「Low」と一致するもの

Gr◯un土 - ele-king

 大阪の音楽シーンには得体の知れないモノを生む出す力がある。ことクラブ・カルチャーにおいては90年代初頭からそれはずっとあったし、いまも失ってはいないようだ。
 大阪らしさのひとつには、ボアダムス的な折衷主義がある。思いも寄らないものが同じ宇宙で渦巻くようなアレである。Gr◯un土(グランド)にもそうした大阪らしさを感じる。彼の音楽は、ハウス・ミュージックを基調にしながら、今福龍太のクレオール主義よろしく世界のいろんな文化がパッチワークされる。じっさい彼が音楽を作るのは移動中=旅先なのである。南米や欧州やアジアや、それぞれのとある街で作られた彼の音楽には、日本には欠落しているのであろうなにか(文化)が注入されている。ゆえにその響きは、感性を拡張させる。
 昨年リリースされたアルバム『Sunizm』がひとつのきっかけになって、じょじょにではあるが、彼のスロー・ハウスの魔力により広く注目が集まりはじめている。とはいえGr◯un土(グランド)は、すでに10年以上のキャリアを持っているので、もうベテランと言ってもいいかもしれない。なんにせよ、ぼくはようやくこの天性の旅人と話すことができた。

自分が影響を受けたDJは京都のMamezukaさん、Sinkichiさん、Daichiさん、大阪だとマスモト・アツコさん、Dr Masher。YA△MAさんにダビーなハウスを教えてもらったり、Akio Nagase君からもダブとエレクトロニクスが融合してる感じのをたくさん教えてもらいました。

DJをはじめたのは何年?

G:クラブで働きはじめたのが19歳くらいのときでそのタイミングです。

大阪のクラブ?

G:大阪のfireflyというクラブです。東心斎橋というエリアに、fireflyという小さいクラブがあって。

15年とか17年くらい前の話?

G:はい。

じゃあ2000年代頭?

G:はい。

2000年代初頭の大阪には何があったんですか?

G:たくさんあったと思いますが、ひとつはMamezukaさんがオーガナイズしていたJAMs、あとはお店の先輩Dr.Masherがオーガナイズするアンビエントを主体にしたClearというイベント、単純に自分が働いていたお店でやっているパーティからの影響が強かったと思います。大阪・味園ビルの一角に週末だけオープンするクラブ『鶴の間』や京都の『活力屋』など、自分はFireflyで働いていたので、なかなか週末抜けるのは難しく、仕事が終わってから、先輩や同僚と鶴の間やMACAOに遊びに行ったりもしました。でも、なかなか他の箱に遊びにいくのは難しかったりしましたけど。

ALTZ君とか?

G:ALTZさんの名前はもちろん知っていました。ベータランドというVJユニットだったり、YA△MAさん。FLOWER OF LIFEに遊びに行ったりもしました。毎回参加はしていませんが、EYEさんが17時間? 18時間?セットをMACAOでやってたのはいまでも記憶に残っています。「凄いな〜」って。

じゃあ、影響を受けたDJも?

G:自分が影響を受けたDJは京都のMamezukaさん、Sinkichiさん、Daichiさん、大阪だとマスモト・アツコさん、Dr Masher。もともとFireFlyで働くきっかけを作ってくれた服屋の方がFireFlyでダブのイベントをやっていたので、初めはニュー・ルーツ、ON-U関連とか、そこからNew Tone RecordsでYA△MAさんにダビーなハウスを教えてもらったりして。あ、こういうのもかっこいいなって。YA△MAさんは本当にいろいろ好みな音を教えてくれましたね。他にもAkio Nagase君からもいろいろなUKのムーディー・ボーイズとかダブとエレクトロニクスが融合してる感じのアーティストをたくさん教えてもらいました。

そこから自分でもDJをはじめたの?

G:はい。働いているクラブでイベントをオーガナイズしながら。自分でオーガナイズをすると、自分でもDJをする時間ができるので、そこからはじめました。

最初からグラウンドという名義だったんですか?

G:はい。Groundです。10年経ったときに土をつけたんですよ。Оをでっかくして、グラウンドのDを土にして(Gr◯un土)、10年目だし進化させて変えていこうと(笑)。

いまはでも普通の表記だよね。

G:いまは。この前〈ESP institute〉というレーベルからアルバムを出したんですけど、あのときに名義が英語じゃないとややこしいからというレーベル側とのやりとりがあったんです。ならGroundにしようって。DJ Ground名義でもいろいろ出していますが。いまでも日本でDJする時はGr◯un土って表記して貰ったりしてますが。

〈Chill Mountain〉というのは?

G:〈Chill Mountain〉は2005年大阪・南河内でスタートした野外のキャンプ・イベントの名前で、5年前に野外での活動はストップしたんですが。その後もコレクティブとして各自メンバーは活動しています。自分は大阪のエンジニアKabamixさんの協力もあって、Chill Mountain Recという名でレーベルを運営したり、オリジナルメンバーにDJ のTOSSYとKAZUSHI、ギタリストのCHILLRERU(現在は陶芸家の松葉勇輝)、デコレーションを担当するm◎m◎、BARBA(現在 ウッドワーカー)、デザインやSILKSCREEN PRINT(SILK LOAD)をしているMT.CHILLs。いま現在も各自、形は変われど表現者として活動しているので、タイミングでまた集まって開催したいなとも思ってもいます。

いつから曲を作りはじめたんですか? 

G:25歳とか。11年前くらいですかね。はじめはDJだけでした。働くクラブが変わって。もともと東京で〈SOUND CHANNEL〉というレーベルをやっていたTAIYOさんが、大阪、難波、味園に『鶴の間』をオープンさせて、その移転後、大阪、大正(SOUND CHANNEL)をオープンさせて、僕自身もそこで併設されてたレコ屋でAkio Nagase君のMake dub recordsを手伝いながらSOUND CHANNELで働いていました。
Taiyoさんに手伝わせて下さいって言ったのを今でも覚えています。その時にじゃあAKIOの店を手伝えよって。
いままでのオーナーはザ・オーナーという感じだったんですけど、そのクルーは自分たちでも曲を作っていて。何をやっていきたいのかをTAIYOさんに訊かれたときに、「DJで食べていきたいです」と言ったら「じゃあ曲を作らなくちゃだめだよ」って。初めてパソコンで曲を作るやり方を見せてくれたのもTAIYOさんでした。機材が無いと作れないと思っていた自分に、「MAC BOOKに元から入っているGarage Bandっていうソフトでもできるよ、初めはそこからやってみ」、と。仕事明けに横に座って付き合ってくれたのをいまでも覚えています。ヨシオ君(Dollop)も丁寧に教えてくれましたね。みなさんもうそんなこと忘れていると思いますが……。

ファースト・アルバムは2015年の『Vodunizm』?

G:はい。それまではミックスCDだったり、1曲だけコンピに提供したりしていました。2008年(『Sync』)がたぶんいちばんはじめです。

どういうコンピレーションだったの?

G:アンビエントとかブレイクビーツとか。〈Chill Mountain〉メンバーのTOSSYがO.Rとはじめたレーベルでしたね。

とにかく、ずっとアンダーグラウンドでやっていたんだ?

G:はい。オーヴァーグラウンドというものにまだ触れていません。触れる機会すらないですよ。あるんですかね? 触れる機会……。

自分の音楽性みたいなものの方向には、野外でパーティをやった影響が大きかった?

G:だと思います。

グローバル・ビートというか、エスニックな感性がグラウンド君の音楽の特徴だと思うけど、それはどこからきたの?

G:レコードを買っていくときに、無機質なものよりワールド・ミュージック・テイストなものがやっぱり好きで。どつぼやったのがオーブとか、レネゲイド・サウンドウェイヴとか、レーベルでいうと〈セルロイド〉とか。先輩がそういうのを教えてくれて。だからダブからはじまったんですよね。最初はジャマイカのダブを聴いていたんですけど、その後ダブっぽいベースラインのエレクトロニクスを好きになって。それでレネゲイド・サウンドウェイヴとかムーディ・ボ-イズとか知って。それで24歳くらいのときにイギリスに行きました。ユースさんとかアレックス・パターソンさんは実際どんな感じでやってんねやろみたいな(笑)。

会いに行ったんだ(笑)。すごいな。本人とは会った?

G:会いました。ホワイトチャペルっていうエリアに2ヶ月半くらい住んで、ユースさんがブリクストンのJammという箱でイベントしていて、通いました。もう成熟した大人の方々なので、「日本からこいつ好きで来たらしいで」みたいな感じでしたが。ただ、同世代の子がユースさんのパーティを手伝っていて、その子が興味を持ってくれて、仲良くなって。「DJやらしてもらえるように俺が言うから」ってその子が言ってくれたんですけど、しばらく住んでてヨーロッパの他の国に行ったんですけど再入国できず、結局イベントに参加できずDJできませんでした(笑)。フライヤーはいまも部屋に飾ってあります(笑)。ちょうど地下鉄テロが起きたときで、とくに厳しかったみたいですね。ドーバー海峡のトンネル経由のバスでドーバー海峡渡る前のイミグレーションで引っかかり、フランスからドーバー海峡渡れず、フランスに2週間くらいいました。

よく日本に帰ってこれたね(笑)。フランスでは何をしていたの? 

