「IR」と一致するもの

Swans - ele-king

 ロックの歴史において、炎に焼かれ灰となり、そこから甦るというフェニックスの神話をこれほどまでに体現したバンドが他にあるだろうか——スワンズをおいて。1998年、バンドは文字通り「死」を迎える。最終作のタイトルは、まぎれもなく『Swans are Dead』。これ以上ない明快さ。「これで本当に終わり」と公言するバンドは数あれど、実際に姿を消す者は稀だった。そして彼らは、本当に消えた。
 1982年の結成以来バンドを率いてきたマイケル・ジラも、当時の活動を肯定的に語ることはなく、2000年代のアメリカにおける新たなフォーク・ムーヴメントのなかで、Angels of Lightやソロ名義でフォーク・ミュージックへと舵を切っていった。だが、スワンズが『The Great Annihilator』(1995)で踏み出したあの時代は、いま振り返っても尋常ではなかった。『Holy Money』(1986)の時期の金槌のような打楽器による暴力的ミニマリズムと同等の強度をもちながらも、そこにはより物語性に富んだ、儀式的なノイズの瞑想が展開されていた。なかでも『Soundtracks for the Blind』(1996)は、音の探求として驚異的な達成を示す作品であり、もっと多くの人に発見されるべきアルバムである。
 スワンズは死んだ——そうマイケル・ジラが宣言したとき、それを疑う理由はどこにもなかった。だが2010年、誰も予想しえなかった再生の瞬間が訪れる。スワンズは再び目を覚ましたのだ。
 復活後最初の作品『My Father Will Guide Me Up a Rope to the Sky』(冗長なタイトルが物語るように)は、たしかな可能性を感じさせながらもやや肩すかしだった。その音楽的へその緒はまだ、Angels of Lightのフォーク的世界にしっかりと繋がれていたからだ。年齢を重ねれば創造性は失われていく——そんな西洋に根づく通念が、作品の背後にちらついていたのも否めない。
 しかし、すべてが変わったのは2012年。『The Seer』のリリースによって、誰も予測できなかった新たな激烈の時代が幕を開けた。ジラは、初期スワンズの打撃的なサウンドを再び受け入れつつ、それをまったく新たな文脈に落とし込んでいった。その音楽は、過去と現在を弧を描くようにつなぎ、バンドの新たな自己像を浮かび上がらせたのだ。スワンズというバンドは、その歩みを時代ごとに明確に区切っていく存在であり、それを決定し、宣言することをジラ自身もまた好んでいる。

 2025年に発表されたスワンズの第17作『Birthing』は、まさに記念碑的な作品であり、またしても「これが最後の〈ビッグ・サウンド〉作品になる」との宣言とともに世に放たれた。極限までの追求を信条とするマイケル・ジラらしく、本作でもその姿勢は貫かれている。全7曲ながら収録時間は2時間近くにおよび、かつて『Soundtracks for the Blind』が「一線」を画したように、『Birthing』もまたひとつの終わり——どれほど決定的な終止符であるかは定かでないにせよ——を示しているかもしれない。
 『Birthing』を語るうえで不可欠なのは、スワンズというバンドがグレン・ブランカの「使徒たち」であるという事実を理解することだ。今日では徐々に記憶から遠ざけられつつあるが、ブランカはスワンズのみならずSonic Youth、さらには80年代NYアヴァン・シーン全体に多大な影響を与えた存在である。
 巨大なノイズ・ギター交響曲の先駆者であったブランカは、10本以上のエレクトリック・ギターとアンプが一斉に耳をつんざく音量で鳴らされ、アコースティック楽器では決して得られないような〈うなり〉や〈幽霊音〉を呼び起こすという音響実験を通じて、演奏者に「強度」のすべてを教え込んだ。その場にはジラも、ソニック・ユースのサーストン・ムーアも身を置いていたのだ。皮肉なのは、ジラがあの「音」に本格的に再び取り組んだのが、それからおよそ20年を経てのことだったという点だ。時間とは、まさに相対的なものなのだ。
 『Birthing』は、メシア的なドローン——ほぼすべての楽曲に通底する、力の限りに引き伸ばされた音のうねり——と、説教師のような呼びかけ(“I am a Tower”)を行き来しながら、氷河のように冷たい音響の炎をひとつに束ねるような、ミニマル・フォークの哀歌を内包している。アンサンブルによる暴力的な歓迎は、リスナーに険しい音の山を登らせるが、アルバムの多くのパートはむしろ内省的で、どこか悲しげで繊細ですらある。
 冒頭の“The Healers”は、全員男性メンバーによるバンドとは思えないほどフェミニンな楽曲であり、浮遊するような音の抱擁が広がっている。その柔らかさは、ラストにかけて続く記念碑的なエクスタシーと鮮やかな対照をなす。この「静から動への振幅」、あるいは個々の楽曲を超えた巨大な音響構造は、まさにグレン・ブランカの手法を思わせるものであり、2時間という時間のなかで幾度となく繰り返される。そのため、本作は個々の楽曲というよりも、一続きの大作として体験されるべきものとなっている。
 最終的に、この構造から逃れることは難しい。ボアダムスのように、かつて同じ道を選んだバンドたちがそうであったように、この形式に祝福された者たちは、たとえ曲が分かれていても、必然的にマントラ的な「ひとつの音」に回帰していく運命にあるのだ。繰り返すことは、神をより深く知ることに通じる。だが、30年以上にわたるヴィジョンを貫いてきたマイケル・ジラは、決して時代を繰り返さない。ゆえに、『Birthing』が何らかの「別れ」を告げる作品であることは間違いない。しかし、いくつかのことを忘れずにいたい。
 まず第一に、スワンズの啓示は常にツアーとともにもたらされるということ。願わくば、読者であるあなたにも彼らのライヴを体験してほしい。彼らは過去に二度、日本に来ている。願いを込めて指を交差させれば、もしかするともう一度──本当に最後の一度──来日してくれるかもしれない。
 第二に、スワンズのフィジカル・リリースは、単なるアルバムではなく「遺産」として設計されているということ。芸術作品として保存されるべきものとして、クオリティに優れた盤を手に入れた者には、その価値は限りなく高い。
 第三に、マイケル・ジラは現在71歳という、なお鮮烈な生命力をもつ人物であるということ。残された時間は、すでに歩んできた道のりより短いかもしれない。完璧ではないかもしれないが、『Birthing』は、そんな彼が世界に贈った驚くべき贈与であり、妥協なき、そして深い愛に満ちたヴィジョンの結晶である。だからこそ、この作品を単にダウンロードして済ませてはいけない。ぜひフィジカルで手に入れ、一生大切にしてほしい。
 「I am the best fucking Fuck that you never will have.(俺はきみがかつて見たことのない最高のクソ野郎)」


