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Primitive World - ele-king

 コロナ・ショックが起きるまで最も的確な未来像を描いていたフィクションはTVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011〜2019)だと思っていた。ポピュリスム政治と移動の自由、商人たちが政治的に独立した要塞都市で暮らし、荒野をさまよう主人公たちの姿が新自由主義によって再帰した「万人の万人における闘争」と重なって見えたことも大きかった。実際にはイギリスの南北格差を復讐劇の骨子とし、フェミニズムの機運を商業的なタームに取り込んだことがバカ当りの要因だったのだろうけれど、あまりにもマーケティングの手の平の上で転がされている気がしてしまい、「シーズン5」までで観るのはやめてしまった(なので、デナリス・ターガリエンがどうなったのかいまだに気になっている)。『ゲーム・オブ・スローンズ』で描かれたヴィジョンはコロナ・ショックが移動の自由に制限をかけたことで一気に揺らぎ、女性指導者の優位が示されたことでファンタジー性も薄くなった(日本では在宅勤務が増えることで日本的集団制に変化の兆しがあるかもしれない)。ハンガリーやブラジルのように独裁政治が際立った国もあったけれど、多くの国では社会主義的な政策がとられ、同じディストピアを構想するにしても、これからは『ゲーム・オブ・スローンズ』が示したものとは異なるムードを模索するようになるだろう。最初に『ゲーム・オブ・スローンズ』を勧めてくれたのはLAに住むフェミニストの友人で、彼女は「セックス・シーンが多すぎる」と留保をつけ、作品的には「あまりにソープ・オペラなんだけど」と苦笑まじりではあった。しかし、『悪徳の栄え』や『結晶世界』、『愛の嵐』や『獲物の分け前』など官能性に裏打ちされたアナーキズムの傑作は数多く存在する。『ラスト、コーション』、『LOVE 3D』、“Je T'aime“、“好き好き大好き”、『マダムとお遊戯』、『先生の白い嘘』……なかでもロレンス・ダレル『アレクサンドリア四重奏』は松岡正剛が「恋愛一揆」と評するほど、その筋では古典として名が通っている。コロナ・ショックが『ゲーム・オブ・スローンズ』から奪ったものはむしろそうした「ソープ・オペラ」の背徳性だったのかもしれない。エスカイア誌が選ぶ「最も官能的なセックスシーン」では「シーズン3 第5話」で行われたジョン・スノウ(童貞)のオーラル・セックスが堂々の1位を獲得している(7位と8位に入った『マッドメン』と10位と11位に入った『アウトランダー』も確かにすごかった)。

 プリミティヴ・ワールドことサム・ウィリスのセカンド・アルバムはロレンス・ダレルが『アレクサンドリア四重奏』から約10年後に発表した『アフロディテの反逆』を題材にしている。現在では入手困難なので詳細はわからないけれど、パリの五月革命にインスパイアされた政治的な要素の強い風刺小説とされ、多国籍企業やメンタル・ヘルスに焦点を当てたものらしい。主人公の妻イオランテは死んでロボットとして生まれ変わり、それが自壊してしまうまでのお話。思想的にはニーチェの影響が色濃いという。“イオランテが踊る(Ioanthe Dances)”、”理想が凝縮した肉体(Flesh Made From Compressed Ideals)”、”皮膚は鉛を混ぜた石膏(Skins Plastered With White Lead)”と確かに曲のタイトルは小説に沿っている。“墓の間にキアシクロゴモクムシ(Harpalus Among The Tombs)”とかはよくわからないけれど……はっきりとわかるのはサウンドがあまりにもカッコいいということ。オープニングは神経症的なグリッチ・ミニマルで、同じくグリッチで再構成されたUKファンキーと続き、これだけで軽くDJプリードやサム・ビンガは超えてしまった。なんというケレン味。ブレイクダンスの新世紀が視覚化されたよう。タラタラとした“Into The Heart Of Our Perplexities”で焦らしたあげく“Skins Plastered With White Lead”ではディーゴを意識したらしきブロークン・ビーツをアルヴァ・ノト風に仕上げたジャズ・ドラム。

 リズム・オデッセイは後半も続き、最後を飾る”The Foetus Of A Love Song”では無機質なドローンへなだれ込み、ディストピアの余韻を存分に染み込ませる。使用した機材は前作『White On White』(駄作です)とまったく同じだそうだけれど、出来上がったものは何もかもが異なっていて、同じ人物がつくり出したサウンドだとは思えない。2010年にベッドルーム・ポップのアレシオ・ナタリツィアと組んだウォールズで独〈コンパクト〉からデビューし、3枚のアルバム(とダフニー・オーラムの音源を再構成したアルバム)をリリース。ナタリツィアはノット・ウェイヴィングなどの名義で多様なソロ活動を行い、ジム・オルークやパウウェルらとジョイント・アルバムをリリースしたり、ジェイ・グラス・ダブと新たにユニットを結成するなど2010年代の才能として加速度をつけていたなか(ドナルド・トランプのスピーチを延々とサンプリングした”Tremendous​”はタイトル通り実に途方もない)、一方のサム・ウィリスには目立った動きがなかったものの、ここへ来て一気に逆転という感じでしょうか。むしろノット・ウェイヴィングがトランスやアシッド・ハウスに回帰しつつあるいま、ウィリスの先見性は異様に目立っている。当たり前のことだけれど、人の才能というのはわからない。サム・ウィリスとアレシオ・ナタリツィアがもう一度、タッグを組んだら、そして、どんな作品をつくるんだろう。

interview with Sonic Boom - ele-king

 ソニック・ブーム。
 スペースメン3のふたりのファウンダーのうちのひとりである。イギリスのサイケデリック・バンド、スペースメン3はわずか10年に満たない活動期間(1982年~1991年)の間は一部の熱狂的なファン以外にはあまり知られることはなかったが、特にここ日本でスペースメン3の受容史はまあ、お寒いのひとことではあった。来日公演はもちろん一度もなかったし、そのアルバムがリアルタイムで発売されたのはほとんどバンドが解散状態にあった1991年の4作目にしてラスト・アルバムとなった『Recurring(回帰)』のみというぐあいである。
 しかし、実はこの『Recurring』以前にスペースメン3関連のアルバムがひっそりと日本でも発売されていた。それがソニック・ブームのファースト・ソロ・アルバム『Spectrum』だ。
 ストーン・ローゼズがデビュー・アルバムを発表し、一躍話題となった〈Silvertone Records〉から1990年にリリースされたソニック・ブームのソロ・アルバムは、ストーン・ローゼズ人気のおかげでまさかの国内盤発売が実現したのである。それがどのくらい売れたのかはまあ、あまり書かないほうがいいだろう。当時の音楽誌などで大きく取り上げられることはなかったし、そもそもそんなに大量に売れるような内容でもなかったのは確かだが。ちなみに国内盤の帯に書かれたキャッチコピーはこうだった。

「ほとんど犯罪的な覚醒サイケ~SPACEMEN3のソニック・ブームによる別プロジェクトアルバム」

「犯罪的な」とまで書かれてしまったこのアルバムは、しかし例えばソニック・ブームを知らない人が「お、ストーン・ローゼズのアルバム出したレーベル? じゃ買ってみようかな」とか言って手を出してはいけないブツだったということは間違いなく言える。


Sonic Boom
All Things Being Equal

Carpark / ビッグ・ナッシング

Amazon Tower HMV

 その後、ソニック・ブームはソロ名義ではなく、ソロ・アルバムのタイトルであった Spectrum をユニット名として、同じ〈Silvertone〉からアルバム『SOUL KISS (Glide Divine)』を1992年にリリース。以後はこの Spectrum と、より実験的なユニットとして Experimental Audio Research (E.A.R.)のふたつの名前で活動していくことになる。
 近年はメジャーの MGMT のプロデュースなども手掛けるようになった反面、自身の音源のリリースは減っていたのだったが、2020年になって突然ソニック・ブームがアルバムを出すというニュースが舞い込んできた。しかも、それは Spectrum 名義でもなく、E.A.R. 名義でもなく、ソニック・ブーム名義による30年ぶりのソロ・アルバムだというのだからさらに驚きは倍増なのだが、やっと届いた音を聴くとさらに驚きが待っていた。なんだこの明るい曲調は? スペースメン3のラスト・アルバム冒頭のダンス・チューン “Big City” をテンポダウンさせたようなオープニング・トラック “Just Imagine” からやたら多幸感に溢れている。アルバムを貫くオプティミスティックなムードにちょっと戸惑いながら、いまは南欧のポルトガルにいるというソニック・ブームと Skype でつながった。

※本インタヴューは、『All Things Being Equal』のライナーノーツに掲載されているインタヴューと同じタイミングで収録されたものです。両方合わせて読むと、より新作の全貌に迫れます。

分業したほうがいいなんてのは現代の神話みたいなものだと思うよ。ときにはうまいこと分業するというのも必要かもしれないけど、全体を見渡す視点を持つことが大切だと思う。音楽だけじゃなく他のアートも含めてね。

1990年に〈Silvertone Records〉からリリースした『Spectrum』以来、実に30年ぶりのソニック・ブーム名義のソロ・アルバムということになります。そのアルバムをリリースした後はその名義をご自身の音源制作では使わず、Spectrum、Experimental Audio Research(E.A.R.)というふたつの名義で制作を始めることになったのはどういう理由だったのでしょうか?

