「!K7」と一致するもの

Girls - ele-king

 ガールズの『アルバム』というアルバム。まったく"検索"に向いていない。なんでこんなネーミングなんだ? 検索されたくない? だとしたらその気持ちはよくわかるけど。

 これは、サンフランシスコのソングライター、クリストファー・オウエンスとプロダクション及びスタジオ・ワークを担当するチェット・Jrホワイトの二人組のファースト・アルバムだ。クリストファー・オウエンスは、俳優リヴァー・フェニックスが子供時代を過ごしたことでも知られるヒッピー系カルト教団、チルドレン・オブ・ゴッドで「外界から隔離されながら世界中を放浪」しながら育ったのだという。この教団では信者獲得のための売春がおこなわれていたと言われ、子どもたちも性的虐待を受けていたという。元フリートウッド・マックのギタリスト、ジェレミー・スペンサーもメンバーだというその教団で、各地を移動しながら大道芸で音楽とバスキング(投げ銭)を覚えた。16歳になったクリストファーは、俗世間から隔離されたその生活から脱出、テキサス経由でカリフォルニアにたどり着き、パンクとドラッグ漬けのありふれた青春を開始したという。そこで恋人と二人で音楽をはじめたものの、失恋。新しく組んだ相棒がJRホワイトだった。
 という凄みのあるエピソードはしかし、『アルバム』からはまったくうかがい知ることは出来ない。

 80年代初頭のブリティッシュ・ニューウェイヴ、たとえばエルビス・コステロや、フリッパーズ・ギターが多大な影響を受けた"ギターポップの神様"と言われるオレンジ・ジュースを思わせるサウンド、メロディ、そしてヴォーカル・スタイル。とくにメロディはどの曲も「これは何のカヴァーだっけ?」と思いたくなるほど、懐かしく親しみのあるものに聴こえる。
 基調はR&Bとロックンロールで、モータウン調の"Ghost Mouth"やオーティス・レディングを彷彿させるものもある。"Big Bad Mean Motherfucker"では、ジーザス・アンド・メリーチェーンのようなリヴァーブをかけたギター、英米の音楽誌で高い評価を受けて今ではプレミアムがついているファースト・シングル"Hellhole Ratrace"はエルビス・コステロのようで、"Lauren Marie"ではサーフィン・サウンドのディック・デールのようなトゥワンギー・ギターと、過去の音楽が寄せ集められているとも言えるし、きらめいているとも言える。年長者なら「なつかしい」と感じるのではないか。ほとんど著作権への挑戦とも言えるほどのこうした寄せ集めへの評価が、「パクリ」ではなく高い評価を得るようになっていることは興味深いできごとだ。

 クリストファーはチルドレン・オブ・ゴットで体験したヒッピー思想に基づく文化を否定することなく、自分のものとしているのかもしれない。ただ、その歌詞の多くは、カリフォルニアでの生活で起きる小さなエピソードをモチーフにしていて、ラリってしゃべる友達同士の他愛ない話や希望のない愚痴、思うようには行かない恋なんかがストーリー性豊かに歌われている。このアルバムのテーマは「ハートブレイクとデザイア」だと彼は語っている。ヒッピーの親世代が作り上げたサイケデリックとスピリチャルの培養箱を出た彼は、そこで得たすべてを捨てるのではなく、新たに足を踏み入れた俗の世界でも60年代風=ヒッピー風なライフス・タイルを続け、漠然とした夢はあっても、いわば永遠につづくかのような取るに足らないような生活の、取るに足らない出来事へと向ける視線にはやさしいものがある。

 とても面白いと思うのは、曲によってまったく異なるクリストファーのヴォーカルスタイルだ。とてもすべてを一人のボーカリストが歌っているとは思えない表現力だ。この音楽が好きな人は、ぜひともヴィンセント・ラジオ( VincentRadio.com https://vincentradio.com/ )のベイビー・レコーズのコーナーをお聴きください。

 アンソロジーをたった1冊、編ませてもらっただけなのに、構成内容がとても気に入っていただけたそうで、「水木しげる画業60周年」と題された米寿のお祝いに招待していただきました。これはちょっと感激でした。場所も帝国ホテルだし、会の切り盛りは出版社が複数でやるのかと思っていたら、最初から最後まで水木プロが手弁当でプログラムを組み、どことなく「お化けの運動会」を見ているような1日になりました。各テーブルには妖怪汁が配られ、司会は京極夏彦に荒俣宏、この日、たった1枚だけ描かれた絵は出席者全員がジャンケンで取り合いとなり、水木三兄弟があと12年、無事でいれば「3人合わせて300歳を祝う会」をやるという発表も。会場はけっこう広いのに学校の体育館にいるような気分になってくるのがどうにも不思議で、娘の悦子さんによる花束の贈呈はまるで入学式か卒業式に見えたり。境港市長や調布市長といった地域を代表する方のスピーチはあるのに出版関係の挨拶は最後までなく、マスコミもすべてシャットアウト、むしろ親戚の方々が多く詰め掛けていたようです(妖怪じゃありませんよ)。「こんな和やかなパーティはなかなかない」とは手塚るみ子さんのコメントだけど、水木しげるの生涯を10分で理解するというショート・フィルム(by京極夏彦)が上映された後で、荒俣宏が水木さんにマイクを向け「ひと言、感想を」というと、水木さんは「思い出すのは戦争のことだけ」と小さく呟き、「いろいろあった」とか「波乱万丈の人生だった」というような言葉を期待していた僕らは虚を突かれ、瞬間的に涙が出そうになってしまいました。水木さんはもう一度、たどたどしく、「思い出すのは戦争のことだけ。後のことは思い出せない」と繰り返しました。鬼太郎や河童の三平を産み出した時のことは忘れても戦争のことは忘れないということです。誰に依頼されたわけでもないのに『総員玉砕せよ』を描き上げた理由がわかろうかというものです。

