「ele-king」と一致するもの

そこではいったい何が起きていたのか - ele-king

 世界は熱くなっているというのに、イギリスは冷えている──保守党の党色である青に塗られたイギリスの地図を見てそう思わずにいられなかった。総選挙ショックから1週間後、ボリス・ジョンソン英首相は議会演説で自身の率いる政権を「イギリスの新たな黄金時代の始まり」とブチ上げた。

 この選挙の保守党の主要スローガンは「Get Brexit done(ブレクジットを済ませよう/片をつけよう)」。その通り、保守党が圧倒的な過半数を占める新議会はイギリスが後戻りするルートを早々と断ち切った。泣いても笑っても2020年1月31日午後11時にブレクジットが起きる。2016年の国民投票から3年半以上、離脱賛成派は求めてきたものをやっと手に入れる。

 クリスマス休暇や師走のあれこれに紛れ、複雑な交渉/外交のディテールはしばし厚いカーテンの向こうに追いやられている──「ブレクジットはややこしいから、もう国民の皆さんをわずらわせません。後は我々政治のプロにお任せください」とばかりに。ジョンソンは選挙キャンペーン中に「ブレクジットはもう準備が整っていて、オーヴンに入れさえすれば出来上がり」(日本的に言えば「レンジでチン!」ですね)というレトリックを使っていたが、いったいどんな料理が出て来るのやら。

 ブレクジットが最終的にどんな形に収まるのか、実はまだ誰にも分かっていない。交渉はこれから本格化するし、入り混じる楽観/悲観双方の予測、どちらを信じるかはその人間次第。1月31日という日付はある意味象徴的なもので、そこから離脱プロセスの完了まで11ヶ月間の交渉&準備&推移期間が置かれている。しかしジョンソンはその準備期間の延長を断固はねつける姿勢で、最悪のシナリオ=「Hard Brexit(合意無しの離脱)」も再浮上している。北アイルランドの立場やスコットランド独立気運の再燃も始め見通しの立ちにくい状況は続くだろうし、英音楽界への影響も当然のごとく不安視されている。

 本来ブレクジットが起こるはずだった昨年3月末を前に『New Statesman』誌が掲載した記事(「The Lazarus Effect」by Andrew Harrison)に、2016年の国民投票時に〈ミュート〉のヘッドであるダニエル・ミラーがスタッフを集め「どう投票するか指図するつもりはないが、離脱賛成に投票した人間はカルネの記入をやってくれないと」と言った、との逸話があった。カルネはかつてミュージシャンがツアーする際に提出を求められた、各国間を移動する物品(楽器、各種機材、ケーブル1本1本に至る仕事道具)を逐一記入する面倒な書類。EU単一市場圏から離脱すると関税同盟から除外扱いになるのでこのカルネが復活し、ツアーのハンデが増える可能性を覚悟せよ、という含みのある発言だ。

 人気アクトには煩雑な法手続きをこなす専門家を雇う経済的余裕があるだろう。だがインディな若手や自腹でツアーしている面々に、書類記入や入国許可他の手続き・コストが増えかねないこの状況はきつい。作品を発表しライヴでプロモートするという伝統的なスタイルが逆転し、音源よりもチケット代やツアー・マーチャン販売が重要な収入源にシフトした昨今であれば尚更だ。アメリカのアーティストはヴァンに乗って広い自国内をDIYツアーすることが可能だが、小さな島国イギリス出身のアクトにとって目の前に広がる欧州大陸は遠くなるかもしれない(逆に、欧州勢がイギリスを敬遠する可能性も指摘されている)。

 CD・アナログ盤の価格上昇も予想される。英国内で流通するフィジカル・メディアの多くはEUでプレスされており、特にヴァイナルは(ビスポークなスペシャル版やダブ・プレートといった小規模生産を除き)チェコやポーランドの工場で生産されるケースがほとんど。過去数年の「アナログ人気復活」は英音楽業界の朗報のひとつだが、大手ショップのアナログ・セクションも、実はヘリテージ・アクトの名盤再発、ヒット作が支えている。ビートルズやストーンズ、オアシスやエイミー・ワインハウスの旧カタログの方がインディ・レーベル作品よりも恐らく確実に売れている。

 ゆえにメジャー・レーベルにはまとまったプレス枚数の注文をかけ続ける「腕力」があるが、新人バンドのデビュー作や12インチといった地味なアイテムはそのしわ寄せで後回しになりがち。この影響はブレクジットに関わりなく既に存在してきたとはいえ、アマゾンのように巨大なストックを抱えられない、わずかなマージンと専門的な品揃えで踏ん張っているインディのレコード店にとって倉庫・流通網の安定とグッズのスムーズな移動を妨げかねないブレクジットは遠くからゆっくり迫って来る暗雲のようなものだろう。

 サブスクリプションやネット・ベースの諸アウトレットの浸透で音楽を聴く手段そのものは増え、2019年の英音楽産業は2006年以来の高収益を記録した。だが新作アルバムのCD価格が現在8〜12ポンド、アナログは20〜24ポンド程度であるのに対し、1曲を1回ストリームして生じる実益は0.006ドルから0.0084ドルと言われる(これをレーベル、プロデューサー、アーティスト、音楽出版社、作曲家で分け合う)。ストリームのペイは多くのアーティストにとっていまだ雀の涙だ。

 音楽業界ももちろん黙ってはおらず、政府審議会にミュージシャンを送り込んで現状を訴える等の活動がおこなわれている。だがボリス・ジョンソンの組閣が発表され、ディジタル・カルチャー・メディア・スポーツ部門大臣(Secretary of State for Digital, Culture, Media and Sport)は誰かと思ったら、総選挙前に「ジョンソン政権には入らない」と大見得を切って議員辞職したものの、ドサクサに紛れて返り咲いたニッキー・モーガンだった。「女性閣僚の数を増やして体裁を整えたかっただけ?」と斜に構えたくもなる、胡散臭い選任だ。

 過去に同性愛結婚に反対し、宗教教育の自由に意義を唱えたこともあるコンサバである彼女がプロ・アクティヴに文化行政に取り組むとはちょっと考えにくい。ジョンソン内閣はブレクジット後の音楽やカルチャーに対して「なるようになる」の受け身な姿勢を取りそうな気配。逆に言えば、億産業である英カルチャー・セクターにはまだ充分に余力があるから助け舟を出さなくても大丈夫、ということかもしれない。

 救済措置を急務とする課題は国民医療サーヴィス、住宅難等他にいくらでもあるし、そもそも文化のことなどよく分かっていない政治家に妙に介入されてもうざったいだけ。悲観的な見方をあれこれ並べてきたが、人種や世代やイデオロギーといった壁も越えて響き届くのが音楽の強さなのだし、イギリス音楽界は過去にもしぶとくバウンスバックしてきた。ディジタル・プラットフォームはDIYな活動の幅を広げたし、映画・CM他とのシンクロやブランドとのコラボといった機会も増えている。音楽界のクリエイターたちが貧すれば鈍する、とは限らない。

 そんなディジタル時代のモダンなアーティスト成功例のひとつがグライムのスーパースター:ストームジーだ。ソーシャル・メディアを通じてファン・ベースを築き、クラブ・ファッション・映画他多彩なチャンネルを活用、メジャー〈アトランティック〉と合弁事業の形(通常の「契約」ではない)で発表したデビュー・アルバムで英チャート首位を達成。セカンド発表前にグラストンベリー2019のピラミッド・ステージでトリ──ブラック・ブリティッシュのソロ・アクトでは初──の快挙を成し遂げた#Merky(愛称・キャッチフレーズであり、彼自身のレーベル/フェス/出版社の名称でもある)は、黒人学生向けのケンブリッジ大奨学金を設ける等、敬愛するジェイ–Z型のアイコンへと成長しつつある。

 彼や仲間のミュージシャンたちが総選挙前にジェレミー・コービン/労働党支持を表明し投票を促したのは、今回初投票した若者も含む18〜24歳層に大きく影響したと言われる(他にリトル・ミックスのメンバーやデュア・リパも労働党支持を表明)。俳優スティーヴ・クーガンを筆頭に音楽界からはケイノー、ブライアン・イーノ、マッシヴ・アタック、ロビン・リンボー、ケイト・テンペスト、ロジャー・ウォーターズ、クリーン・バンディッツが連名署名したコービンのマニフェストを支持する文化人集団の公開書状もそれに続き、イーノは総選挙直前に風刺曲“Everything’s On The Up With The Tories”を発表した。しかし大ヒット曲“Vossi Bop”で「Fuck the government and fuck Boris」と歌い、数多い若者の命を奪っているナイフ刺殺事件への怒りをこめてバンクシー作のユニオン・ジャック柄防護ベスト姿でグラストンベリーに登場した26歳のストームジーこそ、これからの世代の不満や不安をヴィヴィッドに反映している。

 『ガーディアン』の日曜版『ジ・オブザーヴァー』紙は、選挙結果が出そろった2日後=12月15日付の付録文化誌『オブザーヴァー・マガジン』の責任編集をストームジーに任せた。労働党が勝利していれば、この号の意味合いは更に感動的だっただろうが──残念ながら現実はそういかなかった。実にほろ苦い。

 選挙結果の分析はプロの政治評論家やジャーナリストに任せるべきだろう。しかしひとつ言えるのは、労働党や「反ブレクジット」を掲げた自由民主党(Liberal Democrats)が議席を獲得したエリアの多くはロンドン圏、および大学があり学生&若者人口率の高いブリストル、マンチェスター/リヴァプール、ニューカッスル等の都市部である点。これらの選挙区は伝統的に左派傾向が強いので不思議はないが、そのコアなメトロポリス部を囲む郊外やカントリー・サイド──特に、過疎化と老化・衰退の進む「取り残されてきた」北部地帯は長年の労働党信仰を捨て、保守党候補に票を投じた。18〜24歳代層の左派支持と60歳以上層の右派支持とは、鏡と言っていいくらい見事に逆になっている。

 「田舎の年寄りは愚かだ」型の単純な話ではない。サッチャーに炭鉱を閉鎖され生活基盤やコミュニティを失った恨みを忘れていないこの世代が保守党に転じたのは重い決断だし、それだけ彼らは逼迫している。2008年の世界金融危機、緊縮政策に苦しみながらも労働党に希望を託し続け、それでも状況が改善しないことに失望した彼らは、その不満の表明としてオルタナティヴ=保守党とブレクジットに賭けてみることにしたのではないか。金持ちへの重税、無料ブロードバンド全国普及といった項目を含むコービンの利他的なマニフェストは「ユートピアン」、「ラディカル過ぎ」と批判されたが、このいわば理想の追求=体力も根気もいる遠いゴールよりも、衣食住・医療・治安の日常的な問題に追われる人々は──ナショナリズムや人種差別といったポピュリズムの常套甘言に乗せられた面もあるだろうが──応急処置を選んだことになる。

 労働党の地方労働者階級支持基盤が崩れ、イギリスの伝統的な「豊かで保守右派の南VS貧しく労働党左派の北」のパラダイムが逆転した2019年総選挙は地殻変動だった。焦点のひとつはブレクジットで「実質的に第二の国民投票」の印象すらあったが、獲得議席数ではなく投票数でカウントすれば、実はEU残留(=再度の投票を求める声からブレクジット帳消しまで様々だが、トータルで言えば離脱阻止の可能性を探る方針)を主張する諸党への支持票が保守党票を上回ったのだ。その民意は政党政治の前に掻き消えたことになる。この厳しい教訓を野党勢が重く受け止め内省し、それぞれが政党としてのアイデンティティを立て直さない限り、国民との乖離はますます広がるだろう。

 一方で、今回ブレクジットという博打に賭けてボリス・ジョンソンに追い風を送った層である、英中部/北部に対する保守党の責任も重い。南北格差の大きい公的資金配分システムを改造する動きも既に出ているそうだが、くも野郎(Boris the Spider)ならぬ嘘つき(Liar)で、前言撤回・有言不実行・不正確なデータ拡散の数々で知られるジョンソンだけに見張り(ウォッチ)を怠ることはできない──「北は忘れない(North remembers)」と思ってしまうのは、まあ、『ゲーム・オブ・スローンズ』の観過ぎかもですが。

 少なくともこの先5年は保証されたジョンソン政権の「黄金時代」。その暗い現実にストームジーを始め多くのミュージシャンが落胆を表明したし、フォー・テットがBBCのポッドキャスト「100 Voice Notes About The Election」(選挙結果に対する若者100人の声)向けに音楽を提供する等、リアクションはこれからも様々な形で現れてくると思う。音楽ファンの中からは「ジャーヴィス・コッカーを2019年のクリスマス・ナンバー・ワンに」というSNSベースの愉快なプチ運動が生まれた。

 ダウンロードやストリーミングで古い曲が復活しチャート・インしやすくなったことで、2009年に「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの“Killing In The Name”を1位に」の草の根運動が成功した。タレント発掘番組『Xファクター』勝者のシングルがクリスマス週にチャート1位になる……という、当時のイギリスで定番だった出来レースにウンザリしていた音楽ファンによる冗談/真剣半々のサボタージュ兼プロテストだった。その後も同様のアクションは折に触れて起きていたが、このジャーヴィス1位運動の発起人は、総選挙の悲惨な結果に落ち込みつつ、しかし少しでも左派への団結心をユーモラスに表明したい人々のためにこのフェイスブック・グループを立ち上げたという。
 
