られる、現在は京都を拠点とするRILLAとともに主宰していたパーティ。2008~2013年の開催で早くもミニマル・テクノとダブステップ(それだけではないが)のミックスがおこなわれていた。そうしたスタイルは、2010年代初頭のポスト・ダブステップの流れ以降、現在ではもはや珍しいことではなくなったが、パーティ・スタート当初は、そのわずか1~2年前に、やっとダブステップのレコードが国内でも買うことができるようになり、ましてやインターネットでの情報も限られ、ファイルでのDJがまだ敬遠されていた時代と言えばその先鋭性が少しはわかるかもしれない(ちなみにDVSの登場もそうだが、さらにDJプレイのファイル化の転機となったCDJ-2000 は2009年11月/CDJ-2000nexusは2012年9月のリリース)。そこで招聘したアーティストたち──スキューバシャックルトンアップルブリムペヴァリストといったラインナップを見ても、その方向性がわかるだろう。本作のサウンドの素地がそうした活動にあることはなんとなくはわかるのではないだろうか。またミックスCDレーベルでもあり、主宰のふたりの他に、現在大阪のレコード店〈Naminohana〉を運営するINBEのミックスも出している。

 2016年にDJ活動を一端休止。本格的なアーティスト活動の開始は、2018年末で自身のレーベル〈Prowler〉を立ち上げてリリースしたシングル「Esoteric Communication」となる。決して早くはないデビューといえるが、しかしその響きは、音楽表現への不退転の信念というか執念を感じずにはいられないそんな作品で(そもそも自主でレコード・プレスまでしている)。本作へと続く、ダンスフロアに根ざしたポスト・ダブステップとテクノの汽水域から立ち現れたインダストリアルなブロークン・テクノを展開していた。そして再度の2020年のDJ活動休止後、やはり日々の生活の合間をぬって完成させたのが本アルバムだという(DJ活動は近日再開予定とのこと)。

 「生と死、そして転生(進化あるいは継承)」というテーマの元に『Chaos and Order』と名付けられた本作は、あえてここでは引用しないが(CDを手に取った方がいい)、おそらく自身の長らくのオブセッションに強く由来するであろう、レイヴとサイケデリック・カルチャーをひとつの起点にした、いわば生成変化の、フリーキーな着想のSFストーリーとシンクロしたものだという。CDには各曲にそのストーリーに連なったイメージがブックレットとして編み込まれ、ひとつの作品を作り上げている(それは帯裏にも及ぶ)。いわば視覚的なイメージも含めて、ひとつのアート・ピースとして構成されている。

 地鳴りのようなベース音とノイズによってその出発を知らせる “Wormhole” から一転してヘヴィーなブロークン・テクノ “Gate” によって、アルバムは本当のはじまりをつげる。強迫観念を煽り立てるようなボイス・サンプルとグリッジなピープ音の “Room” から一転、パーカッシヴなダブ・テクノ “Ayahuasca” でアルバムは、徐々にそのグルーヴで聴く者の妄想を加速させる。グッと重心を落としたブレイクビーツ・テクノ “Overload”。淀んだ井戸の水の底から星空を眺めているかのようなダブ・アンビエント “Cogitation” をはさんでアルバムは後半にかけてさらに加速していく。モノトーンのブロークン・ビート~ハーフステップ的な “Resist”、またホワイト・ノイズとともに覚醒を促すハード・テクノ “Singularity” から、ビリビリと痙攣するハードなミニマル・テクノ “Transition”。この後半の流れを聴いているだけでも、いつしか白目をむいて、意識は身体の存在を振り切り拡散していくようだ。そして最後に訪れるのは仄暗い福音をもたらすアンビエント・テクノ “Sign” で終幕する。

 もちろん本作の楽曲は現状のベース~ブロークン・テクノなどのダンスフロアの要素に根ざしたものではある。しかし、単なるダンストラックの集積ではなく、アルバムというフォーマットがもたらすストーリー・テリングを強烈に意識したであろうことは伝わってくる構成だ。ダークかつインダストリアルなメタリック感、ダブのヘヴィーネスと浮遊感といった音のテクスチャーで、アルバムを通じて強烈な妄想を具現化するかのような広大なるコスモロジーを描き出している。また前日譚としてのアンビエントDJミックスも用意されていて、このビート感や構成とともに、まさにDJという体験を下敷きに、そこから電子音楽を作るということに強烈なるパッションを見出していることをビンビンに感じる作品でもある(最近ではロンドン在住のTORUの『Rescue at SW4』にも同じ執念を感じた)。

 多忙な日常生活をぬって作られた、その日常に表裏一体で頭に渦巻く「狂」の一文字、それを表現として肯定する、その強烈な執念を感じさせ、妄想をも具現化=脳内のイマジネーションのグルーヴを覚醒させる、まさにブレイン・ダンス(IDMという意味ではない)のテクノ・アルバムと言えるだろう。

 また作品性そのものとは関係はないが、ライフステージの変化でダンスフロアから離れながらも、またこうした強度の作品を作りあげるという部分で、つきることない音楽という表現への深い愛情に支えられた、年齢に左右されないある種のオルタナティヴなアーティストのキャリア、それを含めた人生のあり方を肯定する。そんなメッセージもそこには感じてしまう、そんな作品でもある。

1月のジャズ - ele-king

 スイスのギタリストのルイ・マトゥテ。1993年にジュネーヴで生まれたが、祖父は中米のホンジュラス出身というラテン・ルーツのミュージシャンである。10代にフラメンコ・ギターを学び、クラパレード大学進学後はジャズの道に進んで同大の音楽賞を受賞し、リオネール・ルエケやウォルフガング・ムースピールといったギタリストにも学んでいる。自身のルーツもあってスパニッシュ、ラテン、ブラジル音楽などにも通じており、自身のグループを率いて数枚のアルバムをリリースしているが、2022年の『Our Folklore』に見られようにジャズとブラジル音楽を繋ぐような作品が多い。また、リオネール・ルエケの影響からだろうが、アメリカのネオ・ソウル的なフィーリングを持つ新世代ジャズにも通じている。2024年にはハープ奏者のブランディ・ヤンガーをゲストに迎えた『Small Variations of the Previous Day』を発表。ブラジルのボサノヴァやサンバ、レユニオン島のマロヤ、カーボベルデのモルナなど、中南米や大西洋、インド洋の国々に伝わる伝統音楽を幅広く取り入れた作品となっていた。