 会場では久しぶりに手塚真とも再会。僕の本格的な編集デビューは彼が学生時代に撮った映画『SPh(1983)』のメイキング本で、ちょうどその作品をいま、イギリスでリメイクしている最中だとか(音楽はジョン・フォックス!)。そのようにして、いつの間にか水木エリアのなかにあって手塚尽くしになっていると「全員で記念撮影をします」という声がかかり、会場全体は舞台前方に詰め掛けていく......のに、ふと振り返ると、手塚兄妹だけは位置を動かず、テーブルを挟んでやや遠い場所に残ったまま。これは、つまり、写りは小さくなるけれど、別なグループのトップに位置しているという構図になり、水木しげるに所縁の人たちが集まっているなか、手塚治虫の子どもたちが取った行動としてはなるほどと思わせるものがありました。人は常に自分は全体のなかのどこに位置するのかを考えているものだとかなんとかいったのはラカンだったと思ったけれど、瞬時にしてその正解を探り当てたといえるのではないでしょうか。多分、無意識に。

「自分は全体のどこに位置するのか」ということでは、長年、ひとつの疑問があります。東京の路を歩いていると、3人から5人ぐらいのグループが横一線に並んでいる場面によく遭遇します。いわゆる「歩道いっぱいに広がって歩く」というやつです。僕はこのフォーメイションに加わるのがあまり好きではなく、高校の終わりぐらいから、ひとりだけ前か後ろを歩くようにしてきました。意識して外れるわけです。そうすると1人だけ会話がなくなります。その時に、そうか、会話に加われなくなることが不安でこのフォーメイションが維持されるのかということに思い当たります。その場で何が話し合われているのかということは、その中身がどれだけくだらないことでも、そのことには関係なく、それに加わっている者と加わっていない者をはっきりと峻別し、加わっていない者への圧力に転じるのです。それはまるで物理現象のようにして、人を横一線に並ばせる力となります。そうとしか思えません。このような光景を、そして、僕はパリやロンドンでは見たことがありません。「アメリカの田舎道でなら見たことがある」という人も「確かに都会では見たことがない」といいます。海外旅行の経験は数えるほどなので、この話を普遍化させる技量も材料も何もないのですが、やはり、喉元まで出掛かってしまうのは「日本だけなのか」という疑問です。会話から外れることがそれほどまでに恐怖感を呼び起こすのは「日本だけなのか」と(ミクシやツイッターに参加しないことも程度の差こそあれ同じことなのかなーとか)。先日、近所にある国士舘大学の正門前で、しかし、僕はアジア系(パキスタン?)の留学生たちが4人、横一線に並んで歩いているところを目撃しました。人種が違うというだけで、やはりこの光景は新鮮でした。彼らは故郷にいた時からそうだったのだろうか、それとも、日本に来てからそうなったのか。仮に英語で訊くとしても、それはそれでけっこうな英語力がないと難しそうなのでスルーしてしまいましたが、あー、やっぱり、一所懸命聞いてみればよかったなーと、いまは後悔しています。

 会話を共有しているということが日本人にとってはどういうことを意味し、それはほかの文化圏にはないことなのかどうか。この疑問はそろそろ30年ぐらいのロング・ランに突入しながらまったく前に進みません。ひとついえることは、横一線に並んで歩く列から離れることは、馴れているとはいえ、それなりに自覚的な行動であり、まったく苦痛がないことではないということです。そして、そのような価値観に日本人が多数、喝采を送った瞬間を僕たちは00年代に経験しています。「一匹狼」と評された小泉純一郎が自民党の総裁に選ばれた瞬間です。いまとなっては批判の声しか向けられなくなっている小泉純一郎ですが、僕は彼が総裁選に立候補した時からあの性格を生理的に受け付けなかった一方で、「一匹狼」として、その存在価値をマスコミなどが持ち上げたことには共感があったことも覚えています。それこそ『会社本位主義は崩れるか』などのベストセラーで称揚されていた「企業よりも個人を優先する」という価値観がそこには重ねあわされ、日本の何かが横一線に歩くことから脱却しようとしたことは間違いないでしょう。それが確実にネオ・リベラルへの第一歩だったとしても、すべてが間違いだったとは思えないのです(まー、現実にはその何かが竹中平蔵やアメリカに利用されただけなのかもしれませんが)。

 CD3枚組みというヴォリウムの『LIVE! Hair Stylistic』を聴きました。そして、いつもライヴ会場で耳にしていた中原昌也の叫び声を聴いて僕は愕然としてしましました。こんな声だったっけ? 彼はこんな声を出していたんだっけ? それはもう中原昌也という知人の叫び声ではなく、ありとあらゆる横一線から外れて、ひとりで孤独な路を歩く未知の男による強烈な叫び声でした。顔が見えなくなって初めてわかることもあるのです。こんな声を出す男がいまの日本に、ほかにいるのだろうか。

 中原、米寿まで生きろよ。

Bear in Heaven - ele-king

 パンダ・ベアにグリズリー・ベア、そして狐(フリート・フォクシーズ)を挟んで、これは"天国の熊"。何よりも僕はアートワークに感心した。真っ赤な背景と黒いドットで描かれた目と涙。とても暗示的で、僕は自分が使っているノートパソコンの画面が本当に泣き出すんじゃないかと空想したほどだ。インナースリーヴには3人のメンバーの顔がかき消されたヴィジュアルがある。こうした匿名性を、ゼロ年代以降のロック・バンドは使うようになった。大昔のミック・ジャガーように自らがポップ・アイコンになることを拒み、とくにブルックリン系は音を聴かせたいという欲望を優先させている。90年代のテクノやエレクトロニカのようだ。