G:とりあえずパリに行って、ゲストハウス探して、荷物は全部イギリスにあったので、カバンひとつでって感じで。記憶が結構断片的というか。相当テンパってたんだと思います。泊まったゲストハウスの壁がベロンベロンに破れてたのが記憶に残ってるくらいですね(笑)。あと、大阪で過去に共演したDJの方と偶然の偶然に再会したり、みんなで地べたでサラダ作って食べたのとか覚えてますね。どこかでまた再会したいですね。パリから航空チケット買って名古屋空港経由で帰ってきました。

いきなりミックスマスター・モリスの家に行ったのも笑えるな。

G:日本人の友だちのYUKIさんという方の誕生日会をやっていて、行ったらフラットメイトがモリスさんで。レコードもたくさん持っていて、すごく優しい人でしたね。でも何年かあとに日本にモリスさんが来て、そのときのことを話したら覚えてなくて。いっしょにサン・ラーのヴィデオ見たのにって(笑)。ま、そんなもんですよね(笑)。

ALTZさんはバンドマンなので、ただのDJとは違って音楽的な部分もちゃんとあって。ああいうふうに歳をとれたらいいなぁって思いますね。みんなでバンドして楽しそうだなって(笑)。同級生の親友と見に行ったんですが、2人で見ながら、こういう風なの憧れるよなって。ALTZさんは天才です。

『Vodunizm』はどういう意味なの?

G:これは4年前に東京のDJの7eちゃんが「Voodoohop(ヴードゥーホップ)のトーマッシュというプロデューサーが来日するんだけど、絶対合うよ!」って紹介してくれて、大阪で彼をゲストに〈Chill Mountain〉コレクティブでパーティしたんですけど、そのときに。2歳かな?  僕の年上なんですけど、話をきいたら世界中を飛び回っていて。すごくおもしろいコレクティブで。世界には同世代にこういう子らがおるんかと思いました。で何故かヴォダンとかブードゥとかアフリカ発祥のいろんな文化も興味が出て調べたりして。精霊のこととか、すごくおもしろいなと思って。それでヴォダンにニズムを付けて「Vodunizm」。造語を作るのが好きなんですよ。精霊別のイメージで曲作ったりして。
トーマッシュに、どうやったらそんな風に海外を回れるのと訊いたとき、サウンドクラウドに曲をアップして良かったら連絡がくるよみたいな感じで教えてくれて。とりあえず曲ができる度にひたすらSOUND CLOUDにアップしていた時期があるんですよ。そのときにいろんな方面から連絡がきまして。そっから海外からのリリースや海外でのDJ活動もはじまりましたね。3年前にはじめてドイツ、ケルンとか、ヨーロッパに行きました。その前に韓国に行ったこととかはあったんですけど、ヨーロッパはそのときがはじめてでした。去年はメキシコ、チリ、ブラジルに行ったり。

中南米ツアーだね。それはどういう繋がりなの?

G:Voodoohopにフローレンスさんというフランス人の美しく敏腕な女性がいるんですけど、その人が全部繋いでいってくれて。ここでできるから、もう話しているからと進めてくれて。その人がチケットとかも用意してくれたり。泊まるところを提供してくれたり。本当に感謝しています。

行く先々で曲を作っているみたいだけど。

G:はい。

それはPCで?

G:いまも持っているんですけど、ラップトップだけで。あとは一応レコーダーみたいなものも持っています。それで録ったものを取り込んだり。

じゃあ誰か人の家で作るの?

G:そうですね。いちばん多いのはプロデューサーの家に行って一緒に作ろうって。あとはどこでも。アパートの階段で作ったりもしますよ(笑)。

そうやって作ったものが去年出たアルバム(『Sunizm』)?

G:これはレコードが出たのは去年ですけど、曲自体は2016年にできたものなんですよ。

これ、とくに1曲目、2曲目が最高にかっこいいです。

G:ありがとうございます。“Osaka Native”というのは、大阪ごちゃまぜで、あんまりポリシーみたいなものを持っていないというか。アフリカの音楽だけでとか南米の音楽だけでとか、僕の頭のなかではそれがごちゃまぜになって、地球民族音楽みたいな。(笑)。おもしろいところを組み合わせたらおもしろいんちゃうかなみたいな。そういうところが根本なので。“Osaka Native”も大阪ネイティヴと言っているんですけど、いろんなところの、日本民謡とかも混ぜていたりとか。結局自分は大阪人なんで。笑えてなんぼなんですよ。

なるほどね。全然大阪ネイティヴじゃないね。

G:人によってそう感じるかもしれませんが、これは自分にとっては“Osaka Native”なんですよね(笑 )。ごちゃっとした感じというかいろいろ混ざってるというか。かっこいいと感じでもらえてたら自分的には何でもいいです(笑)。

大阪の人ってそういう感覚があるよね。ボアダムスもそうだったし、いろんなものをいろんなところから持ってくる独特の雑食性。しかも、わけのわからない、脈絡のないものを持ってくるみたいなところがあるよね。

G:発想力が重要なんじゃないでしょうか? 面白さというか、人が思いつかないようなもの。とか。そういうことが沁みつきすぎていて、それが自分の色になっているんかなみたいな。これとこれは絶対やらんやろとか。そんなことばっかり。これとこれを混ぜたらめっちゃおもろいねんけどみたいな。コピーみたいなものを自分は全然面白いと思わないので。

今年出たアルバムの『Cashoeiracid』。これはいつの録音なの?

G:これは去年の音源です。去年、ヨーロッパと南米で。

大阪にいるときは作らないんだ(笑)。

G:作らないわけではないんですが、最近は海外で作ってきた作品を、大阪にあるKabamix氏のLMDスタジオでミックスを教えてもらいながら作業したり、海外で作ったものを作品として仕上げる、のに一杯一杯な所もあります。で出来上がったらリリースして次の国へ、みたいな感じです。

旅しているときに作るんだね。おもしろいね〜。

G:ずっと住んでいる場所は安心はするんですけど。初めての場所にいると全てが違うので、なんていうかゾーンに入りやすいんですよね。作りたいというスイッチが絶えず入っていて。ずっと作っています。観光いかんでいいんかとか、みんなに言われますけど(笑)。今年行ったエクアドルもけっきょく全然観光していない。ずっとPablo君(Shamanic Catharsis)とJuan diego Illescas君のスタジオで曲を作っていましたね。あ、何箇所かは行きましたよ!

グランド君の音楽のベースにあるのはハウス・ミュージックだと思うんだけど、ハウスはどこに行っても通用する?

G:難しい質問ですが。通用するとこ通用しないところいろいろあるんではないかと思います。サンフランシスコやカナダのバンクーバーの野外フェスに行ってきましたが、主流はベース・ミュージックなんだと思いましたし。世界のいまのシーンはテクノの人が多いかなと感じることはありますが。それはRAが主体な(これが世界のクラブ・ミュージックの中心)的な風潮なんじゃないでしょうか、この地球は本当に広いので、そういう媒体に取り上げられていないシーンもたくさんあると思います。そういうシーンをもっと知りたいなって。自分の目で耳で見たものが自分にとってはリアルなんで。媒体に取り上げられてない素晴らしい天才達を自分は知っているので。
インターネットが地球上に普及しているので。そういう媒体からみんなこういうのがいまの主流と錯覚して拾ってきている感じがしますね。以前だと雑誌から情報を得ていたと思うので。ただそれは全て日本人が日本人用に作ったもので、あって、という感じですね。日本で異常に人気がある海外アーティストがヨーロッパの同世代のなかでは全然知られてないっていうのもたくさんありますね。誰それ? みたいな。

すごいね。スケールがデカいなぁ。

G:10数年前に比べると自分たちの世代はめっちゃ恵まれていると思っているんですよ。インターネットにしても、海外に行くにしても、昔は本当に大変だったんだろうなと感じます。google翻訳やgoogle mapもあるし、情報を調べればなんでも出て来る。十数年前は海外の現場とかまで行くにしろ、その現地の言葉で運転手に伝えて、行くわけじゃないですか、騙されたりたくさんあったと思います。いまは最悪どうしようもなければアプリのUberに目的地入れてそこまでの料金が出てドライバーが迎えに来てそのまま現場に行けるので、騙されることもだいぶ減っていると思うんです。料金も出ているし、そのドライバーは騙したら自分のポイントも下がるので。そういう意味でもテクノロジーが発達したことによって海外でもDJは動きやすくなっているんじゃないかなと思います。自分はマネージャーもいないので、そう感じます。マネージャーがいるDJの方々はまた違うと思いますが。音源のデモテープとかもいまはメール1本で1秒後には地球の裏まで届くわけじゃないですか。なんで昔の方に比べると本当に時代が変わったんだと思います。あ、あくまで自分の場合は、ですよ。

新しいアルバムはいつでるの?

G:8月にエクアドルで作ったEPが自分たちのレーベル〈Chill Mountain Rec〉からリリースされます。いままではずっと〈Chill Mountain Rec〉という自分らの媒体でリリースもやってきているんですけど、僕はほんまにプロモーション能力もひく過ぎて。

これからもっと売れるますよ! ところでALTZ君とか元気ですか?