Louis Matute
Dolce Vita

Naïve

 そんなルイ・マトゥテの新作『Dolce Vita』は、ゲストにブラジルを代表するシンガー・ソングライターでのジョイス・モレーノを迎え、ブラジルの新世代シンガー・ソングライターのドラ・モレンバウム、前作に続いてフランス新世代のシンガー・ソングライターのギャビ・アルトマンも参加。ギャビもブラジルに音楽留学するなどブラジル音楽の造詣が深いミュージシャンだ。演奏はエミール・ロンドニアンなどの作品にも参加するレオン・ファル(サックス)、ネイサン・ヴァンデンブルケ(ドラムス)、ヴァージル・ロスレット(ベース)、アンドリュー・オーディガー(ピアノ、キーボード)、ザカリー・クシク(トランペット)など、これまでのルイのバンド・メンバーが固められている。フェデリコ・フェリーニ監督の映画『甘い生活』を由来とする『Dolce Vita』は、その甘美な世界とは裏腹に、軍事独裁政権だったホンジュラスから亡命してスイスに渡ったマトゥテ家族の苦難の歴史と、アメリカやヨーロッパに支配され、搾取されてきた歴史を持つホンジュラスをはじめとした中南米諸国を表現したものとなっている。アルバム制作にあたってルイはスペイン、キューバ、コスタリカ、ホンジュラス、ブラジルと旅を続け、ブラジルではジョイスとドラ・モレンバウムと共演してアルバムを完成させた。

 アルバムはジャズ、ラテン音楽、ブラジル音楽などのほか、ロックやサイケ、ファンクなどの要素も融合したミクスチャーなものとなっている。その代表が表題曲の “Dolce Vita” で、アフロビートとラテン・ロックが融合したような1970年代風の楽曲。“Santa Marta” や “Le jour où je n'aurai d'autre désir que de partir” も、ラテン・ファンクとサイケがミックスしたクルアンビンを彷彿とさせる作品。ドラ・モレンバウムが歌う “Não me convém” は、どっしりとしたブラジリアン・ファンクのグルーヴとフェアリーなドラの歌声が好対照で、エイドリアン・ヤングとレティシア・サディエール(ステレオラブ)の共演を想起させる。“Tegucigalpa 72” はホンジュラスの首都テグシガルパで1972年に起った軍事クーデターを題材とした作品で、ホンジュラスの伝統的な舞踏音楽であるプンタにロックを混ぜたアグレッシヴなナンバーとなっている。


DJ Harrison
ELECTROSOUL

Stones Throw

 ジャズ・ファンク・バンドのブッチャー・ブラウンでの活動と並行し、ソロ活動やほかのグループ、プロジェクトなども精力的に行うDJハリソンことデヴォン・ハリソン。マルチ・プレイヤーでありプロデューサー/トラックメイカーの顔を持つ彼だが、ブッチャー・ブラウンとしては2025年にアルバム『Letters From The Atlantic』をリリースし、ソロ活動では2024年の『Tales From The Old Dominion』以来となるニュー・アルバムの『ELECTROSOUL』をリリースした。彼らしいジャズ、ヒップホップ、ファンク、ソウル、R&Bなどがミックスした作品で、ミゲル・アットウッド・ファーガソン、キーファー、ナイジェル・ホール、ヤスミン・レイシー、ヤヤ・ベイ、アンジェリカ・ガルシア、ピンク・シーフなど多彩なゲストと共演している。

 アルバム・タイトルにソウルが付いているだけあり、今回のアルバムはソウル寄りの内容と言えるだろう。ヤスミン・レイシーが歌う “It’s All Love” はエリカ・バドゥを想起させるネオ・ソウルで、ナイジェル・ホールが歌う “Can’t Go Back” はダニー・ハサウェイのようなソウルの伝統を今に引き継ぐ楽曲だ。グレベスが歌う “End of Time” はメロウなソウル・フィーリングにハリソンのピアノが絶妙にマッチし、“Y’all Good?” ではピンク・シーフのラップと幻想的なエレピが交錯する。一方 “OG Players” は、スライ~プリンス~ディアンジェロという系譜に繋がるような荒々しいロック・フィーリングを持つファンク・ナンバー。“Curtis Joint” も1960~1970年代のザラついた質感をわざと残し、DJならではのループ感覚で進行していく。そして、アルバム・タイトルの『ELECTROSOUL』を最も感じさせるのがキーファーと共演した “Beginning Again”。1970年代後半から1980年代にハービー・ハンコックなどがやっていたジャズとソウルの融合を現代に引き継ぐような作品で、複雑なビートによるジャズ・ファンク調の曲調とコズミックなキーボードの調和がハリソンとキーファー両者のコラボならではと言える。


Jimi Tenor Band
Selenites, Selenites!

Bureau B

 2000年代後半以降のジミ・テナーは、ジャズ、即興音楽、ソウル、ファンク、サイケ、プログレ、クラウト・ロック、エクスペリメンタル・ミュージックなど多方面に触手を伸ばす一方、活動初期のようなテクノやハウスなどエレクトリック・ミュージックを作ることもある。そうしたなか、アフロ・バンドのカブ・カブやトニー・アレンとの共演などに見られるようにアフリカ音楽への傾倒がずっと続いているようだ。彼の新たなグループとなるジミ・テナー・バンドはパンデミックの頃にフィンランドのヘルシンキで結成され、パンデミック明けにフェスやクラブでのライヴで研鑽を積んできた。バンド・メンバーは明らかではないが、作曲者にはUMOジャズ・オーケストラのトロンボーン奏者のヘイッキ・トゥフカネン、サン・ドッグ名義でも活動するドラマーのエティ・ニエミネン、カブ・カブのドラマーのエコウ・アラビ・サヴェージ、ジャズ、ポップス、ヒップホップなどを縦断するギタリスト/マルチ・ミュージシャンのローリー・カイロらがクレジットされるので、おそらく彼らがメンバーと目される。ローリー・カリオの2025年のアルバム『Turtles, Cats and Other Creatures』にはジミ・テナー、エコウ・アラビ・サヴェージ、ヘイッキ・トゥフカネンも参加していたので、ジミ・テナー・バンドもそれらアルバムと地続きで進行するプロジェクトなのだろう。