 ベア・イン・ヘヴンの中心人物であるジョン・フィルポットは、実際に90年代後半からそのキャリアをはじめ、最初は〈Table Of The Elements〉からデビューしている。ここは......灰野敬二やファウスト、ジョン・ケージやトニー・コンラッドなどを出している、いわば前衛のレーベルだ。それからジョン・フィルポットはプレフューズ73と関わり、2004年にスコット・ヘレンのレーベル〈Eastern Developments〉からベア・イン・ヘヴンとしてデビューする。言うなれば、前衛の側からポップに挑戦したのがこのバンドだと言える。2007年には最初のアルバム『Red Bloom Of The Boom』を出してそこそこ評判となって、これは2009年の初頭にリリースされたセカンドになる。

 ギャング・ギャング・ダンスのようにエクレクティックな音で、曲によってはファウストのミニマル・ポップを今風にしたとも言える。エレクトロニカ、クラウトロック、サイケデリック、ポスト・パンク......それらがダンサブルに吐き出される。シングル・カットされた"Wholehearted Mess(こころ全部の混乱)"は威勢の良いポスト・パンクのダンス・サウンドで、"You Do You"のエレクトロ・ポップもなかなか。"Lovesick Teenagers(恋に悩む10代)"もキャッチーな曲で、こんな曲を聴いているとアメリカでも10代向けのラヴ・ソングというものが洗脳に近いかたちで供給されているんだなと思う。ブルックリン系に特有のアート臭さはあるものの、それさえ気にならなければ良いアルバムだ。まるで最近のブルックリン系の活気が乗り移ったかのような、前向きな躍動感がある。僕は女性ヴォーカルをフィーチャーした"Casual Goodbye(何気ない別れ)"のようなエレクトロニカ風のダウンテンポの曲が気に入っている。

Talk Normal - ele-king

 R2枚とカセット1本を経て、アンドリア・アンボロとロッジ専属のエンジニア、サラ・レジスターが組んだ女性デュオによる1作目。リディア・ランチとソニック・ユースのマッシュ・アップか、ギャング・ギャング・ダンスのゴシック・ヴァージョンか。『砂糖の国』というタイトルとは裏腹に呪術的なインダストリアル・パーカッションが切羽詰った世界観を表現し、デビュー・アルバムにしていきなり退路のない完成度を誇っている(アンボロは77ボアドラムに参加、レジスターはソニック・ユース『ダーティ』やルー・リード『アニマル・セレナーデ』のマスタリングなどキャリアはかなり長い)。天にも昇るようなファック・ボタンズとは対照的に徹底的に地下深くを潜行し、いわゆるオルタナティヴ・サウンドをアップ・トゥ・デートさせようとしているというか、この迫力にはとても逆らえません(ユニット名はおそらくローリー・アンダースンの曲名に由来)。00年代を通して続いてきたニューヨーク復興の動きからすれば手探り状態だったブラック・ダイスや、かつてとは違う雰囲気を持ち込んだアニマル・コレクティヴに比してバトルズとともに「ニューヨーク完全復活」と呼びたい確信とノスタルジー、そして、青春の二文字が。知性を感じさせるロック・ミュージックのしぶとさにも舌は巻かざるを得ない。疾走感のある曲ばかりでなく、ゆっくりと地面を踏みしめるような"モスキート"や"ユニフォームズ"に漲る圧迫感など、どこを取ってもコンクレート・シティの厳しさにあふれ、ニュー・ヨリカンやズールー・ネイションの片鱗もここには見当たらない。ロクシー・ミュージック"イン・エヴリー・ドリーム・ホーム・ア・ハートエイク"のカヴァーがそれこそノイバウテン・ミーツ・バンシーズといった風で、緊張感を引き出す音の位相やセンスには抜群のものがあり、全体に思い切りがよく、音の整理がうまくて混沌としながらも雑多な印象は与えず、とにかくソリッドの一語に尽きる。前衛指向ではないものの、"ウォーリアー"では多少、実験的なところも。インナーに歌詞をコラージュのようにして貼り合わせてあるので、どれがどの歌詞だかはさっぱりわからず......(アート指向め!)。レジスターが最近、マスタリングを手掛けたものにはリー・ペリーやアソビ・セクス、デペッシュ・モードなども。あー、なかなか大人にはなれませんなー。

XXX Residents - ele-king

 以前リキッドでやった宇川直宏の偽サイン展は大盛況だったようで、多くの人がこのシミュラクラを楽しんでいるというのは、ある意味では驚愕に値する。本物をまがい物が凌駕する......ことはまあ昔からあるとはいえ(ダッチワイフとかそうなのかね、いやあれは現実の代用品か)、しかし、それにしても積極的に偽サインを面白がるという感覚はまったくポスト・モダン的で、宇川直宏はそうした変わりゆく世界の見え方に非常に敏感なのだろう、彼はこのゲームをずっと弄んでいるように思える。
 僕は去る11月27日にアルバム発売記念のトークショーを彼と一緒にやった。喋りが終わったあと、宇川は「今日、CD買ってくれた人には偽サインを描きます」と言ってその日のメニューを告げると、誰か忘れたけど何種類もの著名人(もしくはカルト的人物)のサインを描き、そしてその"偽もの"を何十人もの人たちが楽しんでいるのだ。僕はそれを端で眺めながら、「オレも描いてもらおうかな」と思ってしまった。偽物であるから面白いのだ。こうしてシュミラクラは本物を駆逐する。彼はこの更新される現実をこうやって見せているのかもしれない。