G:この前会いました。Kabamix氏がP.Aで所属しているALTZ.Pというバンドのリリース・パーティで豊橋まで見に行ってきました。ALTZさんの歌のパートも増えていて、ボコーダーで。めっちゃかっこよかったです。もともとALTZさんはバンドマンなので、ただのDJとは違って音楽的な部分もちゃんとあって。ああいうふうに歳をとれたらいいなぁって思いますね。みんなでバンドして楽しそうだなって(笑)。同級生の親友と見に行ったんですが、2人で見ながら、こういう風なの憧れるよなって。ALTZさんは天才です。

いまの大阪のシーンはどうなっているの?

G:一時期の壊滅期に比べると新しく発生しているクラブとかもあって。厳しい環境でも止めずにDJとして頑張ってシーンを作っている方もたくさん知っています。いま現場で残っている人たち筋金入りの本気な人たちだと思います、死ぬまでみんな活動するんだなと思います。いまは箱で働いているわけじゃないので、細かなシーンの様子は自分は把握していませんが。僕はいまレギュラーパーティを持っていないのでMamezukaさんとChariさんが主催する『奇奇怪怪』というパーティに定期的に参加させてもらっています。Mamezukaさんは京都で昔、Mashroomというクラブ作ったり、MEGA道楽というライヴや喜怒哀楽やJAMsというパーティをやっていたり、フジロックの前夜祭で毎年DJしていたり、活動、人間性、すごく影響を受けました。関西で豆さんの影響を受けた方々はたくさんいるんじゃないでしょうか。

あの人はすごい初期からがんばってるよね。同じ世代なのでね。昔からアンダーグラウンドでやっている。

G:自分にとって心のお父さんみたいな感じです。

でもマメちゃんは京都じゃなかった?

G:京都です。おもしろいパーティやってます。新しい音楽も取り入れていて。いまだに進化しています。なので、最新の音をやっていますね。クラシックに頼らず、進化する姿勢は本当に素晴らしいです。歳を取っても自分もそうありたいなと思います。ただ、マメさんはデータにはいかずに、自分の曲も絶対に「レコードで出んと俺はかけられへん」って。「マメさんめっちゃええ曲できたんですよ!」って。報告しても「ごめんな」って(笑)。レコードにならないとマメさんに使ってもらえないんで、そういう部分含めて自分にとって心の父なんです。簡単にはかけてもらえないという。
あ、でも、いちばん新しいのは「AMANOGAWA EP」というレコードなんです。ドイツの〈SVS〉というレーベルから最近出たやつで。Bartellowというドイツ人アーティストと僕が一緒にプロデュースしたやつで、彼の来日ツアー時にKabamix氏のLMDスタジオで作った曲で。
シンセサイザーにMAYUKoさん、ヴォーカルにArihiruaさんやMt.Chills、Kabamix氏も参加してくれています。BARTELLOW & DJ GROUNDという名義で出てます。それはマメさんに使って貰えるかもですね。笑

ミッドナイト・トラベラー - ele-king

 スマホだけで撮ったドキュメンタリー。実験的な映像が随所にインサートされ、洒脱な仕上がりに。そして、なによりもアブストラクトな音楽が素晴らしい(エンディングはシガー・ロスみたいだったけど……?)。登場人物は監督の家族だけで、いわばホームヴィデオ。ただし、一家はタリバーンから殺害命令が出され、アフガニスタンには住めなくなった映画監督と妻、そして2人の娘である。監督のハッサン・ファジリには若い頃に意気投合した親友がいた。そいつがまさかのタリバーンに加わっていたため、だったら、捕まっても助けてくれるだろうと高を括っていた。が、彼が撮った映画の主演俳優が殺され、お前も危ないと忠告を受けてファジリは国外に脱出する。彼がどれだけ慌てていたかは、脱出部分の映像が一切ないことでも容易に推し量れる。

 一家はまずタジキスタンに逃れた。この時点であっという間に難民である。世界に約7000万人にいるという難民のうち国外に出た難民は2500万人だとされ、これに4人が加わったことになる。タジキスタンは中国に接していることやコンドリーサ・ライスらの経営する石油会社があることから米軍がそれなりの兵力を置く駐屯地となっている。アメリカとタリバーンの関係を考えると、確かにタジキスタンに逃れたのは賢い選択だったかに見えたけれど、難民申請は受理されず、賄賂を要求された一家は再びアフガニスタンに戻り、そのまま国を反対側へと突き抜けてイランにたどり着く。イランやトルコは最初からスルーで、目的地はヨーロッパと定められている。イランは確かに映画監督の追放が相次ぎ、『人生タクシー』(15)のような作品は命がけで撮られたりしているけれど、アスガー・ファルハディのように高く評価されている監督もいるし、麻生久美子が主演した『ハーフェズ』のような作品もある。トルコもエルドアンによる独裁が進んでいるとはいえ、ヌリ・ビルゲ・ジェイランやデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンはなんとかやっていると思うと、イランやトルコが選択肢に入っていないのはちょっと納得が行かなかった。理由は娘たちの教育のことを考えて合法的に移民できる国に落ち着きたいからで、現在のヨーロッパがそう簡単に移民を受け入れる場所ではなく、仮りにヨーロッパに入れてもトルコに移送されて不法移民として落ち着く可能性が高いなら「最低でもトルコ」という可能性は残しながら、なるべく高望みをしたということなのだろう。だとしたら、その後の難民生活を「地獄めぐり」と呼んだことはその通りになっていったとは思うけれど、結果的にトルコに落ち着けば、家族がやったことはもしかして「しなくてもいい努力」だったのではないかというエクスキューズが残ってしまうことになった。

 難民としての苦労はフル・コースで襲ってくる。威嚇射撃はなかったものの、ファジリ一家は通称バルカン・ルートでブルガリアに辿り着く。まずは密航業者に騙されて大金を巻き上げられる。娘たちを誘拐すると脅される。食べ物がない。果樹園に忍び込む。寝る場所がない。冬山で野宿。フェンスをくぐる。廊下で寝る。走る。窓から雪が吹き込んでくる。そして難民キャンプに移民排斥デモが押し寄せる。カメン・カレフ監督『ソフィアの夜明け』(09)に移民が暗がりで殴られるというシーンがあったけれど、まさにブルガリアの首都ソフィアでファジリもまったく同じように殴られる。先の予定がまったくわからない。入国できるまでトランジットで何ヶ月も過ごさなければいけない。どれもキツい。セルビアで比較的まともな難民キャンプに入れた時は、もうそれ以上動かなくていいじゃないかとさえ思ってしまった。これらのハードなシーンの合間には、しかし、ファジリ一家の楽しい日常がこれでもかと詰め込まれている。妻のファティマ・ファジリは笑い上戸なのか、このような極限状態のなかでピリピリしそうなものなのに、料理をしながら笑いが止まらない様子。出発する前に大きな世界地図を広げ、娘2人にオーストリアまでの道のりを教えながら、途中で自分でもどこがどこだかわからなくなってしまう場面はなかなか愛らしかった。娘たちの無邪気さは難民の逃避行をどこか異常なピクニックといった趣に変えてしまい、思わず笑ってしまう場面も少なくなかった。ハッサン・ファジリはかつて女性は髪を隠さなければいけないと考えていたらしいのだけれど、髪を隠すのが面倒だと口に出して言うファティマの影響か、「お前はどうしたい?」と聞かれた長女のナルギスは思い切って「私は隠したくない」と意見を述べる。ナルギスが身をよじって、言いにくそうに話す様子を見てしまうと、イランという選択肢はなかったかなと。都市部はだいぶ緩くなってきたとはいえ、スマホでアングリー・ラップを聴きながらガシガシ踊るナルギスにイランはやはり過酷な環境になりかねない。法律が変わって女性が自由に行動できると思ったサウジアラビアでも考えの古い男たちが女性に暴力を振るうという事件も起きているし、最先端だけを見て行動するのは危険というか。

 ハッサン・ファジリが捉える娘たちの映像には彼女たちがぐっすりと眠りこけるシーンが何回もあった。次女のザフラはとんでもない寝相である。手足を好きなように伸ばして眠るポーズはまさに「自由」。