There is no band in rock history whose trajectory has reflected the myth of the Phoenix, one destined to burn in fire and then resurrect itself like SWANS. The band literally died in 1997, their “last” album sincerely entitled SWANS ARE DEAD. It doesn`t get any clearer than that. How many bands jump up and down to say never more? And gone they were. Founder Michael Gira didn`t speak positively of his days fronting the band from 1982 while he moved on to folk music in the midst of the American new folk scene of the 2000`s with new band Angels of Light and solo efforts. Still that era, begun with “The Great Annihilator” was formidable intense cinematic music that mirrored in intensity with the Holy Money era of hammer percussion, instead evolved to narrative based ritualistic noisy meditation.”Soundtracks of the Blind” is an incredible achievement in sound that begs to be discovered more.
When he said SWANS was dead, no one had any reason to disbelieve him but come 2010, a rebirth was witnessed. SWANS reawakened. The keenly promising but somewhat underwhelming first release “My Father Will Guide Me Up a Rope to the Sky” with its unnecessary long title was definitely a suggestion of what could be but didn’t go far enough with its umbilical cord still tightly connected to Angels of Light folkdom. The commonly held western belief that the older one gets the less creative one is could be felt in the background. But all changed in 2012 with “The Seer,” officially starting an intense new era no one could have forecast. Gira had embraced again the pummeling sound of the early songs in a new context that drew an arc from their beginnings to their new found self. SWANS is a band of clearly marked eras which Gira is very found of deciding and announcing.
2025`s monumental release “Birthing,” SWANS` 17th release, is no different, attached to yet another announcement that it would be the last “big sound” release. Gira known for pushing to the extreme has definitely done so here. With just 7 tracks, the album is just a hair under 2 hours and may mark another end (how definitively is anyones guess) in the same way that “Soundtracks of the Blind” was a line in the sand.
To properly talk of “Birthing,” it`s vital to comprehend that SWANS are the disciples of Glenn Branca, a name that is progressively being forgotten in time despite his massive influence on SWANS and Sonic Youth and the NYC avant scene of the 80`s. Branca, the first composer of titanic noise guitar symphonies provided a learning ground for musicians (both Gira and Thurston Moore were participating musicians) to soak in the intensity of 10 or more electric guitars with amps strumming simultaneously at earsplitting volumes summoning humming ghost tones impossible with acoustic instruments. It is incredibly ironic that Gira didn`t embrace “that sound” again til 20 years later. Time is indeed relative.
“Birthing” wades between messianic near-power drones (almost every song), preacher callings (“I am a Tower”), minimalist folk dirges which hold all of the flames of glacier sound together. Though the welcoming violence of the ensemble creates stark mountains to climb for the listener, many parts of the album remain meditative, almost mournful and delicate. The beginning “The Healers” is a very feminine song coming from an all male band. That floating aural embrace is directly contrasted with the continuous monumental euphoria of the end. This Branca pattern occurs often through the 2 hours making parts of the total experience at times feel less like individual songs and more like one long work. Ultimately this can`t be escaped as any band that choses this road like the Boredoms for example before them, often repeats themselves in separate songs because the blessing of their formation is christened by a mantra sound. To repeat is to know God better.
Gira, in his 30 plus year vision does not repeat eras so this is definitely a goodbye of some kind but let us keep some things in mind. One, SWANS revelations always come with a tour and I hope you the reader gets to see them. They have come twice to Japan, and if we cross our fingers, maybe they will come one last time. Two, SWANS physical releases are legacy works designed to be art, to be preserved as art. Highly valuable when bought with commendable quality. Three, Michael Gira is a vibrant 71 year old man. There is less ahead than behind so though “Birthing” is not perfect, it is an amazing gift to the world by a man with a vision uncompromising and loving. Do not just download this. Buy a physical copy and keep it forever.
“I am the best fucking Fuck that you never will have”

Koshiro Hino - ele-king

 大阪を拠点にgoat、YPYなど数々のプロジェクトで国内外を駆け巡る音楽家・日野浩志郎による上演時間80分の新作『Chronograffiti』が、ドイツの〈Moers Festival〉にて2025年6月に世界初演を迎える。日本においても、クリエイティブセンター大阪内〈Black Chamber〉にて7月25日から7月27日にかけて3日間にわたり初演上演される。

 プロジェクトにはダムタイプ等で活動する古舘健をヴィジュアル・エフェクトとして迎え、前田剛史(ex.鼓童)、安藤巴、谷口かんなという3名のパーカッショニストが参加。リズム・アンサンブルを主とした内容となるようだ。
 「時間」と「落書き」というふたつの語をかけ合わせたというタイトル『Chronograffiti』の指す真意とは? ぜひ会場にて目撃いただきたい。

新作音楽公演「 Chronograffiti 」

 日野浩志郎による新作作曲作品『Chronograffiti』は、ドイツのMoers Festivalの委嘱により制作し、2025年6月に同フェスティバルにて世界初演。本公演は日本初演となる。演奏は、元・鼓童の前田剛史、日本管打楽器コンクール第1位の安藤巴、そして日野作品に継続的に参加している谷口かんなの3名のパーカッショニストによるリズム・アンサンブルで構成される。
 日野は自身のバンド「goat」や、太鼓芸能集団・鼓童との協働を通して独自のリズム作曲法を発展させてきた。本作ではボンゴやスネアといった最小限の楽器を用い、陶酔的なミニマリズムから身体的・精神的な高揚を引き出す作曲を試みている。
 加えて、The SINE WAVE ORCHESTRAやDumb Typeで知られる古舘健によるヴィジュアルエフェクトを導入し、通常では感知されない演奏者の動きや楽器の振動を表出させる。
 タイトル「Chronograffiti」は、“時間” を意味する接頭辞「Chrono」と、“落書き” を意味する「Graffiti」を組み合わせた造語であり、時間と身体が空間に描き出す一種の残像=視覚的落書きを象徴している。

公演概要

会場:クリエイティブセンター大阪内 Black Chamber(大阪府大阪市住之江区北加賀屋4丁目1-55)
公演日程:2025年7月25日(金)~27日(日)
公演日時:
7月25日(金)19:30開演
26日(土)14:30開演 / 19:30開演
27日(日)14:30開演
※開場は各開演の30分前を予定

上演時間:80分予定
料金:一般=3,500円、U25=2,500円、当日=4,000円
チケット取扱い:ZAIKOイベントページにて https://toritomokai.zaiko.io/
作曲:日野浩志郎
出演:安藤巴、谷口かんな、前田剛史
音響:西川文章
ビジュアルエフェクト:古館健
舞台監督:小林勇陽
記録写真:井上嘉和
宣伝美術:真壁昂士
制作:伴朱音
主催:株式会社鳥友会
共催:一般財団法人 おおさか創造千島財団「KCVセレクション」
助成:アーツサポート関西

忌野清志郎さん - ele-king

「ボス、ロックやるのもたいへんですね」と返したら、「おまえ、この国にロックなんかないんだよ」と言って帰って行きました。その姿もよく憶えています。かっこよかったんです。(本文より)

 我々はひじょうに危険な状態にあると指摘する人が後を絶たない現在、何度も何度も耳にする言葉──「いま清志郎がいてくれたらなぁ」。1988年『COVERS』発売直後の混乱期、『コブラの悩み』~ザ・タイマーズ~RCサクセションの解散という激動のなか、清志郎のようなメイクと衣装で働いた名物宣伝マンの語る「清志郎さん」。巻末にはele-king編集長・野田努との「RCサクセションとタイマーズをめぐる」対談も掲載。あまり知られていない逸話もまぜつつ、いまあらためて「清志郎さん」がやり遂げたことについて考えます。
 かつてこの国のロックで、権威を敵にまわし、たくさんの子供たちを(そして大人たちも)喜ばせたミュージシャンがいました。高橋康浩の『忌野清志郎さん』、頭と、そしてハートで読んでください。

[著者]
高橋康浩(たかはし・やすひろ)
80年代後半、レコード会社入社後、RCサクセションの問題作『カバーズ』発売中止事件の渦中に放りこまれ、翌年、タイマーズがメディアをジャックしたFM東京事件に担当者として騒動を経験。また、派手なメイクに衣裳で自らが宣伝塔となり、忌野清志郎のプロモーションを展開。清志郎とともに突然街中でゲリラ・ライヴを敢行し、話題となる。現在もフリーランスとして清志郎のCDの監修やメディアやトークイベントへの出演、原稿執筆等を担っている。ファンのあいだでは清志郎命名による高橋ROCK ME BABYというネームで知られている。

デザイン:鈴木聖
表紙写真:川上尚見/中面写真:有賀幹夫

四六判/248頁

■目次
編者による序文
序章 17歳の「雨あがりの夜空に」
第一部 『COVERS』、ザ・タイマーズ、RCサクセションの解散
第二部 RCサクセション
第三部 ローランド・カークはとっくに死んでいる
終章 「俺は昨日と今日と明日のことしか考えないんだよ」
あとがきに代えて 高橋康浩×野田努
謝辞

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
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Young Gun Silver Fox - ele-king

 古き良きソウル・ミュージックを継承し、2010年代以降UKソウル・シーンの最前線を走るママズ・ガンのアンディ・プラッツと、幅広いジャンルでプロデュース・ワークを展開するマルチ・ミュージシャンのショーン・リーによる現代最高峰のAORデュオ:ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス(以下YGSF)の3年ぶりの5thアルバム『Pleasure』が届けられた。デビュー時は、それぞれが自己の表現媒体を持ち、キャリアも十分なふたりによる半ば趣味的なサイド・プロジェクトかと思われたYGSFだが、2~3年の間隔でコンスタントに作品を重ね、気づけば10周年のアニヴァーサリーを迎えた。