 アルバム『Selenites, Selenites!』はジャズ、ファンク、ソウルなどの折衷的な作品だが、随所にアフロの要素が散りばめられているところが特徴だ。“Universal Harmony” はカーティス・メイフィールドのようなソウルを軸とするが、アフロビートを咀嚼したドラミングやジミの土着的なフルート、ダイナミックなホーン・アンサンブルが加わることにより、非常にスケールの大きな作品となっている。“Some Kind of Good Thing” はビッグ・バンドの仕事もいろいろやってきたジミならではのジャズ・ファンクで、エキセントリックなアナログ・シンセと骨太のリズムに支えられる。“Shine All Night”にはガーナ北部のフラフラ族のゴスペル・クイーンとして注目を集めるフローレンス・アドーニが参加。彼女の昨年のデビュー・アルバム『A.O.E.I.U. (An Ordinary Exercise In Unity)』にはジミとエコウ・アラビ・サヴェージも参加していたので、そこから今回の共演へと繋がっている。アフロ・ファンクを軸とした楽曲ながら、パンキッシュで極めて実験色の濃い作品になっているのがジミらしい。“Furry Dice” はエコウ・アラビ・サヴェージの作曲で、ガーナのハイライフとアフロビートがミックスしたようなナンバー。


Criolo, Amaro Freitas, Dino D'Santiago
Criolo, Amaro e Dino

Criolo Produções

 ブラジルの新世代ピアニストとして注目されるアマーロ・フレイタスのことは、2024年のアルバム『Y'Y』で紹介したが、今回の新作はラッパーのクリオロ、カーボベルデ系のポルトガル人シンガーのディノ・デ・サンティアゴとの共作となる。『Y'Y』はシャバカ・ハッチングス、ブランディ・ヤンガー、ジェフ・パーカーらが参加し、アマゾンの自然やそこに住む先住民をモチーフとした土着色の強いアフロ・サンバ、アフロ・ジャズという作品だったが、この『Criolo, Amaro e Dino』はまったく趣が異なる。1980年代末から活動し、ラテン・グラミー賞にノミネートされるなど世界的なブラジル人ラッパーとして認知されるクリオロ、ヨーロッパ各地で活躍し、カーボベルデ・ミュージック・アワードやMTVヨーロッパ・ミュージック・アワードなどを受賞するディノ・デ・サンティアゴが前面に出たコンテンポラリーな作品であるが、アマーロのピアノももちろん存在感を放っている。

 ヒップホップやR&Bに接近したジャズという点では、ロバート・グラスパー・エクスペリメント(RGE)のブラジル/カーボベルデ(またはポルトガル語)版という見方もできる。特に “E Se Livros Fossem Líquidos_ (Poeta Fora da Lei Pt II)” でのメロウなメロディを奏でるピアノとズレたビートを刻むドラミングのやりとりなどはRGEのそれを彷彿とさせるが、ブラジル人ならではの独特のフレーズがやはりアマーロといったところ。“Ela é Foda” はネオ・ソウルとジャズが結びついたような作品だが、メロディ・ラインがブルニエール&カルチエールやアルトゥール・ヴェロカイなどブラジルの先人たちをどこか彷彿とさせるところがある。

DIIV - ele-king

 AIが浸透してきて肌感覚が変わる次の時代がすぐそこまで来ているようなと年末の紙のele-king個人チャートに書いたのだけど、年が明けてそれはすでに訪れているのだと実感した。もうSNSの投稿にAIで生成された画像や文章が使われていることは珍しいことではない。そういうものだとほとんど気にも留めず受け入れるというところまでは来ていないけれどそれも時間の問題だろう。少なくともいまの段階で自分の感覚が変わったというのは間違いない。投稿される画像を眺めてこれは本当にあったことなんだろうか? AIで作られた偽物なのではないか? という疑いが知覚と感情の間に入るようになったのだ。10年前にはこんなことは思わなかった。なぜなら精巧な画像を即座に作ることは難しかったからだ。しかしそれができるようになったいま、疑わないでいることは難しくなった。だから皆が疑いを抱いている。疑うことが社会の基本だというふうに。インターネットの日常(日常という表現があっているのなら)に漂う景色が変わり、雰囲気が変わり、認識が変わる。そんな日々が積み重なって感覚が変わる。普通の基準が変化して(もしかしたらそれは麻痺なのかもしれない)当たり前のラインが変わって、空想のなかの世界も変容していく。かつて夢見た未来の形も変化して、いままでとは違う架空の世界の姿が現れる。

 そう変化するのだ。僕はこのDIIVのライヴ・アルバム『Boiled Alive』に変化を遂げた現代のその先の世界を感じた。多くのライヴ盤が演者の息遣いやその日の観客の熱狂を生々しく伝えることを目標にするが、このシューゲイズ・バンドのライヴ・アルバムはそれを目指していない。代わりに描かれるのは白々しく広がった明るい未来の姿だ。MCは一切なし、その代わりに1曲ごとに不気味な電子音や合成音で作られたインタールードが入る。不自然なほど明るくTV番組のような様相でバンドを迎え入れたかと思えば、一気に暗くなり「啓示」を与えようとする。このアルバムは後期資本主義の社会の現実に打ちひしがれた姿を描いた24年の4thアルバム『Frog In Boiling Water』の曲を全曲演奏する再現ライヴなのだがそこで描かれた陰謀論めいた組織ソウルネットが社会に浸透した具体的な存在としてこの場所に現れる。ソウルネットがいかに素晴らしい団体なのかという企業CMが入り(ここでは宇宙の力を手に入れ、共感の波に乗ることができます)、ニュース番組のキャスターふうの声がミュージシャンを含む著名人の支持を偽装した「シンセティック・メディア」と呼ばれるAIの政治的支援活動に捜査のメスが入ったことを伝える。また他のインタールードでは画期的な技術に投資するエクソンモービルなる会社(実在する企業と同名)が自然環境のため、地球のよりよい未来のためにDIIV、そしてソウルネットと手を取り合ったという宣言がなされる(流れるザカリー・コール・スミスの声。しかしそれはAIによって作られたものではないかという疑いがあって……)ほとんど『1984年』やトマス・ピンチョンの描くSF小説の世界だがこの空間ではそれが普通のこととして流れていく。たとえホラー映画のようなドローンやサウンド・コラージュが添えられていようとも決して異質なことではないのだ。

 それが4thアルバムの曲と不気味にマッチする。〈Captured Tracks〉時代の疾走感のあるDIIVの姿ではない、重く陰鬱なDIIV。ディストーションの向こうから聞こえてくる “Brown Paper Bag” の足取りは重く、“Raining On Your Pillow” のギターが描く風景はこの先に何が起こるかわかっているが、それでも立ち止まれないという悲劇性を帯びている。だがけっして悲しい気持ちにはならない。客観的な語り口で悪夢を語る小説のような、現実感を失ったこの音楽は低く這う小さな浮遊感を持って進んでいく。この感覚はやはり麻痺なのだろうか? 不気味だがしかしこの悪夢のなかには不思議な安心感があるのだ。