ソニック・ブーム(以下、SB):「ソニック・ブーム」は自分ひとりのソロで活動するときに使う名前で、「Spectrum」は他のアーティストやソングライターとバンド形式で曲や歌をメインに活動する名前。「E.A.R.」として作る音楽は楽曲に重きを置くのではなく、サウンドを重視したものにしているんだ。この3つの名前を使いわけることにした主な理由は、区別をつけるためだ。自分だけで作ったソロの作品ではないのに自分の名前をつけるようなことはしたくなかったんだ。そういうのはグループとしての作品であるべきだと思う。もしグループではなくて自分ひとりで作ったのであれば、もちろん自分の名前を使うよ。Spectrumのアルバムは1曲につき最低でもひとりは他のアーティストと一緒に作っていた。当然彼らは楽器を弾いたりするわけでね。そう、Spectrum はコラボレーション・ユニットなんだ。

Spectrum と E.A.R. というふたつのユニットを使い分けていくなかで、自分のなかでこれらのユニットに対する態度に変化はありましたか? もしかすると、今回のアルバム・タイトル「All Things Being Equal」という言葉が、Spectrum と E.A.R. の境界線が曖昧、というか融合していくということを表しているのかなとも思ったりしますが……。

SB:確かにその境界線というのは曖昧なものではある。名義というものは、最終的に作品をどのようなものにするのかを考えるときに僕が決めなきゃいけないことのうちのひとつなんだ。Spectrum と E.A.R. も自分のなかで区別はつけてはいるけど、本質的にはすべて僕の音楽活動だし、劇的に違ったことをしようとはしていないよ。それぞれのプロジェクトで違うことをしようというよりも、いつもアルバムごとに違ったことをしてみようとしている。だから今回のアルバムもどのようなものにするか、しっかりとした意識的な決定をしたんだ。シンプルな電子音響を核として、そこにパーカッションやヴォーカルを重ねることでよりその要素を際だたせようってね。この作品は俺ひとりで作ることになるだろうとずっと思っていたし、スペースメン3のレコーディングでもよく使っていたようにドラムマシーンを使うだろうなってこともわかっていたんだ。よく言われるんだけど、「ソニック・ブームは元スペースメン3であり、Spectrum よりも世間で認知されている」っていう言葉を信じたほうがいいなっていう気もしたんだ。ただ、それぞれの活動というのは確実にお互いに影響は及ぼし合っているよ。アートワークやビデオといったものから楽曲制作のプロダクションやマスタリングまでね。 それぞれに対して過度に特化していくということは全然信じていない。分業したほうがいいなんてのは現代の神話みたいなものだと思うよ。ときにはうまいこと分業するというのも必要なのかもしれないけど、全体を見渡す視点を持つことが大切だと思う。音楽だけじゃなくて他のアートも含めてね。僕はいつもあるひとつの媒体から学んだことを別の媒体に取り入れたいと思ってる。すべてのものごとは相互に影響をおよぼしあってると思う。そういうのが僕は好きなんだ。

あなたは2016年に E.A.R. 名義で今回の新作と同じタイトルの「All Things Being Equal」というシングルをリリースしていましたね。このシングル曲は16分にも及ぶ長いインストゥルメンタル・ナンバーです。このシングルが、今回のこのアルバム制作に直接つながっていったのでしょうか?

SB:シングルがアルバムにつながっているかということについてはイエスでもあるしノーでもある。シングルで使った楽器はとても古い CASIO のキーボードなんだけど、アルバムに入っている別の曲でもそれは使っている。でもこのシングルを作ったときにはまだこのアルバムは見えていなかったんだ。そもそも E.A.R. 名義で出したのはアブストラクトなインストゥルメンタルだったからさ。その後この曲をいろいろと弄って、60年代後期か70年代の初めにコンピューターで生成された歌詞をつけて、日本盤にボーナストラックとして収録されるときにタイトルを「Almost Nothing Is Nearly Enough」に変えた。アルバムのタイトルと混同してほしくなかったからね。でも「All Things Being Equal」というタイトルは気に入っていたし、シングルの12インチはかなりレアになっていることもあるから、アルバムのタイトルとしてこれを使ったんだ。アルバムに収録されていない曲のタイトルをアルバム・タイトルにするっていう変な伝統があるんだよね。たとえば Gun Club のデビュー・アルバム『Fire of Love』には “Fire of Love” という曲は入っていない。同様にスペースメン3のデビュー・アルバム『Sound of Confusion』にも “Sound of Confusion” という曲は入っていない(笑)。どんな理由であれ、アルバムに入ることのできなかった曲の名前がアルバム・タイトルになることによってその評価を保ち続けるっていうのはおもしろいと思うんだ。

そういえばジーザス&メリーチェインのデビュー・アルバム『Psycho Candy』にも同タイトルの曲は入っていませんでしたね(笑)。さて、今回30年ぶりのソロ・アルバムを出すにあたり、ソニック・ブームという個人名義を再度使った理由は?

SB:まずはこの名前をあのクソみたいな SEGA のキャラクターから取り返さなきゃいけなかった。奴が僕の名前を盗んだんだよ! 奴はもともと Sonic The Hedgehog って名前だっただろ。僕は奴が Sonic The Hedgehog だったずっと前からソニック・ブームだった。なのに突然奴は名前をソニック・ブームに変えたんだ。だから僕は立ち上がって僕の名前を守らなきゃって感じだった。
 僕がその名前を使うと決めたときは誰もそんな名前を欲しがってなかったよ。すごくいい名前だねっていろんな人が言ってくれた。ソニック・ブームは形を持たないところがすごく好きなんだ。存在していてもそれに手を伸ばして触ったり、家に持って帰ったり、食べたりすることはできないだろう? もしかしたら食べることはできるかもしれないけど(笑)。
とは言っても、特に30年ぶりにこの名前を使うことにしたものすごく強い動機みたいなものは実はないんだ。これは僕のソロのアルバムだから、ソニック・ブームって名前を使うことは正しいと感じられた。パーソナルなアルバムとは思わないけど、確実にソニック・ブームの核があらわれているアルバムだからね。

いま身の回りに起こっている問題は僕たち全員が引き起こしたものだ。もう政治家にそれをなんとかしてもらおうなんて思ってはいけないよ。結局政治なんてビジネスなんだから。僕たち全員がその問題に取り組むべきなんだ。

この「All Things Being Equal」というタイトルには、あなたの現在のモットー、人生のテーマのようなものが込められていたりしますか?

SB:自分の人生のモットーって言えたらよかったんだけどね。若いときにそう言えるくらい賢かったら、若い頃から地に足がついた性格だったって言えたらいいんだけど、そんなことはないよ。でも、人生や人との出会いを通して自分の行動を省みることはできた。人と一緒に学ぶ機会もまだたくさんある。願わくはみんなには良いことを学んでほしいなと思ってる。僕の経験はいつも良いことばかりではなかったけど、完璧な人なんてどこにもいないし、ほとんどの場合はたとえそれがひどい体験だったとしてもなにか得るものがあるものだよ。

1990年にあなたがまだスペースメン3に在籍していた時期にソニック・ブーム名義で制作したファースト・ソロ・アルバム『Spectrum』では、ひたすら「現実世界からの逃避」と「何者かによる救済の希求」を描いていました。あの時期はスペースメン3も内部に問題を抱えていて、あなたのフラストレーションはとても大きなものだったと推測します。それがファースト・ソロのムードに現れていると思えます。
 しかしそれから30年を経て作られた今回のソロでは、響きの点でも、また歌詞の面でもポジティヴな肯定感、そして抽象的な愛、平等な愛のようなものを感じます。これは普通に考えれば、あなたも歳を重ねて成熟した大人になった、ということなのでしょうが、なにかそれ以上にあなたのなかで自分自身の考え方が大きく変わったというようなことがあるのでしょうか?

