Home > Interviews > interview with Matthew Herbert - 音楽からのブレグジットへの回答
ぼくの知り合いにひとり、本人はきわめて政治的な人間だが、聴く音楽のいっさいは政治とは無関係なものを好むというひとがいる。彼を思うと、ノスタルジックなジャズやMORを好んでいる人間が必ずしも政治的に無関心で保守的であるなどということはないと断言できる。その彼はビッグ・バンド・ジャズが大好きだ。
マシュー・ハーバートのアイデアは、そういう意味でも面白い。がなり立てるパンクやラップではなく、ノスタルジックなスウィング・ジャズとエレクトロニカとの混合。エレクトロニカも、基本、耳(とその刺激を解析する脳)を面白がらせる快楽的な音楽であり、政治的な作品は、たまにサム・キデルのようなひともいるにはいるが、それは少数派だ。
快適さのなかにメッセージを忍び込ませるやり方がぼくは好きだ。
マシュー・ハーバート・ビッグ・バンドは、かつてそれをやってきた。甘くノスタルジックな演奏を交えながら、グローバル資本主義経済を糾弾する2003年の『グッドバイ・スウィングタイム』のことだ。
『ザ・ステイト・ビトウィーン・アス』は、ブレグジットを契機に始動したプロジェクトである。2年以上を費やし、当初はEU離脱の日とされていた3月29日にきっちりリリースされた。『グッドバイ・スウィングタイム』と同様に、ノスタルジックなスウィング・ジャズとエレクトロニカ(+執拗なフィールド・レコーディング)との混合であり、しかし今作には、そうしたハーバート自身のクリシェを打ち砕く異質さがある。その異質さには、今作のより深い政治性が絡んでいる。自分が英国人であることを強く意識しながら作られた『ザ・ステイト・ビトウィーン・アス』からは、イギリスそしてヨーロッパなるものに直結するサウンド、響き、伝統が否応なしに聴こえてくる。そしておおよそ音楽は晴れやかではないが情熱的で、スリリングに展開する。ダークな曲、メロウな曲、ダンサブルな曲、ドローンからIDM、ジャズからアンビエント……と、まあ、ヴァラエティに富んだ内容で、いつものようにフィールド・レコーディングを活かし、音の細部にまで凝っている。多少重たいが、聴き応え充分の力作である。
このアルバムを聴いたとき、ぼくにはわからない点がいくつかあったので、ぜひハーバートに取材をしたいと思っていた。なぜ、この作品のアートワークが「木」なのか、残留派であるハーバートは、では離脱派にはっきりとノーが言えるのか(残留派にも離脱派にもそれぞれ言い分がある)、アルバムから聞こえる動物たちの声は何なのか、アルバムにはハーバートのイギリス愛も混じっているのではないか、そもそも現代において左翼とは何なのか、などなど。すべての疑問に彼なりに答えてくれた。(※文末に来日情報あり)
僕はEU離脱に関して多くの嘘を撒き散らした何人かの政治家に対してすごく憤りを感じている。でも、「離脱」に投票した人たちに対しては、友情や協力の意志がある。僕は安定した、幸せな社会で暮らしたいんだ。
■政治的であり、なおかつ作品としての魅力を高めようとするとき、そのバランスというのは難しいと思いますが、このアルバムはぎりぎりそれを成し遂げているし、あなたがこの作品に注いだ熱量がどれほどのものかわかる力作だと思いました。音楽的にも、ジャズ、クラシック、エレクトロニカ、ダンス・ミュージック、ミュージック・コンクレート、ドローンなどといったこれまであなたがやって来たことが集約された作品ですよね。すべてを投入して作ったというか、そんな印象を持ちました。
ハーバート:かなり苦労して完成した作品ではあった。何に苦労したかというと、当然音楽を作ることが大前提としてあるわけで、新聞記事を書くわけでも、ドキュメンタリー映画を作るわけでもない。音楽作品でありながら、イギリスにおける政治の現状を反映したものにしたかった。ただその現状というのが、もうめちゃくちゃで……(苦笑)。
つまり、何かについて曲を書いていると、その10分後には状況がまったく変わっている。だから書いていたものをやめて、新たな状況について今度は書きはじめる。で、その10分後にまた状況が一変する。そこの両立が非常に難しかった。それに加え、長いあいだ自分は誰に聞いてもらいたくてこの音楽を作っているのか、戸惑いもあった。いままさにEU離脱を含めた政治状況の渦中にいる人たちが対象なのか、それともヨーロッパにいる人たちに向けて我々の立場を説明したくて書いているのか、それとも20年後にこれを聞く人たちに向けて書いているのか。どういう視点で語るのか、なぜこれをいま伝えなきゃいけないのか、というのが制作中に何度も変わっていったんだよ。
■イギリスのEU離脱をめぐる議論は、いまだどこに着地するのかわからない状況というか、カオスになっているようですね。とりあえず、3月29日に離脱することはなくなったわけで、その日をリリース日に決めていたあなたにとってこれは良かったのか悪かったのか、どうなんでしょうか?