 これは作りものの生で、実際に起こっていることとは違う作り物のライヴなのだ、頭はそう認識するのだが、しかし気がつけばその世界にどっぷりと浸かり込んでいる。11ものインタールードが挟まれるこのライヴ・アルバムでは続けて楽曲が演奏されるということはない。しかしそれがかえって臨場感を生む。まるでフルダイヴ型のVR配信を体験しているみたいな感覚だ(僕らはプラットフォームが用意した世界のなかにいる)。そんなことが可能になる未来でもAmazonプライムビデオにはきっとCMが入っているという確信があるし、待つということを強制される飛ばせない時間はいま、実際に現実で起こっていることというリアルタイムの感覚をかき立てる。まったく生々しくはないが、いま自分がその場に立っていると認識する奇妙な臨場感がそこに生まれるのだ。

 そのせいかここで演奏される楽曲はオリジナルのそれよりもずっといい曲のように聞こえる。それはオリジナルの楽曲がどんな世界で鳴らされているのか感覚的に理解できた状態で聞いているというのと、冗長にも思えるインタールードが挟まれることによってその都度、頭がリセットされるからに他ならないだろう。この陰鬱な曲を受け止められるだけのスペースがそこで生まれ、集中して曲に向かえるのだ。オリジナルのアルバムにもこの余白の導線が必要だったのでは思うほどにインタールードが効果を発揮している。

 ひょっとしたら物体の見えない部分を脳が自動的に補う、モーダル補完やアモーダル補完が働いているのかもしれない。楽曲が切り離されたことで、我々はそこに隠されたものを感じ取れるようになった。ソウルネットが言うように宇宙の力で理解力が高まり共感の波に乗ることができたのだ(あぁカニッツァの三角形も何かのシンボルマークに見える)。この場所で演奏される “Soul-net” は理想郷の香りのように甘く、先のない行き止まりのようにやるせない。それは判断を何かに任せたことによる安心感から来るものなのかもしれない。

 ディストピアの世界を描くこうしたアート表現は昔から繰り返されてきたものでそこに目新しさはないのだが、しかしいまは実感がある。AIは不気味の谷を超え日常に浸透しつつある。ソウルネットにしてももうただの冗談には聞こえない。4thアルバム・リリース時に作られた実際にアクセスできるソウルネットのサイトもこのライヴ盤を体験した後の「2026年」の世界では笑えないジョークに思えてくる。もはや現実と空想の境目が曖昧になっているのだ。
 このライヴ盤は実験的なライヴ・フィルムの音声版ということだがこれ単体だけでもこのおかしな現実が生み出す未来の姿の一端を体験できるだろう。どこまでが本当なのかわからない不気味な世界はおかしなリアリティを持ってこの現実に現れる。我々はこれをどう受け止めればいいのだろう? この場所には奇妙な安心感が漂っている。いずれにしてもDIIVのこのアルバムは我々の感覚を揺さぶる素晴らしいライヴ・アルバムであるように僕には思える。


ele-king presents HIP HOP 2025-26 - ele-king

日本で唯一の紙のヒップホップ専門誌、待望の第2号 “THE CROWD” が登場
いまUSヒップホップに何が起こっているのか、これを読めばまるわかり!

ピンク・シーフ、本邦初インタヴュー

特集:アンダーグラウンドの過去と現在──独自の創造性にあふれたシーンを徹底解剖

そしてもちろん、今回もやります!
2025年ベスト・ヒップホップ・アルバム50発表

billy woods、Cardi B、The Alchemist、Rico Nasty、Che、Little Simz、WHATMORE、Skrilla、Clipse、Bad Bunny、Bktherula and more...

装幀=大田拓未
表紙写真=川島悠輝

菊判218×152/176ページ

[編集・監修者プロフィール]
二木信(ふたつぎ・しん)
1981年生。ライター。『素人の乱』(松本哉との共編著)、単著に『しくじるなよ、ルーディ』、企画・構成に漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』、編集協力に『ele-king vol.27 特集:日本ラップの現状レポート』、『文藝別冊 ケンドリック・ラマー』など。

contents

[特集]
アンダーグラウンドの過去と現在

[巻頭言]
アンダーグラウンドへようこそ(二木信)

[インタヴュー]
ピンク・シーフ、本邦初インタヴュー──ブラック・アメリカのいまを生きる(取材:二木信、通訳:長谷川友美)
ピンク・シーフ、セレクテッド・ディスクガイド

[コラム]
MFドゥームのラップはどうすごいのか──ShotGunDandyが解説
アンダーグラウンド・ヒップホップの歴史(アボかど)
ヒップホップの成熟とファッション・ブランド(大橋高歩)
誰にもコントロールされることのない創造性が発揮される場(吉田雅史)
クィア・ラップが投げかけた問い(木津毅)
シカゴ・アンダーグラウンドの感受性(三田格)

[ガイド]
必聴30作品ディスクガイド(二木信、アボかど、小林雅明、ネコ型、吉田雅史、ShotGunDandy)
重要レーベルガイド

[第2特集]
2025年ベスト・アルバム50
(二木信、高久大輝、つやちゃん、アボかど、吉田雅史、渡辺志保、池城美菜子、市川タツキ、小林雅明、島岡奈央、長谷川町蔵、竹田ダニエル、イワタルウヤ、奧田翔)

チャートからラップが消えたと騒がれた2025年、はたしてその実態は?(池城美菜子×渡辺志保)
USヒップホップの諸傾向(二宮慶介)
フィメール・ラップ・シーン(島岡奈央)
クロス・オーヴァーとポスト・ジャンルの彼方で(つやちゃん)

ヒップホップの「抵抗」ともうひとつのアメリカ──ケンドリック・ラマーやビヨンセ、ビリー・ウッズをめぐって(二木信)

レコード店が選ぶ2025年のベスト10
(ディスクユニオン、EBBTIDE RECORDS/HMV record shop 渋谷/JET SET KYOTO/Manhattan Records/VINYL DEALER)

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
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Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
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HMV
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紀伊國屋書店
MARUZEN JUNKUDO
e-hon
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有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

TechnoByobu - ele-king

 斬新なアイディアでもって誕生したテクノ屏風、その第2弾が登場することとなった。前回はYMOがモティーフとなっていたが、今回はなんと『攻殻機動隊』。2パターンの絵柄と、洋金箔/錫箔の2種の組み合わせ、計4種のラインナップとなっている。1月30日よりTOKYO NODEにて開催される『攻殻機動隊展』会場にて販売される予定だ。詳しくは下記より。