SB:実はその当時はスペースメン3はまだ臨界崩壊に至るような状態にまでは行ってはいなかったんだ。だからあのソロ・アルバムではスペースメン3のメンバーが演奏をしてくれているんだ。精神的には機能していなかったのも確かだけどね。スペースメン3は、うまいことやっていくことができない若者が集まったグループだった。だから一緒に沈んでいくような結果になってしまったんだけど、こういうのってある特定の種類のロック・バンドではそんなに珍しい話でもない。セックス・ピストルズやストゥージズ、MC5 なんかを思い出してみてよ。もちろん意識してそうなったわけではないし、僕らだって自分たちの状況に気づいていたとも言えない。そのあと何年もかけて僕たちはお互いうまくやっていけるような人間じゃないって気づいたけど、そういう経験を経ることがものごとの見方を変えてくれたりすることもある。
 ものごとの捉え方や考え方は変わったね。2010年だったかな、アニマル・コレクティヴのパンダ・ベアと仕事をすることになったときだった。そのとき僕は50代を目前にしていたんだけど(注:ソニック・ブームは1965年生まれ)、同じ場所や同じ人に囲まれた生活に人生を費やしたくないなと思い始めていた。人間関係がうまくいかない人もたくさんいたし、僕が育ったところ(イギリスの地方都市ラグビー)はいい友達もいるけどすごくフレンドリーな場所というわけでもなかった。そういう環境から出たかったし、商業化された都市にもいたくなかった。同じコーヒーショップ、同じファーストフードショップを見るのも、人々がみんな携帯を見ながら歩いているのを見るのもうんざりだった。
 そんなときにポルトガルでパンダ・ベアと一緒に作業をすることになったので、そのあたりに住む場所を探し始めたんだ。リスボンの郊外にある小さなナショナルパークを見つけてさ。美しい山に囲まれた場所なんだ。日本の北部に少し似ているかもしれないな。とにかく美しい場所なんだ。おかげで外でたくさん時間を過ごすようになったし、ガーデニングをするようにもなったんだけど、そういうことをしていると頭の中からノイズやナンセンス、クソみたいなことが消えて空っぽになるんだ。思考も明快になって、考えていたことをもっとリサーチするようになる。バックミンスター・フラー(註:アメリカの思想家。「宇宙船地球号」という言葉で知られる)が地球や人類、経済モデルのとの関わり方、経済資本モデル、その本質の一部である好景気と不景気の繰り返しについて話しているのを見たり聞いたりしてね。もし僕がもう1枚アルバムを作るとしたら、そういう問題についても言及してみたいと思ってる。何が欲しいだとか、もっと欲しい、もっと大きいものが欲しいみたいなこととか、使いまくって捨てまくって消費しまくってやるみたいなことを僕の声を使って届けたくない。
たとえばこれまでの人生で僕が消費してきたプラスチックのことを考えてみる。それらはよく考えると全然必要ではなかったことに気づくんだ。プラスチック製品は好きだったけど、もういまはプラスチックから何かを飲むのも何かをプラスチックで包むのも嫌だ。自分の人生を変えなきゃいけないって思ったんだ。そうしたら突然自分の人生がより良くなった気がするし、いままで自分がしてきたことに対しても気持ちが軽くなったような気がした。すべてのことにつながりを感じることができて、いままでとは比べものにならないくらいハッピーな人間になったよ。それを表現していきたいんだ。いま身の回りに起こっている問題は僕たち全員が引き起こしたものだ。もう政治家にそれをなんとかしてもらおうなんて思ってはいけないよ。結局政治なんてビジネスなんだから。彼らが行動を起こしたとしても牛歩だし、多くの場合政治家自身のビジネス・オペレーションの隠れみのになってしまっている。僕たち全員がその問題に取り組むべきなんだ。もちろん全員がそんなものごとの見方ができるわけではないことはわかっているけど、しっかりとした考えを持っている人はいるわけだしね。最近の気候問題は自分たちに何ができるのかということをより考えさせてくれていると思う。この地球上で起こっている問題について、僕たちはもっと真剣に取り組まなきゃいけない。僕たちは自分たちの人生に起こるノイズに対していっぱいいっぱいになるあまり、たくさんのことに目をつむり続けてきた。説教じみたことは言いたくないけど、いいヴァイブスがあるレコードは作りたいよね。

ポルトガルに住んだことで、あなたの考え方がそこまで至ったというのは興味深いところです。ポルトガルのなんという街に住んでいらっしゃるのですか?

SB:シントラという街なんだ。ここに限らず、ポルトガルは全然商業化されていない国だから気にいったよ。ここからスペインのマドリードなんて行ったら未来に足を踏み入れたような気持ちになるよ。もちろん東京もね。実際あそこは未来だし(笑)。あまりいい言葉ではないんだけど、ここはオールドファッションなんだ。ここではものごとが急速に発展したりしない。もちろんすべてがってわけじゃないよ。携帯とかラップトップ・コンピューターはちゃんと普及しているし。だけど総じて商業化されたものを見ることは多くなくて、オールドファッションなコミュニティがいたるところにあるんだ。このあたりをドライヴするとき、僕は近所のお年寄りたちに向かって手を振るんだ。そうすると彼らも手を振り返してくれる。おはよう、こんにちは、こんばんは……そんな挨拶も街角で常に交わされている。人が足早に通り過ぎるような都市部ではそんなこと起こらないだろ? そこがすごく好きだ。
 生活環境は自分の健康状態や心の健康にすごく影響がある。僕は木や美しい自然、鳥や野生動物、爬虫類、虫に囲まれた、自分が健康でいられる環境にいたかったんだけど、ポルトガルではそれがまだ見つけられるんだ。
音楽もこの生活環境に大きく影響されているよ。このアルバムはまさにシントラの音だと言っていい。童話で有名なハンス・クリスチャン・アンデルセンも家をこの地域に持っていたそうなんだけど、とにかくマジカルな場所なんだ。山に囲まれているけど海も近くにあるからすぐビーチに行ける。その昔ポルトガルの皇室が、毎年夏になると避暑のためにこの山脈に来ていたんだって。リスボンに比べると夏は5度も気温が低いからね。天気も最高で、海から風が吹いてそれが雲を作るんだけどとても美しい。太陽も美しいし、それらのムードはアルバムに取り入れられていると思う。歌詞はほとんどこの土地で書いたけど、ここにいることで感じることを最大限表現したんだ。庭で過ごしたり植物を植えていたりするときの気持ちをね。だからこの地域というのはアルバムにとっての最大の影響源になっていると思うよ。

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最良の出来事っていうのは前向きな気持ちで人生を生きて、外に出たり、経験を積んだときに突然起こったりするんだ。

アートワークにはとにかくあなたが関わってきたたくさんのアーティストの名前がクレジットされていて壮観ですね。


Sonic Boom
All Things Being Equal

Carpark / ビッグ・ナッシング

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SB:彼らこそがこのアルバムの最大のインスピレーションだからね。たくさんの人たちに感謝しているんだ。覚えている限り300から400のバンドやアーティストと一緒に仕事をしてきたよ。そこまで多くなってくると、さすがにすべてのことを覚えているのは難しいし、その人たち全員をクレジットするのは不可能だ。だからいままで一緒に仕事をした人全員にありがとうという気持ちを込めて「This is dedicated to the ones I love」とクレジットして、特にそのなかでも特別な人たちの名前を載せたんだ。なかには本当に僕の活動の初期から一緒にやっている人もいるし、全然名前が知られていない人もいる。プロデューサーとしての活動の初期に関わったフランスの European Sons というバンドがいるんだけど、彼らが拠点としていたフランスの街に行くたびに「誰かこのバンド知ってる?」って聞くんだけど誰も知らないんだ。プロデュースをしたのは1990年だからすごく前のことなんだけどね。連絡先もなくしてしまって、彼らに関する情報がなにもないんだ。だけどまだCDは持っているよ(笑)。たくさんの名前を載せることで、彼ら全員に僕を助けてくれたことや僕の人生の一部になってくれたこと、そして彼らから学んだすべてのことに対して感謝したんだ。そのときは気づかないかもしれないけど、人は人と出会うことで必ずなにかを学んでいるからね。
 こんなにたくさんの人やバンドとレコーディングやミキシング、プロダクションなど、関わり方のかたちは違えども共に音楽を作ってきたなんて信じられないよ! ジャケットを作ったりビデオを作ることで関わったバンドもいる。違うタイプの人と働くのが好きなんだ。ありがたいことにいつも僕はそこから収穫を得ることのできるタイプの人間だから。考えごとをしているときとか、自分の頭のなかでこれは誰がこんなふうに考えろって教えてくれたんだっけ? って思うこともあるよ。それも祝福したかった。彼ら全員が僕の音楽をよりよいものにしてくれたから。

プロデュースを頼んでくる人たちは、あなたにどんなことを望んで来るのでしょう?

SB:彼らからこちらにアプローチしてくることもあれば、僕のほうからプロデュースさせてくれということもあるよ(笑)。君がライブハウスで来る日も来る日も違うバンドが来て演奏するのを見ていたとする。そうするとだいたいみんな似たようなタイプの人間の集まりだなって思うだろう。でも、スタジオに入って制作を始めてみると、彼らのなかにあるダイナミクスだとか、自分たちの音楽や音楽そのものに対する考え方、音楽の作り方がバンドによって全然違うんだってことに気がつくんだ。プロデュースを始めた初期の頃に気づいたことは、もし自分がスタジオに行ってその場のルールを作って、これが俺たちのやり方だ! なんてことをするのは愚かだということ。僕がプロデュースを始めた理由のひとつは、スペースメン3時代に初めて迎え入れたプロデューサーなんだ(注:おそらくスペースメン3のファースト・アルバムに関わったボブ・ラムのことだと思われる)。彼はとても優しい人だったけど、音楽のことも僕たちのこともちっとも理解していなかった。僕たちの意見よりも彼の意見の方が尊重されたんだ。僕はすぐに彼は間違ってるって気づいたけど、もうああいう人とは働きたくないと思った。少なくとも僕にとってこれはポジティヴなことじゃなかったよ。だから自分でプロデュースもやり始めたんだけど、そのうち他の人が声をかけてくれるようになった。プロデューサーとして関わるけど、決定権は依頼主である彼らにあるべきだと思ってる。僕は彼らがよりよい作品を残せるように、そしてできるだけ早くベストな結果を残せるように正しい方向に導くだけ。最終的には彼らが納得してハッピーになることが大事。僕が納得する結果を残すために他の人を僕のやり方に従わせるっていうのはまったく違うんだ。バンドごとにやり方が違うのを見るのはかなりおもしろいよ。ときにはなによりもまず楽しもうぜってなる場合もあるし……いつだって楽しいんだけどね。すべてが比較することのできない経験になっているよ。とにかく全員違うからさ。人生のなかでも最高の出来事って、いつも予定されて起こることはないだろう? 最良の出来事っていうのは前向きな気持ちで人生を生きて、外に出たり、経験を積んだときに突然起こったりするんだ。

