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interview with Daphni - ele-king


Daphni - Jiaolong
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 『スイム』で感心したことは、それがダンス・ミュージックであること以上にエクスペリメンタル・ミュージックとしての面白味があったことだ。
 ジミ・ヘンドリックスはその昔、水中で音がどのように響くのかに興味をふくらませたあまりアンプごとバケツのなかに沈めたというが、水中の音体験を空想して作ったという『スイム』は、録音も凝っていて、身軽で心地よい体験だった。僭越ながら言わしてもらうと僕は水泳も好きで、昨年はwhy sheep?と50メートル自由形で勝負して勝った(まあ、どちらも遅いということでもある)。『スイム』は真剣勝負というよりも水遊びに近い。アーサー・ラッセルの歴史的名曲"レッツ・ゴー・スウィミング"の現代版である。
 カリブー名義で昨年発表したその『スイム』は、2011年、ほぼすべてのメディアから賛辞された。カリブーは、そして、リミキサーとしてもレディオヘッド、ジュニア・ボーイズ、それからジャイルス・ピーターソンにまで引っ張られている。かつてマニトバ名義でIDMもしくはサイケデリック・ロックにアプローチしていたダン・スナイスにとって、ダンスを意識した『スイム』は出世作となった。
 『スイム』は、彼に取材したときに聞いた話では、ロンドンのクラブ・カルチャーの活気に影響を受けて生まれている。セオ・パリッシュやポスト・ダブステップの面白さにうながされて、彼(ダン・スナイス)と盟友フォー・テット(キエラン・ヘブデン)はダンス・ミュージックにアプローチした。
 『スイム』が徹底徹尾のダンスだったわけではない。彼らしいIDM的なアプローチがところどころにあった。そこへいくと今回彼がダフニ名義でリリースするアルバム『ジャオロン』は、完全なダンス・ミュージックである。

夜遊びに出かける前のワクワクした感覚さ。そうやって作った曲をクラブでためしにプレイしてみたあとは、それ以上曲をいじることはしなかった。その時点でできたものを気に入ればそのままキープして、そうじゃなければ曲を消してしまったんだ。

『ジャオロン』は、あなたがダフニ名義で発表した作品やあなた自身のレーベル〈ジャオロン〉から発売されたシングルの編集盤+新曲ですが、エメラルズのダフニ・リミックスをなぜ入れなかったんですか? 正直入れてほしかったです! 

ダン:ありがとう、リミックスを気に入ってくれてうれしいよ。アルバムに入れなかった理由は、あれは実際エメラルズの曲だし、それにリミックスの曲はすでにデジタル・フォーマットで手に入るからさ。アルバムには1曲だけリミックスとして収録されている曲("ネ・ノヤ")があるけど、あれはリミックスとして制作したわけじゃなくて、コス・ベル・ザムのトラックをサンプリングした僕自身の曲として作ったんだ。でもコス・ベル・ザムのトラックの権利上の理由で、サンプルの使用権をクリアするためにはリミックスとして表示しなきゃいけなかった。

東京には〈テキスト〉や〈ジャオロン〉の固定ファンがいるので、わりとすぐに売り切れてしまうんですよ。ところで、通して聴いていて、あなたが楽しんでダンス・トラックを作っているのが伝わってくるようなCDになったと思います。まずはダフニ名義での活動と〈ジャオロン〉レーベルのポリシーみたいなものを教えてください。

ダン:僕にとってキーとなっているのは、どの曲もすばやく、そして僕自身がDJをするときに使うための新しい曲を作るっていう具体的な目的のためってことかな。曲の多くは、金曜か土曜の午後、DJのために飛行機でヨーロッパのどこかへ行く前に作っていたから、短い時間でいっきに完成させなきゃいけなかった。いまでも聴き返すと、ちょっとした間違いがあっても戻ってやり直したりせずに、急いでいっきに曲を書いているときの熱狂的なエネルギーが感じられるよ。
 曲がそういうエネルギーをうまくとらえてくれているといいなと思っているんだ、夜遊びに出かける前のワクワクした感覚さ。そうやって作った曲をクラブでためしにプレイしてみたあとは、それ以上曲をいじることはしなかった。その時点でできたものを気に入ればそのままキープして、そうじゃなければ曲を消してしまったんだ。

"パリス"みたいな曲には、ちょっとかわいらしい感覚が打ち出されていますよね。ある種のかわいらしさはこのコンピレーション全体にも言える感覚ですが、あなた自身は意識されましたか?

ダン:いや、意識してそうなったわけじゃないよ。でもまちがいなく、カリブーのレコードよりも楽しい感じのする要素が多くなっていると思う。あまり高尚なコンセプトにこだわったりしたものを作るよりも、 人びとが楽しんでくれるような要素を残したものを作りたかったんだ。

音数が少なくスペースがあって、80年代のシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノみたいなファンキーな感覚もありつつ、あなたらしいIDM的なアプローチある、とてもユニークなトラック集だと思いました。たとえば"スプリングス"のような曲もユーモラスでお茶目な曲ですが、同時に即興的で、ライヴ感のある曲です。あなたのダンス・トラックにおいて、即興性は高いんでしょうか? 

ダン:かなりあるね。曲の多くは、サンプリングやプログラミングされた音に対応してモジュラー・シンセサイザーを僕が演奏するっていう形で作ったんだ。"スプリングス"はそのいい例さ。トラックを流しながら、シンセサイザーのつまみをいじって作った。だからベース・ドラムのピッチが上がったり下がったりしているんだよ。その予測不能さがクラブで作り出すエキサイティングな感覚が好きだね。

即興性について訊いておいてこんなこと言うのもなんですが、"ライツ"みたいな曲を聴くと、本当にリズミックな感覚を楽しんでいるなと思います。注意深く聴いていくと、曲の展開に関しては、なにげにかなり工夫されていると思いました。あなたがダンス・トラックを作るさい、どんなところに力を注いでるんでしょうか?

ダン:そういうもの(展開やアレンジ)の重要性は低いよ。カリブーの曲を作っているときにはそういうことを長い時間をかけて考えるけどね。"ライツ"の展開がうまくできていると思ってくれてうれしいけど、あれもすごくすばやくジャムをして作ったんだ。とくに途中のアシッドっぽい部分とかにそれが表れているんじゃないかな。

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グローバルな音楽の再発見が進んでいるいまの状態にワクワクしているよ。僕自身レコードを収集していて、こういうオリジナルのレコードを何年も買い続けているけど、リイシューされないかぎり聴く機会のない音楽もたくさんある。


Daphni - Jiaolong
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カリブーの『スイム』以来、急速にダンス・ミュージックにアプローチしていますね。リミキサーとしてもずいぶん活躍しています。あなたにとってダンス・ミュージックのどこが魅力なんでしょうか? 

ダン:ロンドンに住んでいるんだけど、ここではいまは明らかにバンドよりダンス・ミュージックに勢いがあるから、僕自身もそういう方向にエネルギーが向くのは自然なことだと思う。それに僕は飽きっぽいから、『アンドラ』みたいなもっとサイケ・ロックの影響を受けたアルバムを作ったあとには、なにか違ったものを作る必要があったんだ。じつは僕が10代のときに音楽をはじめたのはダンス・ミュージックを通してだったから、僕にとって新しいものってわけじゃないんだ。ただ、自然にまたそこに戻ってきたっていうだけさ。

コス・ベル・ザムの"ネ・ノヤ"のようなアフリカ音楽との出会いと、あなたにとってのこうした音楽の魅力を教えてください。ここ数年、UKやヨーロッパではアフリカ音楽の再発や発掘が拡大していますが、あなた自身もこうした現代のワールド・ミュージックの動きに興味を持っているんですか?