 選ばれた曲はジャーヴィス・コッカーのデビュー・ソロ『Jarvis』(2006)に隠しトラックとして収録された風刺曲“Running The World”。ミソになるコーラス部の歌詞は以下。

 If you thought things had changed, friend,
 you’d better think again
 Bluntly put, in the fewest of words,
 cunts are still running the world

 もしも事態は変化したなんて思っているのなら、友よ、
 考え直した方がいい
 手加減なしで、単刀直入に言わせてもらおう、
 いまだにこの世を回しているのはムカつかされるくそったれ共だと

 「cunt」は恐らくイギリスでもっとも熾烈な罵倒語のひとつ(くれぐれも安易に使わないように!)なので1位はまずあり得なかったとはいえ──この曲を爆音で流して2019年にわずかでもうっぷん晴らししたい人々の気持ちは理解できる。結果はチャート48位で、ジャーヴィスと〈ラフ・トレード〉は収益をホームレス支援団体に寄付した。

 この曲はアルフォンソ・クアロンのディストピア映画の傑作『トゥモロー・ワールド』のエンディングで、ジョン・レノンの“Bring On The Lucie”に続いて流れたことでも知られる。筆者はクリスマス期になるとついDVDで観返してしまうのだが、13年も前の作品なのにいまだ現在とシンクロする面があることに改めて打たれつつ──今回の観賞はヘヴィだった。と同時に、究極的には希望と人間のオプティミズムを描いている『トゥモロー・ワールド』に励まされもした。“Running The World”は近年のジャーヴィスのライヴでもよく歌われる定番曲だが、ライヴで歌う際に彼は前述の歌詞の後にひと言付け加えるようにしているそうだ──「but not for long(でもそれも長くは続かない)」と。

Toungues Untied - ele-king

 近年、ブラック・カルチャーとクィアの結びつきは音楽の周りでも見逃せない重要なトピックとなっている。非白人を中心とするクィア・コミュニティから活性化したクィア・ラップ。クィアネスと交差するブラック・エレクトロニカ。
ブラッド・オレンジはトランス・アクティヴィストのスポークン・ワードを挿入し、フランク・オーシャンは抗HIV薬の名を関したパーティ〈PrEP+〉を開催した。マイノリティのなかのマイノリティであるクィアたち(they/he/she)の生は、その表現は、どのようなものとなりうるだろうか?

 その問いを探るには、ひとつとして歴史と向き合うことがあるだろう。様々なインディペントの上映会を企画する〈ノーマルスクリーン〉が、このたび、エイズ危機以降のアメリカ黒人ゲイ・コミュニティを捉えた、マーロン・グリスによる1989年のドキュメンタリー『Tongues Untied』を特別上映する。ミッキー・ブランコらが出演し、アメリカのブラック・コミュニティにおけるHIV/エイズについて考える『知られざる結末、斬新な幕開け』も同時上映される。あの時代から変わったこと、変わらなかったこと。それを知る手がかりがここにあるはずだ。詳細は以下。(木津毅)

タンズ アンタイド from Normal Screen on Vimeo.


TONGUES UNTIED
タンズ・アンタイド

アメリカの黒人ゲイ男性による表現の歴史を語るうえで欠かすことのできない映像作家、マーロン・リグス。
彼の1989年の代表作『Tongues Untied』を特別上映!

タイトルの「タンズ・アンタイド」を日本語にすると「話しはじめた口」。詩人やアクティヴィストとしても活躍したリグスは、同じ年に生まれた著名な詩人エセックス・ヘンプヒルの詩や彼のパフォーマンスをからめながら、奴隷制度が建国以前から続いたアメリカの地で黒人でゲイとして生きる人々の複雑な経験をつづる。

差別や憎悪に晒され続け、さらに降りかかるエイズ危機にも屈せず生きる彼らの苦悩。その只中で生み出されてきたユーモアや遊びの表現。張り詰めた緊張感をもって沈黙を破る彼らの声を、映画は実験的なドキュメンタリー/エッセイのスタイルで革命的に響かせる。
2019年には30周年を記念して全米各地で上映された本作を日本語字幕つきで(おそらく)日本初上映です。

(タンズ・アンタイド|1989|55 min|アメリカ|英語|日本語字幕)

同時上映:『知られざる結末、斬新な幕開け』
リグスのレガシーをさらに発展させる現代のアーティストによる映像7作品。ミッキー・ブランコ、ブロンテス・パーネル、シェリル・ドゥニエらがアメリカ黒人コミュニティにおけるHIV/AIDSの影響を大胆に映しだす。
(2017|51 min|アメリカ|英語|日本語字幕)

Marlon Riggs
マーロン・リグス:アメリカのジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。黒人、 黒人で男性、そしてゲイであることなど、交差性を早くから意識しドキュメンタリーを制作。やがてそこにエイズの問題も加わる。生涯で計8作品の映像をのこし、1994年に37歳で逝去。

“It doesn’t take much description to understand why Marlon Riggs’s Tongues Untied was and remains a radical work of American art.” ──Film Comment magazine https://www.filmcomment.com/blog/queer-now-then-1991/
“If you’ve never heard of Marlon Riggs, you’ll wonder why the hell not. How could an artist this smart, this prescient, this frank, transparent, curious, ruminative and courageous — this funny — escape your notice?” ──The New York Times https://www.nytimes.com/2019/02/06/arts/blackness-gayness-representation-marlon-riggs-unpacks-it-all-in-his-films.html

[イベント詳細]

2020年1月13日(月/祝)
14:30~16:30(14:00開場)

入場料(会場で選択いただき、その場でお支払いいただきます)
・2500~3000円
 『タンズ・アンタイド』+『知られざる結末、斬新な幕開』 資料込み|料金スライド式
・2000円
 『タンズ・アンタイド』資料込み
・1500円
 22歳以下|『タンズ・アンタイド』資料代込み

予約ページ:https://forms.gle/193Hm3TAAFUetCqa7

会場:日比谷図書文化館 日比谷コンベンションホール
(東京都千代田区日比谷公園1-4)

主催:Normal Screen|C.I.P. BOOKS
ウェブサイト:https://normalscreen.org/
連絡先:normalscreen@gmail.com

Normal Screen:
主にセクシュアルマイノリティの視点や経験に焦点をおく映画/映像を上映するシリーズ。2015年より東京を拠点に活動。これまでに音楽家アーサー・ラッセルのドキュメンタリー(日本初公開)やHIV/AIDSに関する実験映像、韓国やベトナムのドキュメンタリーなど日本では観る機会の少ない作品を数多く上映してきた。

C.I.P. BOOKS:書籍とzineの翻訳・出版プロジェクト。主に英語圏の女性/クィアの書き手によるジャンル横断的な作品を紹介。2018年6月ケイト・ザンブレノ『ヒロインズ』刊行。拠点は静岡・三島のCRY IN PBLIC。ノーマルスクリーンとの上映は『アウトフィチュメンタリー』(シアター・イメージフォーラムで2019年4月に上映)以来2回目。

パラサイト 半地下の家族 - ele-king

木津毅

 僕が住む地区の最寄駅の私鉄に特急電車が最近導入されて、それが通勤ラッシュの時間帯に走るものだから、追加の特急料金が払えない庶民はさらに混雑する普通電車に詰めこまれることになっている。毎朝ラッシュ時間に通勤する庶民のひとりである僕の母親はそのことにブーブー文句を言ってばかりだ。まあ腹が立つのは当然だと思うのだけれど、僕がひとつ気になるのは、その特急電車に乗れるだけの金銭的余裕のある庶民よりもやや裕福な人びとは、快適な車内の「窓」から混雑するホームに溢れる人びとをどのように見ているのだろうか。優越感? 罪悪感? それともやはり、窓の外の景色には関心を向けないようにしているのだろうか。自分より貧しい人びとが疲弊する姿には。

 格差時代の極上エンターテインメント作たる『パラサイト 半地下の家族』には、象徴的に「窓」が登場する。全員失業している主人公家族が住む「半地下」の家の窓からは、立ち小便する酔っ払いや強烈な消毒薬を撒き散らす業者など、まあわかりやすいまでに「貧者」の風景しか見えてこない。いっぽう、主人公一家の青年が侵入することになる金持ち一家の豪邸には巨大な「窓」があるが、そこから見えるのは立派に整った庭園ばかりである。要は社会の現実──庶民たちの姿──が見えることはない。その豪邸は有名な建築家が「芸術的なタッチ」でデザインしたという設定になっているが、金持ちにとって貧者の現実が見えない世界こそが快適な空間ということなのだろう。実際、この映画のなかの金持ちは庶民の現実なんて知らないし、無頓着であるということが繰り返し描かれる。
 『アス』や『ジョーカー』など格差社会をどのように娯楽映画のなかで見せるかというのが近年の一大トレンドとなっているが、そこで言うと韓国の異才ポン・ジュノが本領を発揮しまくった『パラサイト』は破壊的なまでの面白さ、娯楽性で最後までぶっちぎる快作である。アジアが世界のトレンドとなっている現在を踏まえてもカンヌのパルムドールを受賞したことは納得のいくところだし、アメリカでも外国語の映画としては記録的なヒットを飛ばしているため、アカデミー賞でどこまで行くかに注目が集まっている。金持ち一家が住む豪邸はセットだそうだが、まるで要塞のような造りになっており、そこに青年が侵入していく序盤のくだりだけでもアドベンチャー映画のようなスリルがある。ポン・ジュノ監督に本作について聞く機会があったのだが、格差構造を列車の水平方向で示した『スノーピアサー』(2013)とは対照的に、本作では格差が垂直方向で表現されており、その象徴としてカメラの縦移動が重要な箇所で大胆に挿入される。シンプルにカメラが縦に動くだけで興奮を呼び覚ます、その映画的快楽。的確なキャラクター配置と、豪邸に漂う得体のしれない不穏感、突発的に訪れるアクション。しつこいようだが、べらぼうに面白い。社会問題(気候変動の問題も入っている)を取り上げた映画がこんなに面白くてもいいのかと後ろめたく感じられるほどである。だがそこは、ポン・ジュノという作家がエンターテインメントとアートの境界を豪胆に破壊してきた成果だろう。

 物語については、主人公の青年が金持ち一家に身分を偽って侵入し、その過程で「ある計画」を思いつくところまでに紹介を留めてほしいというポン・ジュノ自身による厳重な注意があり、まあ僕も本作についてはこれ以上プロットを知らずに観たほうが楽しめると思うので、具体的には記さない。ここから先は、物語の詳細やある仕掛けを示すいわゆる「ネタバレ」(好きでない言葉ですが……)は避けるものの、何も知りたくないという方は作品を観てから読まれることをお勧めします。

 本作においてキーになっているのは、経済格差──階級──を示すものとして「匂い」が挙げられていることだ。「匂い」とは何か? それは身分を偽っても消せないものであり、貧者として生まれ落ちた者の屈辱的な宿命のようなものである。金持ちたちは貧者のリアルな風景を見ずに済んでいるのと同様、その「匂い」を避けて生きている。
 と同時に、「匂い」とは(ジョン・ウォーターズの『ポリエステル』のような例外を除いて)映画では実際に観客が体感しえないものでもある。だから本作のなかで富者と貧者がお互いに知らず知らずのうちに出会い、そこに階級を分かつ「匂い」があったとしても、映画は表現形態においてそれを無効化する。そして、次第に普段厳重に住み分けられている階級の違う者たちがダイナミックに入り乱れることになり、そこでこそ映画はクライマックスを迎えるのである。
 『グエムル-漢江の怪物-』(2006)にしろ『スノーピアサー』にしろ『オクジャ/okja』(2017)にしろ、ポン・ジュノはふつう出会うはずのない者たちをある事態のなかで交錯させ、その状態のなかで「面白さ」を立ち上げる作家ではないか。「窓」からお互いの姿が見えないように社会がデザインされているのならば、その「窓」の内側に入りこんで階級の違う者たちを混淆させる。そこにこそスリルがあるのだと。だからこの娯楽作は、階級による住み分けが徹底された社会への抵抗である。そこで待っているのが喜劇なのか悲劇なのか、その両方なのかはわからないけれど、とにかくそこからわたしたちの冒険とドラマは始まるのだと告げている。

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予告編

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三田格

『パラサイト』異論

 『2001年宇宙の旅』も『ブレードランナー』も日本では公開1週間で打ち切りだった。どちらも二番館落ちしてからロングランを続けるものの、最初の頃は見た人が少なかったせいか、似たり寄ったりの感想しか目にしなかった。とくに『ブレードランナー』はシミュラークルという単語を使わずに議論がなされることはなく、アンドロイドと美術に話題は集中するばかりだった。ところが、糸井重里だけは論点が大きく異なっていて、タイレル社と下層労働者であるイジドアを対比して未来が格差社会になっている部分に着目し、「未来はあのように二極化するんだろうなあ」という感想を述べていた。いま風に言うならば「そこですか?」と突っ込みたくなるほど、場違いな感想に思えたものの、ほかの議論はすべて忘れてしまったというのに、いまとなっては「未来は二極化する」という指摘が最も強く僕の記憶には残っている。未来は格差社会。日本はまだバブルどころか、プラザ合意にも至っていない時期である。医者や弁護士をさして「儲け過ぎ」だというリベラル批判が多少は噴出し始めていたとはいえ、この時期にして「未来は格差社会」になっていくという設定に「なるほど」と思える感性はかなり稀有なものだったと驚かざるを得ないし、『ブレードランナー』が示したヴィジョンにどれだけ重層的な構造が畳み込まれていたのかということにも改めて感心してしまう。