 YGSFがデビュー作『West End Coast』を発表し、イーグルスやアメリカのカラッと渇いたサウンドを病的なほど正確に捉えた楽曲 “You Can Feel It” で脚光を浴びたのは2015年のこと。日本ではAOR、海外では近年ヨット・ロックと呼ばれ再評価が進むこの手のジャンルには、ロックにあるべき反骨精神を欠いているという否定的な見方も当時はまだまだ根強かったと記憶している。そうしたなかで、1976~82年頃にハリウッドのスタジオ・シーンで生み出されたAOR/ヨット・ロックへの憧憬を自己流に表現する、という明確なコンセプトを持った彼らの登場は非常にユニークだった。10周年の節目を迎えた本作でもその方向性に大きなブレがないのが嬉しく、新作リリースの度に「これ、いつの作品?」と思わせる音作りの緻密さに頭が下がる。

 これまでの4枚のアルバムと比べて変化した点としては、ソウル/ファンクの要素をより積極的に取り入れるようになったことが挙げられるだろう。スティーヴィー・ワンダーとスライ・ストーンへのリスペクトを込めた “Stevie & Sly” を1曲目に配したのは、彼らからのそうしたメッセージとも取れる。また、5曲目の “Holding Back The Fire” にも70年代末の芳醇なソウル・フィーリングが漂っており、そのユニークなリズム・パターンから、スウィッチ(ジャーメイン・ジャクソンに見出されたデバージの前身グループ)の “You Pulled A Switch” を筆者は連想した。AOR/ヨット・ロックに隣接するジャンルにまで守備範囲を広げつつも、参照する楽曲の年代や音像を揃えることで、アルバム全体の統一感を崩さないようにする工夫が随所に見られ、ますます彼らには死角がなくなったように感じる。

 一方で、従来からのYGSFの十八番とも言える王道のAORナンバーでひときわ目を惹くのは、ドゥービー・ブラザーズの名曲 “What A Fool Believes” の印象的なリフを引用した2曲目の “Born To Dream” だ。このリフを拝借した楽曲は邦楽・洋楽問わず、80年代から現在に至るまで星の数ほど作られており、8ビートのミディアム・ナンバーに多幸感を付与するための常套句のようなアレンジ手法として、ポップス文化の中に定着していると言える。アコースティック・ピアノとローズ・ピアノを重ねた鍵盤の煌びやかな音色は、本家の “What ~” よりはむしろロビー・デュプリー “Steal Away” を彷彿とさせるもので、本人たちも数多あるオマージュ曲の全体像を正確に捉えていることが伝わってくる。また、3曲目 “Late Night Last Train” はフリートウッド・マックとデレゲイション、4曲目 “Burning Daylight” はアンブロージアとアース・ウインド&ファイアーを掛け合わせたことを本人たちがライナーノーツで明かしているが、ショーンの頭の中の膨大なディスコグラフィーを活かした引用の絶妙なセンスと、アンディのヴォーカルを聴かせる曲自体のメロディの強さが相俟って、決して単なるパスティーシュでない、強力なオリジナリティを生み出している。彼らが参照した、あるいは参照したと筆者が感じた楽曲を以下のプレイリストにまとめてみたので、本作と併せて楽しんでいただければ幸いだ。

 デビュー作からつねに高く安定したクオリティを維持している反面、1st『West End Coast』での鮮烈な印象を更新できていなかったようにも思えるYGSFだが、本作はそれを覆すポテンシャルに溢れていると思う。シティ・ポップ・ブームが下り坂に差し掛かるなか、そのルーツと言うべきAOR/ヨット・ロックの歴史を辿ろうとするリスナーはまだまだ少ない。現代と50年前とを繋ぐ魔法のタイムマシンとして、YGSFにはいつまでも変わらずに西海岸の風を吹かせていてほしいと願っている。

The Sabres of Paradise - ele-king

 ザ・セイバーズ・オブ・パラダイスは、故アンドリュー・ウェザオールが90年代なかばにジ・アルーフのふたり、ジャグズ・クーナーおよびギャリー・バーンズと組んでいたグループだ。昨秋再結成が発表され、きたる6月5日、バルセロナのフェスティヴァル、プリマヴェーラ・サウンドでじつに30年ぶりのライヴをおこなう彼ら。ここへきて、『Sabresonic』(1993年)と『Haunted Dancehall』(1994年)がリイシューされることになった。発売は8月1日。CDもLPも出るそうなので楽しみに待っていよう。

The Sabres Of Paradise
90年代、世界中の音楽フリーク達の人生を変えた歴史的名作がリマスターで蘇る

故アンドリュー・ウェザオールが率いたセイバーズによる『Sabresonic』、『Haunted Dancehall』が8月1日に同時再発
帯付きCD/LP、Tシャツセットも発売

プライマル・スクリームのプロデュース、ニュー・オーダー、ビョーク、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインらのリミックスを手がけ、世界最高のDJ/プロデューサーとして唯一無二の存在だった、故アンドリュー・ウェザオール。そんな彼がアルーフ(The Aloof)のメンバー、ジャグズ・クーナーとゲイリー・バーンズと共に結成したプロジェクト、セイバーズ・オブ・パラダイスが〈Warp〉より、1990年代中盤のエレクトロニック・ミュージックを代表する2作としてリリースした、『Sabresonic』、『Haunted Dancehall』のリイシュー盤を8月1日に発売することが発表された。いずれもオリジナル・テープからのリマスタリングが施され、オリジナル発売以来初となるCD/LPフォーマットでのリイシューが実現する。「Smokebelch II (Beatless Mix)」、「Theme」は初のLP収録となっており、CD/LPは帯付き仕様で発売され、Tシャツセットの発売も予定されている。

今回の再発は、現存メンバーのジャグズ・クーナーとゲイリー・バーンズの全面協力のもと、故アンドリュー・ウェザオールの遺族との連携により行われた。リマスターはマット・コルトンが手がけており、発売に先駆け、各ストリーミングサービスでは本日よりリマスター音源の配信が開始されている。

『Sabresonic』
配信リンク >>>

『Haunted Dancehall』
配信リンク >>>

このリリースに合わせて、実に30年以上ぶりとなるツアーも開催が発表されている。

「未練があるというより、新しい目的がある」とクーナーとバーンズは語る。「The Sabres Of Paradiseは、1995年5月の東京・リキッドルームでの最終公演をもって、あるべきときに終わった。だが、今やるべきことがある」

「アルバムを再紹介したいし、できればフェスティバルのような場で若い世代にアンドリューのレガシーをさらに定着させたい」とクーナーは言う。「彼らにThe Sabres Of Paradiseの真価を体験してもらいたい。そして、僕たちが30年前に作った音楽に、新たなファンを惹きつけられたらいいと思っている。彼らの多くは当時まだ生まれてすらいなかったかもしれないけどね」

2枚の金字塔的なアルバムが、わずか13か月の間に制作されたあの時代から30年。クーナーとバーンズは、プロダクション、リミックス、ライブ、地下スタジオでの密度の濃い作業の数々を振り返る。当時の熱狂は、ウェザオールがプロデュースを手がけたプライマル・スクリームの名盤『Screamadelica』(1991年)によって加速していた。『Sabresonic』(1993年10月)と『Haunted Dancehall』(1994年11月)は、Flowered Up、Future Sound Of London、Galliano、Yelloといった多くのアーティストのリミックスを手がけていた3人が、ついに完全なアーティストへと進化する過程で生まれた。

〈Warp〉との契約により、急遽アルバム制作が求められたが、幸いなことに彼らのスタジオの棚にはDATテープが山積みだった。「まあ、録りためてた音源がいくつもあったってことだね」とクーナー。「それに、いくつかは掘り起こして作り直したんだ」とバーンズも補足する。

たとえば「R.S.D.」は、元々はレッド・ストライプ(ジャマイカのビール)のCM用に依頼された曲だった(タイトルは “Red Stripe Dub” の略)。そのセッションでは、「Wilmot」や「Tow Truck」も生まれている。