攻殻機動隊 × 日本の伝統工芸
「TB-02 : The Ghost in the Shell」全四種を
2026年1月30日にユーマより発売

ユーマ株式会社(代表:弘石 雅和、以下ユーマ)は、2023年より販売する「TechnoByobu」(テクノ屏風)の新シリーズとして、世界的ヒットを誇るSF作品『攻殻機動隊』(士郎正宗/講談社)のヴィジュアルを施した「TB-02 : The Ghost in the Shell」シリーズを2026年1月30日に発売すると発表しました。

「TechnoByobu」は、最先端のヴィジュアルを、500年以上の伝統を誇る箔工芸を用いた屏風として再構築する新世代のアートピースです。職人たちの手仕事により屏風上に色鮮やかに描かれた作品は注目を集め、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のアルバムアートワークをモチーフにした初作「TB-01:Electronic Fan Girl」は、大きな話題となりました。

第二弾となる「TB-02 : The Ghost in the Shell」シリーズでは、屏風という物理的なメディウム上に『攻殻機動隊』のサイバネティックなヴィジュアルを配した、過去と未来が交錯する新世代ヴィジュアルアートです。「TB-02 : The Ghost in the Shell」は、漫画原作扉絵のフチコマに搭乗する草薙素子をあしらったTB-02-KP(魂魄)と、95年アニメ映画版のワイヤーを接続した草薙素子のビジュアルを用いたTB-02-GT(義体)の2つの絵柄を、洋金箔、錫箔の2種の箔で表現した、計4種のラインナップです。

来春2026年1月30日よりTOKYO NODEにて開催の『攻殻機動隊展』会場にて販売予定です。
『攻殻機動隊展』(TOKYO NODE)https://www.tokyonode.jp/sp/exhibition-ghostintheshell/

【「TB-02 : The Ghost in the Shell」商品概要】

商品名:The Ghost in the Shell 魂魄(Konpaku)
商品番号 : TB-02-KP
アーティスト : 士郎 正宗

<商品イメージ> ※デザイン・仕様は変更となる可能性がございます。


©Shirow Masamune/KODANSHA

商品名:Ghost in the Shell 義体(Gitai)
商品番号 : TB-02-GT
アーティスト : 押井 守

<商品イメージ> ※デザイン・仕様は変更となる可能性がございます。


©1995 Shirow Masamune/KODANSHA・BANDAI VISUAL・MANGA ENTERTAINMENT. All Rights Reserved.

■商品概要(TB-02-KP、TB-02-GT共通)
価格:¥1,100,000(税込)
発売日:2026年1月30日
サイズ:五尺二曲(縦:約1500mm × 横:約1400mm)
重量:約4kg
材質:洋金箔(大箔散らし)紙 , 錫箔(平押し)紙 の2種
エディション:完全生産限定版(シリアルナンバー入り)

TechnoByobuとは?https://technobyobu.jp/)】

TechnoByobuの「Techno(テクノ)」は、「芸術・技術・技巧」を意味するギリシア語「テクネ(téchnē)」を語源とし、単なる実用的な技術を超えて、ものづくりに宿る知性と創造性、さらには電子音楽(テクノ)が示す未来的感性までを包み込む哲学的な概念です。こうした背景から、「テクノ」は現代の「テクノロジー」の語源であると同時に、文化的・芸術的な創造力を融合させる重層的な意味を備えています。

TechnoByobu は、この思想をもとに三つの要素で構成されています。

● 未来を映し出す「アートワーク」(芸術)
● 職人の手仕事が息づく日本の「伝統工芸」(技巧)
● テクノロジーで真贋を保証する「デジタル証明書」(技術)

これらが重なり合うことで、TechnoByobu は「テクノ」の多層性を映すアートピースとして結実しました。
今後もさらなる表現の可能性を追求していきます。

<第一弾商品>
2023年3月に発売した「TB-01 : Electronic Fan Girl」は、ルー・ビーチ氏による Yellow Magic Orchestra のアルバムアートワークをモチーフに洋金箔(真鍮箔)の美しい輝きで再構築したアート・ピースです。

TB-01 : Electronic Fan Girl
Number:TB-01
Title: Electronic Fan Girl
Licensed by ©2022 Lou Beach through ALFA Music, Inc.

※在庫僅少 
ご購入はこちらから https://technobyobu.jp/feature/starthere

【攻殻機動隊について】

『攻殻機動隊』は、1989年に漫画家・士郎正宗が講談社の「ヤングマガジン海賊版」で連載を開始したSF漫画です。電脳戦や格闘などで優れた能力を持つ全身義体(サイボーグ)の草薙素子。階級「少佐」の彼女をリーダーとした攻性の部隊「攻殻機動隊」が、高度複雑化する凶悪犯罪に立ち向かう姿を描いた物語です。リアルで精密かつサイバーパンクな表現により哲学的なテーマを探求し、人間とテクノロジーの融合および個人のアイデンティティについて深く考察しています。
また劇場アニメーション、テレビアニメーション、ゲームなどの異なるメディアで展開されたそれぞれの作品は原作の漫画とは異なる独自の物語や解釈が表現されています。

【歴清社について】

1905年に誕生した歴清社は、その創業年に、それまでにない技法=科学技術である洋金箔を使った箔押し紙を開発しました。洋金箔とは真鍮製の箔で、高価な本金箔(金を使用した箔)と同様に美しく、そして経年による変色も少ない画期的な発明でした。そんな歴清社の製品は、帝国ホテル、宮内庁、西本願寺はもとより、CHANEL、GUCCIなどの高級ファッションブランドまで、その製造方法により生み出された様々な箔製品のクオリティーは国内のみならず、世界で評価を得ています。

HP:https://rekiseisha.com/

【ユーマ株式会社(企画・製作・販売)】

国内外の音楽とアート(メディアアート、ファッション、アニメ、ゲーム、マンガ、ガジェット等)をUniteしていく新しいカタチのレコード会社です。クラブ / エレクトロニック・ミュージックからインターネット発ボーカロイド/アニメソング・プロデューサーまで、クオリティー・ミュージックをジャンルレスに展開しています。1970年代末に日本が世界に誇るイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の音楽を生み出したアルファレコードに勤務していた創業者が、YMOによるテクノ・ポップの先進性とユニークネスを現代に継承する会社として設立したのがユーマであり、その精神により企画されたのがTechnoByobuです。

会社名:ユーマ株式会社 U/M/A/A Inc. (United Music And Arts)
代表者:弘石 雅和
所在地:106-0047東京都港区南麻布1-3-2 ESPACE TETE (エスパステテ) 001
設立:2013年
公式サイト:https://www.umaa.net/