 『ブレードランナー』が舞台とした2019年の翌年、つまり、今年、格差社会を描くハイライトのように喧伝されているのがポン・ジュノ監督『パラサイト』である。試写会の時から注目度は群を抜いていた。1時間前から並んでも補助席しか取れなかった僕は宣伝会社の人と話していて、さすがに試写会場を大きくし、公開直前にもかかわらず試写の回数を増やさざるを得なくなってきたとも聞いた。普段は映画を観ないマスコミが関心を示さなければこうはならない。「格差社会」というキーワードはそれほど広く様々な人たちに意識されているということだろう。南アフリカやホンジュラスなどと比べれば日本は絶対貧困率で世界で74位とそれほど大きな格差があるとは言えないものの、この10年で格差はじわじわと広がり、相対的貧困率という別なモノサシをあてるとOECD加盟国中、メキシコ、トルコ、アメリカにつぐ世界第4位という数字が導かれる(5位はアイルランド、6位は韓国)。実際、佐藤泰志原作の「函館3部作」を皮切りに白石和彌『雌猫たち』や石川慶『愚行録』など日本でも少なからず格差社会をテーマにしたり、それを背景とした映画はポツポツとつくられてきた。『パラサイト』がそれらと違うのは、悲惨な現状を描写したり、わずかばかりの希望を示されるのではなく、どうやら富裕層に一矢報いるという展開が期待できそうだという予感だったろう。実際、オープニングからしばらくはそのように話は進んでいく。

 半地下の部屋を借りて暮らしているキム一家は大家にWi-Fiをケチられ、スマホを高く掲げて電波をキャッチしようとするも、天井に遮られてそれ以上「上に行くことがかなわない」。国策としてインターネットを普及させた韓国でネットに接続できないということは国民としてカウントされていないという定義にもなっている。貧乏なキム一家は内職でやっているピザ箱の組み立てにもダメ出しをされ、完全に窮地に追い込まれる。そのような状況を打開するべく長男のキム・ギウ(チェ・ウシク)は英語の家庭教師としてパク家に雇われるために急な坂道を「登っていく」。パク家はかなりの豪邸ではあるものの、韓国では11件以上の家を持つ富裕層が過去最多の3万8千人近くになったという報道が昨年末にあったばかりなので、パク家はそこまでの富裕層ではなく、後半の展開からも見て取れるように近隣と見栄を張り合うレヴェルではある。それでもキム・ギウにとっては別世界であり、観客にも家の間取りがどうなっているのかよくわからないほど家の面積は広い(550坪)。予想外のことが起きるのは(以下、ネタバレ)美術の家庭教師として雇われるために妹のキム・ギジョン(パク・ソダム)が「独島は我が領土」(独島=日本では竹島)の替え歌を歌う場面からである。教科書にも載っているほど韓国ではポピュラーな歌だそうで、過去にはK-POPのアイドルが口ずさんだだけで日韓関係に緊張が走ったこともある。ストーリーの中盤は誰しもが訝しく思ったことではないかと思うけれど、貧困層対富裕層ではなく、貧困層と貧困層の対立へと話は進んでいく。それはまるで領土の取り合いであり、この辺りから経済問題だけが問題意識にあるわけではないのではないかと疑いながら観ることになる。

 格差社会を印象づけるために『パラサイト』では上下方向の移動がそこかしこに取り入れられている。ソファの上とテーブルの下だとか地下に降りるのはもちろん、エレベーターでダイニングに上がってくる動作はしつこいほど繰り返され、照明を地下で操作する仕掛けも笑わせてくれた。しかし、パク家の弟ダソン(チョン・ヒョンジュン)は上下ではなく、水平方向で妙な行動を起こす。ダソンは雨の日に庭の中央でテントを広げ、そこで一晩を過ごすのである。『パラサイト』という作品ではこの行動が実に際立っている。これが僕には海の真ん中にポツンと浮かぶ竹島(独島)に見えてしょうがなかった。この辺りからソン・ガンホ演じるキム・ギデクとイ・ジョンウン演じるムングァンはそれこそ竹島(独島)を奪い合い、韓国に領土を奪われた日本が逆上して話はクライマックスへと向かっているようにしか見えなくなってしまった。考えてみればポン・ジュノは必ずといっていいほど政治的な文脈を作品に持ち込んできた監督である。在韓米軍の脅威を怪物に喩えた『グエムル』しかり、格差社会のトップとボトムが裏で繋がっていた『スノーピアサー』しかり。そうなると『パラサイト』というタイトルもアメリカと安全保障条約を結び、核の傘で守られている日韓の軍事体制を指しているのではないかとさえ思えてくる。昨年、ピック・アップしたミキ・デザキ『主戦場』が暴いていたように日韓が政治的に揉めるように仕向けたのはアメリカであり、最終的に斬り付けられたのがパク・ドンイク(イ・ソンギョン)=アメリカだったと考えれば政治的ファンタジーとして実に面白い流れとなる。韓国の富裕層が日常的に英語で喋りたがるのかどうかは知らないけれど、パク家がやたらと英語を使いたがるのも気になったところだし。

 アメリカ的な富の考え方が頂点にある限り、この世界の流れはどうにも揺るがないだろう。19世紀はいわゆる経済放任主義の時代であった。その結果が格差社会であったためにイギリスは逸早く「ゆりかごから墓場まで」をスローガンに福祉社会の建設を目指し、その挙句にイギリス病に陥った。いま再び新自由主義が経済放任主義(=市場至上主義)を理想とし、同じように格差社会が舞い戻っている。19世紀にはなかった福祉という仕組みがある分、21世紀の格差社会は19世紀よりもマシなはずである。人類は少しは進歩しているのだと思いたいというか。そして、福祉社会という仕組みがかつて考え出されたように、また新たなことを誰かが考え出さないとは限らない。キム一家が貧困から抜け出そうとアイディアをひねり出したように。が、キム一家が小金を得るようになった途端、それによって手に入る暮らしを手放せなくなり、自分たちよりも下の貧困層には冷たくあたったように、個人には期待しない方がいいと『パラサイト』は告げている。そして、最下層から富裕層へとドミノ倒しのように攻撃が開始されるというヴィジョンがいま、人々にショックを与えている(ちなみに右翼の大物、赤尾敏は竹島は爆破してしまった方がいいと主張していた)。

予告編

編集後記(2019年12月30日/野田努) - ele-king

 2019年のあいだ編集後記をほとんど更新できなかった理由を清水エスパルスの散々のていたらくに集約させてしまうのは、Jリーグに興味のない人にとってはさっぱり意味がわからない話だろうが、本当だからしょうがない。なんでこんなに弱くなっちまったんだろうと、試合を見ながら悲しくなるばかりだった。こうなると心に余裕が持てず、すべてがどうでもよくなってしまうのがサッカーファンのなかば病的なやばいところである。だから2020年は清水エスパルスに費やしている時間を減らすことを目標にしている。その分もっと音楽を聴いているほうがよほど建設的だ。

 それはさておき、2019年個人的に嬉しかったことは、東京都内において、それも家からそれほど離れていない場所で野生のメダカの生息地帯を発見したことだった。じつはこれ、GW中にである。
 話せば長い。ぼくは少年時代に釣りが好きでよく川に釣りに行った。中学生になるとその趣味は捨ててしまったわけだが、子供が生まれてから釣りが復活し、ここ10年あまりは多摩川および帰省すると静岡の川に子供を連れて出かけては魚を釣ってすごいだろと自慢していたのである。調理していっしょに食べたりもした。そして子供が親とは別行動を取るようになってからも、火が付いてしまった釣りへの情熱を隠しきれずにいそいそと川に行たりしていたのだった。釣ったオイカワなんかを家の水槽で飼ったりしていたのだが、あれはわりと大きくなってしまうので、ある程度のサイズになったら近所の熱帯魚屋さんに譲ったり、川に放流したり、それからまた暇があれば釣りに行ったり、そんなことを繰り返していた矢先、2019年は都内ではいまどき珍しい野生のメダカの生息地に遭遇してしまったというわけだ。(中略)その日から現在に至るまでの半年以上は、時間があればメダカの研究に費やしているのは言うまでもない。(あの大型台風の翌日もメダカたちの安否を確認しに行ったほどである)

 もちろん2019年も良い音楽作品に出会えたことは、やはりぼくにとって最高の喜びである。個人的にもっともぐっときた曲はアート・アンサブル・オブ・シカゴの“ウィ・アー・オン・ジ・エッジ”だ。今年のベスト・ソング。レヴューでも書いたように、ムーア・マザーの言葉も素晴らしい。「私たちは厳しい状況にいる。勝利のために」──清水エスパルスに聴かせたい、この圧倒的な力を持った曲はspotifyでは聴けない。騙されたと思ってCDかアナログ盤を購入して聴いて下さい。これこそゴミの山から見つけた宝石です。

 最後に、じつを言うとweb版でele-kingを再開して今年で10年経った。10年間も続けられたなんて、あまりにも実感がない。毎日毎日無我夢中で、気がつくと1年経ってまた気がつくと1年経ってという感覚でやってきているので、正直なところよくわからないのであるが、こうして続けられているのも面白がってくれる読者がいて、書いてくれるライターがいて、ここでは名前を書ききれないほど本当に多くの人たちの協力があってのこと。心の底からありがとうございます。
 それにしても、初めて会ったときはまだ20代半ばだった木津毅君も数年前に30代を越えているわけだ。いろんな出会いがあることは、メディアをやっていて嬉しいことのひとつである。ele-kingでは、音楽について考えたり喋ったりすることがなによりも楽しいのだということを性懲りもなくこれからも主張していきたいと思います。音楽メディアとはリスナーの文化でもある。
 なんでライターのなりたい人、音楽について書いてみたいと思っている人は、いつでもいいのでinfo@ele-king.net(ライター希望宛)にメール下さい。別に前衛音楽やマイナーな音楽について詳しい人を募集しているわけではないですよ。極端な話、ただその原稿が面白ければ主題はなんだっていいです。んなわけで、じゃ、良いお年をお迎えください。(野田努)

編集後記(2019年12月30日/小林拓音) - ele-king

 2019年が暮れようとしている。今年もいろんな出来事が起こり、いろんな音楽が世に生み落とされた。政治や社会の分野では相変わらずうんざりさせられることばかり起こったけれど、音楽の分野、とりわけアンダーグラウンドはけっこう充実していたのではないかと思う。
 日々フィジカルでもデジタルでも、山のように新しい音源がリリースされている。それこそ一生かかっても聴ききれない量の音源が、毎日毎日生み落とされつづけている。細分化も極限まで進んでいるが、とはいえやはりトレンドのようなものは浮かび上がってくる。近年で言えばそれはニューエイジであり、穏やかで静かなソウルであり、あるいはシティ・ポップ・リヴァイヴァルだった。他方で2019年、クラブ・ミュージックの文脈では、ベリアルやフローティング・ポインツに代表されるように、テクノの復興が目を引いたけれど、時代がひとまわりしたのだろう、さまざまなジャンルに忍び込んだダブがふたたび新鮮な響きを放ちはじめてもいる(年末号参照)。あるいはポリティカルな怒りをアートにまで昇華したムーア・マザーや、シティ・ポップの流れに反旗をひるがえしたウール&ザ・パンツのように、現行のトレンドに対抗的な気運も胎動している。80年代末~90年代初頭、ぼくはリアルタイムではないけれど、バブルに浮かれまくっていたと伝え聞く日本において、その狂騒にはけっして与しない表現をつづけていたこだま和文やじゃがたらが、まさにいま再活性化しているのも、来るべき時代のひとつの符号だろう。
 年明け早々にはブレグジットが控えている。アメリカでは大統領選があり、日本ではオリンピックが開催される。完全にイヤな予感しかしないけれど、年末年始くらいは楽観的に過ごそうと思う。来年はきっと、音楽の風向きが大きく変わる。いち音楽メディアとしては、そのときそのときの流行を敏感にキャッチしつつも、ただそれに追従するのではなく、オルタナティヴな動きをしっかりと紹介できる媒体でありたいと思う。そして、音楽ファンが音楽だけに閉じこもってしまわないような、他の領域の動向も案内できるメディアをつくっていきたいと思う。
 ちなみにわたしたちはそのアティテュードを、ウェブだけでなく紙の本でも模索しつづけている。2019年、ele-king books は29冊の本を刊行した。まだ一度も手にとったことがないという方は、まずは立ち読みでもいい、ぜひ書店で現物に触れてみてほしい。どの本も時流を見すえながらも、独自の視点やアティテュードを呈示するものに仕上がっていると、そう自負している。2020年も刺戟的な本をたくさん予定しているので、楽しみに待っていてください。
 それではみなさん、良いお年を。(小林拓音)

TSUBAKI FM - ele-king

 東京を拠点にさまざまな音楽を発信しているインターネット・ラジオ「TSUBAKI FM」が2周年を迎える。おのおのに精力的な活動をつづける Masaki Tamura、Souta Raw、Midori Aoyama の3人によって運営され、たんなるラジオに留まらない展開をみせているこの新型プラットフォームについては、ぜひともこちらのインタヴューをご一読いただきたいが、その2周年を記念したツアーが2020年1月末より実施される運びとなった。東京、広島、金沢、京都、静岡、名古屋の6都市で計7公演が開催される。現地からのライヴ配信なども予定されているとのこと。まだ知らないすばらしい音楽に出会えるこの絶好の機会を逃すなかれ。

東京発、インディペンデントミュージックを発信する音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』が2周年を記念したジャパンツアーを開催!!!