ハーバート:すごく良かったと思っている。というのも、我々は国としてまだどんな形であろうとEUを離脱する準備がまったく整っていない。国は激しく分断されたままだ。僕が作る音楽は、僕にとっては大事なもので、参加してくれた人たちにとっても大事なものかもしれないけど、人の生死に関わる問題じゃない。でもEUは多くの人の生死に関わる重大な問題だ。だから僕としては、延期になったのは良いことなんだけど、依然としてどうなるのか先がまったく読めない。あり得ない状況だよ。3年ものあいだこの件について話し合ってきたにも関わらず、いまだにEU離脱とどう向き合うべきかわかっていない。まさにいまのイギリスの政治のどうしようも無さが浮き彫りになった形だと思う。
■先頃は反ブレグジットのデモに100万人が集まったという報道がありましたが、100万人というのはすごい数ですね。おっしゃるようにいまはまったく先が読めない状況ではありますが、あなたが望んでいるのはいかなる決着なのでしょうか?
ハーバート:まず何よりもEU離脱をやめるべきだと思っている。そもそも馬鹿げた考えだった。しかしながら、誰も自分たちの声に耳を傾けてくれない、と感じている人はこの国大勢いる。彼らはこの国の政治に対して長いあいだ失望していた。自分たちの意見は汲み取ってもらえない。生活も不安定で、職もない。満足な医療制度も得られず、自分たちが住むコミュニティーとの繋がりが感じられない。そういう人たちの多くが「離脱」に投票した。なぜなら「離脱すれば自分たちの生活が良くなるから」と言われたからだ。でも実際は、EU離脱が生活の向上をもたらしてくれることはない。むしろこの国をより貧しく、より孤立させるものだ。前向きなものでは決してない。
だから僕としては、もしEU離脱をやめるなら、そういう人たちに改善策を与えてあげなければいけないと思っている。「離脱」「残留」に分断されてしまった国民をどうにかしてまたひとつにまとめないといけない。そもそも「離脱」「残留」という分け方自体、人が創り上げたものでしかないから。そこに明確な線引きはもともとなかったはずなのに、分断の原因になってしまった。個人的に思う今後の最良の展開は、もういちど国民投票を行うことだ。そうすべきだと思っている。今度は、具体的な実施計画に対して投票するのだ。そうすることがもっとも賢明だと思う。政治家が決められないのであれば、国民が決めるべきだ。
■今回のアルバム制作の発端は、ブレグジットに対する憤りだったと思いますが、おっしゃるようにEUに残留すればすべてが解決するような問題ではないように思いますし、じっさいアルバムのテーマはより大きなものへと発展していますよね?
ハーバート:そうだね。アルバム制作をはじめた頃は、政府の動向を細かく追っていて、EU離脱問題とそれに纏わる政治状況だけに絞った作品を作ろうと思っていた。でも途中で、めちゃくちゃなアルバムだってことに気づいた。政府がめちゃくちゃだったからね。その動向ばかりに目を向けていたために全く意味のなさない、どうでもいいものになっていた。
だから途中で決めたんだ。我々にとって本当に重要な問題を取り上げようと。その最たるものが気候変動だ。実はEU離脱問題は、我々が直面する本当の危機的問題から我々の目を逸らすためのものでしかない。イギリスだけの問題ではない。他の国もそう。気候変動や経済格差こそが本来取り組まなければいけない問題だ。今EU離脱問題に費やしている予算は本来気候変動に使われなきゃいけないものなんだ。
■先ほどイギリスが分断されているという話がありましたが、タイトルの『The State Between Us』も分断されてしまったイングランドを意味しているのでしょうか?