『Sabresonic』の冒頭曲「Still Fighting」は、プライマル・スクリームの「Don’t Fight It, Feel It」をベースに作られており、「あの曲にはまだ可能性があると感じていた」とクーナーは振り返る。「でも実際にスタジオで取り組んだら、全く別の曲に変わっていったんだ」

中でも象徴的な楽曲として知られる「Smokebelch II」は、4分強の牧歌的な傑作であり、元はNYのハウス・プロデューサー、レイモンド・ブッカーがザ・プリンス・オブ・ダンス・ミュージック(The Prince Of Dance Music)名義でリリースした「New Age of Faith」のカバーだった。「あれはShoom(ロンドンの伝説的クラブ)でよくかかっていた曲で、アンドリューも大好きだった」とクーナーは言う。「シングルにするつもりはなかった」とバーンズは言うが、「アンドリューがアセテート盤を持ってブライトンのクラブでかけたら、フロアが熱狂した」

1994年には、クーナーとバーンズがプライマル・スクリームの『Give Out But Don’t Give Up』ツアーに帯同し、セイバーズとしてのライブ活動を開始。その後スタジオに戻り、『Haunted Dancehall』制作に入った。「Tow Truck」や「Wilmot」のデモを仕上げ、さらに旧曲「Theme」を再構築した。「Theme」は1994年のイギリス映画『Shopping』用に書かれた、力強くシンフォニックなジャズ・ファンク曲である。

また「Planet D」(元のタイトルは「Planet Distortion」)という新曲も生まれ、当時絶頂期にあったポーティスヘッドにリミックスを依頼。そして、タイトル曲「Haunted Dancehall」は、スタンリー・キューブリック監督『シャイニング』の “誰もいないホテルの広間” のシーンにインスパイアされたという。

「ストリングスにはEQ処理を施して、まるで古い蓄音機から遠くの舞踏室で鳴っているような音にした」とバーンズは語る。「最初のタイトルは “Haunted Ballroom” だったんだけど」とクーナーが補足する。「でも最終的にアンドリューが “Haunted Dancehallの方がいい響きだ” って言ったんだ」

それから30年、『Sabresonic』と『Haunted Dancehall』は再び脚光を浴びることになる。そして、セイバーズのライブも復活。クーナーとバーンズは、かつてのバンドメイト――リッチ・セア(Red Snapper, The Aloof)、ニック・アブネット(The Aloof)、フィル・モスマン(LCD Soundsystem)――を再集結させ、世界ツアーを展開する。

「今こそ、振り返るべきタイミングだった」とクーナーは語る。「あの瞬間は、自分たちだけじゃなく、多くの人々にとって重要な時間だった。これらのアルバムは、今なお色褪せない。多くの人に、ライブでその音を体感してもらいたい。アンドリューがステージに立つことはないけれど、きっと袖の陰から、うなずいてくれていると信じている」

label: Warp Records
artist: The Sabres Of Paradise
title: Sabresonic
release date: 2025.08.01

商品ページ
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15104

TRACKLISTING
A1. Still Fighting
A2. Smokebelch I
B1. Clock Factory
C1. Ano Electro (Andante)
C2. R.S.D.
D1. Inter-Lergen-Ten-ko
D2. Ano Electro (Allegro)
D3. Smokebelch II (Beatless Mix)

label: Warp Records
artist: The Sabres Of Paradise
title: Haunted Dancehall
release date: 2025.08.01

商品ページ
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15105

TRACKLISTING
A1. Bubble And Slide
A2. Bubble And Slide II
A3. Duke Of Earlsfield
B1. Flight Path Estate
B2. Planet D
B3. Wilmot
B4. Tow Truck
C1. Theme
C2. Theme 4
C3. Return To Planet D
C4. Ballad Of Nicky McGuire
D1. Jacob Street 7am
D2. Chapel Street Market 9am
D3. Haunted Dancehall

Laraaji - ele-king

 2010年代に再評価が高まったニューエイジの巨匠、ララージ。2019年の公演以来、6年ぶりに来日することが決まりました。9月11日(木)東京・草月ホール、12日(金)京都・東福寺塔頭光明院、13日(土)札幌・DALWHINNIEの3箇所をまわります。彼の美しい音楽を全身で浴びましょう。

LARAAJI

聴く者の心を連れ去る唯一無二のサウンドスケープ
“生ける伝説”ララージ、6年振り待望の来日決定!
宇宙と現実も、時代もジャンルもゆるやかに横断する音の彼方へ

LARAAJI
JAPAN TOUR 2025

TOKYO 09.11(THU) 草月ホール | Sogetsu Hall
KYOTO 09.12(FRI) 東福寺塔頭 光明院 | Komyoin
SAPPORO 09.13(SAT) PROVO presents “SOL”at DALWHINNIE

1943年生まれ、ニューヨークを拠点に今もなお活動を続けるニューエイジ/アンビエントの生ける伝説、ララージ (Laraaji)。 ワシントン・スクエア・パークでのストリート演奏をきっかけに、ブライアン・イーノと出会い、『Ambient 3: Day of Radiance』(1980年)へ起用されたことで世界の注目を集めることとなった。以来、ジョン・ケイル(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)、ハロルド・バッド、ビル・ラズウェル、ファラオ・サンダース、細野晴臣など、ジャンルも国境も超えたコラボレーションを重ねてきた。オーディオ・アクティブとの『The Way Out Is The Way In』でも日本の音楽シーンに確かな爪痕を残している。長きにわたり様々な音楽のシーンを横断して愛されて来た稀有のアーティストなのだ。
独自の感性と演奏方法で民族楽器から管楽器、弦楽器、ピアノまで操るマルチ奏者であり、その独自のサウンドスケープは、ニューエイジ、アンビエントといった枠を超え、時に音が色彩や風景に変わるような感覚を与えながら、時にスピリチュアルで、時に宇宙的な広がりを感じさせながら、聴く者の意識を緩やかに解き放つ。 幾度もの時代の波をサヴァイブし、今もなお静かな熱狂とともに世界中の音楽家やリスナーに影響を与え続ける存在、それがララージ。唯一無二なその存在感で、演奏のみにとどまらず、瞑想や笑いのワークショップも行っている。5年振りに貴重な来日を果たす今回は、東京は草月ホールで、京都は東福寺の塔頭である光明院にて100名限定のライブを、札幌では郊外にあるダルウィニー札幌で2日間にわたり開催される小さな野外パーティーの初日、夕暮れ時に合わせて親密なライブを行う。
瞑想やヒーリングの文脈だけでは捉えきれない、本物のサイケデリック・アンビエンスとリアルな音の旅。 ララージがもたらす音世界を、ぜひライブで体験してほしい。

【イベント詳細】
TOKYO
09.11(THU) 草月ホール | Sogetsu Hall
with Special guest
OPEN 18:00 / START 19:00
TICKET:前売¥8,400 (税込/全席指定席) ※未就学児童入場不可
※開演前に余裕をもってご来場ください。開演後の入場は制限させていただく場合が有りますので予めご了承ください。

KYOTO
09.12(FRI) 東福寺塔頭 光明院 | Komyoin
OPEN 18:30 / START 19:15
TICKET:前売¥8,400 (税込/整理番号なし/自由着席) ※未就学児童入場不可

SAPPORO
09.13(SAT)-14(SUN)
PROVO presents Open Air Party “SOL”at DALWHINNIE SAPPORO
OPEN 11:00 *LARAAJI Live → 9/13(SAT) 16:30~17:40 (予定)
TICKET:前売 1DAY¥5,000 / 2DAY \8,000
INFO:info@provo.jp

TICKETS (東京・京都)
【先行販売】
★6/2(Mon)18:00~BEATINK主催者WEB先行
★6/4(wed)12:00 - イープラス最速先行販売(抽選):6/4(水)10:00~6/8(日)23:59 受付
★6/9(mon) イープラスpre-order 6/9(mon)-10(tue) ※クレカ決済のみ