東京を拠点にローカルからワールドワイドまでクオリティーの高いアーティスト/DJを招き、毎週日曜日19:00~21:00にしぶや花魁にてライブブロードキャストを行う音楽プラットフォーム TSUBAKI FM。約2年の活動で京都八坂や加賀山代温泉などの出張放送やタイのローカルラジオとのコラボレーションイベントなど着実にその輪を広げるラジオ局が、昨年に引き続きアニバーサリーツアーを実施。

ツアーでは京都を代表する JAZZ / CROSSOVER イベント “Do it JAZZ!” を主催し、現在は Gilles Peterson 率いるラジオステーション “Worldwide FM” の京都サテライト “WW KYOTO” のホストも務める Masaki Tamura。アンダーグラウンドディスコを軸に長年に渡り茶澤音學館のクルーとして Sadar Bahar の来日サポートを務め、毎週火曜日の Aoyama Tunnel をレギュラーに都内を中心に活躍中の Souta Raw。そして東京ハウスミュージックシーンの人気パーティー /レーベル “Eureka!” を仕掛け、TSUBAKI FM の発起人でもある Midori Aoyama の3人を中心に、特定のジャンルに縛られない様々なジャンルを発信する TSUBAKI FM とリンクした全6都市のローカルアーティストがコラボレーション。現地でのライブ配信やイベントなどが融合したツアーショーケースを約1ヶ月通して開催する。

【Tour Schedule】
1/31 (Friday) Tokyo CITAN
2/21 (Friday) Hiroshima ONDO
2/22 (Saturday) Kanazawa Zuiun & DEF
2/23 (Sunday) Kyoto Metro
2/28 (Friday) Shizuoka COA
2/29 (Saturday) Nagoya outecords
3/07 (Saturday) Tokyo TBA
*追加公演や各公演のラインナップアナウンスは2020年1月以降順次リリース予定

【DJ's】

Masaki Tamura
DJ / Architecture Designer。2003年に活動開始以降、新譜・旧譜問わずJAZZを軸とした選曲を得意とし、京都を代表する JAZZ / CROSSOVER イベント “Do it JAZZ!” を中心にDJを行い、LIVEアーティストからの信頼も厚く、選曲の幅を生かしホテル、ラウンジ等のサウンドサポートも行う等、京都・大阪・東京を中心に活躍中。昨年はヨーロッパシーンで活躍する HUGO LX、Aroop Roy そして新世代バンド WONK を招待、Dego や floating points のサポートを務め、今年7月には mixcloud アワードに選ばれた経歴を持つフランスの GONES THE DJ との共作であるジャパニーズ・ジャズのみを選曲した Mix を発表し話題を集める。Gilles Peterson がスタートしたオンライン・ラジオステーション “Worldwide FM” の 京都サテライト “WW KYOTO” のDJを務め京都祇園のニュースポット “Y gion” から毎月第二月曜日に発信中。

Souta Raw
長年に渡り茶澤音學館でのレギュラー、そして7インチレコードに特化した45’sパーティ Donuts#45 のDJ/オーガナイズを担当して来た Souta Raw は、アンダーグラウンドディスコを軸に世界中の新旧問わず点在する辺境ダンスミュージックを織り交ぜるプレイスタイル。現在は毎週火曜日の AoyamaTunnel をレギュラーに都内を中心に DJ/パーティ・オーガナイザーとして活動中。

Midori Aoyama
東京生まれのDJ、プロデューサー。12年に自身がフロントマンを務めるイベント「Eureka!」が始動。青山 Loop での定期開催を経て13年にはUKから Reel People / The Layabouts を招き eleven にて開催。その後も、module、Zero、AIR と様々な会場に場所を移しながら、過去に Kyodai、Detroit Swindle、Atjazz、Lay-Far、Mad Mats、Session Victim など気鋭のアーティストの来日を手がけ東京のハウスミュージックシーンにおいて確かな評価を得る。過去に Fuji Rock や Electric Daisy Carnival (EDC) などの大型フェスティバルでの出演経験もあり、活躍は日本だけに留まらず、ロンドン、ストックホルム、ソウルそしてパリなどの都市やアムステルダムの Claire、スペインはマジョルカの Garito Cafe などのハウスシーンの名門クラブでもプレイ。15年には Eureka! もレーベルとして始動し、スウェーデンの新興レーベル「Local Talk」とコラボレーションし、自身が選曲、ミックスを務めた「Local Talk VS EUREKA! - Our Quality House」を発表。その後も立て続けにリリースを手がけ現在5枚のEPをリリースするなどレーベルの活躍も期待が高まる。現在は新しいインターネットラジオ局 TSUBAKI FM をローンチし、彼の携わる全ての音楽活動にさらなる発信と深みをもたらしている。

【about TSUBAKI FM】
東京発、インディペンデントミュージックを発信する新しい音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』
世界中から集まるクオリティの高いアーティストやリスナーをキュレーションしながら日本のシーンに対して新しい風を送ります。様々なカルチャーや多彩な音楽そしてライブブロードキャストを中心に毎週日曜日19:00~21:00にしぶや道玄坂のウォーム・アップバー「しぶや花魁」から配信中。
Tsubaki FM is a brand new platform for independent music, straight from the heart of Tokyo. We aim to bring new life to the underground music scene in Japan while also helping better connect artists and listeners worldwide. Get fresh tracks from diverse genres, music culture information, live broadcasts, and more.

Stolen@Tempodrom, Berlin - ele-king

 来年3月にニュー・オーダーの来日が決定、石野卓球と Stolen が追加出演することも発表された。その噂の Stolen とはいったい何者なのか? というわけで、この秋ベルリンで開催されたニュー・オーダーと Stolen のライヴの模様をレポートします。

世界が音楽に貪欲だった70年代の再来か!? 中国の新世代インディーズ・バンドがニュー・オーダーと共に欧州に君臨、そこで、手にした未来とは!?

 現代に残る社会主義国家でありながら、他の資本主義国家よりも圧倒的な経済発展を遂げている中国が閉鎖的であるというイメージはもはや過去の産物ではないだろうか。むしろ、時代を逆行するかのごとく、どんどん自由が制限され、それに気付く余裕さえないほど殺伐とした環境で、ピュアな感性が蝕まれていくように感じる今の日本の方がよほど危機感を覚えるのは筆者だけだろうか。物質的なものでも情報でも、いとも簡単に何でも手に入る環境が決して幸せで良いことであるとは言えないのだ。

 これは何も社会的なことに限った話ではない。アンダーグラウンドな音楽シーンにおいても同様に思うのだ。

 まだ10月初めだというのに冬物のジャケットが必要なほど冷え込んだ日、ベルリンのコンサートホール「Tempodrom」でヨーロッパ・ツアー真っ最中の New Order のライヴが行われた。そのサポートアクトを務めたのが、中国四川省成都出身の中国人5名、フランス人1名からなる6ピースバンド “Stolen” である。


Photo by Alexander Jung

 ヨーロッパでは未だ未知の領域である中国のインディーズ・シーンから、突如テクノの街ベルリンに現れたバンド Stolen とは一体何者なのだろうか? まず、アジア人のコンプレックスを隠そうとするありがちな “Too much なデコラティヴ” は一切なく、むしろ、全身黒の衣装で統一したシンプルなミニマル・スタイルに黒髪の彼らは控えめな若者の集まりと言った印象。

 それに反して、ライヴ・パフォーマンスはストイックと完璧主義の塊である。心の奥底に押し込めた欲望やら鬱憤やらをサウンドに打ち付けて、吐き出しているかのように激しく、それでいて荒削りで強引な演奏ではなく、インテリジェンスで完璧なまでのスキルに身震いするほどの衝撃を受けた。
 圧倒的な存在感を放つフロントマン Liang Yi による堂々たるナルシシズムを全面に出した独自の世界観に真っ先に引き込まれていく。歌詞はほとんどが英語で歌われており、その時点で中国だけでなく、世界の舞台を見据えているように思えた。そして、彼らの放つサウンドはポップではなく、一貫してダークである。VJ担当の Formol によるアートワークがその世界観をグラフィックと写真のコラージュで実にシュールに表現している。


Photo by Alexander Jung

 Kraftwerk や Joy Division に影響を受けているという彼らだが、全員まだ20代である。インターネットが監視下に置かれている中国で、違法ダウンロードによって手にした “外の世界の音” から、自分たちが生まれてもいない70年代のドイツのクラウトロックやイギリスのポストパンク、ニューウェイヴと運命的に出会う。そして、インスパイアされ、独自の解釈によって、ギターと打ち込みが疾走するオリジナリティー溢れる Stolen サウンドとして誕生したのだ。ダークでメランコリックであるが、そこに存在するのは絶望ではなく、暗闇で輝く生粋のアンダーグラウンドである。

 自国へ帰ればアルバイトで生活費を稼ぐ日常が待っている労働者階級出身の彼らに、ネット世界ではなく、本物のベルリンを見せ、スポットライトを当てた重要人物がいることを忘れてはいけない。彼らの成功への道は、プロデューサーの Mark Leeder の存在なくしては語れない。1990年、壁崩壊直後の混沌としていたベルリンで、自身のレーベル〈MFS〉を設立し、マイク・ヴァン・ダイクや電気グルーヴといったテクノ・アーティストのリリースを手掛ける傍、世界を飛び回り、アンダーグラウンド・シーンで光る原石を掘り続けてきた伝説のプロデューサーである。90年代から中国の音楽シーンに注目していた彼の目に止まったのが、平成生まれの若き Stolen である。マークは一体彼らにどんな未来を見たのだろうか?

 伝説のプロデューサーと言えば、もはや何度観たか分からない筆者の音楽人生のバイブル『24アワー・パーティー・ピープル』の故トニー・ウィルソンが頭に浮かんだが、壁に分断されていた80年代の西ベルリンを描いたドキュメンタリー映画『B-MOVIE』が、Mark Reeder そのものなのだ。彼の半生を描いた同作では、自身がストーリーテラーも務めており、狂乱に満ちた同じ時代を駆け抜けた同士として、当然ながらトニー・ウィルソンとの親交も深かったと言う。


Photo by Alexander Jung

 ベルリンは、時代を越えて心底アンダーグラウンド・ミュージックと共存している街であると言える。地下鉄の中やストリートでは日々パフォーマーたちによって様々なジャンルの音楽を耳にし、普通の女の子が Bluetooth スピーカーから爆音でビート・ミュージックを鳴らしながら闊歩する。世界最高峰と呼び名の高い Berghain では毎週末36時間ぶっ通しのパーティーが行われている。そこには年齢も性別も人種も関係ない、心底音楽が好きな人間たちが集まっている、ただ、それだけである。

 Joy Division の『Unknown Pleasures』のTシャツに身を包んだ熟練でシビアな New Oeder ファンを前で堂々たるプレイを見せつけ、取り込んだ Stolen は、アジアを代表するバンドとしてここヨーロッパで確固たる地位を築いていくだろう。この日、客席には彼らの楽曲 “Chaos” をミックスした石野卓球の姿があった。Stolen に昔の電気グルーヴの姿を重ねながら、70年代のマンチェスターやベルリンの再来を期待せずにはいられない一夜となった。

New Order (ニュー・オーダー)の来日公演に、ニュー・オーダーのバーナード・サムナー(Vo.)が絶賛する中国のインディーバンド Stolen と石野卓球が追加出演決定!!