ダン:そうだね、グローバルな音楽の再発見が進んでいるいまの状態にワクワクしているよ。僕自身レコードを収集していて、こういうオリジナルのレコードを何年も買い続けているけど、リイシューされないかぎり聴く機会のない音楽もたくさんある。たとえばコス・ベル・ザムのトラックはアナログのアフリカン・ミュージックのコンピレーションで聴いたんだけど、(コンピレーションを制作した)彼らがバンドに連絡をとってリイシューする権利を得たってことは、僕が自分の曲でサンプルを使うときにも、バンドと連絡を取ってちゃんともとの曲のミュージシャンにもお金が渡るようにするのが容易だってことでもあった。最近はすごく多様で、しかもまったく知られていないような音楽までリイシューされているのにはびっくりするよ。音楽ファンにとってはこの上ない贅沢だね。

ライク・ア・ティムやフューチャーみたいな昔のアシッド・ハウス、初期の〈リフレックス〉なんかを参照することはありましたか?

ダン:じつをいえば、僕の最初のレコードやEP(『ギバー』や『イフ・アスホールズ・クド・フライ・ディス・プレイス・ウド・ビー・アン・エアポート』など)の頃は、自分ではダンス・ミュージックを作っているつもりだったんだ。その頃僕はUKガラージやトッド・エドワーズ、エイフェックス・ツイン、ダフト・パンクなんかをよく聴いていて、そういう音楽と、大好きなスピリチュアル・ジャズの混ざったような音楽を作りたかったんだけど、最終的にそのふたつの中間みたいなところで落ちついたと思う。『スイム』がダンスの世界とインディの世界の中間みたいになったのとどこか似ているよ。

もともとはクラブで汗かいて踊っていたようなタイプじゃないですよね? 

ダン:そういうタイプだったし、いまでもいい音楽がかかっていればそうするよ!

うぉ。あなたが最初に夢中になった踊ったDJって誰でしたか?

ダン:僕にとって最初のDJで、僕にDJのやり方を教えてくれたのはクーシク(Koushik)っていう僕のふるい友人だよ。彼は何年か前に〈ストーンズ・スロー〉からいくつかリリースもしている。いまでも彼は僕がいままで見たなかで最高のDJのひとりだし、誰よりも音楽をよく知っているよ。すばらしい人間さ、彼の音楽がもっと知られていたら、彼がもっといろいろリリースしていたらと願うね。

あなたにとってのオールタイム・フェイヴァリットのダンス・トラックをいくつか挙げてください。

ダン:たくさんありすぎて、選ぶのが難しいな。

いつから、どんな経緯でDJプレイが楽しくなっていったのでしょうか? 多くのダンスのプロデューサーはDJからはじまっていますが、あなたは違った出自を持っています。

ダン:高校のときにDJのまねごとみたいなことをしていて、まだ自分の音楽をリリースしたりするようになる前、僕はトロントで〈ソーシャル・ワーク〉って名前のクラブナイトをやっていたんだ。じつはフォー・テットのキエランと本当に知り合ったのもそこでだよ。いちどイギリスのフェスティヴァルで会ったことがあったけど、ちゃんと知り合って友だちになったのは彼を僕らのクラブナイトでDJしてくれるよう招待したときさ。僕がジャズ・レコードとかをかけていたら、彼がやってきてビースティー・ボーイズやアーマンド・ヴァン・ヘルデンなんかをプレイしはじめたんだ。すばらしいサプライズだったね!

ちなみにDJはどのくらいの頻度でやっているのですか?

ダン:いまはほぼ毎週末だよ。

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高校のときにDJのまねごとみたいなことをしていて、まだ自分の音楽をリリースしたりするようになる前、僕はトロントで〈ソーシャル・ワーク〉って名前のクラブナイトをやっていたんだ。じつはフォー・テットと本当に知り合ったのもそこでだよ。


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ここ数年で、mp3にうんざりした連中がまたアナログ盤にこだわりを見せていますが、〈ジャオロン〉がアナログ盤にこだわる理由を教えてください。

ダン:僕はちょっと矛盾しているんだ。レコード収集家としてレコードという媒体や、それが作り出すデジタル・ファイルにはない所有感が好きなんだけど、レコードのほうが音がいいっていう意見にはまったく賛成できないね。すごく高価なハイファイ・システムでなら少なくとも同じくらいいい音質になり得ることはあるけど、普通のクラブや家で聴くときの環境ならデジタルの24ビット・ファイルのほうがはるかにいい音がするよ。サーフェス・ノイズやクラブで発生しやすいフィードバック・ノイズ、平均的なカートリッジの性能の問題による信号の歪みといった、懐古主義者が忘れがちなごくあたりまえな理由からさ。
 だから、今回も自分の音楽がデジタルやCDでもリリースされてうれしいよ。どうしてもアナログ媒体では届かない層の人たちにも聴いてもらえるからね。

DJでもターンテーブルを使うんですか?

ダン:いや、先に言ったような理由から、CDJとオーディオ・ファイルを使っているよ。

あなたやフォー・テットのような人が作ったダンス・トラックで踊るのとスクリレックスのダンス・トラックで踊るのとでは、同じダンスという経験においては等価でしょうか? それとも違いがあると思いますか? あるとしたらどんな違いでしょうか?

ダン:たぶん違いがあるとすれば、踊っている人たちの平均年齢かな......いや、でもそれも必ずしも違わないな、僕はいつも僕のライヴやDJに来てくれる人たちの年齢の若さに驚いているんだ。もちろんなかには僕みたいに年金生活者みたいな年齢の人たちもいるけど、僕が思うほど多くはないね。

クラブ・ミュージックには音楽的におもしろいものもありますが、実際のクラバーのなかには、もっとメトロノーミックなミニマルでも、あるいは馬鹿みたいなレイヴでも、楽しいひと晩を過ごせるなら何でもいいって人が少なくないと思いますが、そういうなかであなたの作るクラブ・ミュージックには、シーンに対する批評的な態度が含まれていると思いますか? それとも純粋な楽しみ、快楽として作ったものなのでしょうか?

ダン:音楽のどのジャンルにもつまらない音楽は存在しているし、むしろそれが大多数だと思うよ。だからつまらないダンス・ミュージックの存在は僕にとっては驚きでもないし興味もないね。興味があるのはその例外さ、新しくておもしろいレコードだよ。それが僕が音楽を作っている理由でもあるんだ、自分自身のためや、他の人たちとシェアするためにそういうおもしろい音楽を作ろうとしているんだ。

マシュー・ハーバートがやっていることについてはどう思いますか?

ダン:彼のことは好きだよ、ただ僕があまりコンセプトを高く持っていないのに対して、彼はとてもはっきりしたコンセプトを持っているよね。

エメラルズのリミックスは、アメリカのアンダーグラウンドのシーンとロンドンのクラブ・シーンが出会った新しい試みでしたが、他にこうした企画は控えているのでしょうか? あるいはいま〈ジャオロン〉から出してみたいアーティストがいたら教えてください。

ダン:何も計画はしていないよ。僕はエメラルズとツアーをしたことがあるから、彼らとは近い友人なんだ。彼らはすばらしい人間だし、エクスペリメンタル・ミュージックについてすごくよく知っている。僕らはカナダを横断するリムジンの後部座席で、 ニック・レイスヴィク(Nic Raicevik)やモートン・スボトニックについて語り合ったりしたね。



〈ジャオロン〉からは、トロ・イ・モワの別プロジェクトも出してますが、クラブ・シーン以外へのアプローチにも気を遣っているんですか?