ハーバート:必ずしもそういう意味でつけたわけじゃない。もちろん、見た人が好きに解釈してくれればそれで良いと思っているよ。タイトルの元々の発想としては、政府(政治)が人と人のあいだに入ってきたらどうなるか、というものだ。例えば、僕は近所の人たちと共有した価値観もたくさん持っている。田舎に住んでいるからまわりは農家が多い。でも、彼らの多くが「離脱」に投票をした。だから僕にとってタイトルが意味していることは、政府が自分とお隣さんとの関係の障壁となったとしたらどうなのか、ということ。自分はどんな感情を抱けば良いのか、と。僕はEU離脱に関して多くの嘘を撒き散らした何人かの政治家に対してすごく憤りを感じている。でも、「離脱」に投票した人たちに対しては、友情や協力の意志がある。僕は安定した、幸せな社会で暮らしたいんだ。だからタイトルは、以前は何の問題もなかった社会に、政府や組織が介入することで問題が生じてしまったらどうなるか、ということを意味している。
こうやっていろいろ考えてみたんだけど、イギリスならではのもので特別な何かを見つけることができなかった。それはつまり、自分がどこで生まれたかなんて所詮地図上のある場所にたまたま生まれたってだけのことだからだ。この国の好きな部分もあるし、好きじゃない部分もある。それはスペインや他のどの場所に対しても言えることだったりする。そういう部分も含めて、アルバムはイギリスらしさとは何かを追求しようとした側面もある。
■“You're Welcome Here”の“Here”とはイングランドのことだと思いますが、あなたは今作を作るためにブリテイン島を旅したそうですね。それはなぜですか? それは、もういちどあなた自身のアインディティティないしはイングランドという国のアインディティティを確認したいから?
ハーバート:“You're Welcome Here”の“Here”はイギリスのことだけではなく、音楽も意味している。例えば「このアルバムは君を歓迎するよ」「このアルバム、この音楽の世界にようこそ」とかね。
イギリスのアイデンティティに関心があったというのは、その通りだ。だから、自分では行けなかったから人にお願いしてアイルランドの国境を端から端まで歩いてもらった。それから「離脱」に大半の人が投票したグリムズビーという町にも行った。それから同じく「離脱」に投票した地元のケント州にも長く滞在した。各地に実際に足を運ぶことが大事だった。アルバムにはロンドンで録音された音源はとくに使っていない。ロンドンの合唱隊は参加してくれているけど、ロンドンで録った「音」は入っていない。
僕にとってイギリス人であることのアイデンティティはますますわからなくなってきている。子供の頃に聞かされた「イギリス人たるものはこうあるべき」という価値観にしても、大人になってみるとそうではなかったと思うことがほとんどだった。僕は1970年代に幼少期を過ごしたわけだけど、人種差別、男尊女卑がまかり通っていた時代だったし、男性に支配された社会だった。いまでも男性が社会を支配してはいるけど、少しずつ変化していると感じる。「イギリス人であるというのはどういうことか」というのをずっと考えていたんだけど、例えば「僕は田舎が凄く好きだ」「でもスイスやイタリアや日本にだって美しい田舎はある」と思った。じゃあ、「ユーモアのセンスがすごく気に入っている」と思ったけど、他の国にだってユーモアはある。「この国の音楽がすごく好きだ」と思っても、アメリカやアフリカの国だって良質の音楽を排出している。
こうやっていろいろ考えてみたんだけど、イギリスならではのもので特別な何かを見つけることができなかった。それはつまり、自分がどこで生まれたかなんて所詮地図上のある場所にたまたま生まれたってだけのことだからだ。この国の好きな部分もあるし、好きじゃない部分もある。それはスペインや他のどの場所に対しても言えることだったりする。そういう部分も含めて、アルバムはイギリスらしさとは何かを追求しようとした側面もある。
■冒頭の鳥のさえずりが聞こえる場面ですが、場所はどこでしょうか? なぜそこからはじめたのですか?
ハーバート:あれはドイツにある森のなかで録ったんだ。そこには意図があって、今回のEU離脱問題はこの国とドイツとの関係が多分に関係していると思っている。第二次大戦後ずっとこの国はあの戦争と本当の意味できちんと向き合えてないと思う。ドイツの人たちの方が、あの戦争が自分たちの生活にどう影響をもたらしたかを受け入れている。でもこの国ではまだ神話化されている部分が大きい。というのは、勝利国だったために、内省する必要がなかったんだ。戦争に自分たちがどう関わったかということに対してね。だからとくにドイツに対する誤解は多い。それにアンジェラ・メルケルの方が、メイ首相よりもずっと優れたリーダーだ。彼女(メルケル)の考えにすべて賛同するわけではないけど、国家の首席としてはずっと優れている。そんなわけで、「ドイツの木」からアルバムをはじめるという発想が気に入ったんだ。
■「木」と言えば、アートワークにも「木」をあしらいました。また、アルバムの冒頭の曲では木が切られているであろう音がチェーンソーの暴力的な響きとともに挿入されています。「木」は明らかにこのアルバムの象徴としなっていますが、それはなんの象徴なのでしょうか?