1980年代後半から1990年代初頭にかけて起きたマンチェスター・ムーヴメントを描いた映画で2002年に公開され大ヒットした映画「24アワー・パーティー・ピープル』にも登場する、マンチェスター・ムーヴメントの象徴的アーティストで、ロックとダンスを融合させてサウンドが、ブラー、オアシス、レディオヘッドなど、その後のUKロックバンドに多大な影響を与えたイギリス、マンチェスター出身の伝説バンド、New Order (ニュー・オーダー)の来日公演に、中国のインディーバンド、Stolen と石野卓球の追加出演が決定しました。

Stolen はニュー・オーダーのバーナード・サムナー(Vo.)が彼らの音楽に惜しみなく賛辞を贈る、平均年齢26歳の5人の中国人と1人のフランス人による中国のインディーバンドで、10月からスタートしている、ヨーロッパでのニュー・オーダーのライブ・ツアーにスペシャルゲストとして帯同中。

石野卓球は、Stolen の全世界デビュー・アルバムとなる『Fragment (フラグメント)』にリミックスを提供していますが、実はこの3組のアーティストを繋ぐハブとなったのは、マンチェスター出身のプロデューサー、DJ、そしてドイツベルリンの伝説的音楽レーベル〈MFS〉のオーナーでもあるマーク・リーダーです。

マーク・リーダーはニュー・オーダーのバーナード・サムナーにいち早くベルリンのダンスミュージックを体験させた人物で、彼がいなければニュー・オーダーの名曲“Blue Monday”が生まれることはなかったと言われています。

また、電気グルーヴの『虹』を自身のレーベル〈MFS〉からリリースし、電気グルーヴと石野卓球がヨーロッパで活躍するきっかけを作ったのもマーク・リーダー。

そして、Stolenの全世界デビュー・アルバム『Fragment (フラグメント)』をベルリンでレコーディングし、このアルバムに石野卓球のリミックスが収録されることになったのもマーク・リーダーのプロデュースによるものなのです。

国も世代も異なるアーティストたちが、“音楽密輸人”の異名を持つマーク・リーダーを中心に日本公演で貴重な邂逅を果たします。

なお、ゲスト出演決定につき、開場・開演時間が変更になりますので、詳細は以下の情報をご覧ください。
【ライブ情報】

※ゲスト出演決定につき、開場・開演時間を変更させて頂きます。予めご了承ください。

東京 3月3日(火) 新木場 STUDIO COAST / special guest : 石野卓球
東京 3月4日(水) 新木場 STUDIO COAST / special guest : STOLEN / 石野卓球
OPEN 18:30→18:00 / START 19:30→19:00
TICKET スタンディング ¥10,000 指定席 ¥12,000(税込/別途1ドリンク)※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:発売中 <問>クリエイティブマン 03-3499-6669

大阪 3月6日(金) Zepp Osaka Bayside / special guest : STOLEN
OPEN 18:30→18:00 / START 19:30→19:00
TICKET 1Fスタンディング ¥10,000 2F指定 ¥12,000(税込/別途1ドリンク)※未就学児入場不可 ※別途1ドリンクオーダー
一般プレイガイド発売日:発売中 <問>キョードーインフォメーション 0570-200-888

制作・招聘:クリエイティブマン
協力:Traffic

【ニュー・オーダー】
メンバー:バーナード・サムナー、ジリアン・ギルバート、スティーヴン・モリス、トム・チャップマン、フィル・カニンガム

マンチェスター出身。前身のバンドは、ジョイ・ディヴィジョン。80年、イアン・カーティスの自殺によりジョイ・ディヴィジョンは活動停止を余儀なくされ、バーナード・サムナー、ピーター・フック、スティーヴン・モリスの残された3人のメンバーでニュー・オーダーとして活動を開始。デビュー・アルバム『ムーヴメント』(81年)をリリース。82年、ジリアン・ギルバート加入。83年に2ndアルバム『権力の美学』をリリースし、ダンスとロックを融合させた彼らオリジナルのサウンドを確立した。85年リリースのシングル「ブルー・マンデー」は大ヒットを記録、12”シングルとして世界で最も売れた作品となった。同年初の来日公演を実施。所属レーベルのファクトリー・レコードが地元マンチェスターに設立したクラブ、ハシエンダ発のダンス・カルチャーは、80年代後半にマッド・チェスター、セカンド・サマー・オブ・ラヴといった世界を牽引する音楽シーンを生み出した。その一大カルチャーの中心的存在として、3rdアルバム『ロウ・ライフ』(85年)、4thアルバム『ブラザーフッド』(86年)、5thアルバム『テクニーク』(89年)をリリースし、その評価・人気共にUKユース・カルチャーの象徴となった。93年、ロンドン・レーベル移籍第1弾として、名曲「リグレット」等が収録された6thアルバム『リパブリック』をリリース。7thアルバム『ゲット・レディー』(2001年)と8thアルバム『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』(2005年)は、ギター・サウンドに比重を置いたサウンドとなった。2007年、オリジナル・メンバーのピーター・フック(b)がバンドを脱退。2001年と2005年にフジ・ロック・フェスティヴァルに、2012年にサマー・ソニックに出演。2014年、MUTE移籍が発表され、2015年9月23日に9thアルバム『ミュージック・コンプリート』をリリース。2016年、実に29年ぶりの単独来日公園を行う。2017年、ライヴ盤『NOMC15』をリリース。2019年6月、地元マンチェスターの伝説の会場で2017年6月に5夜に渡って行われたライヴを収録した『∑(No,12k,Lg,17Mif)』を発売。

タイトル:∑(No,12k,Lg,17Mif) / ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..
品番:TRCP-243~244 / JAN: 4571260589032
定価:2,600円(税抜)*CD:2枚組

【石野卓球】
1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃から本格的にDJとしての活動もスタートする。1997年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、1998年にはベルリンで行われる世界最大のテクノ・フェスティバル“Love Parade”のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。1999年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ“WIRE”を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。2012年7月には1999年より2011年までにWIRE COMPILATIONに提供した楽曲を集めたDisc1と未発表音源などをコンパイルしたDisc2との2枚組『WIRE TRAX 1999-2012』をリリース。2015年12月には、New Orderのニュー・アルバム『Music Complete』からのシングルカット曲『Tutti Frutti』のリミックスを日本人で唯一担当した。そして2016年8月、前作から6年振りとなるソロアルバム『LUNATIQUE』、12月にはリミックスアルバム『EUQITANUL』をリリース。
2017年12月27日に1年4カ月ぶりの最新ソロアルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』をリリースし、2018年1月24日にはこれまでのソロワークを8枚組にまとめた『Takkyu Ishino Works 1983~2017』リリース。現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。

www.takkyuishino.com

【STOLEN】
中国で今最も刺激的な音楽シーンになるつつある四川省の省都・成都(せいと)を拠点にする平均年齢26歳の5人の中国人と1人のフランス人で構成される6人組のインディーズバンド「STOLEN(ストールン:秘密行动)」。2011年の結成から7年、謎多き中国のインディーズシーンから全世界デビューアルバムとなる『Fragment(フラグメント)』はドイツベルリンの伝説的レーベル「MFS」のオーナーMark Reederがプロデューサーとなり、成都にある彼らのホームスタジオとベルリンのスタジオでレコーディングされた。テクノやロックといったカルチャーを独自に吸収したそのサウンドやライブステージ、アートワークは、中国の音楽好きな若者から人気を集めるポストロック〜ダークウェイブの旗手として、その注目度は世界中へ拡がっている。

STOLEN
日本デビュー・アルバム『Fragment』発売中
価格:¥2,500+税
商品仕様:CD / 紙ジャケ / リーフレット
品番:UMA-1121

韓国ソウル市はソウル(魂)の街だった! - ele-king

 久しぶりのソウルは雲一つない秋晴れだった。ソウルにたどり着くといつもジョン・コルトレーンのアルバム『ソウルトレーン』が思い出される。音楽評論家アイラ・ギトラーが「シーツ・オブ・サウンド」と名付けたコルトレーンの超絶技巧が冴えわたる初期の名盤だ。ソウル市の「ソウル」は「魂」ではなく、「みやこ」を意味する。だが、「陰陽思想」と風水の自然観に基づいてつくられたというソウルの街角は韓国人の魂(ソウル)に満ちあふれている。

■無償のオーガニック給食

 今回のソウル市訪問は、パク・ウォンスン市長が実施している無償給食制度の取材だ。非営利組織「希望連帯」(白石孝代表、東京都)の調査ツアーに同行した。現在、ソウル市では小中高の児童生徒約90万人のうち72万人に学校給食が提供されており、2021年からは全校に拡大される予定だ。しかも食材はパク市長の提唱する都市農業政策の一環として無農薬・無化学肥料で遺伝子組み換えゼロの有機栽培作物を使っている。

 パク市長は2011年に給食無償化を公約にして初当選した。それまで給食費を払えない貧困家庭は、給食費の受給申請を出さなければならなかった。「無償給食が実施されれば、ご飯を食べる時に差別を受けずに友だちと付き合える」というのがパク市長の考えだった。オーガニック給食を実現するためには有機栽培農家との連携や流通システムの整備などが必要だった。


都市農業支援センターの農園=ソウル市江東区で

 ソウル市では9つの地域の生産者から有機食材を調達し、市の流通センターを通して各小中高の調理室に運んでいる。各校に配置された栄養士は学習会に参加して有機農業についての知識を深めている。また、定期的に有機農業の生産者を訪問して意見交換している。当初、栄養士からは「有機食材は形が不統一だから使いにくい」という声が上がった。だが、生産現場を視察してからは、安全性や栄養など有機食材の特質をよく理解するようになった。

 また、ソウル市は社会的弱者に対する「食の正義」を実現し、地域循環型農業や都市型農業を促進するため、「公共給食」という名目で保育園や地域の福祉施設、児童福祉センターにも無償の給食を提供している。現在、保育園と福祉施設の児童計約30万人のうち約10万人に公共給食が提供されている。2022年までには食材の7割を有機食材で賄う予定だ。公共給食のおかげでソウル市には「子ども食堂」がない。


ソウル市東北4区の公共給食センター=ソウル市江西区で

■ソウルは東アジアの “希望都市”

 パク市長は元々、人権派弁護士だったが、1994年に左派系市民団体「参与連帯」を創設。2000年の総選挙で腐敗した国会議員の落選運動を行い、多数の汚職議員のバッジを奪った。李明博政権下の2008年には米国産牛肉の輸入に反対するキャンドル・デモを主導。韓国NGOのリーダーとして注目を集め、06年にアジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」を受賞した。

 2011年、「市民こそが市長である」をスローガンに初当選したパク市長は、新しい社会経済モデルである「社会的経済」〔註〕を市政の柱に据え、市民参画行政や脱原発政策、公共部門の非正規労働者の正規職化などを進めてきた。市民運動のリーダーから市長に転身したことについてパク氏は筆者に「李明博政権の下で韓国の民主主義は大きく後退した。再び政治運動が必要な時代になった」と語ったことがある。


パク・ウォンスン市長(右)と筆者=ソウル市役所で

 市長に就任して以来、「脱原発」政策を掲げ、エネルギー消費型都市からエネルギー生産型都市への転換を図ってきた。そのため小水力発電やソーラー・LED促進など自然エネルギーへの移行を進め、若者就労に寄与するグリーンファンドを設立。一方、市役所や外郭団体の非正規雇用をすべて正規職に転換し、残業ゼロの完全週40時間労働制を進めてきた。そのほか、最低賃金を超える生活賃金の設定、伝統市場の活性化、大学の学費半減、深夜バスの運行開始など「市民の声」を反映した諸政策を実施してきた。

 朴槿恵パククネ政権になってからは、「国の専権事項である労働法に抵触した」として国から提訴されたこともあるが、朴政権崩壊で裁判は無に帰した。日本同様、急激な少子高齢化や格差社会が進展する韓国でネオリベ政策に抵抗しているのはソウル市だけだ。「日韓の市民社会を基盤とし、アジアに成熟した市民社会を広げたい」と語ったパク市長の言葉が忘れられない。ソウル市は東アジア唯一の “希望都市” なのだ。

■安重根と伊藤博文、どちらがテロリスト?

 韓国は万物の根源である「理(ことわり)の国」だ。日本は戦前まで「義」に生きる「武士(もののふ)の国」だった。戦後、日本国民は民主憲法を担いだが、「サムライ・ジャパン」が跋扈する「武士の国」に変わりはない。豊臣秀吉の朝鮮侵略、朝鮮王朝時代の閔妃暗殺や皇帝廃位は、すべて武力に物を言わせてのことだった。日韓関係が悪化すると必ず、一部の月刊誌には「新・征韓論」や「断韓」など威勢のいい見出しが踊る。こうした見出しは「問答無用」と刀を振り下ろす武士と将校の姿を連想させ、後味が悪い。

 韓国の国旗「太極旗」の中央には赤と青の陰陽図が描かれている。森羅万象を「陰」と「陽」に分類する中国易学思想が基にある。陰陽によって万物の成流転や宇宙の成立を理解する陰陽思想は韓国人に共通のソウル(魂)だ。朝鮮独立運動を通して朝鮮民族を象徴する旗として使われ、大韓民国独立後の1949年8月に国旗として制定された。韓国の民族独立の国旗とは正反対に、「日の丸」は中国と太平洋で数百万人の血を流させた “侵略” と “隷属” の象徴でしかない。陰陽思想に基づく「理」の国と、天皇制の下で「武」を尊んだ国の違いは大きい。

 歴史的に見ると、ソウルは「2000年の都市」だ。紀元前18年に百済が首都を置いて以来、朝鮮半島の中心都市として発展してきた。いまだに市内では三国時代(漢城)、高麗時代(南京)、朝鮮王朝時代(漢陽)の史跡や遺構が見つかることがある。日本の植民地時代に起きた民族独立運動を伝える像やミュージアムもあちこちで見かける。

 ソウル市中心の仁寺洞インサドンは原州韓紙や硯、筆、骨董品の店が建ち並ぶ伝統と歴史の町だ。その通りの南にあるタプコル公園には1919年の「三・一独立運動」を記念した石碑と銅板レリーフが並んでいる。西大門ソデムン刑務所で獄死した “韓国のジャンヌ・ダルク” 柳寛順ユ・グァンスンの勇姿の前で思わず一礼。ソウルタワーのある南山公園には初代韓国統監・伊藤博文を中国ハルピン駅で射殺した安重根アン・ジュングンの銅像が、そしてソウル駅前には第3代朝鮮総督・斎藤實に爆弾を投げつけた姜宇奎カン・ウギョがまさに爆弾を投げようとしている姿の銅像が立っている。


西大門刑務所で獄死した「ユ・グァンスン」の象=ソウル市タプコル公園で


朝鮮独立運動の活動家たちを投獄し、拷問・処刑した西大門刑務所

 安も姜も日本ではテロリストと呼ばれるが、韓国では「独立運動の義士」だ。伊藤は、幕末に「朝鮮の属国化」を主張した吉田松陰の弟子だ。朝鮮半島を蹂躙した伊藤や斎藤こそが真のテロリストではないか。戦前の日本帝国主義に対するきちんとした批判と「三・一独立運動」に対する正当な評価がなければ日韓の歴史認識の溝は埋められない。日韓の明るい未来図を描くこともできない。