 2年前、日本中の電気が止まってしまい、鈴木一家が東京から九州まで自転車で旅をする『サバイバル・ファミリー』という邦画があった。なにがあっても家族は離れない。1人ぐらい途中で出会った人の家に残るとか、その方が自然な流れだし、いい人にはたくさん会うので、誰にとっても楽だろうと思うのに、バラバラだった家族が団結を固くするという教条主義が作品に柔軟性を与えず、とにかく不自然極まりなかった。これとは反対にファジリ一家の難民生活では家族と仲良くなる人が1人も現れない。現地の人たちは無理でも、かなりな日数を過ごした難民キャンプで多少は顔なじみになる人もいるはずだと思うのに、意図的にカットしたのでなければ、これもやはり不自然である。渡辺志帆氏による監督インタビューを読むと、ハッサン・ファジリは定期的に録画したデータをプロデューサーに渡し、スマホにはなるべく情報を残さないようにして撮影を続けたとあるので、外部との接触はプロデューサーがいわば集約的に引き受けていたのかもしれない。そのことによって純粋な難民生活というよりはやはり最終的には作品として回収されるプロセスとして、この旅は存在したという印象が強くなる。「カメラが入れないところにスマホが入った」的な考え方は、そういう意味では大した意味がない。撮影の道具があることによって明らかに意識は変性し、最終的に仕上げられた映像の美しさや音楽の素晴らしさは素材をまったく違う次元で昇華させているということもある。おそらくは難民生活を作品として完成させることで芸術家として他の難民とは区別され、ヨーロッパに認められる可能性も頭の片隅にはあったに違いない。映像のクオリティの高さはだから、ファジリが実力以上のクリエイティヴを爆発させた可能性もあるだろう。実際の生活はもっと過酷で芸術のことを考える余裕もないに等しかったのではないかと思うけれど、難民生活の悪い面に終始する作品ではなく、こんなにヒドいところでも人間は生きていけてしまうんだなということも含め、人が生きていることを力強く伝えてくれるドキュメンタリーになっている。強くなれることがむしろ人間の不幸だと思えてくるほどに。

*『ミッドナイト・トラベラー』は山形国際ドキュメンタリー映画祭(11日・15日)、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭(14日・17日)で上映予定。

また、名古屋国際センターで行われるUNHCR WILL2LIVE映画祭で13日と14日に無料上映会があります。詳しくは→https://unhcr.refugeefilm.org/2019/venue/nic-nagoya/

Stereolab - ele-king

 ステレオラブ復刻プロジェクトがついに完結。5月の2nd&3rd、9月の4th~6th に続き、今度は2001年の7作目『Sound-Dust』と2004年の8作目『Margerine Eclipse』がリイシューされる。発売は11月29日。これまで同様、全曲リマスタリング&ボーナス音源追加。両作ともにショーン・オヘイガンが参加しており、前者ではおなじみのジム・オルークとジョン・マッケンタイアがエンジニアリングとミックスを担当している。現在『Sound-Dust』より“Baby Lulu”が先行解禁中。

STEREOLAB

90年代オルタナ・シーンでも異彩を放ったステレオラブ
10年ぶりに再始動をした彼らの再発キャンペーン第三弾発表!
『SOUND-DUST』と『MARGERINE ECLIPSE』の名盤2作が全曲リマスター+ボーナス音源を追加収録でリリース!

90年代に結成され、クラウト・ロック、ポスト・パンク、ポップ・ミュージック、ラウンジ、ポスト・ロックなど、様々な音楽を網羅した幅広い音楽性で、オルタナティヴ・ミュージックを語る上で欠かせないバンドであるステレオラブ。その唯一無二のサウンドには、音楽ファンのみならず、多くのアーティストがリスペクトを送っている。10年ぶりに再始動を果たし、今年のプリマヴェーラ・サウンドではヘッドライナーのひとりとして出演。5月には、再発キャンペーン第一弾として『Transient Random-Noise Bursts With Announcements [Expanded Edition]』(1993年)、『Mars Audiac Quintet [Expanded Edition]』(1994年)の2タイトルが、9月に第二弾として『Emperor Tomato Ketchup』(1996年)、『Dots And Loops』(1997年)、『Phases Group Play Voltage In The Milky Night』(1999年)の3作がアナログ、CD、デジタルで再リリースされている。

7タイトル再発キャンペーンの締めくくりとなる第三弾として、ジム・オルークとジョン・マッケンタイア共同プロデュースによる2001年の『Sound-Dust』と、久々のセルフ・プロデュース・アルバムとなった2004年の『Margerine Eclipse』の2作が、全曲リマスター+ボーナス音源を追加収録した“エクスパンデッド・エディション”で再発されることが発表された。また合わせて『Sound-Dust』より“Baby Lulu”が先行解禁されている。

Stereolab - Expanded Album Reissues Part 3
https://youtu.be/5mlLux_PEhc

Baby Lulu
https://stereolab.ffm.to/baby-lulu

今回の再発キャンペーンでは、メンバーのティム・ゲインが監修し、世界中のアーティストが信頼を置くカリックス・マスタリング (Calyx Mastering)のエンジニア、ボー・コンドレン(Bo Kondren)によって、オリジナル・テープから再マスタリングされた音源が収録されており、ボーナス・トラックとして、別ヴァージョンやデモ音源、未発表ミックスなどが追加収録される。


『Sound Dust [Expanded Edition]』と『Margerine Eclipse [Expanded Edition]』は2019年11月29日リリース。国内流通盤CDには、解説書とオリジナル・ステッカーが封入され、初回生産限定アナログ盤は3枚組のクリア・ヴァイナル仕様となり、ポスターとティム・ゲイン本人によるライナーノートが封入される。また、スクラッチカードも同封されており、当選者には限定12インチがプレゼントされる。さらに対象店舗でCDおよびLPを購入すると、先着でジャケットのデザインを起用した缶バッヂがもらえる。

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: SOUND DUST [Expanded Edition]
release date: 2019/11/29 FRI ON SALE

[TRACKLISTING]

Disk 1
01. Black Ants In Sound-Dust
02. Space Moth
03. Captain Easychord
04. Baby Lulu
05. The Black Arts
06. Hallucinex
07. Double Rocker
08. Gus The Mynah Bird
09. Naught More Terrific Than Man
10. Nothing To Do With Me
11. Suggestion Diabolique
12. Les Bons Bons Des Raisons

Disk 2
01. Black Ants Demo
02. Spacemoth Intro Demo
03. Spacemoth Demo
04. Baby Lulu Demo
05. Hallucinex pt 1 Demo
06. Hallucinex pt 2 Demo
07. Long Live Love Demo
08. Les Bon Bons Des Raisons Demo

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: MARGERINE ECLIPSE [Expanded Edition]
release date: 2019/11/29 FRI ON SALE

[TRACKLISTING]

Disk 1
01. Vonal Declosion
02. Need To Be
03. Sudden Stars
04. Cosmic Country Noir
05. La Demeure
06. Margerine Rock
07. The Man With 100 Cells
08. Margerine Melodie
09. Hillbilly Motorbike
10. Feel And Triple
11. Bop Scotch
12. Dear Marge

Disk 2
01. Mass Riff
02. Good Is Me
03. Microclimate
04. Mass Riff Instrumental
05. Jaunty Monty And The Bubbles Of Silence
06. Banana Monster Ne Répond Plus
07. University Microfilms International
08. Rose, My Rocket-Brain! (Rose, Le Cerveau Electronique De Ma Fusée!)

レディオヘッド/OKコンピューター - ele-king

レディオヘッドの代表作『OKコンピューター』を徹底分析!

UKロックの巨星、レディオヘッド、そして彼らを世界のトップへと押し上げた『OKコンピューター』──彼らの代表作であるこのアルバムを徹底的に分析し考察した一冊がついに刊行!

■プロフィール
著者
ダイ・グリフィス
オックスフォード・ブルックス大学専任講師。大学で30 年以上ポピュラー・ミュージックの研究を続けている。活字となった最初の記事でブルース・スプリングスティーンの『ザ・リバー』を、その後はロレイン・フェザーの「The girl with the lazy eye」などを取り上げてきた。これまでずっと歌を中心テーマとしてきたが、歌詞への興味はさらに強まり、2003 年発表の「From lyric to anti-lyric: analysing the words in popular song」は多くの方面から注目を集めた。著作としてはレディオヘッドのアルバム『OKコンピューター』、エルヴィス・コステロについての2冊が出版されている。1990年以降オックスフォード・ブルックス大学の学部および大学院でポピュラー・ミュージックについての講義を持つ。大学院生の研究テーマはジャズの歴史、映画音楽、新聞ジャーナリズム、分野の垣根を超えたアートなど、多岐に及ぶ。雑誌『Music Analysis』に「The high analysis of low music」、「After relativism」の2本を寄稿。他にもジョン・ケイルを含めウェールズのポピュラー・ミュージックについての論考がある。雑誌『Popular Music』の書評欄の編集を担当。

訳者
島田陽子
早稲田大学第一文学部英文学科、イースト・アングリア大学大学院翻訳学科卒。(株)ロッキング・オン勤務などを経て、現在フリー翻訳者として様々なジャンルで活動。『レディオヘッド/キッドA』(ele-king books)、『プリーズ・キル・ミー』『ブラック・メタルの血塗られた歴史』(以上メディア総合研究所)、『ブラック・メタル サタニック・カルトの30年史』(DUブックス)、『フレディ・マーキュリーと私』(以上ロッキング・オン)他、訳書多数。

レディオヘッド/OKコンピューター
ダイ・グリフィス(著)

■目次
序──Introduction
第一章『OKコンピューター』──OK Computer in the Recorded Past
第二章『OKコンピューター』を聴く──Listening to OK Computer
第三章『OKコンピューター』の未来──OK Computer in the future
最後に──Final thoughts
付録・参考文献──Appendix