【一般発売:6月14日(土)~】
イープラス
ローソンチケット
BEATINK

MORE INFO: WWW.BEATINK.COM / 03-5768-1277

Honda Q - ele-king

 2003年に降神の1stアルバム『降神』へ参加し特異なスタイルで注目を集めたラッパー・本田Qが、2011年作『くしゃみ』以来13年ぶりとなる2ndソロ・アルバム『ことほぎ』を6月1日にリリース。デジタル・リリースながらA/B面をそれぞれ「言祝ぎ」「呪言」の2部構成とした、17曲入の大作に仕上がった。

 2020年より活動拠点を京都に移して以降、リリックに日本の古典をサンプリングするなど独自のスタイルを確立していった本田Q。コンシャスなラップを軸としつつ、和の文化とアンダーグラウンド・ヒップホップを接続するようなアプローチがとられた力作にはDJ KENSEIなども参加している。要チェックでしょう。

Artist : 本田Q
Title: ことほぎ
Release Date:2025.6.1
Label : SOFTRIBE
Format : Digital
Stream : https://linkco.re/3xx28Hbc

Tracklist:

A面 言祝ぎ
01 オトノナルホウヘ
Prod. by NaBTok
Mixed by NaBTok

02 ねぇ
Prod. by Shoichi Murakami
Mixed by KND

03 不孤
Feat. fuyuco.
Prod. by Bundead (NaBTok & Livingdead)
Mixed by SINKICHI

04 Stone
Prod. by COBA5000
Mixed by NaBTok

05 A Day
Prod. by alled
Mixed by KND

06 Anniversary
Prod. by NaBTok、猿吉
Mixed by NaBTok

07 他力本願
Feat. RHYDA
Prod. by Eiji Suzuki、SIMIZ、NaBTok
Mixed by KND

08 オトノナルホウヘ (Livingdead mix)  
Prod. by Livingdead
Mixed by Livingdead


B面 呪言
09 Wa-Yo  
Feat. KOKORO STAR
Prod. by COBA5000
Mixed by KND

10 落首
Prod. by 犬猿 (猿吉 & SIMIZ)
Mixed by Livingdead

11 イデオロギスト (Original Ver.)
Prod. by DJ KENSEI
Mixed by KND

12 Enough
Prod. by NaBTok
Mixed by NaBTok

13 Chrono
Prod. by GUINOMI (Livingdead & Earth Palette)
Mixed by Livingdead

14 警句
Prod. by Livingdead、Shoichi Murakami
Mixed by Livingdead

15 賣炭翁
Prod. by ジャッキーゲン
Mixed by SINKICHI

16 南無 (不惑ver.)
Prod. by NaBTok
Mixed by NaBTok

17 Wa-Yo (NaBTok mix)
Feat. KOKORO STAR
Prod. by NaBTok
Mixed by NaBTok

Mastered by KND
Painted by enter(ot29)
Caligraghy by Mahiro
Desighned by Toru Kurihara from SOFTRIBE

本田Qの13年ぶりの2ndソロアルバム。
「ことほぎ(言祝ぎ/呪言)」はAB面の2部構成となっている。A面では音を楽しむ音楽讃歌が、B面では先行シングル「イデオロギスト」の流れを汲むコンシャスな内容がうたわれている。
盟友NaBTokに加え京都から猿吉、Livingdead、ジャッキーゲンが、洛外からはDJ KENSEI、alled、COBA5000、Earth Paletteが参加。さらにSOFTのSIMIZ、DachamboのEiji Suzuki、Kobeta PianoのShoichi Murakamiといった様々なセッショニスト達がその独自のサウンドを寄せている。
フィーチャリング勢にもRHYDA、fuyuco.、KOKORO STARといった特色のあるボーカリストが並ぶ。

<コメント>

この祝福を喝ととるか、この喝を出口までの光ととるか、いずれにしても全て今等しく全員に起こっている目の前の事を、そのままスピットする今作はかなり魂削ったんじゃないかな。 これは赤いピルと青いピル両方飲んだ様な現実の中を生きる貴方へのアルバムです。本田Q渾身の魔作。 ──OMSB
オトノナルホウ そこは街の最深部 陰と陽 祝と呪 表裏一体 仲間と共に音と言葉を操り続け13年の時を経て世界を包み込む まさしくこれが 本田Q の音楽 ──JBM
京都にやって来て暫く。鬼才本田Qの感性が冴わたる。才能豊かな仲間たちとの深い繋がりが紡ぐ 心に灯りをともしてくれる タフで繊細 太古と未来 美しくも儚い 名曲目白押しのSci-Fi大絵巻物??? とにかく大興奮でオ ス ス メ!!! ──Daichi (Based on Kyoto)
今日のマジョリティは、明日のマイノリティ。民主主義が弱りきったこの時代に、もしあなたが音楽を大切に思うなら——まずはこの曲を、大切な人に送ってほしい。 ──中村眞大 (NPO法人School Liberty Network 共同代表)
本田Qの『ことほぎ』は、2025年のニッポンのコンシャス・ラップの重要作だ。ヤツは言いたいことが山ほどあるからラップする。この言葉の量と質に打ちのめされるしかない! ──二木信

〈本田Q Profile〉

2003年に降神の1stアルバムに参加し、その奇異なラップスタイルに注目が集まる。その後、WAQWADOMとして都内を中心に活動。2011年には1stソロアルバム「くしゃみ」を発表し、2018年に東横マッシブとして「Trip Travel Tour」の制作に携わる。
2020年から活動拠点を京都に移し、様々なセッションに参加する一方、DJ KENSEI、NaBTok、ジャッキーゲンがトラックを提供したソロEP「ぐうのね」を発表。日本の古典をサンプリングしたリリックが界隈で話題を呼ぶ。
MAD FLOOD、左京君、HATAKE JUNKIEとしても活動中。

Lucrecia Dalt - ele-king

 今年1月にまさかのデイヴィッド・シルヴィアンをフィーチャーしたシングル “cosa rara” を発表し、一部で注目を集めていたルクレシア・ダルト。単曲でのコラボかと思いきや、なんとアルバム1枚まるごといっしょにつくっていたようです。高い評価を得た前作『¡ay!』から早3年、共同プロヂュースということで期待の高まるニュー・アルバム『A Danger to Ourselves』は、〈RVNG Intl.〉より9月5日にリリース。現在、新曲 “divina” が公開中です。

前作がThe Wireの年間ベスト1位に輝いたLucrecia Daltのデヴィッド・シルヴィアンを共同プロデューサーに迎えた新作『A Danger to Ourselves』が9/5にリリース決定
先行1stシングル「divina」がMVと共に公開

2022年にリリースした『¡Ay!』が英The Wireで年間ベスト1位を獲得し、MUSIC MAGAZINE誌でもロック(ヨーロッパほか)で年間ベストに選出されるなど注目を集めさらに評価が高まる中、待望の新作アルバム『A Danger to Ourselves』がRVNG Intl.から9月5日にリリース決定。本作はデヴィッド・シルヴィアンを共同プロデューサーに迎え(1曲ゲスト・ヴォーカルも)、フアナ・モリーナやCamille Mandoki等も参加し、集大成であると同時に出発点とも言える作品。本日先行ファースト・シングルとして「divina」がミュージック・ビデオと共に公開。

『A Danger to Ourselves』は、人間関係の複雑さをありのままに描き出した、大胆な作品。近年のアルバムに見られる虚構の物語を削ぎ落とし、本作は真摯な感情の表出を体現している。深く個人的な対話のように響き渡るサウンドの中で、ダルトの歌声は力強く前面に押し出され、豊かなアコースティック・オーケストレーションとプロセッシング、コラージュされたパーカッション・パターン、そして豪華絢爛な共演者たちの力強いサポートが彩りを添えている。

ファースト・シングル「divina」はダルトが創り上げる多面的なサウンド・コレオグラフィーを見せている。その本質は型破りなドゥーワップ・ラブソング。スペイン語と英語が行き交う中、スタッカートのピアノの音とフィンガー・スナップが、カスケードするエレキギターにグルーヴ感を添える。「divina」は、炎、冥界、そして愛の告白といったイメージの中を舞う、まるで割れた鏡のように、反射が現れては消え、曲全体を通して意味が揺らめき、変化していく。