 XXXレジデンツはご存じのように、彼のプロジェクトのひとつで、そこにはオリジナルのザ・レジデンツへのオマージュを含みつつも、彼のシュミラクラへの興味が恐ろしく注がれている。そもそも1973年にサンフランシスコで誕生したポップ史上で最初に匿名性を打ち出したこのユニットは、そもそも誰が本物のメンバーなのかわかならなかった。交友関係はあった。電気グルーヴの曲名にまでなった故スネーク・フィンガーをはじめ、フレッド・フリスやクリス・カーターといった70年代のUKにおけるアヴァンギャルドの旗手たち、あるいは80年代末にはレーベルが勝手に"カウリガ"――いちど聴いたら忘れられないギターとダークなエレクトロニック・ビート――のヒットによってアシッド・ハウス・フィーヴァーやバレアリックの渦中に投げ込まれたこともあった。それでも彼らの匿名性は守られてきた。XXXレジデンツの活動に先立って、宇川がこのプロジェクトの旨を本物のザ・レジデンツに問い合わせたら「好きにするがいい」との返事がきた。こうして彼は気兼ねなく、ポップ史上において指折りの異端者たちのシュミラクラを演じることができるというわけだ。

 ザ・レジデンツは彼らが全盛だった70年代から80年代は、原型がわからないカヴァー集(サード・ライヒン・ロール)や1分ジャストの曲を1枚のアルバムに40曲収録したり(コマーシャル・アルバム)、あるいはモグラ帝国についてアルバムを作ったり(マーク・オブ・ザ・モール)......とかいろいろ1枚ごとコンセプチュアルにやってきた。音は、そのポップなデザインとは裏腹にいたってダークで、気が滅入るような曲も少なくない。

 XXXレジデンツにとって最初のアルバム『Attack of the Killer Black Eye Ball』はレジデンツのテクノ・ダンス・ヴァージョンだ。宇川のダンス・ミュージックへの愛情が純粋に注がれている......ように思える。1曲目がいちばんオリジナルのザ・レジデンツっぽい。不吉なそのトラックにミックスされる2曲目はフロアを当たり散らすかのようにトランスする。3曲目は狂ったテクノで、リスナーは暴れるか、さもなければ気色の悪い見せ物小屋に取り残されることになる。4曲目は......普通にクラブの午前3時にかかっていてもおかしくない。できの良いテクノ・トラックだ。5曲目は地味だが、後半になると狂気が爆発する。6曲目は......普通にクラブの午前5時にかかっていてもおかしくない。もっともポップなトラックである。リスナーはそして、メルツバウによる7曲目で再度フリーク・ショーの世界に落とされる。が、最後にはハッピーなアンビエントが待っている。DVDの映像を観るとライヴのステージ上では掃除したりアイロンかけていたりしている。たしかにこの音とヴィジュアルならフロアは笑顔で盛りあがるわ。

 そして......ジャケットのアートワークが最高。

Shackleton - ele-king

 断片化したのはポップだけではない。アンダーグラウンドもそうだ。クラブ系のサイトとしてはもっとも信頼が厚いと言われる「Resident Advisor」の年間ベストを眺めながら、自分は健吾やメタルみたいにテクノを頻繁に買っているわけではないけれど、それでも思ったより自分が知らない状況の変化があったわけでないのだな思った。上位にはダブステップ系が何人も入り(2562マーティンペヴァーリスト、シャックルトン)、ファック・ボタンズアニマル・コレクティヴまでもが入っている。20位以内に入っているフィーヴァー・レイもマティアス・アグアーヨも、ディンキーも僕は聴いた。そしてUKの「Fact」を覗くと、1位がザ・XXで、2位がテレパシー、3位がオマー・S。テレパシーは知らないが、他のふたつは聴いている。で、この上位3つは「Resident Advisor」のトップ20チャートには入らない。「Resident Advisor」も「Fact」も似たようなシーンを見ていながら、しかし年間チャートは別物となった。昔は、こんなことはなかった。メディアによって多少の差こそあれ、アンダーワールドのファーストやDJシャドウの『エンドトロデューシング』は間違いなかったし、エイフェックス・ツインの『リチャード・D・ジェイムス・アルバム』がどこにも載らないなんてことはなかった。シーンには共通理解があり、それなりにまとまっていた。が、いまは断片化した。それはつまり突出したものがないだけで、音楽がつまらなくなったわけではない。

 また、「Fact」のほうが尖っているとはいえ、興味深いのは「Resident Advisor」と同様にアニマル・コレクティヴが入っていることだ。立場は逆転したのだ。昔はクラブ系がロックに影響を与えていたものだが(エイフェックス・ツインがいなければコーネリアスの『ファンタズマ』は生まれなかったように)、いまはクラブ系がロックの最前線を取り入れている。だいたい「Fact」なんかミカチューが10位でジム・オルークが9位だ。創造的な試みという観点で言えば、たしかにいまはもう間違いなくオルタナティヴなロックに軍配は上がる。まあ、こういう時期もあるだろう。

 シャックルトンは、比較的動きがおとなしくなったダンス・カルチャーにおける挑戦者のひとりである。ベルリンに居を移して発表したこのアルバムは、彼の創作への野心が健在であることを証明する。アルバムはある種のダーク・ファンタジーであり、サイバー・パンクというよりも悪霊たちが彷徨うホラー映画だ。1曲目が"(No More) Negative Thoughts"(ネガティヴな思考はいらない)というのだが、この薄気味悪い音楽から輝く太陽や青い海は見えてこない。しかしこの奇妙なアンビエントは、驚くほど陶酔的だ。リスナーはそれから深い森のなかで迷子になる。"It's time for Love"でダブの催眠術をかけられると、続く"Moon over Joseph's Burial"(月の向こうのヨゼフの埋葬)でベルリン・ミニマルのもっとも暗い洞穴に導かれ、マイクロ・フックとベースラインが素晴らしい音を鳴らす"Asha in the Tabernacle"(礼拝堂の灰)に恍惚とする。エレクトロニカとハウス、ダブステップの奇怪な混合は、それから盛り上げることなく、絶妙な低空飛行を続ける。録音も絶品で、ダブステップの影響をここまで洗練させている音楽も珍しい。ひとつ気をつけなければならないのは、風邪を引いているときに聴いてはいけないこと、気が滅入っているときにも触れないことだ。
 ハルモニアのリミックス・ヴァージョン・シングルを早いところ買わなくては......。

