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Matmos

Conceptual PopIDMMusique Concrète

Matmos

Plastic Anniversary

Thrill Jockey / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

木津毅   Apr 19,2019 UP

 ここ数作でもっともファンキーなアルバムなのではないだろうか。そしてそれは、リズムパターン以上に音色によって醸される印象によるところが大きい。すでに明らかにされている通り、マトモスの通算11作目となる『Plastic Anniversary』はすべてプラスティックが「鳴らす」音によって構成されている。プラスティックをおそらく棒状のもので打楽器のように叩いて発生させたボン、ボヨン、ボコンというような気の抜けた音が連なりパターンを生むことで、ファニーで脱臼感のあるグルーヴが生み出される。オープニングの“Breaking Bread”がこのアルバムのムードを完璧にプレゼンしている――子どもがその辺のプラスティックオモチャを叩いた音が、そのままダンス・ミュージックになったような無邪気なリズム。身体に直接響く愉しさ。だがプラスティックの使用はパーカッションに留まらず、筒状のものに空気を通すことで管楽器として用いたり、擦って弦楽器を模した旋律やノイズを発生させたりといったものにも及んでいる。この多彩なサウンド……「企業の持ち物だから」という理由でプリセット音を使用しないことで有名なのはマシュー・ハーバートだが、マトモスはここで企業が廃棄したジャンクから膨大な種類の音を生み出している。それはもちろん、わたしたちの現代生活がいかに膨大なプラスティック製品に囲まれているかを示すことでもある。
 その主題にエコロジーがあることは間違いなく、昨年のG7においてプラスティック製品ゴミを減らすことが提唱された「海洋プラスティック憲章」にアメリカが署名しなかったことが直接のモチベーションになっているだろう(ちなみに、もう一カ国署名しなかったのは日本である)。昨年末の紙エレキングでも言及されたように、いま音楽の様々な層でエコロジーがコンセプトになっているのは、オバマ時代に進んだことがトランプ政権以降一気に逆戻りしたような気分を多くの人間が噛みしめているからだ。無茶苦茶な言動で暴れるトランプ政治に対してこうした一枚上手の発想でアンチを繰り広げるのは、さすがアイデアという名の知性を重んじてきたマトモスだと……まずそこを強調しておきたい。

 ただ聴きながらいろいろと考えていると、次第に本作がもっと多層的な問いを含んでいることがわかってくる。本作はカップルであるドリュー・ダニエルとマーティン・シュミットのアニヴァーサリーを祝したものだそうだが、そこに「プラスティック」という冠がつくのは、ふたりがゲイだからだ。つまり、プラスティックが「偽物」のメタファーとして使われてきたことをアイロニカルに効かせているのである。タイトル・トラック“Plastic Anniversary”ではまるで結婚式のようなファンファーレが高らかに、しかし微妙に音程を外しつつ奏でられる。ヘテロ・カップルのそれと比べて「偽物」だとされているゲイのリレーションシップが、そこではプラスティックの力で祝福される。そうした「偽物性」への言及は、深読みすると、オーセンティックな生音による音楽に比べて下に見られることが少なくなかったエレクトロニック・ミュージックも射程にしていて、あからさまに初期エレクトロを意識したと思われる“Silicone Gel Implant”などは、ふたりからのエレクトロニック・ミュージックへの愛の表明に思えてくる。実際本トラックはアルバムでももっともチャーミングで思わず微笑まずにはいられない。もっとも馬鹿げたトラックはデタラメなサンバのリズムとホイッスルが野放図に鳴り響く“Collapse of the Fourth Kingdom”で、純粋主義者が聴いたら怒鳴り出すんじゃないかと心配になるほどふざけている。だが僕たちは知っている……この素っ頓狂なユーモアこそがマトモスであり、そしてたぶん、「インテリジェント・ダンス・ミュージック」だ。
 いっぽうで警察がデモを圧するときに使用されるライオット・シールドから発生させた音を使った“Thermoplastic Riot Shield”は不穏な音響と高圧的なインダストリアル的打音に覆われており、対立が激化する現代のBGMのようだ。総じて本作はプラスティックという「偽物」に支えられ、そして破壊される現代社会の(矛盾に満ちた)ポートレイトであり、その混沌のなかでそれでも遊ぼうとする図太い姿勢の表れである。実験性とコンセプト性に支えられたIDMが再び重要性を増すなかで、マシュー・ハーバートとマトモスというかつて「コンセプトロニカ」とも呼ばれた才能が、いまだにアイデアを失わずに独創的なやり方で闘っていることに何だか救われる想いがすると言うと大げさだろうか。だが、相変わらず愉快で妙ちくりんなダンス・ミュージックが詰まった本作に、彼らの闘志をいつにも増して見てしまうのは僕だけではないはずだ。


木津毅