同時に公開されたミュージック・ビデオは、ルクレシアがコンセプトを手掛け、サウスウェスタン出身の映画監督で、2012年のドキュメンタリー映画『ICON EYE』も記憶に新しいTony Loweが監督を務めている。このミュージック・ビデオでは、ルクレシアとマルチディシプリナリー・アーティスト、Lucia Maher-Tatarが共演する。

Lucrecia Dalt New Single “divina” out now

Artist: Lucrecia Dalt
Title: divina
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Format: Digital Single
Listen / Buy: https://orcd.co/ar7rq3r

Lucrecia Dalt – divina [Official Video]
YouTube: https://www.youtube.com/watch?v=r23tegbbCDw

Featuring Lucrecia Dalt and Lucia Maher-Tatar
Directed by Tony Lowe

Lucrecia Dalt New Album “A Danger to Ourselves”
Available September 5, 2025

Artist: Lucrecia Dalt
Title: A Danger to Ourselves
Label: PLANCHA / RVNG Intl.
Cat#: ARTPL-238
Format: CD / Digital

※日本盤ボーナス・トラック収録予定
※解説・歌詞・対訳付き

Release Date: 2025.09.05
Price(CD): 2,200 yen + tax

2022年にリリースした『¡Ay!』が英『The Wire』で年間ベスト1位を獲得し、MUSIC MAGAZINE誌でもロック(ヨーロッパほか)で年間ベストに選出されるなど一躍注目を集めたコロンビア出身、ドイツはベルリンをベースに活動しているエクスペリメンタル・アーティスト、Lucrecia Daltの待望の新作アルバム。
デヴィッド・シルヴィアンを共同プロデューサーに迎え、フアナ・モリーナやCamille Mandoki等豪華ゲスト陣も参加し、集大成であると同時に出発点とも言える新たな傑作が完成。

コロンビアのペレイラで生まれたルクレシア・ダルトは、音楽愛好家の家庭で育ち、9歳のときにギターを手にするよう勧められた。ダルトはこの創造的な衝動に従い、コンピュータを使った制作に魅了され、土木技師としての急成長のキャリアを捨て、メデジンからバルセロナ、そして最終的にはベルリンへと移り住み、そこで自身の独特で冒険的なサウンドを発展させた。彼女の作品は、RVNGに移籍してから『Anticlines』(2018年)、『No era sólida』(2020年)、そして2022年に発表した特筆すべき画期的なSFボレロ・アルバム『¡Ay!』の3作をリリースし、その過程で、『On Becoming a Guinea Fowl』(2024年)、HBOのシリーズ『The Baby』(2022年)、そして近日公開のサイコホラー『Rabbit Trap』などの映画音楽制作にも活動の幅を広げ、サウンド・インスタレーションやパフォーマンスでは、彼女の光り輝く転調と独特で進化するヴォーカル・アプローチを披露している。

このたびリリースとなる『A Danger to Ourselves」は、ダルトが『¡Ay!』のツアー中の生活や新しい人間関係の形成期に書き留めた断片的な宣言から生まれた。彼女は2024年1月に、これらの親密な断片を音楽的な構成に結晶化させ始め、目的のある曲群を徐々に形にしていった。アルバムのサウンド構成は、コラボレーターのAlex Lázaroが提供するダイナミックなドラム・ループを基盤としており、そのパーカッシヴなバックボーンは、『¡Ay!』と同様、ダルトの重層的なヴォーカルのキャンバスとなった。従来のメロディックな構造に従うのではなく、このアルバムはベース・ライン、リズム、作曲デザインの相互作用によって音楽性を生み出している。大胆なプロダクションの選択と緻密なレコーディング・テクニックによって、声と楽器が新たな深みと輝きをもって調和する、ダルトの妥協のない音の明瞭さへの探求を明らかにしている。

明確に反コンセプチュアルな『A Danger to Ourselves』は、ダルトが音楽そのものに遮るもののない集中を導く詩的な本能であり、楽曲の枠組みを超越するボーカルと、原始的でロマンチックなスリルのきらめく響きを探求している。ダルトの細部への明晰なこだわりは、あらゆる小節に感じられ、献身的な姿勢が同心円を描きながら、個人的なものと霊的なものを統合する場を形成している。直感的な実験から生まれたこのアルバムは、シンプルなジェスチャーと複雑な構成を用いて、スペイン語と英語の間を伸縮自在なサウンドスケープと魅惑的な聴覚コラージュを通して行き来する「divina」のように、彷徨うようなラインを織り成している。

アルバム・タイトルは、デヴィッド・シルヴィアンの歌詞「cosa rara」から生まれたもので、人生の儚さ、愛の揺らぎ、奇跡への憧れを象徴的に映し出している。『A Danger to Ourselves』は、こうした超越的な状態を映し出し、人間の複雑な絡み合い、より啓示的な内面世界へ向かうドーパミン・スパイラルや一般的な経路からの解放への願望を屈折させている。高名なアーティストが多数参加したコラボレーションのコラージュであり、シルヴィアン自身も『A Danger to Ourselves』で共同プロデューサーとミュージシャンの二役を演じた。また、フアナ・モリーナが「the common reader」で共同作曲と演奏を、Camille Mandokiが「caes」でヴォーカルを、Cyrus Campbellがエレクトリック・ベースとアップライト・ベースの基礎を、Eliana Joy が複数のトラックでバッキング・ヴォーカルとストリングス・アレンジを担当している。

『A Danger to Ourselves』の光り輝く深淵において、ダルトは、音の錬金術を通して個人的なものが普遍的なものとなる深遠な変容を演出している。このアルバムは、集大成であると同時に出発点でもあり、彼女のこれまでの実験的な旅が、驚くほど親密でありながら広大なものへと収束する入り口でもある。感情的な啓示が網の目のように張り巡らされており、各曲は、ダルトの歌声が新たなハーモニーの領域を超えて啓示を体現する、脆弱性の的確に示している。従来の境界を超えた直感の生きた記録を創り上げ、音楽が鏡となり窓となる世界へと導いている。

TRACK LIST:

01. cosa rara (ft. david sylvian)
02. amorcito caradura
03. no death no danger
04. caes (ft. camille mandoki)
05. agüita con sal
06. hasta el final
07. divina
08. acéphale
09. mala sangre
10. the common reader (ft. juana molina)
11. stelliformia
12. el exceso según cs
13. covenstead blues

+ボーナス・トラック収録予定

Concept by Lucrecia Dalt
Music by Lucrecia Dalt and Alex Lazaro
Produced by Lucrecia Dalt and David Sylvian
Mixed by David Sylvian
Mastered by Heba Kadry, NYC
Lacquers cut by Josh Bonati *Vinyl only credit
Cover photo by Yuka Fujii
Photo retouching by Louie Perea
Design by Will Work For Good

Lyrics and vocals by Lucrecia Dalt except “cosa rara” by Lucrecia Dalt and David Sylvian; and “the common reader” by Lucrecia Dalt and Juana Molina
Vocals on “the common reader” by Lucrecia Dalt and Juana Molina
Vocals on “caes” by Lucrecia Dalt and Camille Mandoki
Backing vocals on “amorcito caradura”, “no death no danger” and “covenstead blues” by Eliana Joy
Backing vocals and howls on “divina” by Alex Lazaro

All instruments performed by Lucrecia Dalt except:
Percussion by Alex Lazaro
Feedback guitar on “cosa rara” by David Sylvian
Electric guitar solo on “covenstead blues” by David Sylvian
Electric guitar on “stelliformia” by Alex Lazaro
Electric bass and contrabass by Cyrus Campbell except
Electric bass on “mala sangre” by William Fuller
Soprano and tenor saxophone by Chris Jonas
Violin by Carla Kountoupes and Karina Wilson
Cello by Amanda Laborete
Palms and finger snaps by David Sylvian and Alex Lazaro

All instruments and vocals recorded by Lucrecia Dalt except strings recorded by Marc Whitmore and vocals by David Sylvian, Camille Mandoki and Juana Molina by the artists themselves.
String arrangements in “hasta el final” by Lucrecia Dalt and Eliana Joy

dublab.jp - ele-king

 1999年にLAで立ち上がった非営利インターネット・ラジオ局のdublab。2012年にその日本支部として発足したのがdublab.jpだ。LAと深い関わりをもつ彼らが、今年1月に発生した当地の大規模な山火事被災者たちの支援を目的として、チャリティ・コンピレーション・アルバムをリリースする。