Flashback 2009 - ele-king

写真左:旅人&やけのはら。七尾旅人は年明け早々の1月9日に恵比寿リキッドルームでライヴあり。
写真右:モーリッツ・フォン・オズワルド・トリオ。こちらは七尾の前日の1月8日に恵比寿リキッドルームでの来日ライヴが決まっている。

  整合性というのはつねづね僕のテーマのひとつである。が、気が変わるのは人間の性分であるし、だいたい雑誌というのはせっかちだ。2009年のベストを選ぶのに、早いところでは11月前半にその締め切りを言い渡される。12月初旬に売られるからだ。だから下手したら最後の2ヶ月はその年から除外されることになる。2ヶ月もあれば、人間、恋に落ちることもあるだろうし、死にたくなることだってある。運命を変えるには充分な時間だ。こういうとき、webは良い。本当に年末になって、それを書くことができるのだから。

 2009年は自分にとって、僕の長いようで短い人生の平均値を基準に考えた場合、ずば抜けて最低レヴェルの経験をするという忘れがたい年となった。非常ベルは鳴りだし、事態は臨界点に達した。デヴィッド・クローネンバーグの映画に放り出され、未知の絶望を感じするほか術がなかった。事態が信じられなかった......なんて惨めな! ときに自虐的で、まるで『地獄の季節』の最初の10ページのような呪いに満ちた茫洋たる暗黒大陸においても、僕にとって幸いだったのは、信じるに値する友人知人が何人もいたことだった。ありがたいことだ。

 いまこれを書きながら、僕はイギリスのプロト・パンク・バンドとして知られるザ・デヴィアンツのリーダーであり、『NME』の名物ライターでもあったミック・ファレンの著書『アナキストに煙草を』を読んでいる。ちなみにこの素晴らしい本を、こともあろうかこのご時世に刊行している「メディア総合研究所」は、他にもここ数年、『アメリカン・ハードコア』や『ブラック・メタルの血塗られた歴史』といったとんでもなく喜ばしい本を出している。このように、政権が代わっても思ったよりアッパーにはならない世のなかにおいて、貴重な光を届けてくれている稀な出版社だ。で、そう、60年代のカウンター・カルチャーから70年代のパンクにいたるまでの現場感覚に満ちたその『アナキストに煙草を』読みながら、僕はどこの国においてもいつでも同じことは同じなのだなと確認したことがある。そのひとつ、60年代の回想の下りだ。「特筆すべきは、我々全員の頭の中を独占していたひとつのこと、すなわち自分の人生がこれからどうなっていくのか、何が起こるのか、そういう類のことはほとんど話題に上がらなかったことである。地球の未来について語ることはあったかもしれないが、自分個人の未来について話すことはめったになかった。この点において我々は、十年以上経って出現するパンクと似ていた」(赤川夕起子訳)

 まったく......僕のまわりにいる連中はたいがいそうだ。個人の人生の未来など、考えていないわけではないだろうが、まず語らない。それがゆえに勝ち負け社会の確固たる敗者として生きているのかもしれない。我々は結局のところ「政治理論などほとんどどうでもよかった。それが我々の魅力であり同時に没落した原因」(前掲同)だった。

 しかし......、ところが僕はこの夏、自分の将来――といっても半年後だが――についていろいろ考えた。せこい未来だけれど、事態は思ったより深刻だった。さすがに考えざる得なかった。ど、ど、ど、どうしようか? と妻に訊いた。し、し、静岡に帰ろうかな? 僕は焼き鳥を焼いている自分を想像した。臆病な僕はしばらく妻の顔を直視できなかった。が、妻は、考えてみれば僕のようなデタラメな人間と結婚するくらいであるから、それなりの覚悟はできていたのかもしれない。まあ、そんなわけで、ずーっと家にいるようになって肩身の狭い思いをすることはなかったけれど、とりあえずできる仕事はぜんぶした。5歳の息子は「なんで仕事いかないの?」と訊いたが、「これが仕事だ」と言った。

 河出書房新社の阿部さんのおかげで1冊の本を作ることもできた。三田格、松村正人、磯部凉、二木信というひと癖もふた癖もあるライターと一緒に作った『ゼロ年代の音楽――壊れた十年』という本だ。「壊れているのはお前だろ!」と言われそうだが、それはまったくその通りで、しかしそうした個人の属性とはまた別の次元で、我々はこのゼロ年代の音楽ついて語り、書いた。150枚のアルバムも丁寧に紹介した。僕は編集者としてバランスを整えようと努めたが、結局はいくぶん偏ってしまった。それは二木信がネプチューンズやミッシー・エリオット他3枚のレヴューを辞退したからではなく、まあ著者全員が偏執的といえばそうだし、言い訳すればそもそも時代がそういう時代である(断片化されている)、と僕はその本のなかで解説した。欠点もあるが、それを補うほどの長所もある本が完成した(1月末に刊行します!)。

 つまりそんな事情もあって、僕は12月のある時間を集中的に、ゼロ年代というディケイドについて頭を使い、スケジュール管理に神経をすり減らしていたので、クリスマスのこの時期、正直言えば2009年という1年についていまさら強い気持ちがあるわけではない。たしかに2ヶ月前まではあった。が、いまはもう薄れてしまったのだ。