<お問い合わせ先> 
ユーマ株式会社 広報担当:info@technobyobu.jp

坂本慎太郎 - ele-king

 昨年の12月26日の恵比寿リキッドルームにおける坂本慎太郎のライヴに感動して、年末はその余韻だけで充分だった。しばらくほかの音楽を聴きたくなかったのだけれど、29日にDOMMUNEがあったのでそうはいなかった。宇川直宏のはからいで、文庫化された『ブラック・マシン・ミュージック』の番組をやってもらえることになったのだ。よって選盤のため、27日、28日と朝から晩まで丸々二日間、デトロイト・テクノという、おろかにも音楽が世界を変えると信じている名盤の数々を聴いてしまった以上、気持ちはもう、すっかり“ナイト・オブ・ジャガー” に染まってしまったかに思われた。
 が、しかしそれでも余韻は消えていなかったのである。29日の夜の11時、番組を終えたあと、その日五缶目のビールを飲みながら当日司会をしてくれた二木信にこう言った。「坂本慎太郎はすばらしいね!」 
 まあ、アルコールに支配されつつあった頭脳は、いい加減なことも言う。「いまの日本で最高のプロテスト・ミュージックだね!」。二木信は納得していたが、この場で却下したい。我ながら短絡的だった。

 じゃあ、なにが? なにがすばらしいんだろう? ぼくはあのとき、なにかを聴いて、なにかを観た。ゆらゆら帝国時代から数えれば、何回も見ているステージ上でギターを手に歌う坂本慎太郎だが、あの淡々としたライヴには、異様な迫力でせまってくるなにかがあったのだ。1曲目は意表を突くように“悲しみのない世界”、続いて“スーパーカルト誕生”から新曲の“麻痺”、それから“あなたの居場所がありますか?”〜“おじいさんへ”〜“あなたもロボットになれる”へ——わかるだろう、ここではあきらかに物語が語られている。そして、4人のメンバーによる最小限の音数の見事なアンサンブルから放出されるものが、フロアを完璧にロックした。
 音楽が社会問題を深く掘り下げることは、ぼくが10代のころの、サッチャー政権下の英国にはよくあった。あの頃は……音楽メディアのアルバム・レヴューすらもサッチャー批判からはじまる始末だった、と言ったのはサイモン・レイノルズだが、しかしそういうのではない。押しつけがましくなく、知識をひけらかしたりもせず、対等な立場で、共に体験している感覚が共有される瞬間、そう、それだ、あの夜のライヴはそういう響き合いなのだ。
 そのように開いた感覚において聴いた “ナマで踊ろう” のインパクトを、自分はしばらくのあいだ忘れないだろう。音楽に夢見ることを諦めさせないその曲と、そして生きることを肯定する“君はそう決めた” がライヴのクライマックスだった。どちらもファンのあいだで人気の曲だが、あのライヴでの出来は特別だった。曲のマジックは……、いや、あの2曲に限らずにだが、リスナーの内部から言葉を引っ張り出してしまうところにある。曲はひとに聴かれたときに初めて完成する。

 耳をつんざくようなサウンドの迫力、ノイズや歪み、フリーキーで激しいアクションといった「力」で押し切ることをいっさい止めたところから坂本慎太郎のソロ活動ははじまっている。ゆらゆら帝国というディオニュソス的なガレージ・ロック・バンドを経て、しかし髪に白いものが混じるようになっても青春を捨てることを拒んでしまうSo Youngな悲劇と違い、彼は自分の年齢を受け入れることでアポロン的なサウンドをモノにしている。たとえばこうだ。彼は言葉それ自体の響きを優先し、言葉のサウンド性をもって情景を広げることができる。『ヤッホー』は、その言葉がいくら滑稽に見えようとも、音として機能した途端に新鮮な面白さをもたらすことを実証している……どころの騒ぎではない、意味までもたせている。言葉そのものが持つ音の性質を意識するアプローチは、ブライアン・イーノの歌モノと共通している。イーノの場合は、意味があるようでないのだが、『ヤッホー』は違う。なにかが描かれてしまっている点において抜け目ないアルバムとなっているのだ。

 たとえば、“おじいさんへ”。60年代ソウル風の軽快なリズムではじまるこの曲は、坂本サウンドの根幹にあるブルース・ロック解釈のヴァリエーションで、言葉はサウンドとしても馴染んでいる。が、ロックのクリシェにはないその言葉遣いによる「歌」が、異化効果をともない、さらなる意味を促そうとする。しかも奥ゆかしく、できるだけ目立たないように、だ。
 この芸当は、哀愁たっぷりの次曲“あなたの居場所がありますか?”にも、いや、今回のアルバム全曲において発揮されている。言い方を変えれば、『ヤッホー』は灯台のようなアルバムではないということだ。外を明るくするというよりは、ひとりひとりの内なるところに光を灯している。そして、すべての彼のファンにはわかっていることをここで言わせてもらえば、その光が、この厳しい時代を生きているという現実を共有させながら、しかし同時に「希望」さえも感じさせるのだ。「なんとなく日々を/なんとなく生きてます/ああ僕は耐えられない/どこまでも澄み切った/どこまでも整った/どこまでも無邪気な正義」、これはバラード調の“正義”という曲だが、こんな皮肉めいた言葉の連なりがどうして「希望」と言えようか、だが、そう言える魔力がこの控えめな曲には潜んでいる。
 “正義”にしても“脳をまもろう”にしても、“麻痺”にしても“ゴーストタウン”にしても、これらがいまどき稀な社会批評としてのポップスだとしても、単純な話、曲として楽しめるという点でその完成度は高い。“時の向こうで”は坂本ポップスの真骨頂のような曲で、この甘いメロディが荒れた心を解きほぐすこともありうるだろう。“時計が動きだした”や“なぜわざわざ”もレトロな光沢を装ったポップ・ソングだが、サウンド面に限定して言うなら、“麻痺”や“ゴーストタウン”のファンク解釈にはとくに魅力を感じる。表題曲の“ヤッホー”ではさりげない音響工作を楽しめるが、この曲に隣接しているのが初期サーフ・ミュージックとアーサー・ラッセルの『ワールド・オブ・エコー』であるとしたらは、坂本作品の(コーネリアスにも共通するポストモダン的な)妙味を象徴的に集約していると言えるかもしれない。