これまでにプロデュースや共演をしたなかで、印象に残っているアーティストをいくつか挙げてその印象を教えてもらいたいのですが……そうですね、たとえば MGMT、パンダ・ベア、Dean & Britta、Cheval Sombre、No Joy、ビーチ・ハウス、Delia Derbyshire、Silver Apples……

SB:えええ? それはちょっと難しすぎるよ(笑)。たくさんの才能ある人たちと一緒にやってきたんだから! 彼らはゲームのなかでもトップの人たちだよ。ゲームといっても彼らがやりたいことをする彼ら自身のゲームのなかということだけどね。人が自分に人生のリスクを背負わせてまで夢を追いかけるために自分たちのやりたいことをするって最高だと思わない? とにかく……選べないって! それぞれの強みがあるからなあ……みんなイコールにね……All Things Being Equal (笑)。

今回のソロはあなたもパンダ・ベアやビーチ・ハウスの制作で関わったワシントンDCの〈Carpark Records〉からのリリースです。このレーベルのカラーはあなたの音楽にとてもあっていると思います。このレーベルにはあなたがスペースメン3を始めて以降に生み出した音楽への影響力が継承されている感じがします。

SB:〈Carpark〉と初めて一緒に仕事をしたのはパンダ・ベア絡みで、その後レーベル・オーナーのトッド(・ハイマン)とはたまに連絡を取り合っていたよ。それで〈Carpark〉にいたビーチ・ハウスと一緒にやることになった。だから〈Carpark〉からリリースをすることは自分にとってなんとなく意味があるような気がしたんだ。それと当時僕は、別のレーベルとの問題を抱えていたんだよ。ロイヤリティが払われなかったりとか、アルバムが売れてもそれがちゃんと経理計上されていなかったりとかさ。音楽業界ではありがちなことなんだけど。当時はそういったネガティヴなことと向きあわなきゃいけなかったんだ。彼らはすごくモラルが低くて、非人道的なビジネスをするんだ。彼らのようになって戦ったほうが楽だということはわかっていたけど、それは僕がやりたいこととはまったく逆だし、なにより嫌な感情を振り払いたかった。嫌なものをただ手放したかったんだよ。お金がすごく欲しいんだったらネガティヴなことは付きものなのかもしれないけど、もうそんなものは気にしないって決めたんだ。それよりもその経験をポジティヴなものに昇華すれば、他の人にポジティヴで公平で思いやりのある行動を起こさせるような影響を与えられるかもしれないしね。もうすでにそういう行動を起こしている人もいるけど、まだすごく大きなメジャー・レーベルではまだ信じられないようなことが起こっている。とにかくポジティヴなことに昇華したかったんだ。
 トッドには、僕のレーベルに対する気持ちを話したことがあるんだ。彼はとても公平で正直でオープンな人だからね。リリースに関しては最初は全部自分でやろうかなと考えていたんだけど、いろいろな側面からそれを考えてみると、お金は減らないかもしれないけど、作品が届く人の数や作品が広がる可能性も減るんだろうなって思ったんだ。だからパートナーとしては彼らがベストな選択だったよ。いまのところの僕たちの関係性はまさにパートナーシップという感じで、他のレコード会社でたまにあるような契約書で結ばれた奴隷みたいに感じる関係にはまったくなっていない。30年間で学習してきたこともたくさんあるしね。20歳のときにスペースメン3としてレコード会社と契約を結んだときは、なにが起きているかなんてわかってなかったからなあ。

「パイオニアは後追いの人たちにその背中を狙われる」って言葉があるんだ。俺たちがやったことは特別なことではなくて、そのときに俺たちができることのすべてだったけど、もしかしたら背中を狙われていたのかもしれないね(笑)。

もともとあなたは同時代の音楽シーンに直接的にコミットしてきたタイプではないと思いますが、いまの音楽シーンについて何か思うことがあれば教えてください。 

SB:僕はスタジオで一緒に制作をする人に、音楽を作っているんだからある程度はいまこの場所でやっていることを正確に把握しておく必要があるよって言うようにしているんだ。そのとき作っている音楽は何かに影響を与えることもあるからね。未来のことを見据えたときに、この音楽がどんな立ち位置になるのかっていうのはいつも僕が考え続けていること。なぜ、そしてどうやって音楽が定義されてきたのかということにはずっと興味があるけど、シーンというものの大きな一部になったことはないね。スペースメン3はパイオニア的な存在だったのかもしれないけど、パイオニアっていうのは自分の力でどこかに向かって行く人のことを言うだろ? 「You can tell the pioneers by the arrows in their backs (パイオニアは後追いの人たちにその背中を狙われる)」って言葉があるんだ。俺たちがやったことは特別なことではなくて、そのときに俺たちができることのすべてだったけど、もしかしたら背中を狙われていたのかもしれないね(笑)。
このあいだ「もし若手のバンドにひとつだけアドバイスをするとしたらなんと言いますか?」っていう質問をされたんだ。「オーマイガー、若手にアドバイスをする奴って大嫌いなんだよ!」って感じだった。それでも答えてくださいって言われたから「妥協をするな。心からやりたいと思うことをするんだ。友達が好きなシーンの一部になるために音楽をやってはいけない。すぐに友達がライヴを見に来てくれることはないかもしれないけど、やりたいことをやれば報われる」って言ったんだ。心に響く優れた音楽っていうのは、程度は違えど妥協をしない人たちが作ったものなんだよね。彼らは妥協せずに音楽とコミュニケーションをとることが必要だってわかっているんだ、音楽はコミュニケーションがすべてだからさ。それに音楽は素晴らしくパワフルなコミュニケーションの手段のひとつでもある。音楽って自分がそのときに考えていたことや思い出を際限なく呼び起こしてくれるよね。それって10枚のカードセットに入っているカードをある部屋で全部並べて覚えて、その後にもう一度その部屋に戻るとそのカードのすべてを覚えている、みたいなことに近いと思うんだ。もう何年間も聴いていなかったとしても、聴けばほぼ瞬時にその当時の感情や思い出を呼び起こされるという点でね。

1965年生まれのあなたはあと5年後には60歳になります。そのとき、世界はどうなっていて欲しいと思いますか?

SB:ワオ……僕は現実的だから、もし僕たちがリサイクルをすることや消費活動、長距離移動を削減することに賭けなければ……飢餓や水不足、資源不足、人の超過密といったような他のメカニズムのなかで人口はじょじょに減っていくことになると思うんだ。僕たちが抱えている問題というのは巨大だけど、地球は回復するということはあと2ヶ月くらいでわかると思うんだ。落ち込んでいる日には、「地球は人間がいなければより早く回復していくのでは」なんて考えたりもするけど、いつもは僕たちならできるって感じているよ。海にプラスチックを投げ込むのをやめて、海に浮かんでいるものを取り除いて、石油科学をやめるんだ。石油科学は有毒なものだってわかっているだろ。いまや再生可能エネルギーがあるんだから、それが唯一の回答であるべきだ。
 5年後か……夢は大きく持ってみよう……この地球はひとつで人類もひとつであるということを地球上に住む人びと全員が理解して欲しいんだ。お互いのことをレイシストと呼んだり、国家で分断したり、嫌なことやきついことはたくさんあるけど、違いを強調するよりもシェアするべきことのほうがたくさんあるということに気づいてほしい。この地球上で文化的な違いがあることは祝福すべきことだ。だけど一方で全員がこの地球の一部で、ひとりがその他の人のために地球を台無しにするなんてことがあってはいけない。もしひとつ選ぶとしたら、5年後には牛肉の消費量が大幅に減っているといいな……あと国家同士がきちんと手を組んでよりグローバリゼーションが進んでCO2の排出量のコントロールとかができるといいよね。西洋の国が中国を見て「大気汚染が深刻だ! この状況ってクレイジーだよ」って言うけど、いままで自分たちもさんざん大気汚染をしてきたじゃないか。この問題が深刻になる直前にこれはやばいって思ってちょっとだけ賢いやり方に切り替えただけでしょ。そういう問題にもっと目を向けていくべきだと思う。自分たちが「WE」であることを自覚していればいいんだけど、ドナルド・トランプやボリス・ジョンソンが当選するのは……わからないな。彼らは僕たちをつなげるよりも分裂させるだけだから。みんなが一緒になってものごとに取り組むことが大切なんだ。一緒に取り組み始めたら他のことも必然的についてくると思うよ。戦争はなくなって、お互いのことを理解し始めるし、人はそれぞれ違っているのは祝福すべきことで同じである必要はないということもわかる。違いがあることは問題ではないとね。それって両親が言っていたからその子供たちも同じことを言い続けるような、オールドファッションなことなんだよ。いまの人の行動とかものごとのありかたって、いままでずっとそうだったからそうしているだけでさ。そのことに対して疑問を持たないでしょ? 一度でも疑問を持ったら絶対に理にかなってないってわかるからね。