 その『dublab.jp presents A Charity Compilation in Aid of the 2025 LA Wildfires -resilience-』は計38曲ものトラックをフィーチャー。岡田拓郎、食品まつり a.k.a. FoodmanやBUSHMIND、Daisuke Tanabe、Albino Sound & Daigos (D.A.N)、SUGAI KEN、優河、Ramza×hotaru、TAMTAM、嶺川貴子、白石隆之などなど、おもに日本の有志たちによる楽曲が収録されている(カール・ストーンも参加)。収益は全額、被災者に寄付されます。この試みが少しでもLAのアーティストやDJ、被害に見舞われた人びとの助けとならんことを願って。

https://dublabjp.bandcamp.com/album/a-charity-compilation-in-aid-of-the-2025-la-wildfires-resilience

Artist : V.A.
Title:dublab.jp presents A Charity Compilation in Aid of the 2025 LA Wildfires -resilience-
Release Date:2025.6.7(予定)
Label : dublab.jp
Format : Digital
Buy : https://dublab.jp/show/resilience/
Tracklist:

1. BLUEVALLEY: own -minimal mix-
2. BUSHMIND: Sunbright
3. Carl Stone: The Fiery Crab
4. Daisuke Tanabe: for the twin (masutomi edition)
5. Dekai Fune|でかい船: K0
6. DJ Dreamboy: Beyond A Dream
7. DJ Pigeon: Echo Chamber Recovery
8. "Dungeoneering -Albino Sound&Daigos(D.A.N)- “: Hua Jiao
9. Endurance: Jonesy
10. Final Drop: ASAKURU
11. Foodman|食品祭り: sunflower
12. Fujimoto Tetsuro: Akashi
13. Kankyo (Yu Arauchi + Hiroki Chiba)|王睘 土竟(荒内佑 + 千葉広樹): Yuku
14. Leakman: When I was 8、I drank orange juice、in LA
15. mamekx: UTOPIA
16. methodd: Adaptive Radiation
17. Metome: Toucan
18. Ramza×hotaru: kagashima,kodomo mikoshi#3
19. RGL: Echoes for the West
20. RLP: Memories
21. Sakura Tsuruta: MB
22. Shöka: Polaris
23. SUGAI KEN: れじりえんす
24. SUISHOU NO FUNE. |水晶の舟: Cherry Appears in a Dream|夢に現れた"チェリー
25. SUNNOVA: 救
26. suzuki keita: contingency
27. Suzuki-33rpm-Masao|鈴木33回転正夫: Yattokame Biscuit
28. Takako Minekawa|嶺川貴子: みんなへ
29. Takayuki Shiraishi|白石隆之: Kōsen-ga
30. Takuro Okada, Aska Mori, Kazuhiko Masumura: Valley
31. TAMTAM|花を一輪 - Hana Wo Ichirin
32. TARO NOHARA: AIR
33. Tidal: Nagi
34. YAMAAN: LAKE
35. yohei: Home For Now
36. Yoshio Ojima & Satsuki Shibano: Germinatio
37. Yosi Horikawa: Second hand
38. Yuga. |優河: 愛を Session at the Hut

Compile and Produce: Yuki Tamai, Hi-Ray, mamekx
Mastering: AZZURRO
Production Management: Yusuke Ono
Advisory: Masaaki Hara
PR Support: Kunihiro Miki
Design: Kohei Nakazawa

2025年1月7日、ロサンゼルスを襲った広範囲かつ長期にわたる山火事は、多くの住民の生活を一変させました。
家を失い、大切なものを奪われた人々の中には、我々のdublabの仲間であるアーティストやDJたちも含まれています。

あれから5ヶ月が経とうとしている現在、日本国内はもちろん、現地でも報道されることは少なくなっていますが、被災者たちの困難な状況は今なお続いています。

それでも、ロサンゼルスのコミュニティは力強く結束し、復興に向けたさまざまな活動を行っています。特にdublabを中心とした音楽コミュニティは、支え合いながら歩みを進めています。

インフラの完全な復旧には莫大な資金と、長期的な支援が必要です。
災害復興は短距離走ではなく、マラソンであるとも例えられます。私たちは今こそ、音楽を通じた持続的なサポートのかたちを考えるべき時だと感じています。

そして、その一環として、私たちはチャリティ・コンピレーションアルバムを制作しました。
このアルバムには、ロサンゼルスの音楽文化に影響を受けてきた日本のクリエイターたちが、リスペクトと共感を込めて参加しています。

驚くほど幅広いサウンドが詰まったこの作品は、ロサンゼルスの多様で豊かな音楽文化そのものであるといえ、その文化に敬意を表し、それを今に繋いでいるコミュニティを、音楽を通して支援していただければ幸いです。

本アルバムの収益は全額、ロサンゼルスのdublabを通じて被災者へ寄付されます。

*ENG

On January 7, 2025, a widespread and prolonged wildfire struck Los Angeles, drastically changing the lives of many residents. Among those who lost their homes and cherished possessions were artists and DJs who are part of our dublab community.

Nearly five months have passed since the disaster. While media coverage has declined both in Japan and locally, the affected individuals continue to face challenging circumstances.

Still, the Los Angeles community remains resilient and united, actively engaging in various recovery efforts. In particular, the music community centered around dublab is moving forward by supporting one another.

Full restoration of infrastructure will require substantial funding and long-term assistance. Disaster recovery is often likened not to a sprint, but to a marathon. We believe now is the time to consider sustainable forms of support through music.

As part of that effort, we have created a charity compilation album. This album features Japanese creators who have been influenced by Los Angeles’ musical culture, participating with deep respect and solidarity.

Packed with an astonishingly wide range of sounds, this project embodies the diverse and rich musical culture of Los Angeles. We hope that through music, you can help support the community that honors and continues this cultural legacy.

All proceeds from this album will be donated to the victims of the wildfire through dublab in Los Angeles.

5月のジャズ - ele-king

Emma-Jean Thackray
Weirdo

Brownswood Recordings / Parlophone

 トランペットやキーボードなどを操るマルチ演奏家/作曲家にしてシンガーでもあるエマ・ジーン・サックレイが、2021年のデビュー・アルバム『Yellow』以来となる新作『Weirdo』を発表した。女性ミュージシャンが多く活躍するロンドンの中でも極めて多彩かつユニークな才能を有するエマは、多くのミュージシャンが通ってきたトゥモローズ・ウォリアーズの出身者とはまた異なる個性を持つ。クラシックに始まり、インディ・ポップやグランジ、フリー・インプロヴィゼイションやジャズ/フュージョン、ソウルやファンク、ゴスペルやアフロなどさまざまな音楽の影響を受けてきたエマだが、『Yellow』はそうした影響や多様性が融合したもので、世間からも高い評価をもって受け入れられた。個人的な印象では思いのほかにダンサブルなサウンド・カラーを感じさせる部分があり、ディープ・ハウスやブロークンビーツ的なアプローチを感じさせるところもあったわけだが、彼女自身がダンス・サウンドやグルーヴィーな音楽が好きで、そうした方向性の作品もアルバムに収録したかったからということだった。ゴスペルもそうだが、ダンス・ミュージックは強いパワーを周囲の人と共有したいというエナジーから生まれるもので、エマの楽曲にはそうしたパワーが備わっている。2023年にエマは長年のパートナー亡くしていて、そのときに制作途中だった『Weirdo』は方向性の変更を余儀なくされた。深い絶望の淵にいたエマを救うべく、『Weirdo』は再生や生存のパワーを持つ作品となっていった。『Yellow』にあった生命力のパワーを、さらに強く感じさせるアルバムとなっている。