Anna Wise - ele-king

 きみは覚えているかい? ケンドリック・ラマーの2015年の名盤『To Pimp A Butterfly』を? 同作収録の“These Walls”などで素晴らしい歌声を響かせていたシンガーがアンナ・ワイズだ(ゴンジャスーフィ『Callus』のリミックス盤でも気だるげなヴォーカルを披露)。そんな彼女がついにみずからのファースト・アルバムを発表する。先行シングル曲ではニック・ハキム&ジョン・バップと共作、ほかの曲にはデンゼル・カリーやマインドデザイン、それに2019年の重要なアルバムの1枚である『Grey Area』を送り出したリトル・シムズも参加している模様。こいつはチェックしておかないといけない1枚でっせ。

ANNA WISE
As If It Were Forever

ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』への参加や、長年のコラボーレータとしても輝かしい実績と魅力を放つシンガー、Anna Wise(アンナ・ワイズ)。
エクスペリメンタルなサウンドと素晴らしい歌声に、抜群の才能を発揮したデビュー・アルバムを、遂にリリース!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/annawise

バークレーを経てソニームーンを結成し、ケンドリック・ラマー『To Pimp a Butterfly』へのフィーチャーでグラミーも受賞という、確かな才能と輝かしい実績を持つアンナ・ワイズ。誰もが彼女の本格的なソロ作を望んでいたはず。その期待に十二分に応えたアルバムです。
ニック・ハキムとジョン・バップと共に僅か一晩で作った先行シングル“Nerve”が象徴的。言葉もメロディもビートもこれまでにない躍動感があり、複雑で魅力的です。彼女の歌はネクストレヴェルにあることを証明しています。 (原 雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : ANNA WISE (アンナ・ワイズ)
タイトル : As If It Were Forever (アズ・イフ・イット・ワー・フォーエバー)
発売日 : 2019/11/20
価格 : 2,400円+税
レーベル/品番 : rings (RINC61)
フォーマット : CD (日本限定CD)

Tracklist :
01. Worm's Playground
02. Blue Rose
03. Abracadabra (with Little Simz)
04. Nerve
05. Count My Blessings (with Denzel Curry)
06. What's Up With You?
07. The Moment (Interlude)
08. One Of These Changes Is You (with Pink Siifu)
09. Vivre d'Amour et d'Eau Fraîche (with Jon Bap)
10. Mirror
11. Coming Home
12. Juice
& Bonus Track 追加予定

Common - ele-king

 デビューからすでに四半世紀以上のキャリアを重ねながら、いまなおヒップホップ・アーティストとして意欲的な作品をリリースし続けている Common。特に Karriem Riggins との強固なタッグによって制作された、2016年リリースの前作『Black America Again』以降の動きは凄まじく、『Black America Again』の延長として Karriem Riggins と Robert Glasper と組んだスーパーグループ、August Greene 名義でのアルバムも、昨年のUS音楽シーンを代表する素晴らしい出来であった。『Black America Again』は、大統領に就任したばかりのドナルド・トランプに対する強烈なメッセージが込められ、コンシャス・ラッパーとしての自らの姿勢を改めて提示した Common であったが、『Let Love』というアルバム・タイトルが示す通り、通算12作目となる本作のテーマはストレートに「愛」だ。

 前作同様に Karriem Riggins がメイン・プロデューサーを務めているが、アルバムの先行シングルであり実質上のメイン・トラックである“HER Love”のみ故 J Dilla がプロデューサーとしてクレジットされている。「her」を敢えて大文字で表記していることからも分かるように、この曲は Common のクラシック中のクラシック“I Used To Love H.E.R.”の続編(正確に言うと、2013年に発表された J.Period のプロデュースによる“The Next Chapter (Still Love H.E.R.)”に次ぐ続々編)となっており、今年亡くなった Nipsey Hussle を筆頭に Kendrick Lamar など様々なラッパーの名前を交えながら、ヒップホップに対する愛をラップしている。Common にとって、この曲に最もふさわしいプロデューサーが個人的にも関わりの深い J Dilla であることは間違いないが、J Dilla の未発表のビート集である『Dillatronic』からピックアップされたトラックが実に見事に曲のテーマともマッチしており、まるでこの曲のために作られたかのような錯覚すら覚える。

 サンプリングによって作られた“HER Love”に対して、Karriem Riggins が中心となって作られた他の曲はサンプリングと生楽器とのバランスが実に絶妙だ。『Black America Again』や August Greene の流れの延長上ではあるのだが、Common のラップとのコンビネーションも含めて、作品を追うごとにそのサウンドはより洗練されたものになっており、ヒップホップというアートフォームの中のひとつの方向性としては、究極の域にすら達しているようにも感じる。BJ The Chicago Kid や Swizz Beatz、Jill Scott、A-Trak などを含めて、有名無名揃ったゲスト・アーティストも見事なスパイスと機能し、ときにハードにソウルフルにスウィートに、アルバムのテーマ性をそれぞれの方法で表現豊かに膨らませている。

 本作を聴いて改めて思うのが、ラッパーとしての Common の絶対的な普遍性だ。おそらく、今から25年前にリリースされたセカンド・アルバム『Ressurrection』から、Common のラップのスタイルというものは大きくは変わってない。メッセージ性はより強くなってはいるが、コンシャスというベースの部分は同じで、さらにフロウに関しては Common が得意とするパターンというのはすでに初期の時点でほとんど完成していたようにも思う。しかし、本作のラップを聴いても、そこに古さは感じられず、より研ぎ澄まされたことによって、いまが彼にとっての最高点とすら感じられるから驚きだ。

 本来はユール・カルチャーであるヒップホップだが、ベテランである Common だからこそなしえる、新たな景色をこれからも見せてくれることを期待したい。

Fatima Al Qadiri - ele-king

 セネガル生まれ、クウェイト育ち、最近はベルリン在住だというファティマ・アル・カディリは、これまで〈Hyperdub〉から『Asiatisch』『Brute』「Shaneera」と立て続けに素晴らしい作品を送り出してきたプロデューサーである。架空のアジア、警察の暴力、アラブのクィアと、毎度しっかりテーマを練ってくるタイプのアーティストだが、その次なる一手はどうやらサウンドトラックのようだ。
 今回彼女がスコアを手がけたのは『Atlantics』という、今年のカンヌ国際映画祭でグランプリ(審査員特別賞)に輝いたフィルムで、建設労働者の青年に思いを寄せる少女の恋物語が描かれている。監督はセネガル系のマティ・ディオップで、今回が初の長編作品。ファティマによるサントラは11月15日に発売、映画のほうはネットフリックスにて11月29日より公開される。現在、同サントラより“Boys In The Mirror”が公開中。

Fatima Al Qadiri - Boys In The Mirror

Atlantics - Trailer

artist: Fatima Al Qadiri
title: Original Music From Atlantics
label: Milan / Sony Masterworks
release: 2019/11/15

tracklist:
01. Souleiman's Theme
02. Ada And Souleiman
03. Qasida Nightmare
04. Yelwa Procession
05. Wedding Interlude
06. 10-34 Reprise
07. Qasida - Sunset Fever 1
08. Alleil
09. Suñu Khalis
10. Qasida - Sunset Fever 2
11. Boys In The Mirror
12. Souleiman's Theme - Issa Against The Sun
13. Body Double

special talk - ele-king

 今週末の10月12日、渋谷 CONTACT にてジャイルス・ピーターソンの来日公演が開催される。もしかするとこれは今年もっとも重要なパーティになるかもしれない。ジャイルスのプレイが楽しみなのはもちろんではあるが、それ以上に注目すべきなのは、90年代から日本の音楽シーンを支え続け、昨年現行のUKジャズとリンクする新作を送り出した松浦俊夫と、日本の現状を変革しようと日々奮闘している Midori Aoyama、Masaki Tamura、Souta Raw ら TSUBAKI FM の面々との邂逅だ。さらに言えば、GONNO × MASUMURA も出演するし、Leo Gabriel や Mayu Amano ら20代の若い面々も集合する。ここには素晴らしい雑食があり……つまりこの夜は、いまUKでいちばんおもしろいサウンドが聴ける最大のチャンスであると同時に、ジャンルが細分化し、世代ごとに分断されてしまった日本の音楽シーンに一石を投じる一夜にもなるかもしれないのだ。20代も50代も交じり合う奇跡の時間──それは最高の瞬間だと、松浦は言う。というわけで、今回のイヴェントを企画することになった動機や意気込みについて、松浦と青山のふたりに語り合ってもらった。

[10月11日追記]
 10/12(土)開催予定だった《Gilles Peterson at Contact》は、台風19号の影響により、中止となりました。詳細はこちらをご確認ください。

いまの音楽を追わなくなった人がすごく多い。懐かしいものに帰ろうとしている傾向がある。90年代の音楽を聴きなおすことも大事だけど、いま自分たちが生きているなかで、日々たくさんのフレッシュな音楽が生まれていることは事実。 (松浦)

10月12日にジャイルス・ピーターソンの来日公演があります。松浦俊夫さんとともに青山さんたちも出演されます。自分たちの世代と松浦さんの世代を橋渡ししたいというような考えが青山さんにはあったんでしょうか?