The Soft Pink Truth - ele-king

 これは怒りの作品だ。マトモスの片割れ、ドリュー・ダニエルによるプロジェクト、ザ・ソフト・ピンク・トゥルースが『Am I Free to Go?』なるカヴァー・アルバムをリリースしている。コンセプトは明確で、ドゥームやディスチャージなど、クラストコアのカヴァー集。
 ドリューによれば、最近〈Thrill Jockey〉からリリースされたばかりの新作『Shall We Go On Sinning So That Grace May Increase?』と同時期に制作されたもので、現在の資本主義的な生活世界における政治的悲惨さ──ドナルド・トランプ、(巨大グローバル企業の)アマゾン、人種差別的とりしまり(警察)、気候変動、パンデミック──をめぐって湧きあがってきた、みずからの感情と向き合ったアルバムだそう。
 経費を除いたすべての収益は、ファシズムに抗議する世界じゅうの人びとを法的に支援するファンド「国際反ファシスト法的防御基金(the International Anti-Fascist Legal Defence Fund)」へと寄付される。

artist: The Soft Pink Truth
title: Am I Free To Go?
release date: 27 May, 2020

tracklist:
01.Hellish View (Disclose cover)
02.Fuck Nazi Sympathy (Aus-Rotten cover)
03.Multinationella Mördare (Totalitär cover)
04.Police Bastard (Doom cover)
05.Profithysteri (Skitsystem cover)
06.Respect the Earth (Crude SS cover)
07.Cybergod (Nausea cover)
08.Death Earth (Gloom cover)
09.Space Formerly Occupied by An Amebix Cover But Fuck That Guy for Being a Holocaust Denier
10.Protest and Survive (Discharge cover)

bandcamp

interview with Darkstar - ele-king

 ダークスターのデビュー曲“エイディーの彼女はコンピュータ(Aidy's Girl Is A Computer)”は、クラフトワークでは表現できない領域で鳴っている。パソコンの前に長時間座りながら時間を過ごしている、現代の快楽と孤独。いや、孤独など感じさせはしない。画面の向こう側には、刺激的な世界が無限に広がっているのだから快楽である。この、果てしない快楽。
 感染に恐怖し、動きが制限された世界では、彼らの新しいアルバムはほどよいサウンドトラックだ。ダークスターの1stアルバム『ノース』を、「2008年の経済破綻以降に偏在している胸騒ぎの感覚をはっきりと伝えている」と評したのはマーク・フィッシャーだが、それに倣えば今作は2020年のパンデミックにおける胸騒ぎにリンクしていると言えるだろう。
 作った当人たちによれば、再開発されるロンドンが契機となっているそうで、なるほど忘失されゆくものへの切なさは本作『シビック・ジャムス』に通底している感覚なのだろう。もしCOVID-19がなかったら、オリンピックに向けてそれまでなかば破壊的に再開発が進められていた東京にも当てはまるテーマでもあった。が、“市民の窮地”なる意味のタイトルを冠したこのアルバムは、集まることが制限されたいまの世界においても響き合っている。
 ダークスターはその名の通り暗い星であり続けけているが、とくに今作においては、アトモスフェリックでアンビエントなフィーリングが前面に出ている。1曲目の“森(Forest)”は、豊かな自然が循環する美しいそれではない。迷い込んだら戻れない、深くて視界の悪い森だ。アルバム中もっとも魅力的な曲である“Jam”には2ステップのリズムがひび割れたサウンドとしてあるが、それは以前のようには踊れなくなったダンスホールへと続いているようだ。“1001”は一聴するとキャッチーなメロディが聴こえるのだが、時空間がねじ曲げられたかのようなミキシングが施された背後には、奇妙な音やテープの逆回転めいた声が散りばめられている。
 ダークスターのメロディスでメロウな特性は、ダブステップを通過したシガー・ロスか、さもなければロバート・ワイアットだ。“Tuseday”のような力強いダンス・ビートを擁する曲もあるが、すべては彼らのモジュラーシンセによるくぐもった音色と輪郭がぼやけた歌声による独特のムードへと向かっていく。
 灰色……これはダークスターをひと言で説明するときによく使われる言葉で、マーク・フィッシャーは『ノース』を『アナザー・グリーン・ワールド』ではなく『アナザー・グレイ・ワールド』だと説明しているが、音楽性の豊さえで言えば『シビック・ジャムス』こそがそう喩えるに相応しいメリハリのある内容で、曲作りもより繊細さ、精密さを増している。これまでのなかでもベストな出来だろう。が、しかしもっともこの重要なのは、この作品が失われたレイヴ・カルチャーに取って代わるスペースに捧げられているという点だ。電話取材には、ジェイムス・ヤングが答えてくれた。

ある空間を作り出したいと思っていた。その空間というのは、再開発でめまぐるしく変化していくロンドンという都市で、うんザりしたり窮屈さを感じて生活していくなかで、心地よさを感じられるスペースのことだ。

まずは素晴らしいアルバムをありがとうござまいす。とても気に入っています。

JY:こちらこそ、そう言ってくれてありがとう。

いま住んでいるのはウェスト・ヨークシャー?

JY:いまはロンドンに戻っていて、ウェスト・ヨークシャーには住んでいないんだ。ウェスト・ヨークシャーは自然がたくさんあって、すごく田舎で、人里離れた場所。必要最低限のものしかないから、気が散ることなく作業に集中できるんだ。

通訳:また住みたいと思います?

JY:恋しくはあるけど、いま住みたいとは思わない。訪ねるには良い場所だけど、いまはまだ身を置く場所ではないな。

通訳:ロンドンはここ数年で変わりましたが、いまも住みたい魅力的な場所なのでしょうか?

JY:たしかに住みにくくはなっているけど、やっぱり好きな街であることは変わらない。いろいろ大変だけどね。

前作から5年という時間が空いた理由を教えて下さい。あらためて自分たちの方向性について考える時間が必要だったのでしょうか?

JY:いや、アルバム以外のダークスターのプロジェクトで忙しかっただけだよ。エイデン(・ホエイリー)も個人的にいろいろ忙しかったし。5年の間に何も活動をしていなかったわけじゃないんだ。他の活動が落ち着いてからアルバム制作を始めて、かかったのはだいたい2年くらい。

通訳:次の方向性が定まるのに時間がかかったり、何か考える時間が必要だったりはしなかった?

JY:それはなかった。アルバムを制作する度に次にどんなものを作りたいかは見えてくるし、それをどう形にしていくかをつかむまでに時間がかかることもあるけど、行き詰まったり、自然の流れに逆らって何かをしようとしたりはしないね。

アルバムは、いまのこの状況になる前に制作されたものだと思いますが、この未曾有の非常事態にとてもしっくり来るうに思いました。ダンス・ミュージックがベースにある音楽ですが、孤立してもいるようなニュアンスもサウンドにはありますよね?

JY:そうだね。5年分の出来事や考えが反映されているからそうなったんだと思う。その間にいろいろなことが起こったぶん、それらすべての側面が映し出されているから。俺たちの曲には、自分たちが考えていること、感じていること、さまざまな経験が自然に出てくるからね。

サウンド的には、アンビエントでありダンスでもあります。こうしたアンビヴァレンスはどうして生まれたのでしょうか?

JY:今回のアルバムでは、ある空間を作り出したいと思っていた。再開発でめまぐるしく変化していくロンドンという都市で、うんザりしたり窮屈さを感じて生活していくなか、心地よさを感じられるスペースを探しだす。そうすることで、生活のバランスをとるんだ。そのスーペスを音で作り出していく過程でアンビエンスな部分ができあがり、いくつかのトラックも、それにあわせて自然にアンビエントなサウンドを持つようになったんだと思う。意識的なものではないよ。

通訳:逆に、今回意識的にやったことはありますか?

JY:聴きやすいサウンドにすることと、ローなサウンドにすること。あとは、さっき話した空間を作り出すためにダンス・ミュージックを作りたくなった。でもそれは、初期のダークスターのサウンドに戻るという回顧ではなくて、いまロンドンからダンスフロアという空間が再開発によって減らされているという現状のなかで、いまの自分たちでそのフィーリングを作り出す音楽を作り出したかったという意味。現在のダークスターとして昔作っていたようなダンスのフィーリングを持ったサウンドを作ったらどんな音になるか、の試みだったんだ。

自分たちが感じることを曲にしていくうちに、アルバムの内容は、ここ数年のロンドンのカオスが反映されたものになっていった。

今作もまたポリティカルな作品ですが、ダークスターならでのムードはどこから来るんでしょうか? あなたがたの内面から来るのか、それともこの世界から来るものなのか

JY:それは、自分たちのなかから自然に出てくるものとしか言いようがない。試したいことをいろいろ新しく試しながらも、自分たちの考え、自分たちが好むサウンドというものは変わらないからね。ダークスターのサウンドはそれを基盤に作られているし、その基盤は変わらない。そのムードはそこから生まれているんじゃないかな。

アルバム・タイトル『Civic Jams』について教えて下さい。

JY:自分たちが感じることを曲にしていくうちに、アルバムの内容は、ここ数年のロンドンのカオスが反映されたものになっていった。自分たちがロンドンという都市で生活しているなかで目にしてきたもの、感じてきたもの、経験してきたものごと。それを捉え、まとめた言葉がこのタイトルだと思って『Civic Jam』にしたんだ。

通訳:ダークスターのアルバム・タイトルは、毎回場所を表す言葉が入っていますよね。場所を入れるのは重要?