ダン:いや、彼もいっしょにツアーした近い友人のひとりなんだ。彼がそのトラックを送ってきて、僕がそれを気に入ったからリリースすることにした、ってだけのシンプルなことさ。

このダフニ名義での活動はまだ続きそうですが、カリブーのほうは逆に言えば、ダンスにとらわれない作品になっていくということでしょうか?

ダン:必ずしもそうとは言えないな、次のカリブーのレコードがどんなサウンドになるかはまだはっきり分からないけど、恐らく『スイム』の後に続くようなものになると思うよ。

Heavrnly Beat - ele-king

このヘヴンリー・ビートにはじまり、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのドラマー、カート・フェルドマンによるアイス・クワイヤーのデビュー作がつづき、イェンス・レクマンが締めるかたちで、夏季の清涼ポップス・リリース月間は終了するようだ。彼らにしてみれば、いまシーンの趨勢がエイティーズからナインティーズへと移りつつあるとか、その機運のなかでR&Bに新しい求心力が宿っているとか、そうしたことはおそらく些事である。〈サラ〉や〈チェリー・レッド〉の時代から、幾多のギター・ポップ・バンドがつぎ足しつぎ足しやってきた超秘伝のダシに浸かり、またレクマンの背景ともなる北欧ポップの系譜――エール・フランスタフ・アライアンスらの活動に顕著なように、エレクトロニックな切り口を持ったアクトも多い――とも重なりながら、ときにいぶかしまずにいられないほどきらきらとした歌と旋律を振りまいている。ファンもずっと存在するし、音楽的にもまったくまよいがない。これはこれで幸福な音楽のありかたかもしれない。ただ、この三者はそれぞれに意趣があり、突出したセンスに恵まれていることにはまちがいない。

 ともあれ、ヘヴンリー・ビートも無邪気にネオアコ的な残像を謳歌し消費するポップ・アクトのひとりである。ビーチ・フォッシルズのツアー・メンバーとしても知られるジョン・ペーニャのソロ・ユニット。バンドのブレイク後にはじめたのかと思えば、どうやらバンド加入前からの名義であるようだ。中心メンバーであるダスティンとはマイスペースを通じて知りあっている。ビーチ・フォッシルズは〈キャプチャード・トラックス〉など2010年前後を盛り上げたリヴァービーなローファイ・ポップを象徴するバンドのひとつで、シューゲイザーの名盤発掘に余念のない同レーベルの性格から考えても、ペインズとは共通するところが大きい。80年代英国のインディ・バンドを愛好し、そのフォームを真似る彼らにいつまでも「リヴァイヴァリスト」の名が冠されなかったのは、おそるべきことにこの種の音をいまだ死んだとは認定していない人びとの存在の多さをほのめかすものなのかもしれない。

 レイク・ハートビートに近いだろうか。"メサイア"ではアコースティック・ギターがコード感を出しながらもパーカッシヴに作用していてとても心地よい。ハイ・トーンの甘やかなヴォーカルをうまく運んでくる。こうしたタイトなリズム感覚においては彼はとくに優れている。この曲や"トレランス"その他で聴かれるシンプルなベースの音にはいわく言い難い軽妙さがあり、独立したステップを踏むかのようで魅惑的だ。全編にわたって施されたストリングスのアレンジは過剰なほどに甘く装飾的なのだが、そうしたものをうまく減じている。すべてひとりで制作しているというが、セッションではなく内部完結する制作環境が、彼の陶酔的できらきらとした世界を削ぐことなく放出するために重要なのだろう。思えば比較したふたりの音楽についても同じことが言えるかもしれない。

 シックなジャケットは、彼の作品をすべて手がけている友人によるもので、今回のアート・ワークにはもっとも時間がかけられているという。つねにデザイン性が勝るこうしたヴィジュアルも、先述のベースやリズムに見られるような一種の抑制力でもって、砂糖のようなポップ・ソングを最大限スタイリッシュに仕立てているように感じられる。粒ぞろいの作品である。夏のフィーリングを感じるのは筆者の偏見で、ものさびしい季節をこそ彩ってくれるアルバムかもしれない。

NORIKIYO - ele-king

文化的混交、音楽に国境はない 文:二木 信

 またもや中国や韓国との領土問題がマス・メディアを騒がせているようだが、いったいどこの誰が喧嘩の火種をばらまいて、争っているのだろうか。せめて、一部の好戦的な人たちの争いを一般化しないで欲しいものだ。
 神奈川・相模のヒップホップ・ポッセ、SD・ジャンクスタのラッパー、ノリキヨが先日YouTubeにアップした「Hello Hello ~どうしたいの?~」は、2010年末にハイイロ・デ・ロッシとタクマ・ザ・グレイトが発表した「WE'RE THE SAME ASIAN」と同じく、多文化主義と平和主義のコンセプトで、好戦的なレイシズムや偏狭なナショナリズムに揺さぶりをかけている。この曲がユニークなのは、ノリキヨがジャックしているのが、韓国の人気グループ、ビッグバンのリーダーらの別プロジェクトGD&TOPの「ポギガヨ (Knock Out)」のトラック(プロデュースはディプロ!)で、さらにこの手の政治的な楽曲にありがちな堅苦しさがないということだ。要はコミカルで、遊び心があって、ノリがいいのだ。彼が、デビュー・アルバム『EXIT』(07年)の"Do My Thing"で、「仲間は日本人/ラテンにコリアン」とラップしていたのを思い出す。「Hello Hello ~どうしたいの?~」でも、ノリキヨの、町のあんちゃん的な人懐っこいキャラクターがいい味を出している。
 私たちはいま、シミ・ラボのようなマルチ・エスニックなグループの登場を目の当たりにしているし、映画『サウダーヂ』に出演したブラジル人ラッパーがスティルイチミヤとの出会いから、ポルトガル語だけでなく、日本語のラップに挑戦しているという話も伝え聞く。「音楽に国境はない」という物言いは、ある意味では奇麗事だけれど、文化的混交という観点から言えば、たしかに音楽に国境はない。
 ともあれ、このタイミングで、このような曲を素早く発表したノリキヨにリスペクト!!!

文:二木 信


物騒な世界への異議申し立て 文:野田 努

 昔、石原慎太郎が「第三国人」という言葉を使ってマスコミで叩かれたものだが、歓楽街育ちの僕には、この呼称は、善し悪しはともかく、馴染みのある言葉だった。敗戦直後のGHQ占領下において、屈強な「第三国人」はある意味ルードでいられた時期がある。たとえば、食い逃げされても警察は助けてくれないから自分で追いかけるしかない。そんな風な、言うなればラフな多文化的な状況にあったと年配の人たちから聞いている。
 戦前生まれの人間は、それまでの日韓の歴史を日常的な感覚レヴェルで知っているもので、古くは豊臣秀吉の朝鮮征伐、虎退治で知られる加藤清正、明治における西郷隆盛らの征韓論などなど、日本が朝鮮にちょっかいを出してきた歴史を、そして、労働力として彼らが日本に大挙してやって来たことも記憶している。敗戦直後の彼らのルードさも、いままでさんざんな目に遭ってきた歴史から来ていることを知っているので、まあしゃあないかと思えるし、韓国にとって領土問題がたんなる領土(漁業)以上の意味を持ってしまうことも感覚的にわかっている。そう考えると、ノリキヨがこの曲で使っている「ひとつの島」という言葉も微妙と言えば微妙だが、彼が切実に訴えたいことが平和であることは伝わってくる。彼はただ真っ当なことを言っているだけなのだ。