 さて、これを書いている現在、まだ外は明るい。ぼくはお茶を飲んでいる。埃がつもり蜘蛛の巣がはっている我が脳みそも、まあまあクリアだと思われる状態だ。『ヤッホー』はこれまでのソロ作のなかで、もっとも滑稽で、いつもながら耳に優しく、だが、抵抗の声を上げているアルバムでもある。
 『ヤッホー』に出会えたことをうれしく思う。当然、ぼくは100%満足しているわけではない。しかし、こんなにもじわじわと「希望」を感じるアルバムを聴いたのは久しぶりのような気がする。「希望」という言葉をあんまり使うと頭の良い連中からうさんくさく思われるので、もっと使ってやろう。詩ではなく、詞であることの面白さ。ロックやポップスを通してまだこんな風に、こんなにも面白く、ともすれば社会批評的なメッセージを共有することが可能であることを証明している。これは音楽が長いものに巻かれるだけの消費物になり、文化的強度を失いつつある現在において、微笑ましいあらがいだ。もう、なにもかもが狂ってしまった時代の「希望」の音楽だ……あ、ごめん、気が付いたらビールを一缶空けていた。さあ、聴くぞ。


※別冊エレキング『坂本慎太郎の世界』のなかで一箇所誤りがありました。P155、ゆらゆら帝国「次の夜へ」のジャケットが紹介しているリミックス盤ではなく、オリジナル盤になっています。申し訳ございませんでした。

Reggae Bloodlines - ele-king

 『レゲエ・ブラッドラインズ』がレゲエの名著に選定される理由はいくつもあろうが、そのひとつには、これがおもに1976年という、まだ限られたジャーナリストしか現地取材をしていなかった時代の、ルーツ・レゲエ全盛期における広範囲にわたってのジャマイカ/レゲエ・レポートを含んでいたことがある。ことに、一流の写真家ピーター・サイモン(歌手のカーリー・サイモンの実弟)による大量の現地写真には、世界中のレゲエ・リスナーが目を最大限に開けて眺めたものだった。そこには、初めて見るトレンチタウンの風景、人びとの暮らし、貧し家々、富裕層、自然、そして何人ものミュージシャンやプロデューサー……等々が写されている。その記録は、現在地から見ると、さらに貴重さを増している。ぼくは家の本棚から一冊持ってきて、たったいま編集部コバヤシに見せながら説明していたところである。
 その『レゲエ・ブラッドラインズ』掲載の写真ほか計35点の写真の展示会が京都(小川珈琲)と東京(渋谷RARCO)で開催される。展示されるすべての写真はピーター・サイモンによる手焼きのモノ(当たり前だが、フィルム時代なのでフィルムから紙焼きしているのだ)。サイモン自身は2018年に永眠しているため、今回は世界最大のレゲエ・レコード会社、〈VP RECORDS〉が提供している。ちなみに入場は無料。こんな機会は滅多にないので、レゲエに詳しくなくたって全然かまわない。特別、気合いを入れる必要もない。まずはぜひ、足を伸ばして見て欲しい。なお、会場では記念グッズなどの販売もあるとのこと。詳しくは特設サイトをご覧ください。

■京都
2026年2月6日(金) ~ 2月15日(日)
小川珈琲 堺町錦店 2Fギャラリースペース
京都府京都市中京区堺町通錦小路上る菊屋町519-1
https://www.pbox-shibuya.com/

■東京
2026年2月20日(金) ~ 2月23日(月・祝)
渋谷PARCO 10F PBOX
東京都渋谷区宇田川町15-1
https://www.pbox-shibuya.com/

 さて、ここでひとつ面白い話をしよう。写真鑑賞の手助けになるかもしれない。
 『レゲエ・ブラッドラインズ』の著者スティーヴン・デイヴィスと写真家ピーター・サイモンが初めてジャマイカを取材した1976年のおそらくは前半、ほかにも数人のジャーナリストが同行している。ボブ・マーレー&ザ・ウェイラーズは、英国ではその人気に火が付いていたが、米国ではまだそうではなかったので、アイランド・レコードがすべて経費持ちの、アメリカから複数のジャーナリストを招いての取材旅行を実施したのである。そのなかのひとりには、あのレスター・バングスもいた。
 最初に言っておくが、今日では、ここ日本でもなかば神格化されているデトロイトのロック・ライターをぼくは全面的に肯定はしない(こやつは「DISCO SUCKS」のTシャツを着たひとりである)。が、『レゲエ・ブラッドライン』ご一行と同じ時間を共有したバングスのレポートは、ぼくのなかではもっとも秀逸で、深く共感を覚えるレゲエ・エッセイである。
 それは次の一文に集約されている。
 「何人もが全額経費持ちでジャマイカに飛ばされ、現地の人びとを観察し、戻って記事を書き、中産階級のアメリカの白人の子供たちにアルバムを売る手助けをする。その白人の子供たちは、黒人で、極貧で、飢えていて、文盲で、医者に行ったことがないから病名もわからないような病気にかかっていて、人生に他に選択肢がないから一日中ガンジャを吸い、ボンゴを叩いていることを“ロマンチックだ”と思っているのだ。私は知っている、私自身がその子供たちのひとりであり、その矛盾に囚われているからだ」

 バングスのそのエッセイ「バビロンの無垢なる者たち——ボブ・マーリーと数千のキャストが登場するジャマイカ探索記」(初出は『CREEM』1976年6月/7月号、『Mainlines, Blood Feasts, and Bad Taste』に収録)の一部には、『レゲエ・ブラッドラインズ』にも記されているボブ・マーリーのインタヴューが描かれている。バングスは、同書の著者ふたりと同じ車に乗って同じようにボブの自宅に行って共同で取材している。が、その描き方は『レゲエ・ブラッドライン』とは微妙に異なっている。さんざん待たされたあげくに、裸足で記者団の前に現れたボブが、彼の愛車=BMWに寄りかかり、ガンジャを吸いながら質問に答える様子を、バングスのほうがより露骨に生々しく、同書よりも詳述している。
 もっとも面白い箇所は、こうだ。同行したあるジャーナリストがなかば苛立ち、攻めの姿勢を見せて、「この車(BMW)は、バビロンを象徴していると感じませんか?」とボブに訊く。するとボブは心底驚いた様子でこう答える。「車が? システムこそがバビロンだ。システムは死を象徴し、俺たちはそのシステムのなかに住んでいる——」。その答えに対して彼は、「私が知りたいのは、あんな(ジャマイカの貧しい)状況がありながら、どうしてこれを持つことができるのかという……」とやり返す。「これを持っているわけじゃないんだ、マン」とボブは簡潔に答える。そこでバングスは、「では、この車はあなただけでなく、あなたの兄弟姉妹全員のものだということですね?」と突っ込む。ボブは言う。「道のもの(Belongs road)だよ、マン!」
 ボブ・マーリーという男が、グレッグ・テイトが言うところのウィットの持ち主であることがわかるだろう。ウィットとは、権威をかわす/権威に反論するために黒人奴隷たちが磨いたある種の知恵で、それはブルースマンからPファンク、ラップ、あるいは文学など広範にわたって応用されている。