 僕は11月上旬に『EYESCREAM』誌でまずそれをやって、半ば過ぎに『CROSSBEAT』誌でアンケートに答え、続いて『SNOOZER』誌の特集に参加した。ところがこの2ヶ月は年末ということもあってやけにバタバタしていた。清水エスパルスは悪夢の5連敗を喫して、坂道をゴロゴロ転がった。僕はそれにいちいち打ちひしがれている暇もなく、原稿を書いて書きまくって、そして音楽を聴いていた。

 10月30日にユニットでiLLのライヴを見終わった後そのままクワトロで湯浅湾のライヴに行って、11月に入って2本のトークショーをこなし、静岡でDJ(もどき)をやって、七尾旅人のライヴに行って、新宿タワーレコードでXXXレジデンツの発売記念トークショーを宇川直宏とやった。12月は〈ギャラリー〉に踊りに行って、中原昌也のライヴに行って、で、その数週間後に毛利嘉孝の司会で中原昌也と東京芸大で話した。そしてそれから......久しぶりに"締め切り"という名の絶対的概念に苦しめられた。もちろんこの2ヶ月、僕はこの「ele-king」に情熱を注ぎつつ、と同時に、いま平行して作っているアーサー・ラッセルの伝記本の編集もしている(これがまた面白いのよ)。ここに記したすべてが僕にとって刺激的で、思考の契機となる。

 そしてこの数ヶ月というもの、僕は自分でも信じられない量の音楽を聴いている。まだ文字にしていないものを含めると自分の限界まで挑戦したと言っていい。寝ている時間と人と会っている時間以外は、ほとんど聴いていた。僕の長いようで短い人生の平均値を基準に考えた場合、ずば抜けて最高レヴェルの密度だろう。もうそうなると、2009年を回想することなど、ホントにどうでもよくなってくる。

 せっかくなので、いくつか気になったことを書き留めておく。2009年の最高の曲のひとつは七尾旅人+やけのはらによる"Rollin' Rollin'"だ。奇しくも、東京NO1ソウルセットとハルカリが90年代のバブルな感覚を懐かしむように"今夜はブギーバック"をカヴァーするかたわらで、"Rollin' Rollin'"は"現在"を表現した。この曲の良さは水越真紀さんがレヴューで書いている通りだと思う。つまりこれは、この10年、バブルな思いとは無縁だった世代の素晴らしい経験が凝縮されたアーバン・ソウルだ。

 RUMIの3枚目の『HELL ME NATION 』もこの2ヶ月で好きになったアルバムだ。彼女は、このハードタイム(厳しい時代)を生きる女性のひとりとしてのリアリズムを追求する。30歳という自分の年齢まで歌詞にしながら、彼女の意気揚々とした姿はこの国の女性アーティストたちが手を付けてこなかった領域に踏み入れているように思える。とても元気づけられる作品だ。もしクレームを入れるとしたらジャケのアートワークだけ。それ以外はほぼパーフェクトだ。ラップものでは、他にも何枚か素晴らしいアルバムに出会えた。『EYESCREAM』にも書いたが、S.L.A.C.K.は最高だ。言葉も音も良い。そこには不良少年の毒と清々しさの両方がある。2009年に彼は発表した2枚、『MY SPACE』と『WHALABOUT』はどちらとも良い作品だ。出勤や登校で異様なテンションを発する朝の駅に、遊び疲れた身体を引きずりながら友だちや恋人と一緒にいた経験がある人ならこの音楽を身近に感じるだろう。疎外者たちのメランコリアだ。ファンキーという点ではTONO SAPIENSが良かった。嗅覚の鋭い連中が集まる下高井戸のトラスムンドやSFPの今里君、あるいは磯部涼が絶賛するSTICKYはまだ聴いていない。

 SFPも、4曲だが新録を発表した。リリース元の〈Felicity〉は、もともとはポリスターでフリッパーズ・ギターやコーネリアス、〈トラットリア〉をやっていた櫻木景という人物だ。例の「Rollin' Rollin'」も〈Felicity〉からのリリースで、いわば90年代前半の渋谷系に思い切り関与していた人間がいまこうして七尾旅人やSFPを出しているところが"いまの時代"を物語っていると言えよう。

 とまれ。僕は、いまこの日本にはふたりの強力なパンクがいることを知っている。真の意味での反逆者と言ってもいいし、彼らはこの国の"自由"の境界線を探り当てているという点においてパンクなのだ。そのひとりは中原昌也。彼はいわば、映画『If...』のマイケル・マクドウェルで、グレアム・グリーンが『ブライトン・ロック』で描いた17歳のピンキーだ。いずれ校舎の屋根に上って散弾銃をぶっ放すかもしれない。そしてもうひとりがSFPの今里。SFPの「Cut Your Throut」は興味深い作品で、ここがイギリスなら〈リフレックス〉や〈プラネット・ミュー〉から出ていてもおかしくない。SFPのハードコアは、いまとなっては誰もが思い描けるようなハードコア・サウンドで統一されていない。ポスト・モダン的にスキゾフレニックに展開されている。「Cut Your Throut」にはラウンジとサイケデリックとノイズコアが同居しているが、そういう意味でSFPはこのシングルで新しい領域に踏み入れたと言える。当たり前だがハードコアやパンクとは様式(スタイル)ではない。サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』もまたハードコアであるように。

 電気グルーヴが彼らの20周年を祝うアルバムを発表したのも2009年だった。これを書いているたったいま(12月25日)も、僕の5歳になる息子は電気グルーヴの「ガリガリ君」を聴いている。僕が奨励したわけではない。能動的に、しかも繰り返し何度もだ。「2番がちょっと恐いんだよね」と感想を言っている。ちなみに「2番」とはオリジナルの次に入っている別ヴァージョンのこと。まあ、電気グルーヴにしてもクラフトワークにしても、何が素晴らしいかと言えば、あの罪深きトランス性によって3歳児から40歳児までをも興奮させるところだ。この年代になってわかることだが、それはエレクトロニック・ミュージックの"強み"のひとつだ。石野卓球からは、90年代に彼が体現した危うさはなくなってしまったけれど(誰も彼を責められない、あのまま突っ走っしることなんか誰にもできない)、彼の芸は円熟の領域に入ろうとしている。『20』を聴きながら、僕はそう思った。