 曲のトラックでは、いまではすっかり国際的な音楽シーンで名が通っているK-POPからサンプリング・ソースを持ってきている。ノリキヨのこのアイデアは、音楽的な軽快さをもって、彼の理想主義的なヴィジョン(音楽によって人種や歴史的しがらみを超える)における友愛さを際立たせている。曲の主題自体はリスキーだし、カットアップされる映像もきわどいと言えばきわどいが、最終的にこの勇敢なラッパーは、物騒な国家主義に異議申し立てをしながら友好を呼びかけている。
 人種差別や国家主義の問題に関して欧米の音楽文化は、臭いものに蓋をするのではなく、ひとつには、激しく罵り合うことをむしろ笑いのレヴェルにまで持ち上げることで超越しているが(あるいは『NME』がダフト・パンクを表紙にするときにフランス人の蔑称であるカエルの格好をさせるとか、ドイツ人の蔑称であるクラウトを褒め言葉へと反転させるとか)、冗談が通じない日本でそういう国家主義をネタにした洒落が通じるかどうか......。ノリキヨが望む社会が来るのにはまだまだ時間がかかるかもしれないけれど、この曲を聴いて、歴史を紐解くのも無駄ではないでしょう。尖閣諸島はまた別の文脈で面倒くさそうだし。

文:野田 努

Earth / Mamiffer Japan tour - ele-king

 いま猛烈に疲れている。というのもこのドシャ振りの雨の中、マミファーやアースの連中と一日中外を徘徊していたからだ。
 シアトルの連中は雨を何とも思っていないように見える。というかむしろ好きなんじゃないかというくらいのはしゃぎようだ。
 僕と言えばヒキコモリ・イン・ダ・ハウスを具現化したような毎日。
 しかも先日、LAでの放浪を終えたばかり。まばゆいばかりの太陽と輝く砂塵、七色の煙にまみれ弛緩しきった体にこの湿度と雨、人波。この程度の些細な物事につまづいているゆえ今後の社会復帰が思いやられる。
 という僕がいかに僕ちゃんなのかという話ではなく、これはシアトル→LA→東京をドリフトする怠惰なライヴ・レポである。

 オールド・マン・グルーム(Old Man Gloom)、その名を聞いて震え上がらぬ者はいない。ex-アイシス/マミファーのアーロン・ターナー、ケイヴ・イン/ゾゾブラのケイラブ・スコフィールド、コンヴァージ/ドゥームライダーズのネイト・ニュートン、フォレンシクス/ゾゾブラのサントス・モンターノという泣く子も黙る00年初頭のボストン・エクストリーム・ミュージック・オールスター・バンドだ。
そのOMGが10年振りにライヴをやると聞き、僕は少量の尿を漏らした。行かねば...殺られる...彼らの西海岸ツアー初日を飾るこのエコー(Echo)は個人的にも思い入れのあるハコだ。サンセット通りに面した2階がエコー、グランデール通りに面した1階がエコー・プレックス(Echo Plex)となっており、アーロンが社長を務める〈Hydrahead Records〉でバイトをしていた際、LAで初めて借りた部屋から徒歩3分というのも相まって当時様々なバンドをここで見た。「dublab meets dubclub」等このふたつのフロアを存分にいかしたイベントも魅力的だ。
 マーチテーブルでひとりせっせと社長自ら売り子をするアーロンを横目で見つつ、しかし手伝うということもなくビアを飲みながら弛緩しながらニヤニヤしている恩知らず極まりない僕は、この日の盛況ぶりに驚いた。会場を埋め尽くす汗臭い素人童貞感漂うメタル・デュード、メンヘラ感が否めないロックお姉さんの群れ群れ群、マーチャンダイズを湛然に物色する彼らオーディエンスの熱意の凄いこと凄いこと。OMGは多感な時期の僕のヒーローであり、所詮は過去のモノという概念がやはりどこかにあったのか、〈Hydrahead〉のリリース群のようなエクストリーム・ミュージックがこの地においては絶大なポピュラリティーを得ていることを改めて認識させられた。
 気づけばステージではアイズ・オブ・ジェミナイの演奏が始まっている。そのサウンドはストーナー・ロックの文脈下ではあるが、良質なリフ、ひねくれたグルーヴのドラム、ゴシックな女性ヴォーカルと個々の要素に抜群のセンスを感じられるもので今後のブレイクが期待される......って今ウェブで調べたら彼等のアー写が出て来てウワチャー......これは僕にはちょっとゴス過ぎるなぁ......
 OMGの出番もいつしかおとずれ、マーチテーブルから息つく暇もなくアーロンは袖へ。なにも社長自ら売り子をしなくてもいいのになぁと相変わらず手伝う気がない僕だが、そのいつだって一直線な努力が彼のバンドとレーベルをここまで大きな存在にしたことに間違いはない。
 さすがはオールスター・バンド、見栄えが違う。第一線で活躍する個々のバンドの過密なスケジュールがピッタリ合う周期が10年に一度とゆーことなのだ。そのありがたさたるや何チャラ流星群みたいなものである。当時クソガキだった僕はコヤジ(小オヤジ)となり、アンチャンだった彼らはコッサン(小オッサン)となった。パンク・ハードコア・スピリットを忘れ、腰痛が恐くてモッシュもできず、女の子にフラレても「あ、生理なのね」と動じない迷惑千万な図太いコヤジとなった僕を嘲笑するかのようにOMGのオッサンたちはのっけからブルータルなチューンで畳み掛ける。彼らの新作である『No』はOMG史上最もブルータルなアルバムであるが、このライヴで見せる彼らのポテンシャルはそれ以上のものだ。狂気の沙汰ともいえるアーロン、ネイト、ケイラブが全員がヴォーカルをとるという怒濤の三位一体エネルギーがオーディエンスの血液を逆流させる。個人的にOMGのトレード・マークであるサントスのヘヴィかつダンサブルなドラムがフロントの3人の怒れる漢を後押しする。OMGのバンド名からも伺えるが、このバンドは元々アーロンとサントスのふたりが地元であるニューメキシコで結成したものだ(「Old Man Gloom」および「Zozobra」はニューメキシコはサンタフェでおこなわれるバカデッカい案山子を燃やすお祭りのことだ)。OMGのサウンドは燃え盛る感情の炎が照らし出すインディオとラティーノのミックス・カルチャーが育んだニューメキシコの雄大な土地と歴史を舞台にキューブリックが『2001年宇宙の旅』を撮ったような宇宙スラッジ・コアとでも言っておこう。気づけばモノリスに群がる猿と化した僕はフロアでもみくちゃとなり、満身創痍な状態でライヴは終了。アーロンに礼と別れを言い、東京での再会を約束したのであった。
 そう、それは彼の別プロジェクト、マミファーがあのアースとともに来日することになっていたからである。