 『Yellow』ではほかのミュージシャンとのライヴ・セッションの素材を、自宅スタジオで彼女が演奏した素材などを交えて編集した内容だったが、『Weirdo』はほぼ彼女ひとりで演奏・録音・編集をおこなっており、トランペットはじめ管楽器、鍵盤楽器、ギター、ベース、ドラムス、パーカッションやヴォーカルと全てを担当する。例外的にアメリカからエマと同じマルチ・ミュージシャンのカッサ・オーヴァーオールと、俳優/コメディアンでラッパー/ヒューマン・ビートボクサーとして知られるレジー・ワッツがゲスト参加。そのレジー・ワッツのヴォーカルをフィーチャーした “Black Hole” は、『Yellow』でも見られたファンカデリック・スタイルのパワフルなファンク・ナンバー。ファンカデリックのアフロ・フューチャリズムを投影したような楽曲で、彼女自身は黒人ではないのだが、黒人以上にブラックネスやファンクネスに溢れている。『Weirdo』は『Yellow』以上にヴォーカルの比重が高くなっており、ネオ・ソウル調の “Stay” などは彼女のシンガーとしての成熟度を物語る。ディープ・ハウス調の “Thank You For The Day”、ほのかにアフロビートを取り入れた “Save Me” にしても、基調となるのはエマのソウルフルなフィーリングで、彼女のシンガーとしての資質にうまく目を向けたアルバムと言えよう。


Chiminyo
NRG 4

NRG Discs

 サウス・ロンドンのジャズ・シーンを中心に、マイシャやシカーダなどのグループでも演奏してきたドラマー/パーカッション奏者のティム・ドイル。彼のソロ・プロジェクトであるチミニョは、2019年にEPの『I Am Chiminyo』でデビューし、2020年にはファースト・アルバムの『I Am Panda』をリリースしている。チミニョにおいては生演奏とエレクトロニクスの融合が顕著で、ダブステップ、ベース・ミュージック、ビート・ミュージックなどとジャズやエクスペリメンタル・ミュージック、インプロヴィゼーションを結び付けたユニークなサウンドを展開する。『I Am Panda』においても自身でドラムやパーカッションのほかに、ピアノとヴォーカル、そしてエレクトロニック・プロダクション全般も手掛け、ゲスト・ミュージシャンでストリングスや民族楽器の演奏家らも交え、アフリカ、中央アジア、東南アジア、東ヨーロッパなどのエスニックなサウンドを取り入れた独特の世界を表現していた。『I Am Panda』以後は自主レーベルの〈NRGディスクス〉を主宰し、『NRG』というアルバムを定期的にリリースしている。これまで第3集まで発表してきたが、それぞれ構成メンバーは異なるもののシンセ類を交えたエレクトロニックな作品集となっている。ロンドンにおけるフューチャリスティックなジャズにおいては、ザ・コメット・イズ・カミングと双璧と言えるような内容だ。

 そして、この度『NRG』の第4集がリリースされたが、今回はロンドンのジャズ・クラブの名門であるロニー・スコッツでのライヴ録音となる。サウス・ロンドン・シーンを支えるベーシストのダニエル・カシミールほか、ヌバイア・ガルシア、エマ・ジーン・サックレイ、ザラ・マクファーレンらと共演してきたキーボード奏者のライル・バートンなどが伴奏し、ライヴ・エレクトロニクスも参加する。“Into The Storm” でチミニョはドラムンベース的なビートを叩き出し、緊迫感を煽るジェイムズ・エイカーズのサックスやSEが絡み、後半へ向けて爆発していくコズミック・ジャズとなっている。“Chrysalis” はダブステップ調の楽曲で、ダブ・エフェクトが霧のように立ち込めて幻想性を際立たせる。“Luminescence” はブロークンビーツ調のビートの上で、ジェイムズ・エイカーズのディープなサックスとライル・バートンのきらめくキーボードが交わり、エレクトロニクスによるエフェクティヴな音響が全体を包み込んでいく。“Sonder” はダブを取り入れたミスティカルな楽曲で、アラビックな音階が幻想性を高めていく。“Nightfall” でチミニョはヴォーカルをとり、シンセによる音響空間の中で深くエモーショナルな歌声を披露する。


Luke Titus
From What Was Will Grow A Flower

Sooper

 ルーク・タイタスはシカゴ出身のプロデューサー/ドラマー/マルチ・ミュージシャンで、同郷のラッパーのノーネームや、R&Bシンガーのレイヴン・レネイなどの作品に参加したこともあり、どちらかと言えばヒップホップ/R&Bの文脈から注目を集めるようになった。2020年の『Plasma』はレイヴン・レネイ、セン・モリモト、ブライアン・サンボーンといったゲストを招きつつ、ルーク自身はドラムスのほかにギター、ベース、キーボードなど各種楽器を演奏し、作詞・作曲・歌唱を行うシンガー・ソングライター的な立ち位置を見せるものとなっていた。DIY的なアルバムではあるが、その演奏技術はかなり高いもので、楽曲によってはサンダーキャットなどを彷彿とさせるものも。ヒップホップやR&B的な部分もあるが、全体的にはジャズやオルタナティヴな要素も強く、ロンドン勢で比較するならトム・ミッシュオスカー・ジェロームあたりと比較すべき人材に思ったものだ。

 それから5年後のニュー・アルバム『From What Was Will Grow A Flower』は、アーロ・シムズ、ジョナサン・フーバー、イライジャ・フォックス、マイク・ハルデマンらと共同で作曲をおこない、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルスの音楽仲間の中からミゲル・アットウッド・ファーガソンなどがレコーディングに参加している。ヴォーカル曲の印象が強い彼だが、インスト曲の“Lotus Leaf” を聴くと、彼のジャズ・ミュージシャンとしての資質が逆に鮮明になる。ドラムはドラムンベース的な小刻みなビートを叩き出し、コズミックな空間を作り出すキーボードにメロディアスなサックスが絡んでいくという、非常に繊細で美しい楽曲。ロサンゼルスのキーファーと、マンチェスターのゴーゴー・ペンギンが合体したような楽曲だ。ヴォーカル作品を見ると “What Am I – Radio Tower” はドリーミーなフォーキー・ワルツで、ニック・ハキムあたりに通じるオルタナティヴなムードを感じさせる。“Sideline” や “Up In The Stars”、“Above Us” はJディラ譲りのズレたビートを持ちつつ、70年代から続くフォーキー・ソウルやAORの伝統的なエッセンスも感じさせ、それこそトム・ミッシュやオスカー・ジェロームのグルーヴ感に繋がる楽曲だ。


Lauri Kallio
Turtles, Cats and Other Creatures

Mustik Motel

 ローリー・カリオはフィンランドで活動するギタリスト、およびマルチ・ミュージシャンで、作曲やヴォーカルまでおこなう。これまでヒップホップ系バンドのソウル・ヴァルピオ・バンドや、エレクトロニック・ジャズ/フュージョン・バンドのウニヤ、ドリーム・ポップ・デュオのパンビカリオなどで活動してきており、ジャンルにとらわれない多彩な音楽性を持つ。ソロ・アルバムとしては2020年に『Rusko』を発表しており、ジャズ、アンビエント、実験音楽などを交えた作品だった。それから5年ぶりの新作『Turtles, Cats and Other Creatures』は、前作に比べてポップな要素が増えつつも、彼ならではの多様な音楽要素が折衷した内容となっている。

 そうした折衷的な音楽要素を手助けする人物として、フィンランドの奇才であるジミ・テナーの参加が大きい。フルート、サックス、シンセの演奏として4曲に参加しているが、そのうちの1曲である “Spiralling Down” はエコウマニアのヴォーカルをフィーチャーしたアフロビート×ジャズで、かつてジミがドイツのアフロビート・バンドのカブ・カブと共演して作ったアルバム群を思い起こさせる。実際のところエコウマニアことエコウ・アラビ・サヴェージは、ガーナ出身のドラマー/シンガーで、カブ・カブのメンバーでもあった。ジミのフルートとシンセをフィーチャーした “Forgetting Things” にもエコウはパーカッションで参加していて、フォークロアな風味のジャズ・ファンクとなっている。同じくふたりが参加した“Meirami (The World Awaits)” は、ハープシコードを用いたレトロでサイケな風合いのジャズ・ファンクで、映画音楽やライブラリーに近いような雰囲気。ドリーム・ポップなども作ってきたローリーの才が生かされた作品だ。

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