ハーバート:EU離脱問題を「木」に置き換えて考えたら面白いと思ったんだ。僕からすると我々は存続危機に直面している。つまり、気候変動によって我々が当たり前だと思っているものがこれからどんどん失われていく。我々人間が行いを改めなければ、人類を含む多くの生き物が絶滅するだろう。これこそが本当の危機だ。だから僕は、何人かの政治家の発言に耳を傾けるよりも、「木」に耳を傾けたいと思ってしまう。自然との向き合い方を考え直さないといけないと思っている。だからこの世界を違う視点から見てみるいい機会だと思った。
■あの曲の途中で挿入される歌はなんですか?
ハーバート:曲は僕が作曲したもので、歌詞は16世紀の詩人のジョン・ダンの言葉を引用している。
■ビッグバンドでやるのは 11年ぶりと久しぶりですが、今回のテーマをいつものようなエレクトロニカ・スタイルではなくビッグバンドでやりたかった理由はどういったところでしょうか?
ハーバート:ビッグ・バンドの大きな魅力は、ある一定の水準で音楽を奏でられる人だったら誰でもバンドに参加できる、ということだ。例えば、イタリアやスペインやドイツに行ってアルバムのレコーディングを行った際、見知らぬ演奏者の前に譜面を配布さればそれで済んだ。すぐにでも演奏をはじめられる。民主主義的な形態だと感じるね。さらにそこに合唱が入るわけで、アルバムに参加しているのはみんなプロの歌い手ではなくアマチュアの合唱隊だ。そうやって民主主義的な生き方を体現しようとしている。ただ政府を批判するだけでなく、その代替案を提示しているんだ。僕からすると、ビッグ・バンドと合唱隊はいい代替案だと思う。コミュニティーを生み、創造性を生み、協調性があって、経済活動でもあり、人種や性別も関係ない。有用なメタファーだったんだ。
■参加した人たちの人数が、数百人とも千人とも言われていますが、CD盤面の記されている名前がそれですよね。これはすべて世界のいろいろな場所でのライヴの際に参加した人たちの名前なのでしょうか? そしてそうした人たちの名前を記したのにはどんな意味がありますか?
ハーバート:全員の貢献をきちんと示したかった。というのも、こうして君と話をしているのは僕だけど、実際は大勢の人がこの作品を支えている。コミュニティを表しているんだ。実はバンドの名前にも納得がいってない。僕の名前が前面に出てしまっているからね。でもSpotifyやApple musicといったサービスのなかで、聴き手にとって作品を見つけやすいというのも大事だった。まあ、せっかく参加してくれたのだから名前を記すのは礼儀でもあると思った。ライヴでも土地土地で新しい人たちに参加してもらった。例えばマドリッドに行ったときは、ステージ上に僕のバンド・メンバーはたったの3人だけで、残りの115人はそこで初めて会う人たちだった。ローマでもベルリンでも同じだ。日本で去年ライヴをやったときも、日本人のバンドと合唱隊に参加してもらった。ライヴの度に違うライナップだったんだ。
イギリスに対しては相反する思いを抱いているのはたしかだ。今回気付いたのは、ある国の国民として生きる上で鍵となるのは価値観なんだということ。どんな価値観を持っているか。だから僕にとって大事なのは……。僕がイギリスでもっとも誇りに思えるのはNHS(国民医療サービス)、それとBBCだ。
■今作であなたがあらたにトライした音楽的な実験があるとしたら何でしょうか?
ハーバート:実験と言えるかわからないけど、さまざまな場所を録音した。NHSの病院でも録音したし、首相別邸のChequersの周りを自転車で回って録音もした。それからある人にイギリス海峡を泳いでもらったし、別の人に第二次大戦の戦闘機で飛んでもらった。他にもイタリアの第一次大戦の最前線だった古戦場を歩いてもらったし、アイルランドの国境の端から端までも歩いていろいろ録音してもらった。これ以外にもいろいろなフィールド・レコーディングを行ったよ、
■動物の声をフィーチャーした“An A-Z Of Endangered Animals”を収録したのはなぜでしょうか?