 まあ、それはそうと、ぼくが紹介したいのはそこではなかった。「友人を失いかねないほどの情熱でレゲエを愛する」人間だと自己説明し、なかでもバーニング・スピアを敬愛したバングスにとって、初のジャマイカ訪問でもっとも鮮烈なインパクトを食らったのは、当時のジャマイカにおけるその貧しさ、あるいは、ラスタマンたちの切ない矛盾(バビロンが崩壊するのなら、なぜレコード会社と契約する?)だった。
 当時のジャマイカは「人口の2%が国全体の富の80%を握り、その残りが世界でも最悪の貧困に喘いでいる国」である。こうした予備知識があったのに拘わらず、いざ行ってみると現実の光景は相当なものだったのだろう。トレンチタウンは信じられないほど不衛生な小屋が並ぶスラムで、多くの人が文盲(すなわち教育の欠如)、そして、技術も教育もほとんどないドレッド頭が何千人も押し寄せることを歓迎するはずがないというのに、エチオピアを夢見ているということ。「1954年頃のアメリカの労働者階級の家」でしかなかった、当時の二大プロデューサーたるキング・タビーとリー・ペリーの自宅。「100年前のアメリカ南部の小作農の小屋」と大差なかったスラム街の家々——『レゲエ・ブラッドラインズ』のふたりとラス・マイケル&ザ・サンズ・オブ・ネガスの神聖なる儀式(グラウネーション)に行けば(バングスに記述によれば、儀式にもっとも深く傾倒したのはピーター・サイモン)、その会場にはトイレなどあろうはずがないという現実——ほかにも濃密なエピソードは多々あるのだが、ぼくが共感を覚えたのは、バングス言うところの「白人が黒人のなかに没入しようとするときの、ほとんど卑猥なまでのアイロニー」が彼のなかで増幅していることを隠さなかったところである。
 このアイロニーは、かつてのレゲエ・シーンが援護した、社会主義を標榜する当時のマイケル・マンリー首相がキューバのフィデル・カストロとの親交を厚くすることで、取り返しのつかない政治的アイロニーへと転じる。独裁色を露わとしたカストロ政権下に対するキューバ庶民の反共感情はジャマイカ庶民にも伝播し、社会主義への憎悪は、『レゲエ・ブラッドラインズ』の写真にもはっきりと写されている。そうした庶民の反共感情が1980年代のジャマイカにおける親米政策への転回にも繋がり、結果、“表向きには”経済回復を果たすことになる。その昔、ラスタの常套句であった「I & I」とは「you」という他者が存在しないラディカルな共同感覚だと解釈されていたものだが、しかし1980年代以降のジャマイカにおいては、冷笑家たちの「それって自分しかいないってことじゃねぇ」という悪い冗談のほうがリアルになった。
 
 そう考えると、『レゲエ・ブラッドラインズ』のなかでピーター・サイモンが記録した1976年のルーツ全盛期のジャマイカは、何十もの意味で貴重だ。そういう時代があり、そしてあらゆる矛盾と混沌、暴力(周知のように1976年12月にボブは銃撃される)のなかから宝石のような音楽の数々が生まれていった。ぼくたちにできるのは、ただ見て、そして聴く、それだけである。(野田努)

IO - ele-king

 東京のラッパー、IOのファースト・アルバム『Soul Long』から早10年。これを記念し、同作の「10th ANNIVERSARY EDITION」がリリースされることになった。本人ディレクションの180g重量盤で、発売は2月14日。なお、前日には代官山UNITにてリリース・パーティも開催されます。詳しくは下記より。

IO
2月14日に1st ALBUM 10周年を記念した
『Soul Long (10th ANNIVERSARY EDITION)』 (2LP) 発売決定
前日には代官山UNITでのリリースパーティー開催

東京のRapper: IOが1st ALBUM「Soul Long」の発売10周年を記念した『Soul Long (10th ANNIVERSARY EDITION)』 (2LP) を2月14日に発売決定。
本人ディレクションによる新装版となり、180g重量盤/2枚組見開きジャケット仕様での完全限定プレスとなる。
また前日2月13日(金) 23時より、代官山UNITにてリリースを記念したDJパーティー「SOUL LONG 10thAnniversary Party」を開催することが合わせて発表となった。

『Soul Long (10th ANNIVERSARY EDITION)』 (2LP)

予約URL:https://anywherestore.p-vine.jp/products/plp-8297-8
発売日:2026年2月14日(土)

収録内容:
◼️Side A
1. Check My Ledge feat. YUSHI Produced by MASS-HOLE
2. Play Like 80's Produced by Neetz
3. Tap Four Produced by KID FRESINO
◼️Side B
1. So Produced by DJ WATARAI
2. Here I Am Produced by OMSB
3. 119measures feat. KANDYTOWN Produced by Gradis Nice
◼️Side C
1. Plush Safe He Think Produced by Mr. Drunk
2. Soul Long (skit) Produced by YUSHI
3. Soul Long feat. BOO Produced by MURO
◼️Side D
1. City Never Sleep Produced by JASHWON
2. Tap Four (Remix) feat. KID FRESINO Produced by KID FRESINO
3. Dig 2 Me (Remix) feat. Big Santa Classic & MUD Produced by JASHWON
価格:5,940円(税抜価格:5,400円)
仕様:180グラム重量盤・2枚組見開きジャケット仕様

「Soul Long 10th Anniversary Party」
開催日時:2月13日(金) 23時OPEN
会場:代官山UNIT
出演DJ:
MURO
G.O.K
MASATO
Ryohu
Minnesotah
KORK
チケット代:¥2,500 (with 1drink)

【PROFILE】
東京都出身。2023 年 3 月日本武道館での単独公演を以て終演した HIPHOP クルー:KANDYTOWN に所属する Rapper。
Art /Film Director, Model 等としても活動。

2016年: 1st ALBUM 『Soul Long』
2017年: 2nd ALBUM 『Mood Blue』
2019年: 3rd ALBUM 『Playerʼs Ballad.』
2023年: 4th ALBUM 『four』
2025年: 5th ALBUM 『JUST ALBUM』 ・ EP 『JUST ALBUM RELOADED』

【SNS】
◼️IO Instagram
◼️VERETTA SOUNDS

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