西大門刑務所の処刑場入り口わきに立つ「慟哭のポプラ」


〔註〕社会的経済:協同組合や社会的企業、社団法人などが主体となった新しい社会経済モデル。貧困や失業、高齢化などさまざまな社会問題解決のため社会・地域サービスを提供している。国連は2013年から、貧困・格差拡大が平和維持を困難にしているとし、社会的経済の促進を加盟国に要請。スペイン、エクアドル、メキシコ、ポルトガル、フランスでは社会的経済の関連法を制定。ソウル市は2014年に社会的経済基本条例を制定し、市民の自発性や地域性に基づいた社会的経済活動の支援を続けている。

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■ネットで聴く韓国ヒップホップ

 買い物客や外国人観光客でにぎわう仁寺洞の通りをはずれ、路地裏の安ホテルに入った。部屋の半分近くを占めるベッドに寝転がってテレビをつけると、韓国の演歌歌手の力のこもったこぶしが部屋中に響き渡った。日本なら北島三郎か細川たかしといったところか? 歌い方や雰囲気も日本の演歌歌手とよく似ている。言葉が違っていても庶民文化は底がつながっているようだ。

 ふと「K-POP」を聴きたくなった。テレビのチャンネルを回したが見当たらない。仁寺洞の通りを探してもCDショップが1軒もなかった。「韓国の若者はどうやってヒット曲を聴いているの?」と不思議に思い、現地の知人に聴いてみると「皆、ネットで音楽を聴いている」とのことだった。


ネットでヒップホップを聴いている韓国の若者。ソウルでは韓服が流行している=ソウル市内で

 実は韓国では音楽市場の90パーセント以上をストリーミング・サービスが占めている。それも iTunes のようなグローバル企業ではなく、韓国の音源サービス会社が独占している。月額で数百円程度で数十曲から無制限にダウンロードできるので、2000年以降、CD・レコードの売り上げは激減してしまった。街角にCDショップが見当たらないはずだ。

 仕方がないので、ネットで韓国ヒップホップを探すと、Beenzino(ビンジノ)の “Aqua Man(アクアマン)” が流れてきた。「男は金魚鉢に閉じ込められた魚、お前がエサのようにまいたメールと留守電がオレを混乱させる♪」。モテモテの女性を金魚鉢にたとえ、そこに閉じ込められた哀れな男たちの心理をユーモラスに歌った韓国ヒップホップのヒット曲だ。

 ニュージーランド生まれのビンジノは、ソウル大学の彫刻科の学生だった時、ネットにアップした自作曲が有名ラッパーの目にとまり、音楽活動を開始した。2012年にリリースしたアルバム『24:26』が高い評価を得たことから、そのイケメンぶりもあって韓国ヒップホップ界の貴公子の一人に躍り出た。

 歌詞も洗練されている。歌う姿もかっこいい。朝鮮半島は38度線で分断され南北の軍隊が軍事境界線をはさんで対峙している。韓国は徴兵制の国だ。男子は満19歳になると2年間の兵役が義務付けられる。休日に迷彩服姿で街角を闊歩する若者を時々見かける。久々に恋人にでも会うのだろうか? 実は入隊中に恋人の女性が他の男の元へ去ってしまうケースが結構多いのだそうだ。ビンジノの歌う金魚鉢とは「兵舎」のことではないかと思ってしまう。

 韓国ヒップホップ界のもう一人のスター、DOK2(ドッキ)はフィリピンとスペイン系だが、ハングルの発音がきわめて正確で歌詞に字幕が必要ないといわれるほどだ。かつてビルの屋上のコンテナで暮らすほど貧しかったというが、今や年収数十億ウォン以上を稼ぎ、ロールスロイスやランボルギーニを乗り回す。「おなかがすいても食べるものは水しかなかった」という歌詞は遠い過去の出来事だ。

■韓国の若者文化に溶け込むラップ

 韓国ヒップホップを聞いていてふと気がついた。ハングル文字はあまり読めないのに韓国のラップが耳になじむのだ。ハングルには文字を支える「パッチム(字母)」というのがある。しかも一つの文字や音節が「子音」で終わる言葉が多い。次の単語の初めの語頭が母音であれば、それと結合し、フランス語のリエゾンのような発音の連結が起きる。このリエゾンにラップ特有の「フロー」を生み出す秘訣があるのではないか。

 さらに、ハングルには喉を開いて息を強く吐き出す「激音」と、喉を締めて息を出さない「濃音」がある。これがラップのリズムに濃淡をつけている。単語の多くが「母音」で終わり、喉を締めるようにして発声する日本語と比べてハングルはラップのリズムを作りやすいのかもしれない。とはいえラップはリズムだけではない。川崎のラッパー、FUNI は NHK のドキュメンタリー番組で「ラップは声を上げられない人たちの代弁」と言っている。ラップは歌い手の内側から出てくる魂の叫びだとすれば、言葉の壁を意識する必要はないだろう。

 ハングルは「偉大な文字」を意味する。朝鮮王朝第四代の世宗大王が1446年に「訓民正音」の名前で公布した。朝鮮半島では長らく文字は漢字しか使われていなかった。庶民は漢字が読めないので役人が法律を浸透させるのに苦労した。そこで全国の民謡や民間伝承、俗話を集めて人工的に作った文字がハングルだ。

 韓国哲学の専門家、小倉紀藏氏は『韓国語はじめの一歩』(ちくま新書)の中で、「万物の音や声を貫く普遍法則(理)を鋭敏に感じ取り、敢然と抽象化・図形化し、それを完璧に定着させた記号だ」と書いた。ハングルは庶民文化と宇宙の原理を一致させた「理」に基づく言語なのだという。

 韓国のラップに慣れ親しむと町中で聞こえてくるハングルの響きが楽しくなる。話し方も独特だ。韓国の人はよくしゃべる。それも自分の意見を自信を持って口にする。昔、バスの運転手の話がナポレオンの演説に見えたことがある。乗客に対する単なる案内だったのだが、胸を張って堂々としていたからだ。どちらかというと控えめな日本人からはそう見えてしまう。言葉に対する構えが違うのだろう。


街角に貼られた「安倍NO」のポスター

 小倉氏は韓国には「筆の思想」があると言う。「朝鮮士大夫はまさに文を以て世界と対決する毅然さを持つ。文にめしを懸け、命を懸けているのである。文は逃げ道であるとされた日本の状況とは、全く異なる」(同書)というのだ。何事につけ「言葉」で論争し合う韓国人と、上の者に「忖度」するくせに、「武力」に訴える日本人との差は歴然だ。韓国は「理=ロゴス(言葉)」の国、日本は「義=パトス(感情)」の国なのだ。言葉に託し、言葉で戦うラップは韓国の若者文化にうまく溶け込んでいる。


日本大使館前の「少女象」。毎週水曜日には少女像の前で若者たちが元慰安婦を囲んで歌やダンスを披露する=ソウル市内で

■パク市長の政治の原動力

 ソウル市では有機農業が炭素排出量の減少に貢献するとして「親環境農業」と呼んでいる。給食の無償化政策の中には「地球温暖化」「有機農業」「社会的連帯」の概念が詰まっている。このほか、労働者の権利を守る労働政策、貧困対策と社会的企業の育成、若者版ベーシックインカム(青年手当)の試行……。ソウル市は世界でも例を見ない革新的政策の数々を打ち出してきた。どこかの国の金持ち優遇政策とは大違いだ。

 パク市長は2期目(2014年~2018年)に、「人間中心のソウル市、市民が幸せに暮らすソウル市」というビジョンを発表した。「安全な街、温かい街、夢見る街、息づく街」に向けた60の政策公約と市民の暮らしを変える101の革新公約を打ち出した。まるでラップの歌詞のように次々と繰り出される政策のほとんどは既に実行されている。ラッパーのソウル(魂)が「声を上げられない人たちの声」を代弁することであるなら、それは、政策決定に市民の声を反映させる血の通った政治を貫いてきたパク市長のソウル(魂)でもある。

interview with Takuma Watanabe - ele-king

 その端緒をひらいた2014年のソロ作『Ansiktet』の時点では、2010年代後半が映画と音楽の関係の再考に費やされるとは、本人に確証があったかどうかはいささかあやしいが、渡邊琢磨はその1年後の冨永昌敬監督の『ローリング』、2年後には吉田大八監督の『美しい星』などの劇場公開作品の音楽を手がけ、盟友染谷将太監督とは実験的な作風にとりくみ、今年ついにみずからメガフォンをとり、染谷将太と川瀬陽太、佐津川愛美が出演する『ECTO』を完成させるにいたった。同作は今年5月に委嘱元である水戸芸術館で、晩夏には山口県のYCAMの爆音映画祭でも、規模はことなるが弦楽器の伴奏つきの上演を行っている。もうしおくれたが、渡邊琢磨の『ECTO』は映画の上映と生演奏がひとつとなってはじめて作品となる舞台芸術的映画作品で、革新的な方法論もさることながら映画なる形式へのエモーショナルな自己言及によって画期的な作品にしあがった、その完成から間を置かずして、というより余勢を駆ったか、渡邊琢磨はさらに映画に広く深くかかわろうとしている。
 そのことは処女作となる映画作品と同名のレーベル〈ECTO Ltd.〉の始動にもうかがえる。またしてももうしおくれましたが、“ECTO”とは超常現象愛好家にはおなじみのあのエクトプラズムのエクトであり、ギリシャ語の「外」を意味するこのことばをレーベル名に冠した渡邊琢磨の胸中には、映画の内にありながら映像に外として付随する音楽の浮動する特異な位置を多角的にとらえんとする野心がうかがえる。とともに、音楽のみならず音をめぐるテクノロジーと価値観すなわち環境の変化が映画にいかに循環するのか、あるいはその逆は? との問いかけをふくみ、そのことはベルが鳴り客電が落ちた劇場の暗がりでおぼえる胸の高鳴りによく似たものを呼びおこす。
 サウンドトラック盤『ゴーストマスター』はECTOレーベルの第一弾である。青春群像恋愛SFホラー活劇とでも呼ぶべきヤング・ポール監督の同名作は幾多の形式と手法と記号と技法をDIY風に融合した秀作だが、それゆえに音楽にもとめられる要求にも幅があったという。音楽を担当した渡邊琢磨の苦闘ぶりは本文をご参照いただきたいが、取材の後日仙台から郵送されてきたサントラ盤に耳を傾けながら本編で聴いたのとも印象をことにする音楽のあり方にうたれたとき、私は渡邊琢磨の新たな試みの意義をあらためて認識した。すなわち、映画とは、音楽とは、映画音楽とはなにか、との問いである。

映画がなければ存在しえなかった音楽の傾向はあるかもしれませんね。フィルムスコアリングのあり方が音に反映されている作品は多々あると思うので、映画のなかでしか聴けない音楽は、たとえばそれがオーケストレーションありきの音楽でなくとも電子音楽でもあると思います。

映画音楽を中心にするレーベル〈ECTO Ltd.〉を発足させたんですよね。

渡邊:染谷(将太)くんが監督した『ブランク』(2017年)という映画があって、そのサントラをリリースするさい、ミックスダウンと部分的に録音もやり直して、アンビエントにつくり変えたんですけど、それが映画音楽の副産物として面白いなと。レコードのセールス的に映画音楽は少々厳しいかもしれませんが、メディアとして再利用するのはおもしろいのではないかと。それがレーベル〈ECTO Ltd.〉をはじめる発端でもあり、今回のサントラのリリースのきっかけでもあります。

野田:『ゴーストマスター』のジャケットをちょっとみせてもらいましたよ。鈴木(聖)くんがデザインしているじゃない。

渡邊:そうですね。じつは〈ECTO Ltd.〉のレーベル・ロゴも聖くんがつくってくれました。

その〈ECTO Ltd.〉レーベル第一弾が2019年12月に公開した映画『ゴーストマスター』のサントラだと。すでに2作目以降も決まっているんですよね。

渡邊:染谷くんが監督し、菊地凛子さんが脚本を書いた短編作品の音楽を担当したのですが、本編20分弱の間、音楽がずっと鳴り続けていて、モジュラーシンセを使ったりドローンになったり、音楽的にも発見がいろいろあったので、権利的な問題がクリアになれば、同作のサントラを出したいと思っています。

冨永昌敬監督の『ローリング』(2015年)、吉田大八監督の『美しい星』(2017年)、染谷監督の『ブランク』、今年上演(映)した作品としての『ECTO』もそうですが、琢磨さんはこの数年映画と音楽についてかなり意識的にかかわってきました。サウンドトラックというメディアの現状についてはどう考えていますか。

野田:最近じゃOPNなんかもサントラ(『Good Times』『Uncut Gems』)を手がけているよね。

渡邊:ダニエル・ロパティンのようなアーティストがサントラやるような状況って昔はそんなになかったと思うんですね。歌唱入りのテーマ曲をバンドやミュージシャンが担当するなどはありましたが、劇判をジョニー・グリーンウッドとかトレントレズナーとか、トム・ヨークもそうですし──

ムームのヒドゥル・グドナドッティルとかね。

渡邊:そうですね。彼女が手がけた『チェルノブイリ』(HBO制作のドラマ)の音楽は素晴らしかったです。最近、音楽好きな映画監督がミュージシャンに直談判するような状況も顕著になってきましたし、映画音楽すなわち職業作家だけの仕事という時代でもない。バジェットいかんにかかわらず、監督や制作部とのコミュニケーションから音楽を着想することも多々ありますし、ミュージシャンが可能性を追求できる現場でもあると思います。

野田:染谷さんと菊地凛子さんは芸術的な野心をすごくもっているじゃない。あれだけメインストリームにいながら彼女もアンダーグラウンドにたいする嗅覚もある。

渡邊:そうですね。凛子さんはこのところ、染谷監督作品の脚本も書いていますが、ご自身の直感と趣向をそれとなく仕事にとりこんでしまう、その才覚がすごいです。海外では女優のマーゴット・ロビーや、ブラッド・ピットなどが独自のプロダクションをたちあげて大作を製作していますが、表方も裏方も手がける人が増えてきました。凛子さんはハリウッドでも仕事をしているし、そういった考え方があってもぜんぜん不思議ではない。

彼らが制作に関与できる状況があるということですね。

渡邊:ブラッド・ピットが運営する製作会社〈PLAN B〉もそうですが、〈A24〉や〈Oscilloscope〉のような独立系製作会社が2000年以降増えました。最近はポスプロ(ポストプロダクション)なども、映画監督自身が編集ソフトを使って作業することもありますが、以前は分業というか、編集は編集マンにお願いするのが慣例だったと思います。それがいまやラップトップ一台で完結できてしまう。映画は一人で作るものではないので、相対的に考えると良し悪しありますが、テクノロジーの発展とともに映画制作の状況も変わってきましたね。

職域がゆらいでいる現状がある。

渡邊:私的にシンギュラリティに関心はありませんが、AIの問題なども含まれるかもですね。AIが実装されているツールが出回ることで職域問題のバイアスが多少なりともかわるかもしれない。音楽制作においてもマスタリングやミックスをAIが行うツールがありますし、自己完結できる部分はどんどん増えている。

映画音楽に特化した、あるいは関連したといってもいいかもしれませんが、そのようなレーベルの構想はいつから?