 2010年にはマッシヴ・アタックの5枚目のオリジナル・アルバムが待っている。ヴァンパイア・ウィークエンドのセカンドも控えている。自分たちがいまどの方向性を選べばいいのか理解しているという意味において、どちらも良い内容だった。時代の空気は変わろうとしている。日本の音楽も面白い方向に転がっていくかもしれない。

 

■Top 25 Albums of 2009 by Noda

1. Atlas Sound / Logos(Kranky/Hostess)
アニコレがビーチ・ボーイズならこちらはビートルズ。毒の詰まったポップ。
2. S.L.A.C.K. / Whalabout(Dogear Records)
21世紀の薬草学におけるビートと日常生活のささやかな夢。
3. Girls / Album(Fantasy Traschcan/Yoshimoto R and C)
素晴らしきバック・トゥ・ベーシック。ここにも夢と星がある。
4. Volcano Choir / Unmap(Jagjaguwar/Contrarede)
ポスト・ロック時代の山小屋のロバート・ワイヤットといった感じ。
5. Major Lazer/Guns Don't Kill People...Lazers Do(V2 /Hostess)
ダンスホールにおけるスラップスティック。
6. Animal Collective / Merriweather Post Pavilion(Domino/ Hostess)
サイケデリック・ポップとエレクトロニカの華麗な融合。
7. The XX / XX(Young Turks/Hostess)
アリーヤとヤング・マーブル・ジャイアンツとの出会い。
8. V.A. / 5 Years Of Hyperdub(Hyperdub/Ultra Vibe)
アンダーグラウンド・サウンドにおける最高のショーケース。
9. Mortz Voon Oswald Trio / Vertical Ascent(Honest Jon/P-Vine)
『ゼロ・セット』から26年。1曲目を聴くだけで充分。
10. Grizzly Bear / Veckatimest(Warp /Beat)
ポール・サイモンが『キッドA』をやった感じ。"Two Weeks"は最高。
11. Micachu / Jewellery(Accidental / Warnner Music Japan)
批評精神に満ちたポスト・モダン・ポップのレフトフィールド。
12. Flying Lotus / L.A. EP CD(Warp/Beat)
レフトフィールド・サウンドにおける期待の星。
13. Rumi / Hell Me Nation(Pop Group)
リアリズムと世俗的だが素晴らしいファンクネス。
14. Bibio /Ambivalence Avenue(Warp/Beat)
エクスペリメンタル・ヒップホップの甘い叙情詩。
15 鎮座DOPENESS / 100% RAP(W+K東京LAB /EMI)
植木等とラップとダンスホールの出会い。
16. Moody /Anotha Black Sunday(KDJ)
アンダーグラウンド・ブラック・ジャズ・ファンク・ハウスの底力。
17. Dominic Martin / The Annual Collection(BeatFreak Recordings)
ジャングルの知性派によるエレクトロニカ・ポップ。
18. Toddla T/Skanky Skanky(1965)
モンティ・パイソンによるダンスホールといった感じ。
19. Speech Debelle / Speech Theory(Big Dada/ Beat)
取材してがっかりしたが、良いアルバムだと思う。
20. Fuck Buttons / Tarot Sport(ATP/Hostess)
スタイリッシュかつダンサブルに変貌。次作で化けるでしょう。
21. Dirty Projectors / Bitte Orca(Domino / Hostess)
NYのアート・ロックのお手本のような1枚。
22. Antony and the Johnsons / The Crying Light
(Secretly Canadian / P-Vine)
現代のディープ・ソウル。EPのみの"Crazy In Love"も最高。
23. 2562 / Umbalance(Tectonic /AWDR/LR2 )
ダブステップにおけるフューチャー・ファンク。
24. Juan Maclean / The Future Will Come(DAF / P-Vine)
ヒューマン・リーグ・リヴァイヴァルを象徴する作品。
25. Beak> / Beak (Invada /Hostess)
ポーティスヘッドによるクラウトロック賛歌。

Pitbull - ele-king

 マイアミからキューバ系クランクの4作目。移籍第1弾となるせいか、以前よりも威勢がよく、ゲストにはエイコンやリル・ジョンなどが参加(予定していたファレルは見送り?)。先行シングル「アイ・ノウ・ユー・ウォント・ミー」は全米2位、デビュー・アルバムではミリタリー・ルックだったアルマンドー・クリスチャン・ペレーズもここでは007気取りにすっかり様変わりしている。"ガールズ"や"ジューク・ボックス"などタイトルを見た限りではパーティ系にフォーカス(?)しているようで、自信に満ちたプロダクションが矢継ぎ早に繰り出されたと思ったら(曲によってはほとんどテクノ)、あっという間に......って、全体で50分弱しかなかった(3ヵ月遅れの国内盤にはリミックスなど2曲プラス)。