Midori Aoyama(以下、青山):そうですね。松浦さんがジャイルスのパーティをオーガナイズすることを知ったので手をあげました。自分もジャイルスが紹介している音楽をかけているDJのひとりだし、ラジオもずっと聴いていますし。TSUBAKI FM というラジオをはじめて、いままでハウス・ミュージックをやっていたところから、少しずつ広がっていくのをこの2年間で肌で感じたんです。こういうタイミングがきて、自分のなかで「いまかな」と思って。もし縁があればおもしろいことができるんじゃないかなと思いました。

松浦俊夫(以下、松浦):もちろん青山さんのお名前は知っていましたけど、実は今回の件で初めてお会いしてお話したんですよね。

青山:以前何度かご挨拶だけはさせてもらったんですが、そのときは自分の音楽について話すということもなかったですし、松浦さんと深く時間をとって話すことはなかったので。この対談はお互いの考え方とか意見を交換する貴重な機会だと思っています。

松浦:日本ではジャンルとか世代が、いままでバラバラだったところがあって。シーンが細分化されて、それぞれがそれぞれの細かいところにいて、全体として勢いを失った印象です。UKのシーンのおかげかわかりませんが、またジャンルが関係ないところで音楽がひとつのところに寄ってきているのをここ何年か感じています。ジャンルとともに世代もつながっていることをヨーロッパには感じていたんですけど、日本では自分たちは自分たちみたいな感じなので、どうそこを突破していこうかなということを数年悩んでいたんです。青山さんみたいにある意味でアンビシャスがある人たちが日本にはちょっと少ないかなと。今回の企画はそれぞれの叶えたいこととともにシーンのことを考えてもっとジャンルと世代を関係なくつなげていこうというところでひとつになっているなと思います。今回一緒にやるという意義をそこにすごく感じています。

それぞれが叶えたいこととは?

松浦:世代を超えたいというところ。50歳を超えてクラブに来る人も当然いるけど、90年代にクラブだったり、音楽にどっぷりつかった生活をしていた人たちって、社会に出たり、家庭ができたりで、いまの音楽を追わなくなった人がすごく多い。懐かしいものに帰ろうとしている傾向がある。学生時代に聴いていた90年代の音楽を聴きなおすことも大事だけど、いま自分たちが生きているなかで、日々たくさんのフレッシュな音楽が生まれていることは事実。それを味わってもらうために自分はDJとして選曲家として、クラブやその他のメディアで活動をしているつもりです。
 さらに若い人たちにジョインしてもらうためにはある程度降りていかなきゃいけないなと思っている。自分はどんどん濃くしていきたいんだけど、これを薄めて若い人たちにつなげていくというのは、自分的には違うから、若い人も巻き込んでいくやり方がいいんじゃないかなって思います。それがうまくできているのがUKのシーン。そのスペシャリストがジャイルスなのかなという気がする。イギリスだけじゃなくて、ヨーロッパでも、自分が手掛けてない音楽も含めてひとつにまとめてくれる、それが彼の感覚のすごさですよね。これをなんで日本ではできないのかという葛藤があっただけに、今回こういう機会を作ってもらえたので彼の手を借りて、みなひとつにするチャンスだと思っています。

降りていくというのは、キャッチーな曲をかけるとか?

松浦:そういうことですね。これは音楽だけではないと思うけど、ちょっと難しくなると暗いとか。それは昔から変わらないですよね。かといってマイナーなことが格好いいかというとそうでもないと思う。誰も聴いたことがないプライヴェート・プレスで、アルバムで3000ドルくらいしますみたいなものでも、聴いてみると別にそんなすごいアルバムじゃない。そうではなくて、聴いたときに誰の何かわからないけど、これっていいよねということをシェアできるようにしなきゃいけない。ここ数年でイギリスのシーンが動き出したことでライヴ・ミュージックとしてミュージシャンが作る音楽とクラブで完結していたダンス・ミュージックが、やっと30年くらいかかってひとつになった。それは人力テクノとかではなくて、これこそオルタナティヴな音楽が生まれる瞬間なのかな。これは日本にも当然余波として来るべきですね。90年代のレアグルーヴだったり、アシッド・ジャズの流れで東京からいろんなユニットやバンドが出てきたように、東京からももっと出てくるタイミングじゃないかなと思っています。

パーティやDJを10年間くらい続けてきて同世代には広げ切ったという感じがあった。次何をするかとなったら、若い人と何かやるか、上の世代とやるしかない。松浦さんやジャイルスのお客さんにも自分たちのやっていること、自分の実力を証明したい。 (青山)

青山さんの野心は?

青山:僕と松浦さんって音楽的にリンクしてないって周りの人は思っている。これが伝わっていないことが自分のなかのジレンマです。松浦さんはジャズ、僕はハウスというイメージで完全に分かれている感じ。でも松浦さんがラジオで、僕が Eureka! でブッキングする外国人DJをプッシュしてくれていたことは知っていたし、ありがたいなと思っていました。
 パーティやDJを10年間くらい続けてきて同世代には広げ切った、自分のなかではつながれるところはほとんどつながった、やりたいクラブでも全部やったし、呼びたい海外DJも呼んだし、自分のやりたいパーティもやって、なんか終わったなという感じが正直あった。次何をするかとなったら、若い人と何かやるか、上の世代の人と何かやるしかない。世代、環境、性別、国とかを超えて何かもっと強く発信していかなきゃいけないなと思っていたんです。そのなかで自分がいまいちばんおもしろいなと思っているシーンはUKのジャズ・シーンだったり、UKのハウスだったりするんですね。だからこそ松浦さんとやるということはひとつのカギだったし、松浦さんやジャイルスのお客さんにも自分たちのやっていること、自分の実力を証明したいなと思っている。全然ダメじゃんと言われたらそこまでですけど(笑)。
 一回背伸びしてチャレンジするいいタイミングかなって思っています。いまの自分たちに何ができるのか。どういうものを知ってもらえるのかというのをこっちから表現して、松浦さんやジャイルスの世代のひとたちが、もっとこうしたほうがいいとか、こういうのが足りないと思ってくれるのならそれを取り入れて改善したい。最終的にはもともと自分が持っているハウスとかテクノのコミュニティにも刺さったらいいですね。そもそもジャイルスのイヴェントに自分たちが出てくるということ自体雰囲気的にハテナな人もいると思う。とくに今回のラインナップで言うと、Masaki (Tamura) 君とかは納得いくけど、Souta Raw はディスコだし、ジャイルスとどこがリンクするの? みたいな話になる。でもやっている本人たちはそんなことないんです。ジャイルスがかけているディスコとかファンクとか、彼が紹介しているハウスとかにすごくインスパイアされている。そこはもう少し目に見えるかたちで、身体で感じられるレヴェルで表現したいと思った。それが今回いちばんやりたいこと。

松浦:自分は意識していないけど、寄り付かせない何かをまとっている部分があると思うんです。だから、実際に大きな音で聴いてもらって、みんなが思っているジャズだけというイメージとは違うということをわかってもらえるといいですね。聴いたことない人たちにも、今回青山さんがお手伝いしてくださることによって集まってくれた人たちにも届けることができたらお互いに新しいお客さんを巻き込むことになる。これがうまくいけばその次もあるんじゃないかなって思う。

いまのUKでいちばんおもしろい音を聴けるチャンスですよね。UKのジャズのおもしろさは雑食性、ジャズの定義の緩さというか、新しいビートを取り入れることなわけですから、今回のパーティはまさにその雑食性を表現しているように思います。

松浦:そうだと思いますね。たぶんジャズをやろうとしてはいないんじゃないかな。ジャズというフォーマットのなかで勝負するのであればアメリカに行ってアメリカのなかでジャズをやると思う。新しいものを生み出すということのなかで、あえてジャズにしようとしていないのはたぶん意図的にやっているんじゃないかな。

アシッド・ジャズのときも、あれはジャズではないですよね。

松浦:また30年くらいたったときにやっていることは違うけど、ムードが近い雰囲気になってきているなと思いますね。ちょっと遅れて日本に届いてくる感じもあのときの感じに近い。やっとここで動くんじゃないかなという期待が今回のイヴェントにある。いちばん若い子だと Leo (Gabriel) 君ですね。

青山:あとは Mayu Amano ちゃんという一緒に TSUBAKI FM を運営してくれている彼女も20代前半ですし。

松浦:プレイする方も混ぜたいけど、お客さんにも混ざってほしいな。90年代に yellow というクラブがあて、21時オープンで5時まで Jazzin’(ジャジン)というレギュラーをやっていたんですけど、21時から0時くらいまでではサラリーマンとかOLの人たちでひと盛り上がりして、2時くらいから六本木の水商売の人がやってきてまた盛り上がるという二段階。それが交わる瞬間が0時から2時くらい。そのとき交じり合っている世代は50代から20まで。そういう景色を見るとやっぱり音楽ってすごいんだなって思いますよね。ジャンルとか、年齢みたいなものがぐちゃぐちゃになっていてみんな楽しそうにしている景色を見るのは最高の瞬間ですよ。

青山:yellow のときの状況はすごかったと思うんです。僕が20とかのときに最後の yellow に行っていたから僕のクラブの初期衝動はあの場所が大きい。自分でこういうパーティをつくりたいというイメージはけっきょく遊んだときのもの。年齢の垣根を越えている感じとか、熱量、あれが自分基準値になっている。

他のジャンルでも世代は固まっている気がしますね。

青山:だからこそ熱量のある空間をできる限りつくっていくというのが20代以上の世代の人たちがクラブとか音楽シーンに求められていることだと思うんです。そうやって下の世代に引き継いでいくことはすごく大事だと思う。
 松浦さんはご自分で発信している音楽とか、U.F.O.で昔やっていた曲とかが、いまの世代にまた伝わりはじめているなと感じることはありますか?