ハーバート:僕にとってはこういったことこそが本当の問題だ。生態系の多様性の崩壊だ。野生動物や昆虫の数が激減している。非常に深刻だし悲しい問題だ。今回アルバムに音を収録した絶滅危惧種の動物たちは10年後、15年後にはその声を聞くことがもうできなくなっているかもしれないんだ。絶滅に瀕した動物たちによるコーラスだ。
■まさかご自身でフィールドレコーディングされたわけじゃないですよね?
ハーバート:さすがにそこまではできなかった。そうするには費用がかかりすぎるからね。
■最後シェリーの詩を歌った“Women Of England”で終わっていますが、あなたこの作品でイングランドを批判してもいますが、同時に愛してもいますよね? “Women Of England”を聴いてそう思ったのですが、いかがでしょうか?
ハーバート:イギリスに対しては相反する思いを抱いているのはたしかだ。今回気付いたのは、ある国の国民として生きる上で鍵となるのは価値観なんだということ。どんな価値観を持っているか。だから僕にとって大事なのは……。僕がイギリスでもっとも誇りに思えるのはNHS(国民医療サービス)、それとBBCだ。国民全員が少額を払うことで、多くの恩恵を得られる機関だ。そういうのは喜べる、前向きな積立だ。それ以上に、優しさ、平等、公正さといった価値観を現れでもある。でもそういう価値観がこの国ではいま脅威に晒されている。そこに僕は怒っている。いま右翼の多くの人は我々もアメリカを見習うべきだと思っている。でもいまのアメリカは非常に残酷で分断された国で、社会のお手本とするには最悪の国だ。
■あなたが愛するイングランドというのは、ファンキーな“Fish And Chips”のような曲に表れていますよね?
ハーバート:いや、あの曲はグリムスビーという街で録音したものなんだけど、グリムスビーはかつて漁業が盛んな街だったのに、その漁業が衰退してしまった。僕にとってこの曲はニューオーリンズの葬送曲のイメージで、漁業の死についての歌をパーティ調に奏でることで皮肉を込めているんだ。
■4月に来日しますが、楽しみにしています。どんなプレイをするつもりでしょうか? 話せる範囲でお願いします。
ハーバート:そうだな。本当になんとも言えないんだけど、DJセットというのはつねに即興だと思っている。だからとりあえずいろんなジャンルからのいろんな音楽を持っていって、あとはそのときの感覚で作り上げていく。でも、まあ、基本はハウスとテクノで、そこに実験的なものや、新しいノイズなんかも盛り込んでいきたいとは思っている。まあ、基本はその場の即興だよ。
■ブレグジットを遠目で見ながら、もしも左翼思想というものが世のなかで弱い人たちを助けるという思想だとしたら、はたしていま弱い人たちは誰なのかということを考えてしまうのですが、あなたの意見を聞かせてください。
ハーバート:そんな複雑な話じゃないと思っている。実際よりも事情は入り組んでいると我々に思わせるのも政治的罠のひとつなんだ。この国が抱えている大きな問題というのは、数年前に大きな経済危機があって、その際に経済を持続させるために政府が国民の税金を金融産業に投入した。保守党政府は、経済的にいちばん底辺にいる人たちに負担をさせたんだ。つまり障害者、生活保護を受けている人、貧しい人、子供、シングルマザー、女性。そういう人たちへの補助を減らすことで、銀行が引き起こした負債のツケを底辺の彼らが払う羽目になった。それこそがこの国の根本にある不正であり、EU問題もそれに対する反動だった。保守党が築いた社会構造に対する人びとの不満の表れだった。だから僕にとって弱い人たちというのは、他の人が起こした問題のツケを払わされている人たちだと思っている。
■ハーバート来日情報!
Hostess Club Presents...Matthew Herbert DJ Tour 2019
HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERのレジデントDJでもあったダンスミュージック / サンプリング界の鬼才マシュー・ハーバート、各地で豪華ゲストを迎えるDJツアーの開催が決定!
東京:
2019年4月22日(月)代官山UNIT
with Yoshinori Hayashi and 食品まつり a.k.a foodman
Open / Start 19:00
Extra Sound System Provided by PIONEER DJ
北海道:
2019年4月23日(火)札幌 Precious Hall
with Naohito Uchiyama and OGASHAKA
Open / Start 20:00
福岡:
2019年4月24日(水)福岡Kieth Flack
with T.B. [otonoha / under bar]
Open / Start 20:00
京都:
2019年4月25日(木)京都 CLUB METRO
with metome (Live Set)
Open / Start 20:00
Ticket:
東京公演 5,800円(税込)
札幌 / 福岡 / 京都公演 5,300円(税込)
文・質問:野田努(2019年4月09日)