Old Man Gloom | Photo by Diona Mavis

 さて、話は少し戻り、紙『エレキング』7号にてインタビューをおこなったアースであるが、実はこのインタヴューに僕はかなり尻込みしていた。だってだってだってあのアースですよ? ふだん僕がインタヴューをおこなっている味系ミュージシャンとはワケが違うワケで......。
 僕はアースにある種の畏敬の念を感じている。9年間のブランクの後に発表された『Hex』のレコードに初めて針を落とした時、そのサウンドのあまりの美しさに涙した。それから現在に至るまでコンスタントにアースが発表してきた比類なき完成度を誇るすばらしい作品群は、ディラン・カールソンという壮絶なる半生を送って来た男にしか奏でることができない叙事詩なのだ。近年はB型肝炎を患っており、医者にはすでに余命宣告もされているという中で制作された最新作『Angels of Darkness / Demons of Light I & II』(レコーディングは同一セッション)、そしてリリースを控えているディランのソロ作品、彼のクリエイティヴィティはさらなる高みを登り続けている。彼が見ている世界はもはや凡人が伺い知ることのできない領域なのだ......。
 ......というワケで、僕の中のディランは神々しい存在なのであった。が、新大久保「earthDOM」でのライヴ前、初めて会うディランは笑顔の絶えない最高の男であった。昨年シアトルで会ったベーシストとして今回のツアーに参加しているドン・マクグリーヴィ(その日のくだりはマスター・ミュージシャンズ・オブ・ブッカケのレヴューを参照)とともに自宅で飼う3匹の猫の可愛さを笑顔で語るディランに僕の緊張はいつしかほぐれていった。僕のくだらない質問にも気さくに答えてくれ、炭坑夫として働いていた彼の叔父の壮絶な話なんかまさしく『Hex』の世界観そのままだ。
 ディランの話を聞いている内にすでに演奏を開始していたマミファーはパーカッショニストとしてジョン・ミューラーが今回のツアーをサポート。実は僕は最初彼がジョン・ミューラーだと知らず(だってアーロンがジョンとしか紹介しなかったからね)、後日カレーを食いながら談笑している際に気づいた。失礼極まりない......彼とジェイムズ・プロトキンによるレコード『Terminal Velocity』はエレキング編集部で最近もっぱら話題の名作である(というか僕と三田さんの間だけの話だが......)。
 マミファーのセットは見るたびに異なる様相を呈している。前回の来日の際との秋田昌美氏とのコラボレーションや近年のリリースを聴く限り、よりオーガニックなノイズ・ミュージックを今回も予想していたが、ジョンとのセットとのことで今回は哲学的な重厚さを漂わせるドローン・ロックを披露していた。フェイスの美しい歌声はもちろんだが、OMGとは別にLAで見たウィリアム・ファウラー・コリンズのコラボレーションでも際立っていたアーロンのヴォーカルの繊細かつ重厚な響きはすばらしい。

 マミファーの演奏後の熱も冷める間もなくアースの出番だ。ディランいわく、今回のアースはパワー・ロック・トリオなのさ、とのこと。セッティングのすばやさもさることながら、まさしく小細工無しの生音スリー・ピース。ホーン/オルガンのオーケストラ・セットでのアースもすばらしいが、ディランがていねいにストリングを拾うことによる芳醇な倍音、アドリアーノの司るすばらしい間、ドンの流れる様なベースライン、シンプルが故に個々が際立っている。濃密なロングセットを披露した。僕は週末の新代田フィーバーでの再会を約束し、この日を後にした。
 ラストの東京公演の日、例のごとく予想よりかなり早い時間にアーロンから着信があり、サウンドチェックも早々に済ましたとのことでこの辺にヴィーガン・レストランはないか、とのこと。合流のためチャリを走らせながら僕はかつて彼が結婚前、アイシスで来日していた頃毎回「日本だー! 焼き肉だー!」と騒いでいたことを思い出していた。日本でのヴィーガン・ライフはまだまだ厳しい。下北にてヴィーガン食をむさぼりながらアーロンとフェイスはジョンと本日のセットについて細かい部分を詰めていた。そのかいあってか、その日のマミファーのセットはDOMでのショウを遥かに凌ぐすばらしいできばえだった。終止途切れることのない集中力、ジョンのドラミングはまさしくスティックがドラムに吸い寄せられているようなライト・スポットを打ち抜き、アーロンのヴォーカルは気合い千万、フェイスの歌声の透明感もさらに増したすばらしいものであった。
 おっと、話が前後してしまうが、この日の東京公演をサポートするのは日本が世界に誇るBoris。しかもアレ? 栗原さんもいるじゃないですか。いまさら栗原ミチオについて僕が語るまでもないが、海外の友人のみなが一様に絶賛する彼こそが日本が誇る世界屈指のギタリストである。Borisは名盤『Flood』と新曲を披露する僕が今まで見たBorisのセットの中で最も短いものであったが、それが逆に新鮮であった。Borisの3人が奏でるヘヴィ・サウンド・スケープの中を縦横無尽に駆け巡る栗原氏の血湧き肉踊るギターに会場にいる誰もが恍惚としたことだろう。常にリスナーの予想を良い意味で裏切る、確信的な活動をおこなってきたBoris、それは孤高の存在と呼んでいいだろう。彼らの常に時代の先をゆく活動は真に才能と努力に裏打ちされた天の邪鬼が為せる奇跡なのではなかろうか。今後も彼等に驚かされるのが今から楽しみである。
 さて、結論から言うとこの日のアースは初日を遥かに凌ぐすばらしいものであった。チケット完売で約300弱のオーディエンス。ヨーロッパ・ツアーでの大きなフェスティバル以来の聴衆だとディランは漏らしていたが、それほど誰もがアースを心待ちにしていたのだ。そんな中を優雅にプレイするのは百戦錬磨の経験に他ならない。かつて見た彼らのドキュメンタリー内でのインタヴューにてディランは興味深いことを言っていたのを思い出した。おもむろに目の前にあるグラスを手に取り、自分の音楽はこのグラスに注がれた水のようなものだ。形を持たないその何かがどこからかやってきて自分という器に注がれ、形を為しているに過ぎないと。ディラン・カールソンはかつて僕らの想像を絶する絶望の淵から幾度も這い上がって来た。そして今現在彼がおかれている状況も決して楽観視できるものではない。この日の彼の演奏を聴いて僕は涙しそうになった。それはまるでこの地球上のあらゆるものの存在の儚さ、しかしすべては永遠であり、形を為している個にはすべてに意味があるのだ、と彼が語りかけているように聴こえたのだ。

 彼らはシアトルへ帰っていった。雄大な自然に囲まれたミュージシャン・コミュニティのあるあの地へ。もしこの僕の駄文を読んで少しでも彼等の音楽に興味を持ってくれた方がいれば、彼らのレコードを手に取って欲しい。非常に残念なことにアーロン・ターナーの〈Hydra Head Records〉は今年の暮れを持って1995年から歩んで来たその偉大な歴史に幕を閉じる。いつだってインディペンデント・レーベルとしてローカル・ネットワークを大切にしてきた彼らのリリースを手にとる機会がもしあれば、それは多いなるサポートへ繋がるだろう。またアースもディラン・カールソンのソロ・プロジェクトを含め多くのリリースを控えている。どちらも90年代から現在に至るまでロック史に大きな足跡を残して来た存在であり、今後のインディ・ミュージックの先を占うものであるだろう。


EARTH | 写真:塩田正幸

Various Artists - ele-king

 ラモーンズは永遠である。クラフトワークがそうであるように、それ自体がひとつのファンタジーなのだ。いつまでも消えることのない。
 13歳のときに初めて聴いた"シーナ・イズ・パンク・ロッカー"や"電撃バップ"は、セックス・ピストルズやザ・クラッシュとともに僕のすべてを狂わせたと言っていい。歓楽街育ちの僕は、いつものように街の繁華街を歩いているときに、何故か知らないけれど唐突にダッシュした。行き交う人びとにボカボカぶつかりながら、猛烈な勢いで街の端から端まで駆け抜けた。どうせならそのまま駿府城のお堀のなかに飛び込めば良かった。ヘイ・ホー・レッツゴーと叫びながら。