松浦:そうですね。なぜそうなったのかはわからないですけど。時代の周期みたいなものがあるのかな。その周期を見ながら、現在も新しいものをつくろうという気持ちは変えずにいきたいな。あと、自分で自分がやりたいことをできるような場を作るにはどうすればいいかということはつねに考えている。

[[SplitPage]]

ジャンルとか、年齢みたいなものがぐちゃぐちゃになっていてみんな楽しそうにしている景色を見るのは最高の瞬間ですよ。 (松浦)

すごいなと思った最近のUKのジャズは?

青山:でもけっきょくヴェテランがいいなと思っちゃいますね。最近はカイディ・テイタムが好き。

松浦:アルバム単位というよりかは、自分の場合は曲単位で選んでいます。アシュリー・ヘンリーのアルバムとか、〈Sony〉が久々にああいうUKのアーティストを出してきたのはすごくおもしろい。ソランジュの曲をピアノでカヴァーしたり。ネリーヤ(Nérija)もそうだし。あとはポーランドのアーティストもすごくおもしろくなってきている。ジャズのなかでのせめぎあいではなくて、オルタナティヴ・ジャズのシーンみたいなものがあるとしたら、そのなかで勝負している感じが非常におもしろい。その方向性は人によってはアフロに寄ったり、カリビアンによったりする。ただストレートにどこかのジャンルに一直線に走っているわけではなくて、いろんな要素を加えながらそのアーティスト独自の表現を探そうとしているところがきっとおもしろいんだろうな。

イギリスにはジャイルスみたいな人が何人かいますよね。〈Honest Jon's〉みたいなレコード店だってそう。若い世代でいうと、ベンジー・Bがジャイルスの後継者になっている。イギリスにはこれがいい音楽だって言える目利きの文化みたいなものがありますよね。あとはブラック・ライヴズ・マターとか、人種暴動があったり、ヘイトクライムがあったりそういう世の中で、UKジャズが体現しているのは人種やジェンダーを超えたひとつのコミュニティ。それはいまの時代に説得力がある。

松浦:テロが起きたことと、コスモポリタンになったということがイギリスが強くひとつになれる理由なのかな。

やっぱり日本って借り物の印象がすごく強いと思います。どうしても外タレ崇拝みたいなところがある。ファッションもDJも全部そう。そこをまず変えていかなきゃいけないのかなという使命感があります。 (青山)

イギリスから音楽の文化が弱くなったように見えたためしがない。つねにみんな音楽が好きだし、いい曲が出れば「これいいよね」という会話が普通に成り立つような国だから。

松浦:アンダーグラウンドの場所が世の中にあるというのがすごいですよね。自分がいくつになっても自分の楽しみを続けていこうという姿勢は強いかな。

青山:イギリスって自国から生まれたものをすごく大事にする印象がある。やっぱり日本って借り物の印象がすごく強いと思います。どうしても外タレ崇拝みたいなところがある。ファッションもDJも全部そう。海外のカルチャーを受け入れてどう日本で消化させていくかということがこの20年~30年続いているなと思う。そこをまず変えていかなきゃいけないのかなという使命感があります。

松浦:そうですね。Worldwide FM をやっていて、日本の番組だから日本発の新しい音楽をできるだけ紹介したいし、ゲストも若い日本人の人を紹介したいんだけど、なかなか難しい。

青山:それは僕も正直ある。他のネットラジオなどを聴いていても、こんなに毎週毎月UKから新しいミュージシャンやアルバム、コンピレーションがガンガン出ているのに、日本からは1枚も出ない。もちろんアーティストのレヴェルの問題もありますけど、仕組み自体を変えないとダメだなと思う。UKが仕組みとしておもしろいのはジャイルスみたいな良い曲を判断してくれるキュレーターがいて、そういう音楽を発信するプラットフォームがあって、そこで曲を発信したいと思って作曲するアーティストが増えるという形で循環しているところ。ジャイルスだけじゃダメだし。アーティストがいるだけでもダメだし、ラジオがあるだけでもダメ。全部がはじめてひとつの輪になってグルーヴが生まれて、それがシーンになっていくと思うんですけど、日本にはそれがない。あるかもしれないけど、局地的だったたり、つながってない。そこをまずひとつにしていくという作業が次の10年で大事なのかなと思う。それを僕は TSUBAKI FM で体現したい。海外のラジオを日本でやろうとかということではなくて、日本オリジナルのブランドを作らないとどうにもならないなって。  さらにもうひとつはアーティストもレーベルも、ディストリビューションも日本になるといいですね。日本でプロモーションを世界に向けて発信して、世界で評価されるというところまでもっていきたい。それが次の日本の音楽シーンが目指す目標だと思う。それを目指すためのひとつのピースとして TSUBAKI FM だったり、もっとみんな真剣に考えて取り組まなきゃいけないなと思います。

松浦:それこそ90年代に『Multidirection』っていうのを2枚作りましたけど、そのくらい集めたくなるほど新しい音楽を生み出せる環境、インターナショナルで聴かせたいというものがもっと出てきてほしいな。もうちょっとグルーヴのある音楽で出てきてくれるといいな。でも巻き込んでいくしかないのかな。こういう音楽をつくっても出ていけるというふうに感じないとダメなのかな。

青山:そこはDJや僕らの仕事かもしれないですね。ここの曲のこういうところにグルーヴがあればかけられるんだよとか、使えるんだよなということを、アーティストに要求していく。日本にはレールもないし、アーティストに対して要求する人が全然いない。アーティストがこれが良いと思ったものをそのまま出しちゃっているから、そのアーティストの仲間は受け入れてくれるかもしれないけど、周りの人に伝わるかといったら伝わらないこともある。そこは第三者がディレクションをしてあげることでもっと深みがでると思う。なので、アーティストに対してDJとかプロモーターとかレーベルをやっている人が近づいて要求していくという作業も必要ですね。

松浦:流れができれば国内からも必然的に出しましょうという話になると思う。

青山:そういうことをやりたいという目標があるけど、それをちょっとずつ広げていくために今回のイヴェントはすごくいい機会です。松浦さんとお仕事ができただけで価値あることだと思う。

松浦:まだまだはじまったばかりだからね。僕にとっての大先輩、トランスミッション・バリケードというラジオをやられていたふたりと一緒にDJをやったとき、自分はここにいていいのかなくらいの緊張感があった。でも終わってから選曲がよかったと言ってもらえたので嬉しかったですね。この年でもまだ緊張感が生まれる先輩がいてよかったなと思う。逆にそういう関係性が世代を超えてできたらいいですね。年齢的に一回り以上年上の方でも新しい音楽を中心にプレイしようという意思が感じられたので、自分ももっとがんばらなきゃなと思いました。

(聞き手:野田努+小林拓音)

Gilles Peterson at Contact
2019年10月12日(土)

Studio X:
GILLES PETERSON (Brownswood Recordings | Worldwide FM | UK)
TOSHIO MATSUURA (TOSHIO MATSUURA GROUP | HEX)
GONNO x MASUMURA -LIVE-

Contact:
DJ KAWASAKI
SHACHO (SOIL&”PIMP”SESSIONS)
MASAKI TAMURA
SOUTA RAW
MIDORI AOYAMA

Foyer:
MIDO (Menace)
GOMEZ (Face to Face)
DJ EMERALD
LEO GABRIEL
MAYU AMANO

OPEN: 10PM
¥1000 Under 23
¥2500 Before 11PM / Early Bird
(LIMITED 100 e+ / Resident Advisor / clubbeia / iflyer)
¥2800 GH S Member I ¥3000 Advance
¥3300 With Flyer I ¥3800 Door

https://www.contacttokyo.com/schedule/gilles-peterson-at-contact/

Contact
東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル4号館B2
Tel: 03-6427-8107
https://www.contacttokyo.com
You must be 20 and over with photo ID

ジョン・ウィック:パラベラム - ele-king

 何年か後にはオタクの山ができていそうな映画である。いや、もうすでにできているかな。その山に登らず、どこに山があるのかだけを考えたい。山の一部をなしているのは『燃えよドラゴン』で、「鏡の部屋」って『ローマの休日』が起源かなーなどとも言い放ってはみたいけれど、返り討ちに会うのが関の山なので、黙って『徹子の部屋』でも観ていよう。今日のゲストは高嶋ちさ子かな……

 シリーズ3作目なので、これまでのあらましを多少は述べないといけないだろう。ニューヨーク中にいる殺し屋がジョン・ウィック(キアヌ・リーヴス)を狙い、果たして彼らの手をすり抜けてアメリカから脱出できるのか……というところで『チャプター2』(17)は終わってしまい、そこからいきなり『パラベラム』は始まるし。こんなTVドラマのように続く映画もないぜとは思うものの、観てよかったなーと思うから『ジョン・ウィック』シリーズは侮れない。「ミレニアム」とか「メン・イン・ブラック」も全部観ちゃったけどさ。