JY:そうだね。自分たちのまわりのことが曲になるから、自分たちがいる場所がかならずアルバムの内容になる。俺たちは普段の生活、周りの出来事以外にインスパイアされて曲を書くことはほとんどどないんだ。

ダークスターの音楽において歌詞は重要ですか? 

JY:これはよく訊かれる質問だね。もちろん重要でもあるけれど、感情を表現をするために歌詞に重点を置いたり頼っているわけではなく、その重要さはサウンドと同じ。サウンドでも、表現したいことの内容は同じくらい伝えられると思う。だから、歌詞で表現しているのは、さっき話したサウンドで表現しようとしていたことと同じなんだ。混乱のなかで自分たちが心地よさを感じられる、楽な気持ちになれる空間。いま起こっている現実と、その変化のなかで人びとが本当に求めている価値やコミュニティとの間でとっていくバランスだね。

批評家のマーク・フィッシャーはダークスターについて良いことを書かれていますが、彼の文章からインスパイアされたことはありますか?

JY:読んだ。全部は読んでいないけど、インスパイアされたことはあると思う。彼の文章は、自分たちがアルバムで何をしたかったのかをうまくまとめ、説明してくれていた。アルバムが何を映し出しているかをそれを読むことで自分たちの視点とは違う角度から再確認ができて、次に作りたいものが見えてきた、というのはあるかもしれない。

ダークスターとレイヴ・カルチャーとの結びつきについて教えて下さい。とくに今作において、レイヴ・カルチャーはどのようにリンクしているのでしょうか?

JY:ロンドンとレイヴ・カルチャーは切っても切り離せない。ダークスターの基盤はロンドンだ。レイヴ・カルチャーでクラブに行ったことから刺激を受けて音楽を作りはじめ、現在に至っている。そういう面でもちろんサウンド面においても影響も受けているし、レイヴ・カルチャーはダークスター・サウンドの基盤であり、ルーツであるといえるね。

最後の質問です。コロナウイルスによって、この先、音楽の質は変わると思いますか?

JY:それは俺たちにはわからない。いまはとりあえず、何かを作るときだと思う。それはいまの状況に関係なく、できることだ。いつそれをリリースしたりパフォーマンスできるようになるかが自分たちにわからないだけであって、いまは座ってじっとそれを待ちながら、そのときがきたら披露できるものを作り出す時期だと思うね。

Ralph - ele-king

 昨年ファーストEP「REASON」を発表し、今年2月に公開された “Selfish” で注目を集めたラッパーの Ralph、グライムなどからの影響を独自に咀嚼する彼が、さらなる新曲 “Back Seat” を本日リリースしている。プロデュースは引き続き Double Clapperz が担当! 不安を煽るストリングスがラップを呼び込む冒頭からしてもう最高にクールです。同曲を収録した最新EP「BLACK BANDANA」は6月10日に発売。

[6月12日追記]
 ついにリリースされた Ralph のEP「BLACK BANDANA」より、表題曲のMVが公開されている。監督は Hideki Amemiya で、MURVSAKI プロデュースによるドリル・サウンドを引き立てるクールな映像に仕上がっている。チェック!

「JapanViral 50」に楽曲がランクインするなど、いま注目のラッパー Ralph が新作EPから先行シングル “Back Seat” をリリース。

ファーストEP「REASON」のリリースでその地位を確固たるものにし、2020年2月リリースのシングル “Selfish” は Spotify で「JapanViral 50」のプレイリストにランクインするなど、その勢いは衰えを知らない新鋭ラッパー、Ralph。本作は6月に発売が予定されている新作EP「BLACK BANDANA」からの先行シングル。

グライムやベースミュージックシーンにおいて、世界的に活躍するプロデューサー/DJユニットの Double Clapperz が手がけるタイトなビートに、Ralph の代名詞であるリアルなリリックと巧みなフローが展開されている。

6月10日にリリースが予定されているEPは “Selfish” “Back Seat” を含む5曲で構成されており、いまの Ralph を象徴する作品になること間違いない。2020年最も注目を集めている若手ラッパーの第二章が、このシングルから始まる。

リリース情報
アーティスト:Ralph
タイトル:Back Seat
リリース日:2020年5月27日

各種配信サービスにてリリース
https://linkco.re/TAauh36b

Ralph/ラッパー

2017年に SoundCloud で発表された “斜に構える” で注目を集めたことをきっかけに、アーティスト活動を開始。2018年には dBridge&Kabuki とのスプリットEP「Dark Hero」をレコード限定でリリースし、即完売。ファーストEP「REASON」のリリースでその地位を確固たるものにし、2020年2月リリースのシングル “Selfish” は Spotify で「JapanViral 50」のプレイリストにランクインするなど、その勢いは衰えを知らない。
卓越したラップスキルと自身のバックボーンから生まれるリアルなリリックが高く評価され、ヘッズの信頼も厚い Ralph。いま東京で2020年の活動が最も期待されている若手ラッパーの1人と言える。

Twitter:https://twitter.com/ralph_ganesh
Instagram:https://www.instagram.com/ralph_ganesh/

Play For SCOOL - ele-king

 緊急事態宣言が解除されたからといって、ライヴハウスやイベントスペースがすぐに元通りになるわけではない。現在営業自粛中の三鷹のスペース、これまで演劇やダンス、音楽や展示など様々なアートを発信してきた SCOOL もやはり苦境に立たされている。
 そんな SCOOL を支援するためのコンピレーション・アルバムが、本日リリースされている。田中淳一郎とコルネリ、そして SCOOL の店長でもある土屋光の3人によって提案された企画で、SCOOL ゆかりのアーティストたちが勢ぞろいしている。
 先日アルバムをリリースしたばかりの yukifurukawa の新曲など、ほとんどが未発表曲で占められており、いくつかはこの5月に SCOOL で録音されたばかりだという。音楽家ではないアーティストの手による楽曲も収録されており、未知のサウンドに触れる絶好の機会でもある。フィジカル盤CD-Rは税込2,000円+送料180円、デジタル盤は1,500円(1曲150円)にて販売中です。

コンピレーション・アルバム
『Play For SCOOL』

田中淳一郎(のっぽのグーニー / ju sei)、コルネリ、土屋光(SCOOL)が中心となり、SCOOL のコンピレーション・アルバムを作りました!

新型コロナウイルスは終息に向かっているようにも見えますが、わたしたちの生きる楽しみや糧を与えてくれるインディペンデントな場所は、根本から揺るがされるような打撃を受け、それぞれの場所で運営の方向性を模索している状況です。
例に漏れず SCOOL も予定していたイベントの延期/中止を余儀なくされており、収入が無く厳しい運営状態が続いています。緊急事態宣言が解除されても、すぐに以前と同様にイベントを行うことは困難で、まだまだ先の見えない状態です。

そこで SCOOL が存続していくことを願い、ゆかりのあるユニークなアーティストの方々に参加していただき『Play For SCOOL』と題したコンピレーション・アルバムを制作しました。
収録された楽曲はほぼ録り下ろしの新作音源で、SCOOL らしいバラエティにとんだ充実した内容になったと思います!
このアルバムの売り上げは SCOOL の今後の活動に役立てていきます。ぜひお聴きいただき、ふたたび人々が自然に集まれるようになったとき、SCOOL になにか面白いことを探しに来てください!