渡邊:じつはここ最近──なのです(笑)。基本サウンドトラックのリリースは映画の制作会社や委員会の意向に沿って決めるのですが、インディペンデント映画やショートフィルムの場合、サントラがリリースされることがまれだったりするので、監督や制作サイドにサントラの音盤化のご提案をして、話しがまとまればリリースするという感じです。

いまの予定ではサウンドトラックとその二次利用作品ということなんですか。

渡邊:あるいは映像作家自身がつくる音楽、音響作品ですとか。効果音のスタッフの仕事にフォーカスしたものとか。ECMでも、ゴダールの映画の音だけがパッケージされたアルバムがありましたよね。そういう傾向の作品も含め(映像や映画の)音全般をあつかっていくということです。

しかしよく考えると、サウンドトラック盤が存在する映画の基準って、音楽のよさ以外になにかあるんですか。いまはサントラはあまり出ませんが、中古市場ではサントラもひとつのジャンルを形成するほどの分量があって、掘っていくとけっこうマイナーな作品のサントラもありますよね。

渡邊:映画音楽の仕事に携わってわかったことですが、音楽コンテンツのとりあつかいが漠然としているケースもありまして、映画の最終行程であるダビング作業の後に、劇伴の出版管理ほか、本編における音楽の使用箇所を記載する「Qシート」を提出するなどの話しになるのですが、映画の公開からだいぶ時間が経って詳細な連絡をいただくことも多々ありまして。映画は制作行程が複雑ですし、音楽以外にも事後クリアしなければならない作業や問題も少なくありません。ただ、映画が公開されてから時間が空いてしまうと、作業内容もあやふやになってくるので、それなら劇伴が出揃った段、もしくはダビング作業直後にプロデューサーもしくは製作会社の担当者に出版の意向などをおうかがいし、所定の管理団体がない場合は、こちらでお預かりすることもできますとご提案しておくのもよいかなと。それから、サウンドトラックをリリースすると、今回の記事のようにパブリシティ効果も期待できるかもしれない。勝手がよいレーベルがあればマーチャンダイズとしてサウンドトラックをつくることも容易ですし。映画作品のPR、掲載メディアも横断的になるというか、音楽の観点から映画をとりあげるのも面白いのではないかと。あわせて、監督からサウンドトラック盤をつくりたいという要望が出る場合もあります。監督は個々の行程に思い入れがありますし、若い世代の監督にはクラブミュージックからサントラまで雑多に音楽好きな方もいます。

映画音楽をメディアとして再利用するのはおもしろいのではないかと。それがレーベル〈ECTO〉をはじめる発端でもあり、今回のサントラのリリースのきっかけでもあります。

『ゴーストマスター』のヤング・ポール監督は若い世代に入りますよね。これが処女作ですね。拝見しましたが、いい感じで──

渡邊:とっちらかってますよね(笑)。

(笑)やりたいこといろいろやった感がありますね。

渡邊:初長編作らしい大変、野心的な映画です。

『ゴーストマスター』の音楽はどのような取り組み方だったんですか。

渡邊:本作は恋愛映画の撮影現場が次第にホラーに転じていくという映画内映画の要素があります。キラキラ恋愛映画を撮っているのだけど、とにかく撮影現場が滞る。キャストもダダをこねるし、監督も投げやりで、プロデューサーもうまくとりもってくれない。三浦貴大くん演じる主人公のダメダメ助監督は、本心ではホラー映画を監督したい野心があります。その思いと現場のストレスがピークに達したとき、恋愛映画の台本がホラー映画にトランスフォームするということなのか、とにかく惨劇の現場と化していくわけです。脚本を担当された、楠野一郎さんは大御所ですが、何とも不可思議でブラックな喜劇性をもあわせもつ恋愛ホラーをお書きになられた。本を読んだ直後は一筋縄ではいかないと思い、じゃっかん身構えました(笑)ホラーとはいえ根底に恋愛映画が通底していて、そこにも監督の演出意図があるので、表層とメタ構造になっている下部の映画の選択肢、要するにホラーなのか恋愛なのかを場面毎に問われる作品でした。

判断するにあたっての基準や、要素から導き出せる正答みたいなものはあったんですか。

渡邊:それがないんですよ(笑)。正解がみえてこない。ホラーのシーンで恋愛映画のテーマを当てても、そういう演出に思えてきますし。

形式にたいする批評として成立しますからね。

渡邊:そうなんですよ。しかも映画制作それ自体を扱うという点では、監督のルサンチマンとはいいませんけど(笑)、ポール監督ご自身のいろんな現場の実感にも由来していると思いますので、そういう裏返った自我の面白さも反映したいなと思いまして。

いつごろからはじまったんですか。

渡邊:去年(2018年)には作業していたはずなので、ポスプロも含め1年はかかったかなと。

ヤング・ポール監督は琢磨さんの音楽をすでにご存じだったんですね。

渡邊:本作のプロデューサーの1人である、木滝(和幸)さんは、冨永昌敬監督の『ローリング』も手がけていまして、ポール監督も『ローリング』をご覧になっていたらしく、渡邊さんならということで、お話自体はだいぶ前にいただきました。企画の概要的に、最初はホラー映画とうかがっていたので、恋愛映画が作中どういうふうに機能するかわかっていなかったのですが、初稿をいただいた段で映画の構造的に重要なパートだとわかってきました。私的には、ホラーの音楽をやってみたいという思いがかねてよりあったので、音楽作業の開始当初はもっとホラー然とした劇伴をつくっていたのですが、何曲投げても監督が首を縦にふらないので、再度ミーティングしたところ、ホラーと恋愛のどちらかに寄るのではなく、双方の要素を折衷したいということで、ようやくニュアンスがつかめてきました。

でも音楽の面からいうと微妙ですよね。さきほどもうしましたように、どのようなものでもそのように聞こうとすればそう聞こえる。やりすぎると記号になるし、中庸でいいことでもないような気もする。あるいはジャンル映画風ということなのか。

渡邊:そうですね。だから正解が見えにくいというか、結局、画と音を合わせたときのフィーリングというか、理詰めではないですね。『ゴーストマスター』には、セルフパロディー化しているような登場人物も多々出てきて喜劇的な立ち振る舞いをするのですが、キャラクター自身はマジなので、滑稽でも泣けてくるという(笑)、そういうポール監督の演出の妙と、それを体現してしまうキャストの方々の絶妙さには脱帽しました。そういう異化効果的なバランスにはとてもシンパシーを感じたので、監督と意見が対立するということではなく、もうひと捻りできるかどうかを監督と熟慮しました。

けっこう音楽ついていますよね。

渡邊:それなりに量はありますね。

しかも映像でもスローやCGなどの特殊効果場面の音楽もありますよね。これは一概にはいえないかもしれませんが、その場合はホラーと恋愛の二項のほかにも撮影方法や、オマージュしている作品も加味しなければならないのではなかと思いました。

渡邊:トビー・フーパーですとか監督の名前や作品に言及する場面もありますからね。あわせて、旧来の映画音楽的な要素も欲しいという要望が監督からありましたし。それは職能でカヴァーすればよいのですが、音楽が著しく演出に影響してしまうので慎重につくりました。『ゴーストマスター』が面白いのは、意味不明なシーンや謎の伏線が回収されることなく、そのまま放置されるところです(笑)。屋上をみんなで歩いていくシーンとか。突如、ふりつけをしたかのような動きで人々が屋上を歩き出す、一体なんなのと(笑)、監督に演出意図をうかがっても、よくわからないとかおっしゃるし(笑)、そういうナゾのシーンが多々あるのが面白い。

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キップ・ハンラハンと仕事をしたときのレコーディングで弦楽四重奏を起用しましたが、なにもかも試してみたくなるんですね(笑)。バルトーク風だったりリゲティ風だったり印象派っぽいのとか、そういうみようみまねのトライアンドエラーの実践を現場でくりかえすうちに、旧来的な分業システムではつくられない、作家性の濃い付随音楽もできたりするわけで、それはそれで面白いなと。

話は変わりますが、冒頭でも話に出たミュージシャンで映画音楽を手がけるひとたちについて琢磨さんは同じ立場としてどう思われますか。ジョニー・グリーンウッドはもちろん、ダニエル・ロパティンも。彼らはグリーンウッドならPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)、ロパティンならサフディ兄弟というふうに監督とのコンビネーションもあります。その点もふくめて、琢磨さんは映画音楽の現状をどうみておられますか。

渡邊:ポール・トーマス・アンダーソンとジョニー・グリーンウッドのコラボレーションについては、なりゆきがわからないので言及できませんが、その点は措いたうえで、グリーンウッドが手がける映画音楽には弦楽が採用されていたり、室内楽的な要素もあったりしますよね。その点を考慮すると、PTAがグリーンウッドを起用したのは別段レディオヘッドのメンバーだからとか、ギターのサウンドが使いたいとか、そういう表面的な事由ではないわけで、逆にいえばグリーンウッドの音楽性、資質をよく理解していたからこそ、弦楽や管楽の劇伴を発注できた、あるいはグリーンウッドのアイディアを採用したということではないかと思います。OPNは、サフディ兄弟との2作目は、ダニエル・ロパティン名義でしたが、初コラボの際は、イギーポップとのコラボを除けば、OPNがそれまで積み上げてきた作風から、さほど逸脱しない音楽を監督も求めている感じでしたね。だから、ジョニー・グリーンウッドの場合は、そもそも弦楽器をフルで使う音楽をつくりたくて、その欲求とポール・トーマス・アンダーソンの映画が邂逅した感じではないかと。音楽家にとっていい実験の場ができたというか。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)が彼らのはじめてのタッグだったと思いますが、現代音楽のありとあらゆる書法を使っていますよね。僕もキップ・ハンラハンと最初に仕事をしたときのレコーディングで弦楽四重奏を起用しましたが、なにもかも試してみたくなるんですよね(笑)。バルトーク風だったりリゲティ風だったり印象派っぽいのとか、そういった欲張りな感じがどっと出る。でも、そういうある種のアマチュア精神というか、みようみまねのトライアンドエラーの実践を現場でくりかえすうちに、旧来的な作曲は作曲家、編曲は編曲家というような分業システムではつくられない、作家性の濃い付随音楽もできたりするわけで、それはそれで面白いなと。その点、ジョニー・グリーンウッドは音のイメージがちゃんとありますよね。同時に音楽史上の参照点も分かりやすい。

気軽に生の弦は使えないものね。

渡邊:とくに弦は束になると非日常的な音像になるじゃないですか。それをそれなりの予算で使えるとなったときの欲望ってすごいわけですよ。私的にはそうそうあるわけじゃないですけど。PTAも音楽が好きなひとだからグリーンウッドに弦を書いてもらいというディレクションと、作曲者の状況や意思がうまい具合に化学反応を起こしたんだろうなと思います。それ以来ふたりのコラボレーションはつづいていますよね。最近はジョニー・グリーンウッドがやっている音楽をポール・トーマス・アンダーソンがドキュメントしてたりもするし。

それだけいい組み合わせだと本人たちも思っているということかもしれないですね。

渡邊:個人的には、PTAはヘイムとかフィオナ・アップルとか女性アーティストのMVなどを手がけているときの方がしっくりきますけどね。好みの女性アーティストばかり撮っているというか(笑)。