 スティーヴン・ソダーバーグが映画を撮るまでゲバラのことは知らなかったというのはさすがにどうかと思ったけれど、キューバとアメリカの距離感がドラスティックに変化しつつあるなか、かつてはキューバ(の同性愛者迫害)に批判的な主張を掲げたアルマンドー・クリスチャン・ペレーズがアメリカのどのような層に支持されているのかはナゾだったりしつつ、『レベリューション』は過去最高のチャート・アクションを達成しているようで、シングル・カットが少なかった前作とは打って変わったウエルカム・モードにはたじろぐしかない(メジャー・レイザーやトッドラ・Tがいくらバカっぽいといっても、ここまでのエナジーはありませんよ。どうかしてますよ)。ちなみにソダーバーグは知らなかったとはいえ、何もあそこまでゲバラをカッコ悪く描くことはなかったのでは......。あれは意図がまったくわからなかった。もっといえば『パイレーツ・オブ・カリビアン』の海賊船は史実ではイギリス軍のカムフラージュで、襲う側と襲われる側が映画では逆に描かれています。なんで、そんなことをする必要があるのか。マイノリティの人権やアクセントのなまりまで忠実に再現するようになっているハリウッド映画が中南米に関してはアレックス・コックスを除いてこうもデタラメなことばかりやるというのは一体どういうことなんだろう......といったようなことを、このアルバムはまったく考えさせません! そして、"クレイジー"の間奏で微妙にウネるシンセ・ベースはさすがリル・ジョンです! バカ過ぎて書くことがなかった! 英語とスペイン語がチャンポン!

James Pants - ele-king

 なんですかね。出世作となったセカンド・アルバム『ウエルカム』は同時期のオリヴィエ・デイ・ソウル(ハドスン・モーホーク)や北欧のナイキ・ソングになったキッセイ・アスプルンド「シルヴァー・レイク」(ドリアン・コンセプト)と同じくアシッドな傾向を持つR&B群のなかではやや物足りない雰囲気のものになっていたと思っていたのに、それ以前と同様、その後もアルバムを出すごとにキャラクターを変化させ、ここへ来てあっさりとモンドに様変わりしてしまいました。マンネリ大魔王と化しているエンペラー・マシーンとはジャケットも含めてほとんど同じか、もしくは全体にパーカッシヴな音が強くなっているだけ......とはさすがにいわないけれど。

 ナッシュヴィルで、しかもパンツを名乗っていながら、インナーには神秘主義にかぶれたらしき黄金分割や数秘術らしき「説明」がびっしりと書かれ、これが演出だとしたら、このイカガワしさはかなりのもの(深入りしないで雰囲気だけを楽しむのが現代人の知恵というやつです)。「時を超えて」「卵のなかに暮らし」「空は警告する」などイメージの広げ方にも工夫があるといいたいところだけど、後半に入って「私はウソをついたと約束する」という曲があるのはどういうことだろう? ......わからない。思い出すのはやはりモンドとポップの架け橋になっていたモルト・ガーソンが60年代後半に人類と宇宙のつながりを理解するために制作したゾディアック・シリーズなんだけど、エレクトロをベースにガーソンがやろうとしていたことをコンピュータ時代に再現しようとしたものなのかどうか。「すべてのものには終わりがあり、それが運命。もう一度、ひとつになろう」って、やっぱり本気のようだなー。リチャード・バックは何度でも蘇る......。『ターミネイター』のように......。

 たまたま今年は70年代のラテン・ファンクと同じく北欧電子音楽がイージー・リスニングを接点にどのように結びついているかという辺りを重点的に聴いていたので、同じモンド文脈でもそれらと共有するところがあるようでいて、やはり、ビートが決定的に強く、『ウエルカム』同様どこかプリンスを思わせるところが大きな差として伝わってくる。そういうところはこの40年まったく変わっていないのかもしれない。リズムを第1に考えているということは(プリンスが神秘主義に走ったらこうなるのかなという想像も含めて楽しめます、はい)。

Fuck Buttons - ele-king

 アンディ・ウェザオールをプロデューサーに迎え、ノイズ・ドローンから一転してビート・アルバムに鞍替えを図ってきた2作目。先に全曲フリー・ダウンロードも可としていたもので、パッケージはエンボス加工の凝ったデザイン。ファッション化しはじめていたドローンにむしろ積極的にモードの要素を取り入れ、ポップ・ミュージックとしての完成度を目指したとでもいうようなスウィートな滑り出し(=先行シングル)から、アルペジオなど明らかにグローイングのパクりとしか思えない手法も交えつつ、全体的にもどこか両義的ながらドローン・サウンドをポップ・ミュージックのリストに付け加えようという気迫に満ちている(そういう意味ではジーザス&メリー・チェインがニューウェイヴの幕引きを演じたのと同じく、形骸化も甚だしいエレクトロ(クラッシュ)に正面からサイケデリック・サウンドをぶつけることでメイン・ストリームにドラッグ・ミュージックの復権を訴えているような印象も)。ベースを思ったより低く抑えているのはクラブ・ミュージックとの距離を残しておくためなのか、半面でDJミックスのセンスは充分に活用し、結果的には(ドローンとエレクトロニカを融合させたKTLとはまったく逆の意味で)ニッチを確立したプロダクションになっている。アメリカ産に比して余韻にニュアンスを多く含ませるところはやはり英国流ならでは。ハウス・ミュージックがレフトフィールドの手によってイギリス流に生まれ変わった瞬間のことを思い出す。どうせならリズムにもう少し工夫があってもいいかなとは思うけど(そこはグローイングがフリップ&イーノに喩えられる所以というか)、本当に前衛で終わるつもりはないんでしょう、ヴォーカルを入れればコクトー・ツインズになることも夢ではないかもしれません(?)。

 サッド・コアと同一視されるスロー・コアとは一線を画していて曲調はむしろバリアリックとさえいえるほど明るく希望的(その方がやぶれかぶれに感じられる時代だったりして。でも、説得力がないわけではなく、むしろザ・プレゼントやマイ・キャット・イズ・アン・エイリアンのように現実を忘れてしまうほど強烈なイメージの飛躍はないことがポップ・ミュージックとしての存在を感じさせるとも)。こうなったらどこまで楽しく器用にセル・アウトしてくれるかが今後のお楽しみ。あー。でもその時はユニット名を変えないとダメかな。

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