田中淳一郎(のっぽのグーニー / ju sei)
コルネリ
土屋光(SCOOL / HEADZ)

『Play For SCOOL』

01. 神村恵 「待機」
02. 服部峻 「学校の外の世界」
03. 鈴木健太 「ねざめ」
04. yukifurukawa 「きっと」
05. 七里圭 「Paris, Berlin」
06. ダニエル・クオン 「radio freebies」
07. 滝沢朋恵 「ノーアンサーソング」
08. MARK 「Dear マティス」
09. Sawawo (Pot-pourri) 「コミック」
10. 土屋光 「Amplifying SCOOL」
11. のっぽのグーニー feat. sei
12. BELLE BOUTIQUE (荒木優光) 「PATTERN – CARDBOARDBOX(excerpt)」
13. グルパリ 「macaroni salad」
14. ジョンのサン 「細まりフォーエバー」
15. コルネリ 「空色の歯ぶらし」
16. よだまりえ 「綺麗なものを見たの」

produce: のっぽのグーニー、コルネリ、土屋光(SCOOL)
mastering: のっぽのグーニー
design: コルネリ

Various Artists - ele-king

 新しい生活様式ではないが、今後はCOVID-19以前・以後というフレーズが多く使われていくだろう。音楽業界も大きな変化に直面することが考えられる。たとえばライヴやフェスなどがこれまでのような形で開かれるのか先行きは不透明であるし、ライヴハウスやクラブ、ミュージック・バーなどの存続も懸念される問題だ。それによっては音楽家やアーティストたちの活動も変わらざる負えないし、youtubeなどネット配信を介したライヴやフェスのやり方もいままで以上に模索されるだろう。それでも生のライヴの素晴らしさを再現するのはなかなか困難だ。
 ライヴは観客がいてこそ盛り上がりや興奮を生み、それによって演奏者や歌い手たちもより素晴らしいパフォーマンスを見せるという相乗効果を生むもので、レコードやCD、または音楽配信などでは味わえない魅力がそこにある。
 ただし、ときには無観客で行われるスタジオ・ライヴという手法もある。スタジオという良質な録音環境の中、オーヴァーダビングや編集作業などの余計な行程を狭まずに、ライヴ・ホールにおけるパフォーマンスに近い形で奏者の生演奏を録音したものだ。観客の拍手や歓声、奏者のMCなどが入らないので、音楽の録音物としてはより純度が高い。いままでのようなライヴ開催がなかなか困難な状況下では、スポーツの無観客試合ではないが、無観客のスタジオ・ライヴというのもひとつの方法ではあるかもしれない。

 スタジオ・ライヴについてはイギリスのBBC放送が数々の名演を生んできて、ときに公式のライヴ・アルバムよりも素晴らしい演奏を聴くこともできる。BBCのスタジオ・ライヴではDJのジョン・ピールによる『ピール・セッションズ』が有名で、ジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリン、デヴィッド・ボウイなどが録音を行っているが、その舞台となったのがロンドンのメイダ・ヴェール・スタジオである。1934年に設立され、ビートルズからモリッシー、ニルヴァーナなどがセッションを行ってきた由緒正しきスタジオで、建物はヒストリック・イングランドがグレード2の建造物に指定している。今後は歴史的建造物となるために現在の場所は閉鎖され、スタジオとして新しく再開する場所を探すとのことが2018年に発表されたが、現在はCOVID-19のために3月末から閉館となっている。
 ジョン・ピール以外ではジャイルス・ピーターソンもメイダ・ヴェール・スタジオでのスタジオ・ライヴ放送をしばしば行っていて、彼の番組の『ワールドワイド』でたびたびその模様が放送されてきた。ゲストのミュージシャンやDJがプレイを披露するのだが、2018年10月には「UKジャズ」と銘打った特別プログラムが組まれ、ジョー・アーモン・ジョーンズやヌビア・ガルシアたちが出演している。
 ボイラー・ルームもそうだが、アーティストたちにとってメイダ・ヴェールのスタジオ・ライヴは絶好のアピールの場なのである。2018年の春は『ウィ・アウト・ヒア』が発表され、それをフォローする形で「UKジャズ」の特番が組まれたわけだが、本アルバムはその2018年10月のセッション音源をまとめたものである。

 参加者はジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシア、オスカー・ジェローム、ファティマ、ハク・ベイカー、イシュマエル・アンサンブルで、そのほかエズラ・コレクティヴのディラン・ジョーンズやジェイムズ・モリソン、ココロコのムタレ・チャシ、マリウス・アレスカやラス・アシェバーも加わっている。
 ジョー・アーモン・ジョーンズについては『スターティング・トゥデイ』を発表して間もなくとあって、その録音に近い形でメンバーを揃えてセッションに臨んでいる。披露する“スターティング・トゥデイ”と“オールモスト・ウェント・トゥー・ファー”は共にアルバムからのナンバーである。
 ヌビア・ガルシアの“ホールド”は〈ジャズ・リフレッシュド〉からのデビューEPである『ヌビアズ・ファイヴ』(2017年)収録曲で、オスカー・ジェロームの“ドゥ・ユー・リアリー”はデジタル配信のみで発表していた2018年のシングル曲。どちらもジョー・アーモン・ジョーンズのバンドと共演という形で演奏しているが、そもそも彼ら3人はジョー・アーモン・ジョーンズとマックスウェル・オーウィンの『イディオム』(2017年)でも共演するなど昔からの仲間であるので、今回のセッションも非常に息の合ったところを見せてくれる。
 ファティマの“オンリー”は当時リリースされたばかりの『アンド・イエット・イッツ・オール・ラヴ』からのナンバーだが、ジョー・アーモン・ジョーンズ・バンドとの共演という形で披露している。
 ハク・ベイカーはロンドンのインディ・フォーク系のシンガー・ソングライターで、やはりジョー・アーモン・ジョーンズと共演して持ち歌の“サースティ・サーズデイ”を歌っている。
 つまり、本セッションのほとんどがジョー・アーモン・ジョーンズ、ヌビア・ガルシア、オスカー・ジェロームを主軸とするジョー・アーモン・ジョーンズ・バンドの演奏となる。唯一の例外はブリストル出身のピート・カニンガムを中心とするイシュマエル・アンサンブルで、アルバム『ア・ステイト・オブ・フロウ』(2019年発表、2018年にリリースされた『セヴン・ソングス』という連作シングル曲を中心に構成)からの楽曲“トンネルズ”を演奏している。

 “スターティング・トゥデイ”に代表されるように、アルバム録音と比較してエレクトロニクスの関与する割合が減っている分、個々の演奏における即興部分の比重が増し、ライヴならではの粗削りなところもあるが、それを補って余りあるエモーションの込められた演奏が展開される。ラス・アシェバーの歌も、このセッション用に変えてきているところもある。これを聴くとやはりジャズはライヴ・ミュージックであり、レコードはたまたまその瞬間を録音したものに過ぎないということを感じる。
 オスカー・ジェロームもライヴという形態が彼のシンガー・ソングライター的な立ち位置をよく伝えてくれるし、ファティマもジョー・アーモン・ジョーンズ・バンドと共演することにより、彼女のネオ・ソウル的な資質をより引き出している。イシュマエル・アンサンブルの“トンネルズ”は原曲に比べてドラムスが退行した分、全体的にアンビエントな仕上がりとなっていて、ジョー・アーモン・ジョーンズ・バンドとの違いを際立たせるものとなっている。どちらかと言えばフローティング・ポインツに近い演奏だ。
 こうしてライヴ演奏ひとつとっても、オリジナルの演奏とは随分と違うところがあり、極端な話、同じ曲でもひとつとして同じ演奏はない。曲や演奏は生き物であり、アイデアひとつでどんどん変わっていくものである。COVID-19によっていろいろ不自由や制限を感じざる負えないライヴ環境だが、そうしたなかでも音楽は新しいアイデアを生んでいくと信じたい。

Satoko Shibata - ele-king

 これはおもしろい試みだ。昨年5枚目のアルバム『がんばれ!メロディー』を発表し、リキッドでのライヴも成功、そのライヴ盤までリリースし、まさにノりにノっているシンガーソングライターの柴田聡子。来る7月3日にはミニ・アルバム『スロー・イン』の発売を控える彼女が、「全国ツアー」を開催する。
 といってもこのご時勢、もちろん文字どおり全国へと足を運ぶわけではない。ようは配信なのだけれど、その趣向がとてもよく練られているのだ。延期になったツアーの当初の予定通りの日程で、「富山風」「金沢風」「名古屋風」と、連日自宅からライヴ配信をやっていくのである。当然、現地から以外でも視聴可能なので、全国から柴田聡子の「ひとりぼっち」を目撃しよう。

弾き語りツアー風 “柴田聡子のインターネットひとりぼっち’20” 開催決定

新型コロナウイルスの感染拡大により全公演延期となりました弾き語りツアー “柴田聡子のひとりぼっち’20”。いまだ振替公演スケジュール及び払い戻しのご案内をできておらず、皆様には大変なご迷惑をおかけしておりますことをお詫び申し上げます。各会場およびプレイガイドともに、この混乱の中でも最善を尽くしてくださっていることと思います。情報が揃い次第ご案内をさせていただきますので、今しばらくのお時間をいただきますよう、お願い申し上げます。

改めまして、5月22日は本来であればツアー初日、富山公演の予定でした。楽しみにしていたツアーが延期になってしまい、意気軒昂、盛り上がっていたチーム柴田聡子も一旦の進路変更を余儀なくされた中、せめて演奏を電波に乗せて届けよう! という案が上がりました。
そこで、柴田聡子の弾き語りライブを本来のツアースケジュールの通り、全日程、開演時間に合わせて YouTube LIVE にて生配信させていただきたいと思います。題して “柴田聡子のインターネットひとりぼっち’20” です!