 ジョン・ウィックは恋人を失い、彼女の死後に形見として子犬が届く。ガソリン・スタンドでガンをつけてきたチンピラたちがジョン・ウィックの家を襲い、犬を殺し、彼の愛車フォード・マスタングを奪っていく。殺し屋稼業から足を洗っていたジョン・ウィックは復讐のためにやむなくカム・バック。チンピラは実はロシアン・マフィアを牛耳るボスの息子で、ジョン・ウィックとロシアン・マフィアは全面戦争に突入していく。ハリウッドが遠ざかりつつあった暴力表現がこれでもかとテンコ盛りになっているだけでなく、復讐というモチーフや鬱蒼とした音楽の被せ方、そしてフィルターをかけっぱなしにした映像など、1作目は明らかに韓国ノワールの影響を感じさせる。ここ数年、ハリウッドの代わりにヴァイオレンスで客足を引きつけた韓国映画やスペイン映画が「ジョン・ウィック」シリーズの演出に大幅に取り入れられている。そこがまずは魅力。

 フォード・マスタングを取り戻すところから『チャプター2』は始まる。ジョン・ウィックが所属する組織には手厚い厚生施設が整い、ソムリエと呼ばれる武器調達係がいたりと、世界規模で行動がしやすくなっている代わりに「誓印」と呼ばれる「貸し・借り」のシステムが絶対の条件となっており(ほかにもヘンなルールがいっぱいあってこれがまた実に楽しい)、ジョン・ウィックはサンティーノ・ダントニオの依頼によって「主席連合」の次期代表に就任する予定のジアナ・ダントニオを暗殺しなければならなくなる。そして、ジョン・ウィックはローマに飛ぶ――

 とにかく暴力、暴力、暴力である。「パラベラム」というのは銃のことらしい。韓国映画『アシュラ』(16)はいくらなんでも人が死に過ぎると思ったけれど、これはそれ以上。ただし、毎回のようにクラブで銃撃戦があるにもかかわらず、一般の人には絶対に当たらず、関係者しか死なない。『パラベラム』ではそれがエスカレートして駅の構内や電車のなかでも撃ち合うのに通勤客はそれに気づかず、普通に歩いているだけだったり。ほとんどギャグである。暴力映画が好きな人には可視化されているけれど、観たくない人には見えないと、R指定という倫理コードそのものが映像化されているよう。

 目の前にジョン・ウィックが現れたことで、ジアナ・ダントニオは死期を悟り、自らバスタブのなかで手首を切る。ジョン・ウィックは死体に弾を撃ち込み、ローマから脱出する。ジアナ・ダントニオの暗殺依頼がバレると「主席連合」の時期代表に就任できないと判断したサンティーノ・ダントニオは口封じのためにジョン・ウィックに700万ドルの賞金をかけ、ニューヨーク中の殺し屋に始末させようとする。次から次へと殺し屋がジョン・ウィックを襲う――

『チャプター2』から『パラベラム』にかけて持続するテーマは、日本の忍者ものでいう「抜け忍」である。一度は組織から抜けることのできたジョン・ウィックが再度、組織から抜けるためにカサブランカへ飛び、砂漠のどこかにいるという組織のリーダーに会いに行くことが『パラベラム』の主要ストーリーをなしている。そのためにジョン・ウィックが様々なコネクションの助けを求め、その過程で「貸し・借り」が清算されたり、さらに増えたりする。そして、よくもまあ、これだけ新しいアイディアが思いつくよなと思うほど斬新なアクション・シーンが薄いストーリーの隙間をぎっしりと埋めていく。半端ではない量のガラスを割り、犬が走り、馬が走り、ビルから落ちても助かっている。そう、「ジョン・ウィック」シリーズのプロデューサーとディレクターは『マトリックス』(99)でスタントマンを務めていたチャド・スタエルスキとデヴィッド・リーチなのである。2人は『マトリックス』からインターネットや仮想空間というアイディアをすべて捨て去り、アクション・シーンだけで新たな世界観をつくりあげた。それどころではない。「ジョン・ウィック」シリーズにはインターネットを思わせる電子機器はまったく登場せず、電話は交換台で繋がれ、報酬は金貨でやりとりされている。最も驚いたのはジョン・ウィックに力を貸すバワリー・キング(ローレンス・フィッシュバーン)はインターネットより早いといって伝書鳩で情報を集めている(そんなバカな!)。キアヌ・リーヴスとローレンス・フィッシュバーンはちなみに『マトリックス』ではネオとモーフィアスを演じた救世主コンビ(大事なモノを本のなかに隠すというアイディアも持ち越されている)。

『マトリックス』はよくできた作品だった。インターネットの影響を、それが地球を覆い尽くす前に予見し、可能な限り悪い想像を巡らせたという意味ではなかなかのものであった。いま観ると『マトリックス』は陰謀論に取り憑かれたネット中毒者がくだらない正義感を振りかざして悦に入っているようにしか観えなかったりもするけれど、公開当時は、みんな、来るべき未来像として真剣に観ていたのである。しかし、そうした部分は時間の経過が古びさせたというか、過剰な思い込みは勝手に剥がれ落ちたというか、自然と真剣に観るようなものではなくなっていったのに対し、むしろスタエルスキ&リーチが問題にしたのはネット時代における身体性の定義であった。『マトリックス』にはインターネットに未来を感じていた者にとって、ある種のユートピアが描かれている場面も多く、たとえばネオは体を1ミリも動かさず、あらゆる格闘技を耳からの情報だけで身につけてしまう。そして、ストーリーのなかでは実際に優れた格闘家として振る舞い、『マトリックス』はある意味、アクション映画として成功した作品となった。ところが、本当に鍛えた体ではないために、空中に浮くときの筋肉の動きだとか、どこにも力が入っていない状態で無理な姿勢になったりと、いわば子どもが人形で遊んでいるようなぺらぺらの身体性しか画面には映し出されない。それこそ幽霊のような動きだし、アクションとしての説得力はないけれど、フリークスとしては面白いというような。『マトリックス』でスタントマンを務めていたスタエルスキ&リーチがそれに納得するはずはなかった。

 松本人志は格闘ゲームをやっていて、実際の自分がそんなに強いわけではないことに疑問を持ってジムで体を鍛えるようになったという。『マトリックス』から『ジョン・ウィック』に起きた変化もそれと同じことだろう。キアヌ・リーヴスが撮影の4ヶ月前から体づくりに取り組み、『パラベラム』では車に跳ねられるシーン以外はすべて自分でこなしたという撮影エピソードが売りになるのもインターネットによって萎縮した身体性やギーク・カルチャーが全般的に売りにならなくなってきたことを明瞭に表している(僕が最も感心したのは『パラベラム』のクライマックスは格闘シーンが長過ぎてジョン・ウィックの身体が疲れを表現していたところ)。いまから思えば三池崇史監督『クローズZERO』(07)とかギャレス・エヴァンス監督『ザ・レイド』(11)とか、最初から最後まで殴り合いしかない映画がなぜか面白かったのは、インターネットの普及によって劣化していた身体性が早くも氾濫を起こしていたからなのだろう。それを『マトリックス』を完全否定するというかたちで「ジョン・ウィック」シリーズが似たようなキャストで世界観ごと覆してしまったのである。「ジョン・ウィック」シリーズに与えられた設定も完全にファンタジーというか、マンガのような世界観なので、その対称性は歴然である。

 

『ジョン・ウィック:パラベラム』予告編

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto - ele-king

 これまで幾度も共作・共演を重ね、昨年もライヴ盤『Glass』を発表しているアルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)と坂本龍一が、新たにライヴ・アルバムをリリースする。今回は2018年にシドニー・オペラハウスで録音されたもので、当日の即興や、イニャリトゥ『The Revenant』のテーマなど、これまでのふたりのコラボ曲によって構成されている。発売は11月15日。

[11月15日追記]
 上記ライヴ・アルバムの日本盤の発売が決定しました。発売は11月29日、リリース元は〈インパートメント〉です。詳細は下記をご確認ください。

日本盤情報

発売日:2019年11月29日(金)
品番:AMIP-0200
アーティスト:Alva Noto & Ryuichi Sakamoto
タイトル:‘TWO’ - live at Sydney Opera House
レーベル:NOTON
フォーマット:国内流通盤CD
本体価格:¥3,200+税

https://www.inpartmaint.com/site/28519/

 以下は当初の情報です。

Alva Noto & Ryuichi Sakamoto
TWO: Live at Sydney Opera House
NOTON
12" Vinyl Album / CD Album
Available 15 November 2019

Tracklist:

01. Inosc
02. Propho
03. Trioon II (Live)
04. Scape I
05. Berlin (Live)
06. Scape II
07. Morning (Live)
08. Iano (Live)
09. Emspac
10. Kizuna (Live)
11. Gitrac
12. Monomom
13. Panois
14. Naono (Live)
15. The Revenant Theme (Live)

https://noton.greedbag.com/buy/two-120/

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294