 ラモーンズはパンクだったが、僕にオールディーズというものの魅力を教えてくれたバンドでもあった。中学3年生のときに買った4枚目のアルバム『ロード・トゥ・ルーイン』(もっとも評価の低いアルバムのひとつ)のA面の5曲目に収録された"ニードルズ&ピンズ"を僕はどれほど繰り返し聴いたことだろう。いまでもそのレコード盤は家にある。いまでもその細い溝には1年のうちに何回か針がおろされている。ギターでコピーしたし、ジョーイ・ラモーンの胸を焦がすような声をまねながら歌いもした。そして、"ニードルズ&ピンズ"が60年代のイギリスのザ・サーチャーズというバンドのカヴァー曲であることを知った。

 ラモーンズには、思春期を迎えた10代が聴くべきものすべてが詰まっていた。反抗心、暴力衝動、性衝動、馬鹿馬鹿しさ、シニシズム、B級趣味、ジャンク文化から思わず泣き崩れるようなラヴ・ソングまで、それはロックンロールのパンドラの箱だった。ゆえに彼らは多くのカヴァー曲を演奏している。
 本作は、ラモーンズがカヴァーした楽曲のオリジナルを編集したコンピレーションで、サーフ・ロック(ザ・ビーチ・ボーイズ、ジャン&ディーン)、ガールズ・ポップス(ザ・ロネッツ)、サイケデリック・ロック(ラヴ、ザ・シーズ、ジェファーソン・エアプレイン)、ブリティッシュ・ビート(ザ・サーチャーズ)などなど、全24曲が収録されている。『ロケット・トゥ・ロシア』(1977)の"ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス"や『ラモーンズ』(1976)の"レッツ・ダンス"、『エンド・オブ・センチュリー』(1979)の"ベイビー・アイ・ラヴ・ユー"(同アルバムをプロデュースしたフィル・スペクターの曲)......すべての原点がある。ブックレットは4色印刷で、当時のアートワークや詳細なデータも載っている。愛情たっぷりに、丁寧に作られている。
 ローリング・ストーンズも多くのカヴァー曲を演奏しているが、当時としてはマニアックなブルースである。ラモーンズはシックスティーズであり、サイケデリックだ。ザ・ロネッツのリード・シンガーだったヴェロニカ・ベネットのヴォーカリゼーションはその後のポップに多大な影響を与えているが、ジョーイ・ラモーンの感情豊かな歌い方は、どちらかと言えば、イギー・ポップというよりもヴェロニカ・ベネットの側である。

 ラモーンズの来日ライヴには、僕は計3回行った。最後に行ったのは1991年の川崎チッタだった。そのとき僕のレコード棚にはもうエイフェックス・ツインやデリック・メイが並んでいた(ちなみにお馴染みのラモーンズのファッションは、1970年代のゲイ・ディスコからの引用なので、僕のリスナー遍歴もあながち大きく逸れているわけではない)。
 僕がラモーンズを熱心に聴いていたのは『エンド・オブ・センチュリー』までで、ゆえにラモーンズが"キャント・シーン・トゥ・メイク・ユア・マイン"や"サーフ・シティ"、ラヴやジェファーソン・エアプレインなんかをカヴァーした1991年の『アシッド・イーターズ』を知らない。
 UKが生んだ最強のサイケデリック・ハード・ロック・バンド、モーターヘッドがラモーンズに捧げた"ラモーンズ"(1991)という曲も、ラモーンズにとっての最後のアルバムとなった『アディオス・アミーゴス』(1995)のオープニングを飾ったトム・ウェイツの1992年の曲"アイ・ドント・ウォナ・グローイン・アップ(大人になんかなるものか)"のカヴァーも本作『ラモーンズ・クラシックス』で知った。ジョーイ・ラモーンがソロ・アルバム『ドント・ウォーリー・アバウト・ミー』(2002)でルイ・アームストロングの"この素晴らしき世界"とザ・ストゥージズの"1969"をカヴァーしていることも。
 こうした情報は長年聴き続けていた熱心なファンにとっては基本中の基本なのだろうけれど、できる限りいろんな音楽を楽しみたいと思っている僕にとっては嬉しい発見だった。レコードを探す楽しみが増えました。

ele-king vol.7  - ele-king

〈特集〉 ノイズ/ドローンのニューエイジ!
コンプリート・ガイド・トゥ・ノイズ/ドローン2001-2012
クロニクル2001~2012! まだ書かれていない歴史をここに。選りすぐり60枚。
〈インタヴュー〉アニマル・コレクティヴ、フライング・ロータス、QN     他

Animal Collective - ele-king

 『センティピード・ヘルツ』をはじめて聴いたときに戸惑ったのは、いったいどんな精神状態で聴けばいいのかわからなかったからだ。慌ててバンドの過去のカタログを聴き直してみたが、これまでアニマル・コレクティヴを聴くときに無意識に入っていたスイッチがこの新作には通用しない。『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』のコマーシャルなフォルムをいま一度初期のジャンク感で潰したようでもあるが、音の情報量がこれまでより遥かに多い。ノイジーにやかましく、躁的で、けれどもメロディックで、カオティックなエネルギーに満ち満ちている。むろんサイケデリックだが、白昼夢ではない。なにしろリヴァーブがほとんど聞こえないのだ。心地よくまどろむ......アルバムではない。

 いま思えば、本作より先に発表されたシングル"ハニカム"(国内盤のボーナス・トラックに収録)にその兆しはたしかにあった。ただ、「ハチの巣」なんていういかにもアニコレらしいモチーフと、多重コーラスで展開されるメロディの得意の路線に気を取られて、すっかり『メリウェザー~』の先の地平を見たつもりになっていたが、それらよりもプニプニ、ポヨンと弾むファニーな音こそがバンドの新しいモードを予告していた。"ファイアワークス"、"ウォーター・カーセズ"、"マイ・ガールズ"と近年のアニコレは実はシングル曲でキャリアの節目を印象づけてきたと僕は思っているが、『フォール・ビー・カインドEP』随一の佳曲"ホヮット・ウッド・アイ・ウォント? スカイ"から"ハニカム"まで至る飛距離を見直せば、バンドが脱皮する欲望を募らせていたのだろうと想像できる。
 強調されているのはビートと、メタリックあるいはデジタルな質感だ。これまでのように森のなかの陽光を思わせるような柔和さはほとんどなく、生物のモチーフにしても「百本足」というタイトルがついているように、どこかしらグロテスクな異形を感じさせるものだ。とくにオープニングの"ムーンジョック"、シングル"トゥデイズ・スーパーナチュラル"、それに6分以上高音の電子音とピコピコとダンスする"モンキー・リッチズ"などに顕著で、ギラギラした光沢とエイヴィーの無闇にアッパーなヴォーカルが曲のエンジン・メーターを振り切ってしまう。中盤、"ニュー・タウン・バーンアウト"のようにパンダ・ベアの『トムボーイ』とムードを近くする曲もあるし、もちろん6/8拍子や変拍子、メロディの癖などにアニマル・コレクティヴの印は刻まれている。だが、まるでひとつひとつキャラクタライズされたかのように奇妙な音色の応酬や、祭で踊りまくっているうちにネジが吹っ飛んでしまったような弾けぶりが尋常でない。アルバムとしてのまとまりもどこか度外視しているような奔放さもある。