柴田聡子の自宅から、本当に “ひとりぼっち” での配信になります。セッティングから全て本人監修になります。なので配信がスムーズに行えるかどうかもお約束できませんが、出来うる限りの準備をしてお届けしたいと思っています。
全公演無料配信です。各地に思いを馳せつつも、もちろんどなたでも、お住いの地域に限らずご覧いただくことができます。もしよろしければツアー全公演、疑似体験的に自宅で追っかけてみてください。

弾き語りツアー風 “柴田聡子のインターネットひとりぼっち’20”
5月22日(金) 19:30 富山風
5月23日(土) 18:00 金沢風
5月24日(日) 18:00 名古屋風
5月29日(金) 18:30 京都風
5月30日(土) 17:00 松江風
5月31日(日) 17:30 広島風
6月06日(土) 18:00 札幌風 day1
6月07日(日) 18:00 札幌風 day2
6月11日(木) 19:30 大阪風
6月12日(金) 19:00 岡山風
6月13日(土) 18:00 福岡風
6月21日(日) 17:30 仙台風
6月27日(土) 18:00 東京風

YouTube 柴田聡子チャンネル
https://ur2.link/TztX

[配信シングル情報]

アーティスト:柴田聡子
タイトル:変な島
品番:DGP-817 / ハイレゾ (24bit) DGP-818
リリース日:2020年6月10日(水)

[CD / 7インチ情報]

アーティスト:柴田聡子
タイトル:スロー・イン
J-POP/CD 、2枚組7インチ
発売日:2020年7月3日(金)
品番:[CD]PCD-4555 定価:¥1,500+税 / [7インチ]P7-6248/9 定価:¥3,182+税

Tracklist (カッコは7インチ)
1 (sideA). 変な島
2 (sideB). いやな日
3 (sideC). 友達
4 (sideD). どうして

Michinori Toyota - ele-king

 この3月に東京から大阪へと拠点を移したシンガーソングライターの豊田道倫が、急遽明日5月22日、新曲 “明るい夜” をリリースする。緊急事態宣言下にて、引っ越したばかりの大阪の部屋でふと湧き上がってきた曲だそうで、MVも公開されている。ファースト・アルバムから25年、50歳を迎えたばかりの豊田、その新たな船出を祝福しよう。

豊田道倫(Michinori Toyota)

タイトル:明るい夜(Bright Night)
企画番号:WEATHER 81 / HEADZ 246
発売日:2020年5月22日(金)
フォーマット:Digital

Musicians
豊田道倫 : vocals & acoustic guitars
角矢胡桃 : drums & noise
みのようへい : bass, shaker & chorus
Tokiyo : electric guitar & chorus

Additional member
岡敬士 : synthesizer

Recorded & Mixed by 西川文章 at ICECREAM MUSIC on 30th, April 2020 & 4th, May 2020.
Mastered by 須田一平 at LM Studio on 5th, May 2020.

Produced by MT

Design:山田拓矢

https://www.faderbyheadz.com/release/headz246.html

豊田道倫「明るい夜」 [official music video]

監督:小池茅
出演:小川朋子, 小川大輝, 小川千晴
撮影:小川大輝, 小川朋子, 小池茅

https://www.youtube.com/watch?v=Jr6JqEOUPJg

緊急事態宣言発令の中、引っ越したばかりの大阪の部屋のキッチンで、この曲がふと出来た。

すぐに録音したくなった、バンドで。
ミュージシャンに声を掛け、リハを何とかやり、エンジニア、スタジオも確保して、録音した。
すべてが未知だったけど、ひたすら楽しかった。
何の迷いもなくやれた。

出来上がったMVを見て、デビュー25年、50歳。
でもおれは、本当に赤ん坊やと思った。
歌うこと以外、何をやってきたんだろう。

2020年の春のレコード(記録)として残せたことを、感謝します。 豊田道倫


撮影:倉科直弘

パラダイス・ガラージ名義で1995年5月25日に発表された1stアルバム『ROCK'N'ROLL 1500』から25年。
来たる2020年5月22日(金)に、シンガーソングライター豊田道倫が丁度1年振りとなるオフィシャル音源を発表します。
今年2月に50歳を迎え、3月に25年を過ごした東京を離れ、大阪に拠点を移してからの豊田の第一弾リリースとなる作品は、配信のみでリリースされる新曲 “明るい夜”。

このご時世でのリリースもあり、豊田の宅録作品と思いきや、関西在住のメンバーと共にレコーディング・スタジオにて制作され、近年の mtvBAND とのバンド・サウンドとも違う、新たなグルーヴを生み出した7分半を超える大作が完成しました。
(バンド編成でのレコーディング作品のリリースは2015年の『SHINE ALL ROUND』以来となります)

豊田道倫の新章のスタートを飾るに相応しい、世相を織り込みながらも普遍で、懐かしくも新鮮な、MT(Michinori Tokyota)のソングライティング、アレンジ、プロデュースの才能を存分に満喫できる作品となっています。

レコーディング・メンバーは、ノイジシャン、デュオ・ユニットの HYPER GAL としても活躍する角矢胡桃がドラムとノイズで、「みのようへいと明明後日」名義の全国流通作『ピクニックへ行こう』(SSR-01)で注目されたシンガーソングライターのみのようへいがベースやコーラスで、And Summer Club のメンバーでソロでも活動する Tokiyo が エレキ・ギターとコーラスで参加しており、〈Kebab Records〉を主宰する岡敬士(昨年は新バンド「自由主義」で豊田とバンドメイトだった)がシンセで彩りを加えています。

録音とミックスは ICECREAM MUSIC にて、(スタジオの主宰の一人でもある)西川文章が担当しています。
マスタリングは豊田の近作でも辣腕振りを発揮する関西のベテラン・エンジニア、須田一平(LM Studio)が手掛けています。

Music Video は、本日休演、ラッキーオールドサン 、加納エミリ、佐藤優介の映像を手掛けている小池茅が監督を務めています。

「明るい夜」のリリースに合わせ、昨年(2019年)の5月22日にパラダイス・ガラージ名義でカセットテープのみでリリースされた『SAN FRANSOKYO AIRPORT』(UNKNOWNMIX 49 / HEADZ 237)の配信リリース(サブスクも解禁)されることになりました。
カセットテープはレーベル在庫が無くなりましたので、この機会に新曲共々、是非お聴き頂ければと思います。

明るい夜

昨日の新聞 そのままで キッチンテーブル 朝の影
彼女はひとり 出て行った 帰って来るとは 言わないまま

ふたり一緒に見ていたものは もう 夢みたい
くちびるの歌も 風の中 答えは誰も 教えてくれない

煙草の味は変わらない キスの味は変わらない
この街で いつか また
世界の色が変わっても ひとの心変わっても 
僕は待つ 君を ずっと 明るい夜に

泣いてる踊り子 どこへ行く 劇場のあかり 消えたまま
花束はもう 枯れたけど 瞳の光は そのまま

僕らがずっと 見ていたものは もう 夢みたい
抱きしめた恋も 風の中 答えは本当は わかっている

煙草の味はしなくなった キスの味もしなくなった
あの街も 行けなくなった
世界の地図が変わっても ひとの言葉変わっても
僕は待つ 誰も 来ない夜も

煙草の味は変わらない キスの味は変わらない
この街で いつか また
世界の色が変わっても ひとの心変わっても 
僕は待つ 君を ずっと 明るい夜に


作詞・作曲:豊田道倫

Jamael Dean - ele-king

 やはり〈Stones Throw〉は鼻がきくというか……またもLAから新たな才能の登場だ。カルロス・ニーニョのアルバムやカマシ・ワシントンの大作『Heaven And Earth』への参加経験もあるピアニスト、叙情的なムードから実験的なセッションまで柔軟に対応するジャメル・ディーン。昨年〈Stones Throw〉からリリースされたアルバム『Black Space Tapes』が、最新EP「Oblivion」の楽曲などを加えた形で日本盤化される(しかも、ハイレゾ対応のMQA-CD)。家聴きにもぴったりな、深いサウンドです。

JAMAEL DEAN (ジャメル・ディーン)
Black Space Tapes / Oblivion

Thundercat や Kamasi Washington とも共演し、名門〈Stones Throw〉から弱冠20歳でデビューした天才ピアニスト、プロデューサー Jamael Dean。
デビュー作『Black Space Tapes』と最新EP「Oblivion」に加え、2019年作「Eledumare」の全10曲を、ハイレゾCD「MQA-CD」仕様にてリリース!!

この若きピアニストをいち早くバンドに引き入れたカマシ・ワシントン、才能に惚れ込み共同プロデューサーを務めたカルロス・ニーニョ、二人から興奮気味にその名前を聞いた。

彼が弾くピアノは、ジャズ・ヴォーカルにしっとりと寄り添ったかと思えば、スピリチュアルでポリリズミックなジャム・セッションにも、ヒップホップとネオソウルの狹間にもディープに浸透していく。LAのコミュニティで発見され、現在はNYのニュースクールでジャズを学ぶ俊英の、驚くべきデビュー作だ。

(原 雅明 rings プロデューサー)

Official Release HP:
https://www.ringstokyo.com/jamaeldean

アーティスト : JAMAEL DEAN (ジャメル・ディーン)
タイトル : Black Space Tapes / Oblivion
発売日 : 2020/7/22
価格 : 2,800円+税
レーベル/品番 : rings / STONES THROW (RINC65)
フォーマット : MQACD (日本企画限定盤)

※MQA-CDとは?
通常のプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティのハイレゾ音源をお楽しみいただけるCDです。

Tracklist :
01. Akamara
02. Adawa
03. Kronos
04. Akamara Remix
05. Olokun
06. Emi
07. Eledumare
08. People of the Moon
09. Omi Eje Ota feat. Sharada Shashidhar
10. Old Ways / Infant Eyes feat. Sharada Shashidhar

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