ジョニー・グリーンウッドやダニエル・ロパティンが映画音楽に進出してきているのは象徴的というか、琢磨さんが映画と音楽に関心をもつのもわかります。

渡邊:去年は私的に(映画を)監督し、編集もみようみまねで手がける過程で、映像と音の相対的な発見が多々ありました。過去に仕事をした映画監督、たとえば、冨永監督などは棒つなぎ(仮編集)などは、もしかしたら編集マンがやるのかもしれませんが、その後、冨永くん自身で再度編集や微調をすると、途端に冨永ワールドが立ち現れる。その点では音楽とも似ていますよね。そういう編集のリズム感、グルーヴ感をもっている監督は多々おられます。そういったことも念頭に、私的に映像編集をおこなった際は、完全に音楽的な感覚で切ったり繋いだりしていました。今後、ポストプロダクションを自身で手がける映画監督や映像作家も増えていくでしょうし、逆に、映画監督が音楽にかかわるあり方も変化していくのではないかと思います。サフディ兄弟の映画音楽にしても、タンジェリン・ドリームのようなシンセを駆使した映画音楽を参照しているのは間違いないですし、『神様なんかくそくらえ』(2014年)では冨田勲さんや、それこそタンジェリン・ドリームを使っています。アナログ・シンセサイザーが効果的に使われた70年代後期から80年代全般の映画のムードや質感が好きなんだろうなと思いますし、OPNもその辺の映画に通底する質感は熟知しているでしょう。そうやって1本組んで、前時代的なオマージュだとかリファレンスありきのシネフィル的な趣向を超えて、両者の協働のあり方が新作『Uncut Gems』に結実したのかもしれない。『Good Times』もそうでしたが、ロパティンの映画音楽はかつてのタンジェリン・ドリームやヴァンゲリスのようなエレクトリックワールドな演出とはちがうわけですよ。映像と音の親和性がカメラワークに由来していたり、編集のスピード(これは速い場合もハイスピードのように極端に遅い場合もです)が、現行の電子音楽と相性が良いような気がします。そういう撮影などの技術革新などもあって、映画と音の新たな関係性の土壌ができたのだと思います。ハーモニー・コリンもそうでしたし、『魂のゆくえ』(ポール・シュレイダー監督、2017年公開)でもラストモードが音楽をやっていたりだとか、かつてないような映像と音のインタラクションが増えてきていると思います。過去の仕事の概念からいったらほとんど効果音のような音も劇伴という括りで捉えていますし。ポール・シュレイダーのような巨匠がドローンのような音楽を非常に効果的に使っているというだけでも興奮しますよ。

現代の映画音楽の文脈的に、90年代以降の映画音楽らしさは「低音」なんだと思います。じっさいIMAXやドルビーアトモスなんかの売りもそこですし、それはジョージ・ルーカスがTHXを始動したときからつづいてきたことでもある。そんなことをふまえると、そろそろ反動で高音が流行るんじゃないかと(笑)!

レーベルの設立文で、〈ECTO Ltd.〉での活動の視野にはサウンドデザイン的な表現も入ってくると述べられていましたが、それはそのような認識からくるものですか。

渡邊:あの文章は自分の仕事に対する戒め的な側面もあるのですが(笑)、じっさいにそうだとは思います。オーディエンスの観点からしても、映画をみているときの体感として、いまやIMAXやドルビーのような典型があるわけじゃないですか。90年代初頭から現在のハリウッドライクなというか、ルーカスのTHXが主導する音響技術が定着していったと思うのですが、つくり手からすると、あの重低音やアタック音は少々食傷気味です。ある特色をもつ技術革新が進むと、最初のうちは物珍しさも手伝って、多くの人が追従する音楽をつくるのですが、二番煎じが昂じると、自分はそれをやらないぞというムーヴメントが反動的に起こります。個人的な見解だと、劇伴における重低音を個性的に推し進めたのが、ヨハン・ヨハンセンが手がけた、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『ボーダーライン』(2015年)のサントラで、あのグリスアップを多用した弦と打楽器の音像は、一頃のアクション映画の代名詞になっていると思います。とにかくコンバスやチェロをひとまとめにしてグリスアップすれば「いま」っぽい(笑)。映画音楽には、そういう流行り廃りの面白さがあるんですよ、映画音楽のなかの音色傾向といいますか。

ムームのヒドゥル・グドナドッティルはヨハン・ヨハンセンの弟子筋ですよね。

渡邊:そうですね。くりかえしますが、彼女の『チェルノブイリ』の劇伴は、前述の低音演出の総括的な作品としても秀逸です。現代の映画音楽の文脈的に、90年代以降の映画音楽らしさは「低音」なんだと思います。じっさいIMAXやドルビーアトモスなんかの売りもそこですし、それはジョージ・ルーカスがTHXを始動したときからつづいてきたことでもある。そんなことをふまえると、そろそろ反動で高音が流行るんじゃないかと(笑)!

そんな単純な話なのか(笑)。

渡邊:ハハ、でも音の生理なんて単純なものだと思うんですよ。映画音楽史を意識しながらみていくと、何年かに一度そういった時期、傾向がありますよ。

高音というのを美学的に言い直すとどうなります。

渡邊:低音というのはアトモスフィアをつくりやすいわけです。体感もあります。低音というのはサウンドトラックだけにかかわらず、地鳴りのような効果音などにも多用されますよね。きわめて映画的なレンジだと思いますが、たとえば、武満(徹)さんのお仕事などは、そこまで低音重視ではないですよね。

そうですね。

渡邊:世界的にみても映画音楽史の上でも、かなり特異で鮮度のある映画音楽です。もちろん、作曲家=武満の作風というだけではなく、その時代の映画がもちえたトーンに呼応してるようにも思えますが。そういう響きが流行るかはさておき、一方の余白になっているとは思います。

低音でもグリスアップでもない基準ですね。

渡邊:そうですね。とはいえ、武満さんの映画音楽もある時代の参照点でもあるわけで。映画監督がみてきた映画の音がそのひとのなかに蓄積されているわけですし、それなりに邦画をみていけば、必ずあの独特の武満トーンが記憶に残っているはず。だから音楽に疎いとおっしゃる監督でも、映画における音のマナーやリテラシーはあって、実際、音を当ててみるとなにがしかの映画の記憶が思い起こされたり、具体的な作品名を出して、あの映画の音楽がよかったなどの話しになりますし。

発見ですよね。それはさきおっしゃっていた映画と音楽、テクノロジーや方法論との親和性と同じで、不可逆的なものでもあると思うんです。

渡邊:ええ、映画がなければ存在しえなかった音楽の傾向はあるかもしれませんね。フィルムスコアリングのあり方が音に反映されている作品は多々あると思うので、映画のなかでしか聴けない音楽は、たとえばそれがオーケストレーションありきの音楽でなくとも電子音楽でもあると思います。

〈ECTO〉レーベルはそのような映画音楽作品をリリースするレーベルであり、『ゴーストマスター』はその第一弾であると。そう考えると、琢磨さんほど映画音楽に真摯にとりくんでいるミュージシャンはいないかもね。

渡邊:いえいえ! 自重ではありませんが、私はまだまだ試行錯誤の段階ですし、映画音楽の世界もよい意味で魑魅魍魎うごめいていますからね(笑)。最近はノイズやヒップホップ界からもドラマや映画音楽に参入してくるアーティストがいますし。個人的に映画は好きですが、それだけが動機でもないと思いますし。ただ、映画音楽をつくるのも、レーベルをスタートするのも、映画や音楽からの呪いみたいなものであると同時に、つまるところ実験であり、結果的には音楽にフィードバックしてくるなにかだと思います。

■映画情報

映画『ゴーストマスター』
監督:ヤング ポール
脚本:楠野一郎/ヤング ポール
音楽:渡邊琢磨
主題歌:マテリアルクラブ「Fear」
出演:三浦貴大/成海璃子
配給:S・D・P(2019年 日本)
○新宿シネマカリテほか絶賛公開中!全国順次ロードショー
ghostmaster.jp/

Aphex Twin - ele-king

 まもなく終わりを迎えようとしている〈Warp〉の30周年。ほんとうに今年はいろいろありました。いちばん大きかったのは、NTS のオンライン・フェスティヴァルでしょう。もちろん、ビビオフライング・ロータスプラッドチック・チック・チックバトルズ、ダニー・ブラウン、ダニエル・ロパティントゥナイトなど、リリースも充実していました。ステレオラブの一斉リイシューもありましたね。明日12月27日には、これまで限定的にしか発売されていなかった30周年記念ボックスセット『WXAXRXP Sessions』がレコ屋の店頭に並びます。《WXAXRXP DJS》を筆頭に、多くのアーティストが来日したことも嬉しい思い出です。エレキングも『別冊ele-king Warp 30』を刊行いたしました。そんな〈Warp〉イヤーをしめくくるだろう、おそらくは最後のニュースの到着です。

 30周年記念イヴェント《WXAXRXP DJS》で先行上映されていたエイフェックスのA/Vライヴ映像が、これまた明日12月27日、なんとユーチューブにてフル公開されることになりました(日本時間午前6時)。9月20日のマンチェスター公演で撮影された映像です。エイフェックスで終える2019年──すばらしい年越しになりそうですね。ちなみにこれは宣伝ですけれども、今年は『SAW2』の25周年ということもあり、エレキングも『エイフェックス・ツイン、自分だけのチルアウト・ルーム──セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』という本を出しています。ぜひそちらもチェックをば。

30周年記念イベントで上映されたエイフェックス・ツインの
A/Vライブ映像が12月27日に YouTube で公開決定!
30周年記念ボックスセット『WXAXRXP SESSIONS』も
今週金曜よりレコードショップにて販売開始!

『WXAXRXP (ワープサーティー)』をキーワードに、様々なイベントを通して、30周年という節目を祝った〈WARP RECORDS〉。その一貫として11月に開催された『WXAXRXP DJS』にて先行上映されたエイフェックス・ツインのA/Vライブ映像が、12月27日に YouTube でフル公開されることが発表された。上映される映像は、今年9月20日に行われたマンチェスター公演で撮影されたもの。日本での公開時間は、12月27日午前6時となる。

Aphex Twin – Manchester 20/09/19
https://youtu.be/961uG4Ixg_Y

また、イベント会場やポップアップストアでのみ販売されていた30周年記念ボックスセット『WXAXRXP SESSIONS』が、同じく12月27日より、レコードショップの店頭にも並ぶことも決定。以下の店舗にて販売される。

取り扱い店舗
BEATINK.COMhttps://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10754
タワーレコード 渋谷店
タワーレコード 新宿店
タワーレコードオンライン
Amazon.jp
HMVオンライン
ディスクユニオン・オンラインショップ
テクニーク

WXAXRXP Box Set
Various Artists

release date: 2019/12/27 FRI

WARPLP300
10 × 12inch / 8 prints of WXAXRXP images / 10 stickers

MORE INFO:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10754

収録内容はこちら↓(各12inch も販売中!)

Aphex Twin
Peel Session 2

放送:1995.4.10
エイフェックス・ツインが披露した2つのラジオ・セッションのうちの1つ。すべてが当時のオリジナル音源で、披露された全音源がそのまま収録されている。アナログ盤でリリースされるのは今回が初めて。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10526

Bibio
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
ビビオが、ブレイクのきっかけとなったアルバム『Ambivalence Avenue』に収録された3曲と、2016年の『A Mineral Love』収録の1曲を、ミニマルで美しいアコースティック・スタイルで再表現した4曲を収録。『WXAXRXP x NTS』の放送用にレコーディングされたもの。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10527

Boards of Canada
Peel Session

放送:1998.7.21
ボーズ・オブ・カナダによる唯一のラジオ・セッションが、オリジナルの放送以来初めて完全版で収録。これまで当時の放送でしか聴くことのできなかった貴重な音源“XYZ”が公開中。

https://youtu.be/JZYnw3GBAlU

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10528

Flying Lotus Presents INFINITY “Infinitum”
Maida Vale Session

放送:2010.8.19
フライング・ロータスの出世作『Cosmogramma』リリース当時、『Maida Vale Session』にて披露されたライブ・セッション音源。サンダーキャット、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、そして従兄弟のラヴィ・コルトレーンらによる生演奏。ここ以外では聴くことのできない楽曲“Golden Axe”が収録されている。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10529

Kelly Moran
WXAXRXP Session

放送:- / - / -
今回の『WXAXRXP Sessions』用にレコーディングされ、唯一過去放送もされていない超貴重音源。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10530

LFO
Peel Session

放送:1990.10.20
デビュー・シングルを〈WARP〉からリリース直後に『Peel Session』に出演した際のパフォーマンスで、長年入手困難かつ、ここでしか聴くことのできない音源を収録。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10531

Mount Kimbie
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
『WXAXRXP x NTS』企画で初披露されたパフォーマンスで、マウント・キンビーがライブを重ねる中で、どのように楽曲を進化させていくのかがわかるセッション音源。ミカ・レヴィもゲスト参加している。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10532

Oneohtrix Point Never
KCRW Session

放送:2018.10.23
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)率いるバンド、Myriad Ensembleが『KCRW session』で披露したスタジオ・セッションから4曲を収録。OPN以外のメンバーは、ケリー・モーラン、イーライ・ケスラー、アーロン・デヴィッド・ロス。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10533

Plaid
Peel Session 2

放送:1999.5.8
プラッドが『Peel Session』に出演した際に披露したパフォーマンスを収録。『Rest Proof Clockwork』リリース当時のオリジナル音源で、ライブで高い人気を誇る“Elide”も含まれる。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10534

Seefeel
Peel Session

放送:1994.5.27
アルバム『Succour』リリース当時に『Peel Session』で披露されたセッション音源。ここ以外では聴くことのできない“Rough For Radio”と“Phazemaze”も収録。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10535

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