 だが、はじめこそこの騒ぎぶりに面食らったのだが、音の種類と量の多さに慣れてしまえば、放たれているフィーリングはあまりにもアニマル・コレクティヴ的だという感慨に至る。というのは、橋元優歩が言うところの「ひとり遊び」的な悪戯っぽさとイノセンス、それで何も問題がないというような開き直った肯定の力......それらはここで、近作よりもいっそう強固なものになっているように思える。久しぶりにディーケンが参加し、バンドのアイデンティティを見直したこともあるのだろう。この10年でアニマル・コレクティヴがアメリカのインディに新たなシーンを切り拓いたのは、紛れもなくその遊びがとても楽しそうだったから、である。それはパンダ・ベア『パーソン・ピッチ』で極みに達しそのアートワークによって可視化され、リヴァーブはその象徴のひとつとして後続の「子どもたち」に繰り返し用いられた。が、次号の紙エレキングにおいても語られているように、バンドは自分たちが発生させた潮流をじゅうぶんに認めた上で、そこからは距離を置いて、シーンという共有される空間ではない「アニマル・コレクティヴ」という領域の純度の高さを追求し守っているように見える。道具と場所を変えて、彼らは彼らたちだけで大いに遊んでいる。それは、とても楽しそうに。
 そして何度も『センティピード・ヘルツ』を聴いていて僕が連想したのは、『ドラえもん』......それも、日常のエピソードではなく大長編のほうである。中期の傑作、『日本誕生』『雲の王国』あたりの前半部分、子どもたちが道具を使って自分たちの王国を作るあの高揚感である。そこには空想上の動物もいれば、ロボット(ドラえもんはほぼ「人間」扱いなので違う)たちもいる。そこは外の世界から無邪気に隔絶している。ただし、大長編『ドラえもん』においては、藤子・F・不二雄の物語への欲望によって、子どもたちの王国は外の世界との軋轢や摩擦を生み、少年のび太は困難に満ちた冒険によっていくらか成長するだろう。動物集団の国ではそうはならない。あの前半部分が来る日も来る日も繰り返され、4人はその祭の喜びを手放そうとしない。
 見事なまでに子どもの人称で幕を開ける本作にもまた、はたしてこれでいいのだろうか......と首をかしげる大人たちが少なからずいることだろう。だが、クロージングの"アマニタ"の最後2分の反復による祝祭は、永遠に引き伸ばされて続いていくかのようだ。つまり『メリウェザー~』における"ブラザースポート"とまったく同じ役割、その態度を変えることはない。だからきっと、これでいいのだろう......結局のところ、そう納得してしまう自分がいる。この10年において、アニマル・コレクティヴとは何だったのかを鮮やかに差し出してみせる1枚である。

Cooly G - ele-king

 ブローステップのおかげか、『ミュージック・マガジン』が無理して酷評したおかげか、『マーラ・イン・キューバ』は、日本では、ブリアル以外でけっこう売れているダブステップ作品のひとつとなったようだ。
 ブローステップにしろポスト・ダブステップにしろダルステップにしろ、拡張していくダブステップの手綱を引き締めたのは、結果としてゴス・トラッドの『ニュー・エポック』や〈ディープ・メディ〉だったかもしれないといまなら思えるが、オリジナル・ダブステッパーとしては〈ディープ・メディ〉と双璧を成している〈ハイパーダブ〉も、ハイプ・ウィリアムスローレル・ヘイローといった冒険を押し進めながら、クーリー・GやDVA、LVなどUKアンダーグラウンド・シーンからの才能もしっかりフックアップしている。それらは目立たないかもしれないが、とても良いアルバムなので紹介しておきたい。

 DVAは、2010年、ちょうどUKファンキーが最高潮だった時期に、〈ハイパーダブ〉から「ガンジャ」という12インチ・シングルを出している。これも当時の下北沢のZEROで「なんか良いファンキーください」と訊いたら教えられたもので、なるほどこの曲を聴けばファンキーがソカとUKガラージ、そしてハウス・ミュージックのハイブリッドであることがわかる。



 その年DVAは、スクラッチャDVA名義でクーリー・Gとのスプリット・シングルを自身の〈DVA Music〉レーベルから出している。
 またクーリー・Gのほうは、2010年、〈ハイパーダブ〉から「アップ・イン・マイ・ヘッド」をリリースしている。それは美しいストリングスとR&Bヴォーカルを擁したUKガラージで、UKファンキーよりもさらに、クラブ・ミュージックとしての汎用性の高いトラックだった。
 さらにまた、翌2011年にDVAが〈ハイパーダブ〉から発表したシングル「マッドネス」は、アンダーグラウンドでのこうした動きをアーバン・ポップにまで導く作品だったと言える。



 いずれにしても〈ハイパーダブ〉は、ピアソン・サウンドから2562やマーティンまで、とにかくこの2~3年のあいだの多くのポスト・ダブステップがミニマル・テクノやディープ・ハウスもしくはデトロイト・テクノといったクラシカルなスタイルに"ネクスト"を求めていることに対して、あくまでもオリジナル・ダブステップすなわちUKガラージの発展型としての"ネクスト"にこだわり続けている。そこがこのレーベルの、ある種の硬派的な姿勢から来るもうひとつの面白さだ。
 そうした成果が、今年の夏前までにリリースされたDVAの『プリティ・アグリー』とクーリー・Gの『プレイン・ミー』、最近出たばかりのLVのセカンド・アルバム『セベンザ』、そしてテラー・デンジャーのセカンド・アルバム『ダーク・クローラー』の4枚にある。

 DVAは出自がドラムンベースにあり、ちょうどディジー・ラスカルやワイリーが脚光を浴びていた時代のグライムの主要レーベルのひとつ、テラー・デンジャー主宰の〈アフター・ショック〉に関わっていたという経歴からも読めるように、この10年のUKのアンダーグラウンド・ミュージックの証人のひとりとも言える。
 『プリティ・アグリー』には、そんな彼のキャリアゆえか、7人のヴォーカリストがフィーチャーされている。そのなかにはくだんの"マッドネス"で歌ったベテランのヴィクター・デュプレ(古くはジャザノヴァやキング・ブリットとの共作で知られる)も含まれている。
 今日のR&Bブームにも積極的にアプローチしていると思えるほど歌モノが目立つアルバムで、僕がジェシー・ウェアに期待していたものはむしろこちらにある。あるいはディジー・ラスカルの『ボーイ・イン・ダ・コーナー』がメロウに、そしてクラブ・フレンドリーに、ソウルフルに展開した結実のようだ。プリティ=メロディアスで、アグリー=ストリート・ミュージック臭がとても良い感じで漂っている。

 女性プロデューサーにしてシンガー、DJにしてフットボーラーのメリサ・キャンベル、クーリー・Gを名乗る彼女の『プレイン・ミー』からも『プリティ・アグリー』と同じく街のにおいがある。あたかも深夜バスに揺られながら聴こえてくるR&Bのようだがビートはかなり凝っていて、DVAと同様に、今日的な──UKガラージの発展型としての──ブロークン・ビーツを提示している。
 それでも彼女は、オリジナル・ダブステップのダークなムードを確保している。DMZを彷彿させるハーフステップがあり、ブリアル系の都会の人気のない通りの街灯のような、いかにもUK風の薄明かりの叙情主義がある。ザ・XXの『コエグジスト』の沈んでいくアンダーグラウンド・ヴァージョンとでも喩えたくなるような、ロマンティックな気配さえある。コールドプレイのカヴァーが収録されているけれど、それは言われなければわからないほどに、ダブステップの悲しいメロドラマへと変換されている。ちなみに2010年の名曲"アップ・イン・マイ・ヘッド"は、アルバムのクローサーを務めている。



 ロンドンを拠点にする3人組のLVは、昨年リリースされたファースト・アルバム『ルートス』が、それこそ寂しい通りの街灯をデザインした、ブリアル系のロマンティックな作品だった。ところが、南アフリカ出身のMC、Okmalumkoolkat(オクマルムクールキャット)とRuffest(ラフィスト)、Spoek Mathambo(スポーク・マサンボ)の3人をフィーチャーした新作は、前作とはまったく別のアプローチを見せている。
 LVも一時期はUKファンキーに手を染めていたほど、ある意味柔軟な姿勢でシーンと関わっている。『セベンザ』はヨハネスバーグのクワイト(kwaito)と呼ばれる、ハウスとヒップホップが混合された"アフロ・ロービット・エレクトロニック・ダンス・ミュージック"に触発されたアルバムで、南アフリカを旅したメンバーが2年前から着手しているプロジェクトの成果だ。
 『マーラ・イン・キューバ』や『シャンガーン・シェイク』のような、旅するダブステップという試みのひとつだが、LVによるこれはマーラや〈オネスト・ジョンズ〉の2枚よりもずっといなたく、逆に言えばクワイトの生々しさが保存されている。威勢が良く、訛りむき出しの、気迫のこもったMC、そしてカラカラに乾燥した電子音、南アフリカのゲットー・ミュージックに突き動かされたチープな音は生き生きと躍動している。ドラムンベース~UKガラージのスリリングなビートと低音に注がれるクワイトの野性的な香り、ポリリズミックなパーカッションや彼らのMC、ダイナミックに素速くチョップされる声から生まれるグルーヴは実に魅力的だ。
 最近のUKのクラブ・ミュージックは、こうした今世紀のワールド・ミュージック的展開において、現地の音楽へのリスペクトを示しつつも、自分たちがやってきたことの文脈(ここで言うならダブステップ/UKガラージ)をうまくミックスしていると僕は思う。



 未聴だが、USの〈サブポップ〉も、最近スポーク・マサンボのアルバム『Father Creeper』をリリースしている(オクマルムクールキャットも参加)。
 グライムのプロデューサー、テラー・デンジャーのセカンド・アルバムについては機会をあらためて紹介したい。

onzieme presents 花魁WEST vol.2 - ele-king

 渋谷のアート・サロン「しぶや花魁」と心斎橋のゴージャス感溢れるライヴ・ハウス「onzieme」のコラボレーション・イヴェント「花魁WEST」の第2弾が10月5日(金)に開催される。この日はスペシャル・ゲストとしてOL Killerが登場、関西初上陸となる。ヴィーナス・カワムラユキがプロデュースする「しぶや花魁」ならではのサプライズ演出だ。
20~21時はblock.fmのshibuya OIRAN warm up radioにて公開生放送。
菱沼彩子画伯の書き下ろしで、人気ブランド「galaxxxy」より発売となる「花魁WEST」Tシャツも物販ブースにて販売される。

»詳細はこちらから

チケット



onzieme presents
花魁WEST vol.2
supported by block.fm

 前回のvol.1も好評だった花魁WESTがアイランドバーからメインフロアに場所を移してのこの夜だけのスペシャル仕様でvol.2を開催!
今回はスペシャルゲストに、フジロックやTAICO CLUBでのパフォーマンスも話題のDJユニット「OL Killer」が関西に初上陸。
渋谷発のカルチャースポット「しぶや花魁」ならではのサプライズ演出は必見!伝説の夜になること間違いなし!

優先入場eチケットも好評発売中☆
https://oiran-west.peatix.com

2012/10/5(FRI)
at Live&Bar onzieme
19:00~till late
DOOR:2500円1D W/F:1500円1D
21時まで女性は1Dのみ+ピックアップドリンクプレゼント!

special guest:
OL Killer

guest:
Isao a.k.a Lucas from しぶや花魁

resident:
ヴィーナス・カワムラユキ from しぶや花魁
DA☆YANAGI
DJ OMKT
Coconuts Beat Club

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[Vaporwave] - ele-king

 盗用がアートとなって、アンダーグラウンド・ポップのスタイルとして最初に定着したのが、1980年代のヒップホップとハウスである。いまでもよく覚えているのは、80年代末、MTVのBUZZという番組内でマルコム・マクラレンやティモシー・リアリーが、アシッド・ハウスをBGMに「盗め!」と視聴者を煽動する姿だ。「盗め!」、can you dig it? ヒップホップとハウスには、快楽主義としての音楽の延長ばかりではなく、盗用アートとしてのそれが同時にあった。ヴェイパーウェイヴは、インターネットの無限地獄/エントロピーの増大における盗用音楽として始動している。
 いかにもうさんくさいこのジャンルに関しては、すでに議論が活性化している。その一例。「ヴェイパーウェイヴは資本主義に対する批評か降伏か?」、その答えは「どちらでもあり、どちらでもない」

 ヴェイパーウェイヴはネット時代の申し子的な、あだ花的なジャンルで、果てしなくアップロードされ続けている音源(それはYutubeの冒頭に挿入される広告も含まれる)を探索し、再構築して、ある種の世界放送として発信している。新夢会社(New Dreams Ltd)、コンピュータ・ドリームス、情報デスクVIRTUAL、VΞRACOM、メディアファイヤード、そしてインターネット・クラブ、あるいはジャム・シティジェームス・フェラーロといった連中も「反資本主義の皮肉として読める」。こと、ジャム・シティのようなアーティストは、バラ色のデジタル情報社会をディストピアへと挑発的に反転してみせる。

 もうひとつの例。モダン・テクノ・ミュージック・カルチャーにおけるこれは、その音楽の終焉すら予見させる。
 アメリカには、ミューザック(Muzak)という80年以上続いている企業がある。これはさまざまな職場──デパートから工場、レストランからオフィス、スポーツジムから遊園地にいたる──に音楽を供給する会社で、要するに、労働意欲、購買意欲を促進させるための音楽を提供し続けている。問題は、1984年を境に、この会社が音楽アーティストが作った音楽作品とも提携し、供給をはじめていることだ。
 現在、この会社には300万曲以上の音楽がアーカイヴ化され、そして1億人の聴覚が、自らの労働環境に適した音楽をプログラムさせられているという。そのストックのなかには、インディ・ポップ、ミニマル・テクノ、IDM、ラウンジ・ジャズ、ラテン・ラウンジ、とくにエレクトロニック・ミュージックが多数あるらしい。
 これはアンビエントというコンセプトとは真逆の、産業社会を促進するためにサプリメントのような音楽としての利用のされ方である(カラオケやがんばれソングも同じと言えば同じ)。要するに、「もはやミュージック(音楽)とミューザック(ビジネスのための音楽)の境界線はぼやけているのである」
 多くの人は、違法ダウンロードが音楽の経済成長を止めたと思っている。しかし、ヴェイパーウェイヴは、音楽がハイパー資本主義という吸血鬼によって血を吸い取られたがゆにえ衰退したのだと考えている。

 ヴェイパーウェイヴの悪意や反抗心は、そうした産業社会に利用された音楽をふたたび自分たちの元に取り戻そうとする衝動にあるのだろう。ヴェイパーウェイヴは自らが音楽の死、音楽の終焉、音楽の腐敗となっている。そしてこの運動が短命であることも自覚している。盗用アートは、ある種の瞬間芸として成立する。
 「VANISHING VISION」=消えゆく夢。消えゆく理想。廃れていく音楽が夢見た夢。インターネット・クラブはそうした警告めいたタイトルのアルバムをフリーダウンロードで発表した。ゴルフ・クラブの待合室でかかる音楽、教則本にあるようなBGM、ぞっとするようなハイパーモダンなオフィス・ビルディングの受付で流れている音楽をかき集めて、ファッキン清潔なオフィス街の机に並んだPCから高解像度の毒を吐くことができるだろうか。アートワークに使われている風景も日本のアニメから引用されていることも興味深い。ま、どんなものか、とりあえずこれは無料なので聴いてみましょう。

https://internetclubdotcom.angelfire.com/

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